究極大英雄の山田次郎かく闘えり!   作:うぃっちべーす

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第十八話『山田くん下着が増殖す』

山田家が終わらない。

 

 

現在空室の山田兄の部屋に集まる6人。映研部長と新入生、美術部部長。

内股気味で正座する石川嬢、その正面に山田氏と田中嬢、周囲にその他。

平然としている田中嬢と石川嬢以外は、全員焦りの表情で固まっている。

 

 

 

「もう時間も時間だ、単刀直入に聞こう。俺が嫌なら抜けるのは俺だ。」

 

「―――必要ありません。退部は個人の権利。そして、私の意志です。」

 

「山田クン、部内の問題に口を挟むのは許してね。退部は受けなさい。」

 

「おいおい、ちょっと待てよ。それはねーんじゃねーのか田中さんよ?」

 

「榎本は黙っててよ!石川ちゃん、センパイの家の事だったら私が……」

 

「でもねー、石川ちゃんちょっと変かなー?いきなりでおかしいよー?」

 

 

 

時間は午後7時を指す。小田原評定を始めれば真夜中に突入するだろう。

山田は女性陣が多い現状で遅くまで談義する事は控えたいと思っていた。

石川は確かに最近まではやる気を見せていた。山田には理由が判らない。

 

 

 

「もちろん強制は出来ない。退部意思は最大限尊重される。しかし……」

 

「―――ならば問題ありません。私がいる意味を見出せないだけです。」

 

「君が映研を用無しだと言うなら根拠を教えてくれ。納得ができない。」

 

「―――教えれば山田先輩は叶えるでしょう。でもそれは不本意です。」

 

「叶えばいいじゃないか!掴み取ればいいじゃないか!何故遠慮する!」

 

「―――私にだってプライドがあります。それしか私には言えません。」

 

 

 

頭を下げる石川嬢。頭を抱える山田氏。そして首を傾げる他の新入生達。

そんな中で田中嬢だけが、腕を組みながら余裕の微笑みを浮かべていた。

 

 

 

「山田クン、困ってる?何が言いたいのか判ってないって顔だわねー。」

 

「あ、ああ。正直なところ石川さんを怒らせた所までしか判らないよ。」

 

「しょうがないわねー。ま、山田クンの正妻ですし?一肌脱ぎますか。」

 

 

 

田中嬢はおもむろに立ち上がって、石川嬢の手を強引に掴んで立たせた。

その瞬間石川嬢の表情が曇るが、正面の田中嬢以外は気づかない角度だ。

そのまま部屋を出ようとする二人。そして田中嬢が首だけ戻して告げる。

 

 

 

「山田クンお部屋借りるわね。あとヒヨコさんたちは動いちゃ駄目よ。」

 

「あ、ああ、判った。石川さんを引き止められたのなら礼は尽くそう。」

 

「あら嬉しい。ちなみに覗いたらジュンに言ってお仕置してもらうわ。」

 

 

 

不吉すぎる宣言をし部屋を後にした二人。山田以外はポカンとしている。

山田にはある確信があった。田中双葉は根拠のない行動はしない人物だ。

成功するしないはともかくとして、最善の選択肢を知っているのだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

教頭の元には少年少女たちが集まっていた。その先頭には見た顔がいる。

郷土文化研究部の部長である郷田武士、そして副部長の土屋杏奈だった。

ここは職員室の一角。しかし教員たちは珍しそうにせず作業をしている。

 

彼ら郷土文化研究部の部員は全てガリ勉であって職員室の常連だからだ。

 

 

 

「教頭先生、話が違います。確か映研は不祥事で部室を追われたと……」

 

「確かにそうなるだろうと言った。だがな、まだなった訳ではないぞ。」

 

「映研の山田はともかく後輩が危険すぎます。なんとかなりませんか。」

 

 

 

代表で話をするのは郷田。そして傍で我が意を得たりと頷いている土屋。

しかし他の部員の面々はといえば、決してそこまで熱心な表情ではない。

執行部の二人以外は折衝に有利だから無理やり連れ出されたに過ぎない。

 

 

 

「私に任せておけ郷田、悪い様にはせん。それとも私が信じられんか?」

 

「……判りました。ですが内申書記載は重要です。それをお忘れなく。」

 

「判っているよ。そもそも、郷土文化研究部を作ったのは私なんだぞ。」

 

 

 

少し呆れ顔で郷田を見つめる教頭。目の前の郷田は3年でトップの成績。

黙っていても有名私立程度になら易々と受かるであろう秀才なのである。

だが彼は国立への進学を夢見て猛勉強中であり、あと一歩足りないのだ。

 

 

 

「それと一つだけ忠告しておく郷田。山田は瀬田ヶ谷のお気に入りだ。」

 

「世界史の瀬田ヶ谷先生ですか……私は別に世界史に傷はないですが。」

 

「そういう事じゃない。いいか、瀬田ヶ谷だけは絶対に相手にするな。」

 

 

 

教頭の不可解な話に首をかしげながらも了承する郷田。同じく頷く土屋。

受験生と教員のトップである教頭に時間は無い。その場で解散となった。

ちなみに土屋も国立を目指す身であり、郷田と行動を共にする事が多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

二宮くん一之瀬くんのネットゲームコンビの事件は、急展開をしていた。

救助要請をしていた少女の本名が判ったのだ。彼女の名は、尾崎紀世子。

自分達よりも一才年下の女性であった。キャラと本名に関連は無かった。

 

 

 

「防音の部屋、的確に握る弱み、体中に絵の入ってるオッサン、か……」

 

「ニノ、それってさ、もしかしてガチのラチカンキンなんじゃねえの?」

 

 

 

二宮が指示した通りに彼女は操作をし、パソコンに罠が無いと判断した。

もちろん相手が上手でタスク上の実行ファイルを隠している場合もある。

しかし何度もチャンスが巡ってくるとは限らない。彼は決断をしたのだ。

 

 

 

「強請りのタネはどんどん増殖中だそうだ。ガチで事件、だよなあ……」

 

「女を強請るってどーせエロい事だろ?全部壊しゃあイイじゃねえか。」

 

「1人ならな。集団ならコピー持ちとかネットワーク共有も有るしな。」

 

「めんどくせえ……全員集めらんねえか?そしたら全員壊せばいいし。」

 

「なんでも暴れりゃあいいってもんじゃねえってサンタも言ってたろ。」

 

 

 

頬を膨らませて拗ねる一之瀬。ちょうどそこに二宮の携帯が鳴りだした。

取り出したスマートフォンの画面には『サンタくん』と表示されている。

二宮は『噂をすれば影』の慣用句に感心しながら受信操作を素早く行う。

 

 

 

『いようオタク少年ども。サンタくんに面倒押し付けて楽しんでるか?』

 

「いいトコに電話をくれたぜサンタ。ちょっとコッチも問題が起きた。」

 

『まずはこっちの自慢をさせろ。写真の撮り主、なんとなく掴めたぜ。』

 

 

 

三狩屋の情報はこうだ。あの時に集会の外側から望遠で撮った女がいる。

地元のチームどころか地域の住民も見たこと無い人間で、恐らくは外部。

望遠で狙っていたところを見ると、ある程度はこっちの顔を知っている。

 

そうでなければ角度が変わればすぐフレームアウトする望遠では無理だ。

 

 

 

「なるほど、やっぱイチ狙いって事か。さすがはサンタ、手際いいな。」

 

『まぁそれ程でもあるかなー。んで、そっちのモンダイってなんだよ。』

 

「立川飛行場近辺のマンションで、拉致用の部屋持ってるトコあるか?」

 

『ふざけんなよニノ。お前さ、俺を情報屋か何かと勘違いしてるだろ。』

 

「悪かった。どうも最近、サンタに聞けば教えてくれるって思えてな。」

 

『ただまあ立飛の近辺だと警察関係多いしな、居るなら北側の市街だ。』

 

 

 

情報は即答で出てきた。苦笑しながら手元のPCにタイピングする二宮。

三狩屋はビルの住所地番を正確に伝え、更にランドマーク情報を伝える。

飛行場北側にある古マンション。二宮の想像と違い低い階層建築だった。

 

 

 

『高層マンション全棟買い上げだと拉致くらいじゃペイは無理だしな。』

 

「なるほど、造りがしっかりしてりゃ低くてもいい。それは盲点だわ。」

 

『そゆことー。砂川近辺は今も人気は高いし、売り抜けたほうが早い。』

 

「んじゃあサンタは望遠少女の方をヨロシクな。こっちは何とかする。」

 

『マジかよ?!ここまで判りゃ普通はOKだろ!俺にも休ませろよな!』

 

「サンタだから休ませないんだっての。お前はすぐサボりたがるしな。」

 

 

 

文句がタレ流れ始めた電話を苦笑しながら早々に切ってしまう二宮くん。

パソコンを操作し、航空写真も見れるインターネット地図サイトを出す。

マウスをサカサカと操作し、クリックを繰り返すうちに地図が拡大する。

 

 

 

「イチ、この辺にあるマンションが臭いらしい。サンタってすげえな。」

 

「なんだ、臭いのか。そんだったら近くまで行けば匂いで判んじゃね?」

 

「その臭いじゃあねーんだが……ま、行くだけ行ってみりゃあいいか。」

 

 

 

二人はさっさとパソコンのシャットダウンを行い部屋の隅の荷物を拾う。

リュックサック、バイク用のヘルメット、そして長袖の革のジャケット。

先程の約束はなんのその。二人の双眸は好戦的な光を発しはじめていた。

 

 

 

 

 

 

そして山田くんの部屋。いつの間に覚えたのか田中嬢は扉の鍵をかける。

あぐらをかいて座る田中双葉。そして、ゆっくりと正座する石川真理子。

二人は勉強時と違い、隣り合って座る。どちらも顔を見てはいなかった。

 

 

 

「さて。石川さん、別に山田クンは私の所有物じゃないわ。判ってる?」

 

「――――よく言えますね。両親味方につけて、他にどう解釈すれば?」

 

「私は山田クンに気に入られたいだけ。だから必要な行動をしただけ。」

 

「――――??言っている意味が良く判りません。同じ事、ですよね?」

 

 

 

一呼吸入れて、石川嬢は隣に座った田中嬢の横顔をチラリとのぞき見る。

するとそこには、自分をじっと見つめる田中双葉の半目の笑顔があった。

すぐ視線を元に戻す石川真理子。しかし手遅れ。動揺が満ちてしまった。

 

 

 

「私は、山田クンを独占したいとか思ってないわ。これは本心だから。」

 

「――――じゃあ、私が山田先輩を独占しようとしたら、どうします?」

 

「叩き潰すわ。どんな手を使っても、完膚なきまでに、情け容赦なく。」

 

「――――シェアする、ってことですか。そんな単純に、いきますか?」

 

「決めるのは山田クンだけよ。私でもあなたでもないわ。判るわよね?」

 

 

 

石川嬢は、彼女の行動原理を見た気がした。田中嬢は『受け身』なのだ。

非常に能動的に動き貪欲に喰らいつき、そして獲物を追い込んでいく女。

しかしその目的は獲物によって貪られる事。そう彼女は言っているのだ。

 

 

 

「――――じゃあ私は、勝負を降ります。これ以上、つきあえません。」

 

「なら勝手になさい。でも誰も止めないわよ?負け犬は去ればいいわ。」

 

「――――元から、そのつもり、ですから。では、お疲れさまでした。」

 

「なんてね。貴女を引き止めると私は山田クンにお礼を言われるのよ。」

 

 

 

田中双葉の手が、石川真理子の小さめの頭を両手でガッチリと押さえる。

不意を突かれて、石川真理子の張り詰めた心にちょっとした隙ができた。

そして田中嬢は、石川真理子の小ぶりな唇に自身のそれをそっと重ねた。

 

 

 

「――――――!!!!!!な、何を、ゲホゲホ、す、ゲホ、る、ゲホ!!」

 

「貴女は山田クンに自分と同じ物を見たんでしょう?石川真理子さん?」

 

「――――――――!は、初めて、――――!ゲホゲホ!な、ゲホゲホ!!」

 

「でもあなたと山田クンは根源が決定的に違う。だから惹かれたのよ。」

 

「―――!!!――――ゲホゲホゲホゲホ――――!!!―――――!!!」

 

 

 

顔を赤く染めて、そして興奮状態が高じて喘息が止まらなくなる石川嬢。

その目には涙がこぼれだし、手足を大きくバタつかせて、身悶えている。

そして田中嬢はそんな石川嬢の手を強引に掴み、更に唇を強引に差込む。

 

数秒間そのままの状態が続き、暴れていた手足はやがてグッタリとした。

 

 

 

「少し落ち着いた?一応山田クンと間接キスさせたげた訳なんだけど。」

 

「――どう考えても田中先輩と直接キッスにしか思えませんでしたが。」

 

「想像力足らないわね石川さん。創造主たるものイデアを追うべきよ。」

 

「――そうかもしれませんが、でもやっぱり、もう少し優しいかなと。」

 

「失礼しちゃうわね。うら若き美少女が男子高校生より乱暴だなんて。」

 

 

 

拗ねたような顔をする田中嬢。それにつられて、石川嬢が薄く微笑んだ。

石川嬢は乱暴なキスにより冷静に感情を整理できている自分に気がつく。

そして目的の為には躊躇わない目の前の女に、底冷えする感情を覚える。

 

 

 

「――田中先輩、私は山田先輩が好きじゃありません。でも、欲しい。」

 

「いいんじゃない?私は奪われたい。貴女は奪いたい。方向が違うわ。」

 

「――どうしてですか?何で山田先輩を、自分の物にしないんですか?」

 

「今の貴女には理解できないわ。私と山田クンは少しだけイビツなの。」

 

 

 

いつもの半目の微笑ではない、両眼を大きく見開いた田中双葉という女。

石川真理子は、先程よりも更に強い冷気を背中から首元まで感じていた。

得体の知れない恐怖というよりは、何もかも見透かされている様な感覚。

 

 

 

「――現実的な話をしましょう。私は山田先輩に女として見られたい。」

 

「見てるわよ。パンツ丸出しの時に山田クン凄く興奮してたじゃない。」

 

「――そうですかね?何だか、いつもと変わらなかった気がしますが。」

 

「なら石川さんもパンツあげてみる?こーんな風に喜んでくれるわよ?」

 

 

 

田中嬢は秘密の約束をあっさり反故にして、ベッドの枕をひっくり返す。

そこにはキチンと封をしたビニール袋に入れられた、田中嬢のショーツ。

また半目に戻りニヤつく田中嬢。赤くなりつつ袋を凝視している石川嬢。

 

 

 

「幻滅した?パンツばれて石川さん退部したとか自殺しかねないわね。」

 

「――いや、コレってほぼ田中先輩の罠ですし、幻滅はしませんけど。」

 

「あら、意外と寛容なのねー石川さん。生臭いのって嫌いじゃないの?」

 

「――山田先輩ですしね、葛藤しまくってる光景が目に浮かびますよ。」

 

 

 

田中嬢はすっくと立ち上がり、石川嬢の目の前でレギンスを脱ぎ捨てた。

驚きながら凝視している目の前の少女に微笑みかけ、ショーツも脱いだ。

何も隠そうしない完全な下半身露出。そして脱いだショーツを手に持つ。

 

底意地の悪そうな笑顔を浮かべつつビニール袋に下着を詰め込んでいく。

 

 

 

「山田クンビックリするわよ?『げ!パンツ増えてるぞー!』ってね。」

 

「――あ、その、恥ずかしくないんですか?一応、私もいるんですが。」

 

「別に気にしないわよ?同性愛に興味ないもの。石川さんはソッチ系?」

 

「――清々しいほどに一途ですよね田中先輩。でも、退きませんから。」

 

「だから言ってるじゃない。私は『目の届く範囲の浮気は許す』って。」

 

 

 

不敵に微笑む田中嬢。その目線を正面から受け止めて微笑み返す石川嬢。

そして石川真理子は、先程の田中双葉と同じ様に立ち上がり手を下げる。

たださすがに彼女はレギンスを脱がなかった。何故ならスカートだから。

 

もぞもぞと指定スカートに手を入れて、器用にショーツだけ抜き出した。

 

 

 

「――名前も書いときますね。田中先輩のと思われるとシャクなんで。」

 

「ノリがいいわね。……よっし!ブラもオマケだ!もってけドロボウ!」

 

「――なるほど、考えましたね。カップのサイズを見れば誰のか判る。」

 

「石川さんもイっとかない?こういうのは場の勢いってのがあるしさ。」

 

「――乗っかりましょう。安物で先輩が釣れるなら効率が良いですし。」

 

 

 

室内は妙な雰囲気に飲まれた。もはや田中双葉に到っては完全に全裸だ。

さすがにブラジャーとなると、石川嬢も上半身を脱ぎ捨てざるを得ない。

お年頃の女子が揃いも揃って、お年頃の男子のお部屋で裸になっている。

 

そこで扉からノック。とっさに正気に戻り胸元を隠す石川。動かぬ田中。

 

 

 

『……あー、二人とも。飲み物と菓子など持ってきたが、どうだろう?』

 

「あら嬉しい。でも、いま部屋に入ると石川さん自殺しちゃうかもね。」

 

『な、なにぃ!そんなオオゴトになってるのか?!邪魔してすまん!!』

 

 

 

バタバタと走り去る足音。田中嬢は裸のまま静かに扉を開け、頭を出す。

そこには誰も居なかった。そして足元には、二人分の麦茶とお菓子の皿。

苦笑しながらそれらの乗ったトレイを持ち上げ、部屋の中に招き入れた。

 

 

 

「やっぱり山田クンってば優しいわよね。石川さんもそうは思わない?」

 

「―――あ、は、はい。多分、山田先輩は『痛み』が判るからですね。」

 

「ただ、山田クンは『痛み』に敏感すぎる。部長としては不利かもね。」

 

「―――敏感だから出来ることもあると思います。そこが好きですし。」

 

「言うわねー。ま、そこに気がつかない女は彼には近づかせないけど。」

 

 

 

紅潮させて胸元をギュッと押さえる石川嬢。そして優しく微笑む田中嬢。

微笑みながら彼女はサッサと脱ぎ捨てたレギンスを拾い、平然と着だす。

それを見て石川嬢も、ワイシャツを羽織り直して、首元のリボンを結う。

 

 

 

「さて、石川真理子に問いましょう。映研を辞めたりはしないわよね?」

 

「――はい。ちょっと山田先輩には悪いですけど、シェアする方向で。」

 

「おっけー。これからは義理姉妹として何でも相談に乗るわ石川さん。」

 

「――じゃあ折角ですし、私に絵を教えてください。『役得』として。」

 

「そういう貪欲さは嫌いじゃないわ。ただし私の指導は厳しいわよー?」

 

「――優しさなら山田先輩から貰いますから。厳しくお願いしますね。」

 

 

 

右手を開いて前に差し出す石川嬢。いわゆる握手の催促のポーズである。

その手を即座に掴んで強引に持ち上げる。いわゆる腕相撲の体勢である。

互いに顔を寄せ、不敵に微笑みながら睨みあう。そして二人は笑いだす。

 

 

 

 

 

 

 

さて、文句を言っていたら電話を切られた不幸な情報屋、三狩屋くんは。

 

 

 

「マジかよ!ザケんなよニノ!俺だって人並みに青春を謳歌してえぞ!」

 

 

 

そう言いながら、彼は手元の金庫からノートを出す。これは彼の私物だ。

ちなみに金庫自体は映研の所有物であり、学校の部活用備品の一つある。

ノートにはびっしりと文字が書かれており、ぺラペラと彼は捲っていく。

 

 

 

「えっと、ジミ目でショートカットの女、背は普通くらい……うーん。」

 

 

 

胸元に挿してあったペンのキャップを開け次々と情報を書き込んでいく。

 

→イチ知っている→映研知っている→内情知っている→内部の人間かも?

→全員旅行中→宇佐美以外は箱根→宇佐美は俺らと一緒→確実に外部だ

→学内で映研以外の女→すげえ人数→やる気でねえ→最近働きすぎだろ

 

ここまで書いたところでペンを止めて、蓋を戻して再び胸元へと仕舞う。

 

 

 

「先に損得の関係から洗うか。映研がコケて得する奴を探す方が早い。」

 

 

 

大きなバイクの座席に横座りで腰掛ける三狩屋。

携帯を手に取り、開いてボタンを押そうとする。

しかし、苦笑しながら開いた携帯をまた閉じる。

 

 

 

「三の隊に学内の調査は無理か。……めんどくせえ!1人でやんのか!」

 

 

 

ヘルメットを被り、バイクにまたがり直す三狩屋くん。表情は見えない。

発するオーラに『ウキウキワクワクで楽しそう』という要素は見えない。

そしてバイクは低く大きなエンジン音を立てて、猛スピードで発進する。

 

 

 

「MAXめんどくせえ!やっぱニノに文句いわねえと気がすまねえぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして尾崎紀世子の置かれた状況は、確実に悪化の一途をたどっていた。

ありていに言うと『バレた』のだ。相手が一枚上手であったという事だ。

二宮の懸念していた通り、PC内には『キーロガー』が仕込まれていた。

 

キーロガーとは。特定の相手のキー操作を記録し送信するソフトである。

通常はウィルスと共にPC内部に潜伏させて、パスワードを盗む目的だ。

ゲーム内通貨の違法取引に手を染める程の人間であれば、入手は可能だ。

 

二宮は相手の詳しい正体を知らない。近しいところでは石川だけが知る。

 

 

 

「ざけんなよテメエ!こうなったらシャブ打って沈めっぞ!覚悟しな!」

 

「い、いやあああああ!もう嫌!こんなの嫌!誰か助けて!殺される!」

 

「前も言ったろ!この部屋はライブやっても音なんざ漏れねえんだよ!」

 

 

 

中年の動きは弛んだ体に似合わず素早く動き、尾崎嬢に覆いかぶさった。

片手で彼女の両手を掴みあげ、残りの手で何度も何度も頬を張っていく。

痛みと恐怖で声を出せなくなるまでそれは続き、やがて彼は女を投げる。

 

 

 

「言っとくが死体ってのは簡単に処理が出来るからな。証拠も消せる。」

 

「…………………………。」

 

「俺は女に優しいから今まで我慢してきたが限界だ。死ぬか沈むかだ。」

 

「…………………………。」

 

「死体は金を喰う。沈めば金が出来る。だから俺は沈んで欲しいんだ。」

 

「…………………………。」

 

「だが死体ならこれ以上の面倒はない。俺はそれでもいいと思ってる。」

 

「…………………………。」

 

「選べよクソガキ。シャブ打って人間捨てるか、死んで命を捨てるか。」

 

 

 

彼はそう言いながら、綺麗に折り畳まれた紙の包みを解き、机に開いた。

そこには塩の様な結晶が少しだけ乗っている。彼は『シャブ』と言った。

シャブとはフェニルメチルアミノプロパン、『覚せい剤』と呼ばれる物。

 

彼はそれをコンビニ袋の上に乗せて、手元のコップの水を数滴垂らした。

それは水溶性を持っており、結晶は姿を消してただの水分だけとなった。

そして手元のバッグから取り出した注射器で、その水分を吸上げ始める。

 

 

 

「前々から早くこうしろって言われてたんだよな。けど俺は甘かった。」

 

 

 

水分はやがて欠片も無くなり、使ったビニール袋は丁寧に折り畳まれた。

そして別なビニールに入れられて、空になっていた煙草の箱に収まった。

注射器は縦にされ、空気が抜けるギリギリの位置までポンプが押される。

 

 

 

「一本3万だ。そしてお前はこれだけの為に今後生きる。人生終わり。」

 

 

 

尾崎嬢には注射器越しに太った中年男の顔が見える。表情は非常に硬い。

彼女はここにきて悟る。逃げるという選択肢に失敗したのだという現実。

待っているのは虚無と地獄。最悪だと思っていた状況の先に現れた最悪。

 

漫画の様に都合の良い展開は現れなかったな。そう、呆然と考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――田中先輩に説得されました。私辞めません。ご迷惑かけました。」

 

「おおおおおお!迷惑なもんか!良かった、本当に、良かったあああ!」

 

「すげえな田中センパイ。山田センパイより部長に向いて……んぐぐ!」

 

「はいそこまでー。いくら榎本くんでもそれ以上言うと怒られるよー。」

 

「ごめんね石川ちゃん。あのね、本当に意地悪してたわけじゃないの。」

 

 

 

涙を浮かべて復帰部員をハグする山田くん。赤面して苦笑する石川さん。

不意を打って彼の口を塞ぐ宇佐美さん。不意を打たれ身悶える榎本くん。

ほっとした表情を浮かべつつ何度も石川さんに頭を下げている阿形さん。

 

その時、感動に酔いしれる山田くんの背中にリズミカルな感触が走った。

振り向くと、そこには最近見慣れた半目の美少女。もちろん田中さんだ。

 

 

 

「がんばったわー。超がんばったわー私。ご褒美何してくれるかなー?」

 

 

 

そう言って、彼女は山田に向かって顔を少し上げて、そっと目を閉じた。

そこでヒヨコたちが一斉に山田から離れて、その動向を見守りはじめる。

硬直する山田次郎。皆がじっと彼を見ている。見てないのは田中だけだ。

 

 

 

「「「「お?おお?!おおっ!おおおおおおおおおおおおお……」」」」

 

 

 

感嘆の声を上げる映研新入生たち。阿形に到っては、手すら叩いている。

山田次郎は彼女の前で片膝をついていた。手を、そっと持ち上げていた。

そして手の甲に、頭を下げながら、ほんの少し触れるようにキスをした。

 

 

 

「手の甲へのキスは尊敬と守護の証だそうだ。君は値する働きをした。」

 

「……もっと困ってくれると思ってたのにな。こりゃ不意打ちだわね。」

 

「嫌だったら申し訳ない。ロマンチストの君なら受けると考えたんだ。」

 

「ちょっとは引くべきなんだろうけど、山田クンだと素直に嬉しいわ。」

 

 

 

姫は守護騎士を優しく見下ろしている。騎士はただ、俯いたままである。

しかし観客たちは騎士の垣間見えないはずの表情を確実に見抜いていた。

苦々しい顔と真一文字に結ばれた口元。事実、見抜いていた通りだった。

 

 

 

「じゃあついでにお姫様だっこしてくれない?憧れてるのよね、アレ。」

 

「ちょ、調子に乗るな田中双葉!尊重はするが奴隷になる訳ではない!」

 

「うーん、山田センパイだと持ち上がるか微妙な所じゃないですかね?」

 

「アガっちゃん大丈夫よー。山田センパイ隠れマッチョっぽいしねー。」

 

「俺もそれは思うぜ。ガタイもいいけど脚太いし、パワータイプだな。」

 

「――私は軽めですから、練習がてらで試してみませんか、山田先輩。」

 

 

 

山田次郎は確かにガタイがいい。自転車通学の甲斐あってか脚力もある。

子犬のように覗き込んだ石川の表情を見て、山田は即座に立ち上がった。

そして背中とヒザ裏を手で捧げ持ち、一呼吸入れて、一気に持ち上げた。

 

だが、駄目。山田くんは3年間で、背筋と上腕筋を甘やかしていたのだ。

石川を守ろうと前には倒れずに、尻餅をついて後ろ側に倒れこんでいく。

石川真理子は、仰向けに倒れた山田次郎の腰辺りで馬乗りの体勢になる。

 

そこで不意の闖入者が、本来は空室であるはずの山田兄の部屋に現れた。

 

 

 

「次郎、はしゃぐのは構わんがな、もう少し……静か……に……し……」

 

 

 

山田の下半身に馬乗りになった石川。そして捲れている彼女のスカート。

闖入者たる山田父は、その光景を見て一瞬だけ思考が止まってしまった。

息子の股間に跨っている後輩少女。見える尻。はいてない。もしかして。

 

周囲の後輩も田中嬢も慌てる様子は無く、平然と二人を眺めているのだ。

これはアレしかない。いやまさか。あの奥手息子が。しかし現実である。

 

 

 

「次郎……俺は味方だ。何かあったら相談しろ。母さんには内緒でな。」

 

「え、あ、わ、判ったでゴザルよマイファーザー。良く判らないけど。」

 

「安心しろ、父親が同じなら山田家の一員として認める。二言は無い。」

 

 

 

ちなみに捲れたスカートの中が見えたのは、背面から現れた山田父のみ。

他のメンバーは正面側に陣取っていたので何が起きているのか見えない。

山田次郎本人は硬いジーンズのズボンを穿いていたので感触が判らない。

 

意味不明なセリフに困惑する山田くん。阿形、宇佐美、榎本もであった。

だがさすがに石川本人は背後の清涼感に気付いて、赤面し立ち上がった。

倒れたままの山田くんには目もくれずに、田中さんへと走り寄っていく。

 

 

 

『(よかったわね。貴女も山田クンのお父さんに認められたじゃない)』

 

『(――だけど、これだと山田先輩の家庭内の立場が悪くなるんじゃ)』

 

『(大丈夫よ、彼ってタフだもの。私なら追い討ちかけちゃうかもね)』

 

「ど、どうしたんだ石川さん!?もしかして今ので何処か痛めたのか?」

 

「――だ、大丈夫です。その、今日はもう遅いんで、帰りますね先輩。」

 

「そ、それがいいな。榎本くん、悪いけど女子たちは君が送ってくれ。」

 

 

 

こうして一年生集団は榎本に引きつられて、山田家を後にしたのだった。

名残惜しそうに手を振って見送る山田くん。隣の田中さんも同様である。

ごく自然に玄関に戻ろうとする彼女の腕を掴んで、侵入を阻止する山田。

 

 

 

「ちょっと待て。君はいつ帰るんだ田中双葉。そろそろ時間だろうが。」

 

「めんどくさいから、今日から嫁としてこちらでお世話になろうかと。」

 

「メンドクサイからって嫁になるなー!帰れと言ったら、カ!エ!レ!」

 

 

 

さすがに無理かと言い残し、最後の客人である田中嬢も帰宅の途につく。

山田次郎は結局、あまり受験勉強も進まぬままに夜中を迎えてしまった。

机の上には、自分のと田中双葉の勉強道具や参考書が並んだままだった。

苦笑しながら片付けようと手を伸ばした彼だが、そっとその手を引いた。

 

 

 

「寝るか。」

 

 

 

そう呟いて、彼は寝巻に着替えだす。寝巻と言っても単に下着なのだが。

そしてベッドに体を投げ出し、大きく背伸びをして仰向けに倒れこんだ。

 

そこで奇妙な違和感が彼を襲う。枕の位置が通常より数センチ高かった。

すぐさま飛び起き正座になる山田くん。そっと枕を持ち上げて覗き込む。

 

 

 

「あ、あの馬鹿……石川さんにナニやらしてるんだよ……まったく……」

 

 

 

ビニール袋が破裂寸前まで膨れ上がりカラフルな布切れが詰まっている。

もはや見慣れたグレー系のショーツは中に隠れており、新顔が多かった。

そしてパステルカラーのショーツとブラには石川の文字が書かれていた。

 

彼も男の子である。袋からそれらを取り出し観察しても仕方が無いのだ。

そして石川の子犬のような目線を思い出して胸の鼓動が早まっていった。

しかしこれを指示したであろう田中双葉の意地の悪い笑顔も頭に浮かぶ。

 

彼自身驚くほど胸の鼓動は収まり、代わりにムラムラとした感情が湧く。

 

 

 

「まあ、その、なんだ。……たまには奴の策に乗るのも悪くないかな。」

 

 

 

彼は策に乗る。どう乗ったかはタグの関係上敢えて割愛させていただく。

 

 

 

 

 

 

 

夜は等しく関東に降り注ぐ。山田家と立川飛行場に時差は無いに等しい。

尾崎紀世子が監禁されている低層マンションに、3台のバイクが現れる。

もちろん一之瀬雄大、三狩屋太一、そして二宮純の3人のバイクである。

 

 

 

「なんだサンタ、望遠少女の方はもう済んだのかよ。少し早すぎだろ。」

 

「済むわけねえだろ!いい加減にしろよニノ!俺は探偵じゃねえって!」

 

「ところでサンタ、臭くねえじゃん。俺はけっこう匂いにゃ敏感だぜ?」

 

「匂うわけねえだろ!いい加減にしろよイチ!そりゃ言葉の綾だって!」

 

「まぁまぁ落ち着けよサンタ。ヤクザ殺すから罪だけ被ってくんねー?」

 

「被るわけねえだろ!いい加減にしろよニノ!なんで鉄砲玉扱いだよ!」

 

「大丈夫だってニノ!ヤクザってキホンテキジンケン無いって言うぜ!」

 

「無いわけねえだろ!いい加減にしろよイチ!殺人は世界中で有罪だ!」

 

 

 

三狩屋太一は、個人プレイで溜まっていた鬱憤を次々吐き出していった。

一之瀬がボケる、二宮が小馬鹿にする、それを三狩屋がすべてツっこむ。

三人は培ってきた役割分担があり、彼もまた役割に慣れてしまっていた。

 

 

 

「でもさ、ここヤクザの事務所にしちゃ見張りいないしハズレじゃね?」

 

「馬鹿だなイチ。看板出す様な場所じゃねーだろ。目立ってどーする。」

 

「サンタの言うとおりだが、カメラ位は普通あるよな。ハズレに一票。」

 

「てめーらいい加減にしろよ。何度も言うがな、俺は情報屋じゃねえ!」

 

 

 

バイクに跨ったまま、ハンドルに上半身を預けて二人を睨む三狩屋くん。

一之瀬くんはヘルメットを被ったまま、腕を組んで前にある建物を睨む。

二宮くんはヘルメットも脱いでバイクからも降りて、他の二人を眺める。

 

 

 

「ただな、ここだけ地上げしといて建て直しの噂もない。条件に合う。」

 

「そっか!じゃあ中身は本当なら誰もいないんだな!暴れてもいっか!」

 

「なんでそうなるんだよイチ。サンタ、こういうのは止める役目だろ。」

 

「いや、イチの判断で間違ってない。管理物件で住人不在のハズだぜ。」

 

 

 

三狩屋は手元のメモを見ながら受け答えする。何故彼は言いきれるのか。

それは三人の中で唯一明かされていない、彼の出自によるものであった。

彼の実家は、不動産業を営むごく普通の個人商家であり、手伝いもする。

 

地道に地域を回り物件を探して取引する。情報こそが商売のメソッドだ。

 

 

 

「ヒャッハー!いくぞキサマらー!食料と水とガソリンを奪い取れー!」

 

「ちょ、ま、待てよイチ!サンタ、本気であいつバイクごと行く気だ!」

 

「俺もストレス溜まってんだ!器物破損の後始末は任せたからなニノ!」

 

 

 

バイクの前車輪を持ち上げる、『ウィリー』をしながら飛び出す一之瀬。

そして三狩屋もワンテンポ遅れてウィリーをして一之瀬のバイクに続く。

降りていた二宮はガラスの砕ける音を聞いた後に、やっとバイクに乗る。

 

 

 

「しゃーねえ、ガラスくらい何とかなるか!せっかくだし俺も暴れよ♪」

 

 

 

山田家の騒動とは別な意味で、彼らの騒動はこうして佳境に入っていく。

謹慎中の3人、正体不明のカメラ少女、そしてヤクザ中年と尾崎紀世子。

映研の部室喪失騒動と、拉致監禁と薬物疑惑のゲーム騒動、その顛末は。

 

それは、次回以降のお話へと……

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく。




英雄は色を好みます。山田くんもお年頃なので、そこは仕方ありません。
ただし彼の色はヒロインのせいか、変化球に富みすぎてる感があります。
だからと言って別に不幸せなわけでもないので特に問題は無いんですが。

そして今回やっとイチニノサンの世話焼き女房こと三狩屋くんの情報が。
こういうのは、キャラ設定の所で書いておくべきだったかもしれません。
後出しジャンケンじゃねえかとお怒りの方すみません。仕方ないんです。
さすがにプロットに関わる設定をキャラ紹介で書くとか出来ませんから。

次はいよいよ尾◎豊バリに暴れ回る3人のストーリー、かもしれません。
『お前昔からバトル描写が下手じゃねえか』と心配されてる方ご安心を。
これでもバトルは詳しいんです。→小P↑大K↓↑大P小K→中K中Pとか。
皆さんセガのヴァーチャスティックプロを出してお読みください(嘘)

では、次のお話でお会いしましょう。

ではではw
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