究極大英雄の山田次郎かく闘えり!   作:うぃっちべーす

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第二話『山田くん偽者を看破す』

 

 

 

都立国立国分寺立川高校は、古い4階建て鉄筋コンクリート校舎である。

そして映研の入る社会科教室は、特別教室校舎2階の端に陣取っている。

放課後になると、そこは映像文化研究部の部員らが部屋を占拠している。

 

いつもなら二年生の元での新入生指導と学園祭発表物の作成が進むのだ。

しかしこの日は違った。新入部員らが見慣れない人物を取り囲んでいた。

だが部外者ではなかった。むしろ部内では本来一番に顔を知るべき人物。

 

 

 

『うわ!肩ぶつかった!……ぐぎぎぎ、な、なんで俺がこんな目に……』

 

 

 

囲まれている人物は本作の主人公であり映研部部長でもある山田次郎氏。

最高権力者の筈の彼が何故に下唇を噛みながら半泣きで俯いているのか。

その説明には社会科教室の時間を約1時間ばかり巻き戻さねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー、失礼します。えっと、映研部長の山田センパイ、ですよね?」

 

「ひゃい?!ぅぁぅぁ、ぁぃ、……はい、私は確かに山田ですが何か?」

 

「一年の阿形です。一ノ瀬センパイから連れてこいって言われまして。」

 

 

 

前に居るのは身長150cmくらいの少しぽっちゃり目の女の子だった。

因みに一ノ瀬とは次期部長候補で、少し茶髪の入った後輩の男子である。

いつも決まった位置に駐める彼の自転車を知る、数少ない人物でもある。

 

 

 

「……なるほど、良い目をしている。君は良い映研部員になるだろう。」

 

「そ、そうですか?……実はアニメ班と編集長を任される事になって。」

 

「なに、やってみればどうという事は無いよ。もっと気を楽にもって。」

 

 

 

山田は動揺していた。今日も今日とて予備校に行くつもりで帰る気満々。

しかし突然の邂逅。初対面の女生徒に声をかけられて混乱度はMAXだ。

周囲に三人がいるハズと何度も振り返るのだが気配は感じられなかった。

 

 

 

「に、二宮くんにアニメと部誌の仕事は教えてある。彼に聞くといい。」

 

「二宮センパイは『俺はマスク作りで忙しい』って発泡いじってます。」

 

「ちょ、教育係は任せろって言ってただろが……じゃあ三狩屋くんは?」

 

「三狩屋センパイはお買い物に行きました。セルを買いにハンズまで。」

 

 

 

山田は面倒が嫌いな男である。その為に人員の配置には人一倍気を使う。

プライドが高い一ノ瀬を部長に、器用だが責任感の無い二宮を副部長に。

タレントこそ無いが数字に強く人当たりが良い三狩屋を会計と予告した。

 

面倒大嫌い方面に関する才能は凄まじく、三人は上手く機能していった。

しかし適材適所でありすぎた為に守備範囲を出ないという弊害があった。

 

 

 

「山田センパイってなんで部室に来ないんです?一年、嫌われてます?」

 

「部長たる俺が嫌う訳があるまい!暗幕からハロゲン灯まで大好きだ!」

 

「暗幕やハロゲン灯は一年じゃないと思いますけど。……今日来ます?」

 

 

 

山田は硬直していた。美女とは言い難いが可愛い後輩がお願いしている。

 

中学時代は山田は男子テニス部であった。もちろんそこに女子は居ない。

部長や大会出場者たちは女子にモテる。練習すら怠ける男達はモテない。

彼は中学入学から現在の高校三年まで女子にお願いされた事が無かった。

 

こうして山田は久しぶりに放課後の部室へと足を運んでいったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「山田センパイー普通の大学に進学なんだー。美大とかじゃなくてー?」

 

「ぃゃ……んんっ!いや!俺は才能とか無いし!先輩らは特別だから!」

 

 

 

不自然な程女性に囲まれる山田。向こう側では椅子を傾けて座る一ノ瀬。

山田の読み通り、一ノ瀬次期部長は奮起努力し部活組織を掌握していた。

二宮は発泡スチロールヘルメットに『ごゆっくり』とメモを貼って帰宅。

三狩屋もまだ買出しに向かった東急ハンズ町田店から帰ってきていない。

 

 

 

「オイ、センパイ退屈してんだろ!男子もお酌しろよ気がきかねえな!」

 

「あの、一之瀬くん?別にそういうつもりじゃ……そろそろ予備校に。」

 

「あーあー!センパイ帰るわー!エノ、おめえ髪燃やしてパンチしろ!」

 

「了解ッス一之瀬センパイ!山田センパイ、ライターパンチやるッス!」

 

「ら、ライター?……や、やめろ馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

百円ライターの火力調整つまみを改造すると大火力が出るように出来る。

それで髪を炙ると燃える。その跡はチリチリでパンチパーマの様になる。

この技を、榎本由紀夫少年は『ライターパンチ』と称して行おうとした。

 

だが一度人為的に燃やされた髪の毛は、もう二度と元の様には戻らない。

山田は必死に榎本少年の腕に飛びつき、彼の凶行を押し止めようとする。

 

 

 

「なんスか山田センパイ。俺が止めてほしがってる様に見えるんスか?」

 

「ちがう!そんなの見てもぜんぜん嬉しくないから!頼むからやめて!」

 

 

 

実は山田くんは半年前に一回だけ似た様な状況に遭遇したことがあった。

部室が寒いねーと言った山田の声を聞いて、一ノ瀬がストーブを弄った。

一之瀬はあろうことか灯油をタンクから抜いて直接燃焼室に入れたのだ。

 

当然大爆発。近くにいた山田は前髪を失って今でも不自然な七三分けだ。

爆心地に居たはずの一ノ瀬だが、華麗に飛び退いて全くの無傷であった。

 

 

 

「センパイやさしーい。エノ、感謝しろよー?俺なら全身焼いてたぜ?」

 

「いや、全身でもやりますよ?ハンパと一緒にしないで欲しいッスね。」

 

「一ノ瀬くん、あの、後輩苛めたりするの良くないって思うんだけど。」

 

「エノ、俺ってお前を苛めてる?苛めてねえよな?そんな弱かったか?」

 

「勘弁してくださいよ一ノ瀬センパイ。これでイジメとか笑えるッス。」

 

 

 

前段でも説明したが、映像文化研究部の一年生新入部員は計8名である。

小さくぽっちゃり女子の阿形、浅黒くガタイのいい男子の榎本、他6人。

あと男子が3人女子が3人いるが、山田は男子部員たちに注目していた。

 

 

 

『俺の知ってる映研は、その、もっとオタクっぽい感じなんだがな……』

 

 

 

ライターパンチ榎本だけではない。男子達がことごとく不良っぽいのだ。

自分を馬鹿にしようとする感じではないが彼らの敬意は素通りしている。

恐らくその先は……

 

 

 

「ねえ一ノ瀬くん、折角だしさ、部員の自己紹介とか聞きたいなぁ俺。」

 

「いいっスね!じゃあオマエラさ、センパイに一人づつ自己紹介な!!」

 

「でさ、好きな映画とかも教えてね。なんなら最近のアニメとかでも。」

 

 

 

そこで一ノ瀬雄大と男子新入生、そして一部女子新入生の表情が固まる。

特に一ノ瀬は目線が泳いで自慢の茶髪を捩り上げつつ何かを探していた。

訪れる沈黙。先程までの喧騒が嘘のように誰もが黙りこくってしまった。

 

それを打ち破ったのは、ぽっちゃり系のおさげ少女、阿形直美であった。

 

 

 

「阿形直美です。好きな漫画はVKで、楽しそうなので入部しました!」

 

 

 

VKとは古い少女漫画の略称で正式にはヴィヴィッドキッズカンパニー。

これには漫画を勉強した山田も舌を巻いた。薄っすら知る程度だからだ。

感心を通り越した『尊敬』に近い感情を覚え、立ち上がって拍手をした。

 

 

 

「―――石川真理子、です。好きなアニメは……ガンダムW、ですね。」

 

 

 

山田もこれには苦笑い。彼女は少し暗めの見た目どおりのマニア女子だ。

だが、次の瞬間に山田の評価が変わる。彼女の右手の中指が見えたのだ。

そこには黒ずみと角質の硬化跡、いわゆる『ペンだこ』が主張していた。

 

努力と肉体を引き換えに能力を得る、口に出す以上に実践が難しい事実。

 

 

 

 

 

だが残念な事にその先が続かなかった。石川の先は壊滅状態に近かった。

女性陣で答えられたのは宇佐美恋子。残りの一人は逃げ出してしまった。

懸命に頑張ろうとした男性陣だが何を言っているのかが判らない状況だ。

 

 

 

「えーと、アレ、原爆の奴!小学校の時見たぜ俺!」

 

「あの、ほら、ドーナツがどうとかこうとかって!」

 

「映画だろ?アラシのオオノが出てる密室何とか!」

 

「ルーキーズだっけ?この前テレビで見たぜ俺!!」

 

 

 

ここで山田は一人一人優しく答えを訂正していった。

そういう原爆モノ映画は何本もあるし、アニメも有名なのが二本あるね。

たぶん外人の家庭教師が歌うお話だよね、しかも日本語吹き替え版だね。

オオノくんだと最近までやってた月曜のドラマだね、映画じゃないよね。

ルーキーズの映画ってまだ地上波じゃやってないね、少し楽しみだよね。

 

先程まで元気だった新顔男子部員達は一人を除き黙りこくってしまった。

ライターパンチの榎本を除いて。

 

 

 

「アニメ、アニメ、映画、映画、…………………」

 

 

 

榎本少年は、ブツブツと呟きながら空中の一点をじっと睨み続けていた。

額や首筋には静脈がくっきりと浮かび始め、脂汗が顔中に浮かんでいた。

目は血走り、歯を食いしばって、それでも何かを作り出そうとしていた。

 

 

 

「――――――あの、ドラゴンボールとかどうスか!映画もやったし!」

 

「ドラゴンボール好きなの?じゃあ一番好きな場面のセリフを教えて?」

 

「う、う、う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

確かにドラゴンボールは良く叫ぶ。尺稼ぎの中でもDB叫び尺は有名だ。

そして榎本の叫びはアニメやマンガに一切引けを取らぬ程の迫力だった。

右の鼻の穴からは、興奮によるものか赤い液体の筋さえも流れ出ていた。

 

 

 

「…………センパイ、あの、ソロソロ許してやっちゃくれませんかね?」

 

「そうだね。じゃあ最後に現部長から命令です。良く聞いてください。」

 

 

 

この後に男子新入部員は榎本を除く全員が即座に退部届を出し退室した。

女性陣は意外と残り、阿形直美、石川真理子、宇佐美恋子が残っていた。

さて、山田次郎が下した『半数が拒否する』命令とは一体何だったのか。

 

 

 

「意地悪いッスねー。ヲタクって言われて怒らない奴だけ残れ、とか。」

 

「重要だぞ?そんなので怒るんじゃ校内走り回って映画撮れないって。」

 

「それ言えてるぜ!結局あいつらじゃ映研にゃチカラブソクだったか!」

 

 

 

そしてワンテンポ置いて、一ノ瀬と山田は腹を抱えゲタゲタと笑いあう。

この段階で新入部員たちは全員帰宅させており部室には二人だけである。

ひとしきり笑った後キョロキョロと見回し一ノ瀬の耳に唇を寄せる山田。

 

 

 

「正直に言ってくれ。あの新入生の子達って、一ノ瀬くんが集めたの?」

 

「バレてたんスか。あいつらは、ニノたちと俺の中学時代の後輩です。」

 

 

 

彼曰く、実は自分と二宮と三狩屋は、中学時代からの遊び友達であった。

一之瀬らは『イチニノサン』というグループを作って遊んでいたらしい。

彼らはグループに入ってきた後輩で、一之瀬たちのファンなのだそうだ。

 

 

 

「でもさ、映画に興味が無い子とか連れてきちゃ駄目だよ一之瀬くん。」

 

「すんません。人数が集まったらさー、センパイが喜ぶかって思って。」

 

「女の子たちも興味が無いなら帰してあげなよ。なんか可哀想じゃん。」

 

「いやいや、残ってる女は、アレ勝手に集まって来たのばっかですよ?」

 

「マジで?!」

 

「マジッス。」

 

 

 

満を持して行った今年の新入生勧誘会。だが山田に良い記憶は全く無い。

上映中だったフィルムが何故か引火して使用不能になり、硬直する山田。

隣にいた二宮がアドリブで踊り始め、負けずに変な演舞を始める一ノ瀬。

極めつけは記録を取るのに夢中で出番を100%忘れてしまった三狩屋。

 

本来名前だけで全くタッチしない筈の顧問の先生からすら絞られる始末。

 

 

 

「あれで彼女らは入部したのかー。うーむ、やっぱ美形は得って事か。」

 

「うわ、自分で言いますかねそういうの!センパイちょっと引くわー!」

 

「俺が美形のわけないだろが!去年の入部は女子ゼロだったわけだし!」

 

 

 

 

 

 

再びゲタゲタと笑いあった山田と一ノ瀬。

 

映像文化研究部は、今日も平和であった。

しかし、この時に誰が予想し得たであろうか。

こんな彼が未曾有の大事件を解決する事になろうとは。

そして世界を救いヒロインを抱き上げることになろうとは。

 

だが、現状では彼は間違いなく、駄目な部類の高校生3年生であった。

変化といえば翌日より山田は放課後も部室に顔を出すこととなった程度だ。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

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