究極大英雄の山田次郎かく闘えり!   作:うぃっちべーす

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第二十一話『山田くん拠点を構築す』

 

 

山田家では両親が驚きながら押し寄せた学生たちの動向を見守っていた。

次々と運び込まれてくる撮影用機械、ダンボール、そして工具画材など。

彼らは山田くんの両親に丁寧にお辞儀をしながら次々と中に入っていく。

 

 

 

「次郎、ちょっとこっちに来い。お前に一つ問い質したいことがある。」

 

「何でゴザルかマイファーザー。搬入が終わってからじゃ駄目ナリか?」

 

「いいから来いと言ってるんだ!従わんならもうカキフライは無しだ!」

 

 

 

その先頭で指揮をとっていた息子の手を引いて、台所へといざなう父親。

部員達の動きが気が気でない山田くんであったが、カキフライは惜しい。

そこで山田くんは思い出す。両親に相談をするのを彼は忘れていたのだ。

 

空き部屋ではある。が、一言の相談も無しに勝手に決めてしまっていた。

 

 

 

「申し訳ゴザらんマイファーザー。なにせ喫緊の事態であったゆえ……」

 

「女の子連れ込みすぎだろ!手当たり次第とか少しやりすぎだぞ次郎!」

 

「なっ!何をおっしゃるマイファーザー!彼女らは皆部員でゴザルよ!」

 

「パワハラ大車輪だと?!俺はそんな鬼畜な息子を育てた覚えは無い!」

 

「んなっ!下衆な勘繰りにも程があるでゴザル!全くの無実でゴザル!」

 

 

 

そこでやっと部室撤去の勧告を受けての顛末を父親に話す山田次郎くん。

両腕を組みながら話を聞き、行き来する女子部員の会釈に応える山田父。

やっと納得がいったのか、組んでいた腕を解き息子の肩に手を置く父親。

 

 

 

「つまり何だかんだ言って本命はやっぱり田中さんだったという事か。」

 

「何を聞いてたでゴザルかマイファーザー!筋違いにも程がゴザろう!」

 

「うはは、冗談だ。一郎の部屋は好きに使え。家長たるこの俺が許す。」

 

 

 

ちなみに父親の学歴は高卒。息子の次郎の大学進学には特に感慨は無い。

駄目なら駄目で別に構わん、就職するならするで一向に構わん、と言う。

ただし奥さんの方は別であった。彼女は大卒であり学歴の重要性を知る。

 

 

 

「次郎、お父さんはああ言ってるけど、ちゃんと勉強も出来るのよね?」

 

「も、も、もちろんでゴザルよマイマザー!適当に着地するでゴザル!」

 

「ならいいけど。……あと、ご近所の手前もあるから窓は閉めなさい。」

 

「それはそうでゴザルな。窓を閉めて静かにする様に言うでゴザルよ。」

 

「約束よ?うちからイヤラシイ声が毎日聞こえるとか、母さん困るわ。」

 

「ちょ、な、何を言ってるでゴザルか!誤解にも程があるでゴザルよ!」

 

 

 

こうして多少の誤解も孕みつつ山田家の活動場所としての許可は下りた。

ただ子供部屋一つに部員全員入れての活動が可能かと心配の方も居よう。

実は山田ハウスは増築を一度している。元々あった子供部屋が兄の部屋。

二人用にと考えて作られており10畳ほどの和室である。十分な広さだ。

 

だが父親は年頃の男なら自室でなければ出来ぬ事も多いと、増築をした。

出来ぬ事とは何かという問いには答えられない。タグの問題があるので。

 

 

 

「君ら8人なら何とか座れるな。ただ、窓閉めて静かに活動してくれ。」

 

「――あの、山田先輩は、やっぱりこっちには顔を出せないんですか。」

 

「俺は勉強と部活とを平行してやる。隣の部屋にはいるよ、石川さん。」

 

「なんだったらさ、石川ちゃんだけでも山田センパイの部屋行っとく?」

 

 

 

阿形も夏の合宿は同じ箱根班であった。山田と石川の経緯は知っている。

そして田中双葉嬢の強引過ぎるアプローチに彼女自身は眉を顰めていた。

しかし二人のシェアについては流石に知らない。よって石川の肩を持つ。

 

 

 

「ほほう?石川ちゃん、センパイとそーゆー関係なんだ?初耳だぜ俺?」

 

「――違いますよ二宮先輩。私は絵が巧くなりたいんです。それだけ。」

 

「あー、石川ちゃん顔まっかー。箱根班じゃそーゆー事あったんだー。」

 

「ええい、みんな静かにしろ!狭い我が家で騒ぐ事はこの俺が許さん!」

 

 

 

恥じ入る石川嬢を囲んで盛り上がっている後輩たちを注意する山田くん。

その背後の扉が開き、白く細い指が彼の肩を叩く。振り返ればそこに母。

そこに張り付いた笑顔の意味を知らぬ息子ではない。ご意見頂戴である。

 

 

 

「後輩さん達を勝手に呼んだのは貴方でしょ次郎。何を偉ぶってるの?」

 

「いや、その、それはそうでゴザルが、その、我が家のルールでは……」

 

「言い方があるでしょ。リーダーならリーダーらしく構えていなさい。」

 

 

 

部屋の外の廊下で頭を垂れて神妙に聞く山田くん。滔々と話している母。

 

何だかんだ言っても彼も男系の存在。家庭内は女系優位が世の常である。

山田父もそうであるが、流石の山田くんも母親には頭が上がらなかった。

それを扉の影から後輩らは盗み見ていた。そして適当な所で部屋に戻る。

 

 

 

「山田センパイのお母さんってー、誰かに似てるなーとか思わないー?」

 

「線は細いけど意外と技巧派っぽくて強そうだし、AKBとかじゃね。」

 

「榎本、AKB知ってるの?『K』ってキックとか空手じゃないわよ?」

 

「マジ?キックボクシングのアジアタイトルだぜって二宮センパイが。」

 

「ちょ、やべ、エノお前ホンキにしてたのか。すまんがありゃあ嘘だ。」

 

 

 

そこで母親に付き添われて山田くんが部屋に戻る。その顔は沈んでいた。

母親はそんな彼の横に立ち、優しげな笑顔を後輩部員たちに振りまいた。

すこしホッとする男子部員達。女子部員達は逆に背筋を伸ばし緊張する。

 

 

 

「みんな、次郎のわがままに付き合わせちゃって本当にごめんなさい。」

 

「いやー、センパイにはホントにいつも困ってますよ!なんちゃって!」

 

「い、一之瀬さま!……申し訳ございません!その、責めならば私が!」

 

「ふふっ、みんな気を楽にしていいのよ?責任は全部次郎が取るから。」

 

 

 

笑顔の表情を一ミリも崩さない山田母。手を前に組み、いかにも謙虚だ。

しかし女子の全員が見抜いていた。この母親の心中には笑みが無いのだ。

無軌道な行動は部長を犠牲にする、部長は家主の家族、それでも騒ぐか。

 

 

 

「それにしてもセンパイのお母さん若いですね。かなり年の差婚スか?」

 

「あら、そう見える?これでもあの人とはね、同じ高校の同級生なの。」

 

「やべえ、気をつけた方がイイっスお母さん!ニノって年上好きだし!」

 

「黙れイチ、俺は年上フェチじゃねえ。まぁ美人は嫌いじゃないがな。」

 

 

 

一之瀬の突破口で場の緊張感がやっとほぐれる。胸をなでおろす女性陣。

 

ここで宇佐美は似てる相手が判った。山田母は田中双葉に似ているのだ。

眼鏡こそ掛けていないが、長い髪と余裕の笑み、そして威圧的な雰囲気。

だから山田センパイは意固地になって避けるんだと彼女は独り納得する。

 

 

 

「と、とにかくだ、マイマザーもこう申しておるゆえ、静かに頼むぞ。」

 

「おっけーですセンパイ。……騒いじゃ駄目なんだと。判ったかイチ?」

 

「なんだよニノ!なんで俺だけそんな事いうんだよ!みんなに言えよ!」

 

「だからそれを止めろって言ってんだって。いつも全力で喋るからだ。」

 

 

 

皆の笑い声で満ちる新活動場所。色々あったが、やっとこさ落ち着いた。

 

阿形がふと気がつくと山田母の姿は消えていた。それに彼女は驚愕する。

全員の注意が一之瀬と二宮に向いた。そして彼女が山田母の消失を確認。

その間は二秒ほどだったはずである。阿形は山田母の格闘経験を疑った。

 

 

 

「まあ、エアコンは付いてるから常時運転で構わん。窓は開けん様に。」

 

「了解ッス。で、石川ちゃんはどうします?センパイが引き取るんで?」

 

「ナニ言ってるんだ二宮くん。皆と一緒の方が捗るだろ?効率優先だ。」

 

「――判りました。ただ、先輩も変な事してないで勉強して下さいね。」

 

「なっ!何も変な事なんかしないぞ!君は田中双葉に騙されてるんだ!」

 

 

 

真っ赤になりながら叫び部屋を後にする山田くん。苦笑する後輩の面々。

ただ、その中で流れがよく判らない人物が一人。次期部長の一之瀬くん。

彼は横にいる三狩屋くんの袖を軽く引く。内緒な質問の時の合図である。

 

 

 

「なあ、サンタ、変なことって何だ?何がそんなみんな可笑しいんだ?」

 

「何がって、そりゃあ、その、ナニだ。……まさか本気で判らんのか?」

 

「ん?……ああ、ナニな!うん、うはは、そりゃ可笑しい!うははは!」

 

「安心しろイチ。そのへんは尾崎ちゃんが全部教えてくれる。だよな?」

 

「え?……は、はいっ!大丈夫です!この尾崎めに全てお任せ下さい!」

 

 

 

ここで首を傾げる宇佐美。新部員の尾崎の事をどうしても思い出せない。

彼女は運動部を中心に広いネットワークを持つ。同学年の情報に明るい。

ちょっと抜けたような受け答えとは裏腹に、ほぼ全員の顔を覚えていた。

 

 

 

「あのさー、尾崎さんって何組かなー?けっこう見ない気がするよー。」

 

「はぁ。そりゃあそうでしょう。わたしは2学期からの編入ですから。」

 

「へー!そりゃあ見ないわけだわー。あたしC組だよー。そっちはー?」

 

「F組です。でも実はまだクラスには全然顔出してないんですけどね。」

 

「そっかー、F組かー。Fだと石川ちゃんと同じだー。よかったねー。」

 

 

 

ここで皆の視線が石川に移る。当の石川はといえば動きが固まっていた。

先程までは変なこと談義で自然に苦笑していた。なのに急に、であった。

石川は視線を落として少し顔を背けている。不思議そうに見つめる尾崎。

 

 

 

「……石川さん、どこかで会ったコトありません?なんとなくですが。」

 

「――中学は国分寺だった。もしかしたら同じ中学だった、のかしら。」

 

「砂川なんで違いますよね。どこかで、どこかで見た気がしますね……」

 

 

 

石川は知っていた。忘れようも無かった。その顔は脳に焼きついている。

その頬に付いていた打痕、口を開いた中にあったゴム製の男性用避妊具。

隠したい事実である。この場で明かす事は尾崎とって問題となるだろう。

 

しかしそんな石川の気遣いとは裏腹に、尾崎はあけっぴろげに言い放つ。

 

 

 

「ああー!もしかしてバルさん?!あの男の手から逃げれたんですね!」

 

「え?尾崎ちゃんって石川ちゃんと知り合い?俺、初耳なんだけどな。」

 

「そうなんですよ二宮先輩!バルさんもあの男に狙われてたんですよ!」

 

「――やっぱり、豪炎寺さんですか。その、【そんなことよりも】は?」

 

「うふふふ、良くぞ訊いてくれました!運命的な出会いだったんです!」

 

 

 

そして彼女は自分が監禁されていた事、そして救出された事を話し出す。

無論【そんなことよりも】により暴行された詳しい内容はぼかしていた。

彼女はそれより一之瀬が如何に素晴らしい活躍をしたかに腐心していた。

 

突如部屋に現れた一之瀬。圧倒的な強さでヤクザ中年を叩き壊していく。

しかも薬を打たれる直前で救われた。まさにヒーロー的な演出であった。

それを聞き納得してうなづく榎本。そして苦笑する二宮と三狩屋の二人。

 

 

 

「なるほど、一之瀬センパイやっぱケンカ強いんだ。一手願えますか?」

 

「おいおい、阿形ちゃんには無理だぜ!俺はこう見えて手加減出来ん!」

 

「いや、お前ってどこをどう見ても手加減とか出来そうじゃねえって。」

 

「そんなことねえぜ!俺は正義の味方だからな!弱い奴には優しいぜ!」

 

「一之瀬さまは悪人には容赦しないからこそ、超カッコイイんですよ!」

 

 

 

石川は盲目的に一之瀬を持ち上げ続けている尾崎の表情を見つめていた。

冗談めかす部分が微塵も感じられない。恐らく彼女は本気で言っている。

だが、石川にはビデオチャットの向こう側の光景が鮮明に脳裏にあった。

 

あの地獄から生還できたのなら、きっとどんな存在でも感謝するだろう。

 

そして石川真理子は自分が思っていた以上の彼女の地獄の有様に驚いた。

家出の手紙を書かされ一年以上監禁されていた。しかも自宅のすぐ近く。

話題には出ていないが性的にも苛まれたのだろう事は想像に難くはない。

 

 

 

「あのクソ野郎は屑で最低でしたけど、一つだけ良い所がありました。」

 

「――そうなんだ。やっぱり、一之瀬先輩と、出会わせてくれたから?」

 

「そうです!一之瀬さまと私のエンゲージはあのクソ野郎ですからね!」

 

「ひゃー、ラブラブとかいう世界超えちゃってるわー、すごいよねー。」

 

「でもさ、相手にサマ付けとかって恥ずかしくない?尾崎ちゃん的に。」

 

「別に?私を救った王子様ですもん。一之瀬さまが嫌なら別ですけど。」

 

 

 

そこで部屋中の視線が一之瀬に向く。キョトンとした表情で首を傾ける。

咳払いした三狩屋の肘打ちで一之瀬が表情を引き締める。そしてポーズ。

期待に応えようと特撮モノの決めポーズ風に両手を振り上半身を傾ける。

 

 

 

「まぁ俺様くらい凄ければサマとか自然だろ!皆も呼んで良いんだぞ!」

 

「――えーと、何様とか、貴様とか、エンドレスサマーとかですかね?」

 

「違うわよ石川ちゃん。サマはサマでも、一之瀬センパイはイカサマ。」

 

 

 

映研内で一之瀬の立ち位置は『いじられキャラ』である。ボケていじる。

ただ一之瀬も、二宮や三狩屋との付き合いが元々そうなので気にしない。

こうして一之瀬の天然さを皆で笑って空気が和み、そして先に進むのだ。

 

ただし場の空気が読めない人間が混じっていると、お約束は通用しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

職員室では、瀬田ヶ谷主任と教頭が向かい合って椅子に腰をかけていた。

教頭職とは校長に次ぐ校内ナンバー2的なイメージがあるが、実は違う。

校長はあくまで名誉職であり資格を必要とはしない。実質の長は教頭だ。

 

では何故映研顧問の瀬田ヶ谷教諭は、そんな責任者を前にして座るのか?

単純な話で、公務員としての階級が同じなのだ。そして彼の方が年上だ。

 

 

 

「教頭、映研部室は郷研部室になったとか生徒が言ってるんですがね。」

 

「何か問題でもあるかね瀬田ヶ谷先生。社会科に相応しい部活だろう。」

 

「あの部屋の火元責任も鍵管理も私なんですがね。勝手は困りますよ。」

 

「なんなら私が引き継ぐよ瀬田ヶ谷先生。君も受験で多忙だろうしな。」

 

「でしたら議題に上げてください教頭。今は可視化が煩いですからね。」

 

 

 

郷研とは郷土文化研究部の略称であり立川の歴史や史跡を研究している。

何が楽しいのかといえば、何も楽しくない。微塵たりとも楽しさは無い。

だがそんな生徒に興味の無さそうな部活の顧問を、何故教頭がするのか。

 

隠れ蓑なのだ。進学組の内申書を埋める為だけに作られた幻想の部活だ。

 

 

 

「判るだろう瀬田ヶ谷先生。勉強一辺倒ではボーダーだと厳しいんだ。」

 

「判ってますよ教頭。キッチリ活動させるのが顧問の務め、ですがね。」

 

「今その話を蒸し返すのか?この程度の事はどの学校でもやっている!」

 

 

 

彼らが座るのはパーティションと呼ばれる仕切り板で分けられた場所だ。

そこには四角いガラステーブルがあり、丸いガラス灰皿も置かれている。

灰皿に吸殻を押し付けつつ凄む教頭。平然と背もたれに身を沈める主任。

 

 

 

「お好きになさったらいい。ただし、私の見えない所でお願いします。」

 

「判ったよ瀬田ヶ谷先生、議題として提出しよう。それでいいのかね?」

 

「だから、好きにされたらいいでしょう。決まったら受け入れますよ。」

 

 

 

正面に座る古株教諭を睨みつけ立ち上がる教頭。笑顔で見送る瀬田ヶ谷。

それとちょうど入れ違いで新人男子教諭がパーティションに入ってくる。

夏休みの電話騒ぎの一件から、何かと瀬田ヶ谷と行動するようになった。

 

 

 

「教頭とナニ話してたんですか?もしかして次の教頭に内定とかです?」

 

「おー、そりゃあいいな。じゃあ俺は教頭になるからお前生活指導な。」

 

「えぇー!よりによって生活指導ですか!一番キツイじゃないですか!」

 

「俺だって嫌だ。だが誰かがやらないと学校は回らんのだ。判るよな。」

 

 

 

生活指導とは不良生徒を更生させる熱血なイメージがするかもしれない。

実は違う。生徒の生活全てを指導するのだ。その守備範囲はとても広い。

もちろんその様な事は不可能なのだが、学校にはその責任があるらしい。

 

 

 

「カンベンしてください瀬田ヶ谷先生。誰かには別な人で頼みますよ。」

 

「安心しろ、まず俺が教頭にはならないから。ところで例の子どうだ?」

 

 

 

この男子教師は副担任であったが、2学期から1年F組の担任となった。

1学期までの担任だった女性教師が産休に入り、その代打での登板ある。

彼から希望が有った訳ではなく、一年主任に瀬田ヶ谷が助言をしたのだ。

 

 

 

「ああ、警察からの。普通でしたよ?カウンセラーも要らなそうだし。」

 

「おいおいしっかりしろ。責任問題になるからルーチンは守っとけよ。」

 

「判ってますよ。そうそう、彼女映研に入るって言ってましたよ確か。」

 

「今年の映研は本当に手が掛かるな。今迄が楽すぎたのかもしれんが。」

 

「そういや教頭と話してたのって部室の件ですか?しつこいですねぇ。」

 

 

 

新米教師の言う『しつこい』とは。

 

実は、郷研顧問の部室要求はこの夏に始まった事ではない。以前からだ。

しかも理由が酷く、内申書の活動報告の一行を埋めるというだけなのだ。

『社会科教室を拠点に●●君は日々郷土愛を語り成果を研鑽している。』

この一文を入れたいが為に、教頭は瀬田ヶ谷に何度も明け渡しを求めた。

 

だが映研部顧問は突っぱね続けた。初代部長との約束を守り続けていた。

 

 

 

「ま、部室は手放しても郷研にはやらんさ。俺は教頭が嫌いだからな。」

 

「でも教頭って教育長とも仲がいいみたいですし、マズイかもですよ。」

 

「干したきゃ干せばいいさ。だが俺は都高教じゃ上役、手は出せんさ。」

 

 

 

都高教とは。日本教職員組合、いわゆる日教組の東京都内組織のことだ。

高校教師の集団を高教組と言い、都は東京だけなのでこう略されている。

 

だが新米教師の言う事も看過はできない。教育長とは意外と権限がある。

教育委員会という教師たちとは別の組織があり、そのトップが教育長だ。

学校教育の為の地方自治体の行政支部で教師たちの上役と言ってもいい。

 

 

 

「……そっか、教育長と教頭って仲がいいんだったっけ。忘れてたわ。」

 

「本気で言ってるんですか?……あの、俺の知り合いに良い医者が……」

 

「はは、安心しろ、冗談だ。ボケるにしても仕事が一段落つかんとな。」

 

「勘弁してくださいよ!瀬田ヶ谷派の俺まで騙すとかやめてください!」

 

「そんなの公言してるのかお前?!冷や飯喰らい程度じゃあ済まんぞ?」

 

 

 

そして親子ほども年の違う教師二人は、まるで堰を切ったように笑った。

だが瀬田ヶ谷の脳裏には夏休みのあの電話の時に感じた違和感が蘇った。

早すぎる対応。教頭と教育長。そして、まるで生徒ほどに若い男の怒声。

 

映研部顧問の瀬田ヶ谷も、喧嘩騒ぎの裏側に『何か』を感じ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、美術部の部室。

 

もうすぐ退役となる田中双葉は相変わらず教壇の上で椅子に座っていた。

しかし副部長はその脇には立っていない。壇を下りて部内を歩きまわる。

後輩部員たちの作成途中の作品を眺め、その都度アドバイスをしている。

 

これだけ見れば決して不自然ではない。だが現場の違和感は大きかった。

 

 

 

「あの……ここは黄金比率に拘れって、その、田中部長が言ってて……」

 

「視野はもっと大きく持ったほうが良いわ。そして自分で考えなさい。」

 

 

 

そう、田中双葉嬢は全ての部員に基礎の徹底と習熟に専念をさせていた。

そして足繁く部員たちを回り、基礎から踏み出したものを矯正していた。

独学で学んできた副部長はその教えに何度も逆らい、矯正をされていた。

 

だが、現状では田中双葉は壇上から一歩も出ていない。出そうとしない。

正式に副部長が退位を迫った後、彼女は職務を遂行しようとしなかった。

その代わりとして副部長が部室を回る。そして田中嬢にあてつけるのだ。

 

 

 

「ねえ?私、待ちくたびれちゃった。もうそろそろ勇者は現れないの?」

 

「候補を絞っている途中です。きっと納得のいく相手をご用意します。」

 

「まぁ貴女のお眼鏡が曇ってないことをせいぜい祈ってるわ、副部長。」

 

 

 

部員たちは思う。部長は口だけの人じゃない。実力は確実に超高校級だ。

だが副部長も決して凡百の高校生ではない。彼女もまた実力を持つのだ。

そして直接対決ではないとしたら人間の目利きとなるのだが、はたして。

 

 

 

 

 

 

そして郷土文化研究部。

 

一応の活動場所である図書室で相変わらずの開店休業状態を続けていた。

そして相変わらずの参考書と過去問題集で黙々と勉強を続けている二人。

もちろん部長の郷田と副部長の土屋。他の部員たちは何故か近寄らない。

 

 

 

「判ってきたな。慣用句は正解がはっきりする物が多い、先行優位だ。」

 

「ありがとうございます。すみません、無駄な時間を使わせてしまい。」

 

「無駄だと思えば即刻やめている。君のレベルなら復習になるからな。」

 

 

 

郷田は勉強を一切教えようとしない。教えているもの全てが受験技術だ。

正解に辿りつく道筋には一切手を触れない。正解は知っていて当然だと。

だが土屋は郷田の求めるレベルに到達している。だからこそ一緒に居る。

 

 

 

「部長、教頭から伝言で『映研は部室を放棄したが拙速に動くな』と。」

 

「教頭はアテにならんかもしれないな。センターで押し切るしかない。」

 

「ですが、部長の面接訓練はまだ完了してません。大丈夫なのですか?」

 

「なに、面接も加算点数でしかない。センターで差をつければいいよ。」

 

 

 

確かに郷田の学力は全国模試でも最上位クラス、言葉だけの男ではない。

だがその最上位クラスでさえ4人のうち3人が落ちるのが最難関国立だ。

最高学府の更に最上位ともなれば、微差での敗北だって充分に有り得る。

 

 

 

「面接の訓練をしましょう部長。私へのレクチャーを削れば時間は……」

 

「受験対策の組み立てとは全て自分で決めるのが鉄則だ。君は何様だ。」

 

「い、いえ、ですが、ここまで上がってきたのは部長のおかげですし。」

 

「勘違いするな。利用できるものを利用したに過ぎない。判るだろう?」

 

 

 

だが土屋は確実に合格率を上げていた。受験校もワンランク上になった。

行き詰っていた彼女の受験は確実に好転している。その原因は明らかだ。

郷田による指導。彼と一緒に居る時間が延びるたびに彼女は伸びていく。

 

 

 

「ですが私は部長のおかげで助かっています。恩返しをしたいんです。」

 

「それこそ愚の骨頂だよ。恩だと感じている時点で覚悟が足りないな。」

 

「……覚悟、ですか。つまり受験では敵同士だから、という事ですか?」

 

「数値の勝負に敵味方は一切無い。いいか、敵は常に自分だけと知れ。」

 

 

 

この時に土屋は不思議な感覚に陥る。この人には受験しか見えていない。

郷田をここまで夢中にさせる受験と自分に一体なんの違いがあるのかと。

だが彼女はここで思考を止める。イベントと自分は違うに決まっている。

 

土屋杏奈もまた受験勉強に身を捧げてきた。その感情の正体が判らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ時の山田宅内、映像文化研究部仮部室である旧山田太郎のお部屋。

その隣には山田次郎の個室がある。彼は部活と勉強を平行しているのだ。

……と、いう前提であったが、山田くんは勉強道具も画材も出してない。

 

そわそわと部屋の中を歩きながら、時折ドアまで歩き、そしてまた戻る。

 

 

 

「しっかりしろ山田次郎!俺が信じる後輩を信じる俺を信じるのだ!!」

 

 

 

結局自分を信じているだけなのだが、それは兎も角。彼は葛藤していた。

新人部員も入り壁も乗り越えた頼もしい後輩たちが、すぐ隣にいるのだ。

一緒に混ざりたかった。新入部員を繋ぎ止めたかった。楽しみたかった。

だが彼は受験生。もはや手を抜いていい時期はとっくに過ぎ去っていた。

 

 

 

「ちょ、ちょっとだけなら良いよな?部長の責務だし。一応家主だし。」

 

 

 

だが彼は欲望に忠実である。部活欲と呼ばれる欲が有るならば世界一だ。

楽しげに笑う一之瀬の声が自室に響いていた。そして暴れるような音も。

脳裏には一之瀬が楽しげにアクションを行っている様子が浮かんでいた。

 

文句を言おう。ちょっと注意する感じで入ろう。そして混ざっちゃおう。

脳内でシナリオを決める山田くん。自分のポーズまでも想定を済ませる。

 

 

 

「コラコラ、何を暴れてるんだキミタチ。静かにしろって言っただ――」

 

 

 

ろう、と続ける予定であった。しかし、想定外の光景に、言葉を失った。

目を血走らせて阿形の髪を引っ張る尾崎。間に入り制止する榎本と二宮。

そんな光景を見ながら、腹を抱えて笑う一之瀬。手が出せない他の面々。

 

 

 

「な、何をやってるんだ!?やめろ、やめないか二人とも!いいから!」

 

 

 

山田は榎本に代わり胴体を強引に尾崎に押し付ける。だが手は離れない。

そこで山田は驚くべき一手に出た。尾崎を持ち上げ、立ち上がったのだ。

視点が強制的に変えられて一瞬とまどう尾崎。そこで山田は脇に降ろす。

 

 

 

「よし!尾崎さん、阿形さん、あと一之瀬くん!俺の部屋に来なさい!」

 

「え?!あの、なんで俺も呼ばれるんスかセンパイ?!無関係ッスよ?」

 

「無関係なワケあるか!言っておくが君が一番悪い!いいから来いっ!」

 

 

 

ぞろぞろと出て行く山田と三人。部屋に残った二宮は、三狩屋に寄った。

そして部屋の隅に誘導して、顔を寄せて二人だけが聞こえる様に囁いた。

 

 

 

『サンタがやるって言ったの何となく判るわ。ちょっと俺も驚いたぜ。』

 

『だな。ニノが女好きだっての差し引いても、あの場が収まるとはな。』

 

『馬鹿言え、阿形と尾崎じゃ俺のマグナムは持ち上がらねーよサンタ。』

 

『そうかー?阿形とか意外とニノに向いてると思うがな。気が強いし。』

 

『よしてくれよ。俺はもっと清楚でナイスバディな黒髪の美少女が……』

 

『相変わらずブレねーなニノのシスコン。ここまでくると清々しいぜ。』

 

 

 

二宮と三狩屋が部屋の隅で密談する中、宇佐美と榎本もまた密談をする。

彼らとはちょうど逆側の位置で、互いに顔を寄せてヒソヒソと話し出す。

パッと見には仲良い恋人同士の語らいに見えなくも無い。事実そうだが。

 

 

 

『なあ宇佐美、あの尾崎ってさ、ちょっと変じゃねえ?少し怖ぇよ俺。』

 

『まぁねー。たださー、一之瀬センパイってファン多いの知ってるー?』

 

『そりゃあ見る奴が見れば判るだろうな。あの人の強さはハンパねえ。』

 

『そうじゃなくてー。けっこう中性的っていうかー、カワイイってー。』

 

『見た目はな。だが油断してると一瞬で沈むぜ?あの人は速攻型だし。』

 

『ホントに榎本くんってそればっかだねー。まー嫌いじゃないけどー。』

 

 

 

微笑みながら榎本を見つめる宇佐美。だが榎本はその熱い視線を見ない。

彼は特に一之瀬には以前より心酔していた。3人組でも別格扱いである。

何故榎本は一之瀬にそこまで惚れ込んでいるのか。それは数年前に遡る。

 

 

 

 

イチニノサンが旗揚げして間もない頃、対抗する不良中学生は多かった。

国分寺近辺の不良中学生を傘下に治めた一之瀬たちは立川に遠征をした。

そこで一学年下の榎本がトップを務める集団と彼ら三人が対峙したのだ。

 

 

 

「……3人かよ。人数揃えた俺らがバカみてえじゃんか。ザケンなよ?」

 

「うはははは!大人数、大いに結構!それだけ楽しめるってもんだぜ!」

 

「なんだよこのウザガキはよ。そこのお前、お前が仕切ってんだろ?!」

 

「は?俺?いや、俺ら三人は同列でな。この俺だけが頭じゃねえんだ。」

 

 

 

榎本は三人の中で二宮がトップであると踏んでいた。しかし実際は違う。

彼が言ったとおり三人は誰が上とは言わぬまま、何となくここまで来た。

それぞれが得意分野で活躍し、逆らうものは滅ぼす。そうしてきたのだ。

 

 

 

「だがこの一之瀬雄大、ケンカは一番強いぜ!俺と勝負しろよ色黒男!」

 

「ったく、しゃーねーな。……フクロにしてもつまらねえし、やるか。」

 

 

 

当時から榎本のバトルスタイルは変わっていない。力でねじ伏せるだけ。

叩かれようが蹴られようが気にしない。それ以上の力で叩いて蹴るのだ。

この嫌な根気比べで彼は一対一の喧嘩、タイマンでは無敗を誇っていた。

 

だが、始まった瞬間に、目の前の幼い顔の少年が口だけでは無いと知る。

手先が霞むほど速い。そして一撃一撃が驚くほどに重く、骨が軋むのだ。

 

 

 

「すっげええええ!こいつ避けねえ!なのに倒れねえ!おもしれーぞ!」

 

「いいからチャッチャと沈めちまえイチ。周りの奴らが来るかもだぜ?」

 

「さっきから本気だって!なのに沈まねえ!こいつ超おもしれえって!」

 

 

 

体の大きさも膂力も榎本が段違いに大きい。しかしそれも当たればこそ。

渾身の一撃は全て払われる。手も足も、届く前に軌道が逸れて宙を舞う。

だが榎本少年はブレない。それでもなお、受けて叩き返そうとするのみ。

 

そんなやりとりを数十合おこなった後に、何の偶然か榎本の拳が当った。

しかも一之瀬の顔面に吸い込まれるように直撃したのだ。驚く二宮たち。

 

 

 

「なるほど、こういうのもアリだな!おもしれーな!俺もやってみる!」

 

 

 

ここから一之瀬も避けず、受けて殴るを繰り返す。榎本は元からそうだ。

二人は棒立ちで殴りあい、ごつごつという鈍音だけが周囲に響き渡った。

そして更に時間は過ぎ、片方が倒れ、もう片方が相手を見下ろしていた。

 

 

 

「血だらけじゃねえかイチ。とりあえず鼻血拭け。……気が済んだか?」

 

「おう!まぁ俺様は無敵だが、こいつ根性あんな!楽しすぎんぜコレ!」

 

「……マジか……なんだよこのクソガキ……こんな負け方初めてだぞ。」

 

「安心しろ!何も不思議じゃねえって!この俺以外なら勝てるぞお前!」

 

「てめえ、ぜってーぶっ殺す!今度は俺が勝つ!逃げんじゃねえぞ!!」

 

 

 

こうして榎本は一之瀬に三度挑み、そしてその全てが同じ結果となった。

そこで榎本は一之瀬の舎弟となる事を誓って、本日に至った経緯がある。

もちろんお膳立てをできる一之瀬ではない。二宮の暗躍も有ったのだが。

 

 

 

そんな無敵少年の一之瀬雄大くんはといえば、今現在は正座中であった。

その正面では腕を組んで怒りの表情を湛える山田くん。後輩たちは横だ。

後輩たちである阿形と尾崎もまた、少しつま先の開いた正座をしていた。

 

 

 

「暴力は何も生み出さないとは言わない。そういう世界だってあるさ。」

 

「そ、そうですよねセンパイ!俺もそう思ってコイツラを見てたんス!」

 

「だが!後輩のケンカを止めずに笑うのは別だ!少しは反省してくれ!」

 

 

 

しょげ返る一之瀬。しかし尾崎は何故かここでは異を唱えはしなかった。

先ほど阿形による一之瀬への物言いに激怒した彼女にも判る。彼は違う。

目の前にいる『部長』と呼ばれる男は一之瀬を全く卑下していないのだ。

 

 

 

「阿形さん、一之瀬くんは俺が選んだ。不満があるのなら言ってくれ。」

 

「……山田センパイに不満はありません。でも、一之瀬センパイは……」

 

「部長はスキルジョブではない。人を纏めるのが第一だ。彼は嫌かな?」

 

「嫌、じゃないです。ただ、もうちょっと真面目にして欲しいかなと。」

 

「そこは俺も教育不足だった。だが馬鹿にしすぎは駄目だ。判るよね?」

 

 

 

そして今度は阿形から離れて尾崎に向き直る。そして、彼女の目を見る。

もちろん情報に乏しい尾崎嬢も、目の前の『部長』を見つめ続けていた。

そんな様子を山田も同じ様に見つめ続け、無言のまま長い時間が過ぎる。

 

 

 

「尾崎さん、俺は一之瀬くんは凄いと思う。そこに関してはどうかな?」

 

「あ、はい!一之瀬さま凄くかっこよくて、でも可愛いし、最高です!」

 

「だが聞いての通り一之瀬くんはあるものが足りない。そこで出番だ。」

 

「え?出番って、わたしの、ですか?!わたしが一之瀬さまになにを?」

 

「一之瀬くんを補佐して欲しい。君にはスキルがあるが、彼には無い。」

 

 

 

山田はかなりヒドイことを言っている様だが、紛れもない事実であった。

一之瀬は部活実務がほとんど出来ない。覚える気がないとも言える程だ。

技術力を上げていく二宮、庶務に長けた三狩屋とは決定的に違う存在だ。

 

だがそれでも山田は一之瀬を部長に推した。それは彼の持つカリスマだ。

集団の中心において常に注意を惹きつけ、そして先導が出来てこそ部長。

山田はそう鈴木に教わった。声出しが不得手であった山田は特訓もした。

 

 

 

「さて!一番悪いのは君だぞ一之瀬くん!いくらなんでもアレは無い!」

 

「うひゃ、その、ごめんなさい。今度から止めるからさ、許してちょ。」

 

「部長とは!部の責任者だ!俺の無き後、映研の存亡は君の肩にある!」

 

「またその話ッスか……やっぱりさ、センパイ留年して学校残んねー?」

 

「それも魅力的だな……って!違うっ!部長とは散るがこそに美しい!」

 

「センパイ部長向きだって。なんなら俺が親父に頼んで事件作るから!」

 

「そんなん山田家が近所で生きていけんわ!いいかげんにしろ!もう!」

 

 

 

ここで緊張していた阿形と尾崎の肩が少し下がり、微笑みが湧き上がる。

その光景を見て山田は確信する。やはり一之瀬は自分には無い力がある。

彼がうまく立ち回れば映研という集団は今以上のポテンシャルを出せる。

 

しかしここで自分まで笑ってはプロットが成り立たない。表情を締める。

 

 

 

「そして最後に俺だ。告白するが、実は、さっき二人のパンツを見た。」

 

「え?!」

 

「え?!」

 

「え?!」

 

 

 

女性陣二人が正座のままにスカートの前を押さえる。無論、意味は無い。

何故かここで一之瀬も自分のズボンをキョロキョロと見渡し始めていた。

山田は反射的に突っ込みたくなるが、理性でそれを制して話しつづける。

 

 

 

「俺が特別じゃない。男ってのはそういうもんだよ。な、一之瀬くん?」

 

「あー、ちょっと判る気がする!俺も尾崎見てチ●コムズムズするし!」

 

「ちょ、ば、馬鹿者!!本人の前でストレートに言うんもんじゃない!」

 

「大丈夫ですよ一之瀬さま。わたし見て欲情するなんて光栄ですから。」

 

「君は君で問題だ尾崎さん!いくらなんでもちょっとは嫌がらないと!」

 

「似たような事を確か田中センパイに言われてませんでしたっけ部長?」

 

「断じて違う!そんな関係じゃないんだ!君は誤解してるぞ阿形さん!」

 

 

 

こうして気まずかった雰囲気が一気に和む。無論、山田の計算では無い。

計算では『年頃の男の子もいるし気をつけようね』で終わる予定だった。

だが真っ赤になりながら茶化される山田くんを中心に『場』は収束する。

 

 

 

「と、とにかく!ここにいる皆が反省が必要だということは判ったね!」

 

「えーと、センパイ、結局俺はチ●コムズムズしちゃ駄目って事なん?」

 

「え?!……あー、その、それは否定できんが……まぁ自室で頑張れ。」

 

「おっけー、自室だったらいいんだ。じゃあ部屋でムズムズするかな。」

 

「それがいい!自室はパーフェクトフリーだ!施錠には気をつけろよ!」

 

 

 

山田は知らない。今現在で尾崎が保護プログラムの監視下にある事実を。

何の気なしで与えた免罪符は、想像を遥かに超えた出来事を引き起こす。

この中で唯一予感できたのは尾崎嬢だが、彼女にとって不利益ではない。

 

よって彼女は特にその事について口を挟まなかった。問題がないからだ。

 

 

 

「尾崎さん、君は今日から一之瀬組の一員だ!この山田次郎が命ずる!」

 

「わ、わかりました!この尾崎紀世子、全身全霊を持って補佐します!」

 

「あー、それは良いんですけど、アニメ班どうします?ずっと二人で?」

 

「そうだな。君と石川さんにはその力があると信じている。駄目かな?」

 

「決まったならそれでいいです。じゃあ班構成は変わらずってことで?」

 

「いや、構成は変える。実はもう案は出来上がってるんだ。見てくれ。」

 

 

 

 

@実写班

 

現場責任者:二宮純

出演者総括:宇佐美恋子

同総括補佐:榎本由紀夫

 

@アニメ班

 

現場責任者:山田次郎

製作:阿形直美、石川真理子

 

 

両班会計監査:三狩屋太一

(実写班補助を兼ねる)

 

両班統括責任者:一之瀬雄大

(補助はしない)

同補佐:尾崎紀世子

(アニメ班補助を兼ねる)

 

 

 

 

「一之瀬くんは完璧な部長を目指すこと。他の仕事はしなくていいぞ。」

 

「マジで?それって超ラクじゃね?偉そうにしてエバっててイイのか?」

 

「馬鹿だな。部長とは偉そうじゃなく『偉い』んだ。部の誰よりもな。」

 

「よっしゃー!ネコ捕まえてこようぜ!あとガウンとワイングラスも!」

 

「いや、ワイングラスとガウンはその辺でじゃ捕まらんぞ一之瀬くん。」

 

 

 

一之瀬の考える偉い人は少々反社会的な気もするが、非常に判りやすい。

高層ビルの最上階で下界を睥睨しながら足を組んで猫を抱く強面の紳士。

その横に尾崎が立っているあたりに一之瀬の意識にも少し変化が見える。

 

 

 

「だが皆が君を偉いと思わなければ部長ではないんだ。ただの馬鹿だ。」

 

「……ま、まぁそうか。うーん、山田センパイは絵が描けるけど俺……」

 

「そこで尾崎さんの出番だ。君の威光が一之瀬くんに乗る。判るかな?」

 

 

 

山田は尾崎のことはあまり良く知らない。しかし彼女は一之瀬が好きだ。

そこで一之瀬を媒介にして彼女を部活に馴染ませようと考えたのである。

彼女のポテンシャルは、決して他の部員たちにも一歩も引けをとらない。

 

その横では阿形は山田とは別の事を思っていた。尾崎ではなく山田の事。

この人はやはり部長なのだ。そして状況を判断して仕切れる能力がある。

何故彼が今年で卒業なのか。もし二年だったなら、どんなに頼もしいか。

 

 

 

「じゃあ部屋に戻ろうか。部長に怒られて可哀想と皆が心配してるぞ?」

 

「いや、それは絶対無いですね。」

 

「うん、俺もそれは無いと思う。」

 

「あの、一之瀬さまと同意見で。」

 

「何故だ!言っとくが部長とは恐怖の象徴だぞ!怒ると怖いんだぞ俺!」

 

 

 

腕を振り上げながら怒った仕草をする山田くん。もちろん本気ではない。

というより、付き合いの比較的長い一之瀬ですら彼の激怒は未見である。

先ほどのも声を荒げていたものの怒ってはいない。あくまで注意である。

 

山田は後輩を怒らない。何故なら、大好きな部活の大好きな後輩だから。

 

あまり怖がらない後輩たちに肩を落とす山田。そしてドアに手を掛ける。

ノブを半回転させると、そこから複数の人間が部屋に雪崩れこんできた。

その雪崩の一番下には二宮、その上に三狩屋、その他全員が倒れていた。

 

 

 

「うわあああっ!?な、なんだキミタチ!まさか盗み聞きしてたのか?」

 

「いやー、センパイずっと帰ってこないし、ちょっと心配だったんで。」

 

「ほ、ほら見ろ!二宮くんたちはちゃんと判ってるぞ!俺の怖さをな!」

 

「いや、ニノが『センパイきっと後輩相手にエロい事してる』って……」

 

「さっすが二宮センパイだわ。確かに山田センパイの怖さを判ってる。」

 

「ち、ちっがーう!俺の言いたいのはそういう怖さじゃないんだって!」

 

 

 

馬鹿にしたように見つめる阿形と、悔しそうに地団駄を踏んでいる山田。

そんな二人を見つめる二宮の胸中に、ムズムズとしたものが湧き上がる。

二宮は三狩屋の一言に思いのほか引っ張られた自分に苦笑し目を閉じる。

 

 

 

こうして、山田次郎部長による第三次改造映研はそのスタートを切った。

だが問題は山積のまま、あくまで部員の結束が済んだに過ぎない状態だ。

映研はどうなるのか。山田の受験はどうなるのか。それは次回以降に……

 

 

 

 

 

つづく。




だんだん投稿の間隔が伸びてきてる様に見えるかもしれません。
それは錯覚。--と……が違う長さに見えるのと同じ原理です。
そもそも時間軸とは宇宙と地上ですら違う流れになる程度の物。
そんな物に振り回されてはいけません。時間は不安定なのです。

一話毎の文字数が多くなってきてる様に見えるかもしれません。
それは錯覚。私は改行使いなのでそういう風に見えるだけです。
文字数カウントをして出てきた数なども信用してはいけません。
そもそもスクリプトが正しいなんてのはPG屋の幻想なのです。

山田くんは適当な間隔でアップされ、適当な文字数で進みます。
そんな適当なSSですから適当に楽しんでくれると嬉しいです。

では、次のお話でまたお会いいたしましょう。

ではではw
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