ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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今回かなり長くなってしまいました。。・゜・(ノД`)・゜・。




指輪事件

生命の碑を後にして、メユ防具店へと戻った四人は事件が解決したので気分良く、夜飯を食べていてはなく、まだどこか痼が取れないような気持ちで食べていた。

 

「ねぇ、みんなならどうしてた?」

「何がですか?」

 

アスナの質問の意図を理解出来ずメユが聞き直す。

 

「もし、みんながギルド黄金林檎のメンバーだったら、超級レアアイテムがドロップしたとき、何て言ってた?」

 

数秒の沈黙の後、キリトが答える。

 

「・・・そうだなぁ。もともと俺は、そういうトラブルが嫌でソロやってるとこもあるしな・・・SAOの前にやってたゲームじゃ、レアアイテムの隠匿とか、売却利益の着服とかでギルドがギスギスしたり、崩壊まで行った経験もあるから・・・」

 

カマクも似たようなもんだと付け加える。

十闘士がギルドを作ろうとも入ろうともしない理由の一つがこれでもある。

 

「アスナはどうなんです?」

 

メユが質問すると迷うことなく答えた。

 

「ドロップした人のもの・・・ウチはそういうルールにしてるの」

「それが妥当かもな。隠匿とかのトラブルを避けるならそれしかない」

 

実際、大規模ギルドの殆どはそうしているのだろう

SAOでは戦闘経過記録などないのでどんなアイテムがドロップしたかは自己申告しなくてはわからないのだ。

 

「うん・・・そういうシステムだからこそ、この世界での結婚に重みが出るのよ。結婚すれば、二人のアイテムストレージは共通化されるでしょ?それまで隠そうと思えば隠せたものが、結婚した途端に何も隠せなくなる。ストレージ共通化って、凄くプラグマチックなシステムだけど、同時にとってもロマンチックだと私は思うわ」

 

その口調には、どこか憧れるような色合いを感じさせる。

不意にキリトが上ずった口調で言った。

 

「アスナ。お前、結婚してたことあるの?」

 

それを言いきった後に、まずいと感じたのか顔が真っ青になっていく。

カマクとメユもこいつ何言ってんだ?といった目で見つめる中、アスナが自分の持っていたナイフで攻撃予備動作にはいる。

 

「ち、違う違う。そうじゃなくて、さっきロマンチックだとかプラスチックだとか・・」

「誰もそんなこと言ってないわよ!」

 

ナイフを下げて机の下でキリトのスネをコードが発動しないくらいの力で蹴飛ばす。

 

「ロマンチックでプラグマチックだって言ったの!プラグマチックっていうのは実際的って意味ですけどね、念のため!」

「実際的?SAOでの結婚がか?」

 

カマクが引っかかったのかアスナの言葉に食いつく。

 

「そうよ。だってある意味身も蓋もないでしょ、ストレージ共通化だなんて」

「ストレージ・・・共通化・・・そうか!」

 

取れかけていた痼が取れたような感覚が訪れる。

 

「何かわかったんですか?」

「ああ、けどまずはシュミットの居場所を見つけないとマズイ!せめて、カインズさんかヨルコさんでもいい」

「ヨルコさんならアスナがフレンド登録していなかったか?」

「急いで位置情報を見てくれ」

 

カマクに急かされ、アスナは頷いてウインドウを叩いていく。

 

「・・・19層のフィールドにいるわ。主街区からちょっと離れた、小さい丘の上よ」

「くそ、圏外か!」

「どうしたっていうんだよ」

「説明してる暇はねぇ!このままじゃあ三人とも殺される!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワーン、ダウーン」

 

少年のような無邪気声の前にシュミットは地面に転がっていた。

右肩を掠めたナイフによりハイレベルの麻痺になったのだ。

シュミットは動かない身体ながらも必死に視線を上に向けた。

そこには四人のプレイヤーがいた。その中でも右手にだらりと垂れ下がる特徴的な中華包丁<友切包丁>を持つプレイヤーを見て、声が漏れた。

 

「・・・・・・Poh・・・・・」

 

殺人ギルド笑う棺桶のトップであり、ゲームでの死が現実の死へと繋がるSAOで「殺すことはこのゲームの全プレイヤーに与えられた権利だ」と劇毒じみたアジテーションによって少なからぬ数のオレンジを誘惑、洗脳し、狂的なPKに走らせた張本人だ。

 

「Wow・・・確かに、こいつはでっかい獲物だ。DDAの幹部様じゃないか」

 

張りのある艶やかな美声なのに、何故かイントネーションに仄かな異質さが潜んでいる。

 

「さて、どうやって遊んだものかね」

「あれ、あれやろうよヘッド」

 

ジョニー・ブラックが甲高い声で陽気に叫んだ。

 

「殺し合って、生き残った奴だけ助けてやるぜゲーム。まぁこの三人だと、ちょっとハンデつけなきゃっすけど」

「バカか、お前この間結局残ったやつも殺しただろう」

 

ジョニー・ブラックの案をインペラートルが却下する。

 

「あ、てめー。今それ言っちゃゲームにならないじゃねーか」

 

緊張感のない、しかもおぞましいやり取りに、ザザがエストックをヨルコたちに構えたままシュウシュウと笑った。

 

「まぁいい、取り掛かるとするか」

 

Pohがシュミットに手に持つ魔剣を振り下ろそうとした時ーーー

 

どどどっ、どどどっ、というリズミカルなビートが次第大きくなってこの場にいる者の耳に聞こえてくる。

それはPoh達から少し離れたところで止まり、一人馬から落ちた。

 

「いてっ!おいキリト、もっと上手く止めやがれ!」

「悪い悪い!とりあえずギリギリセーフかな」

 

黒馬に乗って現れたのはキリトとカマクだった。

キリトも馬から降りて、馬の尻をぽんと叩いき馬をその場から帰した。

 

「よう、Poh。久しぶりだな。まだその趣味悪い格好してんのか」

「・・・貴様に言われたくねぇな」

 

答えたPohの声は、隠しきれない殺意を孕んでびんと響いた。

直後、大きく一歩踏み出したジョニー・ブラックが、こちらは明確に上ずった声で喚いた。

 

「ンの野郎・・・!余裕かましてんじゃねーぞ!状況解ってんのか!」

 

ぶん、と毒ナイフを振り回すジョニー・ブラックを後ろにいたインペラートルが肩に手を置いて制した。

 

「こいつの言う通りだ、キリト。威勢良く来たのはいいがいくら何でも、お前と後ろにいる十闘士カマクの二人で俺たち四人を相手にできると思っているのか?」

 

シュミットが、いまだ解けない麻痺の中で左手を握りしめた。

指摘された通り、いかに攻略組でトップクラスのキリトと神聖剣の次に堅固なカマクでもラフィン・コフィンの幹部四人をまとめて倒せるわけがない。何故、せめて閃光を連れてこなかったのか?

 

「ま、無理だわな」

 

尻餅ついた腰を起こして、カマクが盾を取り出しながら答えた。

 

「一応耐毒ポーションはどっちも飲んでるし、回復結晶もストレージにフルに持っているが、どうする?」

 

しかしすぐにジョニー・ブラックが噛みついた。

 

「何言ってやがる、ヘッド早くやっちまいましょうよ」

 

しかし、Pohが動く気配は無い。

 

「・・・Suck、行くぞ」

 

やがて、短く罵り声を発したPohが、じゃりっと右足を引いた。

しかしその足を止めさせたのはカマクだった。

 

「おいおい、せっかく見つけたのに逃すと思ってんのか?」

「・・・なに?」

「散々今まで探しまわってたんだ・・・お前らはここで、全員捕まえる!!」

 

そう言ったカマクの後ろからキリトがPoh目掛けて飛び出した。

不意を突かれて横にいたジョニー・ブラックとザザは反応できず目を見開いた。

 

「うおおぉぉ!」

 

狙い澄ました<ソニックリープ>はPohに当たる直前で阻まれた。

 

「くっ、インペラートル・・・」

「無事ですか、ヘッド」

 

曲刀と片手剣が火花を散らしてぶつかる。

キリトは最初の一撃で一気に戦闘を激化させるつもりだったが、防がれたことでそれは不可能となったので距離を取る。

 

「奇襲とはな、お株を取られたわけだが。カマク、覚悟はいいな?」

 

抑えていた殺意がこれでもかと二人に降り注ぐ。気圧されつい半歩退がるがこれ以上退がることはしない。

 

「ああ、来やがれ!こっちは攻略組六人が相手だぜ!」

 

そう言って現れたのはアスナとガタリ、ワールン、チヒロだった。

 

「遅くなってごめんなさい」

「いや、むしろナイスタイミングだよ」

 

アスナが遅れたことに詫びを入れるがキリトはそんな事を気にしていないといった素振りを出す。

実際、間に合ったので間違いでは無いのだ。

 

「インペラートル・・・この間のつけ、返させてもらう!」

 

ガタリが片手剣を構えてインペラートルを睨む。

けれどインペラートルはそれをさらりと受け流す。

 

「塵に用はない・・・が。ヘッド、あいつは俺がやってもいいですか」

「構わない、好きにしたらいいさ」

「ありがとうございます」

「あーならヘッド、俺はあの女二人いいっすか?」

 

ジョニー・ブラックが舐めまわすような目線でアスナとチヒロを見る。

 

「ヘッド、黒の剣士は、俺が、殺る」

「何だお前ら、俺には余り物を寄越す気か?まぁいいが・・・愉しませてくれよ?」

 

双方を中心に空気が殺気と緊張感で包まれる。

完全に蚊帳の外となったシュミット達もその空気に当てられ動く様子がない。

 

「イッツ、ショータイムだ!」

 

その一言でシュミット達以外の全員が動き出した。

ガタリとインペラートル、キリトとザザはそれぞれ撃ち合う。

 

「ほう、少しはマシになったみたいだな」

「まぁな!」

 

以前みたく圧倒される事なくガタリはインペラートルの攻撃を捌き、自分からも攻めていく。

 

「今度こそお前も他のラフコフの奴らも全員倒す!」

 

ガタリがぶつかる中でインペラートルに宣告する。それに対してインペラートルは小さく呟いた。

 

「・・・大層な口を・・・利くようになったな塵が」

 

瞬間、ガタリの前から姿を消した。

先日、ガタリの両足を切り落としたソードスキル曲刀突進技<ファントム・エッジ>である。

しかし、完全に決まったと思われたそれはガタリが見事に受け止めた。

インペラートルは受けられた事に動揺はしないが意外だったのか目を大きく見開く。

密着した状態でガタリが笑みを浮かべてインペラートルに言った。

 

「・・・大層な口か?見えてるぜ、インペラートル」

 

ガンッ、と重たい金属音を響かせ両者は再び距離をとった。

 

「・・・成程・・・どうやら思っていた以上に腕を上げたらしい」

 

インペラートルはウインドウを操作し始め、持っていた曲刀を仕舞う。

 

「・・・仕方あるまい、貴様が自惚れる前に力の差を示しておく必要がありそうだ」

 

そう言って取り出したのはガタリの足を斬った刀だった。その特徴的な毒々しい色合いを放つ刀は、前よりも淀んでいるように感じる。

ガタリはインペラートルから出る殺気に唾をごくりと飲んで耐える。

 

 

 

 

 

 

二つの赤い軌跡が揺らぐ。

それを追いかけて黒の剣士は走る。

 

「どこまで行く気だ?」

「・・・・・・・・・・」

 

しかし、返事は無く、ザザは足を止めずに森の奥へと向かう。

 

「だんまりか・・・それならこっちから行くぜ!」

 

キリトが後ろから切り掛かっていく。

それが当たる直前でザザは振り返り右手に持つエストックで受け止めた。

 

「そう、焦るな。ここなら、邪魔がない」

「あくまでサシにこだわるってわけかよ」

 

そこから両者、一歩も引く事なく剣を交える。

キリトが剣を振ればザザが躱し、ザザが剣で突けばキリトが剣で受け流していく。

スタイルが違う二人であるが、その実力は互角に近いと言えるであろう。

 

「格好、つけやがって・・・」

「何がだ?」

 

戦闘の最中でザザがキリトに語りかける。

 

「馬なんかに、乗って現れて・・・」

「なら、お前もやればいい。言っとくが見た目ほど簡単じゃないぜ」

 

ザザがシュウシュウと呼吸音を鳴らし、エストックによるソードスキルで返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

アスナとチヒロによる攻撃をジョニー・ブラックは軽やかに躱していく。

 

「いいねぇ、もっとぐいぐい来いよ〜」

「はぁっ」

「やぁっ!」

 

挑発的な言葉にアスナとチヒロはますます攻撃の速度が上がっていく。

しかし、二人の猛攻を受けてなお、ジョニー・ブラックは子供が遊ぶかのような身のこなしで避ける。

 

「おいおい、攻略組がこの程度か?遊び足りねぇぜ!?」

 

ジョニー・ブラックからの反撃が入る。

少しでも擦れば毒ナイフの餌食だ、アスナとチヒロは慎重に確実に躱し、一度距離を取る。

毒ナイフを肩でコツコツと当てながらジョニー・ブラックが二人にその子供のように陽気な口調で言った。

 

「にしてもそっちの青いのを見ると思い出すぜ」

「何がですか?」

 

視線はそのままでチヒロが応えた。

 

「オレがここに来て最初に殺したヤツの事だよ、アレは傑作だったな〜」

 

ジョニー・ブラックの僅かに見える目がクイっとあがり、話を続ける。

 

「モンスターをトレインしてそいつにぶつけたんだよ。じゃあそいつどうしたと思う?トレインしたオレに助けを求めるんだぜ?」

 

両手を広げて高々と笑い声をだす。

アスナの表情が険しくなるのに対し、チヒロは違った。

驚きと嫌悪・・・そして、

 

「それで最後になんか叫ぶんだよ。あー確かチヒロー、だっ確かかな」

 

憎悪。

 

「あなたがお兄ちゃんを!」

「チヒロちゃん!?」

 

後ろの青髪がふわりと一瞬舞うと同時に地面にひかれていた落ち葉も巻き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「そう、固まってばかりじゃ俺らを捕まえるなんて出来ないぞ?カマク」

「・・・チッ」

 

Phoの魔剣を盾で防ぐカマクにそのツヤのある声で話す。

 

「お前のことだ、まだ何かあるんだろ?」

「どうだかな?あっても話すわけねぇだろ」

 

確かにカマクには作戦があった。

というより、あと10分程で攻略組30人がここに駆けつけてくる予定になっている。

それさえ持ち堪えて、ラフコフの幹部をこの場に留めておけば一網打尽で捕まえられると考えていた。

 

「何を待っているか知らないが、大人しくしてやる義理もないからな。終わらせるぞ」

 

カマクの盾にPhoが重たい一撃を浴びせカマクの守りをブレイクする。

 

「なっ・・・・・・ !?」

 

瓦解した隙を突き、Phoがその短剣でカマクに襲い掛かる。

しかし、その間にワールンが割って入る。

 

「僕を忘れてもらったら困るな!」

 

大剣を振り払い、Phoに距離を取らせる。

 

「Suck・・・流石に攻略組二人は分が悪いか」

 

そこでPhoのもとにメッセージが届いた。

それにさっと目を通す。

 

「・・・そうか、ここは早めに退散した方が良さそうだ」

 

そう言うと持っていた友切包丁を懐に納める。

 

「逃すと思っているのか?」

 

ワールンが大剣を構えてPhoに言う。

 

「もうじきここに攻略組が来るんだろ?」

「!?」

 

Phoの言葉にカマクは目を見開く。

何故その事を知っているのか、と。

 

「悪いがここは逃がしてもらうさ、この戦いは次のショーまでお預けだ」

「逃がさないって言っただろう!」

 

逃すまいと無防備なPho目掛けてワールンがアバランシュを放つ。

しかし、ソードスキルが発動する直前に何処からか白い煙が周辺を覆った。

それはたちまち濃くなり、目の前ですら誰がいるのかわからなくなる。

 

「はあっ!!」

 

ズサッ!と振った大剣は何もない空間を無残に斬っただけだった。

 

「次は殺し合いをしおう、カマク。お前となら楽しいゲームが出来そうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザのソードスキルをキリトは紙一重で受けきった。

 

「・・・ッ!」

「まだだ、黒の剣士!」

「いや、終わりだ。ザザ!」

 

続け様にソードスキルを放つザザをキリトは同じくソードスキルで向かいうつ。

放ったソードスキルは<スネークバイト>。

二撃ともを綺麗にザザのエストックの中心に決め、甲高い金属音を響かせた。

 

「ナニ!?」

 

有り得ないと言わんばかりの事にザザの赤眼がチカチカと点滅する。

それもそのはず、自分の持っている剣が中央から無くなっているのだから。

キリトの武器破壊により折れた剣は空中を飛んで地面に刺さるとザザの手に持つ半分の剣と共にポリゴンとなって消滅した。

 

「お前の負けだ、大人しく投降してもらうぞ」

 

剣の先をザザに向けたまま話すが、周囲がいつの間にか白い霧のようなものに包まれていることに気付く。

 

「何だ!?」

 

それに気を取られ、ザザから一瞬目を離した隙にザザは霧に隠れるようにキリトの前から消え、反響するような声で言った。

 

「・・・黒の剣士、今度はオレが、お前を追いかけ、回してやる」

 

 

 

 

 

 

前回は見えもせずに終わったため次は見逃すまいとガタリはインペラートルの刀に集中する。

 

「・・・行くぞ!」

「くっ・・・!」

 

インペラートルが刀を下から切り上げてくるのをガタリはギリギリで受け止める。

しかし、受け止めたことで僅かに安堵したガタリの隙を見てインペラートルは続けて攻撃を仕掛ける。

 

「そんなに俺の刀を受け止めれて嬉しいか?」

 

一撃一撃がソードスキルではないのに、それと遜色ない威力で放つインペラートルの振りにガタリは追い込まれていく。

最初に見せていた余裕は消え、ガタリの攻撃の手数が少なくなっていた。

 

「・・・マシになったと思ったが俺には到底及ばんな」

「うッ・・・まだまだッ!」

 

押されていた状況をガタリは気合いと勢いで攻勢にでる。

 

「ハァアアアア!」

 

ガタリの持つ剣が薄い青色に光る。

片手剣単発技<スラント>、技後硬直の短い下位のソードスキルでインペラートルを追い込んでいくつもりである。

 

「・・・・フッ」

 

インペラートルはそれを刀で受け刀が弾かれる。流石にソードスキル相手にただ受ければ押し負けるのはわかっているだろう。

 

「ガッ!?」

 

だからかインペラートルは刀が空中に投げ出されても動揺せずにガタリに体術スキル<閃打>を打ち込み、距離を置く。

 

「やはり甘いな」

「けほっ・・・チクショーめ」

 

頭を振り、剣を持ち直し、インペラートルも落ちた刀を拾う。

向き合う二人を包むかのように白い煙が広がってきた。

それを見てインペラートルが刀を納める。

 

「仕方ない、ここまでのようだな」

「また、逃げる気か?」

 

だんだん煙が濃くなり二人を包む。

 

「逃げる?命拾いしたのはそちらだろう?貴様のその戦い方はまだ未完成だ、違うか?」

「うっ・・・」

 

的を射抜かれガタリは飛び込めずにいた。

そのうちにガタリからインペラートルの姿が見えなくなってくる。

 

「次に会うとき、それが貴様の最後だ。精々それまでに力を磨くことだ」

 

その声にはどこか楽しむような、雰囲気があった 。

 

 

 

 

「チヒロちゃん!」

 

目の前で怒りに任せて武器を振るう、友達の名前をアスナが叫んだ。

連携をしようにもチヒロがアスナのことなど忘れて動いているためそんなことが出来るわけもない。

 

「セイアァァァ!」

「へっ、ずいぶんお怒りだね〜」

 

チヒロの攻撃を簡単に躱して、挑発していく。

ただ怒りに身を任せているチヒロの攻撃など単純でジョニー・ブラックは殺意に喜んでいても、退屈になってきていた。

 

「つまらねえから、もういいかな」

 

そう言ってナイフを一本投げる。

 

「あっ!?」

 

側から見ていたアスナが声を漏らした時にはもうチヒロにその麻痺付きのナイフは刺さっていた。

 

「ッ・・・」

 

自由の利かなくなった身体が地面につき、何とか動かせる頭をジョニー・ブラックに向け睨む。

 

「おー怖い怖い。そんなに怒るなよ。殺したくなっちゃうだろ」

 

手に持つナイフをなぞり目でじっくりとチヒロを見る。

 

「いいねぇ、どうだ?俺の女になれよ、それなら殺さないでおくぜ?」

 

まともに動かない身体でチヒロは先ほどよりもきつく睨んで返事をする。

 

「ちっ・・・つまんねーな、まぁいいか。ヘッドから召集かかっちまったしここは引いてやるよ」

 

そう言ってジョニー・ブラックはいつの間にか広がっていた白い霧の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すぐ先も見えない白い煙が晴れ、霧が薄くなってきた頃に俺たちはシュミット達がいたところに戻ってきていた。

思ったよりヤバい奴らが出てきたな、ラフコフが関わっていたのはある程度予測していたが、よもや幹部四人が来ているとは思わなかった。

攻略組でも最大級のHPと防御力を持つ聖龍連合のシュミットがここにいることをあいつらは知っていたことになるが、まぁそれも、すぐに、分かることだろう。

キリトが横でウインドウを出し、十数人の攻略組を連れてこちらに急行中であるクラインにメッセージを送っている。

アスナがシュミットに解毒ポーションを渡すのを見て、打ち終えたキリトが奥にいる二人に声をかけた。

 

「また会えて嬉しいよ、ヨルコさん。それに・・・カインズさん」

「全部終わったら、きちんとお詫びにうかがうつもりだったんです。・・・と言っても、信じてもらえないでしょうけれど」

「信じるかどうかは奢ってもらうメシの味によるな。言っとくけど怪しいラーメンとかはナシだからな」

 

アスナが後ろからキリトを小突くが自業自得だ。

きょとんとするヨルコを他所に起き上がったシュミットが未だに震えている声で聞いた。

 

「・・・キリト。助けてくれた礼は言うが・・・なんで判ったんだ。あの四人がここを襲ってくることが」

「判ったのは俺じゃないよ。カマクだ」

 

全員が俺に注目する。仕方ないがもう一度説明するか。

 

「もうすぐメユが連れて来てくれるはずだからすぐに分かると思うが・・・ここにあいつら、ラフィンコフィンを呼んだのはグリムロックだ」

「そんな・・・グリムロックさんが」

 

受け入れがたい事実に三人とも困惑しているのが分かる。

シュミットは何も言おうとせず、ヨルコが小さくかぶりを振って、俺を見た。

 

「・・・嘘ですよね?あの二人はいつも一緒にいて、グリムロックさんはいつだってリーダーの後ろでにこにこしてて・・・それにあの人が犯人なら私達の計画に協力するはずがないですよ!」

 

俺はどこから話すか迷ったが一度ヨルコに質問をすることにした。

 

「なぁ、ヨルコさん。あの逆棘の生えた二つの武器だがグリムロックからもらったんだよな?」

「・・・はい。圏内PKを偽装するという私達の計画には、継続ダメージに特化した貫通属性武器がどうしても必要でしたからか。そんな特殊な武器はどこの武器屋さんにも無くて・・・」

 

ヨルコが横目でカインズを見るとカインズが続きを答えた。

 

「だから、僕たちはやむなく、グリムロックさんに連絡を取って頼んだんです。僕たちの計画を説明したら、最初は気が進まないようでした。もう彼女を安らかに眠らせてあげたいって書いてありました。でも僕らが一生懸命頼んだら、やっと二つ、いえ三つの武器を作ってくれました。届いたのは計画の三日前でした」

 

この台詞から、まだ二人がグリムロックのことを信じていることが判る。二人には悪いがここは真実を語らせてもらう。

 

「残念だが、グリムロックがあんたらの計画に反対したのは、グリセルダさんの為じゃない。圏内PKなんて派手な事件が起きてしまえば誰が気付くと思ったんだろうよ。現に俺は気付いた」

 

息を吐いてタメを作る。

 

「結婚によるストレージ共通化が、離婚ではなく死別で解消されたとき、そのアイテムがどうなるかってことをな」

「え?」

 

まだわかっていないのか、これだけヒントを出せばわかるだろうに。仕方ないが最後まで説明するか。

 

「いいか、グリセルダのストレージは、どうじにグリムロックのものでもあったんだ。たとえグリセルダを殺したところで、指輪も他のアイテムも奪えないんだよ。なんせ、彼女が死んだ瞬間にグリムロックのもとに転送されるんだからな。シュミット、あんたは計画の片棒を担いだ報酬でコルをもらったんだろ?」

 

俺の質問にシュミットはそのおおがら身体を伸ばし首を縦にふった。

 

「そんな大金を得るなら本当に指輪を売却しなければならんだろうし、そうできるのは結婚相手だったこいつだけだよ」

 

そう言って首を後ろに向けるとメユとユウマ、ナオキと今回の黒幕であるグリムロックであろう人物がいる。

全員が丸眼鏡に帽子を被っている人物を見た。

グリムロックはシュミット、ヨルコ、カインズの順番で、最後に墓標をみてから言葉を発した。

 

「やあ、久しぶりだね皆」

 

低く、落ち着いた口調に数秘経ってからヨルコが応じた。

 

「グリムロック・・・さん。あなた、あなたは本当に・・・」

 

グリムロックは微笑を浮かべた。

 

「何のことだかわからないな。私がここに来たのは君達の計画の顛末を見に来ただけなのだからね」

「嘘です!だってあなた私達が見つけるまで隠蔽を使っていたじゃないですか」

 

メユが鋭く反発する。

 

「仕方がないでしょう。私はただの鍛冶屋なんですから」

「何を・・・」

「まぁ、そうだな」

 

さらに反発しようとするメユを見て俺はとっさに口を開いた。

 

「俺はカマクだ。まぁ今回の事件について少し調べてたら黄金林檎での指輪事件が絡んでいるってのを知ってな。それを俺は推理したんだが聞いてもらうぜ?」

 

俺は有無を言わさずにそのまま指輪事件の推測を語った。

指輪の行き先についてを。

俺が語り終えると、グリムロックの眼鏡がチラリと反射したように見えた。

やがてその口許を奇妙に歪ませ、僅かに温度を下げた印象のある声が流れた。

 

「なるほど、面白い推理だね、探偵君。でも残念ながら、ひとつだけ穴がある」

「なんだと?」

 

俺は反射的に問い返してしまった。けれど俺もそれはわかっていた。

 

「もし、あの指輪がストレージに格納されていなかったら?つまり、オブジェクト化され、グリセルダの指に装備されていたとしたら・・・?」

「あっ・・・」

 

声を漏らしたのはアスナだった、他の推理をあらかじめ聞いていた奴は虚をつかれたような顔をしている。

俺もその可能性だけは消せてい

ない。

当時のグリセルダが絶対に付けないなどと俺は言えないからだ。

形勢の逆転を自覚してか、グリムロックの口角が少し持ち上げる。

しかし、その表情はすぐに消えた。

 

「待ってください・・・いえ、待ちなさい、グリムロック」

 

ヨルコが静けさの中にも激しい何かを秘めた声でグリムロックを見据えた。

 

「まだ何かあるのかな?無根拠かつ感情的な糾弾なら遠慮してくれないか、私にとってもここは神聖な場所なのだから」

 

滑らかに、かつ傲然と言い放つグリムロックにヨルコは更に一歩踏み出した。

 

「グリムロック、あなたこう言ったわね。リーダーは問題の指輪を装備していた。だから転送されずに殺人者に奪われた。でもね・・・それは有り得ないのよ」

「ほう・・・?どういう根拠で?」

 

ゆるりと向き直ったグリムロックに、ヨルコはなおも苛烈に声を浴びせる。

 

「ドロップしたあの指輪をどうするか、ギルド全員で会議をした時に売却に反対だったカインズがこう言ったのよ。---黄金林檎で一番強い剣士はリーダーだ。だからリーダーが装備すればいい」

 

ヨルコの隣で、カインズの顔にややばつの悪そうな表情が浮かぶ。しかしヨルコな意に介せず、身振りを交えて語り続ける。

 

「それに対してリーダーがなんて答えたか、私は今でも一字一句思い出せるわ。あの人は笑いながらこう言ったのよ。---SAOでは、指輪アイテムは片手に一つずつしか装備できない。右手のギルドリーダーの印章、そして・・・左手の結婚指輪は外せないから、私には使えない。いい?あの人が、その二つのどっちかを解除して、レア指輪のボーナスをこっそり試すなんてこと、するはずがないのよ」

 

鋭い声が響いた途端、俺を含めた全員が小さく息を呑んだ。

確かにそれなら装備していなかったと言えるが、まだ弱い。決定的な証拠がない限り、あいつは否定し続けるだろう。

それを分かってかヨルコは振り向き、すぐそばの墓標の裏を素手で土を書き始めた。

 

「根拠ならあるわ。私達はここを・・・この墓標をリーダーのお墓にすると決めた時、殺害現場に残っていた遺品の、彼女の使っていた剣を根元に置いて、耐久度が減少して消滅するに任せた。でもね・・・でも、それだけじゃないのよ。みんなには言わなかったけど・・・私は、遺品をもう一つだけ、ここに埋めたの」

 

やがて立ち上がったヨルコは右手に小さな箱を乗せていた。

 

「あっ・・・永久保存トリンケット!」

 

アスナが小さく叫んだとおり、ヨルコが示したそれは、それに入れたアイテムは耐久値の自然減少によって消滅することのない、耐久値無限の保存箱だった。

ヨルコが箱を開けると中に二つの指輪がきらりと輝き、鎮座していた。

その片方、リンゴの彫刻がしてある指輪をまず取り上げた。

 

「これは、リーダーがいつも右手の中指に装備してた黄金林檎の印章。同じものを私もまだ持ってるから比べればすぐ解るわ」

 

それを戻し、次にもう一方。

黄金に煌めく細身のリングをそっと取り出す。

 

「そしてこれは---これは、彼女がいつだって左手の薬指に嵌めてた、あなたとの結婚指輪よ、グリムロック!内側に、しっかりとあなたの名前を刻んでるわ!・・・この二つの指輪がここにあるということは、リーダーは、ポータル圏外に引き出されて殺されたその瞬間、両手にこれらを装備していたという揺るぎない証よ!違う!?違うというなら、反論してみせなさいよ!!」

 

語尾は、涙混じりの絶叫だった。

頬に大粒の雫を零しながら、ヨルコは金色に煌めく指輪を、まっすぐグリムロックに突きつけた。

これでグリムロックは言い逃れが出来なくなった。

それを確信してか、グリムロックは深く俯き、帽子の広い鍔に顔を隠して、長身を支えていた糸が切れたかのようにその場に膝をついた。

 

「何でなのグリムロック!・・・なんで奥さんを殺してまで指輪を奪ってお金にする必要があったの」

「金?金だって?金のためではない。私は・・・私は、どうしても彼女を殺さなくてはならなかった。彼女がまだ私の妻でいる間に」

 

丸眼鏡を一瞬苔むした墓標に向け、すぐに視線を外して、鍛冶屋は独白を続けた。

 

「グリセルダ。グリムロック。頭の音が同じなのは偶然ではない。私と彼女は、SAO以前にプレイしたネットゲームでも常に同じ名前を使っていた。そしてシステム的に可能ならば、必ず夫婦だった。なぜなら・・・・・・なぜなら、彼女は、現実世界でも私の妻だったからだ」

 

全員の顔に驚きの色が走った。俺は鋭く息を呑み、チラリとメユの様子を伺った。

メユは小さく口を開けながらも、表情は真剣だった。

 

「私にとっては、一切の不満もない理想的な妻だった。夫唱婦随という言葉は彼女のためにあったとすら思えるほど、可愛らしく、従順で、ただ一度の夫婦喧嘩すらもしたことがなかった。だが……共にこの世界に囚われたのち……彼女は変わってしまった……」

 

グリムロックの肩が小刻みに震えているのが判った。けれどそれがどういった意味なのか俺には理解出来ない。

 

「……私の畏れが、君たちに理解できるかな? もし現実世界に戻った時……ユウコに離婚を切り出されでもしたら……そんな屈辱に、私は耐えることができない。ならば…………ならばいっそ、まだ私が彼女の夫であるあいだに、そして合法的殺人が可能な、この世界にいるあいだに。ユウコを、永遠の思い出のなかに封じてしまいたいと願った私を……誰が責められるだろう……?」

 

長く、おぞましい独白がとぎれても、しばらくの間沈黙が続いた。

俺は手を力いっぱい握りしめ、ひび割れた声を押し出した。

 

「屈辱だと?自分の奥さんが・・・自分の愛する人が言うこと聞かなくなったから、そんな糞みたいな理由で、テメェは殺したのか?このデスゲームから少しでも早く解放されることを願って自分を、他の仲間も鍛えて・・・いつか攻略組の一員にもなれた人を、お前は、そんなことで・・・」

 

自分がかなり頭にきていることが分かったのはグリムロックの後ろにいたメユと目が合ってからだった。

背中の武器を取り出したい気持ちを必死に堪え、グリムロックの言葉を待った。

 

「そんな理由? 違うな、充分すぎる理由だ。君にもいつか解る、探偵君。愛情を手に入れ、それが失われようとしたときに」

「違います!あなたは間違っていますよ、グリムロックさん!」

 

反駁したのは俺が見ていたメユだった。

グリムロックの前まで歩み、小さな鍛冶屋はいつもなら見せない、いや見たことのない表情で静かに告げた。

 

「あなたがグリセルダさんに抱いていたのは愛情なんかじゃありません!そんなのただの所有欲です!」

 

彼女は俺の方をチラリと見て自分の右手の薬指をかざした。そこには俺の右手の薬指にもつけている銀色の指輪がきらりと輝いていた。

 

「まだ愛しているというなら、あなたのその左手の手袋を外してみてください。グリセルダさんが殺されるその時まで決して外そうとしなかった指輪を、今もあなたはつけているならですが」

 

グリムロックは右手で左手を掴むが、肩を震えさせるだけで革手袋を外そうとはしなかった。

再び訪れた静寂を、これまでひたすら黙っていたシュミットが破った。

 

 

「カマク。この男の処遇は、俺たちに任せてもらえないか。もちろん、私刑にかけたりはしない。しかし罪は必ず償わせる」

「ああ、任せる」

 

さっきまでの怯えた声ではなかったので俺はすぐに頷いた。

後ろではヨルコがキリトとアスナに何やらお礼を言っている。

そのあと俺をみて頭を深く下げた。

 

「カマクさんもありがとうございます。あなたがいなければ私達は殺されて、グリムロックの犯罪も暴くことができませんでした」

「いや。大したことじゃない、それよりも最後にあの二つの指輪のことを思い出したのはあんたの手柄だ。本当に見事だった」

 

すると、ヨルコは顔を上げてくすりと笑った。

 

「いえ・・・信じてもらえないかもしれませんけど、あの瞬間、リーダーの声が聞こえた気がしたんです。指輪のことを思い出してって」

「・・・そうか・・・」

 

もう一度深く頭を下げ、シュミットらに続いて丘を降りていった。

残された俺たちもそれぞれ事後報告などをして解散をした。

その時、アスナ以外はその小さな歪みに気がついていなかった。

 




読んで頂きありがとうございます。

今回は削りきれなく長くなってしまいました。
これで本当に圏内事件は終わったので次回からは攻略に戻ります。

メユとカマクの指輪が右手に嵌められているのは間違いではないです。

ではまた次回。
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