ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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開かれる棺

海の日の翌日、六十二層の貸家に三十人の攻略組が集まっていた。

各ギルドからはギルドのリーダー格三人ほどが出席しており、ソロで活動している攻略組はほぼ全員が出席していた。

昨日の夕方、ギルド合同で行われた迷宮区攻略の際、ラフコフの集団に襲撃された。

その事を情報屋で知られるアルゴから報告され、今後の対策についての話が進められていた。

 

「圏外で行動する際は大人数で行動し、転移結晶を常備しておくよう注意喚起していく他なかろう」

 

発言したのは血盟騎士団団長ヒースクリフだ。

それに対し、アルゴが引き継ぐ。

 

「それと夜間もなるべく出ない方がいいナ。今回は夕方だったがあいつらは基本、夜に行動してル」

 

メモをしながら話を進めていくアルゴとヒースクリフを横目にアスナが他の攻略組プレイヤーに向かって発した。

 

「本来ならば笑う棺桶の討伐について話しておきたかったのですが、先ほども言った通り彼らの消息が未だ掴めないために作戦を立てることも出来ません。ですので、今日はこのまま次のフロアボス攻略について話していきたいと思います」

 

現在、アルゴの情報網を駆使しても掴めないラフコフのアジト。故にこちらから手を出すことが出来ず、攻略組は動けないでいた。

それでも何もせずにいる訳にもいかず現在の最前線である七十二層のボス攻略戦を行う流れとなった。

攻略組ギルド合同は二班に分かれていた為に襲撃されなかった班が昨日の内にボス部屋前までのマッピングはすでに終わっている。

 

 

会議の結果、三日後にボス戦を行うこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてボス戦当日、ボス部屋前に続々と攻略組が集っていた。

扉の前にいるのは今回の指揮を任されたアスナである。

いつもの様に攻略組を鼓舞する発言をし、皆もいつもの様にその言葉に応える。

いつもの様に前衛が重々しい扉を開け、そして……いつもの様なボス戦が始まると何も知らない攻略組のプレイヤー達は思っていた。

最後尾にいた一人のプレイヤーが小さく呟いた。

 

「……僕はマリの為なら…………親であろうと……殺す」

 

そんな呟きは誰かに聞こえることはなかった。

 

 

 

 

 

 

七十二層のボスは<絶対の合成獣(キマイラ・アブソリュート)」である。

合成獣の名の通り獅子と山羊の頭を二つ持ち

胴体は虎、尾は蛇である。さらに鷲の翼を持っている。

発する声は何処と無く獅子を思わせるが僅かに山羊の様な呻きも合わさっている。

 

ーーグルルゥゥラァア!!

 

前衛の壁役がその獰猛な雄叫びを直に浴び、足が微かに震えているのが後ろにいたガタリ達にはわかった。

しかし、その中で率先して前へと進んでいるプレイヤーが見える。

恋人のメユが作製した盾を手にカマクがキメラの前へと躍り出た。

 

報告通り、キメラの主な攻撃手段は獅子頭からの炎のブレスと山羊頭からの衝撃波のブレス、そして尾蛇による毒針であった。

そのどれもが盾で防ぐことが可能な事も知られている。

勇敢にその全てを受けきるカマクを見て攻撃部隊が次々にキメラに向かいソードスキルの雨を浴びせる。

後ろからアスナの指揮が飛ぶ。

 

「全体、蛇の毒針に警戒!A.B隊はライオンヘッドとゴートヘッドの対処を優先してください!」

 

カマクとヒースクリフ二人のタンクを中心に獅子頭と山羊頭の攻撃を受け持っている。頭は隣同士となっているためにA.B隊は特に動き回る事もなく確実に盾役としての責務を果たしている。

問題なのは尻尾である蛇だ。

 

「D隊、スネークヘッドの対処に回ってください!C隊は下がって回復!」

 

前の二頭とは違い、動き回る蛇の尻尾に麻痺と毒の状態異常にやられるプレイヤーが後を絶たない。

蛇の注意がA.B隊に向けられれば戦況は悪くなる。アスナは慎重に見極めながら隊に指示を出し続けていた。

危惧しているのは翼を持っている為に飛行するであろう事。

未だ飛ぶ気配は無いがそれも四段あるHPバーの一段目を削ればどうなるかわからない。

なるべく消耗を抑えながらHPを削りたいが、キメラの性質か防御力が半端ない。

ソードスキルなしの剣撃では数ドット分しか減っていない。

それ故連撃でのソードスキル発動が必須となるが前足での反撃と蛇の毒針により隙という隙が中々見つからない。

 

「マルカ!投剣で蛇の注意を払えるか?」

 

ガタリが下がってマルカに問い、一瞬蛇を見てからイケると返した。

 

「ならタクトと仕掛けるからソードスキルを放つ前に一回と発動中に二回くらい頼む!」

「わかったわ!」

 

ガタリは前へと戻りタクトに声をかけるとキメラを回り込む。

そして、キメラが獅子頭からブレスを放った直後を見計らって飛び出した。それと同時にマルカが尾蛇目掛けて投剣重単発スキル《ブラストシュート》を打っている。

二人同時に放つのは片手剣最上位ソードスキル《ノヴァ・アセンション》。

両サイドからキメラを挟み込む様に放たれたソードスキルは決意の腕輪でブーストされ、ガリガリとキメラのHPを減らしていく。

 

「まだまだぁ!!」

「ぜぇあああ!!」

 

気合を迸らせながら攻撃の手を緩めない。蛇の注意がガタリに向かうが毒針を放つ前にマルカが再びソードスキルを放って注意を惹きつける。

ようやく二人の連撃が止まったところで一段目のHPバーを削りきった。

 

バサッ!

 

それを切っ掛けに今まで飾り当然であった鷲の翼を広げて滑空し始めるキメラ。

決して追いつけない速さでは無いがその巨体にしては速い動きに誰もが手を出し辛くなる。

更に、キメラが近くを通ると風圧スキルを持っていないプレイヤーは動けずにいた。

風圧スキルを取っているのは大半が壁役であるプレイヤーだがタンクでは飛び回っているキメラに追いつく事は出来ない。

 

「ピカチュウ、行くよ!」

「ピッカ!」

「僕も行きます!」

 

軽装備でありながら、風圧スキルを取得しているワカナとナオキがキメラに追付いする。

テイムモンスターはテイマーであるプレイヤーのスキルが一部だが反映される為ピカチュウも風圧に対し耐性がある。

 

「ピカチュウ、エレキボール!」

「ピカピッカ!」

 

ピカチュウが尻尾の先に電気のボールを作り出しそれをキメラに向けて放った。

高速で打ち出された電気玉はキメラの背中に見事ヒットした。

 

グルルゥゥゥゥ……

 

態勢の崩れたキメラのスピードが落ちたのを確認してワカナが右翼目掛けて跳躍した。

 

「ハッ!」

 

短剣重二連撃《クロスエッジ》十字に振り下ろした短剣により部位破壊とまではいかなかったがキメラの態勢を更に崩すことに成功する。

キメラの左側から追付いしていたナオキは飛行しているキメラの真下に潜り込み、構えた。

 

「だあ!」

 

左手で一撃与えると追撃で両手による掌底を浴びせる。体術中位技《双鐘掌底破》による、衝撃で右に傾いていたキメラの体が完全に倒れきった。

その隙をつき大半がキメラに向かうが尻尾である蛇が毒針で牽制し、近づくことを許さない。

毒針に手をこまねいている間にキメラは態勢を整え再び空へと飛んだ。

先ほどよりも高く飛ぶと固まっているA.B隊に向かって急降下し始めた。

 

「来るぞ!ヒースクリフ!」

「む!総員退避!」

 

退避と言いつつその場から動く気配を見せないで盾を構えるカマクとヒースクリフ。

二人に向かって突進するキメラを盾で受け止める。しかし、キメラの突進は範囲攻撃だった為に突進の余波が周囲のプレイヤーを襲い、少なくない数のプレイヤーが吹き飛ばされる。

再び滑空するキメラに手が出せず動きが止まるプレイヤー達に突如謎の力が発生し吹き飛ばされた。

 

「うわっ!?」

「なんだ!?」

 

何が起こったのか直ぐに理解することが出来る者はいなかった。

疑問を口にしたのは近くでその現象を見ていたカマクだった。

 

「何が起こった?」

「急に彼らの前が爆発したように見えたけど?」

 

ワールンが見たままの事を口にする。

それはカマクもわかっている事で解答になっていない。

 

「見えない何かが爆発したのか……それとも奴の能力?」

「どういう事?見えない何かって……」

 

話し合っているうちにも次々とその現象による被害が増えていき、全体が混乱し始める。

 

「マズイ……アスナ指示を!!」

「はっ⁉︎ 全体防御姿勢!衝撃は今の所前方からのみですので前方に意識を集中してください!」

 

僅かな合間で謎の攻撃の特徴を掴んでいるアスナにカマクは流石だなと感想を漏らす。

しかし、根本的な解決にはなっていない。前方に意識を向けては肝心のボスの対処が遅れてしまう。

 

「チッ!何がトリガーになってやがる⁉︎」

 

思考を進めるカマクにガタリが声をかけた。

 

「俺たちが時間を稼ぐ!その間に発生条件を見つけてくれ!」

 

ガタリの後ろにいるのはカマク以外の十闘士の面々。

 

「わかった。無茶はするなよ」

「任せとけって」

 

笑って返事をするガタリにカマクは心の余裕を持った。

 

「(あいつらが引きつけている間に急いで見つけねぇと)」

 

走り回って撹乱するガタリ達、しかしいつ来るかわからない爆発に苦戦を強いられる。

キメラは爆発以外にも毒針や獅子によるブレスも併用してガタリ達を追い詰める。

 

「獅子頭による攻撃は炎のブレス。蛇は毒針、山羊は衝撃波……⁉︎まさか……」

 

何か閃いたカマクがキメラを見つめ、爆発のタイミングを見計らう。

ナオキが僅かに足を止め、ソードスキルを放つ構えに入るとキメラの山羊の視線が向いた。直後目が一瞬輝き、ナオキの目の前で爆発が起きた。

 

「……ぐっ!!」

「(これか!?)」

 

出来ればもう一度確認を取りたい所だがガタリ達の消耗も少なくない。カマクは自分の推論を部屋に響くように発した。

 

「爆発はゴートヘッドの目が光ってから起こる!狙いはゴートヘッドの視線にいる奴の可能性が高い!」

「カマク君、ありがとう!」

 

指揮官であるアスナがカマクにお礼を言い陣形を組み立て直す。

カマクの推論は正解と言っていいだろう。しかし、山羊の目が光ってから避けては見えない爆発を完全に防ぐもしくは避けきれる者はそう多くない。

更に爆発が発生する数も段々と増えている。今では山羊の視線の先全てにいるプレイヤーがターゲットにされているであろう。

山羊の視野は両目でほぼ360度とも言われている、獅子頭で右側は死角となってはいるがキメラの左側にいるプレイヤーはそのほとんどが爆発対象である。

爆発を諸に受けるとスタンも僅かにだが発生し、その隙を突くように毒針が襲い、状態異常になるものが多くなってきていた。

 

「このままじゃ持たないぞ!」

 

ガタリが回復ポーションを呷りながら叫ぶ。

爆発と毒針による被害で大半のプレイヤーがポーション類、回復結晶の底が見え始めている。

 

「わかっている!ヒースクリフ、少しの間任せられるか?」

「仕方あるまい!」

 

壁役をヒースクリフに任せ、下がって指揮を執るカマク。

 

「後衛のE隊とF隊はチヒロとマルカにアイテムを渡せ!二人の広域スキルで回復は持ち堪える!」

 

カマクがアスナと代わって指揮を執り、戦況を立て直す。

アスナは抜けたチヒロ達の穴を埋めるが、戦況は中々安定しない。

それでもキメラの二段目のHPを削ることに成功する。

 

「全員、ボスの変化に注意!」

 

ヒースクリフが一喝して全体の気を引き締めさせる。

 

グルルゥアアァァ!

 

キメラの咆哮が部屋に響き渡る。

直後、キメラに変化が現れ、それを見て攻略組は絶句した。

 

「……嘘……だろ」

 

誰が呟いたのか、しかし、全員の気持ちを代弁していた。

現れた変化は蛇の尻尾が二本追加で増えたのだ。

一本でもこの有様、三本など絶望にも限りがある。

壁役としてキメラの近くにいたKoBのゴドフリーがタゲられ毒針を浴びた。

麻痺状態に陥ったゴドフリーを助けるべく、ワールンが動いた。後ろからはカヤが続いている。

 

(僕がキメラを引き付ければカヤが後はやるはず)

 

ワールンは獅子頭に《アバランシュ》を撃ち込んでゴドフリーの救出を確認する。

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

そこには、カヤが助けるはずのゴドフリーを刀で首を落としていた。

 

 

 

 

 

 

「イッツ、ショー、タイムだ」

 

 




読んで頂きありがとうございます。

中々、話が進まず申し訳ないです。


劇場版SAO見に行きました。二回見たんですが戦闘シーンが特に良かったです。
ユナちゃんを出したいなーとか思ったりするんですけどね。(笑)

では、また次回。
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