ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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海賊淑女

船内へと潜り込んでから数分経つもイベントを進められそうな鍵となる物が見当たらない。

こういったのは多分、操舵室と艦首室、それと甲板のどれかに行けばいいんだろうけど……どうしようか。

他に人がいれば、別れてしらみ潰しにいけるんだろうけど……仕方ないとりあえず甲板に行くか。どうせ操舵室とかどこにあるかわからないし。

甲板なら上に向えばいいからな。

 

「決まれば早速行くか。で、階段は何処にあるんだ?」

 

周りを見渡し、上に向かえる階段を探す。船内に灯りはなく、暗いので見えにくい。こんなことなら暗視スキルを取っとけばよかったと思うもそんなのはないものねだりだ。ここは今あるもので何とかするしかないよな。

 

「階段なら、あっちにあったわよ」

 

気持ちを切り替えて階段探しを始めようとしていたら背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「マルカか。お前も来てたんだな」

「まぁね。で、階段ならあっちにあったけど何かあるの?」

「あるってほどじゃないけど、普通こういう時って甲板に出たらイベントが始まるからさ」

「…………」

 

黙り込んだマルカは、じろじろと俺を見ていた。

 

「何だ?」

「いーや、まぁ、こういうゲーム好きだったもんねガタリ」

「今でも好きだぞ?帰ったら溜まってるゲームを消費しないと」

「……はぁ、いいわ。とりあえず甲板に行くのよね」

 

呆れたように言うマルカには納得いかないが今はこっちの方が優先なので渋々話を戻す。

 

「そうだ。早く階段の場所教えてくれよ」

「あっちよ!多分そろそろ他のみんなも来てるからメッセージ入れとくわ」

「あ、そうだよな。俺も送らないと」

 

マルカの後ろを着きながらチヒロとタクトにメッセージを送る。

 

『マルカと合流した、今から甲板に向かう』

 

少しして、二人からの返信がきた。

 

『了解です、私達もすぐに向かいます』

『オッケー。てか、こうばんって何だ?』

 

かんぱんも読めないのかあいつは。まぁいいや、チヒロも居るから一緒に来るだろ。

返信を確認しているうちに階段を登りきり、甲板に辿り着く。

 

「これで誰かいればビンゴなんだけど」

「あっ、あそこに誰かいるわよ」

 

マルカが指差した先には船首からこちらを見ている女性がいた。

長い金髪の上には海賊らしい帽子が被さっており、顔には黒い眼帯がつけられている。

彼女は俺たちに気がつくと淑女らしいピンクのドレスの両端を上げ会釈した。

 

「ようこそ、私の船……橄欖船へ」

「かんらん?」

 

船の名前に深い意味などないだろうが俺は復唱した。

 

「はい。それで貴方達は私に何の用なのでしょうか?」

「何の用って言われてもな……あんた達こそ何の目的でここに来たんだ⁉︎」

 

イベントを進める為に俺は演技っぽい口調で彼女に問う。

 

「私の目的ですか……そうですね。答えて差し上げてもよろしいでしょう。私の目的、それはこの地に眠る秘宝を手に入れるためですわ」

「秘宝?」

「この地に眠る秘宝には闇をも照らすと言われていまして私はそれを目指し、ここまで来たのです」

 

船首から床をコツコツと響かせながらこちらに向かってくる彼女。

そのまま俺たちの横を通り過ぎるとその場でくるりと回った。

 

「ですが貴方達が私の邪魔をするというのでしたら!!」

 

左腰のレイピアを抜き俺たちにその剣先を突き刺す。

 

「このヴェルヴィーユが消して差し上げますわ!」

 

彼女の頭上に<ヴェルヴィーユ>の文字とHPバーが五本出現した。

それと同時に俺とマルカは半ば反射的に武器を構える。

片手剣と盾を構えているマルカが小声で問う。

 

「どうするの、ガタリ?みんなが来るまで耐えれる?」

「やってみるしかないだろ」

 

海賊淑女との戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

何とか外の海賊を退け、船内に入ることが出来た俺達はガタリが向かったであろう甲板(チヒロに教えられた)に向かっていた。

 

「それにしてもどうしてガタリ君は甲板に向かったんでしょう?」

 

甲板に向かったことにナオキが疑問を抱いた。それに対して俺は特に考えることなく答えた。

 

「あいつの事だから多分何か考えがあったんだろ?あいつの閃きとかって結構、的を得たりするんだよ」

 

まぁこの場合だと、向こうでやってたゲームで似たようなのがあったんだろうが。

「そうですか」

「それが本当なら先にボス戦でもしてるかもしれないよね?」

「そんな⁉︎ 私達も急ぎましょう!ナオキ君、タクト君!」

 

ボス戦と聞いて慌てるチヒロ。ガタリとマルカなら心配はないが流石にボスモンスター相手に長時間持つ訳もない。俺達は足早に甲板へと向かった。

 

 

途中で分断されていたワールン達と出会し共に甲板に行くと、そこには見るからに苦戦を強いられているガタリとマルカの姿があった。

 

 

 

海賊淑女<ヴェルヴィーユ>の戦闘が始まって五分と経たずに俺とマルカは窮地に立たされていた。

 

「ガタリ、これかなりヤバくないかしら?」

 

マルカが回復結晶を砕きながら呟いた。

マルカの言う通り、かなりやばい状況だ。

 

「あいつの剣速……アスナを超えてるだろ……」

 

<ヴェルヴィーユ>と剣戟を交わすも俺たちが一撃与えようとする間に数えれても三回、もしくはそれ以上の剣撃を奴は俺たちに与えている。

スピード重視故か一撃のダメージはそれほど高くないがそれでもそれを何回も受けていてはあっという間にHPが減っていく。更に言えば此方は水着姿、防御なんてないも同然である。

 

「これ、みんなが来るまで保つか怪しいわね」

「正直舐めてたよ、まさか人型でここまで強いなんてな」

 

乱れた息を整えるようにして<ヴェルヴィーユ>を見つめると彼女はツカツカと床を響かせ笑顔を見せた。

 

「まさか、この程度でして?これではスリルがありませんわ。もっと私と命を奪い合いましょう!」

 

言い終わると同時に彼女の手に持つレイピアが黒く染まった。

この技、今まで見たことのないソードスキルに俺達はやられていた。

 

「ッ⁉︎ またか!マルカ、俺が行く!」

「わかったわ!」

 

靴から火花を散らせて、彼女がこちらに飛び込んでくる。それに対し、俺は<ホリゾンタル・スクエア>で迎えうちに行った。

 

「はぁぁ!」

 

初撃をなんとか防ぐも、此方の二撃目が動くより先に彼女の二発目の突きは俺に差し迫っていた。

 

「やあっ!」

 

俺の左脇腹を後ろから来た投剣が過ぎる。

マルカの放った<シングルシュート>だ。それにより<ヴェルヴィーユ>の二発目を凌ぐが彼女の猛攻は止まない。

立て続けに三、四発目と降り注ぐ刺突の嵐。

三発目を凌ぐも四発目で遂に俺を捉える。

 

「……ッ」

 

それによりソードスキルを中断された俺は<ヴェルヴィーユ>の攻撃を防ぐ手段が無くなってしまう。

彼女は隙だらけの俺にレイピアを二回振り下ろしていく。これだけでも俺の七割はあった体力ゲージは半分を超える手前まで来ていた。

クロスを描いた中心を最後の一撃が狙いすまして襲い来る。

漆黒の流星を彷彿とさせる一撃をもろに受けた俺はその華奢な体に合わないパワーに吹き飛ばされた。

 

「うっ⁉︎」

 

何とか空中で体勢を整えて受け身を取って着地をする。

 

「ふんっ!」

 

最近やたらと吹っ飛ばされているからか受け身は反射的に出来るようになっていた。

顔を上げて<ヴェルヴィーユ>を見ると既にマルカに向かって走り出していた。

マルカは俺よりも敏捷にステータスを振っている筈だがそれでも<ヴェルヴィーユ>の猛攻を防ぐには至らなかった。

ソードスキル無しでもあの速さ、流石にタンクのような盾を持っていないマルカでは簡単にブレイクされる。

 

「きゃっ⁉︎」

 

マルカが俺の近くまで吹き飛ばされ、俺は慌てて駆け寄った。

 

「大丈夫か!」

「デタラメすぎでしょ、あの速さ⁉︎」

 

悪態つく余裕がまだあるみたいなので大丈夫だな。

けれど文句を言っても解決しない、手に持つ剣に力を込め、顔を上げると<ヴェルヴィーユ>の背後に見知った面子が揃っていた。

 

「流石に苦戦してるみてーだな、ガタリ!」

 

青紫の髪をした親友が如何にも「助けに来たぜ!」と言いたげな顔つきで張り上げた。

 

「ったく、いつも遅えんだよお前は!」

 

横のマルカもさっきにも増して活力の溢れた表情になっている。

背後のタクト達に気付いた<ヴェルヴィーユ>が軽く後ろを確認すると再び俺とマルカを見据えて微笑んだ。

 

「どうやらお仲間が来たようですわね」

「ああ、こっからが本番だ」

「いいでしょう。いずれ七海を制覇する私がお相手してさしあげますわ!」

 

彼女が剣をかざすと同時に甲板に大量の船員が現れる。さっきまで下で相手をしていた海賊達だ。

 

「野郎の皆さん、行きますわよ!」

 

彼女の掛け声と共に海賊達が一斉に動き出す。それに合わせてタクト達が四方八方と散らばった。俺と<ヴェルヴィーユ>の間にも海賊達が割って入ってくる。

これじゃあ簡単に彼女に手を出すことが出来そうにないか。

気付けば前だけでなく後ろにも集まっていた。どうやら囲まれたようだ。

一歩後ろに下がると背中が何かとぶつかるのを感じた。

 

「マルカ、ここはお互いの背中を預けるってとこだよな?」

「そのようね、まぁ今回はガタリに背中を任せてあげるわ」

 

マルカの声音にはどこかこの状況を楽しんでいるように感じられた。もしかしたら俺も同じかもしれない。

視線を海賊達に向けると俺は<バーチカル・スクエア>で周囲の海賊を蹴散らしていく。

マルカは<ホリゾンタル・スクエア>で斬っていく。

 

「はぁっ!」

「やぁ!」

 

しばらく全員が海賊達と戦っているとそれまで動かなかった<ヴェルヴィーユ>が突如、前へと出た。

それに気付き俺は<ヴェルヴィーユ>に向かって先手を仕掛けた。

 

「……ッ!」

 

ジェットエンジンのような効果音が耳元に伝わる。片手剣突進技<ヴォーパルストライク>による恩恵で10メートルはあったであろう距離を一気にゼロにする。

完全に不意をつき、狙い済ました一撃は彼女に初めて綺麗にヒットした。

 

「よしっ!」

 

吹き飛ばされた<ヴェルヴィーユ>は崩れた体勢を空中で立て直し、反撃をするべく構えた。俺と彼女の距離は十分過ぎる程あり見切ることは容易いだろう。

しかし、彼女が構えた形は俺が一度だけ見たことのある細剣最上位スキルの一つ、<フラッシング・ペネトレイター>であった。

彗星の如き突進により、全てを貫く一撃は今の俺では防ぎきることは不可能だと見た瞬間に悟った。

この状況で打開する術を持ち合わせていなくても、何もしなくては筋力値の低い彼女の攻撃といえど紙耐久である俺では流石に殺られかねない。

決死の覚悟で俺は体術複合スキル<メテオブレイク>で対抗しに向かう。

<ヴェルヴィーユ>の足が床に着くと彼女は微笑んだ。

 

「風穴開けて差し上げますわ!」

 

瞬間、彼女の青白く輝いていたレイピアがより一層輝きを増し、俺目掛け一直線に突進してくる。

それを見て俺も前に出る、直後左腕の決意の腕輪がオレンジ色を灯らせた。

 

「オラァァ!」

 

すぐ側でタクトが声を荒げていた。

どうやらタクトが<メテオブレイク>を発動させたらしい。

決意の腕輪の効果は腕輪を付けた者同士が同じソードスキルを発動させると威力がブーストされるといったアイテムだ。

これはタクトからの援護とみていいだろう。

俺は更に体重をかけて威力のブーストを重ねる。

これでもまだ足りないかもしれないがさっきまでよりはずっとマシなはずだ。

剣に気合いを込め、<ヴェルヴィーユ>を迎え撃ちにいく。

 

「はああぁぁあ!!」

 

二つの星が衝突するかのような衝撃音が響く。

拮抗しているかと思ったそれは、ほんの一瞬で覆った。<ヴェルヴィーユ>の<フラッシング・ペネトレイター>は俺とぶつかったところで止まるようなことはなく、全てを貫き進んだ。

 

「くっ……」

 

身を捻り、直撃から避けるも俺のHPは真っ赤に染まっていった。

 

「存外しぶといですわね。ですが、そろそろ幕引きといたしましょう」

 

技後硬直が終わった彼女が回復も間に合っていない俺に迫る。

周囲を見渡すも、全員海賊の相手で助けを求められそうにない。

 

「これは絶対絶命だな……」

 

考えろ、この状況を打開する策を、奴を倒す為に今の俺が出来ることはなんだ?

 

「まだやる気でして?貴方の命は風前の灯火も同然ですわよ」

「諦めたらそこで試合終了なんでな」

 

<ヴェルヴィーユ>がレイピアを前に構えると黒く染まり始めた。

 

「これで決めて差し上げますわ!ソードスキル<ダークネス・アンカー>で!」

 

来る!

この技を凌げなければ俺の死は確定だ。

彼女に勝つには彼女と同じ早い剣撃でなおかつ上回るか、ローエルさんのように不意をついて勝機を生み出すか。

さもなくば……

 

(坊主は一点に集中しすぎなんだよ、だがそれが坊主の武器でもある)

 

ローエルさんのようにまだ完全に不意を突くことが出来るわけじゃない。

けど、自分に出来ることを最大限引き出せればきっと……!

俺が剣を両手に持ち左腰に当てると剣が金色に輝きだした。

 

「……ガタリ君⁉︎」

 

誰かが俺を呼んだような気がするも、その声は直ぐに水の波紋のように消えていった。

 

「どういうつもりでして?」

「……!」

 

リスクを恐れていたら絶対に彼女は倒せない!

集中しろ。一か八か自分の<集中力>に……懸ける‼︎

 

「ガタリ、なにをする気だ⁉︎」

 

その声で全員の視線がこっちに向くのを感じた。

もしかしたらユニークスキルに気付くかもしれない、けれど今は気にしていられない。

なぜなら、彼女との勝負を分けるのは最初の一太刀だから、これなら剣速なんて関係ない!

勝負を決めるのは紙一重の集中力だ!

ほぼ同じタイミングで飛び出し、漆黒と黄金が交差する。

 

先に相手を捉えたのは……

 

「おぁぁああぁぁあーーーっ‼︎」

「はぁぁぁああぁっ!」

 

 

俺の剣だった。

 

しかし僅かに浅かったのか彼女のソードスキルが止まる気配は無い。

 

「まだですわ!」

「……ッ!」

 

しかし、彼女の動きは格段にさっきよりも落ちている。

これなら、まだ間に合う!

 

「あぁぁぁああ!」

 

二撃目が彼女の左肩に斬り込んでいく。

この攻撃で彼女のレイピアの輝きは失った。

無防備となった彼女に俺は三、四、五、六、七連撃と斬っていく。元々、耐久値が低いからなのかこれだけで彼女のHPは最後の一本目がオレンジ色となった。

それでも俺のオリジナルソードスキル<トライリンクス>は止まることなくスキルに設定された動きをなぞる。

残りの三角形を二つの三角形の上に作り上げていく。

 

「ま、まだですわ……!」

 

攻撃を受けながらも<ヴェルヴィーユ>は再度レイピアを強く握りしめた。

カウンターをくらえば逆に俺がピンチだが、まだ俺のソードスキルは終わっていない。

俺は最後の一撃に自分の全てを乗せる。

 

「これで、終わりだぁあ!!」

 

築き上げた三つの三角形を吹き飛ばす一撃を彼女に叩き込む。

レイピアとぶつかるも、最大の一撃は彼女の胸を貫いた。

折れたレイピアがポリゴンと還ると同時に彼女のHPはゼロになった。

 

「まさか、私が、敗れます、なんて……」

 

途切れ途切れの言葉が終わると彼女と周りにいた海賊達も結晶となり、霧散した。

 

 

 

「はぁはぁ……。なんとか、生き残った」

 

全力を出し切ったからか今になってどっと疲れが押し寄せてきた。

 

「ガタリ君!!」

「ガタリ!」

「おい、ガタリ!」

 

チヒロ、マルカ、タクトが叫びながらこちらに駆け寄ってくる。

なんとか上体を起こして、三人にこたえる。

 

「おう、やったぞ……って」

「バカですか!!あんな状態で無謀に立ち向かっていくなんてっ!!」

 

普段のチヒロからは想像出来ない剣幕で近づかれ俺はたじろいでしまう。

続くように後ろの二人も罵声を浴びせてくる。

 

「本当に頭大丈夫⁉︎ 何やってたかわかってるの?」

「お前、あそこで迎え撃ちに行くか普通⁉︎ 普通、何とか避けるか防ぐとこだろうが!」

 

三人のお小言に俺は耳を塞ぎ「ワーワー」と言ってシャットアウトする。

 

「結果、こうやって生きてるんだからいいだろ?」

「だーかーらー、結果の問題じゃなくてねー」

「あー、もういいよ。マルカもそこまでにしとけ。どうせこいつはまた同じようなことがあっても同じことをするだけだ」

 

タクトが呆れ半分でマルカを制す。うん、わかってるじゃないかタクト。

 

「お前は反省しやがれ!」

 

心を読まれたのかタクトに再度注意を受ける。

 

「はい、反省します……」

 

流石にあれだけ言われれば、俺も少しは心配をかけ過ぎたかなと思ってしまう。

 

「ったく、分かればいいんだよ」

 

やれやれと溜息をつくタクト、だが横にいるマルカは未だ何か言いたげにむすっとしている。

そういえば途中から静かになったチヒロはどうしたのかと見ると、こちらもむすっとしていた。

 

「……チヒロさん、怒ってらっしゃいますか?」

「当たり前じゃないですか。ですけど、生きていてくれたんで今回はもう怒らないでいときます」

 

助かります。と心の中で感謝を述べる。

すると、思い出したかのようにタクトが呟いた。

 

「そういや、このイベントこっからどうするんだ?」

 

戦闘に夢中にだったからこれがイベントだったことをすっかり忘れていた。

 

「さっき女の人がこの船のボス?だったわけだから、なら何か動きがあるんじゃないか?」

 

と言ったところでポロンッと電子音が頭の中で響いた。

すると、眼前にメッセージ欄が開かれていた。

<操舵室に向かえ!!>それだけが書いてあり、下に操舵室の場所が書いてあった。

どうやらクエストの進行を勧めているようだ。

 

「操舵室に向かえばいいみたいね」

「らしいな、早速行きますか」

 

 

 

 

この場の全員で操舵室に向かうとそこにはさっき倒したはずのヴェルヴィーユが立っていた。

 

「お待ちしておりましたわ。先ほどの無礼どうかお許し下さい」

 

彼女は初めに出会った時と同じようにスカートの端を掴み頭を下げ、すぐに顔を上げるなり、口を開いた。

 

「私達は、この地に眠る宝を諦め、この地を離れましょう」

 

少し寂しそうな彼女の表情を見て、俺はぽつりと呟いた。

 

「……それで、これからどうするんだ?」

「また、海を渡り、新たな秘宝を目指しますわ」

 

答えた彼女は清々しいほどいい笑顔だった。

 

「先ほどの謝罪という訳ではありませんが……」

 

首の後ろに手を回し、付けてあるペンダントを取り外した。

 

「これを貰ってはいただけないでしょうか?」

 

手渡してきたのはグリーンに輝く石だった。

 

「これは……?」

「これが何なのか私にもわかりません、ですがこの石に導かれ私はこの地を目指しました。ここに秘宝が眠っていると願って……」

 

受け取った石に軽く触れるとアイテム名が浮かび上がった。

≪ペリドットの輝石≫それがこの緑に輝く石の名前。

 

「さて……私はもう行きますわ。また暫くは長い船旅となるでしょう」

 

彼女が言うと同時に慣れた浮遊感が訪れた。

転移させられ着いた場所は船の外だった。

見上げるとそこには彼女がこちらを見下ろすように見ていた。

 

「皆さん、ご迷惑をお掛けしました。またいずれ出逢う機会が御座いましたら」

 

船の帆が開かれて船が少しずつ海へとつかっていく。

暫くすると船が勢いに乗って海を進み始めた。

俺たちはそれをただ眺めるだけ、誰も言葉を出さず、ただ夕日に消える橄欖船を見送った。

 

 

彼女からは街で会うようなNPC達とは全く違った印象を受けた。ただ決まった言葉を発するのでは無く、自分で考え、思った事を口にしていたように感じた。そう、まるで俺たちと同じ……ヒトのような振る舞い。

こんなmodと出会ったのは初めてだ。

クエストで会うようなキャラクター達でも偶に他よりも優れたAI値を持つものは少なくなかったけれど、彼女はどれとも違った。

これまで出会った内で一番近いのは女神の試練でアナウンスをしていた<アウル>だろう。

アウルも声だけではあるがどこか人間めいたものを感じさせられる。

もし、これからもシステムに従った動きだけをするmodやボスモンスター以外に俺たちと同じような感情に似た何かを持った敵が現れるとしたら…………。

いや、考えるのは止そう。今でもシステム……カーディナルが学習を繰り返し、俺たちにも動きが読めないようになっているのだ。そうなれば100層攻略など何人が生きていられるか、わかったものじゃない。

 

そんな事を考えていると後ろにいたチヒロから声がかかった。

 

「どうしたんですか?」

「大丈夫。何でもない」

 

首を傾げるチヒロ。けれどそれ以上深く追求してくることは無かった。

もうここにいても仕方がないので帰ろうかと口にする直前、一件のメッセージが入った。

ん?誰からだ。またこのイベントの続きか?

 

「あれ?アルゴさんからだよ⁉︎」

 

そう言ったのはユウマだった。確か、普段からユウマとナオキはアルゴと連絡を取ったり一緒に行動してるんだっけ。

というかこの場にいる全員にメッセージが送られているらしい。

 

≪緊急連絡‼︎‼︎ このメッセージは攻略組の信頼出来る人物にのみ配信してル。 明日の午前10時に攻略会議を行ウ≫

 

攻略会議?それが何でこんな急に?と思う気持ちを口にはせず続きを読み、俺は目を見開いた。

 

≪攻略対象は〈笑う棺桶〉。本日、最前線で迷宮区攻略中の一団が襲撃され、七人中六人が殺害されタ。この事は他言無用、極秘とスル>

 




読んで頂きありがとうございます。

こちらの都合で投稿がだいぶ遅れてしまい申し訳ありませんでした。

皆さん良いお年を!
来年はペースを上げて行きたいと思います( ´∀`)
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