究極大英雄の山田次郎かく闘えり!   作:うぃっちべーす

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究極大英雄山田次郎、最後の旅その2

第2話『山田くん女子に囲まれる』

 

 

 

山田次郎は土下座していた。

 

そんな彼を見下ろすのは女子。しかも三人。

 

一人は肩までの黒髪にピンクのカチューシャを付けた眼鏡少女。

一人は少し色の明るいソバージュとニキビが特徴的な眼鏡少女。

一人は長い髪を薄桃のヘアバンドで後ろに流している眼鏡少女。

 

この状況を把握していただくには、話を少々遡らねばなるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

三人の男子による秘密の卒業旅行は着々と準備が進んでいた。

 

山田は花子ちゃんの舞台背景及び詳細設定作成とイメージイラストの作成を。

与那覇はその遊びの初心者である彼らが楽しめるようにシステムの構築を。

そして権田原兄は自分がどういう立ち位置で空想世界に入り込むのかを。

 

その相談場所は、学校に程近いファミレス。

以前に郷土文化研究部の二人が、そして映像文化研究部の二人が屯した店。

だが郷研は解散し、映研は現在相談するほどの問題は抱えていない。

 

 

 

「花子ちゃんの学校って制服ブレザーじゃんか。ブレザーに何か意味あるのか?」

 

「そこは小生も聞きたかったゾナ。なんでセーラーにしなかったゾナ?」

 

「そりゃモチーフがウチ、ゲフンゴフン、この世界の国防軍の制服ってのが……」

 

 

 

とても面倒くさいが目の前の空手男子は真剣に花子ちゃんに心酔している。

山田は先刻、変身後の学ランについて権田原に訊かれ『なんとなく』と答えた。

その後に羅刹のような表情で胸倉を掴まれ呼吸困難に陥ったという経緯がある。

 

適当な理由を並べる山田。そうするうちに世界観が膨らんでいくから不思議である。

 

 

 

「でさ、権田原くんはやっぱり生物部部長にしちゃうの?」

 

「いや、できれば花子ちゃんの手助けする役がしてえかな。」

 

「ちょっと意外ゾナ。主人公にならないでもいいゾナ?」

 

「俺は花子ちゃんに幸せになって欲しいんだよ。」

 

 

 

山田には理解できない。目の前の空手少年は自分を主役に投影しないという。

端役で主役たちの活躍を眺めて、苦境になった時に補佐さえすれば良いという。

世界は主役たちの為に作られている。それでは彼自身が迎える結末は何なのか。

 

しかし与那覇には理解できる。本当に心酔しているなら世界は尊重すべきだ。

山田は作品を作ることが好きなのだろう。だから本気で世界に思いを馳せない。

同人とは性的欲求の捌け口ではない。異世界に焦がれるファンのものでもある。

 

 

 

「なんだよ二人共、急に変な顔して。ところで俺ってガリベンの方がいいのか?」

 

「生物部の部員だしね。元々エリートの集団って設定も切ってるからね。」

 

「いや、そこは気にしないでいいゾナ。山田氏も映研部長で参加していいゾナ。」

 

「いいの?だって原作は元々が理科部内紛だよ?大丈夫なの与那覇くん?」

 

「リアリティのない下手な演技されるよりましゾナ。それとも演技は得意ゾナ?」

 

 

 

ブンブンと大きく首を振る大男二人。

 

普通は山田が首を振るのはツッコミ処だ。しかし誰もツッこまない。

まず与那覇は山田が絵描きであり演技に疎いことは既に知っている。

そして権田原はそもそも映研自体知らない。妹から薄ら聞いた程度だ。

 

 

 

「しかし準備してて思うんだがな、本当に可能なのかよこれ。」

 

「可能じゃなければ最初からやらんゾナ。大丈夫、小生に全部任せるゾナ。」

 

「頼もしいよな与那覇。タダのチビじゃあないんだな、お前。」

 

「小生は確かに小動物ゾナ。でも、権田原殿とてただの脳筋ではないゾナ?」

 

「山田も花子ちゃんの原作だしな。取り柄ってあるもんだな。」

 

 

 

山田は驚いていた。与那覇は確かに同人に強いしパソコンの腕前もプロ裸足だ。

しかしそれ以上に与那覇は人付き合いが上手い。空手部長と対等に話している。

自分には映研しかなかった。それも前部長鈴木一浪の薫陶ありき、である。

 

 

 

「それより山田殿、なんでそんなに沢山イラストを用意してるゾナ?」

 

「イメージが湧かないかなと思ってね。だって所詮は俺の脳内世界だしさ。」

 

「そうでもねえよ山田。ちょっと未来の学校だろ?想像は出来るぜ。」

 

「ちなみに権田原くん、この世界の学生服って実は自己修復機能あるけど?」

 

「あっそうか!だから変身が終わった後、花子ちゃんに制服に戻るのか!」

 

「そういうのも作品に織り込んでなかったからさ。二人に判らないでしょ。」

 

 

 

与那覇は横に並ぶ山田の製作サイドの情報に舌を巻く。確かに情報は必要だ。

しかし、設定資料という名のイラストの積み重なりが尋常ではない。

すでに同人誌どころか単行本レベルである。山田の速描は常軌を逸している。

 

彼が恋焦がれる同人屋の七瀬亮子ですら、本気でもここまでは出来ない。

 

 

 

「山田殿、これは一介の遊びに収めるレベルではないゾナ。」

 

「そうでもないよ。僕もそのナントカが楽しみってだけさ。」

 

「いい事いうじゃねえか山田。俺も楽しみでしょうがねえ。」

 

 

 

実は山田と権田原に共通するのが、日常生活の中にゲームが存在しないことだ。

山田は家で何もしない。寝てるか、漫画を読んでるか、絵を描いてるかだ。

そして権田原も家では筋トレとランニングと稽古と妹との団欒だけである。

 

与那覇の提案している遊びが本当に楽しいかどうか、二人には定かではない。

しかし、その準備すら楽しい。未知のものが全て。知ることだけでも楽しい。

三人のファミレスでの準備は進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで女性陣の動きが活発となる。

 

まず田中双葉。彼女は山田の奇妙な行動に独特の嗅覚を働かせる。

女の気配がない。しかし山田が明らかに自分よりも何かを優先している。

浮気をするタイプでないのは判っているが、完璧を求める彼女には耐えられない。

 

 

 

「ねえジュン、山田クンそっちに行ってる?」

 

『うんにゃ。センパイならそろそろ卒業だし姉さんの方が詳しいだろ?』

 

「それが私に隠れてコソコソ何かしてるの。」

 

『まさかセンパイ浮気?!……なわけないか。あのセンパイに限って。』

 

「そりゃこの私に勝てる相手は居ないわよ。」

 

『違いねえ。姉さんに勝つには、まず生き残れる相手じゃないとだし。』

 

「発信機も外されたしさ、何か変なのよね。」

 

『発信機も駄目か……俺も一応部員には、それとなくで聞いてみるわ。』

 

「頼んだわジュン。女絡みならすぐ教えて。」

 

『ほいほい、姉さん振るようなセンパイじゃないから安心していいよ。』

 

 

 

ちなみに『ジュン』とは彼女の実弟で現在の映研副部長の二宮純である。

 

山田の学生服についた襟章には田中双葉による発信機が付けられていた。

しかし準備を始めた日、与那覇お手製の防犯センサーにより看破された。

もちろん山田は犯人を知らない。真っ青になり襟章の機械を壊した。

 

彼女にとって山田次郎は人生そのものと言ってもいい。その眼光は真剣だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七瀬亮子は気に入らなかった。いつもの笑顔が消えてもう数日が経つ。

もちろん自分の笑顔ではない。横からこちらを見つめる童顔の笑顔である。

結局、同人誌は脱稿しなかった。なんとなく気が乗らずにやめてしまった。

 

別に用もないコン研の部室でPCをいじる亮子。そこに声が掛かる。

 

 

 

「ええと、七瀬亮子先輩、ですよね?」

 

「そうだけど?オタク誰?名前は?一年坊ってくらいは判るけど?」

 

「す、すみません。美術部1年の権田原奈々って言います。」

 

 

 

亮子は目の前の一年を凝視する。

 

気に入らない。背が小さく可愛い。自分のようにくせっ毛もない。

艶めいた清潔で長い黒髪をピンクの幅広なヘアバンドで纏めている。

きっとゾナハにはこういう背の低い女子が似合うだろう、と考える。

 

 

 

「七瀬先輩は、ウチのお兄ちゃんのことって御存知ですか?」

 

「知らない。」

 

「そ、そうなんですか。一応空手部の元部長なんですけど。」

 

「興味ない。」

 

「えっと、じゃあじゃあ映研の山田先輩って知ってますか?」

 

「知ってる。」

 

 

 

良く知るどころではない。山田といえば文化部イチの変人である。

しかも最近、あの双宮こと田中双葉と付き合ってると聞く。

そして童顔のコン研部長が彼に心酔していて、事あるごとに話を聞かされる。

 

気に入らない。

 

 

 

「じゃあ与那覇先輩たちで卒業旅行に行くのって聞いてますか?」

 

 

 

聞いていない。

 

自分も卒業生だ。しかも中途とはいえ部長と副部長の間柄だ。

自分と与那覇だけはそのようなイベントを隠す間柄ではない。

しかし知らない。よその部長と楽しい旅行。自分は置いてけぼり。

 

 

 

「あのー、七瀬先輩?私、別に責めてるわけじゃ。」

 

「……ぐひゅ、にゃによ、しらにゃいふぁよ。」

 

「あのー、もしかしてショックだったりしてます?」

 

「じぇんじぇん!あたひ、といれひってふる!」

 

 

 

トイレに行く七瀬亮子。

 

無論いかに彼女とてアサガオの咲いてる方には行かない。女子用である。

個室に入り蓋の閉まったままの便座に腰掛ける。目的は用足しではない。

トイレットペーパーを何度も手に巻き取り、鼻汁を中に弾き出す。

 

数分もの間、ビリビリという鼻をかむ音がトイレに響き続けた。

 

 

 

「あ、ハンカチ使います?」

 

「ハンカチってすぐ汚れるから嫌いなんだけどね。」

 

「そりゃあハンカチは汚して洗う為のもんですし。」

 

 

 

洗面台で顔を洗う亮子に声をかけたのが、権田原奈々嬢である。

なにせ質問していたら、急に目の前の大女が豪快に泣き出したのだ。

びっくりするというレベルではない。展開が急すぎて反応出来ない。

 

その後に襲いかかるコン研部員からの視線。逃げるしかなかった。

 

 

 

「その感じだと七瀬先輩も連れてってもらえないんですね。」

 

「うん。初耳。秘密だけどさ、少しショックだった。」

 

「だとすると残るは大英雄山田次郎かー。困りましたねー。」

 

 

 

『大英雄山田次郎』とは美術部内での山田くんのあだ名である。

部内での評判は悪くはないが詳細を知る分だけ権田原は彼が苦手である。

なにせ部籍を抹消された前部長の田中双葉の恋人であり、変人でもある。

 

どんだけ山田が変人かは前作を御参照。

 

 

 

「山田次郎か。あいつを何とかすればさ、卒業旅行は妨害できるのか?」

 

「別に妨害したいわけじゃないんですけど、まあそうですね。」

 

「おっけ、任せな一年坊。山田に話をつけりゃいいんだろ?楽勝楽勝。」

 

「権田原です。でも、手があるんですか?あの人、ある意味怖いですよ?」

 

 

 

こうして女性陣でまず、七瀬亮子と権田原奈々が合流する。

 

七瀬は通学に特殊な方法を利用している。まず学校の近くに親戚が居る。

彼女は親戚の家までスクーターで乗り付ける。そして徒歩で登校するのだ。

これは確実な校則違反。しかし誰にもばれずに3年間通学していた。

 

 

 

「ええ?いいんですかコレ?……いいわけないですよね。すみません。」

 

「ゼンハウザーは急げってドイツ人も言ってる。さっさとメット付ける。」

 

 

 

ちなみにドイツ人はゼンハウザーは急げなどとは言わない。彼女の造語だ。

ゼンハウザーとはドイツの音響メーカーである。主にヘッドホン系で有名。

特に無線イヤホンでの品質に定評があるが急ぐ理由はない。地口である。

 

ヘルメットをかぶった大女と少女は、独特の軽い駆動音を響かせ走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖蹟桜ヶ丘にある豪邸には表札が出ている。

そこには二つの苗字が有った。田中、そして二宮。

田中の下には若葉、一葉、双葉と並んでいる。二宮の下には純一郎、純と並ぶ。

 

ここは二宮家であり田中家である。再婚したばかりであり夫婦別姓となっている。

 

 

 

「いるんだろフタミヤー!出てこいよー!フーターミーヤー!」

 

「ちょ、ひとんちの玄関でペンネーム連呼とか無茶ですよ七瀬先輩!」

 

「だいじょーぶだって。こいつんち全員変人だから。」

 

 

 

大女が呼び鈴のボタンをひたすら連射しながら大声で叫んでいる。

うっかりすると借金取りかと思えるような無礼さである。もちろん借金取りではない。

後輩の一年生が周りをキョロキョロしながら先輩の袖を引く。しかし先輩は動じない。

 

 

 

「うっさいわね……あら、誰かと思えば腐れ女のフカワじゃないの。」

 

「あんたは呼んでないってのイチノミヤ。フタミヤを出しなってば。」

 

「双葉ならあの山田のクズんちよ。おおかたセックスでもしてるんじゃない?」

 

「そんなのホイホイあの女がするもんか。イチノミヤだってどうせ処女だろ?」

 

 

 

はらはらと二人を眺める権田原奈々。さもありなん、目の前の女は伝説の部長だ。

 

田中一葉。卒業と同時にイラストレーターとして起業しており業界雑誌にも特集が載る。

彼女の母もまた仁科展で賞を取った逸材であり、家族揃っての天才の家系と評される。

しかも前衛的なあやふやな基準での評価ではない。写実を含めた技術的な批評である。

 

 

 

「フカワじゃあるまいし。こちとら毎日しまくりよ。」

 

「もしかしてポスカに処女あげたとか?ガバガバになるだろ。」

 

「ポスカなんか目じゃないわよ。しょうがない、見せたげるわ。」

 

 

 

インターホン越しに罵倒しあっていた二人。

確かに七瀬亮子は口は悪いし、態度はカラダ以上に大きい。

しかし権田原の知る田中一葉は氷のような女のはず。こうも熱くなる人間ではない。

 

 

 

「あのー、七瀬先輩は、田中先輩と、どういう仲なんです?」

 

 

 

 

一葉が出てくるまでに時間が有った。彼女はその時間で一年坊に説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美術部は実力本位の部活であり、学年だけで上下を決めない。

 

例えば現部長の富井有栖は二年生であるが、双葉に次いでの副部長であった。

双葉にも同輩は居る。しかし富井は副部長。理由は実力の行使に他ならない。

常に実力差は上下する。勝てると思った時に勝負を挑む。負ければ去る。

 

 

 

「勝負だイチノミヤ!アタシの方が絶対上手い!」

 

「聞き飽きたわよフカワ。いいかげん双葉と勝負してくれない?」

 

「一番はイチノミヤだろ!逃げるんじゃないよ!」

 

「副部長は双葉なの。ねえ双葉、この馬鹿なんとかしなさいよ。」

 

「そりゃ無理よお姉ちゃん。だってフカワだし。」

 

 

 

黄金期と言っても良かった。部長に田中一葉、副部長に田中双葉。

美術部の二輪の薔薇と呼ばれ、賞を総なめにする化物姉妹とも呼ばれた。

そこで実力差を認めようとしない大女こそ、二年生の七瀬亮子であった。

 

ちなみにこの時一年の富井は、共倒れを期待し一言も声を発しなかった。

 

 

 

「フカワ、お姉ちゃん来年には卒業なのよ?私と勝負でも同じじゃない?」

 

「別に部長になりたいんじゃないから。イチノミヤが泣くとこが見たい。」

 

「そりゃ残念だけど絶対無理だわ。妹の私ですら見たことないんだから。」

 

 

 

フカワ亮子は画家になりたい訳でもなかった。美術部自体に愛着もなかった。

奨学金も受けていない。家もそんなに貧乏ではない。熱中する要素がない。

しかし彼女は特殊な性癖を成就するのに画力が必要だった。ただそれだけだ。

 

 

 

「双葉に勝ったら絶対勝負してあげるからさ、先にやってくれない?」

 

「そういうのズルくないか?ラスボスの前に中ボスっての。」

 

「でもさフカワ、お姉ちゃんって、まんまラスボスだって思わない?」

 

「確かに。しょうがねー、やるからには勝つ!七瀬亮子は!」

 

「うわ、誰かさんそっくり。お姉ちゃん、そういえば今日じゃない?」

 

「そっか、鈴木くんの日か。任せたわ双葉。そんじゃねー。」

 

 

 

こうして亮子と双葉の対決が始まるのだが、僅差ながらも亮子は負け続けた。

実力はほぼ五分と五分。しかし、亮子にはそのわずかの差が埋められない。

死闘は幾度と無く繰り広げられ、そして、亮子は二年の中頃に部を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、あの田中部長とやりあってたんですか。……でも、なんでコン研に?」

 

「やっぱ同人誌って今じゃCGがメインだから。」

 

「なるほどー。ウチの部ってアナログ一直線だからCGやれないですもんね。」

 

 

 

実はもう一つ理由があるのだが、美術部に話すまでもないと割愛していた。

そんな雑談が終わりかけていた頃、田中邸の大きな門がゆっくりと開け放たれた。

ピンクジャージ姿の田中一葉。目の下にはクマがあり不機嫌そうな表情を湛えている。

 

そしてTシャツにトランクス姿の、一葉よりも目つきの悪い男子が続いて出る。

 

 

 

「うっそ、イチローじゃんか。なんで変態映研男がイチノミヤの家に?」

 

「そりゃ私の旦那様だし。ねえ鈴木くん?」

 

「ああ、そうだな。」

 

 

 

もちろん鈴木を知らない七瀬ではない。映研部元部長、鈴木一浪。

美術部を不倶戴天の敵と宣言した男。実際、彼の工作で部員は激減した。

実力本位ではあっても美術部は女子の多い部活である。メンタルは弱い。

 

それに映研部の一斉退部事件で男子部員が美術部に流入、色恋に発展し退部者も出た。

 

 

 

「いやいや、気は確かかイチノミヤ?美術部の部長が映研と?ありえんだろ。」

 

「元々美術部なんてタダの階段よ。双葉は真面目に部長してたみたいだけど。」

 

「フタミヤはああ見えて根はイイヤツだからな。しっかしな、イチローかー。」

 

「絵の腕なら私より上よ彼。そだフカワ、イイモノ見せてあげるから来てみ。」

 

 

 

手招きする田中一葉。不思議そうに、それに答えて近寄る七瀬亮子。

 

そこで一葉の右手が亮子の頭を掴みグイと押し下げる。絵描きの膂力は強い。

身長差以上に頭を下げられた。そして一葉は残った左手で別なものを掴んだ。

それは隣に立つ鈴木一浪のトランクス。それを手加減無しで引き摺り下ろした。

 

 

 

「~~!?~~~~~~!!?~~~~~~~!?!~~~~~~~」

 

「すっごいのよ鈴木くん。ほら、ポスカとか目じゃないでしょ?」

 

「やめとけ一葉。この女、たぶん泣くぞ。」

 

 

 

事実泣いていた。彼女は涙腺が結構弱い。精神的にも。

 

全長25cmという規格外の傑物。浮き出る血管が逞しさを容易に想像させる。

しかもまだ力なく項垂れている状態。本気になれば凶暴さは跳ね上がるだろう。

雌伏の状態ですらこの有様である。とぐろを巻き惰眠を貪る蛇とも見える。

 

亮子は真っ青になっていた。口元を手で覆い、何かに耐えていた。

 

 

 

「七瀬先輩!か、帰りましょう!」

 

「威勢のいいコト言っといて、生で見たら泣き出すの?ウブだわねフカワ。」

 

「そんなん誰だってびっくりするわよ!馬鹿じゃないのあんた!」

 

「あら、威勢のいいチビね。フカワの腐れたお友達かしら。」

 

「うっさいキチガイ女!喋りかけるな!」

 

 

 

権田原奈々は次期副部長であり、短いながら毎日の絵の鍛錬も欠かしてはいない。

それに中学までは兄と一緒に空手道場にも通っていた。それなり以上に力持ちだ。

身長183の先輩を右脇に抱え、スクーターを左手に持って田中邸を去っていった。

 

 

 

「ねえ鈴木くん、私ってキチガイ女なのかな?」

 

「たぶんな。その分、異常に絵が上手いがな。」

 

「鈴木くんは、キチガイ女の私のこと、好き?」

 

「むしろキチガイだから好きだ。自信を持て。」

 

 

 

自宅の玄関前で、しかも路上の誰に憚ることもなくキスをする一葉と一浪。

かなり盛り上がってしまったのだろうか、時間が過ぎても中々離れない。

一葉がもどかしそうにジャージのジッパーを下げたところで後ろから殴打。

 

屋内から傍観していた母親がさすがに止めたのだ。

一葉の変人ぶりは田中家でも群を抜いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

住宅街から離れたころ、近場の公園を見つけ権田原は椅子に座っていた。

右隣には泣きじゃくる大女、そして左には自分のものではないスクーター。

しかし特に嫌な気分にはなっていない。隣の先輩が少々気に入っていた。

 

見た目はでかくて、口も悪くて、お洒落とか全然知らなくて。

でも、実際にはとても繊細な女の子なのだ。涙もろいしウブなのだ。

 

 

 

「先輩、ハンカチでチーンしましょ。」

 

「でふぉ、よごれひゃう、らふぇらよ。」

 

「ここ水道ありますから。全然洗えますから。ほら、チーン。」

 

 

 

素直に鼻をかむ先輩。凄い量の鼻汁に驚く後輩。

きっとずっと我慢してたのだ。見た目と違ってこの先輩は控えめなのだ。

そう思うと、権田原の世話焼きの部分がキュンキュンと疼きだしてくる。

 

 

 

「やっぱり凄かったんですか?ポスカより?」

 

「き、気持ち悪かった。あんなの、ぜったい、無理。」

 

「そーですかー。」

 

 

 

ちなみに権田原奈々は決してウブではない。なにせ兄の持ち物も凶悪である。

触れた事こそ無論ないが、ポスカどころではない。極太マッキー以上だ。

風呂で垣間見る兄の凶器もグロテスクである。宇宙生物とも思える位に。

 

 

 

「とにかく田中……双葉先輩に会うのどうします?」

 

「会う。たぶんフタミヤだったら我慢できるし。」

 

「本当に大丈夫ですか?なんだったら明日にでも。」

 

「もうだいじょうぶ。早く、旅行、やめさせる。」

 

 

 

しゃくりあげる声が収まらない七瀬嬢だったが、20分後に何とか落ち着いた。

気まずそうに視線を泳がせる七瀬。権田原にはもう把握できた。

大女の手をぎゅっと握り、にっこりと微笑む。それが最善だと理解した。

 

 

 

「行きましょう先輩、山田先輩の家にいるそうですから。」

 

「でもさ、アタシ山田の家とか知らないんだけど。」

 

「大丈夫です。実は私、エイケンの子と友達なんですよ。」

 

 

 

ふと国産スマホを滑らせながら権田原は気付く。先にこっちに聞けばよかった、と。

罪の告白をしようとチラリと大柄な先輩に視線を流す。キラキラした目で見ている。

言えない。こんなに純粋に期待されているのに裏切れない。裏切れるわけがない。

 

 

 

「あ、もしもし、こちらゴンさんです!ザキさんおひさー!」

 

『―――!――――――?――――――!』

 

「あのさ、ちょっと田中先輩に会いたいから大英雄の家教えて!」

 

『――――――。―――――――、――――――――。』

 

「ありがとー!今度映研にも顔出すねー!ちゃーおー!」

 

 

 

 

電話を切って再び七瀬の顔を見る。いっそうキラキラしている。

少女マンガから抜け出たのかと思えるほどで、背後には花の幻影すら見える。

さすがに苦笑してしまう奈々。しかしきっと報告を心待ちにしているだろう。

 

しかし。

 

 

 

「すごいじゃん!本気で映研の友達なの?どんだけ凄いのアンタ!」

 

「へ?!そ、そりゃあ友達っていうか、知り合いっていうか。」

 

「映研ってエロ男子の巣窟で女子喰われまくりなのに!凄いよ!」

 

 

 

風評被害は別に美術部に限ったことではない。映研もまた然りなのだ。

鈴木山田体制下で映研と美術部は劣悪な関係となったのは前作参照。

七瀬の居た頃はその最盛期であり、一葉もまた映研を利用していた。

 

映研はエロ男子の巣窟で同じ空気を吸っただけで妊娠する、等々。

 

もちろん権田原は田中双葉の腹心だったので情報が嘘なのは知っている。

しかし七瀬は知らない。以前の映研後輩がそうであったようにである。

正気に戻った映研男子は退部、残った連中は生殖器に頭が生えた生物。

 

 

 

「大丈夫かな、昔のフタミヤだったら知ってるけどさ、今、映研だよね?」

 

「大丈夫ですよ。双葉先輩は双葉先輩です。むしろ山田が調教されてます。」

 

「そ、そーなんだ。うーん、やっぱアタシじゃフタミヤには勝てないか。」

 

「あはは、悪い人じゃないのは今も一緒ですよ。ささ、行きましょう先輩。」

 

 

 

確かに目の前の七瀬亮子では、田中双葉に勝てないだろうと権田原は思った。

絵の腕はあるのだろう。きっと部長としても人望は集められただろう。

しかし、ある種の規格はずれな部分で、田中双葉が突出しているのは確かだ。

 

だが目の前のギャップが大きい先輩も補佐してみたい、とも思う奈々であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして最後の女性陣である田中双葉は平然と二人を出迎えた。

 

山田邸に山田次郎はいなかった。そして田中双葉はごく普通に寛いでいた。

二人が来ても何もなかったかのように招き入れる。山田の家族もまた然り。

おどおどとする七瀬、そして少々呆れたような表情で挨拶する権田原。

 

 

 

「権田原さん、久々ね。ていうか、もっと久々よねフカワ。」

 

「あ、ああ、あのさ、ここって山田の部屋だろ?なんでアンタだけいるんだ?」

 

「そりゃあお嫁さんだしね。あ、フカワには刺激が強いか。」

 

「田中先輩は、七瀬先輩の、その、意外とシャイなのって知ってたんですか?」

 

「知ってるわよ。だって同期だし。それにフカワ本当は……」

 

「い、言うな!言ったら殺すぞフタミヤ!二人だけの内緒だって言っただろ!」

 

 

 

予想したとおり七瀬は田中に手玉に取られている。

この短い間で自分程度でも七瀬のか弱さが判るのだ。

部長が運命づけられたような策謀の女に敵う筈もない。

 

きっとお互いに秘密を分け合おうとか言われて自分だけ言わされたのだろう。

 

 

 

「ところで田中先輩、山田先輩たちの卒業旅行は御存知ですか?」

 

「聞いてないわね。そっか、何をコソコソしてるのかと思ったらそんな事か。」

 

「どうもウチのお兄ちゃんと与那覇先輩とで行くそうなんです。」

 

「そりゃまた珍しい顔ぶれね。ゾナハくんはともかくゴンさん空手部でしょ。」

 

「それが、ちょっと込み入った事情がありまして、実は…………」

 

 

 

ここで全ての事情を打ち明ける奈々。そこでふと思った。

 

考えてみれば自分の兄のわがままから始まった卒業旅行の話である。

自分の兄が山田を教えろと言い出さなければ彼らは何もしなかった筈。

ちょっとマズッたかも、と彼女は泣き虫の大女を見る。しかし意外な光景。

 

なんだか少し目じりが下がっており、口角も不自然にゆがんでいる。

 

 

 

「さっすが文化部にゾナハありね。よくそんな面倒を引き受けるわ。」

 

「まったくだよ!ゾナハのヤツ、もっと嫌なものは嫌って言えないとイカンな!」

 

「でもさ、そういうのも人間的な魅力なのかもしれないわよフカワ。」

 

「え?いや、まあ、確かにゾナハに人間的な魅力が有るか無いかって話だと……」

 

「ゾナハくんって頑張り屋さんだしさ、意外とモテちゃうかもねー。」

 

「馬鹿!それは秘……いや、モテないだろ。チビだし、可愛いし、真面目だし。」

 

 

 

真っ赤になりながら権田原をチロチロと見て咳払いをする七瀬。

奈々にはわかる。奈々でなくてもわかる。むしろ七瀬以外わかる。

彼女は田中に意中の人を告白したのだ。

 

この正直すぎる先輩に友人がいれば全員わかっただろう。

 

 

 

「で、どうしよっか。別に放置でも良いけど、確かになんかシャクだわね。」

 

「や、やっぱ、やめさせるべきじゃねえかと思うよアタシ。」

 

「それが良いですかねー。元はといえばお兄ちゃんのワガママですしねー。」

 

「いや、別にアンタのお兄さんが悪いって事じゃなくてさ。」

 

 

 

双葉はこの旧友がお気に入りだ。実際に美術部の後輩女子からも人気があった。

亮子は実はとある学校関係の有力者の御令嬢であり、決してお安くないのだ。

しかし当の本人は口調が荒いが根がいい人。男装の麗人的な雰囲気がある。

 

女子ばかりの部活である。こういうタイプはある種の人気が出る。

 

 

 

「じゃあさフカワ、一緒に行っちゃおっか。」

 

「どこに?」

 

「鈍いわね。バランスとって女子も3人追加ってことよ。」

 

 

 

脳内に情報が錯綜する七瀬亮子。

 

泊りがけ。与那覇の企画した旅行。ゆられる電車で一緒にいる自分。

昼もあれば夜もある。浴衣に着替える二人。一つの布団。二つの枕。

正座して向かい合う彼と彼女。そっと引かれる電灯紐。暗転する場面。

 

少々古臭いイメージと思われるかもしれないが、彼女は本気だ。

 

 

 

「いや、いやいや、マズイって!旅行ってお泊りだよ?男子と?」

 

「やっぱそれが良いですよね田中先輩!私も行きたいです!」

 

「ちょ、アンタまで何言ってんのさ!間違いでもあったらどうすんだ!」

 

「じゃあさフカワ、誰が間違いを起こすの?だって山田クン私の旦那よ?」

 

 

 

彼女の妄想力は激しい。

 

浴衣に着替えた二人。他愛もない会話が上滑りし、やがて止まる。

しかしそこで聞こえ出すのは隣の部屋で獣の様に雄叫びをあげる山田と双葉。

顔を上げると興奮した与那覇。泣きそうな表情で自分に覆いかぶさる。暗転。

 

 

 

「だめだめだめ!この子はどうすんだフタミヤ!まだ子供だぞ!」

 

「えっと、私はお兄ちゃんがいるから大丈夫ですよ。」

 

「そうすると間違いをおこすのって誰と誰かしら。ねーフカワ?」

 

 

 

球状に膨らんでいる自分の下腹部。そこを優しく撫でる与那覇。微笑む自分。

周囲には既に5人ほど小さな子供がいる。暴れたりケンカしたりしている。

そして自分の左手薬指には質素な銀色のリング。無論彼も同じものを持つ。

 

 

 

「無い無い無い!ありえないってフタミヤ!そんなに産めないアタシ!」

 

「何を産む気よ。ま、フカワが大丈夫なら問題ナシじゃない。」

 

「でも田中先輩、どうやって潜り込む気ですか?」

 

「ふっふっふ、部長ってのは不可能を可能に、可能を栄光にするのよ。」

 

「あれ?可能は絶対にするんじゃ?」

 

 

 

これはミスである。可能を栄光にすると淫行で二股で神主になってしまう。

 

そんな地口はともかく、田中双葉は策を用いた。いや、弄したと言っていい。

特殊な人間が数多く登場する本シリーズだが彼女も決して他に引けをとらない。

彼女は実に頭が良い。成績が芳しくないのは、単純に山田が絡まないからだ。

 

田中双葉は、小学六年生から山田の為だけに全てを捧げてきた、というだけである。。

 

 

 

 

 

 

 

一方、山田の古巣となった映研でもちょっとした騒動が起きていた。

山田前部長は田中双葉とハッピーエンドとなり大団円という認識だった。

もちろん事実も大して変わらない。しかし不用意な双葉の情報が波紋を呼んだ。

 

山田が浮気をしている。『可能性がある』という部分は何故かもう無い。

 

 

 

「いや、やっぱそうなるかなって気がしてたわ私。」

 

「―――でも、田中先輩って、そんなの見逃すような人じゃない。」

 

「たぶんないかなー、きっと遊び友達が出来たとかじゃないかなー。」

 

 

 

アニメ班班長の阿形、副班長の石川、実写班カメラ担当の宇佐美が懇談していた。

この女性陣は山田の引退後に映研の実行部隊として中核となっていた。

もちろん映研には部長の一之瀬、副部長の二宮、会計の三狩屋がいる。

 

しかし彼らは山田の引退以降、部に対して積極的な関与をしなくなっていた。

 

 

 

「ねー、榎本くんどう思うー?山田先輩のことー。」

 

「石川の言うとおりだと思う。あの山田先輩が出し抜けるわけねえ。」

 

「でもさ榎本、田中先輩だって目は二つだし頭は一つよ?」

 

「あやしいもんだぜ?尻尾と羽根くらい付いてそうに見えるがな。」

 

 

 

ちなみに部長補佐の尾崎はいない。同学年ながら尾崎の出席頻度はあまり高くない。

 

彼女の行動原理は一之瀬雄大だけに向いている。何物にも変え難いのだ。

登校こそしてはいる。昼休みには同じクラスの石川と権田原とで食事する。

しかし放課後には鬼のような形相で学校を飛び出す。一之瀬の元に向かう為に。

 

 

 

「仮に山田先輩に浮気相手がいるとしてさ、どんな人がお似合いかな。」

 

「うーんとねー、やっぱ似たもの同士とかじゃないかなー。」

 

「―――確かに、足りない部分を求めると、田中先輩になっちゃう。」

 

「じゃあ身長180で体重75くらいか。すっげえでけえ女だな。」

 

「なんでいきなり同じガタイになるのよ榎本。発想がおかしいわよ。」

 

 

 

後輩たちは想像する。

不自然な髪型、大柄な榎本に比肩する図体。いつも笑顔。黒縁の眼鏡。

 

意外と女子にしても面白いかもと考える石川。

さすがにコレを女子だとは想像できない阿形。

鍛え方次第では女子最強だなと納得する榎本。

確かそんな人が三年にいたと思い出す宇佐美。

 

四人はケント紙を広げ山田の浮気相手イラストコンテストを始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田の部屋では田中双葉、権田原奈々、七瀬亮子の三人が部屋主不在のまま談笑していた。

 

私服の双葉と違い、奈々と亮子は無論学生服だ。受ける印象は真逆だが。

奈々は短く織り込んだスカート、輪郭を整え結ぶリボン、皺の無い清潔なブレザー。

亮子は無改造スカートにジャージ、右側によれたリボン、フケが散在する皺だらけのブレザー。

 

かなり特殊な性癖でも無い限り、どちらが男女共に好意を持たれるか明らかだろう。

 

 

 

「でさフカワ、今いくつになった?」

 

「18だけど?」

 

「そんなの判ってるわよ!同い年じゃない!サイズよサイズ!」

 

「去年から変わらないけど。183だよ?」

 

「誰が身長を訊いてるのよ!このゾナハタンクのサイズを言えっての!」

 

 

 

双葉が亮子の後ろに回りこみ、脇の下から手を差し込む。

その両手は亮子の胸元にある立派な御持ち物を下側から捧げ持った。

赤面して逃げようとする七瀬。しかしガッツが足りない。

 

ちなみに七瀬嬢の赤面している理由は乳房を持たれているせいではない。

双葉が命名している自分の御持ち物への愛称から妄想した為である。

 

 

 

「ば、ばっかじゃないのフタミヤ!?自分のオッパイ測るヤツいないだろ!」

 

「言っとくけどフカワ、私は毎日計ってるわよ。」

 

「いやー、毎日はしませんけど、お洋服買う前くらいには。」

 

「服とかキングサイズ買っておけば大体合うじゃん。太っても困らないし。」

 

「自分のサイズ知らない大女とか嫌われるわよ。」

 

 

 

双葉はそう言い放つと、七瀬亮子の鼻先に人差し指をビシリと当てる。

不安になり視線を泳がせて、やがてつい最近知り合った二才年下の少女を見る。

少女は苦笑いを浮かべながら、はっきりと首を縦に振る。どうやら真実の様だ。

 

 

 

「べ、べつに嫌われてもイイし!ていうか興味ないし!」

 

「そーかー、フカワも人生諦めたか。それもまた人生か。ふんふん。」

 

「え?!ちょ、ちょっと、人生諦めるって、どういうこと?」

 

「もし好きな相手が運命の人だったらさ、諦めたらそこで試合終了よ?」

 

 

 

暴論である。運命の人という特別な種族は存在しない。

最高の相手と幸福な人生を送れるかどうかは、行動と相性と確率である。

ナンパしても得られるし、見合いでも得られる。確率は若干低くなるが。

 

 

 

「じゃあ何?アタシがサイズ測れば運命の人と結ばれるってのかよ。」

 

「この女性学者の双葉さんが予言するわ。間違いなくハッピーエンドよ。」

 

「そ、そうなのかフタミヤ?!嘘だったら怒るだけじゃ済まないよ!」

 

 

 

もちろん双葉は本気ではない。もっと言えば女性心理学者ですらない。

さらに言えば学者が予言をしているところでツッコミどころが満載だ。

ちなみに以前、彼女の実弟も同じ方法で親友をからかっている。

 

 

 

「そ、それなら、その、サイズくらい測ってもいいかも……」

 

「よっしゃ!昔っからフカワのサイズ知りたかったのよね!」

 

 

 

権田原は確信する。これは単に田中前部長の興味本位。

恐らく本当に友人の相談に乗ろうなどとは微塵も考えていない。

それが証拠に、その表情は底意地の悪そうな微笑しか見えない。

 

そして目の前の泣き虫の大女は人が良すぎる。全く躊躇しない。

まるで自室のように自然に脱ぐ。言われるがまま。下着も全て。

いかに女しかいない部屋とはいえ、全裸だ。しかし疑いの表情は無い。

 

 

 

「でっか!こんだけあったら自慢できるわよフカワ!」

 

「別に自慢するためにぶら下げてるわけじゃないよアタシ。」

 

「てか、ノーブラなんですね七瀬先輩。こんだけ大きいのに。」

 

「だって付けると苦しいもの。」

 

 

 

身長183cmは圧倒的な存在感である。男子でもそうはいない。

例えば山田の所属する映研男性陣は、かなり高身長が揃っている。

山田は181cm、榎本は182cm、三狩屋は180cmである。

 

ちなみに一番小さい男子は一之瀬で160、次に二宮で165である。

 

 

 

「うわ、私のメジャーって100以上測れないんだけど。どんだけよフカワ。」

 

「安物使うからだよフタミヤ。」

 

「ふつう女子のサイズ測るのにメーター越えとか要りませんって、七瀬先輩。」

 

 

 

しかしそれ以上に七瀬亮子から圧倒的な存在感を放つのが胸である。

足りない分を指で押さえて測り、その威容が正確に判った。

トップ103cm。アンダー78cm。少々アンダーが大きいのは体格のせい。

 

 

 

「これってEくらいですかね田中先輩。」

 

「ちがうわよ。差が25だとGよ。グラビアもビックリだわね。」

 

「でさでさ、これでその、どうするんだよ。」

 

 

双葉は相変わらず親友の採寸に夢中だ。ウェストやヒップも測っている。

手元のスマホに器用に打ち込みながらの作業姿は、何かの職業人にすら見える。

そしてたまに何故か音の出ないカメラ機能で、色々と撮影さえしている。

 

 

「相手に言うのよ。私は103ですって。」

 

「???????それ言うとどうなるんだよ。」

 

「言うだけでいいわよ。そんでイチコロよ。賭けてもいいわ。」

 

「い、イチコロ?!言うだけで?だってただの数字だよ?本当に?」

 

「健康男子だったら土下座してオッパイ触らせてくださいって言うわよ。」

 

 

 

目の前で展開されている泣き女の凶悪な持ち物に圧倒される後輩。

普通に考えればこのサイズを拘束具なしでぶらつかせている現状自体が異常だ。

学校指定のシャツは飾り刺繍が若干施されているとはいえ色自体は白地である。

 

ブレザージャケットを脱げば向こう側が、うっすら以上に透けるはずである。

 

 

 

「でもさフタミヤ、男どもが全員オッパイが大好きじゃないだろ。」

 

「うーん、まあ、ホモとかロリだったらダメかもね。でも大丈夫でしょ。」

 

「なんで大丈夫って言えるのさフタミヤ。ダメかもしれないだろ。」

 

「大丈夫、参考資料があるから。ちなみにこれゾナハくんも持ってるわよ。」

 

 

 

出てきたのは東京湾岸のイベントで山田くんと与那覇くんが出会った時の資料。

三国志キャラが女性化された同人誌であり、巨乳キャラしかいない作品だ。

戦闘力がバストサイズという凶悪な本であり、関羽と張飛が表紙を飾っている。

 

ちなみに関羽は97で張飛は98。呂布ですら100である。

 

 

 

「アタシこんなに大きくないから!無理だよこんなの!」

 

「3Dモデリングすればフカワ以下よ。自信持ちなさい。」

 

「ですねー。男子向けコミックって誇張入りますからねー。」

 

 

 

事実である。どう見てもこれは120cm以上だろと思えるものが多い。

というより、人類に見えないものが多い。それは一種の伝統芸能ともいえる。

この業の深さは手塚治虫に起因するが鬼籍に入った人を責めるのも酷だろう。

 

 

 

「しかし、その、なんだ、ゾナハってこういうのも見るんだな……」

 

「当り前じゃない。山田クンだって見てるし。ヤリたい盛りだしね。」

 

「これって挟んでますよ田中先輩!挟んで何が楽しいんですかね!」

 

「これこれ、仮にも年頃の女子がそういうの言わないの権田原さん。」

 

 

 

またも七瀬女史の妄想が始まる。しかし詳細描写は割愛する。

本シリーズ伝統である『タグの問題』である。ゆるされたし。

 

 

 

「で、でもさ、仮にゾナハだとしてもだけど、触ってこなかったよ。」

 

「そりゃどうせ部室だったんでしょ。どこで盛らせる気なのフカワ。」

 

「部室でオッパイ挟みだしたりしたら、ウチでも停学くらいますね。」

 

 

 

都立国立国分寺立川高校は校則が緩めである。安全面以外はザルである。

制服を加工している女子は多い。リボンの結び方に至っては流派は多様である。

しかし暴力行為やイジメは厳禁だし、もちろん不純異性交遊は禁止されている。

 

 

 

「とにかく仕舞いましょうか七瀬先輩、少々落ち込んできました私。」

 

「そうねー。ここは最終防衛ラインらしいからちょっと危険かもね。」

 

「は?!なんで防衛してるのさフタミヤ。ただの住宅地じゃないか。」

 

 

 

そう、ここは最終防衛ライン。山田次郎の秘密が満載なのだ。

本来なら学友にすら存在は秘匿されており、部員でも知るものは少なかった。

映研部室騒動で仮部室として使用されていなければ、ずっとそうだった筈だ。

 

少なくとも部屋主である山田次郎にとって、その認識は今も続いている。

 

 

 

「また来ていたのか田中双葉!いいかげん外交ルートを通してだな……」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

 

部屋主は山田次郎である。そのベッドも、ガラステーブルも彼のものだ。

当然ノックはしない。ドアも施錠装置こそあれど通常は解放されている。

普通にドアは開け放たれる。当然中に入る。ろくに確認もしない。

 

一般的に自分の部屋で見知らぬ大柄の女子が全裸になっているとは考えない。

 

 

 

「こんにちは。えっと、確か君は美術部の権田原さんだったよね。」

 

「はい、こんにちは。あの時はお世話になりました山田部長。」

 

「ははは、ウチはもう引き継ぎ終わったからね、部長は余計だよ。」

 

「こんにちは。たしかイチローの腰巾着の山田、だったよね。」

 

「うむ、いかにも俺は腰巾着の山田だ。君は七瀬亮子君だったね。」

 

「へー、山田ってアタシのこと知ってたんだ。ちょっと意外。」

 

「知らいでか、鈴木先輩から美術部ナンバー3だと聞いてたしな。」

 

 

 

鈴木一浪は美術部の動向には詳しかった。もちろん敵対部としてだが。

美術部の双璧である田中姉妹のことはもちろんだが、その後輩もである。

推薦枠で入部した富井、田中双葉に匹敵する画力の七瀬も把握していた。

 

 

 

「ねえねえ、山田クン、世間話も結構だけど言うべきことは無い?」

 

「わかっている、馬鹿にするな田中双葉。これでも常識は弁えている。」

 

 

 

山田は二度ほど咳払いをして、膝を手で叩きながら足を折って座る。

もちろん本来ズボンでは必要はない。袴穿きの際にやる所作である。

正座の姿勢になった彼は、ゆっくりと胴を前に倒して両手を地につける。

 

 

 

「すまない七瀬亮子!まさか全裸だとは思わなかった!」

 

「ええと、フタミヤ、アタシどうすればいい?」

 

「蹴っとけば?」

 

 

 

蹴った。

 

ちなみに彼女は日本拳法の有段者である。その部分だけでも威力は相当である。

しかも彼女は身長も高い。体重もそこそこはある。当然だが威力は増幅される。

ちょんと彼の顎を軽く蹴り上げる。そして横からの猛烈な蹴打。脳震盪は必至だ。

 

その際に山田は彼女の下半身を下から余すところなく見ることになるが、意識はとんだ。

 

 

 

「意外と冷静じゃないのフカワ。叫ぶんじゃないかって思ってた。」

 

「山田はフタミヤのだろ?アタシのオッパイ興味ないと思うけど。」

 

 

 

権田原奈々は把握する。

 

この先輩はウブすぎるのだ。自分の女子力に全く理解を持っていない。

だから髪型も、肌のお手入れも、おざなり。魅力を感じていないのだ。

普通に考えればノーブラなら透けて見えるかもと考えるはず。それもない。

 

 

 

「とにかく着替えましょう七瀬先輩。山田に襲われますよ。」

 

「そしたらまた蹴るけど。」

 

「うーん、これ以上だと山田クン壊れちゃうから駄目かな。」

 

「確かに、それもそうか。」

 

 

 

山田は数分後に目を覚ます。

 

目の前には全員着衣の女子三人組。自分の見た光景が夢では?と考える。

しかし、首のあたりから発する鈍痛が現実だと告げる。よみがえる光景。

だが山田の劣情は湧き起らなかった。彼の好みはキングサイズではないのだ。

 

以前に全裸を垣間見た浴室での一件をふと思い出し、そっと双葉を見る。

視線に気付き、服の上から胸元を押さえる彼女。ジェスチャーであり意味は無い。

非難めいた表情でもない。眉を逆八の字にした、困り気味の笑顔である。

 

目も前でつい先ほど見た全裸より、田中双葉との思い出に彼は興奮した。

結論が出る。自分は七瀬亮子に興味が無いにもかかわらず、辱めたのだ。

 

 

 

「七瀬亮子、この山田次郎は最大限の謝罪をする用意がある!」

 

「そ、そうなんだ。」

 

 

 

七瀬亮子は困惑している。想い人ならともかく山田に見られても何も感じない。

元はといえば、ここは山田の部屋だし勝手に服を脱いでいたのは自分たちだ。

怒り出しても良さそうなもの。なんで土下座を続けているのかがわからない。

 

ここで田中双葉の独特の嗅覚が働く。二人の表情から一気に策謀が動き出した。

 

 

 

「山田クンさ、旅行行かない?」

 

「な、なんだ田中双葉、急に。」

 

「ただの旅行じゃないわよ?人生で一回限りの『卒業旅行』よ。」

 

 

 

山田は驚愕の事実に直面する。卒業旅行が一回限りだと今知ったのだ。

もちろん嘘である。旅行にそんな縛りはない。ただの親睦目的のイベントだ。

たとえ新婚旅行であっても、互いの認識次第では何度だって行って良いのだ。

 

 

 

「いや、その、実は、卒業旅行には、その、先約が……」

 

「ふーん?よその女のオッパイ見といて断るんだ?」

 

「あ、いや、双葉さん、決してそういう訳ではなくてですね……」

 

 

 

山田は葛藤する。

 

山田は与那覇と約束している。卒業旅行に権田原と三人で行こうと。

楽しく遊び、友情を確かめ合い、卒業の憐憫を分かち合う光景が浮かぶ。

確実に彼の夢見ていた青春の1ページ。それを裏切れるはずもない。

 

 

 

「この腕がほしければくれてやる!だがその要求は呑めん!」

 

「じゃあさ、もしその大根が欲しいって言ったらどうする?」

 

「ぐぬぬ。」

 

 

 

山田は大根の意味するところを把握している。彼の急所である。

おそらく失えば男子の尊厳は物理的に失われる。それは避けたい。

しかし友との約束をたがえれば、男子としての矜持が失われるだろう。

 

土下座の姿勢をいっそう深くし、山田は決意する。

 

 

 

「この程度のものなぞ、千切ってくれてやる!それで満足か田中双葉!」

 

「いや、なんで千切るのよ。」

 

「ならば捨てるなり勝手にするがいい!この山田次郎、友は裏切らん!」

 

 

 

権田原女史は心中での苦笑を隠し切れず、笑みを浮かべてしまう。

 

きっと田中先輩は山田との肉体関係を示唆しているはず。

しかし山田は、物理的な局部の破壊を示唆しているのだ。

この茶番は見ていて楽しいが、そろそろ誰かが幕を引く必要がある。

 

 

 

「山田先輩、お兄ちゃんと一緒に卒業旅行に行くんですよね?」

 

「お兄ちゃん、だと?……そ、そうか!君は、権田原くんの妹君なのか!」

 

「苗字同じなんだし普通はそっちが先に来るでしょ山田クン。」

 

「いや、全く似ていないじゃないか。単なる同姓の方がむしろ自然だろ。」

 

 

 

これには七瀬が首を縦に振って同意する。

 

七瀬も権田原兄のことは知っていた。同じ日野の住まいということもある。

それ以上に日野の権田原といえば空手の有段者で全国大会にも出ている男だ。

日本拳法と空手とは同類項ともいえる。その情報は彼女の耳にも入るのだ。

 

しかし、大柄で角ばった顔が権田原勇一。目の前の可憐な少女が権田原奈々。

 

 

 

「しかし旅行の幹事は俺ではない。勝手にそのようなことは……」

 

「そこをなんとかしなさいって言ってるのよ山田クン。」

 

「しかし特別な理由ならいざ知らず、女子を旅行に招くなど……」

 

「何度も言わないわよ山田クン。YESかNOか、よ。」

 

 

 

田中双葉は山田の急所と言ってもいい。色々な意味で弱いのだ。

彼の秘密はほぼ知られている。周囲の人間すべてが彼女の味方である。

それに目の前の黒髪カチューシャの眼鏡少女が、山田は大好きなのだ。

 

 

 

「だが断る。この山田次郎、田中双葉のお願いは『NO』と断ってやる事にしている!」

 

「なんでだよ。フタミヤのこと好きなんじゃないのか?」

 

「ば、馬鹿を申せ!確かにヤツは美人だし有能だし体つきも最高だがな、品性下劣だ!」

 

 

 

田中双葉は思案する。もう山田の浮気の可能性は消え、無論ホモでもなかった。

本来ならここで勝手に旅行に行かせて終わりである。何ら憂慮することも無い。

しかし、この田中双葉には覚悟がある。山田の為に進むべき道を切り開くべきである。

 

その為には犠牲は厭わない。自分以外であれば尚更である。

 

 

 

「私、下品なのは山田クンに対してだけよ?卒業旅行だって普通の理由だしね。」

 

「信じられん。どうせ俺をからかっているだけだろう。」

 

「もう、しょうがないなあ山田クンは。これ秘密なんだけどね、ごにょごにょ。」

 

 

 

土下座をする山田の傍にかがみこんで耳元に口を寄せる田中双葉。

山田はその際にスカートの隙間のグレーの布地を垣間見てしまう。

動悸のおさまらぬ彼に、さらに驚愕の事実が襲う。七瀬を凝視する山田。

 

 

 

「本当なのか!七瀬亮子は与那覇くんが大好きってのは!」

 

「ちょ、大声で言わないの山田クン。」

 

「馬鹿ぁぁぁぁぁ!おまえナニ教えてるんだよフタミヤ!」

 

 

 

山田は凝視をやめない。そして先ほどの光景を脳内に再生する。

規格外の胸元、すこし肉付きのいい腹回り、張り詰めたふともも。

そして山田は与那覇からの不可思議な依頼のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

与那覇との準備の際に、山田は彼から不可思議な依頼を受けた。

 

 

 

「その、ちょっとオリキャラ出したいゾナ。山田氏に頼めるゾナ?」

 

「あったりまえじゃないか与那覇くん。キャラデザは得意だぞ!」

 

「そ、それは重畳ゾナ!でな、指定はこんな感じで……」

 

 

 

ニキビのソバージュヘア。少し不潔でだらしない。胸がとにかくでかい。

よく鼻汁を出して泣く。笑顔が少し不自然。なんでかいつもノーブラ。

スカート下にジャージ。身長183。くつしたが長く使いすぎてヨレヨレ。

 

 

 

「これすっごいキャラ付けだな与那覇くん。萌えキャラとは真逆だな。」

 

「いや、かなりかわいいと思うゾナが……」

 

「しかし関羽萌えの与那覇くんらしいかもな。もっと関羽は可憐だが。」

 

「いや、けっこう可憐だと思うゾナが……」

 

「まかせておけ与那覇くん。だが、多少は美化しないとキビシかろう?」

 

「いや、美化とか全く必要ないゾナが……」

 

 

 

こうして山田は56秒もの時間を用いてキャラデザを完了した。

 

山田自身は非常に不本意であったが、彼の指定通りのオリキャラが完成する。

ノーブラなら乳頭突起はどうするかとの問いに、与那覇は必要ないと答える。

出来上がったのは何ともアンバランスな体形をした、笑い泣きした大女。

 

 

 

「ち、ちなみに、ヌードは描けそうゾナ?」

 

「うーん、描けなくはないけど僕もそこまで詳しくないんだよね。」

 

「き、聞かなかったことにしていいゾナ。」

 

 

 

満面の笑みを浮かべていそいそとオリキャラを鞄にしまう与那覇。

目の前の友人の満足そうな表情に、自分の腕前を再確認する山田。

そして性癖とは人それぞれであるなあと感慨にふけっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど!だから乳頭は立たせないで良かったのか!」

 

「は?」

 

「いや、与那覇くんが指定してきたんだよ!ノーブラなのに不要だって!」

 

 

 

山田は互いが片思いであることを知らない。

 

きっと七瀬は与那覇のことは知っているだろう。女子とは常に男子を手玉に取る存在。

彼は与那覇からの依頼のことも何ら隠すこともなく全て七瀬に伝えていった。

そして彼女の乳頭が陥没していてシャツから目立たないことも伝えた。

 

驚いたのは女性陣。乳頭の一件は全然気にしていなかった。本人すら。

 

 

 

「そ、そうか、ほかの人は出てるんだ。」

 

「田中双葉はかなり出ていたな。」

 

「そうねー、山田クンの前だと特にね。」

 

「私はそこそこですかねー。」

 

 

 

和やかに談笑する四人。一種異様な光景ともいえる。

そして山田は思考する。与那覇の想い人。それが旅行に同伴したいという。

あの、人の良いコン研部長の幸福に自分が一役買える。それが嬉しいのだ。

 

 

 

「任せておきたまえ七瀬亮子!恋の成就、この山田が必ず約束しよう!」

 

「ほ、ほんとに?!」

 

「映研部長に二言は無い!部長は不可能を可能に、可能を栄光にする!」

 

「あれ?絶対にするんじゃ?」

 

 

 

これはミスである。可能を栄光にすると拉麺とつけ麺がイケメンになってしまう。

 

こうして女性陣は見事山田を篭絡(?)し、卒業旅行の同行への橋頭保を確保した。

しかし旅行はいまだ始まってすらいない。与那覇が本当に許すのかも定かではない。

どうなる卒業旅行!どうする山田次郎!

 

この後の展開は次回以降のお話へと……

 

 

つづく。

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