ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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女神の試練<決断の洞窟>

ガタリ、マルカ、タクト、チヒロ、ユウマの五人がうっすらハゲる通路を抜け得も言われぬ感じの中、彼らが黒い機械の前に着くとアウルの声が再び響き始めた。

 

『では第二問』

 

「「はぁ・・・・・・」」

 

始めは楽かと思われた試練だが案外に曲者なのではと全員が息をのむ中・・・次なる選択が提示される。

 

『この私の喋り方、もう少し砕けた口調の方が親しみが湧くでしょうか?』

 

「「知るかっ!!」」

 

チヒロ以外の皆がアウルのホントにどうでもいい選択に突っ込む。

しかしそのどうでも良さが故に選択を迷わせる。

しばしガタリ達が相談していると、突然カウントが止まって再び音声が流れた。

 

『・・・あ。こほん。・・・アウル的にぃ、もっとかりぃ方がいい気もしてるっつうかぁ、ショウちゃんたち的にはそこんとこどうっスかぁ?』

 

「「うざい!!」」

 

今度はチヒロも加わり吐く。

アウルの軽い口調で言い直してきたことに余計腹が立つ彼ら、何よりも召喚者をショウちゃん呼ばわりしたことだろう。

アウルがさらに、YESなら左、NOなら右でという案内をしてきたところで、ガタリは誰の意見も聞かずに迷わずNOのプレートに手を叩きつけ、扉を消し去る。

全員が若干イラつきを持ちながら先に進むと、すぐに次の扉がやってきた。

 

『・・・・・・。・・・・・・はい、第三問いきます』

「「なんか不満そうだ!!」」

 

「何だよこれ!自動音声何だよな?女神の試練とか言ってるのにこんな乗りでいいのか!?」

 

ガタリが機械に向かって叫び、他も戸惑いを隠せずにいる。

 

「出来れば、もう少し素直に選びやすい選択肢が来てほしいです・・・・」

 

チヒロがぽつりと呟き、全員がそれに賛同するなか、音声が続ける。

 

『再びルート選択問題です。一方は、通過するだけで身の汚れが綺麗さっぱり落ちる上、特殊な気体成分により体に活力が満ち、空腹や寝不足までもが解消される、通称<リフレッシュロード>。もう一方は――――』

 

「お、ようやくテンションの上がる選択肢が来たじゃねえか」

「だね、RPGならよくある二択パワーアップの展開みたいだ」

 

タクトとユウマが待ってましたとばかりに身を乗り出す。

どっちを選んでも、それぞれに独自のメリットがあって迷うという展開をユウマがイメージし口にする。

各々が勝手に期待を膨らませて待つ中、アウルは後半の選択肢を提示する。

 

『もう一方は、地面が緑色の粘性あるゲルで覆われ、異様なアンモニア臭とべたつく湿気が空間を満たし、無駄な傾斜がある上、時折謎のちっちゃい中年おじさんまで目撃される、不快なことこの上ない悪路。通称<げんなり坂>。・・・・・・・さて、どちらを通りますか?』

 

「「条件が露骨すぎて逆に怪しい!!」」

 

想定外の選択肢に全員が面食らう中カウントが開始される。

ガタリが慌ててみんなに相談する。

 

「え?なにこれ、なんなの?罠?罠か?舌切り雀で言うところの、おおきいつづらと小さいつづら理論で考えるべきなのか?」

 

ガタリの言葉にそれぞれが反応を返す。

 

「その例えはよく分からねえが、世の中上手い話には必ず落とし穴があるもんだ。ここはどう考えても苦難の道を行くべきだろうぜ!」

「いえ、ここは仮にも<女神の試練>と称される遺跡ですよ、それが私たちにそんな捻くれた回答を求めてくるでしょうか?」

「そうよね、逆に一周回って<リフレッシュロード>に行ってこそ【素直さ】が評価されるんじゃないかしら」

「ん~、結局どっちに行けばいいかわからないよ!」

「ああー!クソっ!」

 

頭をわしゃわしゃと掻き毟り、混乱するガタリ、いつも感情や直感で動く彼だからこそこういったのが上手く考えられない。

 

『残り十秒』

 

その音声にハッとする彼ら。まるで正解の道筋が分からない中、四人がカッと目を見開くと、ガタリに向かって一斉に叫ぶ。

 

「「ガタリ(君)に任せた!(ました!)」」

「ええっ!?」

 

酷い!結論を自分一人に押し付けるなんて、何て薄情な友達なんだ!と心中で叫ぶガタリ。

彼も全然わかっておらず悩んでいるが、カウントだけが進んでいく。

 

 

「く・・・そんな風に言うなら・・・もう、こっちだ!」

 

カウントが五秒切った所で、彼は左の認証装置に手をかざした。・・・つまりは、<リフレッシュロード>の方だ。

扉が光と共に消え、奥に続く道が現れる。

緑色の光に満たされたそこは見るからに優しげな空間だった。

彼らは一度顔を見合わせると、早速通路を進んでいく。―――と。

 

「お、おお!?」

 

思わず声をあげるガタリ、彼は自分の体が妙に軽くなり、元気が湧いてくることを感じる。

もしかしたら気のせいかもとも思ったが、よく見れば他のみんなも同様に感動している。

 

「おわ、見ろよこれっ、俺の服の汚れがみるみる落ちていくぞおい!」

「それに見てください、HPも回復していますよ」

「うわ!僕の斧がピカピカになったよ!」

「凄いわ!これさえあれば食事いらず鍛冶屋いらずね」

 

全員がそれぞれに自分の体を検めながら、笑顔で歩き、こっちでよかったと思う。

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

ふと気付けば、皆、笑顔で快適そうにしながらも・・・何故か無言になっていた。

その理由はここにいる全員が分かっていて、しかしとても言い辛い。

 

「「(・・・こうなってくると・・・・むしろあっちの道が気になって仕方ない!)」」

 

<リフレッシュロード>があまりに事前情報通りな快適空間であったことを受け、彼らは逆に妙な不安に苛まれていた。

もしかしたらあっちの道はもっと何かいいことあったんじゃないか?そうじゃなかったとしても・・・今になって、「謎のちっちゃい中年おじさん」の目撃情報がかなり気になる、もしかしたら重要なキャラクターだったのでは?とそれらが彼らの頭の中で駆けまわる。

だがこの謎は一生解かれることは無い、普段のゲームと違いセーブポイントなどないためやり直しは無い。

 

「「・・・・・・・・」」

 

彼らはそのまま、心底快適には思いながらも、物凄く微妙な表情で<リフレッシュロード>を抜けきった。

第四の扉を目の前にガタリが思わずぽつりと呟く。

 

「・・・・なんか・・・ごめんな」

「「・・・いや・・・全然・・・・」」

 

四人が物凄く微妙な苦笑いで応じる。

場が何とも言えない空気に満たされる中、再び音声案内が開始される。

 

『では悪路でちっちゃい中年おじさんが寂しく体育座りをする中、次の問題です』

 

「「なんかホントごめん(なさい)!!」」

 

思わず謝る彼ら、しかしアウルはガタリ達を無視して淡々と続ける。

 

『今回はルートや喋り方の様な変更要素は無く、どちらを選んでも進む道自体は変わらない純粋な質問ですので、気軽にお答えください』

 

「よし!今回は大丈夫そうだな」

 

タクトが声に出すと他もホッと胸をなで下ろす。全員ただのアンケートならいくらでも応えやるといった表情をしている。

 

『では第四問。・・・・・・・メアリー、ジョージ、マイクの三人は、同い年で幼馴染。三人はいつも一緒で、その仲睦まじさは村全体をも明るくする程でした。

三人が十七歳になった頃の話です。村一番の器量良しに成長したメアリーと、聡明で物静かな読書青年へと成長したマイクは恋に落ちました』

 

「「・・・・?」」

 

一体何が始まったのかと首をかしげるガタリ達。

しかしアウルは『黙って聞け』と言わんばかりの強引さで、先を続ける。

 

『幸せな二人の唯一の気がかりは、ジョージのことでした。三人でいつも一緒に笑いあっていただけに、自分達だけが恋人同士として付き合うことに、二人は呵責の様なものを覚えていたのです。そんな二人の様子に気付いたジョージは、その持ち前の快活さと明るさでカラカラと笑い飛ばしながら言いました。

「馬鹿なことを!お前達二人が幸せなら、それこそが俺の一番の幸せに決まってる。」

その言葉に勇気づけられた二人は、ほどなくして、夫婦となりました。仲人は当然ジョージが務め、村総出の式は、それはそれは華やかで夢のような一時となりました。

ただ一人・・・・・・本当は以前からメアリーの事を想っていたジョージだけは、その晩少しだけ涙を流していましたが、二人の幸せを喜ばしく思う気持ちもまた本物であり、彼は自宅で一人祝い酒を呷りながらも、「おめでとう」と何度も繰り返したのでした』

 

「「じょ、ジョージ!」」

 

ぐっと思わず手を握り込むガタリ達。アウルは一拍置いて語りを再開させる。

 

『メアリーとマイクが結婚して、二年後のある日のことでした。マイクは仕事で隣国へ一か月程出張することとなり、メアリーとジョージは非常に寂しく思いながらも、彼を笑って送り出しました。・・・・・・実を言うとメアリーのお腹の中にはマイクとの間に授かった新しい命が宿っていましたが、その仕事がマイクの長年の夢を叶える第一歩であることを知っていたメアリーと、そして相談を受けていたジョージは、子供のことを伏せ、黙って彼を送り出すことにしたのです。それを話すのは、一か月後でも問題ないだろうと』

 

「「・・・・・・ごくり」」

 

話の先に不穏なものを感じた彼らは、息をのむ。

・・・・・・そんな中アウルは、次の言葉を、妙に重々しく切り出してきた。

 

『・・・・・・隣国で突如巻き起こった内紛に、マイクが巻き込まれて亡くなったという一報が届いたのは、その三週間後のことでした』

 

「「あぁっ!」」

 

打ちひしがれる彼ら。少し間を置いてから、再び始まる物語。

 

『メアリーとジョージは悲しみの底に沈みました。彼らにとってそれは、まるで半身を失ったかのような喪失感でした。生きるための最低限の行動でさえ、億劫になっていきました。しかし・・・それでもジョージは自らを懸命に奮い立たせ、いつもの生活を再開させました。そんなジョージをメアリーは薄情だと非難し、果てはマイクが邪魔だったんじゃないかと酷い言葉まで吐きかけてしまいましたが、しかし、ジョージは黙ってそれを受け容れました。なぜならジョージは・・・たとえそれが負の感情であったとしても、マイクの子供を身ごもった彼女には何か活力を与えなければいけないと、考えていたからです』

 

「「じょ、ジョージ!」」

 

再び拳を握る彼ら。最早すっかりジョージファンである。

 

『ジョージのそんな献身が実を結んだのか、メアリーは無事、出産を済ませました。そして、子供にマイクの面影を見たメアリーも徐々に精神が安定。彼女はジョージへの非礼を詫び二人は再び良き友人となりました。・・・ジョージのメアリーに抱く想いは決して友情だけのそれだけではなかったのですが、、しかし、彼はそれを一生それを告げる気はありませんでした。友として、メアリーとマイクの子を守っていこうと心に決めていたのです』

 

「「ジョージぃぃ・・・・」」

 

ガタリ達は涙を流し始め、タクトに至ってはジョージお前最高の男だよと言って泣きじゃくっている。

 

『しかしそんな彼らをずっと見守ってきた村人達は、もどかしく思っておりました。ジョージの気持ちは周囲の目にも明らかであり、メアリーとその息子とジョージが三人で歩く姿は非常に微笑ましく、子供もジョージに心底懐いていることから、彼らが夫婦になれればどんなに素晴らしいかと噂していたのです。そしてそんな噂は、ある日、メアリーの耳にも届くことになりました』

 

「「!!」」

 

『メアリーは最初戸惑い、次にマイクへの罪悪感からジョージと距離をとるようになりましたが、日に日に自分の中でジョージへの想いが高まっていることに気付いてしまいます。彼女がどうしようもない板挟みの苦しみの中にとらわれていたある日・・・突然部屋に押し入る様にしてやってきたジョージは、驚く彼女の肩を荒々しく掴むと、酷い剣幕で告白した「マイクなんか忘れて、俺と結婚しろ」と。それは優しい彼らしくないあまりに横暴な態度で、何より「マイクなんか」という言葉が許せなかったメアリーは反射的に拒絶してしまいました。するとジョージは、驚く程あっさりとその場を立ち去ったのです』

 

「「じょ、ジョージ?」」

 

『メアリーは冷静になって少し考え・・・・そして気付きました。ジョージは、わざとそんな態度をとったのだと。彼女の迷いを消し去るため、わざと、酷い振られ方をしたのだと』

 

「「ジョージィィィィ!!」」

 

『メアリーは駆け出しました。子供に背中を押され、村人達に促される中、村を出ようとしているジョージに追いついた彼女は、驚いて振り向く彼に、遂に、その言葉を告げます。

「もし貴方さえ良ければ、これからも私達と、ずっと一緒に―――」』

 

「「おぉぉぉおおお!」」

 

 

 

『―――とまさにその時でした!村に、死んだはずの彼・・・マイクが、奇跡の生還を果たしたのは!』

 

「「!?」」

 

ガタリ達は一気に大混乱に陥る。しかしそれでもアウルは珍しく感情の感じられる抑揚をつけ、クライマックスを語り始める。

 

『彼はメアリーとジョージを見つけると、二人にがばっと抱きついて、幸せそうな笑顔と共に語ります。

「ああ、良かった、メアリー、ジョージ!君達二人とまた出逢えるなんて、夢みたいだよ!心配かけて本当にすまなかった!僕はあの内紛に巻き込まれた後、重傷を負って一時的に記憶を失ってしまってね。またそれが運悪く丁度商売相手と身分証を見せ合っていた矢先の出来事だったから、僕は暫く別の人間として生活することになってしまったんだ。しかも彼の所属していたのが実は犯罪集団で―――っと、これを話し出すと長くなってしまうんだけど。とにかくついこの間、ようやく内部からその犯罪集団を壊滅させることに成功したんだ!そしてその動乱の最中で、頭を強くぶつけた際に・・・なんと、僕の記憶が回復したんだよ!

ああ、メアリー、ジョージ!本当に会えて嬉しいよ!さあメアリー、早速で悪いけど、早く家に帰ろう!ははっ、実を言うと記憶が戻ってからというもの、僕は君と暮らしたあの家が恋しくて仕方ないんだよ!ジョージも!さあ、行こう!」』

 

「「あ、あぁ・・・・・・・」」

 

そんな運命の悪戯に愕然とするガタリ達、それに対し・・・アウルは、突然『さて』と仕切り直したと思ったら、元の冷淡な声質で淡々と質問してきた。

 

『メアリーが本当に選ぶべきは、マイク、ジョージ、どっち?』

 

「「選べるかぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!」

 

あまりにも重たい選択肢に全員が打ちひしがれる。

なんと苛酷なのだろうか<決断の洞窟>。

三十秒のカウントダウンが始まる中、彼らはぎゃあぎゃあと相談を始める。

 

「う、んなの、ジョージ一択だろうがよ、チクショウ馬鹿野郎が!」

 

涙を服の裾で拭いながらタクト。

 

「それじゃあ、あまりにもマイクが可哀想じゃない!マイクに落ち度はないのよ?しかも記憶が無くなっても犯罪組織と戦うなんて良い男じゃない!」

 

いつも異常に感情的になりながらマルカ。

 

「それよりも息子さんはどうなるの?絶対ジョージのこと好きだよ!あ、いや、でも、だからって本当のお父さんに諦めてもらうのもなんか・・・・」

 

自分の事の様に迷いながらユウマ。

 

「あう、わ、わたしは・・・・決められません・・・・」

 

かなりの戸惑いを見せるチヒロ。

 

「俺はジョージが好きだ、ジョージこそ男の中の男だ!ジョージには幸せになってほしい!けど・・・マイクだって・・・・」

 

ガタリも答えが出せる気持ちでは無かった。

 

『残り十秒』

 

「と、とにかく、正解が何にせよ、一応の結論は出さねぇと!ガタリ!」

 

タクトが焦った様に呟き、全員がガタリを見る。

 

『残り五秒』

 

最早、迷っている時間はない。どちらかは決めなくてはならない。

 

「・・・・・・っ!」

 

ガタリは意をすると、残り時間ギリギリのところで、左の選択肢を―――つまりはマイクを取る選択をした。

扉が消え、新たな通路が現れる。今回は何の効果もない、通常の通路。

彼らは精神的にどっと疲れながらも歩き出す。

次の扉は、しばらく先の様で五人とも無言で歩きながらそれぞれにメアリーやマイク、ジョージのことへと思いを馳せる。

ふと、回廊の途中でマルカがガタリに声をかける。

 

「ガタリ。あなたは最後にマイクを選んだじゃない・・・その理由とか聞いてもいい?私、てっきりジョージを選ぶもんだとばかり思ってたから・・・」

 

不思議そうに首を傾げるマルカに、ガタリは「えーっと」と後頭部を掻きながら応える。

 

「まぁ、ジョージに感情移入してたんだけどさ・・・だからこそっていうか、何て言うのかな、きっとジョージはメアリーに選ばれなくても、幸せなんじゃないかなって思ったんだ」

「・・・どういうことですか?」

 

チヒロが横から顔を出し、問いかける、タクト、マルカ、ユウマもガタリに注目する。

ガタリは宙を見つめがら、ぼんやりと答えた。

 

「・・・だってさ、マイクが戻ってきたことは凄く嬉しい事だろ?それに元々ジョージは、メアリーとマイクを心から祝福してたし・・・ジョージの恋は叶わなくても、メアリーとマイクが幸せならきっとジョージはそれで満足すると思ったんだ」

「・・・・・・そうですか、それがガタリ君の考え方・・・・ですか」

「まぁ、あなたらしいかもね」

 

神妙な顔つきで頷くマルカとチヒロ。

何故か場が無言になる中・・・・・・ポツリとタクトが不満げに呟く。

 

「・・・ジョージだけにそんな想いさせて、本当にみんな幸せなのかね・・・」

「あははっ、タクト君はほんとにジョージが好きなんだね」

「・・・まぁな、ユウマはどうなんだ?」

「僕?僕は・・・メアリーが本当に幸せになれるならどっちでもいいかな」

「どうして?」

「息子さんはきっとお母さんの幸せを望んでるからかな?」

 

笑顔で語るユウマを見てタクトが一瞬苦笑いをし、ユウマの髪をわしゃわしゃする。

 

「えっ?何?」

「何でもねえよ」

 

皆がそれを見ている中、マルカが「<決断の洞窟>とはよくいったものね、茅場も何を考えてるのかしら」と皆には聞き取れないほどの声で呟く。

皆が少しモヤモヤしながら歩いていると、いつの間にか次の扉の前まで来ていた。

そして例の如く、案内音声が場に響き渡る。

 

『次が<決断の洞窟>最後の問題となります』

 

「「おおっ!」」

 

ようやく見えてきた終わりに、ガタリ達は色めき立つ。

アウルは淡々とした声で告げる。

 

『ですがその前に場所を移したいと思います』

 

そう言うと全員の体が光、全員がギョッとするがそれも一瞬でそれぞれ別の空間に移動する。

ガタリが目を開けると淡いオレンジの光りに満たされた、球体状の空間の中にふわふわと浮いていた。

 

「!?・・・・(みんなはどこに?)」

 

キョロキョロと辺りを見渡すが、そこには<決断の洞窟>の壁と同じ材質の壁があるだけ。

マルカもタクトもユウマもチヒロも近くにはいない。

転移はいつものことなので驚きはないが、突然ここに呼ばれて何をしたらいいのかわからず唸っていると、球体空間にアウルの声が響き渡った。

 

『<召喚者>ガタリよ。まずはここまでの来れたことをお祝い申し上げます』

「アウルか?良かった、一人でどうしたらいいかわからなかったんだ、それでここは?あとみんなはどこに?」

 

ガタリの疑問に、彼女は少し間をおいてから、回答する。

 

『ここは<ソードアート・オンライン>を制御しているシステム<カーディナル>それの一部です。女神の試練の最後の部屋にたどり着くたびに<召喚者>たちはここへ招かれます。』

「成程、でここで最後の選択問題をするのか?」

『はい、では最終問題です。これは口頭で答えてもらって構いません。・・・・・・ガタリ、あなたはこの世界・・・アインクラッドが好きですか?』

「え?」

 

今までとどこか趣の違う問題に一瞬戸惑うも、すぐに答えを言った。

 

「ああ、好きだ、そりゃ嫌なこともあったけどさ、それだけじゃないからな」

 

それを応えると少しの間のあとアウルが無機質な声で答える。

 

『ガタリ、女神の試練<決断の洞窟>クリアおめでとうございます。』

「ありがとう、アウル」

 

ガタリは少し恥ずかしそうに頬を掻く。

 

『ガタリ・・・』

「ん?何?」

『あなたはこの先多大なる決断を迫られることとなるでしょう、いえ、あなたに限らずこの浮遊城アインクラッドにいる全員が・・・ですがどうか苦しまないでください。その決断の責任はきっとあなただけの責任ではない筈です。』

「・・・・・・」

 

アウルの言葉にガタリは本当にただのシステムなのかと疑問に思う。

だがいくら考えても彼では答えが出るはずもなく、ただ黙ってアウルの声を聞く。

 

『では、いつかまた別の試練で逢えることを心より祈りつつ、これにて<決断の洞窟>における試練の全工程を終了させて頂きます』

「ああ、ありがとな、アウル。また逢えるのを俺も楽しみにしてる。絶対にこのゲームをクリアするよ」

『・・・・・・。ガタリ、あなたにはどんな劣悪な状況でも決断できる勇気があると私は思っています。』

「?アウル?」

 

今までと違う声色に首を傾げるガタリ、そしてその体がぽわっと光出す。

 

『この城の行く末がどうあれ。願わくば、あなたの進む先が―――』

 

ガタリの視界が真っ白な光が満たしていく、それはどんどん濃くなり最後には視界全てを覆い弾ける―――その直前。

アウルの最後の・・・・・・どこか優し気な声音の言葉がガタリの耳に届く。

 

『―――笑顔と光に満ち溢れた、心楽しきものとならんことを!』

 

「ああ、任せろ!」

 

視界が見えない中アウルに返事をすると次の瞬間に―――。

 

「「!?」」

 

五人全員が同時に<決断の洞窟>入り口に放り出される。

 

「みんなクリアしたみたいだな」

「ああ」

「勿論よ」

「うん」

「みなさん無事でよかったです」

 

ガタリの言葉に全員が笑顔で返事をする。

ガタリが軽く頬を掻くとチヒロが声をかける。

 

「ガタリ君その腕についてるのは?」

「え?腕?」

 

腕を確認するとオレンジ色の腕輪が嵌められていた。

しかしそれはガタリだけでなく他の四人も別の色の腕輪がはめられていた。

 

「そういえばみんなバラバラになったときどうだったんだ?」

 

タクトが帰りながら全員に声をかける。

 

「アウルに最後の選択問題をされただけだけど?最後に忠告?みたいなのされたけど」

「そうなの?私はクリアした後に五十層のボスについて教えられたんだけど?」

 

マルカの言葉に全員が驚く、それを見たマルカは家に戻ってから詳しく説明すると告げた。

 

「他はどうだったのよ、チヒロとか」

「私ですか?私は・・・・私も特になかったですね、ユウマ君はどうでした?」

 

チヒロは一瞬何かを思い出したような表情をするがすぐに笑顔で隠し、ユウマに話を振る。

 

「僕もこれといって無いけど、アウルから回廊結晶もらったよ」

「え?何でユウマだけアイテムもらってるんだよ!」

「そ、そんなこと言われても・・・」

「やめとけよ、ガタリ」

 

羨ましそうにユウマを見るガタリにタクトが注意する。

 

「お前はどうなんだ?」

「俺か?俺も大したことはなかったよ・・・」

 

そう言いながらガタリから視線を外し、空を眺める。

それを見てマルカがじーっとタクトを見る。

 

「嘘ね、何かあったでしょ」

「っ・・・・ねえよ!」

 

そう言ってはぐらかし、走り出す、マルカが「逃げるな」と叫びながら追いかけると、ガタリ、ユウマ、チヒロの三人も一緒になって騒ぎながらタクトを追いかける。

ガタリはアウルの言葉の意味をよく理解できずにいたがそれでも今日以上の決断に迫られることは無いだろう頭の片隅で思う。

 

・・・・その僅か三日後には。

 

沢山の命に関する重大な決断に迫られる事態に陥るだなんて、夢にも思わずに。

 




読んで頂きありがとうございます。

今回は前回に続いてのお話です。

ではまた次回。
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