全てのプレイヤーが黒い靄に包まれ絶望を実感するなか直ぐに動き出している人物がいた。
「カマクの言う通りでしたね」
「ああ、ここからは時間との勝負だぞ」
ナオキとカヤが飛び出しディレクタールとぶつかる。
スピードに定評のある二人がディレクタールの攻撃を避けつつ的確にソードスキルを繰り出す。
それを見てカマクが指示を飛ばす。
「A.B.C隊は全員下がって能力が溶けるまで待機しろ!ユウマとヒースクリフ、ワカナは前に出てくれ!」
その言葉に全員が素直に従うがアスナだけがカマクの近くに来て問いかける。
「カマク、ここは全員が引くとこじゃないかしら?」
それは最もだろう、回復手段が封じられ、頼みの綱の広域スキルも使えなくなったのだ。
けれどカマクはそれも想定内と言わんばかりにアスナの問いにこたえる。
「いや、まだ行ける、そのためには実力のあるやつ少数でこの場を耐える必要があるんだ」
「どういうこと?」
目の前でガタリ達がディレクタールの猛攻をしのいでいる様子を見ながらアスナがいった。
「まだ回復手段を全て止められた訳じゃないんだ、そのために俺はマルカに投剣での回復を控えてもらっていた」
「あなたはこの状況を予測していたというの?」
「いや、ありうると考えていただけだ、だからこのことはナオキとカヤにしか伝えていない」
アスナはカマクのことを少し頭のいいプレイヤー程度としか思っていなかったが評価をあらためなければならなくなった。
彼の指揮官としての腕は確実に自分よりも大きく上回っている。
「今、あいつらだけに限定してるのはマルカの回復が追いつくのがあれが限界だと判断したからだ」
マルカはこの事態に陥ったときにカマクの言葉の意図を理解した。
広域スキルでは自分が回復しなければ周りも回復しないが投剣ならば相手に当てるだけで回復できるのである。
これならボスの特殊能力にかかっても関係無しだ。
「ふぅ・・・ん!」
けれど人数が少ないといえど間違えてボスに当ててしまう恐れも出てくる。
彼女は今まで以上に集中して投剣をガタリ達に当てていく。
カマクの機転によって絶望的な状況でも何とか活路を見出すことのできた攻略組。
後ろで見ているプレイヤーの中でクラインが漏らす。
「あんなガキんちょだけに任して、情けねぇぜ」
その言葉をチヒロだけが聞いていた。
けれどチヒロにはクラインを励ますだけの言葉をかけることが出来なかった。
クライン以外のプレイヤーは凄いなどの賞賛と声援の言葉を出している。
チヒロはクラインに向けていた目をディレクタールと対峙しているガタリ達に移す。
「ハアァァ!!」
ガタリがディレクタールの振り下ろす斧槍に己の剣をぶつけていく。
ぶつけた衝撃で手から剣が落ちそうになるが気合いで握る手に力を込める。
いくらマルカの支援があるといえどディレクタールの攻撃の威力が変わるわけではない。
直撃を受ければその時点で終わり、けれどこちらは焦る必要はないのだ。
後ろで待機しているプレイヤー、マルカとチヒロの特殊能力が解けるまでの時間を稼げばいいのだから。
ガタリ達は基本避けに徹し、回避できないのだけ剣で対抗する。
順調に進んでいる中カマクはまだ何か頭に引っかかりを感じていた。
「このままいけばいいんだが・・・」
カマクは気を抜かずディレクタールの観察を続ける。
ディレクタールと対峙しているタクトもまたカマクと同じように思っていた。
ハーフポイントのボスにしては順調に行きすぎている。
いくら特殊能力が脅威的だといえどこのくらいなら以前戦った25層のボスの方がもっと凶悪だった。
いろいろな可能性を思案している中キリトの剣とディレクタールの斧槍がぶつかる。
「・・・うおぉぉ!」
その時タクトがディレクタールの斧槍の柄の部分がいくつか光っていることに気づいた。
柄に埋め込まれている数は8。
タクトは急いで光っている部分を数え始める。
「1、2、3・・・・7⁉︎」
あと1つで全部に光が灯る。
光る条件が何なのかわからないが全て灯るのがマズイのは考えなくても理解できた。
タクトは剣を握ると走りながら大声でまくしたてる。
「みんな、急いであの斧槍を破壊してくれ!急がないとまずいことになっちまうぞ!」
「わかった!」
「任せて!」
キリトとユウマがタクトの言葉を聞き、いち早く飛び出した。
キリトが<デッドリー・シンズ>、ユウマが<インフィニット・ディストラクション>を繰り出しディレクタールの斧槍を狙う。
キリトの剣とディレクタールの斧槍が鈍い金属音を響かせながら火花を散らす。
続けてユウマが向かう、<インフィニット・ディストラクション>は範囲技で斧槍ごとディレクタール本体にもダメージを与える。
だが本体にソードスキルがヒットしたことが引き金となり、ディレクタールの斧槍の光が全てに灯った。
「「⁉︎」」
ガタリ達は先ほどのこともあり反射的にディレクタールから距離を取る。
するとディレクタールに変化が見られた。
マントの付け根の横から黄金の翼が生え、斧槍も一回りデカくなった。
HPバーも一本増え名前の欄が描き加えられる。
<ゼーレ・ディレクタール・ロードナイト>、それが変化したボスの名前。
ディレクタール・ロードナイトはガタリ達が離れたことで出来た隙をつき、奥に待機しているカマク達に標的にした。
それに気づいたのはヒースクリフだ、彼は急いで間に入って止めようとするが距離があり、ディレクタール・ロードナイトにすぐにおいていかれる。
「気を付けろ!全員急いでそこから離れるんだ!」
ヒースクリフの声で待機していたプレイヤーが四方八方に散らばる。
けれどディレクタール・ロードナイトはプレイヤーを一人に目をつけ突撃した。
そのプレイヤーは剣を構えるが慌てて足がもつれる。
「く、来るな!来るんじゃない!」
プレイヤーは必死に立とうと足をバタバタさせ逃げようとする。
そして立ちディレクタール・ロードナイトに背を向け逃げ出した直後、後ろからその大きな斧槍で一閃された。
悲鳴をあげることもできず、体はすぐに結晶へと変わり、散る。
ディレクタール・ロードナイトはそれを確認したかのような仕草をすると次の標的を決めようと辺りを見渡す。
顔を左から右にスライドし、一度見渡すと決めたのか一点を見る。
その視線の先には青髪を揺らし、前衛から距離を取ろうとしているチヒロがいた。
ガタリ、タクト、ワールン、カマクがその視線の先のチヒロに気付くと一斉に飛び出した。
「やらせるかッ!」
「女を狙ってんじゃねぇぞ!」
ガタリとタクトがディレクタール・ロードナイトに叫びながら敏捷値の限り走る。
カマクが先に間に入るが軽く避けられスルーされる。
「・・・チッ」
ワールンは後ろから追うがみるみるうちにディレクタール・ロードナイトと距離が広がる。
「くそっ、ダメか・・・」
ガタリとタクトも走るが差が縮まらず段々とチヒロにディレクタール・ロードナイトが迫る。
チヒロは転けてしまい、その場に倒れこんでしまう。
このままでは絶対に追いつけない、その中で二人はソードスキルを使うか迷いだす。
けれどそんな余裕はない、迷うくらいなら、一か八かと二人が走りながらソードスキルを放つよう体を動かした。
二人同時に右肩に剣を置き、溜める。
徐々に剣が紅く、深く光りだす。
体がシステムの力で前に押し出される直前、彼らの腕輪もそれぞれオレンジと水色に輝き出す。
一瞬、腕輪が光ったことに驚くが今は無視し、ソードスキルを放つことだけに意識を集中する。
ジェットエンジンのような轟音を響かせ二人がボスの左右の足に己の剣をぶつけに向かった。
「当たれェェ!!」
「ウオォォォ!!」
二人が放った、片手剣上位スキル<ヴォーパル・ストライク>は普段以上のスピードでディレクタール・ロードナイトの足に向かい、貫いた。
それによりディレクタール・ロードナイトは転倒する。
「チヒロ大丈夫か!?」
ガタリはすぐにチヒロの元に行き、無事を確認し、手を差し伸べる。
「は、はい、ありがとうございます」
チヒロはお礼をいうと、ガタリの手を掴み、起き上がる。
「次が来る、構えとけよ!」
タクトが二人に呼びかける。
二人は己の武器を握りディレクタール・ロードナイトの様子を伺う。
他も警戒し取り囲むように集まってくる。
プレイヤーが見る中ディレクタール・ロードナイトは新たに生えた金の翼を広げ、飛び上がった。
右手を挙げ、さらにその上に魔法陣のような模様が浮かび上がった。
「全員防御の姿勢を取れ!」
ヒースクリフの張り詰めた声が響き渡る。
直後、魔法陣から光の粒が降り注いだ。
「マジかよ・・・」
タクトがその光景に呻き声を上げる。
降り注ぐ光景はまさしく光の雨、幾千もあろう光がプレイヤーめがけて襲いかかる。
ヒースクリフやカマクのような盾持ちのプレイヤーは盾で防ぎ、カヤやワカナのような防御が難しいプレイヤーと組み、その場を何とか耐える。
ワールンが大剣に身を隠しながら周囲を見ると、盾持ちプレイヤーと組めなかったプレイヤーが光の雨が降り注いで結晶となる姿が目に映る。
「うおおおおお!!」
「はあぁぁぁ!」
「やぁーーーーっ!」
そんな光の雨の中、気合いの籠った声が聞こえてくる。
キリト、ガタリの持つ剣が眼にも止まらぬ速さで五指を中心に風車の如く回転している。
片手剣防御スキル<スピニングシールド>その名の通り片手剣が尋常ではない速度で旋回し光の粒を防いでいる。
ガタリの横でチヒロも棍棒を2つの手、十指で棍棒を回転させてこの状況をやり過ごしている。
けれど、光の雨が止む気配がなくプレイヤーの消耗が酷くなっていく。
盾を前に出し耐えているマルカが意を決し、メニューを操作し始める。
けれど後ろで隠れていたタクトがそれをやめさせる。
「今ここで使うべきじゃないだろ」
「でもこのままじゃ一方的にやられるだけじゃない!それにわたしならここからでもあいつを攻撃できるわ」
「それでもお前だけ攻撃出来ても意味がないだろ?」
「それでも・・・ここでじっとしてるよりかはマシよ!」
「・・・・・・俺に考えがある、それからでもいいはずだぜ?」
「・・・わかったわ、・・・それでも無理なら私はやるわよ」
「ああ、サンキュ」
未だに光の雨が降る中作戦会議を始める。
カマクやアスナも何とかこの状況を打開できないかと思案する。
カマクはいくつか閃きが出るも、この身動きが出来ない状況では誰かに手伝ってもらうことも難しい。
けれど、タクトとマルカが何やら話あっているのを見るとニヤつき後ろで隠れているワカナに声をかける。
「ワカナ、俺が合図したらピカチュウに電撃を頼む」
「う、うん、任せて」
急なことに一瞬戸惑うもすぐに返事をし、合図が来るのを待つ。
そして約三分続くこの状況が遂に動き出す。
「頼んだぜ、マルカ」
「任せなさい、必ずやってのけて見せるんだから」
二人が目を合わせ、ふっと笑いあう。
けれどすぐに表情を戻しカウントを始める。
「三、二、一、ゴー!」
タクトの合図で二人同時に飛び出す。
光の雨を避けながら駆け、ディレクタール・ロードナイトに近づいていく。
それを見てガタリとキリトもつられて回していた剣も止め走り出す。
マルカが腰にある投剣を幾つか取り出し同時にボスの翼をめがけて投げつけた。
それに気付いたディレクタール・ロードナイトは右手を下げ、左手に持っている斧槍で投剣を打ち払う。
「やっぱり簡単には行かせてもらえないわね」
マルカは止められたことに歯嚙みするがすぐに切り替え再度、剣を放ち続ける。
マルカの攻撃により先ほどまで降り続いていた光の雨が止んだことでプレイヤー全員が動き出した。
投剣スキルを持っているカヤや他のプレイヤーもマルカに続いて剣を放ち始める。
それにより徐々にディレクタール・ロードナイトの高度が落ちてくる。
それに気が付いたカマクがワカナに指示を出す。
「ワカナ、今だ!」
「わかった、ピカチュウ、ボスに電撃お願い!」
「ピッカ!!」
ピカチュウによる、電撃攻撃が見事にボスに決まり空に構えていたディレクタール・ロードナイトを地に落とした。
「ナイスだぜ!」
落ちたのを見てディレクタール・ロードナイトの近くまで来ていたタクトが笑みをこぼす。
右手にもつ片手剣を左腰に持っていき、ディレクタール・ロードナイトの右翼目掛けて斬りかかる。
「オラァァ!」
タクトが片手剣空中四連撃技<タイガーレイジ>を放ち、右翼の部位破壊に成功する。
これでディレクタール・ロードナイトが飛ぶ事を封じた、それでも敵の脅威が一つ減っただけ。
攻撃の暇も与へまいとキリトとガタリも攻撃を仕掛けていく。
ボスが右手による特殊攻撃を出そうとすればすぐに攻撃し、特殊攻撃を出させないよう牽制する。
いつの間にか回復制限が解除されていることに気が付き、チヒロが回復役を再開する。
ディレクタール・ロードナイトのHPも新しく増えた一本の半分までとなる。
ディレクタール・ロードナイトの左翼をナオキが破壊する。
それによりディレクタール・ロードナイトがバーサーク状態になった。
先程までの華麗な斧槍さばきがなくなり無秩序に振り回される。
そこでカマクが動き出した。
盾で斧槍を受け止め、斧槍の動きを止める。
それによりディレクタール・ロードナイトが空いている右手でカマクに攻撃を仕掛ける。
「させません!」
カマクの横をすり抜けナオキが前に出る。
体術スキル<爆裂拳>によりボスの右手に当たったと同時にナオキの右手が物凄い爆発音を出しディレクタール・ロードナイトの右手を弾く。
「悪いな助かったぜ、ナオキ」
「いえ、大丈夫です」
カマクが礼を言い、ナオキもそれに対して返事をする。
ナオキのお陰でボスに隙ができた。
それを狙いすましていたかのようにユウマとカヤがそれぞれディレクタール・ロードナイトの左右につく。
「やああぁぁ・・・ッ!」
「ハアァッ!」
ユウマの背後に獅子のエフェクトがカヤの背後には虎のエフェクトが現れる。
斧体術複合スキル<獅子戦吼>と刀体術複合スキル<裂震虎砲>の獅子と虎の闘気がボスを挟むように放たれる。
ディレクタール・ロードナイトがスタンに陥った。
さらに追い撃ちとキリトとワールンがでる。
キリトが<ソニックリープ>をワールンが<アバランシュ>による突進技でディレクタール・ロードナイトの斧槍を狙いすます。
「・・・・・・ッ!」
「・・・ハアッ!」
短い気勢を剣に乗せクロスを描くように二人同時に斧槍に技を当てる。
直後、ディレクタール・ロードナイトの斧槍は頭に響くような甲高い金属音を鳴らしそのまま派手なライトエフェクトを炸裂させ消滅した。
「流石に綺麗に真っ二つとはいかないよな」
「仕方ないだろ、けど上手くいったんだ、結果オーライだろうぜ」
破壊によるライトエフェクトを見ながらキリトとワールンがコメントする。
装備を失ったディレクタール・ロードナイトは特殊攻撃を仕掛けるべく黒い靄を両手に出現させ始める。
けれどそれを見るより先にタクトとガタリが距離を詰めていた。
二人は同時に剣を上に投げた、空いた手で体術スキル<烈破掌>を同じタイミングで放っ
た。
「ウオォォォ!」
「ラァァア!」
声を上げながら拳を突き出す、それに呼応するかのように二人の腕輪が輝き出す。
攻撃を受け黒い靄が消えていく、ガタリとタクトは目を合わせると、再び同じタイミングでジャンプする。
「ハアァァ!」
「ウオォォォ!」
またも気合いが迸る、上空で投げた片手剣を掴みディレクタール・ロードナイトに振り下ろす。
同時に放った片手剣体術複合スキル<メテオフォール>により腕輪が一層輝きを増した。
ディレクタール・ロードナイトのHPが残り僅かとなり後一撃与えれば終わる。
ガタリは続けて攻撃を放ちたいが技後硬直によって動けず悔む。
そんなガタリの心情を読まずし<ゼーレ・ディレクタール・ロードナイト>はその身体を一度膨張させ結晶へと還った。
直後、congratulation!の文字がフロアに現れ、部屋に明かりが灯った。
誰が攻撃したのかと周囲を見渡すと結晶となったディレクタール・ロードナイトの先にキリトが剣を振り落とした姿が見え、苦笑した。
「あーあ、キリトにラストアタック取られたか」
「ちくしょう!あれで削りきれなかったのが悔しいぜ」
ガタリとタクトがキリトに向かって言うと、キリトは頬をかきながら悪いなと一言そう告げた。
読んで頂きありがとうございます。
今回終わり方が雑な気がします、すいません。
では、また次回。