ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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攻略の日常

65層が開通して二日、迷宮区へマッピングするため僕はカマクと65層の転移門前にいた。

今回は珍しく二人ではなく他のメンツとも行くからだ。

 

「で、カマク。なんで僕たちはこんな早くに集まったの?」

 

実は集合時間まであと一時間程ある。本来ならもう少しゆっくりしていくつもりだったのだけど、カマクに急かされ予定よりもかなり早めの到着だ。

五分前集合でも意識が高いと僕は思っているのに一時間前集合とか意識が成層圏を超えて宇宙空間に行きそうなほどに高いと思うのだけど。

 

「あー、まぁ遅れて行くのも悪いだろ?今回は女の子も来るからな」

「ふーん、確かに紳士たる僕は女の子を待たせるなんてことをするわけにもいかないけど」

「どこが紳士だ、茅場からもらった手鏡を見てこい!」

 

そんなもの始まりの街で捨てたよ。とは言わない僕は何処にでも出せるジェントルマンだろう。

 

「で、カマク。本当はなんでこんなに早くに集まったの?」

「メユから逃げるためだ」

 

素直でよろしい。いつもの展開かな。

 

「今度は何をされそうになったの?」

「いつものやつなんだが、あいつが試作品の防具を試してほしいって朝から言ってきてな」

「それだけならしてあげてもいいんじゃ…」

 

きっと防具を試着して性能を試したりするんだろう。

 

「俺も普通ならそうするんだが、何故かあいつがそう言って持ってくる奴はいらんギミックとかされててな、大抵ろくなことにならねぇ」

 

カマクがどこか遠いところを見るような目に変わる。

一体何があったんだろう。

 

「この前なんか、ヒースクリフにそれをやらせて、あれがあれであんなことになったからな」

「うん、本当に何があったの?表現がアバウトすぎてものすごく恐ろしいんだけど」

 

具体的に言わないとこがかなり怖い。

これは聞かない方がいいことのはずだ。

念の為、メユから防具や盾の試着や試運転を頼まれても断ろう。

 

「それにしてもここでぼーっとしてるのも暇だよね」

「そうだな、ならゲームでもするか」

「ん、オッケー」

「んじゃ、英語に関するクイズでもやるか。問題を出すから答えてくれ。五問のうち一問でも答えられなかったら負けだ」

 

英語のクイズか。僕に勝ち目が無さそうだけどなんとかなるかな。

どうせ何も賭けていない暇つぶしだし。

 

「ん、オッケー。ドンと来い」

「よし。それじゃ、罰ゲームは『負けた方が勝った方の言うことを何でも聞く』だ。行くぞ」

「え!?」

 

何だか最後に変な条件が追加された気がする!

 

「ちょ、ちょっとカマク!?」

 

慌てて止めようとするけど、カマクは聞く耳を持たずに問題を出してくる。

 

「母からあるものを取ると他人になるがあるものとはなんだ?」

 

母からあるものを取ると他人になる?

なんだ簡単じゃないか母からあれを取ったらいいんだろう。

お母さんからお金を取ったら他人になるしかないじゃないか。

 

「ワールン、なんだかわかるか?」

 

僕がわかっていないと思っているのか、カマクが余裕の笑みを浮かべている。ふふっ。甘い甘い。僕だってそこまでバカじゃないさ。

 

「勿論わかるとも」

 

対抗して僕も余裕の笑みを浮かべてみせる。今回は僕の勝ちだ。

 

「そうか。じゃあ言ってみろ」

 

問いかけるカマクに、僕は余裕を持って答える。

 

「お金しかないね」

「俺の勝ちだな」

 

バカにしたようなカマクの勝利宣言。

そんな、親からお金を取ったら親子の縁を切られるじゃないか。

 

「英語のクイズを出してるのになんでお金なんだ。答えはMだ」

 

M?なんでMを取ったら他人になるんだろう?

 

「いいか、母は英語表記にすると“Mother”だからそこからMを取ると“other”になって他人になるんだよ」

「…………ケアレスミス、か……」

「待て!どこに注意を損なう要素があったんだ⁉︎」

 

惜しかった、あと一歩のところで詰めが甘かったみたいだ。

 

「でも、負けは負けか……。認めるよカマク」

 

マルかバツかで分けたら、残念ながら今の僕の回答はバツになってしまう。ここは男らしく負けを認めよう。

 

「今ので負けを認めないようなら人としてどうかと思うが……」

 

カマクが呆れたように僕を見ている。なんだその人をバカにしたような目は。

とにかくカマクの出題はこれで終わりだ。さて、順番から言うと、

 

「今度はメユの番だね」

「頑張ります!」

 

カマクの後ろでメユが両手を握って意気込んでいる。見た目の通り、子供っぽい仕草が似合い可愛らしい。

 

「ぶっ⁉︎ メ、メユ! いつの間に⁉︎」

 

後ろを振り向いて慌てふためくカマク。あれ? 気付いていなかったのかな?

 

「いつの間にも何も、問題を出し始めたあたりからずっといたじゃないか」

「カマクが『何でも言うことを聞く』って言ったのが聞こえましたから」

 

なるほど。そんな台詞が聞こえたからここに来たのか。メユは顔や職人の腕だけじゃなくて耳までいいんだなぁ。

 

「それじゃ、メユが出題者でカマクが解答者だね」

「わかりました!」

「ま、待て!メユが参加するなんて聞いてないぞ⁉︎」

「今更そんなコト言うなんて男らしくないよ?カマクはそんな言い訳をして逃げるような男なのかい?」

 

自分から言い出したことなんだし、こう言えばカマクは乗ってくるだろう。

 

「ぐ……っ!じょ、上等じゃねぇか!きっちり答えてやらぁ!」

 

こういう時のカマクは扱いやすくて助かる。

 

「というわけでメユ、一問目をどうぞ」

「はい。えっと……英単語を言うんでそれの意味を答えて下さいね」

 

それなら英語に関しているから問題はないはずだ。カマクもそれについて何か言いそうにはないし。

何かを思い出すようにメユが顎に手を当てる。

 

「…………“betrothed”」

 

 

ダッ (身を翻すカマク)

 

ガッ (その肩を掴む僕)

 

「カマク、どこに行こうとしているのかな?」

「ワールン、てめぇ……!」

 

メユの問題を聞いた瞬間にカマクはその場から駆け出そうとしていた。わからないから逃げ出そうなんて甘い甘い。

とは言え、カマクの気持ちもわからないでもない。 一問目から決着だと見ている僕もつまらないし。

 

「メユ、いきなりトドメっていうのも可哀想だから、問題を変えてあげてよ」

「…………わかりました」

 

小さく頷いて僕の提案を受け入れてくれるメユ。やっぱりいい子だ。

 

「じゃあ“prize”」

「“prize”……【賞品】か?」

「……正解です」

 

今度はきちんと答えたカマク。

メユも小さく返事をしてから更に問題を出した。

 

「“as”」

「【として】」

「“wedding ceremony”」

「【結婚式】」

「“celebrate”」

「【挙げる】」

「“betrothed”」

 

ダッ (身を翻すカマク)

 

ガッ (その肩を掴む僕)

 

「だからカマク、どこに行こうとしているのかな?」

「放せワールン! 後生だから放してくれ!」

 

まったく、答えられないからって逃げようなんてズルいなぁ。

 

「だいたい、今の一連の単語を聞いたなら俺の恐怖がわかるだろ⁉︎」

 

えっと、繋げると【賞品】【として】【結婚式】を【挙げる】か。

メユは勝ったらカマクに結婚式を挙げてもらおうと言っているのかな?

 

「あはは。メユの冗談に決まってるじゃないか。僕らはまだ現実世界でなら高校生になったばっかだよ。結婚式を挙げるなんてできるわけが」

「あっ……」

 

メユが取り落としたのは新層のガイドブックだった。開いたページにはチェックした後がある。タイトルが【新層に現れた教会!ウェディングチャペルか⁉︎】だ。

 

「……冗談ですよ?」

 

そう呟きメユはニコニコしながらガイドブックを拾った。

 

「………………」

「あはは。カマクってば。そんな僕にしか聞こえないような小さな声で『ヤバい。マジヤバい』なんて連呼されても困るよ」

 

虚ろな目が印象的だ。

 

「さぁカマク、答えをどうぞ」

「“betrothed”か……“betray”が【裏切る】だから、“betrothed”は【謀反】とかそんな感じか?」

「メユ、正解は?」

「正解は【婚約者】ですよ!」

 

なるほど。“betrothed”は【婚約者】って意味なのか。

 

「さてと。答えられなかったカマクの負けだね。約束通りなんでも言うこと聞いてあげないと」

 

カマクの表情がどんどん曇っていく。これほど幸せな光景はそうそう見られないだろう。

前のソードスキルで起こされた時の報復にもなって気分が良いや。

 

「メユ、さっき冗談って言ったよな?」

「まぁ、流石に結婚式はまだできませんけど」

 

ガイドブックまで持ってたのに、メユはお茶目だなぁ。

 

「じゃあ、本気の方はなんだ?」

「……それはーー」

 

感情表現がオーバー気味な仮想世界のせいか、頬を紅く染めながらメユが呟く。

 

「……人前じゃ、恥ずかしくて言えないです……」

「なんだ⁉︎ 俺は何をさせられるんだ⁉︎」

 

人前だと恥ずかしくて言えないことってなんだろう。まさかとは思うけど、倫理設定の解除とかそんな話なんてことはーー

 

「こんなところで言わせようとするなんてカマクはいやらしいですね」

「死ねカマクぅぅーっ!」

「なぜ、俺が狙われるんだ⁉︎ 俺は何も言っていないだろ⁉︎」

「黙れ! 今朝部屋で見た『寝ているメユに無理矢理キスをしていた』って事も含めて納得のいく説明をしてもらおう」

「待て!コトの内容が変わっているぞ⁉︎本当はーー」

「……キスだけで終わらなかったんですけどね」

 

その一言が僕の中のリミッターを解除した。

 

「嫉妬と怒りが可能にした、殺戮行為の極致を思い知れ……っ!

「うぉっ⁉︎ ワールンの動きがマジで見えねぇ!」

「……キスの後、もう一度一緒に寝ました」

 

第二リミッター解除。

 

「ごふっ! バ、バカな……! ワールンに筋力値で負けるなんて……!」

「……とても気持ちよかったです」

 

最終リミッター解除。

 

「更に分身ーーいや、残像か⁉︎ もうお前仮想世界での限界を超えてるだろ⁉︎」

「『殺したいほど羨ましい』という嫉妬心は、不可能を可能にする……!」

「上等だ!こうなりゃこっちも本気で相手してやらぁ!」

 

こうして六五層の主街区には、男達の喧騒が朝からこだましていた。

 

 

 

「……はぁ、はぁ」

「…………あ、危なかったぜ」

「お前ら、何やってたんだ?」

 

転移門に来るなりカマクとワールンが息を切らしていた。

 

「少し、早めに、着ちまった、から、走ってたんだよ」

「それにしてはやたらとワールンが睨んでいるんだけど?」

「気にするな」

 

そう言うならあまり触れないでおこう。

 

「もうみんな揃ったけどいいか?」

 

カマクとワールンが何やら走り回っている間に俺、チヒロ、ワカナ、そしてローエルが転移広場に集まっていた。

 

「ああ、なら早速行くか。ワールンお前の罰ゲームだが、今日一日前衛な!」

「なっ⁉︎ 自分の罰ゲームは逃げて僕にはそれか!」

「それはそれだ。逆にそれで済んでよかったと思え」

 

それが何なのか二人以外にはわからずぽかんとしてしまう。

とりあえずワールンが前衛をしてくれるのは楽だからいいけど。

 

「ワールンよろしくね!昨日最初の方だけマッピングしたし、案内だけはしてあげるからさ」

「ピカピカ!」

 

ワカナがワールンの肩に手を置いてにこやかに告げると彼女の相棒のピカチュウもそれに合わせる。

 

「まぁ戦闘だけでいいならいいかな」

「ワカナとチヒロがマッピングしたのか?」

「そうだよ、といっても3階くらいまでしかしてないけどね」

 

そこまでしていたら最初の方はモンスターだけに集中出来そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

街を出て迷宮区へと向かってから、二時間足らずでようやく迷宮区の入り口に着いた。

入り口の前に安全エリアがあるため俺たちはそこで少し休憩を取ることにした。

 

「み、みなさん、良かったらこれを…………」

 

チヒロが取り出したのは大きめの箱だった。

蓋を取ると中には様々な料理が並べられていた。

 

「いいのか?」

「はい。皆さんさえ良ければですけど」

「ありがとう、有り難くもらうよ」

「おい!俺にもわけろ!」

 

ワールンが真っ先に手を付け、おにぎりのようなものを摘み、カマクはサンドイッチを選び口へと運ぶ。

俺は二人の様子を見て自分は何を食べようかと悩んでいた。

 

「う、美味い!中に入ってる具もしっかりしるし」

「ああ、こんだけのを作れるなんて相当スキルレベル高いんじゃないか?」

「この間やっとコンプリートしたんです」

「あんた、ほんとうにスゴイわよね。アスナとかもだけど攻略の合間に料理スキルを上げるのってかなりキツイってのに」

 

みんながチヒロの料理に絶賛している中、俺もカマクの食べていたサンドイッチを食べるとじっとチヒロが見つめていた。

 

「ガタリくん、どうですか?」

「うん、美味しいよ」

「本当ですか?良かったです」

 

この味はNPCレストランじゃ出せないくらい美味しい。

 

「嬢ちゃん、料理スキルを取ってたんだね。可愛いのに料理も出来るなんてこりゃあ将来有望だね〜」

 

ローエルがチヒロの料理を食べながらチヒロを褒める。

照れたのかチヒロは顔を赤くして手元にあった飲み物を勢い良く流し込んでいく。

それを見てワカナが庇うようにローエルに言う。

 

「ローエルさん、チヒロをそんなにからかわないでくださいね」

「ごめんごめん、おじさんくらいになるとつい構いたくなるんだよ」

 

そう言って卵焼きに似たものをヒョイと摘んで口にする。

俺も取ろうとして、箱を見るといつの間にか半分以上が無くなっていた。

 

「……って、お前ら食べるの早すぎるだろ⁉︎」

 

カマクとワールンを見ると口を膨らまして何

やら抗議している。

 

「はって、これ、ふんごく、ふまくて」

「ほうほう、ひくらへもはへらへるよ」

 

けれど、口に含んでいる状態で喋ってもわかるわけもない。とりあえず、美味しいってことだけは伝わってくる。

とにかく、全部なくなる前に俺も急いで食べないと。

 

「お前らだけズルいんだよ!」

 

チヒロが作ってくれた弁当をみんなで食べつくすのに10分とかからなかった。

 

 

 

 

 

彼らは迷宮区の二階へと到達した。

 

「これなら3階までスムーズに行けそうだな」

 

みんなの先頭を歩くワールンが大剣を背に納めて呟く。

 

「チヒロ達がマッピングしてくれたお陰だよ、出来れば今日までに八割くらいはマッピングしておきたいしな」

「でも、この迷宮区結構罠とか多くて3階まで進むのにもかなり苦労したんですよ?」

「そうそう、あっワールンそこ右に曲がって!」

「ん、オッケー」

 

ワカナが指で示した所をワールンは軽く了承して曲がる。

すると急に不快感が襲い、自分のHPバーの横に毒状態のアイコンが表示されたのに気付いた。

 

「んん⁉︎ ねぇ、ワカナ。毒状態になったんだけど?」

「あ、そっちは毒の水路みたいなの」

「そうなんだ。でこのまま進んだらいいの?」

「別にそっちに行っても行き止まりなだけで何もないよ」

「そうなんだ。……って何で僕をこっちにいかせたの⁉︎」

「……嫌がらせ?」

 

捲し立てながらワカナに質問するワールンにワカナは最高級の笑顔で首を傾けながら答えた。その顔には悪戯心が如実に現れている。

 

「そんな理由⁉︎ 僕のHP結構ガリガリと削られているんだけど⁉︎」

「ちゃんと回復してあげるから、そんな怒らないでよ。ピカチュウ、お願い」

「ピカピッ!」

 

ワカナの肩が定位置の黄色い鼠はその特徴的な赤い頬からパチパチと電気を発生させている。

 

「え? ピカチュウって回復なんて出来るの?」

「出来ないよ……でもね」

「でも……?」

「麻痺状態には出来るんだ!」

「嫌々、毒で結構ヤバいのにその上に麻痺までかけるの⁉︎ ワカナって僕のこと相当嫌ってない⁉︎」

 

ワカナはその問いに首を横に振った。

 

「うんうん、ここまで全部カマクがやれって言ったんだよ」

「おのれカマク! さてはさっきの仕返しのつもりだな!」

「あースッキリした、サンキューなワカナ。お陰で気分が良いわ〜」

「私も面白かったからいいよ!」

「お前ら〜‼︎ ……決めた、今ここでカマクだけは斬る!」

「来いや!さっきの借り返してやらぁ‼︎」

 

二人が一触即発の雰囲気を醸し出す。しかし、それを年長者のローエルが止めた。

 

「はいはい、そこまでだよ。ほいっ、ワールン」

「え?おっとっと」

 

解毒ポーションをオブジェクト化してそれを投げ渡す。

 

「それでも飲んで落ち着きな。全く若いってのは元気でいいが短絡すぎんかねぇ」

 

短く嘆息をついてカマクを見据えた。

 

「最前線だってのに楽しむのはおおいに構わんがその度合いをもう少し下げれないのか?毒なんてもんを悪戯に使うんじゃないよ」

「あ、ああ、悪かった」

 

年長者ゆえの風格か、カマクも萎縮していた。

やり過ぎたかなと内心で反省する。

すると、気を抜いていたカマクの背後にモンスターが現れた。

 

「カマク君!後ろに……!」

 

チヒロが気づき叫んだと同時にカマクは振り返った。

しかし、落ち込んでいたのもあり反応が遅れた。

サソリ型のモンスターはその大きな腕のハサミでカマクに襲いかかる。

 

「チッ!」

 

舌打ちするがその攻撃を盾で受けるのも間に合わない。

けれどそれをローエルが左手に持つ刀で受け止め、一瞬のうちにしてサソリ型のモンスターをポリゴンへと還えた。

 

「余所見厳禁だぜ、少年」

「ああ、助かったよ」

 

ローエルのニヤリとした笑みにカマクは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

その後順当に攻略し、10階を越えた所で今日のマッピングを終了した。

 

 

 

 

その日の夜、俺はいつものように下層の町外れでローエルと二人でいた。

 

俺がローエルにソードスキルを打ち込むとローエルはそれをいとも簡単に受け流す。

そのまま右手で持った刀で攻撃を仕掛けてきた。

 

「……ぐぐっ」

 

絞れた声が出る、何とかそれを捌き一度距離を取る。

 

「まぁまぁってとこだね、最初の頃に比べたら全然マシだけど簡単に相手に攻撃を許しちゃダメだぜ、坊主」

「はぁ、これでも何とかしようとはしてるですけど」

「坊主は一点に集中し過ぎなんだ、だから横から来た攻撃や不意打ちに弱い。まぁそれが坊主の武器にもなるんだけどな」

「武器にですか?」

「ああ、基本的な鍔迫り合いでおっさんは坊主に勝てると思わないよ。だから他の攻撃で隙を作る」

「というと?」

 

そうだなと一拍置いてローエルが空いている左手を突き出した。

 

「簡単なのは空いてる手で体術スキルを打ち込んだり、後は足を引っ掛けたりとかだな」

 

思い返せば、インペラートルとの戦いでは体術スキルでやられる事もかなりあった気がする。

 

「モンスターならそんな小細工はまだしてこないだろうけど、プレイヤーはどんな方法でも使ってくるんだよ。だから坊主はその一点集中の武器を保ちながら相手の不意打ちにも対応できるようにならねぇといけないわけだ」

「成る程」

 

俺はローエルの指導に頷く。

こういった指導は何度もあり、その度に俺はローエルの凄さを実感していた。

この人がいて、本当に良かったと思っている。

ローエルを見ていて俺はあることに気付き、それを指摘した。

 

「ローエルさんってなんで俺と二人の時は右手で刀を持ってるんですか?」

 

そう、普段みんなといる時ローエルは左手で刀を使っているのだ。

 

「そりゃあ、オッさんの利き手が右手だからだよ」

「右手なのに普段は左手を使うんですか?」

「まぁ、坊主の指導するなら本気でしないとと思ってるのもあるが、普段は保険ってのもあって左手でやってるんだよ」

 

確かにそういう理由なら納得する。

右手が切り札ということなんだろうか?

それでも俺との指導や決闘でローエルが右手を使って、本気を出したことなんてないんだろうけど。

いつも、簡単にあしらわれるし。

 

「特に深い理由なんて無いよ、あーでも坊主と二人きりの時以外にも坊主の前で右手を使ったことはあっだけどな」

 

へぇ、いつだろう。と思ったけど俺はそれを口にしなかった。

 

「よし、坊主。坊主に俺のとっておきを教えてやろう」

「え?なんですか?それ」

「まぁ言えば必殺技みたいなものだ。ソードスキルってわけじゃ無いからシステムの恩恵はないがそれでも充分使える。それに坊主の戦闘スタイルにも相性がいいはずだぜ」

 

俺はそれからしばらくの間、その必殺技を覚えるのにローエルとの特訓の半分を使っていった。




読んで頂きありがとうございます。

春休みだと進むと思ってたんですけど色々と用事が詰まってきて書く暇がなかったです。m(_ _)m
英語の問題のやり取りはバカテスのやつです。
思ったよりアイデアが浮かんでこなくて申し訳ないです。

ではまた次回。
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