ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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女神の試練《代償の迷宮》

 

『ーー<代償の迷宮>へようこそ、無垢なる<召喚者>達よ』

 

前回の試練で聞いたのと全く同じ無機質な女性の声。

この状況の「それっぽさ」にマリが興奮の声をあげる。

 

「わぁっ、凄いですね皆さん!流石は<女神の試練>!聞きしに勝る神秘です!」

「「……そうだね」」

「なぜか三人方急激にテンションを下がっていらっしゃる⁉︎」

 

俺、 タクト、マルカを見て怪訝そうにするマリ、そんな中アウルの言葉が続く。

 

『今回の試練は、召喚者たる皆様に、毎回なんらかの≪代償≫を捧げてもらうことで、次の階層への道が開ける仕組みになっております』

 

その説明に、カマクが抗議の声をあげる。

 

「待ってくれ!それはガタリだけじゃなく、ここにいる全員がその≪代償≫ってのを払わないといけないのか?」

『はい。ここに足を踏み入れた召喚者達は試練の参加者とみなし、皆さんの意向によってはそういったこともありましょう』

 

それで納得したのか大人しく下がるカマク。

それを見て今度はマルカが問いかけた。

 

「≪代償の迷宮≫……迷宮ってことは、迷宮区みたいに迷路みたいになってるのかしら?」

 

アウルはそれを否定で返した。

 

『いえ。そもそも迷宮と迷路では定義が違います。詳細は割愛しますが、要は複雑に曲がりながらも結局は一本道なのが迷宮、行き止まりや分岐などがあるのが迷路です』

「そうなんだ。わかったわ、ようは前に進めば良いってことね」

『よい理解です。マルカ。その定義にならい、この試練もまた《道に迷う》ことはありません。至極単純な階層構造を、中央の昇降装置を用いて移動するだけです』

 

アウルが告げると同時に、部屋中央の黒色六角パネルに、魔法陣のような円形の幾何学模様が浮かぶ。

どうやらあの上に乗ると、次の階層に行けるらしい。

が、しかし、模様が浮き出ていたのは束の間で、六角形は再び沈黙してしまった。

 

『勿論、装置の起動には条件のクリアーーつまり相応の代償が必要です。取引が成立した場合に限り、昇降装置は起動します。つまり迷路で常に迷いに晒されるのは、方向や道筋ではなく《前に進む意志》そのものです』

 

そのどこか脅かすような説明に、皆思わず息を呑む。

タクトが頬をひくひくとひきつらせながら訊ねた。

 

「そ、その代償とやらは、当然、この迷路クリア時に戻ってくるんだろうな?」

 

彼の質問にアウルは少し考える間をおいた後、ゆっくりと回答する。

 

『戻るものもあれば、戻らぬものもあるとだけ、今は告げましょう』

「なんだよ、煮えきらねぇな」

『私のマスターである方が、屁理屈でプレイヤーに隙を与えないようにと私に告げましたので。ご了承ください』

「「(捻くれすぎだろっ、茅場晶彦!)」」

 

全員が見ているかどうかもわからないが、天井を見上げる。もう少し、プレイヤーに優しくても良いだろうに。

 

『階層数は五。よって代償を捧げて貰うのも五回です。捧げる・捧げないの判定に関しては、私から見た貴方達の総意や多数派の意思を汲みます。更に、とある階層では戦闘行為を要求されるということも、心に留めておいて下さい』

「今回はやけに厳しい試練だな、まぁやるしかないんだろうけど」

 

タクトが気怠そうに語るも、他の皆はマリを見た。

元々、戦闘行為が無いと思って参加してもらっているのだ、今から引き返しても良いのではないか。

そんな俺たちの心を汲み取ってかマリが笑った。

 

「心配されなくても大丈夫ですよ、流石に皆さんみたいにとはいきませんが私もここまで生き残っているんですから!」

「だが、マリ」

「カヤ様も心配症なんですから、ならカヤ様が私を守ってください」

「勿論、僕がマリを守る」

「それでこの話は打ち止めですね」

 

しぶしぶといった感じでカヤが折れ、全員が参加の意思を示す。

全員の意思表示を確認した後、アウルは早速、試練を開始してきた。

 

『では第一の代償要求です。ーー《戦闘力》を《プレイヤー平均の五人分》差し出しなさい』

 

「「……そうきたかぁ」」

 

全員で思わず唸る。……というのも、この迷宮で今後「戦闘行為」を迫られるという説明を受けた直後だから。まあ、クリア後には戻って来る類の代償なのだろうけど……。

アウルが補足してくる。

 

『詳しい数値配分を言えば、平均プレイヤーの筋力値が「100」、敏捷値が「120」とした数値算出方法で、その5人分ーーつまり筋力値「500」、敏捷値「600」ポイント分の戦闘力を要求いたします。支払いは複数人で割って頂いて問題ありません』

「「ふむふむ」」

『では、どなたから如何ほど徴収致しましょうか?』

 

「さてどうすっか。この中で一番レベルの高いであろう俺が半分くらい出してやってもいいが」

 

タクトの発言に全員が睨みをきかせ指を指す。

 

「「タクトから半分で」」

「お前ら即答過ぎんだろうが!」

 

皆の素晴らしい判断に驚いた様子でタクトが叫ぶ。が、時すでに遅し。アウルの『了解しました』という声のもと、部屋全体が淡い赤色に光り出すと、呼応するようにタクトの体も光りだし、そうして彼が呻きながらその場に膝をついたところで、光が消える。徴収が終わったようだ。

 

『戦闘力を全て徴収致しました』

 

アウルのアナウンスが場に響き、全て徴収できたことに俺たちは驚いた。

しかし、タクトがヘロヘロになりながらもアウルに向かいツッコんだ。

 

「おい!半分どころかほとんど取ってんじゃねぇか」

 

確かに全部を集め切るのに一人では心許ない筈なのに。

 

『私は全員の意思を汲み取り、徴収致しました』

 

ということは、この場にいる何人かがタクトに半分どころか全てを徴収するようにしたのだろう。

 

「誰だよ⁉︎」

 

ギリッと力なく睨むタクトにマルカ、カマク、ワールン、カヤが目を逸らした。

お前らぁ……。

 

『徴収を完了致しましたので、昇降装置を起動します』

 

場の空気を仕切り直すかのように、アウルがアナウンスをする。

すると、部屋の中央で魔法陣が光り出す。

全員がそれに向かい、俺が最後に到着すると、同時に、魔法陣は輝きを増す。

そうしてブゥンッ、という起動音と共に、六角形の魔法陣パネルは浮遊を始めた。

 

「おわっ⁉︎」

 

タクトがびくりと怯え、パネルが徐々に浮上しているのを確認すると、慌てて天井を確認する。ーーと、いつの間にやら天井にぽっかりと大穴が開いていた。

俺たちを乗せた浮遊パネルはそのまま穴に吸い込まれるように上昇していき、そうして昇りきった先は……。

 

「さっきと同じカタチの……でも少し広めの部屋みたいだね」

 

ワールンがあたりを見回しながら呟く。パネルが周囲の床と同じ高さまで来ると開いていた穴が閉じ、魔法陣は輝きを失った。

魔法陣から出てカツカツと歩き、マルカが呟く。

 

「ふぅーん、こうやって上層階に順次昇っていくわけね」

「逆ピラミッドの形だから、そりゃ上に行けば行くほど部屋も広いわな」

 

カマクが開放感から伸びをしながら応じる。……とはいえ、真四角の部屋には相変わらず何もない。

ぼんやりと佇んでいると、今度はすぐにアウルのアナウンスが始まった。

 

『では第二の代償要求です』

 

表情を強張らせる俺たちに、アウルは淡々とその代償を要求してくる。

 

『ーーどなたか一名の《自制心》を差し出しなさい』

 

「「じゃタクト(さん)で」」

 

今度はソッコーで答える俺達。タクトが再び絶叫する!

 

「おいお前らっ、いい加減ーー」

『受理できません。彼にはそもそも奪うに足る程の自制心がありません』

「なんでだよ!奪えよ自制心! 今晩その声でエロい妄想すんぞ管理者さんよぉ!」

 

タクトがぎゃあぎゃあと喚く。ああ、確かに無いわ、自制心。前もワールンと女風呂を覗こうとしてたしな。

仕方ないので、全員で検討する。すると始めにカマクが忠告する

 

「とりあえずワールンもタクトと同じ理由で無理だわな」

「聞き捨てならないよ!」

「ほう、お前には奪うに足る自制心があると?」

「当たり前じゃないか!」

「なら、アウルこいつのを頼む」

 

自信満々の顔でいるワールン。お前騙されてるぞ。奪えなくて当然、奪えたらラッキーとカマクは考えているのだろう、ほんと策士だよカマク。

 

『受理できません、その方も奪うに足る自制心がありません』

「奪いなよ!アウル!僕ほど自制心がある奴なんていないよ!くそッ、今晩タクトと一緒にその声でエロい妄想してやる!」

 

言ったそばから、自制心なんてものを感じない。

話を戻す為、少し大きめの声で話す。

 

「まぁ振り出しに戻ったわけだけどどうする?」

「とりあえず、マリは無しだな。戦闘行為が残っているのに自制心を無くして勝手な行動をされたら困る」

「すいません」

 

申し訳なさそうに謝るマリ。そんなことしなくてもいいんだけど。

残ったのが俺、マルカ、カマク、カヤなわけだ。

四人で目配せしているとカヤが身を乗り出した。

 

「僕が出そう。マリがいれば暴れることは無いだろうし。暴れても止める奴は幾らでもいる」

 

意外だったまさかカヤからそんなことを言うなんて。

カヤは心配そうに見るマリに優しく笑い言葉を続けた。

 

「他人を傷付けたいなどと思ってもないからそんなことも無いだろうが。……いや、あいつら二人がマリにちょっかい出せば衝動的に斬るかもしれんが……まぁ、それくらいならば特に問題無いだろう?」

「「だな(だね)」」

「「おいこらふざけんな!」」

 

自制心の無い二人がごちゃごちゃ言っているけど、とにかくこれで代償は決まった。

全員の意思表示を受け、アウルが徴収を実行する。

部屋全体が今度は青く光り出し、カヤの体もまた光に包まれる。そうして、数秘後。

光が収まると同時に、アウルのアナウンス。

 

『《自制心》の徴収が完了致しました。昇降装置を起動します』

 

第一のフロア同様に、魔法陣パネルが光り出す。

早速にでも次のフロアに向かいたいところだけど、その前に……。

みんなの視線がカヤへと向かう、すると、自制心を失ったカヤは……。

 

「何をしている?早く次のフロアに向かうぞ」

「「あ、あれ?」」

 

意外といつもどおりであった。まぁ確かにカヤなら案外こんなものかと思い、納得する。

ワールンが遠目で見ているとカヤがそれを見て「なんだワールン?行くぞ」という淡々とした反応を見せるのみ。

 

「自制心のある時の方が冷たいって、なんだよ」

「ツンデレってやつじゃないか?」

「そうかな?ならマリに話しかけても全く問題無いんじゃ」

 

そう言うや否や、カヤの横を歩くマリの肩を叩こうとした、その瞬間ーー

ワールンの首が飛んだ。

……………。

……という幻覚をその場のみんなが一瞬で共有する程に凄まじい殺気が、カヤから迸った。

 

「ホントマジですいませんでした」

 

そして気付けばワールンが全力で床に額をこすりつけて土下座していた。

アインクラッドの中でもこの土下座速度に敵う奴はいないだろうスピードだ。

カマクがゴクリと唾を飲む。

 

「……普段のカヤに自制心があってよかったな、ワールン」

「あぁ……なかったらこの間一緒になった時点で生命の碑の名前に横線が引かれてたよ、僕」

 

とりあえずカヤのワールン達に対する「実はツンデレ説」が完全に消えた。というか新ジャンル「ツンサツ」だった。普段はツンツン、時折マジ殺意。……イヤすぎる。

気を取り直し、再び部屋の中央に向かう一同。順番にパネルに乗り、最後のマリが足を踏み出そうとした矢先……なぜかカヤが、マリに向かって手を差し出した。

 

「行こうか、マリ」

「え?あ、はい……」

 

マリも意味が分かっていないのか、返事はするも手を無視して、パネルに向かう。

 

「……えっと、カヤ様?」

「行こうか、マリ」

 

なぜか、通そうとしない。頑なに、マリに手を差し出している。周りもこの状況にぽかんとなる、きっと手を握れということなのだろう。気が付いたのかマリが恐る恐るカヤの手を握った。するとーー

 

「(にぱぁぁぁあああ!)」

「ほぇ⁉︎」

 

カヤが突然、笑顔の花を咲かせる。こんな嬉しそうなカヤなんて、今まで見たこと無いぞ。

俺たちが呆気にとられる中、カヤはマリの手を引いて鼻歌交じりで歩き出した。えらく上機嫌だ。

二人がパネルに乗ると魔法陣が起動し次のフロアへと上昇し始める、それからもカヤはマリの手を強く握り、ご機嫌だ。

横にいたマルカとカマクがカヤには聞こえない程度の声で呟く。

 

「……あれってカヤはマリにそういう感じなのかしら……」

「ああ、間違いねぇ。けどマリは知らなかったんだな」

「……あそう……そっかぁ……」

 

二人が憐憫の目でマリを見つめる。

 

「???」

 

まだこの状況を理解出来ていないのか、マリは俺たちに首を傾げてくる。

手を繋ぐ二人を見守っていること数十秒。次のフロアに着きまた広くなった部屋を眺めていると、再度、アウルからアナウンスが入る。

 

『ーーどなたか一名の《言葉》を差し出しなさい』

 

俺たちがよく意味を掴めずにいると、アウルは説明を続けた。

 

『《言葉》を徴収された者は、周囲との円滑な意思疎通ができなくなります』

「喋られなくなる……ってことであってる?」

『徴収されるのはあくまで意味を持った《言葉》のみですので、鳴き声や呻き声のような発音自体は可能です。言葉を喋ろうとした場合は、意味の持たない音に置き換わります』

「ふぅん……まあなんにしても、とりあえず代償を払うのは……」

 

俺が言うと同時に、その場の一名を除いた全員が。再度、自称最高レベルのプレイヤーを指差して告げる。

 

「「タクトで」」

「よぅし、戦争だお前らーー」

 

相変わらず自分の扱いにタクトは手の骨をコキコキ鳴らす。そうこうしているうちにアウルが『了解致しました』の声と共に無慈悲に彼から《言葉》を徴収していく。

そして、いつもの発光を終えた後、タクトは、心底怒った様子でーー

 

「…………メェェェェェエエエエエエエ」

「「鳴いたぁあああああああああ⁉︎」」

 

彼の口からもれでたヤギ如き鳴き声に、俺たちはーー笑いを禁じ得ない。

自制心のないカヤはタクトを馬鹿にした風に大笑いする中、俺たちもそれぞれ顔を背け、腹を抱えて笑う。

タクトはその光景を忌々しそうに見つめ、そして……鳴いた。

 

「…………モォォォォォオオオオオオオオ!」

 

当然俺たち、爆笑である。目尻に涙まで浮かんで来た。……あー、面白い。もうこの程度の楽な試練なら、全然OKーー

 

『ちなみに、次の階層に進むには昇降装置上でパスワードを告げる必要があるのですが、それを知っているのは彼のみです』

「「えええええええええええええええ⁉︎」」

 

いきなり知らされた衝撃の事実に、思わず絶叫する俺たち。しかしアウルは相変わらず冷静に語る。

 

『先程の徴収の際、彼の脳に直接刻みました。というわけで……『言葉』失った彼からどうにかしてパスワードを聞き出し、次の階層に進むまでが、今回の試練です』

「そういうことは先に言ってくれよ!見ろよこのタクト!俺たちが爆笑したせいで、もうすっかり拗ねて心閉ざしてるんだけど!」

 

俺がそう言って指差した先には、口をツーンと尖らせ腕を組み、そっぽ向くタクトの姿。

 

『……そう言われましても、それは、貴方達の過失では……。……こほん。とにかく……次のフロアでお待ちしております。では』

「あ、逃げたわね!」

 

ブツンとアウルのアナウンスが途切れる。……くそ!なんだよ!こういう説明って、徴収前にしておくべきことだろ⁉︎まったく……。いやまあ、笑ったのは俺たちが悪いんだけどさ。

なんにせよ、パスワードを聞き出さないことには話が始まらない。

ワールンが、タクトの前で手を合わせて露骨にご機嫌を取りにいく。

 

「た、タクト?その……悪かったよ、笑ったりして。それで……その、出来ればパスワードを教えて貰えると嬉しいんだけど……」

「…………」

 

ワールンの言葉にも、ツーンとして何も返さないタクト。……ああ、すっかり口を開くのが嫌になってるよ。すっごい厄介なんだけど、これ。

自制心を無くしたカヤが刀を突きつけるも、頑固に拗ねるタクト。その態度に、カヤが明らかに苛立ちを見せたところで、これはマズイとマリが彼をホールド。すると、途端にカヤは顔を紅らめて、照れる。

それはさて置きどうしたものかと場が膠着する中、マルカが「仕方ないわね」と腰に手を当てタクトの前に進み出た。

 

「タクト。……私の勘違いだったのかしら?」

「?」

 

首を傾げるタクトに、マルカは真摯に語る。

 

「あなたは不真面目でいつもお茶らけてみせているけど……」

「……」

「仲間を友達を困らせるようなことは決してしないと思っていたのは、私の勘違いだったようね」

「!」

「まぁせっかくみんながここまで頑張って来たのを無駄にしてもいいって言うなら私は良いんだけど……あんまり、私を失望させないでよ、タクト」

「…………」

 

言いたい放題言われ、流石にショックを受けた様子で、俯き、悔しそうに拳を握るタクト。

俺たちがハラハラと見守る中、タクトはボス戦くらいでしか見たことのない真面目な顔つきでマルカを見返し、そして、こくりと頷きながら、その言葉に応じた。

 

「ゲコ」

 

「あははははははは!」

 

途端、腹を抱えて大笑いするマルカ!

顔を真っ赤にしてぷるぷる震えるタクト。……真面目な説得が、全部台無しじゃねえか。

それから更に十五分程かけて説得し、彼の鳴き声にと慣れた俺たちは改めて、パスワードを聞き出しに掛かった。

 

「とりあえず、ジェスチャーで伝えて貰うのが手っ取り早いか」

 

俺がそう提案すると、皆んなも頷く。

しかしただ一人、タクト当人だけはあまり乗り気じゃない様子だった。

 

「どうした?ジェスチャーが恥ずかしいのか?」

「チュンチュン」

 

なぜか雀の鳴き声と共に首を横に振るタクト。……笑っちゃダメだ。

困っていると、マリが閃いた様子で訊ねた。

 

「もしかして、ジェスチャーで伝えづらい単語なのですか?」

「! パオンパオン!」

 

象の鳴き声と共に激しく首を縦にふるタクト。…………わ、笑っちゃダメだ。

カヤがうなる。

 

「そうなると、他に伝達手段がないぞ」

「クーン……」

「わかった、とりあえずこいつを輪切りにしよう」

「ニャニャニャニャニャーニャ⁉︎」

 

今のは分かった。「馬鹿かてめーは⁉︎」だ。……いや、こんなの分かっても仕方ないんだが。

代案も浮かばず、タクトにはジェスチャーで伝えて貰うことにする。

すると、タクトは少し考えた後、不思議な動作を始めた。

 

「ワワン、ワワン?」

 

何故か天井を指差すタクト。それから、両手で箱を左から右に運ぶような動作。

ワールンが「はいっ」と挙手をする。

 

「二階に、誰かが引っ越してきた!」

「……………ブヒッ……………」

「あれ、なんでだろう、ただの短い鳴き声なのに、確実に不正解なのと、更に僕が途轍もなく馬鹿にされたニュアンスが、全部一気に伝わってきたよ」

 

ワールン撃沈。タクトはもう一度同じ動作を繰り返した後、今回は更に、なぜかその場で寝そべる動作まで付け加える。

それを受けて……カヤが回答する!

 

「なるほど、出来るだけ楽に死なせてやろう」

「ヒヒーン!ヒヒヒヒーン!ヒヒーン!」

 

馬の鳴き声はさておき、涙目で俺の後ろに来たことから、大体こ言っていることの意味は伝わってきた。……だから、パスワードが伝わらないと意味ないんだよ。

自制心のないカヤをマリが宥め、再度タクトがジェスチャーを行う。

天井を指差す。ぐるっと何かが移動する動作。……おやすみ。

俺は少し考えた後、……ピンと来た単語を、口にする。

 

「……夜?」

「!しゃかりきーーーーーーん!」

 

途端、タクトがもはや何の鳴き声でも無いどころか、若干言葉めいた叫びを上げる。どうやら正解らしい。

俺たちは半信半疑ながら魔方陣の上までくると、代表して俺がパスワードを告げた。

 

「ヨル」

 

瞬間、起動を始める魔方陣パネル。俺たちは顔を見合わせると、やったなと喜び合う。ただ……。

 

「ばっぽんてき!」

 

タクトの口調は、さっきの試練をクリアしても特に直らないようだった。……っていうか今「抜本的」って言ったよな?なぁ?

 

なんにけよ、俺たちは次の階層に到着し、更に広くなった部屋へと進んでみる。少し待つとアウルのアナウンスが始まった。

 

『では第四の代償要求です。ーー《居場所》を徴収します』

「「居場所?」」

 

俺たちが疑問の声を上げると同時に、突然部屋の床や壁が光りだした。何事かと思って状況を見守っていると、光の中からモンスター達が姿を現す。

 

「「え⁉︎」」

 

訳もわからず、とにかく臨戦態勢をとる俺たちにアウルは淡々と言い残す。

 

『これから三十分の後に昇降装置が起動致します。それまでの間、貴方方は……無限に湧き出るmob達の猛攻を凌ぎきって下さい。以上です。では健闘を祈ります』

「「いきなり試練がガチすぎる!(ブヒブヒブヒン!)」」

 

全員で背を預け合うように固まり、やってくるモンスターを随時迎撃する。そんな中声の出せないタクトが武器を落とした。

 

「んなば、こえら!」

 

訳のわからない言葉だが、タクトの今の状態を思い出す。今、タクトは筋力値と敏捷値が徴収されているんだった。

それにいち早く気付いたカマクがメニューウインドウを操作する。

 

「それを貸してやる!今はそいつを使え!」

 

それだけ伝えるとすぐに目の前の敵を攻撃していく。

きっと武器を渡したのだろう。

タクトが取り出すと一本の片手剣が現れた。

青く軽そうで特に装飾も無い簡素な剣だ。

 

「がらじぼゆんま!」

 

お礼を言いたいことは伝わってくる。タクトもそれを握りしめて戦いに加わった。

 

「マリ!部屋の隅に行け!そこなら守りやすい」

 

カヤの指摘を受け、移動する。が……

 

「あっカヤ様!」

 

悲鳴に近い声を出すマリ。俺は前にいるオーガ型のモンスターをポリゴンにして、振り返るとマリが向かおうとしていた壁から複数体のモンスターが這い出て来ていた。

 

「チッ……《居場所》を奪うってのは、そういうことかっ!」

 

カマクが舌打ち混じりて呟く。

俺たちはようやくこの試練の本当の意味に気付く。どうやらここに「安全地帯」なんてものは無いらしい。壁に背を預ければ、その壁からモンスターが出てくるだけ。……しかも無限に湧き出る分、迷宮区のモンスタートラップよりタチが悪い!

弱体しているタクトをカマクとマルカがフォローし、ワールンとカヤがマリを守りつつ戦っていた。

今、この状況で自由に動ける俺が何とかみんなへの負担を減らさなければならないらしい。

 

「グルァア‼︎」

 

そうしているうちに一体の狼型のモンスターがマリに向かっていたーー刹那。

 

「……フッ」

 

短い声と共にマリと狼の間に入ったカヤが横一線に剣を撫でた。

剣は狼の腹を切り裂く、そのままワールンの首元を掠め通った。

 

「って危ないよ!カヤ‼︎」

 

……見てるこっちがヒヤヒヤするぞ。

自制心のないカヤは軽く舌打ちするとワールンがいないもの同然に剣を再度振り回す。

 

「ちょっと⁉︎この狭さで避けるの大変なんだよ⁉︎」

 

モンスターを対峙しながらも器用に躱すワールン。よかった、あっちに行かなくて。

あの対象が自分でない事に安堵して、しばらく向こうは見ないことを残りの皆が決意した。

 

戦闘が10分ほど経った頃には、序盤の様な慌ただしさは嘘の様に、余裕を持って戦っていた。弱体化しているタクトをカマクがフォローするだけでいけるようになったのもあり、俺とマルカがメインで迎撃出来ている。

まぁ向こう側はワールンの絶叫が常に響いてくるので問題ないのだろう。

 

まぁそんなこんなで、とにかく俺たちは当初よりも大分危なげなく(ワールンを除く)、淡々と試練をこなし……地獄の三十分間を凌ぎきった。

昇降装置が起動を開始すると同時に、いそいそとそれに乗り込む。そして次のフロアに着くと、俺たちはどっと息を吐いて、その場にへたり込んだ。

 

「はぁ…………。流石に今回は焦ったなぁ」

「ほんとよね、流石にフロアボス程ではないにしても、《弱体化》に《自制心》を奪われた状態での戦闘は、いくらなんでも厳しいわよ」

 

皆がぐったりしていると、再びアウルのアナウンスが始まった。

 

『それでは、最後の代償です』

 




読んで頂きありがとうございます。

中途半端ですけどここで一旦切りました。

次が結構短いかもしれません。

ではまた次回。
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