ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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女神の試練再び

「にしても、こうやって三人で集まるのは久しぶりだな」

「いつもはお前らが夜にどっかに行ってるからだろ?」

「ごめんね、でも今日からは前みたいにパーティー組みながら攻略できるから」

 

六十七層を突破した日、久し振りにガタリ、マルカ、タクトの全員がホームで夕食を食べていた。

五十層を越えた頃からタクトとマルカのどちらかが度々夜に帰ってこないことがあり、ガタリ達は二人で会うことはあっても三人でこうやってゆっくりする機会が無かったのである。

勿論、ボス戦の時には三人とも参加しているので顔を合わせてはいるのだが。

 

「何やってたんだよ、今まで」

「えーっと…………ちょっと今は言えないかな」

「タクトもか?」

「あー、まぁそのうち教えるさ」

 

曖昧な回答で誤魔化す二人にガタリはジトーっと二人を見る。

 

「でも、ガタリも最近夜に出かけてるじゃない?」

「えっ?俺はある人に稽古をつけてもらっててさ」

 

その言葉にタクトが納得したように頷いた。

 

「だからか、最近お前の戦い方が変わってきたなーとは思ってたんだけどよ」

「やっぱり気付いてたか」

「そう?確かに最近はモンスターと真正面からぶつかってるとこ見かけなかったけど、そこまでの変化なの?」

 

首を傾げるマルカにタクトがいや。ときりたす。

 

「そこまでの変化じゃないぜ、俺はこいつの事をよく見てたからすぐに気付いただけだし、他の人でも良く見てなかったら見逃す程度だよ」

「お前そんなに俺のこと見てたのか?」

「あぁ」

「それって…………“これ”だからか?」

 

右手の甲を左の頬に当てる。“これ”というのは勿論オカマかどうかという意味だ。

 

「ちげぇよ!」

「え⁉︎ ごめんねタクト。今まで気付いてあげられなくて……」

「マルカもか⁉︎ だから、ちげぇって!」

「まぁ、タクトがオカマかどうかは置いといて」

「ガタリ、言っておくが俺は女が好きだからな!」

「そんなに念を押すってことは本当にそうなの?」

「お前ら、分かっててやってるだろ!」

 

タクトの絶叫が静かな夜に響き渡る。

しばらくしてガタリとマルカが笑い終えて、話を戻した。

 

「そういえば、女神の試練って覚えてるか?」

「ああ、勿論覚えるぜ」

「っていうか、あんなクエストを忘れる方が難しいわよ」

 

四十三層で受けたクエスト【女神の試練】。

それは三人が受けたキャンペーンクエストである。

 

「あれの続きが見つかったって言ったらどうする?」

「おっ、やっとか。あーでもな〜」

「そうね、確かにそうなるわよね」

 

全員が深い溜息をつき、ホームの空気が重くなった。

女神の試練クエストは確かに報酬はすばらしかった。三人についている腕輪は未だに他のプレイヤーが持っていないであろう代物だ。

効果は腕輪を持つ者どうしが同時に同じソードスキルを発生させると威力や効果範囲が上がるのだ。更に、それを続けて行えば更に上乗せされていく。けれど、試練の内容は語るのが難しく、尚且つ微妙にやり辛いのだ。

 

「でも、せっかくだし受けないか?」

「仕方ないわね、もしかしたらまたボスの情報が手に入るかもしれないし」

「決まりだな、それならユウマ とチヒロにも声をかけとくとするか」

「あ、待ってくれ」

 

タクトがメッセージウインドウを出しているとガタリがそれを止めさせた。

 

「二人には先に言ってたんだけど用事があるらしくてさ、だから他の奴を誘っといたんだ」

「そうか、誰を誘ったんだ?」

 

少し言いづらそうに頬をかく。

 

「カマクとワールン………それとカヤとマリだ」

「マリも誘ったの⁉︎ 大丈夫?」

「クエストの場所は五十二層だし、いいかなって思ってさ」

「それで返事はどうだったの?」

「全員大丈夫だってさ、マリもレベルだけなら安全マージンは取れてるらしいしそこまで問題になることはないんじゃないか?」

「なら、いいわね。この間と似たようなのなら戦闘は無いだろうし」

「よっしゃ!ガタリ、今から行くのか?」

「ああ、五十二層の転移門広場に集合することになってるよ」

 

三人ともホームを出て、五十二層へと向かった。

 

 

五十二層主街区<デリア>

転移門広場に着くなり、三人に砂風が吹き、つい反射で手で顔を覆うガタリ達。

 

「相変わらずここは閑散としてやがるなー」

 

砂漠がテーマのこの層では砂埃がそこら中で舞っているからかプレイヤーが少ない。

 

「あっちにみんな集まってるみたいね」

 

カマクやワールン達が風除けのある建物の下にいた。

 

「よぉ、今日は頼むぜ」

「こっちも期待してるぜ」

 

カマクがニヤリと笑って挨拶するのをガタリも笑って返した。

 

「女神の試練ってキャンペーンクエストらしいけど僕たちが途中参加しても大丈夫なの?」

 

ワールンが疑問を口にする。

普通のキャンペーンクエストなら受けた本人達しか続けて受けられないのだ。

 

「ああ、これは大丈夫みたいだ。まぁ相変わらず男女それぞれ2名以上っていうのは条件らしいけどな」

「そうなんだ、ならよかった。……それよりなんでタクトとマルカはそんな面倒くさそうな顔になってるの?」

 

二人は微妙な表情でいた。

 

「……ワールンも終わったらこうなるさ」

「……そうね」

「??」

 

ワールンだけでなくカマクとマリも?を浮かべる。

 

「そんなことはいい。早く終わらせるぞ」

「あ、カヤ。待ってくれよ」

 

歩き出すカヤにワールンが付いていく。

他も遅れながら付いていき、マリがみんなに声をかける。

 

「皆さんよろしくお願いします。多分私は、お役にたてそうにないので」

「そんなの気にしなくていいよ、マリが参加してくれるだけでも助かってるだから」

「そうよね、タクトなんかいるだけで邪魔なんだから」

「そうそう……ってマルカ⁉︎ 俺がいつ邪魔になったんだよ!」

 

タクトのツッコミにみんなが笑い、ワチャワチャしながらフィールドに出た。

 

砂漠がテーマなだけあって出てくるモンスターはサンドワームやヤドカリのような種類が多い。

厄介なのはこの系統のモンスターは地中に潜っているので索敵で見つけることができない。

なので戦闘は基本的に不意打ちによる奇襲から始まり、プレイヤーは必ず後手に回ってしまう。

 

「ッたく、またかよ!」

「文句言ってないで動きなさいよ!」

 

サンドワーム系のモンスターが数体現れ、彼らの道を塞ぐように並んでいる。

 

「はいはい、分かってらー」

「本当にもう。少し緊張感を持ちなさい!」

 

しかし、随分と前に踏破された層だ、最前線で死線を生き抜いてきた攻略組にはそれでは脅威にはなり得ない。

タクトが右手に持つ片手剣でモンスターの攻撃を軽くあしらう。

 

「ほらよっと。ガタリ、スイッチ行くぞ!」

「ああ」

 

ガタリがタクトとすれ違うように前へと出て、<ヴォーパルストライク>を放つ。

レベルに差があるからか一撃で半分以上のHPを削り、ポリゴンへと還す。

その間にワールンやカヤも一体ずつ倒し、マルカが最後の一体を離れた距離から投剣スキル<バレットシュート>で串刺しにする。

 

「ふう、一丁あがりね!」

「えげつねぇな、お前のそれって」

 

体のあちこちにナイフが刺さったモンスターを見てタクトが呟いた。

 

「うるさいわねー。仕方ないじゃない、刺さっても耐久値が無くなるまで消えないんだから」

 

上層に行くにつれマルカの使う投剣に使う武器もレア度が上がって来ているため耐久値も長いのだ。

少し経ち、刺さった武器による貫通ダメージでモンスターがポリゴンとなり、散った。

すると、今まで吹いていた砂嵐が落ち着き始めた。

 

「何か見えて来たぜ」

 

タクトが声を上げ、全員が目を凝らし、焦点を合わせる。

逆三角形のピラミッドが僅かに回転しながら宙を漂っていた。

 

「ガタリ、もしかしてあれが?」

「ああ、次の女神の試練の場所だ」

 

歩くこと2分、逆ピラミッドの直ぐそばに着くなり、マルカが首を上に向けた。

 

「にしても、デカイわね。これどうやって中に入るのかしら」

「どっかに穴でもあるんじゃねえか?」

「ガタリ、何か知ってるか?」

 

カマクの質問にガタリはすっと答えた。

 

「ああ、ワールン。ピラミッドの真下にまで行ってもらっていいか?」

「え?わ、わかったよ。……これでいいのか?」

 

言われた通り素直に、尖った先端の下に身を入れるワールン。頭のすぐ上で巨大な四角錐が回転するという状況に、彼は少し顔に緊張を滲ませていた。

 

「そしたら、そのまま真上を見てくれ。……何が見える?」

「え、えーっと、当然巨大な四角錐の鋭い先端が、僕の眉間めがけて真上でぐるぐる回っていて、これ超絶に心臓に悪い光景なのだけど……」

「そうか。悪いけど、しばらくそのままで頼む」

「あ、ああ……」

 

ワールンがゴクリと喉を鳴らして答える。

確かに、アレは傍から見ているだけでもかなり怖く、先端恐怖症でなくても、しばらくあのままでいたら心が壊れてしまいそうでさえある。

 

「それで他のみんなはこっちだ」

 

そう言ってガタリが先導して歩き出す。巨大四角錐の先端を見つめるワールンの脇を通り、元来た方と逆側に出た。

そのまま少し歩くと、前方に、地面からポールのようなものが生えているのが確認出来る。傍まで行くとタクトとマルカの胸くらいまでの高さがある六角柱だ。

その形状と色合いに、<決断の洞窟>を思い出したマルカが、なんとなく察してガタリに告げる。

 

「これに、ガタリが手を置くわけね?」

「鋭いな。正解だよ、マルカ」

 

優しく笑いかけるガタリ。

ガタリは二度目ということもあり、躊躇うことなく六角柱に自分の手を置いた。

次の瞬間ーー

<ゴゥンーー>

 

重々しい音と共にピタリと四角錐の回転が止まった。

驚いたワールンが「ぎゃっ」と情けない声をあげるも、ガタリの言いつけを守るべく、ダクダクと脂汗が流れるのを背中に感じながらも下から四角錐を見つめ続ける。

そうこうしているうちに、更に四角錐に変化が起こった。下部側面の一部がゆっくりと長方形に口を開け、鉛色の階段が現れた。

 

「うし、無事に開いたし行くか、マルカ、タクト、カマク、カヤ、マリ」

「ええ!」「おう!」「ああ!」「……」「はい!」

 

全員がこれから起きることに胸をときめかせ、笑顔で頷きガタリに続いた。

七人が階段に上っていると、ワールンが相変わらず四角錐の頂点真下で顔にこの世界ではない脂汗を滴らせたような様子で大声で訪ねた。

 

「お、おいガタリ! 僕はもう動いていいのか⁉︎ まさかみんながクエストを受けている最中、僕だけずっとこのままでいろっていうんじゃないだろうね?」

 

その彼の悲痛な叫びに、ガタリは、「ああ、別にもういいぞ」と素っ気なく応じ、そのまま余談のようにポツリと続ける。

 

「特に意味ないからな、その作業」

 

「ちくしょぉおおおおおおおおおおおお!」

 

恐怖空間から転がる様にして抜け出てきたワールンが、血の涙を流しながらガタリ達を追って階段を駆け上がる。そのままワールンはガタリの胸ぐらを掴んで叫ぶ。

 

「どういうつもりだよ!」

 

その質問に、ガタリは特に動揺した様子も無く淡々と応じる。

 

「それはこっちの台詞だぞワールン。 一体どういうつもりであんな危険な位置で巨大四角錐の鋭利な先端なんて見つめてたんだ?正気の沙汰じゃないぞ…………」

 

青ざめた顔をして両手で体を震わせるガタリ。ワールンが叫ぶ。

 

「君がやれって言ったんだよねぇええええええええ⁉︎」

「そ、それってワールンが俺のことなら何でも聞くってことか? まいったな、俺へのことがそれほど好きなのはさすがに引くぞ? タクトだけでも手一杯だっていうのに」

「待て! 何でそこで俺も巻き込む⁉︎」

「タクトのことなんてどうでもいいよ!普通、訳知りの人にしれっと指示されたらその通りにするでしょ!」

 

サラッとスルーされたタクトが鋭くワールンを睨む。

しかし、ワールンの視界には入らず、ガタリが右手を出して告げる。

 

「そうか、なら……『お手』!」

 

若干ワクワクした様子で指示するガタリ。その手をワールンは突っ撥ね怒鳴る。

 

「そうか、じゃないよね! どうしてこのタイミングでお手をすると思ったの⁉︎ 馬鹿なの⁉︎」

「そっか、なら次は……」

「いや『なら次は』じゃないよ! もう今更ガタリの指示なんて、どんな状況でも聞かなーーー」

「カヤ」

 

ガタリが呟くと次の瞬間、カヤは居合を想わせるように素早く刀を抜き放ち、ワールンの首筋に突きつけ怜悧な瞳で見る。

 

「お手」「ワン」

 

ガタリの手に間髪入れずにワールンが手を差し出した。

(………ワールン…………。)と全員が見る。

この一件でワールンが大人しくなり、改めて彼らは四角錐へと足を踏み入れた。

 

「今の全く見えなかったんだけど……」

「ああ、俺も全くわからなかったぜ」

 

入るなりマルカとタクトが周りには聞こえない程度で会話をする。

カヤが呼ばれる前には手は柄にも置いていなかったにも関わらず彼が呼ばれたと思った時にはもう刀はワールンの首筋にあったのだ。

 

「カヤが敵じゃなくてよかったわ」

「ああ、あいつに決闘で勝てる気がしねぇ」

 

二人がちらりとカヤを見ると表情は硬く、いつもと何も変わらない。マリがいるからか雰囲気だけは少し柔らかく感じる。

そうこうしていると壁面に彫られた幾何学模様からの光が強さを増し、ガタリ、マルカ、タクトには聞き慣れた試練管理者ーーアウルの声が響き渡った。

 

『ーー<代償の迷宮>へようこそ、無垢なる<召喚者>達よ』

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

また来ました女神の試練。
すいませんが少しの間付き合ってください(笑)

では、また次回。
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