ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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圏内事件

かくして、カマクとメユはキリトとアスナを尾行し、59層から転移門経由で57層の主街区<マーテン>へと移動した。

周囲の視線が前を歩く二人にいっているおかげかカマクとメユの尾行がばれることがなく、NPCレストランへとすんなり入った。

 

「へへ、こういうのって結構ワクワクしますよね」

「確かに。このバレるかどうかの緊張感、病みつきになりそうだ」

 

キリトとアスナの机から少し距離を取った二人はチラチラとキリトらの様子を伺う。

娯楽の少ないアインクラッドではこういった行為をする奴は多いが、褒められたものでないことを二人とも知っている。

しかし、まさかあの黒の剣士が血盟騎士団副団長と二人で食事など興味がそそられて当然なのかもしれない。

周囲の視線も、あの二人に集中しているのだ。

 

「案外楽しそうに話してますね」

「ああ、こりゃ近い内に何かしてやらねぇとな」

「カマク、悪戯する気満々なのが顔に出てますよ」

「酷い誤解だ!俺はどんな応援をしようかと思っていてだな」

 

つい、あの二人にどんな悪戯もとい応援をするかと、企んでいるのが顔に出てしまう。

それをメユから指摘され、カマクは咄嗟に目の前にあるフルートグラスを口にした。

その時、何処からか恐怖の悲鳴が聞こえた。

 

「・・・・・・きゃああああ!!」

 

つい飲んでいたものが気管に入りむせるカマク。

それを拭いているとアスナとキリトが店から出て行くのが見えた。

 

「カマク!私達も行きましょう!」

「ケホッ・・・あ、ああ」

 

何とか咳を止めて表通りへと出る。

流石に敏捷値で劣っているカマクとメユが二人に追いつくことは出来ないが全力の限り走り、広場に着くと信じれないものを目にした。

 

「早く抜け!!」

 

キリトが教会らしき建物の飾り窓から一本のロープでぶら下がっている男に向かって叫んだ。

それを聞きカマクはその男を注視する。

男の胸には深々と一本の黒い短槍が貫かれていた。

キリトの声に男は反応し、槍を抜こうとするが、武器が抜ける様子はない。

集まってきた野次馬もあり得ない状況に困惑、恐怖などで動く気配が無い。

それを見かねたカマクは隣にいるメユを置いてぶら下がっている男の下へと向かい、声を出す。

 

「キリト!俺が下で受け止める!お前は教会からロープを切れ!」

「カマク!?わ、わかった!!」

 

ここにカマクがいた事に驚くが直ぐにカマクの言葉に返事をし、教会へと駆け出した。

ーーしかし。

真下に向かう途中、カマクは男のヘルメット越しに見えた両目が、空中の一点を凝視している事に気付いた。

それを直感的に察した。

それは自分のHPバーで、さらにそれがゼロになる瞬間だと。

カマクの目には広場に悲鳴と驚声が満ちていく中で、男は何かを叫んでいるように見えた。

そして、ガラスが割れるような音とともに男の体が爆散した。

カマク、アスナ、メユは散ったポリゴンの欠片をただ見上げた。

ロープがくたりと壁面にぶつかり、直後凶器である短槍がカマクの目の前の石畳に、重い金属音を響かせ突き立った。

無数のプレイヤーの悲鳴が、幾つもこだまする。

そんな中、カマクは人が死んだショックを押し殺し、冷静に分析を始める。

安全圏、アンチクリミナルコード有効圏内であるこの場でプレイヤーがHPにダメージを受け尚且つ死ぬには完全決着モードのデュエルを承諾した以外にはあり得ない。

ならばデュエルのウィナー表示が何処かにあるはず、そこまで考えると辺りを見渡しボス戦と同じような緊迫した声で騒めきを制する。

 

「何処かにデュエルのウィナー表示があるはずだ!みんな探してくれ!」

 

プレイヤー達は即座にカマクの意図を悟って四方八方へと視線を走らせる。

この時点で男が死んで十五秒経つ。

ウィナー表示は三十秒しか表示されない、焦りを感じながらも発見の声は聞こえてこない。

ここに無いのであれば建物の内部かと思い窓から顔を出しているキリトを見るが既に探していたのか首を横に振った。

 

「こっちにはシステム窓どころか、プレイヤーも見当たらない!」

「・・・クソ、何でだ・・・」

 

ここまで来て焦りが増してくる。

しかし、時間はすぐに経ち、カマクの近くに来たメユがぼそりと呟いた。

 

「三十秒経ちました、カマク」

「そうか・・・・・・」

 

探すのを諦め、カマクは教会に向かい歩いた。それを追うようにメユとアスナもついて行く。

二階に着くと順番に部屋を確認し、プレイヤーが居ないか見るが見つけられず、舌打ちをしつつ、カマク達はキリトの居る問題の部屋に足を踏み入れた。

窓際に居たキリトが振り向いた、その表情には僅かにショックを受けているのが感じられる。

 

「教会は居なかったか?」

「ああ、隠蔽付きのアイテムで隠れてることも無いだろうな。一応教会の入り口にプレイヤーを立たせている」

「そうか・・・取り敢えずこれを回収したけど」

 

そう言って見せたのは男が吊るされていた黒光りしたロープだ。

アスナがそれを見てキリトに問いかける。

 

「それは?」

「さっきのプレイヤーが吊るされてたやつだ」

「普通に考えりゃあ、デュエル相手がロープで括り付け、さらに胸に槍を突き刺して、窓がら突き落としたってところだな」

 

カマクが窓から顔を覗かせながら今起きた状況の予測を語る。

 

「見せしめのつもりですかね・・・?でも・・・」

 

嫌悪の表情を浮かべ、メユが次の言葉を口にしようするがカマクがそれを引き継ぎ、明瞭な声で告げる。

 

「ああ、ウィナー表示が何処にも見当たらなかった。圏内でプレイヤーのHPにダメージを与えるにはデュエルしかない。これは絶対だ。」

「・・・ええ、その通りね」

 

アスナが頷くと他の2人もコクリと小さく首を縦に振る。

彼らの中で沈黙が訪れるが、窓から外にいるプレイヤー達の喧騒が途切れることなく聞こえてくる。

やがて、外を見ていたカマクが振り向き、言った。

 

「このまま放置するわけには行かない。<圏内殺人>が出来ると知れ渡れば、対策が必要になる」

「・・・このメンバーは珍しいが、今回はやるしかないみたいだな」

 

キリトの発言にアスナが僅かに口を綻ばせ、右手を伸ばし出す。

 

「なら解決まで協力してもらうわよ。言っとくけど、昼寝もデートの時間もありませんから」

「あ、バレてましたか」

 

メユがチロッと舌を出して誤魔化す。

 

「当たり前じゃない!あんなのいつもされてるストーカーより分かりやすいわよ」

「え!?いつもされてるのか?てか俺たちつけられてたの?」

「そんなことは後よ!早く手を出しなさいよ!」

「お、おう」

 

1人で手を出していることに恥ずかしくなったのかキリトを急かし、慌てて右手をアスナの手に重ねる。

 

「仕方ありませんね。カマク、デートはまたお預けです」

「俺はデートをしたいとは言ってないんだが・・・」

 

メユがカマクの手を引き、更に手を重ねていく。

白、黒、青、灰色の順で手が重なる。

ここに4人の圏内殺人解決探偵団が出来上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

教会から出るなりキリトが手を挙げて広場のプレイヤー達に声を掛けた。

 

「すまない、さっきの一件を最初から見てた人、いたら話を聞かせてほしい!」

 

暫くしてから、人垣から一人の女性がおずおずと進み出てきた。

キリトとカマクに対し怯えた表情を見せたからかアスナが空気を読んで優しい口調で問いかけた。

 

「ごめんね、怖い思いしたばっかりなのに。あなた、名前は?」

「あ、あの・・・私、ヨルコって言います」

 

そこから話を聞き出すと殺されたプレイヤー、カインズと共にこの層に食事をしに来たらしいが途中で逸れ、見つけたと思ったらカマク達が教会で見た状況になっていたらしい。

話す彼女の声は終始震え気味であり、受け答えするのは基本アスナとメユであった。

有力な情報は聞けず、どうやって犯人を特定すればいいのかカマク達は頭を抱え、溜息を小さく吐いた。

 

一人で下層まで帰るのが怖いと言ったヨルコを、最寄の宿屋までアスナとメユが連れて行くことになった。

その間、カマクとキリトが残っていたプレイヤー達に今回の事件の大まかな概要を告げ、大手ギルドに所属するプレイヤーが広範囲に警告を促しておくと告げ、その場は解散となった。

 

それと入れ替わりでアスナとメユが転移門広場へと戻ってきた。

 

「どうだった?」

 

ヨルコについて聞いていることは長年連れ添った関係で無くてもすぐに理解できただろうがそこはメユが答えた。

 

「少しは落ち着いたと思います、事が事だけにもう少し詳しく聞くには時間が必要だとは思いますけど・・・」

「そうか、ならまずは手持ちの情報を検証していくか」

 

そう言いながらカマクは凶器であるスピアを取り出した。

それに習いキリトもロープを再びオブジェクト化する。

 

「って、鑑定スキルが無いと出来ないだろ?」

 

鑑定スキルが無ければアイテムの素性を知ることは出来ない、それを知ってかキリトがカマクに言う。

 

「鑑定スキルならメユが持ってるよ、これでもこいつは職人だからな」

「そうか、なら問題無いな」

「メユ、鑑定頼む」

「ふふーん、任せてください、まずはロープからですかね。」

 

キリトの持つロープを預かり、細い指でタップする。

 

「どうだ?」

 

何か手掛かりが掴めないかと期待の眼差しでキリトが見つめる。

しかし、メユは首を振って表示された情報を口にする。

 

「どうやら、NPCショップの汎用品ですね。ランクも低いし、耐久値も半分以上減ってます」

「そうよね、あんな重装備のプレイヤーをぶら下げてたら耐久値もすぐに減るわよ」

 

言外に殺人者は男がHPがゼロになる数十秒保てばこと足りたのだと言っている。

 

「ロープには期待しちゃいないさ、これが本命だ」

 

そう言ってメユからロープを貰い、スピアを手渡した。

メユはカマクから受け取った黒く輝く短槍を貰うとその重さに僅かにふらつくも落とさないよう立て直す。

さっきと同じように鑑定をはじめ、すぐに声を貼った。

 

「プレイヤーメイドですね、これ」

「本当か!?」

 

声を上げたのはキリトだ。しかし、アスナとカマクも同時に身を乗り出している。

 

「誰か、わかるか?」

「グリムロック・・・聞いたこと無いですね。少なくとも上層の鍛冶職人では無いと思いますが」

 

キリトとアスナに心当たりが無いかとカマクが目を配るがどちらも無いようである。

 

「でも、探し出すことはできるはずよ。このクラスの武器を作成できるレベルに上がるまでまったくのソロプレイを続けていると思えない。中層の街で聞き込めばグリムロックとパーティーを組んだことのある人が見つかるわ」

「可能性は高いだろうな、どっかの黒いやつみたくもの好きがそうそういるとは思えねぇしな」

 

言われたのが自分だと悟ったキリトが目を伏せながら抵抗を試みる。

 

「な、なんだよ。俺だってたまにはパーティーくらい組むぞ」

「ボス戦のときだけでしょ」

 

アスナに論破されキリトの肩身が狭くなった。

さしものキリトも冷静に突っ込まれれば反論出来ずに押し黙るしかなかった。

 

「ま・・・正直グリムロックさんを見つけても、あんまりお話したい感じじゃ無いけどね・・・」

 

それには全員が同意見でだった。

<貫通継続ダメージ>を持つ武器を作る理由など基本対人目的しかありえないからだ。

しかし、それを知っていて鍛えたグリムロックは殺人者本人では無いとしてもこの事件に悪い方で関与しているのは充分にあり得た。

 

「けど、グリムロック本人には会わないといけないだろうな」

「そうですね、手掛かりになるとは思いませんが一応、武器の固有名教えておきますよ」

 

そう言ってメユは再度ウインドウを見下ろす。

 

「ギルティソーン・・・、意味はちょっとわからないですけどーーー」

「罪のイバラよ」

 

割って入ったのはアスナだった。

そうかとカマクはメユからギルティソーンを預かり、少し眺めてからアイテム欄へと戻した。

 

 

 

 

 

 

 

事件が起きた日から一夜明け、カマク達は二組みに分かれ捜査することにした。

昨日の夜にキリトとアスナが第一層の生命の碑で、カインズの死とグリムロックの生存を確認した。

次の日になるや、四人で一つの事をやるより別れた方が効率が良いと話がなり、カマク、メユとキリト、アスナでそれぞれ行動することとなった。

キリトとアスナがヨルコから詳しい話を聞く事となった為カマクとメユは殺人の方法を探ることとグリムロックの消息を探すことになった。

 

「取り敢えず、グリムロックについては俺たちが探しても見つかると考えられないからアルゴに頼んどくとして・・・」

「なら、殺害の手口を調べるんですね」

「自然とそうなるわな、メユって武器が刺さったまま圏外から圏内に入ったらどうなるか知ってるか?」

 

そんな事になった事が無いのだろう、メユが首を傾げながら考えを口にする。

 

「知りませんね・・・でも毒とかって圏内に入ったらすぐに消えるじゃ無いですか?それなら武器が刺さっていても同じじゃないですか?」

「そう思うよな。だけど、刺さった武器はどうなる?勝手に抜けるのか?」

「う・・・それは気持ち悪いですね。でも武器が刺さったままそこらへんウロつかれていたらギョッとしますよ」

 

その状況を思い浮かべ苦い顔をする。

 

「やっぱ、俺たちだけじゃ知識に限界がある、誰かシステムに詳しい奴が欲しいな」

「そうですね・・・あ!あの人ならどうです?」

 

誰だ?と聞くカマクにメユは会ってからのお楽しみですと悪戯するような笑顔で言い、メッセージを送った。




読んで頂きありがとうございます。

最近、図書館戦争を原作にもう一本書き始めました。
よければ見て下さい。

次回で圏内事件は解決するつもりです。
自分テンポが大分遅いと思うので少し開けていこうかなと。
せっかく春休みになったし。

ではまた次回。
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