究極大英雄の山田次郎かく闘えり!   作:うぃっちべーす

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第三話『山田くん宿敵と相対す』

 

都立国立国分寺立川高校は見た目には新しいが設立は戦中とかなり古い。

木造校舎は高度経済成長期に取り壊され改築されその後も改修を続けた。

その時期に立てられた学校は総じて老朽化が激しくて設備も旧式である。

 

特に生徒たちに不評なのが、一般教室全てにエアコンが付いていない事。

 

 

 

「いやー、やっぱ涼しいっていいよね。今日はもう外は30度だって。」

 

「そりゃあ暑そうッスねー。メシ喰う気にもなれねえっスねーそりゃ。」

 

 

 

一般教室にはエアコンが無い。しかし『特別教室』にはエアコンが有る。

OHPやビデオ授業がある社会科教室も当然だが業務用エアコンが動く。

そして初夏の映研部は学校払の電気代を浪費して昼食を取る伝統がある。

 

 

 

「おっとそーだ、新入部員4人とも本入部になりましたよセンパイ。」

 

「おおっ!流石だな一ノ瀬くん!無論二宮くんたちも良く頑張った!」

 

「そこまで褒められる程でもあるっスけど!なんて!うははははは!」

 

 

 

無論、無断使用が認めているわけではない。節電は社会の急務でもある。

カーテンを閉めいつもの窓際からも離れてこっそりと涼を享受している。

だからといって中身までは変わらない。そこに居る仲間はいつもの面々。

 

ふんぞり返る一ノ瀬、半目の微笑を浮かべる二宮、カッコをつけた山田。

部室の中の誰もが自分なりに声を潜めて、秘密基地を守らんとしていた。

 

 

 

「で、一年坊も正式に部員になったんで昼のこと教えていいスかね?」

 

「あー、……うん、いいよ。俺のいるうちに隠し財産も教えたいし。」

 

「じゃあやっぱ準備室の鍵コピってるって噂、本当だったんスか?!」

 

「代々の部長だけが持つ秘密の鍵だよ。……そうだ、一ノ瀬くん……」

 

 

 

『準備室』とは特別教室に併設されている教員用の小部屋のことである。

そこは準職員室扱いとされており一般生徒の立ち入りは禁止されている。

 

ただ、社会科教師たちは数年前からこの準備室をまったく使っていない。

映像文化研究部の部室になってから、臭くて全く仕事にならないからだ。

原因は水性ペンキやアニメカラー、接着剤や樹脂や粘土の匂い等である。

 

 

 

「いや、その鍵は受け取れないッスよセンパイ!まだ早いってばさ!」

 

「えー?もうすぐ君は部長さんだろー?何事も早い方がいいんだよ?」

 

「だけど今の部長は山田センパイじゃないスか!駄目なんですって!」

 

 

 

山田部長は先日の新入部員との接触で放課後に部活に出るようになった。

しかしやってる事といえば自分のアニメ製作の原画と動画ばかりだった。

覗きに来る阿形や二宮と談笑はするものの、それでもすぐに作業に戻る。

 

あまりに対応が素気なく次期部長の一ノ瀬は少々不満を持っていたのだ。

 

 

 

「あの、俺はさ、一ノ瀬くんって凄いって思ってるんだけど、変かな?」

 

「いやいや、そりゃあ当然過ぎる感想ッスね!俺も当然そう思います!」

 

「じゃあ少し早いけどさ、もう部長になっちゃいなって、一ノ瀬くん。」

 

「だからー、センパイ追い出しまではやりませんって!頑固だな本当!」

 

 

 

『追い出し』とはクーデターの事ではなく『3年生を送る会』の行事だ。

通常9月から10月に行われ、そのときに部長職権限の委譲も行われる。

それまでは3年が部長なのは本当。普通その前に2年が中心になるのも。

 

 

 

「俺も最後のアニメ製作が終わればやる事ない。部長会は苦手だしさ。」

 

「いや、やる事まだあるっしょセンパイ!新入部員が待ってますって!」

 

「一年は二年が育てるのが伝統。三年は好きにやって辞めるのが伝統。」

 

 

 

山田くんが作るアニメーションとは、無論30分用アニメなどではない。

オープニングやエンディングに使われるような音楽入りの短編物である。

しかし、1秒間16コマ換算で3分程でも総枚数は三千枚になる計算だ。

 

何せ皆さん学生である、放課後と土曜にしか時間を裂くことは出来ない。

本来であれば班を作り分担して、それでも二ヶ月程を要する作業である。

しかし山田はたった一人で、しかも一ヶ月で全て作りあげる事が出来る。

 

もちろん彼の才能という訳ではなく、先代部長による訓練の賜物である。

 

 

 

「イチー、その話よそうぜ?センパイせっかく部活来てくれてんだし。」

 

「そうは言うけどよニノ!アレじゃ一年らからセンパイ舐められんべ!」

 

「だーいじょうぶだってイチ。あ、ジュース買ってきますよセンパイ?」

 

「いいよ、今日は俺が買ってくる番だから。確か牛乳でよかったよね?」

 

「「はーい、ゴチになりまッス!」」

 

 

 

食事が済んで2人はリラックスしたポーズをとっている。

 

一ノ瀬は机に脚を完全に投げ出して、どこかの王様のような格好である。

二宮は片足だけあぐらのような姿勢で椅子に乗せて、猫背になっている。

2人は、用心深く部室の扉から廊下に出て行く山田センパイを見送った。

 

ただ、二人の表情は対照的である。一ノ瀬は納得がいかないのか渋い顔。

二宮はといえば何が楽しいのか、半目を開けつつニヤニヤと笑っていた。

この後に山田が戻って昼休みを過ごすが、トピックが無いので割愛する。

 

 

 

 

 

 

 

放課後、山田は今日も今日とて部活動の為に社会科教室に向かっていた。

映研部が拠点とする部室は、特別教室用校舎の2Fの最東端に位置する。

特別校舎は一般校舎と渡り廊下で繋がっており、当然山田も渡ってくる。

その渡り廊下の途中で、山田は一番会いたくない相手と遭遇してしまう。

 

 

 

「はろー、山田クン。二人だけで話すのって随分と久しぶりじゃない?」

 

「いや、勘違いでしょう。コレまでもコレからも話なんかしませんよ。」

 

「ほんとーに山田クンって、ガーさんにそっくりになっちゃったねー。」

 

 

 

山田の目の前にいるのは女性だ。しかも、はっきりと物を言うタイプだ。

黒い長髪、ピンクのカチューシャ、そして大きめの楕円形の眼鏡の少女。

ぱっと見10人中8人は可愛いねと褒める、感じの良い女の子であった。

 

だが、そんな美人を前にしているのに山田次郎は物凄い形相をしていた。

侮蔑、軽蔑、蔑視。まるで自室で害虫を見咎めた時の様な表情であった。

 

 

 

「立ち話もなんだしウチの部室来ない?紅茶とか入れちゃうけどなー。」

 

「お構いなく。うちの部室だって紅茶くらいあるし。それに忙しいし。」

 

「……新しい部員の話って言ったら、山田クンも興味が出るかしらん?」

 

 

 

山田の顔面に一斉に脂汗が滲み出す。もちろん期待している汗ではない。

頭の中で、彼女の言う『新しい部員の事』について色々と推測する山田。

しかし、どう考えてみても新入生についてであるとしか思い浮かばない。

 

 

 

「いいだろう。俺は別に少しも疚しいところなんか有りはしないから。」

 

「はいはーい、それじゃ逃げないうちに行きましょ。ささ、どーぞー。」

 

 

 

鼻歌交じりでごく自然に山田の手を握り、手を引いて誘導していく彼女。

すぐそばの教室の扉前まで行くと勢い良くスライドさせて、中に消えた。

特別教室校舎2階の渡り廊下出口にある教室には『美術室』と札が立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、社会科教室。

 

 

 

「ニノ、センパイちょっと遅くね?あの人時間だけは異様に守るのに!」

 

「しらねーよイチ。もしかすると、新人でも探しに行ってるのかもな?」

 

「あー、そっか!俺らのコーハイがエノ以外辞めちゃったわけだしな!」

 

「部費ぜんぜんたんねー。イチ、駅前あたりでさ、カンパでもやらね?」

 

「よせよサンタ、センパイがそーゆーの嫌いなのって知ってんだろが!」

 

 

 

教壇に腰掛ける一ノ瀬、机を並べ寝そべる二宮、手提金庫を弄ぶ三狩屋。

山田が居る時でも褒められる様な態度はしないが、居ない時は特に酷い。

新入部員が居ようと居まいと彼らの行動は変わらない。一切気にしない。

ちなみに『サンタ』とはフルネーム『三狩屋太一』からきた愛称である。

 

 

 

「あー、新入部員諸君!幹部は少し席を離れるがしっかり活動しろよ!」

 

「ウェス!で、山田センパイ来たら何て言っとくッスか?ツレション?」

 

「エノ、時間掛かるとウンコになんだろ!スカトロにされたくねえよ!」

 

「わかったッス!『撮影場所の下見』にしとくッス。ごゆっくりッス!」

 

 

 

直立で見送る榎本、ワレ関セズでノートに絵を描き殴っていく阿形直美。

彼女が描いているのは元気な少年。線の太い。少年漫画風のイラストだ。

そして阿形の横に座りニコニコしている女子、同じく新入生の宇佐美だ。

 

 

 

「アガっちゃんてさー、すっごい絵うまいねー。やっぱ練習してるー?」

 

「えへへ、家でもマンガ描いたりしてるんだ。けっこう面白いのよね。」

 

「すごーい、やっぱアガっちゃんってばさー、やってる子なんだねー。」

 

 

 

宇佐美は少し周囲と雰囲気が違う。健康的に焼けており、短髪で痩せ型。

声量も有り、はっきり喋る彼女。人間的に山田とは対極のタイプである。

山田が彼女に向かい真顔で『何でウチに来ちゃったの?』と訊くほどだ。

もちろん失礼な質問で、その時も山田は後輩から大ブーイングを浴びた。

 

 

 

「―――でも、阿形さんの絵って、輪郭のデッサンが狂ってますよね。」

 

 

 

少し離れた所でマンガを読む女の子がそう呟く。同じく新入生の石川嬢。

彼女は最後に入部した部員で、そのせいか男女ともに距離を置いている。

ただコミュ障っぽい山田くんと違い、彼女は遠ざかるという訳ではない。

 

 

 

「そういう絵だしね。石川ちゃんってBL系だっけ?読み専なのかな?」

 

「―――いえ、もちろん描けもしますけど。それが何か気になります?」

 

「そっちってさ、なんだかすっごい顔とか長いよね。10頭身とかで。」

 

「―――――――――――――――――――――そういう絵ですから。」

 

 

 

石川は阿形との会話を打ち切って、また手に持っている本に目を落とす。

そして、手元に置いてある無地のルーズリーフに彼女は落書きを始める。

彼女の描く絵は予想通り、非常に線の細い少女コミック系統のイラスト。

 

確かに石川嬢の描く絵は歪みが無い。そして非常に静かに仕上げていく。

ちなみに先ほどの阿形嬢の場合は、ゴリゴリと音を立てて紙を凹ませる。

しかし何故か歪みの無い綺麗な絵は生みの親の手により握りつぶされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

美術室とは美術授業の教室でもあるし美術部の部室でもある。

 

我らが山田くんは室内中央に設けられたテーブルの一角に着席していた。

女子だらけの美術部らしく、集められた机に白地のクロスでの飾りつけ。

中心には花が生けられた瓶が置かれ落ち着いた雰囲気を醸しだしている。

 

そして彼の正面には、カチューシャをつけた黒髪の美少女が佇んでいた。

 

 

 

「山田クンてコーヒー派?紅茶派?もしかして意外とジュース派とか?」

 

「紙コップに水で結構。そもそも長居する気は毛頭無いわけだからな。」

 

「そう、じゃあ水だけは出さないわよ山田クン。一緒の紅茶にしとく。」

 

 

 

西洋急須に入れられた紅茶が青い模様の入った白磁のカップに注がれる。

鼻歌交じりで給仕をする少女を見て、ほんの一瞬だが思考が止っていた。

雰囲気に呑まれかけた彼だが、途中で気付きしかめっ面に戻っていった。

 

 

 

「ガーさん程じゃないけどウチも面白い子が沢山いるよ?ウチこない?」

 

「部長に向かって言う台詞じゃないな。あと、『ガーさん』はやめろ。」

 

「だってガーさんはガーさんじゃん。山田『ガー!』がんばれっ!て。」

 

 

 

彼女の言っている『ガーさん』とは、先代部長である鈴木のことである。

鈴木氏は『山が見える』と言うときに『が』に力を込めて言う癖がある。

別に訛っている訳ではない。彼は対象物が何なのかを強調したがるのだ。

 

無論彼女がつけたあだ名ではない。転部した映研先代副部長氏の命名だ。

 

 

 

「ウチに来たそっちのセンパイ言ってたよ?ガーの山田が心配だって。」

 

「そいつは奇遇だ。先輩と俺も言ってた。ベッドの床板が心配だって。」

 

「それ止めてよね。文化祭の後に本気にした馬鹿すごい来たんだから。」

 

 

 

文化祭に一体何が起きたのか。実は鈴木と山田が可愛い悪戯をしたのだ。

部員を取られ腹に据えかねた鈴木が、一矢報いてやろうとしていたのだ。

 

鈴木はポケットマネーをはたいて、業務用のスピーカーとアンプを購入。

文化祭前に少しづつ持ち込み、天井材のネジを外し設置していったのだ。

文化祭当日、美術部の天井から鈴木の声による猥歌が大音量で流された。

 

『田中さん、喰いも喰ったり15人、末はフーゾク青色AGEHA♪』

部長姉妹を辱める歌は一時間に及び、伝説のリサイタルと言われている。

 

 

 

「まだ根に持っていたのか君は。人生は楽しんだほうがいいと思うぞ。」

 

「そうねー。意外にガーさん美声で大爆笑だったしね。楽しかったわ。」

 

「何でも真面目にやる人だったからな。カラオケで練習してたそうだ。」

 

「その情熱を優しさに向けてりゃ映研も平和だったって思うけどねー。」

 

 

 

 

山田はそこで喉までうっかり出掛かってしまった言葉を急いで飲み込む。

 

『それ関しては、俺もそう思う。』

 

しかし山田くんにとっては禁句中の禁句である。鈴木一浪は絶対の存在。

そして、もしそうであるならば山田は映像文化研究部に居ない筈である。

二重の意味で言及は出来ない。そこで山田くんは急いで別な話題を探す。

 

 

 

 

「本題に移ってくれ。今頃一之瀬くんたちが俺を探してるかもしれん。」

 

「そのイチくんたちの事なんだけどさ、ちょっとトレードしてみない?」

 

 

 

口をぽかんと開けて目を見開く山田くん。

ニヤニヤとその表情を見つめる田中さん。

1分ほど経過した後、山田くんは立った。

 

 

 

「な、ほ、本気で言ってんのか?!育てた2年を交換とか、正気か!?」

 

「可愛い子3人も独り占めズルくない?こっちも秘蔵っ子出すからさ。」

 

「脾臓も肝臓もあるか!!それに部活選択は本人の意思が鉄則だろう!」

 

「山田クンなら出来るでしょ?ちなみに私は出来るわよ。ねえ、どう?」

 

 

 

彼女は蟲惑的な微笑を崩さずに、目の前の男子のことをじっと見つめる。

その男子たる山田次郎は、やはり目の前の女子のことをじっと凝視する。

 

そこで山田くんは目前に出されていたカップの紅茶を一気に飲み干した。

そして添えられていた茶菓子も平らげ、ティーポットもラッパ飲みする。

さらにあろうことか、側に用意されていた角砂糖も全て飲み込んだのだ。

 

 

 

「残念だが茶会のメインが無くなってしまった様だ。コレで失礼する。」

 

「あら?そんな事ないわよ?まだ残っているからもう少しお話しない?」

 

 

 

にこやかに手元のカップを指差す田中嬢。それは最後に残った彼女の椀。

一瞬躊躇したが、それでも山田はカップを手に取り、即座に飲み干した。

少し大きめに音をたててカップを置く。そして額がつくまで顔を寄せる。

 

 

 

「何か勘違いをしているようだが俺は手玉に取れるほど純情じゃない。」

 

「何か勘違いしてるみたいだけど私は山田くん本気で気に入ってるの。」

 

 

 

映研部長の山田は、そのまま席を立つときびすを返し美術室を後にした。

長い黒髪のカチューシャ少女は頬杖を突き、その後姿を楽しげに見送る。

そして彼女の机のソーサーの下からは写真が一枚、少しはみ出していた。

 

 

 

「一応、忠告はしてあげたんだからね。あとは自分でがんばりなさい。」

 

 

 

そう呟くと、彼が無造作に置いていった食器やポット等を片付け始める。

そして、その写真はソーサーの呪縛から離れ、その全貌をあらわにした。

そこには、カラフルな鳶服や作業服を着た少年が写真に写りこんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1分後、社会科教室に現れたのは映像文化研究部の山田部長だ。

上級生の居ないままダレていた部室の空気にやっと緊張感が蘇ってきた。

山田はそのまま教壇に上がり、一際大きな声で部員たちへと話し始めた。

 

 

 

「君たちが正式に部員となったと一ノ瀬くんに聞いた。間違い無いな?」

 

「え?あ、は、はい。多分みんなそうかなぁと……」

 

「ではお客さん気分はココまでだ。部員になった以上映研には服従だ。」

 

「おお?!なんか今日の山田センパイこええッス。」

 

「そしてここで通例だと班分けの希望を聞くが、今年は、俺が決める。」

 

「―――山田先輩、それは拒否したら退部ですか?」

 

「石川さん、退部は生徒全員の権利だ。納得が出来ないなら仕方ない。」

 

「あの、ハンド部のマネと兼任してるんですけど?」

 

「それは聞いてる。ハンドとウチとで立ち回ってくれとしか言えない。」

 

 

 

山田はそれだけ喋ると、今度は皆に背を向け黒板に向かい板書を始める。

白いチョークと赤いチョークを片手で器用に使い分けての板書であった。

 

 

 

 

@アニメ班

班長:二宮純

班員:阿形直美

班員:石川真理子

 

@実写班

班長:二宮純

班員:宇佐美恋子

班員:榎本由紀夫

 

@管理班

班長:一ノ瀬雄大

班員:三狩屋太一

 

 

 

 

「質問!管理班って何なんスか?!」

 

「雑用だ。買出し、部室管理、使用許可撮影許可、全部彼らに任せる。」

 

「―――二宮先輩が二人いますが。」

 

「二宮くんはどちらにも精通してる。同じ部だ、兼任でも支障は無い。」

 

「実写にアニメ手伝って貰えます?」

 

「撮影本番と力仕事だけは部内で協力する。準備は班員のみが鉄則だ。」

 

「山田センパイの名前がないねー。」

 

 

 

そこで山田次郎は、書かれている三班の上に更にチョークを置き始める。

かなり高い黒板位置なのだが、山田の手は常人より少し長く、丁度届く。

何個かの長い肩書きを描き終えた後、やっと部長の本名が書かれていく。

 

 

 

☆実写作品総監督、アニメ作品総監督、部誌刊行、原作、キャラ原案

 

 山田次郎

 

 

 

 

 

 

「今年の作品は俺が原作を切る。同原作でメディアミックスを試みる。」

 

「え?!山田先輩、あらかじめ用意してたんですか?」

 

「阿形さん、映研は無理無謀が売りだ。決めてからやる、今は白紙だ。」

 

「―――同じストーリーで両方の班が作るんですか?」

 

「違う。用意された長い原作から作品にしたい部分を抜き出せばいい。」

 

「あのー、一人のウェイトが大きすぎませんかねー?」

 

「運動部的な考えだね宇佐美さん。文系は腕だけ動けば何とかなるよ。」

 

「これって、一ノ瀬センパイたち知ってるんスかね?」

 

 

 

榎本のその言葉を聞いた山田次郎は、教壇に手を突いたまま押し黙った。

一年生部員4人も、いつもと様子の違う山田の一挙手一動足を見守った。

 

 

 

「今さっきの思いついだ。彼らが拒否するようならば、俺が退部する。」

 

 

 

彼はここまで教壇から一歩も離れていない。なぜ教壇から離れないのか。

黒板の板書は普通教壇机からずれて書くのが普通だ。しかし彼は出ない。

それは机の内側に秘密があった。彼の足は、ずっと打ち震えているのだ。

 

 

 

「いや、センパイが部長だろ。逆らう奴こそ退部だ。そうだよなイチ?」

 

「うおおおおおおお!やっとセンパイが本気になったぜ!よっしゃあ!」

 

「なんかいつも俺だけ楽だけど、もしかしてサンタくん愛されてるの?」

 

 

 

声の主3人は、部室の後ろ側の入り口に立っていた。

 

大げさに芝居めいて感動する一ノ瀬。

ニコニコしながら腕を組でいる二宮。

手提げ金庫を肩に担いでいる三狩屋。

 

 

 

「三人ともちょうど良かった。相談抜きで仕切ったけど許して欲しい。」

 

「だからセンパイが部長っス!イイに決まってるよな!ニノ、サンタ!」

 

「どう考えても理に適ってる。ただ、サンタって今の仕事継続だよな。」

 

 

 

山田は三人の二年生の顔を見て緊張から開放された。足の震えも止まる。

自由に歩けるようになった事を確認した山田は、彼らの元に駆け寄った。

そして一番に肩を叩いて話しかけたのは、一之瀬ではなく三狩屋だった。

 

 

 

「三狩屋くんは特に凄い!年度帳簿が正確なのって映研史上初なんだ!」

 

「ま、イチやニノと違ってボンボンじゃないんで。金には煩いっスよ?」

 

「金勘定は地味だが非常に人格が求められる仕事だ!尊敬に値するぞ!」

 

 

 

一ノ瀬らが教壇の前に並び立ち、ちょうど山田を守るような構図となる。

山田部長は思う。この布陣に換えられる逸材なぞ決して存在しやしない。

あの女悪魔の誘惑を断っての自分の選択は本当に正解であったのだ、と。

 

 

 

「なんだかさー、やっと部活っぽく盛り上がってきたねアガっちゃん。」

 

「こういうの知ってんぜ?『もうちょっとだけ続くんじゃ』って奴だ。」

 

「ちょっと違うわよエノ、『この果てしない遠い男坂をよ』って奴よ。」

 

「―――それを言うなら、『運命を変える冒険の旅へー!』って奴ね。」

 

「やっぱり、石川ちゃんもー、アガっちゃんもー、漫画詳しいよねー。」

 

 

 

 

こうして山田くんによる映研新体制は波乱含みながら、やっと確立した。

映研は、これから始まる暑い夏に向かってなんとか団結した様であった。

だが待ち受ける運命が酷暑の日差しより厳しい事を山田たちは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼らの運命は

次回のお話に

 

 

 

 

つづく。




完結後にちょびっとづつ体裁を変えてみて思いますが、修整っていいですよね。
売ってる本とかじゃこんなの絶対無理です。やっぱりSSって特殊なんですよ。

趣味でやるのに、ここまで大変な事するのってマゾだって言われる事あります。
でも、大して元手も掛からないで後から色々手も入れられる趣味って多いです?
今のSS書きってのは苦労する分、まちがいなく楽しめる趣味だなと思います。
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