タイタンズハンドの情報を得たキリトはいつ以来か迷いの森を歩いていた。
陽が落ち、辺りが暗くなって足場も少し悪い。
そんな中キリトの索敵にプレイヤー反応があった。
彼は隠蔽スキルを使いそのプレイヤーへと近づいていく。
ばれないよう木の陰に隠れ、耳を傾ける。
「大丈夫かなぁ、シリカちゃん・・・やっぱりまずくないか?」
一人の男性プレイヤーが振り返りながら誰かを心配するような素振りで口にする。
「うるさいわね〜、心配だったら一人で行きなさいよね」
赤髪の女性が束ねられた後ろ髪を弄りながら男に言う。
「そんな、ロザリアさんも・・・」
「あっ?なんかいった?」
「す、すいません」
「それでいいのよ、あんなガキんちょ心配するだけ無駄よ無駄」
プレイヤーたちはそのまま迷いの森の出口へと向かっていった。
それを確認したキリトは木の陰から出てプレイヤー達が行った出口の方をみる。
その表情は鋭さの中に驚きがあった。
こんなすぐに目当ての人物が見つかるとは思っていなかったのだ。
彼は急いでメッセージで対象が見つかったことをガタリ達に連絡する。
打ち終え、先ほどのプレイヤーの言葉を思い出し、焦りがでる。
さっきのプレイヤーたちは一人、プレイヤーを置き去りにしてきたのだ、そのことに気がついたキリトは迷いの森奥へと走りだした。
走り出して数分、すぐにそれは見つかった。
モンスターが3体、それに囲まれるようにプレイヤーが一人いる、キリトはそのプレイヤーが今自分の探しているプレイヤーだと直感でわかった。
後ろから奇襲をかけソードスキルでモンスターを一撃ずつで仕留める。
モンスターがポリゴンとなって散った先に短めのツインテールをした少女が座り込んでいた。
するとキリトと少女の間に一枚の白い羽根が舞い落ちてきた。
少女は泣き叫びながらそれをそっとすくった。
「ピナっ・・・!私をひとりにしないでよ、ピナぁぁぁぁあ・・・・・・!」
キリトは戸惑うも近づき、少女に問いかける。
「その羽根は?」
涙を堪えながら少女がこたえる。
「ピナです・・・私の・・・大切な友達です」
「君はビーストテイマーなのか、すまなかった。君の友達、助けられなかった・・・」
キリトの言葉に少女は涙を拭い、首を振った。
「・・・いいえ・・・あたしが・・・バカだったんです・・・。調子に乗って一人で森を抜けられるなんて思って・・・ありがとうございます・・・助けてくれて」
嗚咽を必死に堪えなんとかそれだけ口にする。
キリトは少女に歩み寄り、目の前で跪くと再び遠慮がちな声を発した。
「・・・その羽根だけどな。アイテム名、設定されてるか?」
少女はその言葉に恐る恐る、羽に手を伸ばし、右手の人差し指で羽根の表面をぽんとシングルタッチした。
浮き上がった半透明のウインドウには、重量とアイテム名がひっそり表示されていた。
<ピナの心>
それを見て少女が再び泣き出しかける、その寸前慌ててキリトが声を挟む。
「ま、待った待った。心アイテムが残っていれば、まだ蘇生の可能性がある」
「え!?」
「俺も最近、友人から聞いたことだからまだあんまり知られてないんだ。四十七層の南に<思い出の丘>っていうフィールドダンジョンがある。そのてっぺんに咲く花が、使い魔の蘇生用アイテムらしーーーー」
「ほんとですか!?」
キリトの言葉を遮るように少女が腰を浮かして叫んだ。
悲しみに塞がれた胸の奥に、希望がぱっと差し込んだようだ。だがーーー
「・・・・・・四十七層・・・」
呟き、少女は再び肩を落とした。
「うーん、実費と報酬をぽっちり貰えれば俺が行ってきてもいいんだけどなあ。使い魔を亡くしたビーストテイマー本人が行かないと、肝心の花が咲かないらしいんだよな・・・」
キリトの優し気な言葉に少女が少し微笑み言う。
「いえ・・・。情報だけでも、とってもありがたいです。がんばってレベル上げすれば、いつかは・・・」
「それがそうもいかないんだ。使い魔を蘇生できるのは、死んでから3日だけらしい。それを過ぎると、アイテム名の<心>が<形見>に変化して・・・」
「そんな・・・・・・!」
少女は思わず叫んだ、再び絶望に捕らわれ己の愚かさや無力さ、全てが悔しく涙が滲んでくる。
少女が俯向く中、キリトはその場で立ち上がるとウインドウを操作しだす。
すると少女の前にもシステム窓が現れる、トレードウインドウだ。
キリトが操作をすると少女の前のトレード欄に次々とアイテム名が表示されていく。
「あの・・・」
戸惑いながらも少女が口を開き、キリトはぶっきらぼうな口調で言った。
「この装備で五、六レベルぶん程度底上げできる。俺も一緒に行けば、多分なんとかなるだろう」
「えっ・・・・・・」
口を開きながら少女も立ち上がった。
キリトの真意を測っているのかじっとその顔を見つめ、おずおずと言った。
「なんで・・・そこまでしてくれるんですか・・・?」
少女の言葉には警戒心があった。
それに対しキリトは返答に困って頭を掻く。
視線を逸らして、小声で呟いた。
「・・・マンガじゃあるまいしなぁ。・・・笑わないって約束するなら、言う」
「笑いません」
「君が・・・・・・妹に、似てるから」
あまりにもベタな、キリトの答えに少女は思わず噴き出した。
慌てて片手で口を押さえるが、込み上げてくる笑いを堪えきれていない。
「わ、笑わないって言ったのに・・・」
キリトのいじけた様子に、少女はさらに笑った。
けれど、そのおかげか警戒心は無くなったようにうかがえる。
証拠に少女はぺこりと頭を下げ、言った。
「よろしくお願いします。助けてもらったのに、その上こんなことまで・・・」
少女は目の前のトレードを見ると、操作し自分の所持しているコルの全額を入力した。
「あの・・・こんなんじゃ、ぜんぜん足りないと思うんですけど・・・」
「いや、お金はいいよ、どうせ余ってたものだし、俺がここに来た目的とも、多少被らないでもないから・・・」
そう言ってキリトはお金を受け取らずにOKボタンを押す。
「すみません、何からなにまで・・・。あの、あたし、シリカって言います」
キリトの記憶にシリカの名前はなかった。
それでも頷き、右手を差し出し自分も名乗る。
「俺はキリト。しばらくの間、よろしくな」
二人はぎゅっと握手を交わし、キリトが前を歩いて森を抜けた。
三十五層の主街区へと着いたすぐ二人に、シリカがフリーになった話を早く聞きつけたプレイヤーがパーティーに勧誘してきたが何とか切り抜ける。
話題はすぐに今夜の寝床についてになるがキリトがここに泊まることを決め、二人でシリカの定宿、<風見鶏亭>へと向った。
宿の看板が見えてきたところで、その隣の道具屋から四、五人の集団が出てきた。
シリカの、ここ二週間参加していたパーティーのメンバーだった。
最後尾の女性プレイヤーがちらりと振り向き
、シリカも反射的に相手の眼をまっすぐ見てしまう。
「あら、シリカじゃない」
女性プレイヤーが声をかけてきて、仕方なくシリカも、立ち止まる。
「・・・・・・どうも」
「へぇーえ、森から脱出できたんだ。よかったわね」
「すいません。ーーーー急ぎますから」
シリカはすぐにも会話切り上げようとするが女性プレイヤーは違和感に気づき、嫌な笑みを浮かべる。
「あら?あのトカゲ、どうしちゃったの?」
シリカは唇を噛んだ。
女性は薄い笑いを浮かべながらわざとらしく言葉を続ける。
「あらら、もしかしてぇ・・・?」
「死にました・・・。でも!ピナは絶対生き返らせます!」
シリカの気迫に、先ほどまで笑っていた彼女の目が僅かに見開かれた。
小さく口笛を吹く。
「へぇ、てことは<思い出の丘>に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略できるの?」
シリカが答える前に、キリトがシリカをコートでかばうように前へと進み出た。
「そんなに難易度の高いダンジョンじゃない」
「あんたもその子にたらしこまれた口?見たトコそんなに強そうじゃないけど」
「行こう」
震えるシリカの肩に手を置きキリトは宿屋へ
と向った。
「ま、せいぜい頑張ってね」
女性の笑いを含んだ声が背中を叩くが、シリカは振り返ることはしなかった。
食事を終えた2人は風見鶏亭の二階に上がった。
キリトが取った部屋は、偶然にもシリカの隣だった。
顔を見合わせ、笑いながらお休みを言う。
キリトは部屋に入ると、ガタリに今から話せないかとメッセージを送る。
部屋着に着替える間に返信が来て、すぐに場所を送る。
ガタリとチヒロは十分程度でやって来た。
「キリトいいか?」
扉越しにガタリの声が聞こえてくる。
キリトは座っていた腰を上げ、扉を開けにいく。
「ああ、今開けるよ」
扉を開けるとガタリとチヒロが立っていた。
「よっ」
「お邪魔します、キリト君」
軽く挨拶をして、部屋の中へと案内され四つある椅子の一つずつにそれぞれ腰を下ろす。
「それで、例の件何か分かったのか?」
キリトが話を切り出す。
「ああ、やっぱり例のレッドギルドが絡んでたみたいだ」
「ラフィンコフィンか・・・」
「いま、ナオキ君とユウマ君が調べているんですけどなかなか足取りは掴めていないみたいです」
ラフコフが絡んでいたことにキリトは驚きはしなかった。
それでも、関わっていない事を祈っていた。
依頼を受けた時点でそのことは承知していた、が今日のことでシリカを巻き込んでしまったからだ。
何も知らない彼女を危険に晒すのは流石に気がひける。
「明日、<思い出の丘>に行くけど、そこでタイタンズハンドが仕掛けてくると俺は思う」
「何かあるのか?そこで?」
キリトの事情を知らないガタリとチヒロはどういうことだと問う。
キリトは簡略に説明し、二人にお願いする。
「出来ればシリカを巻き込みたくないけど、あいつらを一気に捕らえるにはこれしかないんだ・・・」
「わかった、けどその子には転移結晶を渡しとけよ」
「ああ、分かってる」
ガタリがウインドウを操作し転移結晶をキリトに手渡す。
キリトも受け取るとすぐにストレージになおす。
そこで扉がノックされた。
「お客さんですか?」
チヒロが立ち上がり、扉の前に向かう。
「あ、あのキリトさん、あたしです。シリカです」
キリトは椅子に座ったまま答える。
「ああ、待って今開けるから」
チヒロに視線を送って開けてくれと頼む。
チヒロもそれを確認するとドアノブに手を置き開ける。
目の前には可愛らしいチュニックを着たシリカが下を向いていた。
シリカは扉が開いたのを見て顔を上げた。
「あのーーーーえ?どなたですか?」
シリカは目の前にいるのがキリトではなく知らない女の子で困惑しだした。
チヒロは小さく笑いシリカに声をかける。
「初めまして、チヒロです。キリト君とはそうですね・・・よく(狩りに)付き合ってもらってます」
「え・・・付き合って・・・キリトさんと・・・」
チヒロの発言にシリカは処理しきれなくなり口をぽかんと開けたまま動かなくなる。
「い、いや、感違いだ、チヒロとはたまにパーティー組んだりしてるだけでそんなことないから」
シリカの反応にキリトは大きく手を振って慌てて訂正する。
隣にいるガタリは片手で口を抑え、もう片方で腹を抱えて笑いを堪え、震えている。
「ふふ、シリカちゃんですよね?キリト君に用事ですか?」
チヒロが優しく微笑んで尋ねてきたことでシリカは平静を取り戻し何度か眼をぱちくりしてから答えた。
「ええと、そのあのーーーーよ、四十七層のこと聞いておきたいと思って!」
キリトはガタリとチヒロを見てどうしようかと悩む。
けれどチヒロがシリカの様子を見て声を出す。
「なら私たちはいいですね。ガタリ君帰りましょう」
「え?別に俺たちが居てもーーーー」
「邪魔したら悪いじゃないですか、行きましょう」
「ああ、分かったよ」
ガタリは少し納得できないまま扉の方へと向かう。
二人が部屋から出る直前チヒロがシリカの耳元で囁いた。
それを聞いて自然とシリカの顔が赤くなっていく。
「キリト君、シリカちゃん、おやすみなさい」
「じゃあなキリト、シリカちゃんに変なことするなよ」
「誰がするか!」
キリトの荒げた声から逃げるように二人は部屋から立ち去った。
階下に向いてながらチヒロが笑ってガタリに声をかける。
「それにしてもキリト君は相変わらず女の子に好かれますね」
ガタリもその言葉で先ほどのことが理解出来たのかなるほどとつぶやく。
「俺が知ってるだけでもこれで三人目だぞ」
その三人とは今はもうこの世にいない月夜の黒猫団のサチと血盟騎士団副団長のアスナ、そしてシリカだ。
「そろそろタクト君かワールン君が闇討ちしそうですね」
「チヒロ、それ冗談にならないから」
二人が仲良く会話して階段を降りるとすれ違い様に怪しげなプレイヤーと出会う。
ガタリはすぐに振り向きそのプレイヤーの肩に手を置いた。
「おい、あんた何処に行く気だ?」
軽く殺気の籠もった声に捕まれたプレイヤーは有無を言わさず逃亡を図り宿屋やから飛び出した。
「チッ、逃がすか!」
「ガタリ君、私が先回りします」
「任せた!」
チヒロがすぐ手前の路地を曲がり先回りする。
ガタリはそのままプレイヤーを追いかけ見失わないよう注意する。
時間的にはそれほど人も多くないので見失う可能性はかなり低い。
男は逃げられないと悟ったのか転移門広場へ向けて駆け始める。
けれどその手前でチヒロが追いついた。
「逃がしませんよ、どうしてキリト君の部屋に行こうとしてたんですか?」
男の目の前に立ちはだかり、逃がさないよう両手を広げる。
男は軽く舌打ちすると腰に下げているポーチを漁る。
取り出したのは青い結晶体、転移結晶だ。
「させるか!」
すかさずガタリが剣を抜き、転移結晶を持つ手をめがけて振り下ろす。
「・・クソッ」
堪らず転移結晶がその手から離れ、甲高い音を立てながら地面を転がる。
なおも男は抵抗し、落ちた転移結晶を拾おうとガタリの脇を抜ける。
「・・・ッ行かせるか!」
ガタリも拾わせまいと片手剣単発突き技<ソニックスラスト>を放つ。
閃光には及ばないが音速で突かれた剣に男は吹き飛ばされーーー
ーーるかと思われたが金属音が響き渡る。
「なっ・・・・⁉︎」
フードを被った刀使いがガタリの前に現れ、ガタリの剣を弾き返したのだ。
ガタリは反射的にバックステップで距離を取った。
フードは顔だけを後ろの男に向ける。
「早く行きな、ここは抑えといてやる」
後ろの男は頷くとすぐに転移結晶を拾い、何処かへと転移した。
「お前もあいつの仲間か?」
警戒を解かずに目の前の刀使いに投げかける。
フードから見える口元が微かに上がったように見えた。
「・・・・・・ッフ」
笑ったと同時に刀使いは地面に何かを投げつけた。
それは地面にぶつかると同時にあたり一面に白い煙を撒き散らし、ガタリ達の視界を遮る。
「やられたッ!、煙玉か!?」
「ガタリ君、大丈夫ですか?」
「何ともない、でも・・・」
少しして煙が消えていく。
ようやく晴れたかと思うとそこには刀使いの姿はなかった。
「何だったんでしょう?」
「わからない、けどあいつがラフコフの一員なのは確実だ」
「え?どうしてですか?」
ガタリは剣を背中に収めると右腕をチヒロに見せる。
「ここに笑った棺桶の刺青があった、あれはラフコフのギルドマークだ」
「そんな!?でもどうしてこんなところに?」
ガタリは首を振り、腕を下げる。
「明日の花取り、俺たちもついていった方がいいかもな」
「そうですね、何かありそうな気がします」
二人は転移門へと向かった。
ガタリは先ほどの刀使いに何処か親しみを感じていた。
何度か交えた刀と何処か似ている気がする。
「・・・・・・ただの思い過ごしだよな」
「?」
ガタリの言葉がぼそりと聞こえたチヒロは顔を覗かせる。
けれどガタリは特に気にしたそぶりを見せず転移した。
読んで頂きありがとうございます。
やはり文才が無いので難しいです。
ではまた次回。