田中邸の一階にはパーティスペースがあり、大きな長机に長椅子がある。
そこに山田、石川、阿形、田中の4人が集まって机に荷物を広げていた。
広げた荷物は、やはり画材である。マーカー、ポスカ、水彩絵の具等だ。
「もう時間もないしさ、今から作成開始ね。山田クン、準備できてる?」
「はっはっは、遅筆な美術部にハンデをやる。君から先に始めたまえ。」
「あら珍しい。せっかくだし、山田クンのお言葉に甘えちゃおうかな?」
双葉嬢が立ち上がり準備を始める。一方の山田くんは椅子から動かない。
山田は大きな椅子に深々と座って、足を組みながら何かを思案していた。
その両の瞼は硬く閉じられており、口元は真一文字に引き絞られていた。
そして右手は顎を何度も触り続け、その逆手は右の肘に添えられていた。
何度も言うようだが、山田次郎は決して何の能力も持たない男ではない。
確かにコミュ障だし、エエ格好しいだし、前髪不自然だったりはするが。
山田次郎の持つ他の追随を許さぬ才能に『面倒を回避する能力』がある。
『今が午後2時だろ?7時ごろ夕食だと5時間か。どうしたもんかな。』
『どうしたもんかな』も、決して真面目に題材を選んでいる訳ではない。
いかに立場を守りつつ、そして双葉に勝ちつつ、更にラクが出来るのか。
思考が行き詰まり、閉じていた目を片方だけ開けて双葉をそっと覗いた。
視線に気が付いた彼女が笑顔で手を振る。山田は急いで再び目を閉じた。
『田中双葉はガチで絵を描いてるな。奴の画力は未知数だが分が悪い。』
山田くんは美術部の発表等に顔を出した事は無い。それは鈴木の教えだ。
絵の巧い奴は巧い。そういう奴と仲間になると嬉しい。それが罠なのだ。
鈴木元部長はそう言って山田を美術部に近付かない様に言い含めていた。
実は山田くんは、一度だけ田中一葉の作業現場を見に行った事があった。
彼は目を疑う。そこにはたった一人で巨大看板に向かう女の姿があった。
エアーブラシと大きな筆を振るいつつ鬼気迫る表情で絵を描く田中一葉。
山田はその光景に何故か背中から恐怖が湧き上がり、映研に走り去った。
『ガチの勝負は避けるべきだ。リスクが大きすぎる。他の手を考えろ。』
そんな昔の恐怖を思い出して、山田次郎は再び思考の迷宮に戻っていく。
一方の田中双葉はといえば、鼻歌交じりで画材を選んでセットしていた。
スケッチブック、イーゼル、そして筆類や絵の具の入った道具箱である。
おかしなポーズをとりながら必死に唸っている山田くんを脇目に見つつ。
そして30分後、既に描きだした双葉に遅れてようやく山田次郎が動く。
「石川さん、阿形さん、持ってきた紙でいちばん大きい紙って何かな?」
「―――私はB4ケント紙が一番大きいですね。スケブ重かったんで。」
「荷物あまり大きくしたくなかったんで、私は無地ルーズリーフです。」
「あー、山田クン!だったらA0の模造紙ならあるけど?使ってみる?」
「……戦国時代、武田信玄と上杉謙信はライバル関係にありながら……」
「あーハイハイ。敵に塩贈るって言いたいのね。大丈夫、ノーカンよ。」
山田は紙類を全く持ってきていなかった。理由は語らずとも良いだろう。
後輩二人の厚意を無碍にしながら仇敵双葉の模造紙を受け取る理由とは。
「―――山田先輩、一緒の部屋でいいんですか?手の内がばれません?」
「大丈夫だよ。手の内ってのは同レベルの戦いでのみ効果が出るのさ。」
「おおー、すっごい自信ですねー山田センパイ!もう勝利宣言ですか?」
「違うな。田中双葉と俺とでは方向性が違う。それを言いたいんだよ。」
彼は床面に模造紙を広げ、マジックを縦横無尽に走らせ何かを書き出す。
一方の双葉はといえば、スケッチブックを横にして鉛筆を走らせている。
本格的な絵を描き始めている双葉嬢に、後輩女子の二人は集まっていく。
「うわ、バランス取ってデッサンしてる!石川ちゃんだったら出来る?」
「―――こういうこと自体なら出来る。ただし、こうはいかないけど。」
「努力に王道なしよ。絵って努力しただけ巧くなるの。ね?山田クン?」
「……そうだ。方向が違えどゴールは変わらない。兄貴も言ってたよ。」
不意を突かれて一瞬答えに詰まった山田。そして心の中で首をかしげた。
確かにそれは言ったことがある。しかしそれは彼の兄の受け売りである。
実際には絵でも幾つか目的地があるし努力する方向も微妙に違うのだが。
鈴木の教えと違う為に何年かは口にしておらず忘れかけていたセリフだ。
鈴木は『王道に勝る傍道なし!模写こそ王道にして奥義!』と言うのだ。
「あぁー、これって!」
「阿形さん?しーっ。」
「ご、ごめんなさい。」
だんだんと形になってきた田中の絵を見た阿形が素っ頓狂な声を上げる。
その声を聞き後ろを振り向きウィンクをしながら人差し指を唇に当てた。
だがそんなやりとりは気にも留めずに、石川は田中の絵を凝視していた。
『―――すごい。バランスもだけど、絵に力がある。さすが、美術部。』
石川は映研の活動に疑問を抱いていた。絵を動かすのに意味があるのか。
そして、自分の画力を上げることに果たして役に立つのものであろうか。
その疑問は、指導者が自分より優れていると確認できる事で晴れるのだ
だが山田と勝負するつもりだった旅行で思わぬ収穫を得たと感じていた。
「作業終わり!どうした、何なら手伝って差し上げようか?田中双葉?」
「言うわねー。大丈夫、もうすぐよ。遅筆だとか言わせないんだから。」
「スモッグにベレー帽じゃないと実力出せないってんなら言い給えよ?」
摘んでいた鉛筆を置き立ち上がる田中双葉。そこにはイラストがあった。
中央には背の高いメガネをかけた冴えない軍人がよろめいて立っていた。
軍服のイメージは第三帝国の国防軍の将校服。細部まで描写されている。
その脇から低い姿勢でタックルしている女性士官。その髪は長く眼鏡姿。
先程の将校よりもシャープで、より濃い色味の軍服。所謂SS将校服だ。
その後ろには、それぞれ偵察バイクに横に腰掛けている三人の男性士官。
そして兵員輸送用の装甲車の天井に脚を投げ出して乗っている女性兵達。
「これ、山田センパイと田中センパイですね。あと一之瀬センパイ……」
「―――まぁ、絵の題材はともかく、パースも無機物も背景も、完璧。」
「かすった感じが源文チックで凄く良い。敵ながら天晴と褒めてやる。」
「お褒めいただきましてどうもー。私も仲間に入れてねって気持ちよ。」
そして、山田が丸めていた模造紙を次々と広げていった。その数、4枚。
そこには絵などは無く、線路のような格子模様、角には丸が書いてある。
それぞれ終点と始点があり、4枚の紙は四角形に繋がる様になっていた。
「あちゃ、そう来たかー。やっぱり山田クン凄いわ。これは完敗だわ。」
「ええ?ちょっと田中センパイ、なんでコレがそんなに凄いんですか?」
「―――マジックで線しか書いてないですねコレ。馬鹿にしてますか?」
「何だ二人とも、田中双葉に判るのに気づかんのか。これは双六だよ。」
そう言われて見直す二人、だがもう一度見ても意味が全く判らなかった。
双六と言われても必要な振り出しとゴールがどこを見ても見当たらない。
ただ首を傾げている二人に田中双葉が苦笑しながら助け舟を出していく。
「これはモノポリーっていうゲーム。陣取りと双六を足した感じかな?」
「題材は『楽しい合宿』だろうが?楽しむにはやっぱ遊びが無きゃな。」
「―――それは判りました。でも線だけですよ?線で遊べる物ですか?」
「ふふ、頭が固いわねー。山田クンは皆で作りましょって言ってるの。」
「俺らだけでお絵かきしててもつまらないだろ?皆で楽しまないとね。」
山田くんは面倒を回避するという才能だけは遥かに他人より優れている。
なんとか実力勝負から逃げ出したい。だが勝負には絶対に負けられない。
全員を巻き込む事で勝負からも回避できて、しかも楽しめる秘策なのだ。
更に彼は運がいいことに、田中双葉がそのアイデアを認めてくれたのだ。
「えー、なんだかズルっぽいです山田センパイ?こんなのアリですか?」
「違うわ阿形さん、リーダーの資質よ。やっぱ山田クン美術部来ない?」
「だから部長に言うなって何度言えば判るんだ!本当に君は馬鹿だな!」
山田によるセッティングはこうだ。それぞれの格子に色分けがしてある。
その中で、それぞれの紙にSHOPと書かれたマスがある。そこが陣地。
そこに皆の『大事なもの』を描いて、そしてその題名を枠外に書くのだ。
やはりそこは絵を描くのが大好きな面々である。次第に熱中していった。
「阿形さん空手にが好きなのか。でも昇級じゃなくて昇段じゃないか?」
「違いますよ山田センパイ。段は級の上です。黒帯とか取れませんし。」
「フィクションじゃなくてリアルの空手使いなの?俺知らなかったぞ!」
「―――阿形さん、ちなみに、いつくらいまで、空手ってやってたの?」
「えっとねー、高校上がる前までかな。拳を痛めちゃって辞めたんだ。」
石川は表面上こそ無表情を装っていたが、内心では非常に驚愕していた。
彼女が空手の練習をしてたであろう時も、石川は漫画を描いていた筈だ。
一日の長どころではない。そして、画力とは日々の積み重ねであるはず。
だとすれば、急激に成長する阿形と抜かれそうな自分の間にあるものは。
「でもこれ、すぐに描ける線じゃないわよ?いつから絵は描いてたの?」
「えへへ、漫画描くの自体は好きで、ノートにたくさん描いてました。」
「あー、例のレンヤ君か。だが商業の真似した方が巧くなったろうに。」
レンヤ君とは阿形が作り出した元気系のオリジナルキャラクターである。
彼女の描く線の太さもあいまって、昭和の少年漫画の主役っぽい男の子。
跳ねる、殴る、蹴る、叫ぶ、悪く言えば非常にやかましいキャラである。
「いいんです、好きなキャラ描ければ!趣味は楽しくやりたいんです!」
おどけて舌を出しながら拗ねる阿形。その光景を呆然と眺めている石川。
石川真理子はプロの漫画家を目指す女子である。その為に努力している。
そして方向性は全く逆の楽しむ為に漫画を描いているという阿形がいる。
問題は全てを犠牲にしている自分に、阿形が追いつく存在だという事だ。
「石川さん筆が進んでないな。遊びだしさ、気楽に描いていいんだよ?」
「―――山田先輩、私は合宿のつもりで、今ここに来てるんですけど。」
「一本とられたわね山田クン。手抜きなんかしてちゃ上達しないしね。」
山田の一言で我に帰って、石川も水性マーカーでイラストを描き始める。
そして4人は自分の紙に向かって、まったりとした時間が流れていった。
「それじゃあ特殊マスは適当に仕上げるから、少し待ってくれたまえ。」
「―――電車マスなんて、あるんですね。たくさん、進めるんですか?」
「あくまで物件よ。でも、中央線南武線総武線ときて箱根登山鉄道?!」
「なんだ、あの素晴らしい魅力に気づかんのか!君の目は節穴なのか?」
「山田センパイが来る時に一目惚れしたみたいで、大はしゃぎでした。」
「あら羨ましい。だったら私もサンモリッツ号になってみようかしら?」
「おお、なれなれ!そしたら毎日乗ってやってもいいぞ!うはははは!」
「―――山田先輩、ちょっとその例えは、お下品じゃないですかね……」
などと馬鹿騒ぎをしながら、山田くんは次々と特殊マスを埋めていった。
彼は訓練された部長である。コミカルな汽車の絵を寸分違わず4つ描く。
その他にも、ヒゲの丸顔おじさんが驚く絵なども次々描き足していった。
「流石に巧いじゃない。やっぱ山田クンとは絵で勝負してみたいわね。」
「勝負したら映研が勝つのは決まってる。慈悲深いので勝負はせんが。」
「とか何とか言っちゃって、山田センパイは負けるの怖いんですよね。」
「ば、馬鹿なことを言うな!映研部長は常勝不敗だ!疑うんじゃない!」
やがて4人の『合宿モノポリーZ~君は時の涙を見なかったり』は完成。
だがここで重大な問題に突き当たった。発案者である山田も頭を抱える。
いったい何が起きたのか。
「サイコロ2個が必要なの?悪いけどさ、うちにはそんなの無いわよ?」
「つ、作るしかないって事か。でも拘ると本当に面倒なんだよ、アレ。」
「えっと、山田センパイ?6面体の展開図だったら私も描けますけど?」
「あー、違うんだ阿形さん。のりしろによる重心バランスの問題だよ。」
のりしろの分だけ重心が少しブレる。すると特定の目が出易くなるのだ。
もちろん、全員同じサイコロを使えば公平ではある。問題はゲーム性だ。
モノポリーの醍醐味は対人交渉だが、序盤ではサイコロ運がものをいう。
そのサイコロの出目に偏りがあれば、予測が出来てしまい楽しさは減る。
「6面を鉄板6枚で作って電気溶接すれば!のりしろ要らずになるか?」
「山田クン、ここ鉄工所じゃないのよ?アーク溶接機とか無いからね。」
「だったら紙で作ってガムテープで固定しても良いんじゃないですか?」
「―――紙を全部切り離すと、使ってる内にひしゃげちゃう。駄目よ。」
「確か家の裏にレンガがあるわよ!頑張って削りだしてみるとかどう?」
「そんなん振ったら床も机も傷だらけになるわ!常識を知れ田中双葉!」
「あら、それじゃあ鉄板のサイコロは傷がつかないのかしら山田クン?」
紙粘土で、それは力の入れ方で、エポキシパテ、それは強度が足りない。
川で四角い石を見つけるのは、転がる石が四角になるわけがないでしょ。
侃々諤々喧々囂々。あーでもないこーでもない。討論は6時間に及んだ。
「しょ、しょうがないわね。あした山を下りて、買出しに行きましょ。」
「ここまできて諦めるのは悔しいがそれがベターか。仕方あるまい。」
「―――明日行くってことは、8月2日ってことになるんですかね?」
「え?8月2日?今日は7月31日だから8月1日……ああああー!」
憔悴しきった顔の阿形が腕時計に目を移して、大きな声を上げて驚いた。
時針と分針が示す時間は午前1時12分。日付表示板は1となっていた。
「もうこんな時間なのかー。気がついてみれば、みんなヒドイ顔だな。」
「ちょっと山田クン。レディ3人捕まえてその言い草ってヒドイわよ。」
「造詣云々なら田中双葉も美人だが、目の下のクマがヒドイって話だ。」
「ごちそうさまですセンパイ。ていうかそろそろ寝ません?いい加減。」
「―――部屋割りも、二宮先輩が、決めてました。これ、合ってます?」
隣にいた石川が懐中からそっと差し出した旅のしおりを覗き込んだ双葉。
後輩の2人は2階の客間、山田には1階の応接間が割り当てられていた。
双葉はそれぞれの部屋の装備を思い出し、特に問題が無い事を確認した。
「でも、これだと山田クン寂しくない?一緒に添い寝してあげようか?」
「ご好意痛み入るが気にして頂かずとも結構。殺人犯になりたくない。」
山田次郎は、絶対に信念を曲げぬ硬派な男子であるとは決して言えない。
サンデーを買うつもりでコンビニに行って、マガジンを買ったりもする。
下校時にパンを買おうと駅の売店に寄って、デザートを買ったりもする。
しかし山田くんは何年も田中双葉からのアプローチを拒否し続けている。
実際より少し上に見えるが、声も明朗でスタイルも良く行動派の彼女だ。
だが山田は鈴木元部長が卒業した後も、頑なに彼女を拒否し続けていた。
「あ、石川さん、阿形さん、大浴場入る?だったら鍵を渡しとくけど?」
「今日は遠慮しときます。確か部屋付きのお風呂があるってここに……」
今度は阿形のデニムのポケットから取り出したしおりを覗き込む双葉嬢。
石川と寸分違わず、ワープロソフトにより作られた全く同じ物であった。
体裁や余白に拘るあたり製作物にかける二宮の几帳面さが窺える一品だ。
そこまで確認すると、田中は少し意地悪な笑顔で山田の方に振り返った。
「じゃあこの大浴場の鍵は当然、山田クンにって事になるのかしらね?」
「え?!いや、別に俺も今日は部屋付きの風呂ってので良いんだけど。」
「あらそう?もしも山田クンの部屋だけ無かったらどうするのかしら?」
山田は思った。普通に考えればここは鍵を受け取って終わりなのである。
しかし目の前の女の笑顔が気に入らない。そう、ただ気に入らないのだ。
それが意味するのがどういう感情なのか、まだ山田くんには気付けない。
「そんなら我慢する!それか、その辺の川でもに入って体くらい洗う!」
「あら?このへんの川ってほぼ源流よ?流れもきついし冷たいわよー?」
「なんでそんなに大浴場を勧める!ワニでも放し飼いにしてるんだろ!」
「勧めれば嫌がるでしょ?体臭のきつい山田クンも嫌いじゃないのよ。」
「……そ、そういうことだったら受け取っとくのになんら問題もない。」
鍵に限らず(地口ではない)借りた物を持ってて不利益を被る事はない。
金銭契約があるならば話は別だが、双葉も山田もそのつもりは全くない。
含み笑いをする双葉の背中に小さな接触があった。それは阿形嬢である。
「あの、お部屋の布団とか使っちゃっていいんですか?田中センパイ?」
「あたりまえでしょ!客を床っぺたに寝かせるとかドンダケ鬼なのよ!」
「―――田中先輩は鬼と悪魔のハーフで燃える石炭の上で寝るって……」
「悪魔?石炭?山田クン、いったいいくつ後輩達に嘘を教えてんのよ!」
「貴様は今まで食べたご飯粒を数えたことがあるのか?そういう事だ。」
腰に手を当てて高笑いをする山田。そして珍しく頭を抱えている双葉嬢。
そんな2人の上級生を見て阿形と石川の2人は、そっと部屋を後にした。
そして残った2人は、というと……
「……た、田中双葉、実は少し恥ずかしいんだがな、その、お願いが。」
「山田クン、2人きりになって急に?ちょっとそれって露骨過ぎない?」
「そ、そうは言ってももう我慢が出来ないんだ!意地悪しないでくれ!」
悪戯っぽく微笑む双葉は、モジモジとしてこちらを窺う山田を凝視した。
山田は股間に手を挟み込み、泣き出しそうな表情でじっと見詰めている。
そして田中双葉は空気が読める人でもある。顔を寄せ、そっと微笑み……
「おトイレだったら1階の右階段の下よ。ちゃーんとノックしてよね?」
「た、助かった!恩に着る!実はもうかれこれ8時間我慢してたんだ!」
「旅のしおりには場所も書いてあったのに。見ていなかったのかしら?」
「無論何度も見たに決まってる!あんな汚い字じゃあ良く判らんだろ!」
走り去る山田次郎。そう、彼は後輩の手前トイレに行くのを避けていた。
いまどき女性アイドルだって『トイレに行かない生き物』等と言わない。
しかし山田のエエ格好しいは筋金入り。トイレを言い出せない程なのだ。
「……ふうん?ま、いいか。私はおなか空いたから何か食べようっと。」
こうして箱根合宿1日目の夜は更けていった。
若干の違和感を田中双葉の脳裏に残しながら。
つづく。
始めたきっかけは極めて不純でしたが、何だか楽しくなってきました。
とにかく道のりがぼんやりと見えてきましたので、完結を宣言します。
(このお話で完結じゃなくて、そのうち完結するよ、という意味で)
駄文書きの私の唯一の自慢は完結を宣言したSSは完結させる事です。
ただし、やめろという声が読んでやっていいという声を超えない限り。
続きをみたい人は罵倒レスが圧倒的になった時には応援してください。
このあとインターミッションとして設定集をアップします。