ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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不穏な足音

現在最前線は55層を越えたところにある。

攻略組の攻略スピードは依然衰えることなく着々と歩みを進めている。

そんな中、中層地帯のプレイヤーの間ではある噂たちが交差していた。

最初に広まったのは攻略組について、50層までは血盟騎士団団長・神聖剣ヒースクリフ、副団長・閃光アスナさらにビーター・黒の剣士キリトが有名であった。

けれど50層を越えてからはこの3人に加えて新たに10人のプレイヤーの名前も広く知られるようになった。

ガタリ、タクト、マルカ、ナオキ、ユウマ、チヒロ、ワールン、カマク、カヤ、ワカナ、二つ名がつくほどではないが周囲のプレイヤーたちはこの10人をまとめて【十闘士】と呼んでいる。

その噂は中層にいる者達の攻略組への目標意識を上げるのには充分だった。

それを挫くかのように次の情報が広まったのは偶然か必然かはわからない。

それは犯罪ギルドの増加に活発化だった。

迷宮区へと向かった中層ギルドのプレイヤーがオレンジギルドにより金やアイテムを盗まれたということが度々報告され、運が悪いとこだと死者を出したギルドも見られた。

オレンジギルドのバッグには殺し専門のレッドプレイヤーが集まっているギルド、ラフィンコフィンがいるのではと言われている。

これまで表には出てこなかったギルドが遂に出てきた。

このことにいち早く危惧したのは誰よりも情報を早く、正確に持っている情報屋のアルゴだった。

アルゴはレベル上げをする際によくパーティを組んでいるナオキとユウマにこのことについて情報を集め、解決するよう頼んだ。

 

「わかりました、このことはカマクやアスナに伝えても大丈夫ですか?」

「ああ、出来れば攻略組には関心を持ってほしいからナ」

 

アルゴはウインドウを開きこれまでのことをメモする。

 

「僕もこれは流石に見逃せないもん、協力するよ」

 

ユウマが目を開いてアルゴに宣言するとアルゴは少し躊躇いながらも返答する。

 

「・・・ありがとネ、ユウユウ。でも相手は殺人者ダ、・・・無茶はするなヨ」

 

その声には普段のような陽気な声音はなく、表情も真剣そのもの、けれどそこには二人を心配する気持ちが伺える。

それを見たナオキがアルゴに近づき、彼の肩くらいの位置にあるアルゴの頭にそっと手を置き優しく撫で、いつもの優しげな声でアルゴに語りかける。

 

「僕らなら大丈夫です。それに危険なのは情報を集めてるアルゴも同じですから・・・。

アルゴも無茶、しないでください」

 

その言葉にアルゴは自分の顔が赤くなったことに気付き、咄嗟に頭を下げ赤くなった顔を見られないようにした。

まさか、前線では戦闘しない自分が心配されるとは思っていなかったのだ。

アルゴは俯いたままコクンッと頷く。

 

「じゃあ僕たちは行きますね。何かあればメッセージ飛ばしてください」

「バイバイ、アルゴさん!またね!」

 

ナオキがアルゴの頭に置いていた手を離し、アルゴから背を向け歩き出す。

アルゴは名残り惜しい気になるが自分が誰かに贔屓するのはいけないと心の内に決めていることを思い出し振り切る。

ユウマが元気よく手を振るのを見てアルゴも二人が見えなくなるまで、小さく手を振り返した。

 

 

中層の迷宮区でガタリとチヒロは今コンビでマッピングしている。

普段はタクトとマルカとパーティを組んでいるガタリだが最近、深夜になると二人がどこかに行っており、暇しているのだ。

そこでチヒロから誘いを受け、どうせならとレベリングすることになった。

 

「ふぅ、かなり潜ったなぁ」

「はい、ガタリくんここら辺で休憩にしませんか?」

「ん?そうだな、あっちに確か安全圏のエリアがあったはずだし、行くか」

 

ガタリは剣を背中に収め安全地帯のある方へと歩き出した。

その背中を追うようにチヒロも後を追う。

チヒロがガタリの横に並んだ時ガタリの足が止まった。

 

「どうしたんですか?」

「誰かがmodに囲まれている!しかもプレイヤーは一人だ!」

「そんな!?急いで助けに行かないと・・・」

「ああ、チヒロあっちだ!」

 

二人は駆け足で囲まれているプレイヤーのもとへと向かった。

敏捷値でいえばチヒロの方が幾分か早いのだが彼女は索敵スキルを持っていないので場所がわからないため今はガタリのペースに合わせている。

ガタリの索敵スキルからすぐそこにいることがわかり、チヒロにそれを伝える。

 

「そこを曲がった先にいる!」

「はい!先に行きますね」

 

ガタリに返事をするとチヒロは両脚に力を込め一気にガタリから引き離れた。

ガタリも流石に女子に遅れを取る訳にも行かないので気持ちスピードを上げる。

チヒロが角を曲がると目の先に何体か人型のmodがおり一人のプレイヤーを攻撃しているようだ。

けれどチヒロは少し疑問に思った、普通ならこれだけのモンスターに囲まれれば、プレイヤーは焦って声を荒げたり、悲鳴をあげたりするのだ。

プレイヤーの様子は囲まれていて確認出来ないのでどうなっているかはわからない、しかし死んではいないことだけは確かである。

自分が急がなくてはいけないことには変わりないのでチヒロはモンスター群の頭上をジャンプして飛び越え、囲まれているプレイヤーと接触する。

 

「大丈夫ですか?」

「ん?もしかしてお嬢さん、おじさんを助けに来てくれたの?」

「え?あっはい、そうです」

 

プレイヤーを見てチヒロは少しながら驚いた、ソードアート・オンラインではあまり見られない高年齢のプレイヤーだからだ。

高年齢といえど見た目から歳は45〜50くらいと推察できる。

それでもSAOでは平均年齢が25から30頃なので不思議に思うのも無理はない。

 

「ありがとね、でも別に来てもらわなくても良かったんだけどね」

 

男は長めの灰色の髪を揺らし、左手で髭をさすりながらひょうひょうと述べた。

 

「まぁ来てくれたんだからそっち側、お願いしちゃうよ?」

 

そういい男は敵へと向かい右手に持つ刀で斬りつけていった。

男の発言にチヒロは戸惑うもすぐに目の前の敵に集中する。

敵を挟んだ先にガタリがいるのを感じながら眼前の敵をソードスキルで結晶へと変えていく。

ガタリは奥の状況がどうなっているのかわからずにいたがチヒロが向かったのでと信頼し後ろから敵を倒すことに決め下位のソードスキルで敵を斬る。

数も減りチヒロの様子が伺える様になってきた。

目を凝らしチヒロの背後のいる人物を確認し、驚愕した。

 

「・・・何だよ、あれ」

 

彼の目に映ったのは男のプレイヤーがソードスキルなしで敵を次々と倒している様子だった。

見た限りこちらとあちらの敵の数は同じくらいだったのに二人で戦闘をしているこちら側より一人で敵を相手にしている向こう側の方が敵の数が少ない。

ガタリは自分の戦闘の合間に彼を見続けた。

彼の戦いぶりにガタリは魅了されたのだ。

ガタリが向こうに意識がいっている間チヒロは素早く敵を倒していく。

最後の一体を得意のソードスキル<スタッフ・レイン>で倒し、すぐに反対側にいるプレイヤーを助けに行こうと振り向く。

振り向きざまにガタリが目に入り、ガタリの動きがおかしいことに気にかける。

 

「どうしたんですか、ガタリくん?・・・え?そんな!?」

 

チヒロが振り向くと灰色の男性が敵を片付け刀を鞘に収めているところだった。

チヒロもその早さに驚愕した。

こちらは二人で向こうは一人、単純に考えればこちらの方が早く終わり向こうの援護に行く筈だった。

さらにこっちは攻略組で向こうはたかが中層のプレイヤーだ、それが自分らとほぼ同じタイミングで戦闘を終わらせているなどあり得ないのだ。

 

「おっ?お二人さんも終わったみたいだね」

 

そういい男は二人に近づいていき、自己紹介を始める。

 

「ローエルって名だ、嬢ちゃんと坊主も名前を聞かせてくれよ」

 

ローエルはチヒロに右手を出し握手を求める。

チヒロも少し慌てて手を握り、名を名乗る。

 

「わ、私はチヒロって言います、それでこちらが・・・」

「ガタリです、ローエルさんよろしく」

 

チヒロが手を離し、ローエルとガタリが握手を交わす。

 

「・・・赤髪の片手剣と青髪の棍棒使い・・・もしかしてお二人さんは攻略組かい?」

 

手を離しローエルが二人をじっと見て問いかける。

それに答えたのはガタリだ。

 

「そうだけど?」

「やっぱりね、二人とも十闘士のガタリとチヒロだね」

 

その言葉にガタリとチヒロは目を合わせる。

最近、自分達がそう呼ばれているのは知っているがまさかここまで広まっているとは思いもしなかったのだ。

その話はすぐに終わり、ガタリとチヒロはローエルの強さに興味を持っていた。

 

「ローエルさんって、レベルはこの層の安全マージンくらいしかないよね?」

「ん、まぁそうだね」

「それなのになんであんな早くモンスターを倒せたんだ?」

「何だ坊主、おじさんの強さが聞きたいのか?」

 

ローエルはニヤついた顔でガタリに聞く。

 

「かなり聞きたいかな」

 

ガタリもローエルを見返し少し笑みを浮かべる。

けれどローエルは少し声を出して笑い告げた。

 

「ハハハッ、いいね、坊主。けど今回は無しだ」

「どうして?」

「ん〜また何か縁があって会えたらそんときは教えてやるよ」

 

ガタリも仕方ないかと諦め、次会ったら教えてよ。と告けだ。

ローエルはまたもひょうひょうとした態度で二人に別れ、迷宮区の奥へと向かった。

 

「面白い人でしたね」

「ああ、でもローエルとはすぐにまた会う気がするんだよな」

「あっガタリくんもですか?私もそんな気がしてます」

 

二人はローエルが向かった先を見て、ローエルと会えることを楽しみにしていた。

二人は迷宮区を後にして街に戻ると転移で最前線の層へと向かった。

いつもの目眩のような感覚が離れると目の前で誰かが話しあっているのが見えた。

ガタリとチヒロは顔を見合わせその人物達へと近づいた。

未だ外は暗く、近くまで話し合っているプレイヤーが誰か認識出来なかったが、片方は黒の剣士ことキリトなのがわかりガタリが声をかける。

 

「キリト、こんな時間にどうしたんだ?」

 

声をかけられキリトは話を止めて振り向く。

 

「あ、ガタリか。その、この人に依頼されてな・・・」

 

キリトが顔を向けた先にいる人物にガタリとチヒロは視線を移す。

その人は男性で背丈もそこそこあり、見た目はしっかりしていそうだが、とても虚弱しているように伺える。

何かあると踏んだガタリはキリトに事情を聴き、自分も手伝うと考える。

 

「その人は?よかったら俺も聴いていいか?」

「どうします?」

「わ、わたしは構わないです」

 

男性は弱々しい声で肯定する。

チヒロも聞かせて欲しいといい、キリトが事情と依頼の内容を説明した。

彼はギルド<シルバーフラグス>のリーダーらしく中層フロアで活動していた。

とある事情で女性のプレイヤーを引き入れたのだがその女性が実は犯罪ギルド<タイタンズハンド>の一員で彼のギルドを罠にかけ<シルバーフラグス>のリーダー以外を全員死においやったのだ。

そして彼はこの最前線の転移広場で朝から晩まで3日間毎日仇を取ってくれるプレイヤーを探していたのである。

仇といえど頼んだ人に殺してもらうのではなく<タイタンズハンド>を黒鉄宮に閉じ込めて欲しいというものだった。

これを全て説明したキリトはウインドウからアイテムを一つオブジェクト化して取り出す。

そのアイテムはとても貴重なアイテムの一つ回廊結晶だ。

 

「これは彼から預かったものだ、出口は黒鉄宮に繋がっている」

 

ガタリとチヒロはそれを見て彼の執念を感じ取った。

 

「わかった。俺たちも協力する」

「はい、私も手伝いたいです」

 

依頼人は感謝を述べ、涙をこぼす。

キリトは回廊結晶を仕舞うと息を吐き、その重い口を開いた。

 

「言っておくが、相手は人間だ。モンスターじゃない、何をしてくるか分からないからな覚悟だけは持っていてくれ」

 

その言葉にガタリとチヒロは息を飲む。

相手は人間、さらに人を殺めることを躊躇わない奴らだ。

自分達も躊躇などしては彼のギルド同じく死ぬかもしれないのだ。

ガタリは目を閉じる、考えがまとまったのか再び目を開けキリトに言う。

 

「わかった、覚悟だけは決めておく」

「ああ、チヒロもいいか?」

 

チヒロも手を胸に起き覚悟を決めた様子である。

 

「はい、私は大丈夫です」

「よかったよ、また詳細は連絡する。そっちも何かわかったら教えてくれ」

 

話が終わるとキリトは詳しく聞くためか依頼人とともに中層へと向かった。

残されたガタリとチヒロも今日は帰って後日、情報集めをしようとなった。




読んで頂きありがとうございます。

これから少しシリアスな展開が続くかも(・・;)

ではまた次回。
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