究極大英雄の山田次郎かく闘えり!   作:うぃっちべーす

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第四話『山田くん深謀を遠慮す』

 

 

 

山田次郎は駄目な男である。

 

大風呂敷を広げて仕切ってはみたものの、自宅に着くや否や後悔をした。

山田は元々マンガにはそこまで詳しくない。部屋に有るのは雑誌のみだ。

鈴木の言うがままに訓練され技術と知識のみを貯めていったに過ぎない。

 

 

 

「パクろう!なんか適当にパクってしまおう!やっぱりそれしかねえ!」

 

 

 

彼の家に有るパソコンは一台。しかも居間にあり全く遊びには使えない。

寝静まるのを待とうにも彼の家は自営業。仕事をするのに遅くまで使う。

更に忘れがちだが彼は受験生である。家族に協力を仰ぐ事すら出来ない。

 

全てが山田次郎のパクり作業を阻害する要因となっている現状であった。

 

 

 

「いや待て、マンガアニメじゃむしろバレる!何か、何かあるはずだ!」

 

『次郎、まだ起きてるのか?明日も学校だろ、いい加減に寝ておけよ。』

 

「了解でゴザるマイファザー。切りの良き所にてベッドインいたし候。」

 

 

 

彼の家は少し広めの普通の一軒家。父の居間は一階で子供部屋は二階だ。

山田はガタイが大きくて肺活量もそこそこ有るので独り言の声が大きい。

あがり症で吃音癖がある上に大声という、ちょっと困った男の子なのだ。

 

 

 

「面白い本なかったかな。いや、つまんなくても設定になりそうな……」

 

 

 

彼の部屋の本棚には意外と本自体は有る。文学、随筆、古典、新書等々。

全てお下がりで、山田の兄は弟たる次郎よりも親に期待されていていた。

ちなみに山田(兄)は、高校時代にアニメ狂いになりつつも大学を卒業。

 

理工系に進んだ兄は電機メーカーのシステムエンジニアとして寮にいる。

 

 

 

「そーだ、兄貴のマンガどっかあったよな。ちょっと探してみるかな。」

 

 

 

しかし出てくるのは、兄の大学時代の講義ノートと論文ばかりであった。

彼の兄は就職まで出来るだけあってクレバーである。リスクには敏感だ。

将来に禍根を残すであろう黒歴史は既に全て焼却処分をされていたのだ。

 

山田くんは残った兄のノートをペラペラとめくり始める。無論絵は無い。

計算と記号がこれでもかと並べられたページは、彼に頭痛を起こさせる。

唯一理化学史の歴史資料の部分だけが文系の彼に理解できる所であった。

 

 

 

「戦後理化学産業史、か―――――まてよ、もしかして、これなら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、山田次郎は部室にいた。部員達は部長を取り囲んでいた。

もちろん山田次郎をターゲットとした集団リンチ行為などではなかった。

部長は大きな紙を何枚か机の上に広げている。部員達はそれを見ている。

 

 

 

「ちょっと昨日考えたお話なんだが、一枚二枚じゃ書ききれなかった。」

 

「センパイ、確かに早く作ったほうが工程は助かるっスけど、大丈夫?」

 

「ニノ、とにかく話聞こうぜ?大筋さえ決まっちまえば何とかなるさ。」

 

「じゃあこれから説明するから、とりあえずは最後まで聞いててくれ。」

 

 

 

ここから山田次郎の考えたストーリーをご覧いただこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は近未来。

近隣諸国との領土問題は発展し続け、日本は残念な事に戦争に突入した。

朝鮮は韓国に併合され、統一韓国は中国と連合して日本に武力侵攻した。

沖縄、九州の離島部が制圧され、韓国は新潟、中国は九州から上陸した。

 

しかし自衛隊は即座に反応し新潟の橋頭堡から統一韓国軍を押し返した。

それを見届けた米軍は沖縄駐留軍が九州の中国軍に空爆を行い殲滅した。

 

本土攻撃により大義名分を失った中韓は、国連動議と国際非難を浴びた。

特に中国の立場は劇的に悪化し、不滅の筈の国連安保理常任席を失った。

国境線は維持ながらも、被害を受けた国土復帰経費を受けもつ事となる。

もしも前世紀的な言い方をするなら、いわゆる賠償金というやつである。

 

このあと半世紀、日本に特需が続く。全ての産業がその特需を享受した。

 

そして東京都は大東京都と名を変え、そのハイパー特需の中心地となる。

平和とは武力抜きには語れない、しかし武力は技術力抜きには語れない。

国家プロジェクトとして技術者の育成を目的とした特殊学校が誕生した。

 

立川飛行場跡に建てられた大学園都市、その名は大国立国分寺立川学園。

エリートを日本中から集めて更に研究開発以外に育成も行うという計画。

そんな計画が発足して実行に移ってから10年が経過した、そんな時代。

 

その学園に巨大な部活が誕生した。理化学研究部、通称理研部であった。

理化学に関する全てを網羅するその部活は偉大な頭脳を次々と輩出した。

そして、とある年の理研部に一人の天才が降臨する。その名は理科太郎。

何気ない思いつきは国際論文クラスで、彼の落書きで未解決問題が解明。

それを知った国家からは青天井で予算が注がれ、理研部は機密となった。

 

理科太郎は天才だった。そして天才ゆえに短命で卒業と同時に他界した。

 

彼に付いた後輩達もやはり『高弟』と呼ばれ、その頭角を現していった。

そこに悲劇が起きる。理科太郎卒業を期に高弟たちは反目を始めたのだ。

生物班、物理班、化学班。理研部は3班に分断され、別々の部となった。

 

死んだ理科太郎には一つの夢があった。それは無敵兵士の開発であった。

 

生物部部長の『生物太郎』は強靭な昆虫から人間を作る計画を。

物理部部長の『物理太郎』は機械による人造人間を作る計画を。

化学部部長の『化学太郎』は薬品による強化人間を作る計画を。

 

それは奇しくも同日に誕生する。

 

生物太郎はこう言った。『私の開発したものこそ至高である』と。

物理太郎はこう言った。『私の開発したものこそ究極である』と。

化学太郎はこう言った。『私の開発したものこそ絶対である』と。

 

そして彼らの不毛な戦いが、今はじまろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうよ。一日で考えた割には結構壮大だろ?いかがかな皆の衆。」

 

 

 

不敵な笑顔で周りの後輩たちの表情を眺める山田。勿論、内心は不安だ。

後輩たちはそれぞれ複雑な表情を浮かべている。だが、何故か黙る後輩。

泣きそうな部長に苦笑いを浮かべながら、まず二宮が小さく手をあげる。

 

 

 

「いや、まぁ、そうスね。アレンジ効くし悪くないとは思うんスけど。」

 

「うんうん、そ、その、やっぱり、ちょっとアリガチって感じかな?!」

 

「いや、まぁストーリーしては別に悪いってワケじゃあ無いんスけど。」

 

 

 

山田の心にジワジワと不安が満ちてくる。二宮は普段も遠慮はしない男。

そんな彼が、何故か今日に限っては遠慮するように話の語尾を濁すのだ。

そこで山田は一之瀬に眼を合わせる。彼は非常に正直だ。彼ならきっと。

 

 

 

「こういう大風呂敷って俺だいすきだぜ!対決ってヤッパ燃えるしな!」

 

「だ、だよね!?お話の見せ場って、やっぱ対決があってこそだよね?」

 

「ただ、この話に全くマズい所が無いってわけじゃあ無いんスけど……」

 

 

 

煮え切らないように言葉を濁した一之瀬。まさかの一之瀬による気遣い。

しかも途中まで乗り気だったところで一気に評価を落とされてしまった。

山田は心中ボロボロになりながらも、最後の砦の三狩屋に希望を託した。

 

 

 

「学校が撮影で使えるし衣装も安く済みそうだし、いんじゃないスか?」

 

「そう!お金重要だよね!学園物って共感高いワリに低予算ですむし!」

 

「でもはっきり言ってネーミングが悪すぎ。全員に太郎は流石に無理。」

 

 

 

三狩屋は他の二人と違い、一切気を使わずに一言も言葉を濁さなかった。

そう、実際には彼らも一年生たちも、その事について言いたかったのだ。

歯に衣着せぬ正論にたどり着いた山田くんは、ガックリその膝をついた。

 

 

 

「日本人なら太郎だろが!じゃあ何か?俺の次郎も笑われていたのか?」

 

「いやそうじゃなくて、やっぱ御伽噺ってかフィクションには夢が……」

 

「なんだとぉー!俺と兄貴には夢も希望も無いのか!つまらんってか!」

 

「センパイのお兄さんって太郎なんですか。聞いてみたかったんスよ。」

 

 

 

次々と浴びせられる容赦ない攻撃にだんだんと体を沈めていく山田くん。

握り締めた拳で床を何度も叩き、眼にはうっすらと涙さえ浮かんでいた。

その場を取り囲む一年生部員の中で一歩引いていた石川嬢が声を上げた。

 

 

 

「―――3班の設定ですから、それぞれの班で練りこめばいいと思う。」

 

「ふぇ?!と、いうと?」

 

「―――だから、生物班はアニメ班でとか、映研の班ごとで決めれば。」

 

「ふむ、なるほどな……」

 

 

 

この瞬間に彼の人類最強の機能が動き始める。

それはもちろん、面倒を回避する計算である。

 

『任せれば名前だけでなくキャラクターデザインも頼むのは自然の流れ。

 アニメ班には阿形さんと石川さんがいる。絵心があるので任せられる。

 実写班は宇佐美さん榎本君で絵心が乏しいが、二宮君に頑張って貰う。

 問題は管理班だが、落書きレベルじゃアレだし俺がデザる事としよう。

 その分を考えても班ごとに設定を考えさせるのは、非常に有益かもな。』

 

計算の結果は、『非常に面倒が減る』と出た。

 

 

 

「凄い!凄いよ石川さん!見てくれ、これが出来る女の顔だぞみんな!」

 

「―――ちょ、な、なに言ってるんですか。」

 

「嘘じゃない!この山田、感服した!何ぞ望みでも有れば申してみよ!」

 

 

 

山田の悪い癖の一つに、人付き合いの微妙な距離感が判らない点もある。

見知らぬ人には声すら出ないくせに、少し見知ると随分と馴れ馴れしい。

喜びながら少女の両肩を手で掴み、唇が触れそうなほど顔を寄せていた。

 

苦々しい顔で少しだけ赤面しつつ、喜ぶ山田から視線を外す石川真理子。

その時、なぜか石川は阿形と目が合った。そして阿形嬢が目線を下げた。

石川だけに見えたその彼女の表情。石川の顔に悪戯めいた物が浮かんだ。

 

 

 

「―――それじゃ、山田先輩にお願いがあります。だけど無理かも……」

 

「カネもチカラも美貌も無いが努力と根性はある!とにかく言ってみ!」

 

「―――じゃあ言います。二宮先輩の班長兼任は無理、止めて下さい。」

 

「え、ここで人事批判?ま、確かに動き出してないから問題無いけど。」

 

「なー石川ちゃんさー、俺の心配なんざしてくれなくって結構だけど?」

 

 

 

当事者である二宮が、半目のシニカルな笑顔を浮かべて石川嬢に尋ねる。

だが石川も表情を崩さない。山田に向けた目線を二宮にスライドさせる。

 

大変なのは山田だった。与り知らぬ間に二宮と石川が睨み合いを始めた。

実は山田くんは暴力的な匂いがすると左手小指が硬直し声が出なくなる。

彼は二人を見ながら、皆に見えぬ様に恐る恐る左手の小指を曲げてみる。

 

 

 

『……曲がる!』

 

 

 

彼はこの能力で何度か危機を乗り越えている。

 

ヤクザが向こうからやってきても敵意が無いと判れば落ち着いて去れる。

逆に不良がやってきた時には手が固まり、即座に走り去って難を逃れた。

不良は近所でも評判で、暴行及び恐喝で事件を何度も起こしていた男だ。

 

山田のこの能力は、もはやサバンナの草食動物並みのセンサーであった。

 

 

 

「判った、俺も山田といわれた男。アニメ班の班長も俺が兼任しよう。」

 

「え、いいんスか?センパイって、確か一応大学受験はするんでしょ?」

 

「大丈夫だ二宮くん。映研は今年しか無いが受験はいつまでも有るさ。」

 

「おおー、さすがはセンパイだぜ!それでこそ俺らの映研ダマシイだ!」

 

「おいおい、『映研ダマシイ』受け継げるのかよイチ?次の部長だぞ。」

 

 

 

そんなこんなでワイワイと賑やかになり、その場が和みだす社会科教室。

山田の周りには相変わらず2年生が三人取り囲み、ゆるやかに談笑する。

 

ちなみに背が高めの山田は、食事や作業以外では単に立って話している。

そんな山田に目線を合わせたいのか、机上に座る茶髪の少年が一之瀬だ。

逆に椅子に深々と腰掛けて、後ろに束ねる長い髪を揺らすのが二宮氏だ。

そして三狩屋は、刈り上げ頭に付く程の肩持ちで手提の金庫を離さない。

 

いつもならそこを眺めるのが一年部員のお役目なのだが、今日は違った。

石川が円陣から山田の手を掴みだし、強引に自分の方へ引き込んだのだ。

 

 

 

「―――ほら、山田センパイ。キャラデザ始めないと間に合いません。」

 

「えぇ?あ、いや、そりゃそうだけど、別に今すぐじゃあなくても……」

 

「おー?なんだ石川ちゃん?もしかしてセンパイに惚れてちゃってる?」

 

「―――やめてください二宮先輩。それ以上馬鹿言ったら辞めますよ。」

 

「ば、馬鹿なんだ……そうだよね、俺に惚れるとか、馬鹿者だよね……」

 

 

 

山田の顔がだんだんと斜め下に下がっていく。二宮はそこで苦笑しだす。

彼の顔が下がっている時は放っておくと正座を始め、そして愚痴りだす。

しかもハンパな愚痴ではない。止めないでおくと6時間ノンストップだ。

 

 

 

「そうでも無いかも知れないぜ?実際は意外とモテるかもよセンパイ?」

 

「そ、そうかな?そうだよな!確かに俺にだってモテ期くらいあるか!」

 

「そうそう、幼馴染が好きですとか告白したりするんじゃねえかなー。」

 

 

 

後輩から出された助け舟に、満面の笑みを浮かべ乗船する山田センパイ。

そんな彼の素直な顔を見て相変わらずニヤニヤ顔を崩さずに茶化す二宮。

もちろん山田とて本気で信じているわけではない。心遣いが嬉しいのだ。

 

石川嬢は呆れ顔を崩さず、山田を阿形の横に連れてきて椅子に座らせる。

阿形はその時はっとした表情を浮かべ、すぐに無地のノートを差し出す。

そして新アニメ班班長たる山田次郎は、習性でノートに絵を描きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの班が動き始める。一番早く動いたのはやはりアニメ班である。

石川の積極的なアプローチが功を奏したのか、山田の速描が冴え渡った。

そして動き出せば結果を出すまでは山田の鉛筆は延々と動き続けるのだ。

 

 

 

「―――それで山田先輩、具体的に昆虫人間ってどんなのなんですか?」

 

「あー、俺が考えてたのは、学ラン着た女の子。昆虫ぽくなるでしょ?」

 

「―――学ランの女子を昆虫って無理ありません?強そうじゃないし。」

 

「だぶついた学ランの妹的な魅力、凶悪な破壊力のミスマッチさだが。」

 

 

 

山田次郎による女の子キャラクターの描き方にはある特定の法則がある。

 

お団子頭の女子の顔をまず描く。下に体のラインを当てポーズを決める。

そこに服を着せて細部を書き込んだ後、お団子頭から髪形を変えて仕上。

お団子頭を最初に描く必要が無いだろう、と思われる方も居るとは思う。

これは習性。兄から絵の描き方を教わった山田。その時の後遺症なのだ。

 

そして山田のイメージが完成する。白衣男と学ラン少女が描かれていた。

 

 

 

「―――これ、明らかに、小学生にイケナイ悪戯してる中年ですよ……」

 

「な、なんだとう?科学者ってのはこう、ボサボサヘアでメガネだろ!」

 

「―――判りました。それじゃボサボサで、眼鏡なら、良いんですね?」

 

 

 

山田の描いたのはイカニモなマッドサイエンティスト風の白衣男だった。

寝癖しかないような髪型、大きい口元、汚れた白衣に大きな丸いメガネ。

その手には毒々しい液体が入り煙の立ち上る、ビーカーと丸底フラスコ。

がに股で背は丸く曲げており、足元に何故かサンダルを突っかけている。

 

そして石川が描き上げたのはキラリと知性の光るSッ気を含む美少年だ。

髪型はボサボサというよりはアップバング気味のフレアカットであった。

左手に持つのはカルテ風のクリップボード、右手は眼鏡を押さえている。

もちろん脚はすらっと長く伸びており、足先も綺麗な革靴を履いている。

 

 

 

「こんなカッコイイ奴が世の中に存在するわけない!石川さん正気か!」

 

「―――いや、それなら、そのオジサンは、高校に通う前に逮捕です。」

 

「そ、それじゃあ阿形さんに聞こう。これどっちが主人公に向いてる?」

 

 

 

山田には勝算があった。ここ数日で判ったが、阿形は少年漫画を愛する。

それならば、イカニモなキャラは少年漫画風。きっと気に入る筈である。

しかし石川は冷めた笑みを崩そうとしない。その表情のまま阿形を見る。

山田の様に興奮して結果を待つ感じではない。既に知る情報を見る目だ。

 

 

 

「うーん……これはさすがに石川ちゃんの方が向いてるって思います。」

 

「な、なんで?!……俺?俺の人間的な評価がキャラを下げてるのか?」

 

「何でそうなるんですか!山田センパイの人間的評価とか関係なくて!」

 

「くそう、こうなったら美化して再チャレンジだ!見てろよ二人とも!」

 

 

 

再び無地紙を手に取ってゴリゴリと音を立てて絵を描き始める山田くん。

そして数分後に出来たのは小さい眼鏡をかけた背の高い白衣青年だった。

さっきと比べ髪の毛は少しボサついてる程度のショートウルフのパーマ。

少しだけ顎ヒゲも生えており、鼻先も小さくて目つきもかなり鋭かった。

 

男の子を描くのが嫌いな山田くんにしては、かなり美形に仕上げていた。

だが非常に残念な事に原型にしてる部分が全くもって見つからなかった。

怪訝そうな新入生の女の子たちの表情を見て泣きながら彼は逆上をした。

 

 

 

「ええい、少年大好き阿形さんが傍観とかありえんだろ!キミも描け!」

 

「そりゃいいですけど……そのかわり、見ても笑わないでくださいね?」

 

「いいや、笑うね!視界に入ったその瞬間には笑ってるね!爆笑だね!」

 

 

 

阿形は少し口を尖らせて赤面しながらもノートに向かい絵を描き始める。

その時に山田はとある異変に気づく。彼女のたてる音がいつもより静か。

山田もそうなのだが、彼女も以前には黒鉛を砕くほどに力を入れていた。

 

そして数分後、阿形は満足そうに息を吐いて砕けなかった鉛筆を置いた。

 

 

 

「おお?!こりゃあ笑うタイミングを逸したな。どう思う?石川さん。」

 

「―――あの、これ、ちょっとだけ、顔が長くないかしら?阿形さん?」

 

「えへへー、石川ちゃんの絵が羨ましくってさ、必死に練習したんだ。」

 

 

 

優しげな目元が覗く眼鏡、大人びた表情、白衣に少しだけ焦げ跡がある。

少し困ったような表情の下では学ラン姿の背の低い少女が甘えている姿。

主線が荒いながらも完成された一枚絵のストーリーを山田と石川は見た。

 

 

 

「石川さん、あのね、けっして贔屓とかじゃないんだ、けど、その……」

 

「―――判ってます。私、ちゃんと出来れば、別にそれで満足ですし。」

 

「なに言ってるのよ二人とも?こっからみんなでコンペするんでしょ?」

 

 

 

 

山田は鞄の中から画材箱を取り出す。これを山田は『七つ道具』と言う。

ピグマペン、スクールペン、筆ペン、消しゴム、そしてインクと鉛筆だ。

七つも無いじゃないかと思われるかもしれないが、いわば慣用句である。

 

そして画材以外にも道具が格納されている。その中の一つが判子である。

 

 

 

「はい、決定稿。アニメ班はこの阿形さんのキャラデザで脱稿とする。」

 

「えええええええええええええええええええええええええええええ?!」

 

 

 

決定稿判子。これは年に数度しか押されない非常に珍しいツールである。

アニメ班による生物部のデザインはこうしてなんとか固まりつつあった。

一方、二宮純が率いる実写班では一体どんな感じだったかといえば……

 

 

 

「エノー、お前が悪のロボットな。でさ、宇佐美ちゃんが悪の女王な。」

 

「え?悪ばっかりじゃないスか。俺らってイキナリ悪役決定なんスか?」

 

「わっかりましたー悪の女王ですねー。榎本くんー女王様とお呼びー!」

 

 

 

二宮のトップダウンによる即決。しかもデザインには手をつけていない。

しかし、元々榎本少年も宇佐美嬢も絵が描けない。特に問題は無かった。

なんとなく決めてしまう。これは二宮のセンスと怠惰のなせる業である。

 

そして残りの2人は。

 

 

 

「やっぱさ、折角だし目からビーム出そうぜ!あと左手がドリルとか!」

 

「いやいや、特殊効果とか火薬とか幾ら金がかかるか知ってんのかよ。」

 

「そんでミサイルばんばん撃って!そうだ、ライトセイバー持とうぜ!」

 

「あー、ライトセイバーか。アレなら蛍光灯で安く出来るかもしれん。」

 

 

 

一ノ瀬の現実味の全く無い希望を夢のない現実で希望に合わせる三狩屋。

もちろん一之瀬にも文句は無い。何せ彼は榎本に輪をかけて絵が苦手だ。

一見相性が悪そうに思えるが、コレでなかなか良いコンビなのであった。

 

こうして体制は改良され、映研部の本格的な活動はやっとスタートする。

 

 

 

 

 

 

そしてこの翌日に梅雨明け宣言が出る。夏はもうすぐそこまで来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

つづく。




これ本当に英雄譚になるのか?と、ご心配の皆様。

なります。確実です。ちゃんとヒロイン抱きます。
なぜ言い切れるかっていうと、もう完結したからw

ではではw
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