ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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現れた棺桶

あたり一面に引かれた花の絨毯、それが四十七層におけるガタリのイメージだ。

慣れ親しんだ目眩のような感覚が離れていく。

ガタリが目を開けると目の前に無数の花々が溢れかえり、咲き誇っていた。

 

「うーん、やっぱりここはすごいですね」

 

ガタリと同時に転移したチヒロが目の前の光景に、ぱぁと表情が明るくなる。

 

「確かにな、でも北のほうにあるダンジョンもかなり凄かったよな」

「巨大花の森でしたよね、あれは楽しかったです」

 

以前来た思い出に浸る二人の目の前を小さなてんとう虫のようなものが横切る。

チヒロが一瞬釣られて空を見上げる。

 

「あっ⁉︎」

 

声を上げたのはガタリだ、飛んで来た方を見るとキリトと赤色の防具を装備したシリカがいた。

シリカが周りを見ると、慌ててキリトを連れて思い出の丘へと向かった。

 

「どうしたんだ?」

「何がですか?」

「いや、あれなんだけど?」

 

ガタリは首を傾けて目の前の二人を指差す。

チヒロがシリカを見るとシリカと同じ様に周囲を見渡す。

 

「あっ・・・ぅぅ、ガタリ君、私達もついていきましょう!」

「え?ああ、そうだな」

 

チヒロの言葉に判断が少し遅れるもガタリ達はキリト達の後を追う。

しばらく前の二人と一定の距離を保ちながら歩いていく。

前の二人を見つめているガタリを横目で見ていたチヒロがいつもの落ち着いた口調で話しかける。

 

「ガタリ君、一つ聞いていいですか?」

「いいよ、何でも聞いてくれ」

 

ガタリが話しかけてきたチヒロを見る。

 

「マルカちゃんとタクトくんとの話を聞きたくて」

 

チヒロの突拍子のない言葉にガタリは少し間を置いてから口を開いた。

 

「・・・・・・急にどうしんだ?」

「その、3人っていつも一緒に居ることが多いので昔からの知り合いなのかなって思って・・・」

 

ガタリはまた少し黙ってしまった。マルカとタクトの関係を話すと言うことは現実世界のことも話さなければならないからだ。

けれどチヒロにならと昔の事を思い出しながら語りだす。

 

「・・・タクトとは小さい頃からの友達でマルカは俺たちが小学四年生の頃に家の近くに引っ越して来たんだ」

 

軽くチヒロの様子を伺って言葉を続ける。

 

「タクトの方は親同士の仲が良かったのもあってあっちにいた時は殆ど毎日顔を合わせてたな。・・・マルカは、一つの事件というかきっかけがあって、マルカの方から何かあれば来るようになってそれで何となくだったけどいつも一緒にいたんだ」

「きっかけですか?」

「詳しくは話せないんだけどその事件が起こる前まで俺とマルカには特に接点は無かった、でもそのおかげで今こうしてあいつらとやっていけてるんだ」

 

照れた素振りを見せて話すガタリにチヒロはこの三人の仲に自分が割り込む隙はないと悟ってしまった。

マルカやタクトと向こうで過ごした時間は自分とガタリが過ごした時間よりも圧倒的に長く埋められない差があることに少し気を落とす。

 

「ガタリ君は早く元の世界に戻って前のように過ごしたいって思いますか?」

 

弱々しく聞こえたチヒロの言葉にガタリは一歩前に出てチヒロを背中に喋り出す。

 

「以前はそうだった・・・この世界から解放されて、前みたくみんなと向こうで仲良く過ごしたいって思ってた。」

 

そのセリフにチヒロは更に気を落とし、顔も下を向き始める

けれどガタリがピタッと歩みを止めたと同時にチヒロの顔がガタリを見ようと上がる。

 

「・・・ガタリ君?」

 

ガタリは振り向き、めいいっぱいの笑顔でチヒロに言い放つ。

 

「でも今はこの瞬間を大事にしたいって思ってる。ここにマルカとタクトと来たこと、マルカやキリトに出会えた事、ここで手に入れたものを大切にしたいんだ。俺はここに来たことは無駄なんかじゃなかったって向こうの人にも伝えるためにさ」

 

そう言うとガタリはクルッと回って再び前を歩き出す。

 

「行こうぜ、チヒロ。過ごした時間なんて関係ないよ、俺はチヒロもタクトやマルカと同じ様に仲良くなりたいからさ」

「私もこの世界に来てよかったです」

 

チヒロはガタリを追いかけ横に並ぶ。

その顔には何か吹っ切れた様にとても爽やかで清々しかった。

けれどそれも一瞬だった。

 

「きゃあーーーー!」

 

悲鳴の先をガタリとチヒロは反射的に見る。

そこにはシリカが動く植物に捉えられ宙で逆さまになっている姿があった。

それを見た瞬間ガタリは自分の隣から物凄い殺気を感じ取り、冷や汗を流しながら手で目を覆う。

 

「・・・・・・ガタリくん?」

「待て、チヒロ。俺は見てない、何も見てない!」

「そうですか」

「ああ、白っぽいものなんて見てない」

「見てるじゃないですか!!」

 

チヒロがガタリの前に出てスタスタと前を歩き出す。

 

「ガタリ君は変態です。ロリコンです。」

「ロリっ!?ってどこでそんな言葉を覚えたんだ!?あと違う、これは不可効力で」

「知りません!」

「待って!チヒロ!」

 

ガタリが情け無い声を上げながらチヒロの後を追い、チヒロはガタリのそんな姿を見て微笑んだ。

 

 

しばらく、前を歩いているキリトとシリカの様子を後ろから見守っていると、小さな橋が見えてきた。

更に先には道が丘を巻くように頂上まで続いている。

 

「やっと頂上が見えてきたな」

「あの丘でプネウマの花が咲くんですよね?」

「うん、そのはず、この前ワカナから聞いた事だけど」

 

橋を渡り切り、前を歩く二人を見ると何度か出たモンスターをキリトが支援しながら倒している姿が伺えた。

どうやら頂上までもう少しといったところだ。

 

「こっちに戻ってくるだろうしここで待っておくか」

「はい、とりあえずここまで何も起きませんでしたね?」

 

山道にある木に二人で身を隠す。

チヒロはここまで特に何も起きなかった事に安堵する。

けれどガタリの表情はまだどこか警戒をしているように見える。

 

「でも来るとしたら帰路だと思う」

「・・・・・・やっぱりプネウマの花を狙ってきますよね」

「ああ、一応帰りも距離を取りながら後を追うけど、いつでも対処出来るようにしといていいだろうな」

 

コクっと頷き右手に持つ棍棒を僅かに強く握る。

きっとプレイヤー相手に振るう事になるだろう事態を想像して鼓動が速くなるのを感じる。

鼓動が落ち着いた頃にはキリトとシリカは降りて来て橋を渡るところだった。

またある程度距離が出来てからガタリとチヒロも木の陰から出ようとした時キリトの足が止まったのが見えた。

 

「ーーそこで待ち伏せてる奴、出てこいよ」

「え⁉︎・・・・・・」

 

キリトの一際低く張った声が聞こえてきた。

その言葉がガタリ達に発せられた言葉でないことをガタリとチヒロはわかっている。

疑問の声を挙げたのはシリカだ、慌てて木立に目を凝らし始める。

ガタリもすぐに索敵スキルに切り替え、橋の向こうにいるプレイヤーを見つける。

 

「意外と早かったな」

 

小さくチヒロだけが聞こえる声で呟いた。

少し経ったところで一人、プレイヤーが現れた。

ガタリとチヒロはその人物が誰なのかは知らない。

けれど真っ赤な髪と唇、黒いレザーアーマーを装備した槍使いなのを見て依頼された標的なのがすぐにわかった。

 

側から見ているガタリ達にはキリトとロザリアがどんな会話をしているのかわからないが大方ロザリアがプネウマの花を盗みに来たといったところだろうと見当を付けていた。

少し近づいたところでキリトがシリカの肩に手を置き、ロザリアに声をかけた。

 

「俺もあんたを探してたのさ、ロザリアさん」

「ーーーどういうことかしら?」

「あんた、十日前に、三十八層で<シルバーフラグス>っていうギルドを襲ったな。メンバー四人が殺されて、リーダーだけが脱出した」

「・・・・・・ああ、あの貧乏な連中ね」

「リーダーだった男はな、毎日朝から晩まで、最前線のゲート広場で泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探してたよ」

 

キリトの声に周りが凍りつくような感覚に陥る。

ガタリとチヒロでさえ、キリトの殺気に似たものにゾワリとした感覚になる。

 

「でもその男は、依頼を引き受けた俺に向かって、あんたらを殺してくれとは言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれと、そう言ったよ。ーーーあんたに、奴の気持ちが解るか?」

「解んないわよ」

 

「アイツ!!!」

 

面倒くさそうに答えるロザリアにガタリがつい飛び出そうとする。

けれどチヒロがガタリに抱き付いて言葉をかける。

 

「ダメです、ガタリ君!ここは堪えてください!」

「チヒロ・・・ごめん、ついカッとなった」

 

ガタリが冷静になったのを見てチヒロはガタリから手を離す。

 

「い、いえ、私も同じ気持ちですから」

 

僅かに紅くなった頬を隠すため俯き、キリトの様子を伺うとロザリアがその口をさらに紡ぐ。

 

「何よ、マジになっちゃって、馬鹿みたい。ここで人を殺したって、ホントにその人が死ぬ証拠ないし。そんなんで、現実に戻った時罪になるわけないわよ。それより自分達の心配をした方がいいんじゃない?」

 

ロザリアの唇がきゅっと嗜虐的な笑みを刻んだ。

右手の指で音を立てると、橋の向こう側に並ぶ木々から幾つものカーソルが現れた。

殆どがオレンジで、後ろにいる三人のグリーンカーソルのうち、針山のように尖った髪型は昨日ガタリとチヒロが取り逃がしたプレイヤーだった。

新たに現れた十一人のうち後ろの二人がフードを被って人相がわからないことにキリトは訝しむ。

シリカが激しい嫌悪を感じて、キリトのコートの陰に姿を隠し、小声で囁きかける。

 

「き、キリトさん・・・人数が多すぎます、脱出しないと・・・!」

「だいじょうぶ。俺が逃げろ、と言うまでは、結晶を用意してそこで見てればいいよ」

 

シリカの頭にぽん、と手を置きそのまますたすたと盗賊の前へと向かう。

幾ら何でも無茶だ、そう思って再びシリカが呼びかけようとする。

 

「キリ「キリト!!」⁉︎」

 

シリカの声を遮るようにキリト達の背後から声がかかる。

後ろからのキリトを呼ぶ大声にシリカはすぐに後ろを見る、すると昨日キリトの部屋で見た男と女の人が立っていることに目を見開く。

 

「俺たちも加勢するか?」

 

ガタリは背中の剣を掴み、僅かに笑みを浮かべてキリトに問いかける。

それに対しキリトは首を振って前に向き直った。

 

「いや、いい。そこでシリカを守っていてくれ」

 

そう言い残し剣を抜く。

 

「キリト・・・?」

 

不意に、賊の一人が呟いた。記憶をさぐるようキリトを見つめる。

 

「その格好・・・盾無しの片手剣・・・---<黒の剣士>・・・?」

 

賊は顔を蒼白にして後ずさった。

それを見て、後ろでシリカの護衛を任されたチヒロとガタリが顔を合わせて声を出さずに笑った。

シリカは何故笑っているのかと頭に?を浮かべるが、次の賊の発言にシリカも驚愕することになる。

 

「や、やばいよ、ロザリアさん。こいつ・・・ビーターの攻略組だ・・・」

 

男の言葉を聞いた残りのメンバーの顔が、一様に、強張った。

シリカも呆気に取られ、後ろにいる二人も同じ攻略組なのかと次の疑問も浮かぶ。

これを聞いて賊達の動きが止まっている中、フードの一人が威圧のある声で声を響かせる。

 

「何を怖気ついている!」

 

その声に我に返ったロザリアが甲高い声で喚く。

 

「こ、攻略組がこんなとこをウロウロしているわけないじゃない!ほらとっとと始末して!」

 

その声に勢いづいた、賊達が様々な色のエフェクトを手持ちの武器に纏わせキリトに襲いかかる。

 

「オラァァァ!!」

「死ねやァァァ!!」

 

俯いて立ち尽くすキリトに賊が次々と斬りかかる。

 

「いやあああ!キリトさん無理だよ!・・・お願いします、キリトさんを助けてください!」

 

シリカは絶叫し、後ろにいるガタリとチヒロに懇願する。

けれど、ガタリとチヒロは助けに行く素振りを見せず、チヒロがキリトを指差しながら告げる。

 

「よく見てください、シリカちゃん。キリト君なら大丈夫ですよ」

「・・・え⁉︎」

 

振り向きキリトをジッと見つめて、あることに気がつくと声が漏れた。

キリトのHPバーが減っていないのだ。

正確には減ってもすぐに回復している。

やがて男達の動きが止まる。

 

「あんたら何やってんだ!さっさと殺しな!」

 

しかし賊達は動きを見せない、キリトはゆっくりと顔を上げ、静かな声を流す。

 

「十秒あたり四百ってとこか。それがあんたらが俺に与えるダメージの総量だ。俺はバトルヒーリングスキルで十秒で六百ポイント回復する。何時間攻撃しても俺は倒せないよ」

 

男達は愕然としたように口を開け、立ち尽くした。やがて、賊の一人が掠れ声で言った。

 

「そんなの、そんなのアリかよ。・・・ムチャクチャじゃねぇかよ」

「そうだ!たかが数字が増えるだけでそこまで無茶な差がつくんだ。それがレベル制MMOの理不尽さなんだ!」

 

キリトは抑えがたい何かを吐き捨てるように声を荒げる。

 

「これは、俺に依頼した男が全財産をはたいて買った回廊結晶だ。監獄エリアが出口に設定してある。全員これで牢屋に跳んでもらう」

 

賊達は諦めたのか唇を噛みしめる。

そんな中ロザリアは最後の抵抗と言わんばかりに手持ちの槍を構えて叫ぶ。

 

「グリーンのあたしを傷つければあんたがオレンジに・・・」

 

ロザリアの言葉が終わる直前にキリトは賊達の包囲を抜けロザリアへと迫った。

キリトの剣はロザリアの首元で止まるはずだったーーー。

しかし、ロザリアの後ろで今まで特に動きを見せなかったフードの片割れが間に割り込みキリトの剣を受け止めた。

 

「・・・何⁉︎」

「そうは、行かない、<黒の剣士>」

 

接近してキリトの剣を止めたフードのプレイヤーの顔がチラッと窺えた。

それを見たキリトは何故こんな所に?と驚きを、露わにする。

 

「久し、振りだ。<黒の剣士>」

「お前は、ラフィンコフィンのザザ!!」

 

キリトが名前を言い放った瞬間、後ろで見ていたガタリとチヒロは目を見開いた。

何故こんなとこにレッドギルドがさらに赤眼のザザはプーの側近の一人、そいつが何故と疑問が頭の中を駆け巡る。

ザザは特徴的な赤い眼光を瞬かせ、キリトと距離を取った。

 

「出るのが早いぞ、ザザ」

「すまない、つい、気が、高ぶった」

 

もう片方のフードを被ったプレイヤーがザザに向かって言い放つ。

 

「仕方ない、俺も出るとしよう」

「キリトは、俺が、殺る」

 

ザザではない、フードを被っていたプレイヤーはフードを投げ捨てた。

その容姿に、この場にいる全員が目を奪われた。

全体的に長めの銀髪にエメラルドの眼、細身で高さのある背丈に白い服を装備しており、気品のある雰囲気を醸し出していた。

けれどその気品の中に、もの凄い殺気が見え隠れしていることにガタリだけが気がついた。

 

「チヒロ、シリカと一緒にもう少し下がってろ。あいつはヤバイ」

「ガタリ君?」

 

チヒロは戸惑うが素直にガタリの言葉を聞き、チヒロの手を握って橋を下った。

シリカはキリトの事が心配になり、奥の二人を睨み、もう一度キリトを見るときにキリトの姿が消えたことに驚いた。

キリトは消えたのではない、全速力で襲い掛かってきたザザを迎え撃ちに行ったのだ。

 

「相変わらず、反応は、いいな」

「お前も相変わらず悪趣味な眼をしやがって」

 

二人は軽口を叩きながらお互いの武器をぶつけ合う。

ザザの持つエストックがキリトを貫かんと心臓を狙う。

しかしキリトは手に持つ剣で受け流していく。

シリカにはその動きがどれも追いつけずにいた。

これを見て、シリカは最前線で戦う者の凄さをひしひしと感じる。

二人の剣劇に目を奪われていたからか自分の目の前にきた、銀髪の男に対して反応が遅れてしまった。

 

「雑魚か、死ね」

「!!」

 

声を出す暇もなく、振りを下された曲刀を見るしかなかった。

キィィン

シリカは金属音が耳に届くと同時に尻餅をついた。

 

「あ、ありがとうござい・・・」

「下がってろ、出来れば転移結晶で逃げてほしいけどな」

 

自分を助けてくれた少年が冷たく言い放った言葉に今の自分が足手まといなことを実感させられた。

しかし、キリトの事が心配でここから動けない。

そのことはガタリも承知だ、だから後ろに下がれと言ったのだ。

 

「ほう、少しはできるみたいだな」

「お前もラフコフのメンバーか?」

 

両者、相手の動きを見逃さないよう視線をそのままに話す。

 

「ああ、そうだ」

「そんだけ目立つ容姿なら知られてても可笑しくないはずなんだけどな、名前は?」

「最近加入したんだ、名はインペラートル」

「成る程ね、インペラートルか。俺はガタリだ」

「知っている、攻略組、十闘士の一人だろう?後ろにいるのがチヒロだ」

「へぇ、よく知ってるんだな」

「ヘッドが攻略組に関心を持っていて、特に黒の剣士、閃光、聖騎士、十闘士にはかなりの興味があるみたいだからな」

「そりゃどうも、でなんでラフコフがこんなとこにいるんだ?」

「ふっ、教えると思うか?」

「なら、力強くで教えてもらうさ」

 

ガタリが先手を取るために片手剣突進技<レイジスパイク>を放つ。

だがそれをいとも容易くインペラートルは躱して見せた。

 

「なっ!?」

 

完全に貰ったと思った攻撃をパリィでもなく躱されたことにガタリは驚くがそんな暇も無くインペラートルが仕掛けてくる。

 

「ちぃッ!」

 

何とかギリギリで受け止めることに成功するがインペラートルの攻撃は止まらず嵐のように襲ってくる。

今も先手を打ったはずのガタリが最初の一撃以降一度も攻撃出来ない状況が続いている。

ーーーどうして反撃する、チャンスが無いんだ。

そんなことをガタリは思う。

反撃をしたくとも相手に隙が無く、こちらが攻勢に移ろうにもタイミングが無い、あったとしても潰されるのだ。

相手の攻撃を受けたわけでは無いがこうも一方的だと精神的にやられてくる。

それが積み重なり、ガタリはついソードスキルを発動してしまった。

 

「・・・しまった!」

 

気づいた時にはもう遅い、インペラートルは罠にかかった獲物を見るように笑みを漏らす。

流石にソードスキルを受ける事は出来ないのでインペラートルはガタリのソードスキルを全て避けた。

そして最後の一振りが終わった所を狙い定め、曲刀技<リーバー>を放った。

それを諸に受けたガタリは橋の壁にぶつかる。

 

「攻略組といってもこの程度か・・・」

 

インペラートルが詰まらなさそうに刀を払う。

 

「うっ・・・」

「所詮、ゲームの中で強いって言ったところか・・・・・・まだ向こうのやつの方が手応えが有りそうだけどな」

 

ガタリは立ち上がりながら自分のHPを確認する。

フルであったHPから二割ほど削られている。

圧倒的な力量の差にただ戦っては勝てないことを理解した。

 

「ヘッドには悪いがこの程度では我々の邪魔になる心配など無いようだ」

 

インペラートルはガタリから興味を失ったのか視線を外し、キリトとザザの戦闘を観る。

それを隙だと思い、ガタリが再びい目掛けて剣を振るった。

 

「よそ見なんてしてる暇ねぇぞ!」

 

大上段から放たれた<バーチカル>、今度こそは決まったとガタリは確信を持って振り下ろす。

しかし、インペラートルは左手に持つ曲刀のみを動かしてガタリの<バーチカル>を受け止めた。

 

「・・・嘘・・・だろ・・・?」

 

自分の想定外の動きをされたことに動揺したガタリ。

インペラートルは空いている右手でガタリの腹に体術スキル<閃打>を打ち込み吹き飛ばす。

 

「ふぐぅッ!」

 

腹を殴られ、痛みでは無いが込み上げてくる吐き気に襲われる。

何とか着地には成功するも腹に気を取られ、眼前に迫っているインペラートルに気付くのが遅れた。

しかし、インペラートルは攻撃するわけでもなく目の前に立ち尽くしているだけであった。

ガタリはすぐさま距離を取り、剣を構え直す。

 

「何で攻撃してこなかった?余裕か?」

 

ガタリの問いにインペラートルは曲刀を鞘に収めながら応えた。

 

「そんなのでは無いさ、もう貴様の相手をするのに飽きただけだ。」

「何だと!?」

「たかが1年ちょっと剣を振ってた奴に負けるわけが無い」

 

インペラートルがウインドウを操作しだす。けれどガタリはその場から動かずインペラートルの言葉を聞く。

 

「俺はお前達と違って向こうでも剣で人間と撃ち合っていた。まあ、あのキリトとかいうやつは剣道とかを齧っていそうだがな。」

 

そう言ってキリトの方を見る、それにつられガタリもキリトの方に視線がいく。

キリトとザザの戦いは互角のように見えるが、キリトが押している。

けれど、決定的な攻撃を出せずぶつかっては距離を取り、またぶつかるを繰り返していた。

レベルの高い戦いを見ているとインペラートルが口を開いた。

 

「まぁいい、そろそろ終わらせるか」

 

そう言ってウインドウの操作を終わらせる。

新たに左手に現れた刀は毒々しい色合いを放ち出していた。

 

「・・・ッ」

 

来るか?と身構えインペラートルの攻撃に備えインペラートルを見つめる。

刀が黒く輝き出す、ガタリは構えと剣の光の色から曲刀突進技<ファントム・エッジ>だと予測し、こちらも同じ突進技で迎え撃とうと試みる。

瞬間、インペラートルの身体がぶれた。

慌てて<ソニック・リープ>を放とうとするがすでに遅かった。

 

「・・・なっ!?」

「終わりだ、十闘士ガタリ」

 

インペラートルは刀を鞘に収め目を閉じる。

その背後ではガタリが両足を斬られ部位欠損を起こし、その場で倒れ込み、インペラートルはガタリに向き直すと刀に手を置いた。

 

「これで殺したつもりだったのだがな、これでも攻略組か、流石に削り切れなかったか」

「・・・・・・」

 

このままでは殺されると理解しているが体が動かない、当然だ、ガタリの両足は欠損しており後、数分経たなければ戻らないのだ。

ザザと撃ち合っていたキリトがガタリの様子に気づき叫ぶ。

 

「ガタリッ!!クソッ!」

 

ザザとの戦いを止め、急いでガタリの下へと駆け出す。

しかし横からエストックが突かれ足を止める。

 

「キリト、お前の、相手は、俺だ」

「そこを退け!ザザ!」

「行かせると、思うか?」

 

目の前で殺されそうとするガタリを見て、キリトの中で黒猫団の事がフラッシュバックする。

ーーーこのままではあの時と同じだ、俺はまた助けられないのか。

そんなキリトの前でインペラートルは刀を抜き直しガタリの顔の前に突き出す。

 

「悔やむなら己の弱さを悔やめ、ガタリ」

「やめろォーーー!!」

「ガタリくーーん!!」

 

キリトとチヒロの絶叫がフィールドを迸る。

インペラートルが刀を降り下ろさんとした、その時、キリトとザザの真横を疾風が吹いた。

いや、それはプレイヤーだった、突然の事にザザも止める事が出来ず、素通りを許してしまった。

灰色をした疾風はそのままインペラートルにぶつかった。

 

ギィィン

 

「誰だ、貴様?」

「大人には敬語を使わないといけないって習わなかったのかい?小僧」

 

疾風の正体はガタリが数日前出会った男性、ローエルだった。

互いに一歩も譲るまいと剣を交えたままに口を動かしていた。

けれど、それを嫌ってかインペラートルが右手でローエルに攻撃をしかける、それに気付きすぐさまローエルはバックステップで距離を取った。

 

「あんたは、この間迷宮区に居た」

「ん?あの時の坊主じゃねぇか、どうしたんだい?ずいぶんボロボロだけど」

 

相変わらずの軽い口調でガタリに話し掛ける。

 

「あいつら、レッドギルドなんだ、知ってるか?」

「レッドギルド?・・・確か、殺し専門のギルドだったな」

 

レッドギルドと聞かされ、ローエルの目が鋭くなって、向かいにいるインペラートルをみる。

 

「ローエルさん、さっきは助かりました・・・でも逃げてくれ、あんたのレベルじゃあいつらには勝てない!」

「おや?坊主、おじさんが信用できないのかい?」

 

そう言うとローエルはガタリから離れてインペラートルへと歩いていく。

二人の会話を聞いていたインペラートルの顔が僅かに歪む。

 

「・・・ローエル。聞いた事があるな、確か最近俺たちの周りをウロチョロしているやつの名がそんなのだったか」

「何だ、おじさんも有名になったんだねぇ」

「まぁどうでもいい、ここで死ぬんだ。覚えておく必要もあるまい」

「そうかい、なめられたもんだ。・・・・・小僧、年寄りを舐めたらダメだぜ」

 

ローエルの台詞が終わると同時に二人は地を蹴った。

十メートルも無かった距離は一瞬でゼロとなって両者スピードを乗せたままに剣を振るう。

銀と紫の刀が激突し、火花が飛び散る。どちらもソードスキルを放つ様子は無く、ローエルが刀を両手で持ち直し、大上段に構える。

 

「ハアッ!」

 

短い気勢を乗せてはなたれた垂直斬り、それを避ける、受ける事が出来ないことはインペラートルはすぐにわかった。

何とか身を傾け直撃を交わすも右腕に深く斬り込まれた。

斬られたことに不快感を感じたのかインペラートルは顔を歪ませる。しかしやられてばかりではいられまいと左足でローエルの手を蹴り飛ばす。

ローエルは刀が手から溢れそうになるのを堪え何とか左手だけで刀を握る。

しかしインペラートルは左足を振ったことで半身となる。そのまま上体も反らし、剣を持つ左手に力を込める。

紫の刀身が徐々に黒く輝き出す。

 

「・・・・・・!」

 

無言で放たれた<ファントム・エッジ>は辛くもローエルの右脇を切り裂くに終わった。

 

「・・・・・・小細工が好きなようだな」

「どっちがだい、おたくも粋なマネするじゃねぇか」

 

ローエルはソードスキルが発動する直前に空いた右手で蹴った左足を僅かに下へと落としたのだ。

その僅かにずれた重心のせいで肩を切り裂くつもりが脇腹で終わってしまった。

再び激突し、剣を交えるのかと思ったがそれは無かった。

インペラートルの下にメッセージが届いたのだ。

 

「・・・ヘッドからか、仕方あるまい。退くぞ、ザザ!」

 

そう言うと刀を収め、転移結晶を取り出した。

 

「逃げるのかい?ここからが本番だろうに」

「何を言っている?そこに転がっている雑魚を守りながら貴様が勝てると思っているのか?」

 

ザザもキリトとの戦闘を中断しインペラートルの近くに向かう。その手には同じく、転移結晶が握られていた。

 

「目的はあらかた達成した、ヘッドには報告しておくさ、貴方が興味を持っていた十闘士はつまらない塵でしたとな」

 

ガタリに向かって言い放つとインペラートルとザザに青いテレポートの光が迸った。

消える直前インペラートルはガタリを見下し、ガタリの視界から消え去った。

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

今回は少し長くなったので変なところで切りました。

ザザはあんな感じであっているのかと不安です(・・;)

ではまた次回。
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