ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

25 / 27
海開き

ピッカーーン。

 

「来たキタキター!遂に来たぜーー!」

「来たしか言ってねーぞ!!」

「はいはい、それより二人とも良いわね?」

 

ゴクリと喉を鳴らして首を縦に振るガタリとタクト。

 

「「「せぇーーの!!」」」

 

三人が飛びした先は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「海だーーーッッ!!!」」」

 

 

 

 

 

訪れた海の日にアインクラッドでは海開きが行われた。

五十二層の主街区<アルタミラ>は海の楽園とも呼ばれ街全体がリゾート地のような雰囲気で包まれている。

けれど普段は海に入ることは出来ず、ビーチで遊んだりするくらいしか出来ないのであるが、海の日から一週間だけ海に入ることが出来るのである。

 

「カマク、私達も早く海に入りますよ!」

「わかった!わかったから水着を引っ張るな!いくら脱げないからって流石にそれはやばい‼︎」

 

メユがカマクを海に引き入れようとカマクの海パンを掴み、引っ張っている。

ここには攻略組の面々は勿論、中層プレイヤーも来ており、かなりの人口密度だ。

 

「ユウマくん、ちゃんと上を着てください!」

「え?どうして?僕、ちゃんと男の物の水着が着たいよ」

 

更衣室ではナオキとユウマが水着に着替えていて、ワールンとキリトも着替えに入った。

 

「キリトがそんな可愛い水着を着るなんて僕は驚きで一杯なんだけど、どうしたの?」

「いや、それは、これしか水着を持っていなくて」

 

ワールンは白に灰色のラインの入った水着を着ており、キリトは黒を基調として、お尻に可愛らしいクマの絵が描いてある。

 

「アスナちゃんの水着可愛いですね」

「ありがとうチヒロちゃん。チヒロちゃんもその水着似合ってるよ」

 

隣は女子更衣室で壁はあるが天井が開けているので声が聞こえてくる。

 

「むー、二人ともなんかズルい!」

 

ワカナが胸に手を当てながら二人の胸を見やる。

 

「私なんて、見事に凹凸が無いのに…………」

「ワ、ワカナちゃん元気を、出してください。ワカナちゃんは私と違ってスタイルが良いじゃないですか」

「いいのよ、スレンダーなんて言われても嬉しくもなんとも無いんだから」

「あ、あははは」

 

アスナが乾いた声を出し、全員が海へと向かった。

 

 

 

浜辺をふらふらとメユを連れて歩き、俺は視界にある時計を見て言った。

 

「イベント開始まで時間あるから少し遊ぶか」

「いいですね!私アレをやってみたいんですけど」

 

そういった先にはバナナボートに乗って遊んでいるガタリ、マルカ、タクトの姿があった。

 

「「やっふぅううう!!」」

 

水上バイクに引かれ右往左往されながらも落ちないようにバランスを保っている。

 

「三人乗りか……誰か近くに……っとおい、ワールン!」

「なんだい?カマク」

 

辺りを見回すと、すぐ側にワールンがいたので呼び止める。

 

「なになに?どうしたの?」

「ピィカ?」

 

すると、ワールンの背から頭に黄色の鼠を乗せた女性が顔を出した。

 

「あっワカナと一緒か。ふむ……悪い、邪魔したみたいだな」

「え?別に邪魔なんてことはないよ、ね?」

「そうだよ、暇そうだったのを捕まえただけだしね」

「ピッカ!」

 

深読みしすぎたみたいだがメユと目が合い、同時に頬の端が上がる。

 

「……そうですか、……そのあそこでやってる水上バイクに引かれるやつなんですけどカマクが乗りたいらしくて良かったら、お二人が乗ってあげてくれませんか?」

 

下から覗き込む様に懇願するメユに俺の顔が赤くなるのを感じる。

わかってるこれは俺に向けてるんじゃないが、やっぱりメユは可愛いな。

 

「それぐらいなら喜んで受けるよ。ワカナは大丈夫?」

「大丈夫だよ、私も乗ってみたかったし」

「なら決まりだな、さっそく向かうぞ」

 

(分かってますね。上手いこと二人を良い雰囲気に持っていくんですよ!)

(任せろ!二人を海に落として抱き合うシチュエーションを必ず作ってやる!)

アイコンタクトでそれだけ伝えるとメユは手を振って俺たちを見送った。

 

「これってどうやって乗るの?」

「まぁ妥当に俺とワールンが挟む形で良いんじゃないか?」

「ならお邪魔しま〜す」

 

ワールン、ワカナ、俺の順で乗り込んで行く。

 

「これって振り落とされる事ってあるのかな?」

 

ワカナの問いに応えたのはバイクの運転手であるNPCだった。

 

「滅多にないっスねー」

 

なるほど、なら落とすには何か仕掛けないとダメか。

思考を巡らせ、メニューウインドウからあるものを取り出す。

ワールンも何やらゴソゴソしている、まぁきにする必要は無いだろう。

 

「これなら落ちるなんてことは無さそうだな」

「そうだね、落ちるなんてかっこわるいしね」

「「はははっ」」

 

仕込みは完璧だ、ワカナが座ったのを確認して俺もその場に座り込み、横にある取っ手を握ると──

 

『ニュルッ』

 

ん?何か手が冷たく、やけに滑りが良いような。

手を見ると、見た事のあるものが手についていた。透明でヌルヌルと滑りが良いサンオイルである。

これは……こんなことする奴はあいつしかいねぇ!!

 

「「貴様ぁああああああ!!」」

 

俺と同じようにワールンも叫ぶ。

何であいつがこんなことしやがる!

 

「テメー何でんなことすんだよ⁉︎」

「こっちの台詞だね! 僕だけを海に落として僕を嘲笑うつもりだったんだろう!」

「はぁ⁉︎ 俺はてめーの為にだなー!」

 

ガンをくれあっているとNPCが「いきまーす」と声がかかる。仕方ないがここで俺が落ちるわけにはいかねぇ。

何とかしてあいつとワカナを海に落とさねぇと。

 

ブゥゥウウン。

 

バイクが加速していき手で支えていてもきつくなってくる。くっ……仕方ないがあいつは挑発すれば乗ってくるだろう。

 

「おいどうした?俺なんて手を離しても落ちねぇぜ?」

 

そう言って俺は両手を挙げてみせる。

すると、ワールンも両手を離して言う。

 

「ふん、僕だってそれくらい出来るよ!」

 

よし、ここまでは上手いこといった。

何とか足で支えれば何とか振り落とされずに済む。

あいつを見ると同じように足で踏ん張っている。

少しして、NPCから声がかかった。

 

「スピード上げますね〜」

 

ブォォオオン。

 

スピードが上がり両手を挙げていることで風が体全体に当たる。

 

「「ふおおおおおっ!」」

「ほんと、何やってんのか……」

 

呆れた様子でワカナが呟くも今はそんなこと気にしていられない。

クソきつくなってきやがった。

まだ辛うじて脚で支えれることができるがそれはあいつも同じだ。

あの脚をなんとかしないと!

ここはあいつの気を引いて、まだ残っているサンオイルを足にかければ落とせるかもしれない。

あいつの気をひくことと言えばーーー

 

「向こうで巨乳の子のブラがーー!!」

「向こうでメユがナンパにーー!!」

 

「「なにぃっ⁉︎」」

 

ワールンの声に俺は手だけをあいつの足に持っていき、顔を背ける。

トポポポポ。

 

ドバーーン。

─────海にデカイ水しぶきが二つ上がった。

 

 

 

 

 

 

「何やってるんですか!」

「すまん。途中までは上手くいってたんだかな」

「もうこんなことじゃあの二人がくっ付くなんて無理ですよ」

 

プイッと頬を膨らませ不機嫌を体現するメユ。

まさかあいつが勘違いしてくるとは思わなかった。落ちた後、ワールンとワカナが抱き合う事はなく、結果として俺とワールンが抱き合う羽目になった。誰が得すんだ、これ。

 

 

 

 

 

 

アルゴからの情報でこの海の日にアルタミラで特別なアイテムを落とすボスが出現することを聞いた。

時刻が三時頃になると見て分かるようにプレイヤーの数が減っていき、残っているプレイヤーは攻略の際によく見かける者たちばかりだ。

イベントボスが出てくるらしいがそれがこの砂浜なのか海の中なのかは多分誰も聞いてないんだろう。ただそのイベントの発生もしくは参加条件は水着姿でいること。

そうなると必然的に防具を付けることも出来ないので死ぬ確率は高くなる。

けれど多くの攻略組プレイヤーが参加しようとする所を見ると情報通り、かなりレアなアイテムが手に入るみたいだ。

タクトとマルカがそんな砂浜を眺めて言った。

 

「一気に人が減ったなぁ」

「そうね、でもモンスターが出る中で水着だけでいるなんて普通考えないわよ」

 

攻略組の面々がいると言っても人数は三十を超えていないだろう。

故に見知った顔がいるとみんなが一箇所に集まってくる。

 

「ふぁ〜、まだ始まらねぇのか?」

「アルゴからの情報ではそろそろのはずですよ」

 

欠伸を漏らすカマクに、手に武器も持たず正しく海パンのみで参加するらしいナオキが応えた。

ナオキのその格好には正直驚きしかない。せめて、手甲とか付けようと思わなかったのか?あ、それだと水着姿にならないからか。

しばらく話し込んでいるとユウマが何かに気づき声を上げた。

 

「ねえねえ、海が遠くなってるような気がするんだけど?」

 

言われてみんなが海を観る、確かに遠くなってるような、なってないような。

 

「私達ここから動いてないわよね?」

「そのはずだぜ?」

「うん、私も動いたりしてないと思うよ」

 

マルカが問いかけ、タクト、ワカナが応える。どうやらみんなも同じ意見のようだ。

そう思っていると何処からかエンジン音のようなものが聞こえてくる、タクトがそれに反応する。

 

「おい!これって⁉︎」

「ああ、どうやら今からみたいだな」

 

俺がそう答えると全員が各々の武器を構えていく。

そして、遠くから物凄い勢いで何かが近づくのが見えてきた。

 

「おい、これってやばくねぇか⁉︎」

「待って、こんなの聞いてないよ⁉︎」

 

規格外にデカイ船である。

タクトとワールンがその光景を見て顔を引きつらせる。

いや、これヤバイだろ。

カマクがこの場にいる全員に聞こえるように叫ぶ。

 

「とりあえず全員ここから離れろ!」

 

その声に反応し、全員が散開する。

なんとか全員が船の進行線上から逃れると、船は海から出て砂浜で止まった。

 

「はぁはぁ、マジでヤバかったぜ」

「そうですね、なんとかぶつからずに済んでよかったです」

 

尻もちをついた状態のタクトと、片膝をついたナオキが呟く。近くには後、チヒロとワカナがいる。

残りのみんなは船を挟んだ向こう側にいるはずだ。死んだってことはないだろう。

 

「皆さん無事でしょうか?」

「きっと大丈夫、流石にあれに轢かれたってことは無いはずだよ」

 

心配そうにするチヒロにワカナが声をかける。

そのタイミングで船からワラワラと海賊らしき人影が降りてくる。そして目の前にクエスト開始のメッセージが表示された。

 

《イベントクエスト・〈海に眠る秘宝〉を開始します》

 

 

「どうやらまずはあの海賊達を何とかしないといけないみたいですね」

「そうだよね、ピカチュウいける?」

「ピッカ!」

 

海パン一丁のナオキとピカチュウを連れたワカナが海賊達に向かい、蹴散らしていく。

横にいるタクトが二人を見て言った。

 

「あいつら手出すの早すぎだろ」

「だな。もう少しこっちに誘き出してからでもよかったよな」

 

海賊達を蹴散らす二人の姿は迎え撃つというよりかは一方的な蹂躙に近い。

お陰か海賊達が船の中に逃げようとしている。

 

「まぁそれは置いといて、俺たちも行くぞ!チヒロ行けるか?」

「大丈夫です、私も行きます」

 

遅れながらも俺とタクト、チヒロは二人の後を追い、戦闘に参加した。

 

しばらく、海賊達との戦闘をしていると船を挟んだ向こう側でも戦闘音が聞こえてきた。

タクトも気づいたのか横から声をかけてくる。

 

「向こうも始まったみてぇだな」

 

どうやら襲われているのはこっちだけでは無いらしい。

海パン一丁で敵を殴り続けているナオキが疑問を口にする。

 

「それにしても一向に減りませんね。あの船の中にどれほどの人が入っていたのでしょう?」

 

確かに俺たちだけでもかなりの数を相手にしたはずだ。それに加え向こう側もとなると、これは無限に湧き続けるモンスターっていう可能性が高いだろう。

そういう時はどこかにイベントを進行させる鍵か何かがあるはずだけど……。

 

「……それなら船の中に入るのが手っ取り早いか」

「船の中に行くの?」

 

前にいたワカナが振り向きざまに俺を見る。

ボソッと言ったつもりだったのによく聞こえたな。

まぁ聞こえてたなら早い。ワカナにも手伝ってもらうか。

 

「ああ、だけど敵の数が数だから瞬間突破で行きたいんだけど」

「そういうことね。いいよ、私がなんとかしてあげる」

「本当か?」

「まぁ出来るかどうかはわかんないけど試したいこともあるしね」

 

そう言って肩に乗せたピカチュウと目を合わせるワカナ。

そういうからには何か秘策になるようなものがあるんだろうし、ここは任せるか。

 

「わかった、頼むよ」

「うん、じゃあスリーカウントで行くよ!」

「ああ!」

 

「3、2、1、ピカチュウ今だよ!」

「ピッカ!」

 

ピカチュウがワカナの肩から飛び出し海賊達の群れに向って走り出す。

 

「ピカピカピカピカ……」

 

ピカチュウの小さな身体を覆うように電気が疾る。それはみるみるうちに増え、ピカチュウは正に雷と化した。

 

「ピッカ‼︎」

 

ピカチュウが通った先から海賊達は結晶となり、その姿を散らせた。

それを見て俺は感嘆の吐息を漏らした。

 

「……スゲェ」

 

それを聞いたワカナは誇らしげに微笑む。

 

「ふふーん、凄いでしょ?あれはピカチュウの必殺技!その名も<ボルテッカー>だよ」

「ピッピカチュウ‼︎」

 

海賊を蹴散らしたピカチュウがリズム良くワカナに応える。見事なコンビだ。

そう思っているとピカチュウがよろめきだした。

 

「でもね、あの技強力なんだけど使うとピカチュウが動けなくなっちゃうんだよね」

「ピカ」

 

とてっと、その場で尻餅を着くピカチュウ。

いやいや、完全に的じゃん!行って終わりとか致命的すぎるだろ⁉︎

ワカナはその場で照れ笑いを浮かべてピカチュウを見る。

 

「だから急いで助けに行かないと行けないんだよね」

「だったら早く助けに行けよ!もう、新しい海賊がピカチュウを狙い始めてるぞ!」

「あっヤバイヤバイ!」

 

なんて緊張感の無さだ、助けたあの時もチヒロが不安がっていたからかワカナはそんな風には見えなかったし。もしかしてワカナって結構楽観的なやつか?

急いでピカチュウまで駆けつけようとするもピカチュウが倒し損ねた手前の海賊達が進路を塞ぐ。

 

「邪魔だから跳び越えるぞ!ワカナは後で来い!」

 

俺は跳躍して海賊達の壁を越える。ざっと二メートルほどの高さで飛び越えるとピカチュウがいる手前で着地した。

 

「よっと。じゃあピカチュウお前はご主人のところに戻れよ!」

 

ピカチュウを抱えると俺は直ぐにワカナがいる方に投げた。

空中でクルクルと回るピカチュウがワカナのもとに行ったのを確認すると俺は海賊船の入口を見た。

まだ、そこまで海賊達が増えていないのを見るとさっきの作戦は上手く行ったというところだろう。

作戦と言うほど作戦でもなかった気がするが。

俺は周囲を確認してソードスキルの構えを取る。

 

「今なら海賊に囲まれてるから他からは見れないよな」

 

他がいない事を再確認して俺は金色に染まる剣を振った。

入口手前の海賊達まで突進し、三角形を三つ築き、その中心を貫く。

十一連撃のオリジナルソードスキル<トライリンクス>。

固まっていた海賊達は纏めて、ポリゴン片へと還った。

 

「ふぅ、一応実戦では初めての成功だな」

 

何度かmob相手に使用しているが、基本動きの鈍いのや相当格下相手しか試した事がなかったのだ。

 

「っと、それより急いで船の中に行かないと!」

 

俺は船の下側にある入口から乗り込み、船内へと潜った。

 

 

 

「邪魔だから跳び越えるぞ!ワカナは後で来い!」

 

言葉が途切れる前にガタリ君はその場で跳躍して海賊達を跳び越えた。

嘘⁉︎ 助走も無しであの距離を越えたの?

予想外の出来事に私が立ち尽くしていると彼が通った先から何かが飛んで来る。

 

「⁉︎ ピカチュウ‼︎」

「ピカカッ!」

 

手を伸ばしてピカチュウを迎えると、あの子も同じように短い手を伸ばす。

難なくキャッチするとピカチュウは甘えたように私に頬を摺り寄せてきた。

 

「ピカカ〜♡」

「もう……。よく頑張ったね、ピカチュウ」

 

優しくひと撫でしてから、ピカチュウを肩に乗せる。

よし、私もガタリ君の後を追わないと。

まずは目の前の海賊達を蹴散らしてからだね。




読んで頂きありがとうございます。

今回は海編ですがポロリとかありません。女の子の恥ずかしがる描写とかも書けないのですいません。
あっ主街区の名前ですが良いのが思い浮かばなかったのであれにしただけですので気にしないで下さい。

この話は数話続ける予定ですのでよろしくお願いします。
この話で何人かのユニークスキルが露わになるかもしれません。

それでは、また次回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。