ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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温泉へ

主街区から南方に約一時間ほど歩くと少し低めの山脈地帯がある。

そこに俺達の目指している温泉があるらしい。

一応、最前線の層なので出てくるモンスターは強いが攻略組が十人以上もいるのでここまで危なげなく来ている。

そしてもうすぐ山脈のダンジョン内に入るというところでマルカが横から話しかけてくる。

 

「こんなに人がいるとモンスターの相手をそんなにしなくていいから楽よね」

「確かに攻略組じゃないメユとマリがいてもこれといってピンチにもなったりしないから精神的にも助かるな」

 

俺は歩きながらマルカに返事をする。

横目にカヤとマリを見ると、二人は何とも仲睦まじそうに楽しく会話をしている。

マリとはカヤの現実世界での傍付メイドらしい。

本来ならカヤはこの温泉の旅に参加するつもりは無かったのだけど、このことをマリが知り、一人でも行くと言ったらしく、カヤが心配で一人はダメと言って参加したらしい。

前の方を見るとタクトとワールンがモンスターを次々と倒していく。

二人とも今日集まってからずっとテンションが高く、鬱陶しいのでみんなの意見で前衛を長い間やらせている。

だがそれすらも嬉しそうにやるので余計に鬱陶しい。

前の二人を見ていると後ろのカマクとメユの会話が聞こえてくる。

 

「なあメユ?どこに温泉があるんだ?」

「私も詳しくは知らないんですけど、奥に行ったら外に出てそのもう少し先にあるみたいです」

「はぁーーー、まだかかりそうだなそりゃ」

 

聞いたのに気が滅入るなら最初から聞かなければいいのに。

カマクの顔を窺うと心底嫌そうな顔をしている。

ホントに嫌なら仮病でもして休めばよかったのに。

でもこの世界じゃ病気にならないから仮病は無理だろうけど。

ふと、この洞窟を見渡す、ここはあまり人が来ていないからか宝箱が未開封のものが結構ある。

もしかしたら最初に来たのが俺達なのかもしれない。

みんなとりあえず宝箱を見つけたら開けまくっている。

最前線のプレイヤーだからか全員なんの悪びれもなくやっているのがとても印象的だ、因みに俺も混ざっている。

と、またキリトが宝箱を見つけたみたいだ。

 

「お?宝箱発見!」

「キリト君、意地汚いよ?」

 

キリトの姿を見てアスナがあきれた表情をしている。

けれどキリトは気にせず喋りながら開ける。

 

「いいんだよ、何て言っても俺は悪のビーターなんだからさ」

「もう・・何よそれ」

 

アスナが笑って返す。

キリトの言葉にチクリと来る、、きっとキリトは冗談のつもりで言ったのだろう。

周りも笑っているし、誰も気にしていない。

けれど、俺には素直に笑うことは出来なかった。

キリトにそれを押し付けたのは俺では無いけど、それでも俺も同じようにそれを受けなくてはいけない筈だったのに・・・。

別に今更、何を言おうが今の状況が変わる訳がないことはわかっている。

それでもいつかきっと、キリトに恩返しをしたい。

ふと周囲を見ると前のみんなと離れていた、どうやら考え事のせいで歩くペースが落ちていたようだ。

それに気が付いたキリトが声をかけてくれた。

 

「おーいガタリ!ちゃんと付いて来ないと迷子になるぞー!」

 

キリトの何も考えていないような様子に自分が悩んでいることが少し馬鹿らしくなってくる。

考えるのをやめ、みんなに追いつくことにした。

 

「タクトじゃないから迷子とかにならねえよ」

「おい!そこでどうして俺をディスるんだよ!」

 

タクトの言葉にみんなが再び笑い出し、ダンジョンの奥を目指した。

 

 

三十分ほどダンジョンを探索していると遂に外に繋がる階段が見つかった。

 

「ようやく外に出られそうですね」

「そうみたいだね!」

 

ナオキが安堵の声を漏らすとユウマがそれに反応して答えた。

周りもダンジョンにうんざりしていたからか少し元気が出てきている。

階段を上り出口を抜けると目の前にとても広い高原があった。

風で草は揺れ、日の光が気持ちよさそうに注いでいる。

 

「ん~とっ!太陽の光が眩しいな~!」

「そうだね、風も気持ちいいしとってもいい場所だね」

 

ワールンとワカナが同じように体を伸ばす。

俺もそれにつられて伸びをし、ダンジョンにいた時の気持ちを入れ替える。

少し、この風景と環境を味わって温泉に向けてもう一度歩き出す。

高原を歩いてはいるけど、周りは山で囲まれており、その山からは湯煙らしきものが見える。

温泉が近くになっているのが分かってきて気持ちが高まる。

高原を歩き、たまにMobとも戦闘をしながら行くと山道らしきものが見えてくる。

その前にフィールドボスらしきモンスターがいる。

見た目はゴリラで大きさは普通のフィールドボスと同じだ。

見たところ武器は無く、素手で戦ってくるのだろう。

特殊攻撃もありそうだが見た目だけでどんな攻撃をしてくるのか判断できそうにはない。

みんなと話し合った結果、メユとマリをマルカが後ろで守り、他のみんなで戦うことに決まった。

フィールドボスの名前は<マウンテン・シミアンキング>。

山猿の王様(アスナに聞いた)らしく、図体がでかい。

高さはそれほどないが腕や足、が太く攻撃しても切れている気がしない。

攻撃はパンチとキックが主で偶に頭突きをかましてきて、それをくらうとスタンしてしまう。

どの攻撃も躱せないことは無いのでそれほどピンチにもならない。

もうすぐ山猿の三本あるHPバーが二本目になりそうだ。

 

「みんなHPバーが二本目になったら攻撃パターンが変わるかもしれないから注意してくれ!」

 

キリトが叫んで全員に注意を促す。

それを聞きユウマが攻撃を与えたところで二本目になり、<シミアンキング>が咆哮する。

聴覚保護スキルを取っていない俺とナオキ、カマク以外のみんなは耳を塞ぎ動きが止まる。

咆哮している間は無防備になるのでそこを俺とナオキが一気に攻める。

 

「はあぁぁ!」

「せえぇい!」

 

俺が<スネークバインド>を、ナオキが体術二連撃技<刹破衝>を放ち二本目のHPバーの一割ほどを削る。

技後硬直が解ける前に相手のパンチが俺目掛けてくるがそこにカマクが割って入り、盾で受け止める。

 

「・・・・くっ!」

 

受け止めた後、俺とナオキの硬直も取れたので<シミアンキング>と距離をとる。

 

「サンキューな、カマク」

「俺がいるからって無茶してんじゃねえよ」

 

カマクが俺の言葉に苦笑交じりで答えた。

話もそこそこに<シミアンキング>に集中すると、こちらに向かって突進してくる。

 

「――――ッ!」

 

俺は躱そうとすると走っている<シミアンキング>の横腹目掛けてキリトが<レイジスパイク>を放ち<シミアンキング>のバランスを崩す。

そこにタクトが追撃をしようとすると<シミアンキング>が体を回転させて宙に浮いた。

 

「うおッ!?」

 

タクトはその攻撃を辛うじて剣で受けるが吹き飛ばされてしまう。

キリトの言った通り攻撃パターンが増えたみたいだ。

けれどそこまで威力はないのかタクトはHPが一割ほど持っていかれるくらいで済んだみたいだ。

<シミアンキング>の回転攻撃が終わり、地に着くと少し地面が揺れ、俺達にふらつき状態が科せられる。

耐震スキルを持っているプレイヤーはこの中にタクトともう一人ユウマがいる。

 

「やああぁぁ・・・ッ!」

 

タクトは吹き飛ばされ離れているので無理だが、ユウマが<シミアンキング>との間合いを詰め<獅子戦吼>を繰り出す。

それにより<シミアンキング>がスタンに陥り動きが僅かだが止まる。

その間に全員がふらつき状態から解放され、敏捷値の高いアスナとワカナが<シミアンキング>目掛けてソードスキルを浴びせる。

 

「セアアッ!!」

「ええ・・・いッ!」

 

アスナの<リニアー>、ワカナの<クロス・エッジ>により二本目のHPバーも残りわずかとなる。

スタンから立ち直った<シミアンキング>が地面を両手で叩きつけ衝撃波で近くにいたユウマ、アスナ、ワカナが攻撃をくらう。

 

「・・・うっ!」

「きゃっ!?」

「・・・やっ!?」

 

三人とも黄色ゾーンの手前までHPが減っている。

 

「あれ、かなり厄介だな」

「そうですね、簡単に近づけそうにないです」

「ああ、どうしたものか」

 

俺が悩んでいるとチヒロがキョロキョロして周りを見始めた。

 

「え~っと、あれならいけるかもしれないです」

「あれ?」

 

チヒロが見つけ指さしたのは一本の木だ。

まさかあそこから飛んで攻撃とか?

 

「ガタリ君、誘導お願いしますね」

 

チヒロが上目づかいで頼んでくる。

そんなことされて断れるわけもないので二つ返事で了解した。

俺は威嚇をして<シミアンキング>のタゲを取り、チヒロの向かった木の近くまでおびき寄せる。

そこに行くとカヤが<シミアンキング>を満月のような軌道を描きながら二回斬り、その後さらに斬りあげ、そのまま剣を切り返す。

 

「散れ・・・!」

 

刀四連撃<ムーン・フォール>だ、攻撃の射程距離が少し長いため離れた距離でも最後の一撃をバックステップしながらも当てることが出来、隙の少ない技だ。

<シミアンキング>のHPバーが遂に一本になり再び地面を叩き出した。

カヤはバックステップで回避していたため当たっていない。

この状況では誰も近づく事が出来ない、けれどチヒロが木の上で待機していて、この時を待ってたと言わんばかりの笑顔で木からジャンプし持っている片手棍が青く光る。

 

「タアアァァ!」

 

片手棍重単発攻撃<パワー・ストライク>が<シミアンキング>の頭に見事に決まり、叩きつけ攻撃が止む。

それを狙いワールンが懐に潜り込む。

 

「らあぁぁ!」

 

<ブラスト>で二回斬りつけHPをチヒロと合わせて二割ほど削る。

すると<シミアンキング>が右腕を振り回転させる。

俺は直感的に危険だと判断し叫ぶ。

 

「マズイ!下がれワールン!」

「ワールン下がるんだ!」

 

キリトと声が重なった、キリトもヤバいと感じたのだろう。

ワールンは俺達の声を聞くとすぐに下がろうとするが<シミアンキング>のパンチが襲う。

 

「んな!?」

 

咄嗟に両手剣を前に出したのが良かった。

ワールンは<シミアンキング>のパンチで五メートルほど吹き飛ばされ、HPを黄色を越え、赤にまでなっている。

もしあそこでもろにくらっていればHPは0になって死んでいただろう。

<シミアンキング>は再び腕を回転させ始めた。

あれはかなりヤバい、体力が少し減っていたとはいえ八割あったワールンのHPを赤にまで持っていくなど信じられない。

もし刀の幅が小さいワカナやカヤがくらえばいくらHPが満タンでも死に直結するかもしれない。

俺は自分のHPを確認する、俺のHPは七割ほどだ、とりあえず回復しなくてはいけないがポーションだと時間がかかってしまう。

バトルヒーリングのスキルで僅かに回復していってはいるが足りないだろうと思っていると急にHPの回復が早くなった。

ハッとなり周りを見るとマルカとチヒロがハイポーションを飲んでいるのが分かった。

マルカは戦闘に参加していないのに何故ポーションなんて飲んでいるのかわからない。

その疑問に答えたのはチヒロでもマルカでもなくワカナだった。

 

「あの二人はね、広域スキルを取ってるんだって」

 

その言葉で納得した。

広域スキルとはポーションや回復系結晶を自分が使うと、スキルの熟練度により距離は変わるが効果範囲内にいるプレイヤーにもその効果の50パーセント与えるスキルだ。

二人のお蔭で自分の飲んだポーションも含めて、すごいスピードでHPがフルになった。

それを確認して全員が<シミアンキング>に攻撃を仕掛けに行く。

<シミアンキング>が頭突きを繰り出そうと上半身を仰け反らせる。

きっと頭突きでスタンさせ、パワーアップしたパンチで攻撃するのが一つの流れなのだろう。

みんなもわかっているのか回避のモーションを取っている。

しかしナオキだけは前に行きスキルモーションに入った。

 

「はぁぁあああ!!」

 

ナオキの拳と<シミアンキング>の頭突きがぶつかる。

ぶつかった瞬間ナオキの拳の周りが爆発し<シミアンキング>を吹き飛ばした。

体術スキル<烈破掌>をもろに頭にくらったため<シミアンキング>が転倒状態に陥る。

 

「みんな!これで決めるぞ!」

 

俺が叫ぶと全員で<シミアンキング>を囲む、様々な色のエフェクトが<シミアンキング>を斬りつけるがHPが赤になった所で<シミアンキング>が立ち上がり回転攻撃をだし、全員が吹き飛ばされる。

 

「・・・うぅ」

 

喉から小さなかすれた声がでる。

俺はすぐに立ち上がり空中で回転している<シミアンキング>の頭上まで敏捷値の限りジャンプした。

片手剣を両手に持ち下に突き刺すようにする。

剣が赤く光、重力も合わさり物凄い速さで落下していく。

 

「ああぁぁ・・・ッ!」

 

片手剣空中単発技<インパクト・イベント>。

<シミアンキング>を唐竹割りで攻撃し、<シミアンキング>を地上に叩きつける。

しかしそれでもHPを削り切れずに<シミアンキング>は俺を見ると右腕を引く。

俺は技後硬直により動けないが後ろでキリトが小さく吠えるような声を出しながら近づいているのを感じ、笑みをこぼす。

 

「う・・・・おおおお――――ッ!!」

 

キリトの<ソニック・リープ>が<シミアンキング>の左胸を貫きぬく、<シミアンキング>の右拳は俺の眼前で止まり、そして少しぶれてからポリゴンとなって爆散した。

 

 

「ふぅ~、ッ気持ち~」

 

<マウンテン・シミアンキング>を倒した俺達は、山道を登りお目当ての温泉にありつくことが出来た。

ここは露天風呂になっていて、きちんと男女分かれていた。

俺達は装備を外し温泉を堪能している。

しかし、ユウマだけ水着をつけて入っている・・・・どうしてだ?

下だけなら百歩譲ってわかるが上もつけてるって何なの?女なの?

ワールンとタクト、ナオキがつけないといけないじゃないかと言ってユウマは渋々つけているのだが・・・訳がわからない!

カヤやカマクは静かに温泉に浸かっていて、まあワールンもタクトも騒いではいるけど他に人もいないし今くらい許されるだろう。

 

「偶にはこういうのも悪くねえな」

「僕は鬱陶しくて仕方がない」

「まあそう言うなよ!」

 

普段会話をしていない二人が会話をしているのを見て少し驚く、これが裸の付き合いってやつなのだろうか。

そう思い他も見るけどタクトとワールンは特に変わったとこはなさそうだ、つまりアホな事ばっかしている、そのうち覗きに行くとか言い出さねえだろうな。

 

「ふう、ここの景色もなかなかいいな」

 

キリトがポツリとつぶやいているのが聞こえた。

 

「他に温泉とかあったのか?」

「え?あ~昔って言っても九層の時なんだけどさ、偶々めちゃくちゃ広い風呂場に入ることが出来て、そこからはその層全部が見渡せたんだよ・・」

 

キリトの表情は楽しかったことを思い出しているかのように笑顔だった。

 

「いいな、今度機会があったら連れて行ってくれよ」

「ああ、行けたらいいな」

 

キリトから視線を外し、景色を見る。

山が連なりその真ん中に丁度、迷宮区が聳え立っている。

このデスゲームに囚われてもう四か月過ぎ・・・、ようやく四分の一だ。

あと四分の三もボスを倒さなくちゃいけない。

あとどれくらいで帰れるのかわからないし、出来るだけ早く攻略しないといけないけど、偶にこうしてゲームの中を楽しむのもいいのかもしれないな。

 

「・・・・ん?」

 

ふと視線の中に二つの影が入った。

ワールンとタクトだ、あいつら本気で覗きをする気か?

 

「ワールン、こっちからならいけそうだぜ!

「でかしたぞタクト、このままばれないように行くぞ」

 

ああ、あいつら死んだな。

あいつらがそんなの見逃す訳がないのに。

 

「ほう、どこに行く気だ?」

「おう、ワールンちょっと話聞かせてもらおうか?」

 

カヤとカマクが鬼の形相で二人に話しかける。

ワールンとタクトの覗きは見事に失敗に終わった。

 

・・と思ったのだけど。

 

「クソ、どうにかしてあの二人の警備を出し抜かねえと」

「ああ、このまま諦めきれるか」

 

諦めろよほんとに、あの二人が守っている時点で無理だろ。

二人がこっちやってきた。

 

「おい、ガタリ、キリト俺らと手を組もうぜ」

「お前達二人がいたら絶対に行ける気がするんだ」

 

二人から誘われた。

キリトは少し戸惑っているようだ、キリトも立派な助兵衛だ。

かくいう俺は・・・

 

「絶対に無理だから諦めろ」

 

言葉一つできっぱり断った、しかしそれでも二人はしつこく誘ってくる。

 

「なあガタリ?女が露天風呂に入るってことは覗いてくれってことなんだ!そんなこもわからないのか?」

 

物凄い飛躍した考え方をタクトにされた、それでああそうだなってなるとでも思ったのか?こいつは。

 

「・・・成程」

 

キリトがなってたよ。

どうにかしてこいつらを諦めさせられないかな。

 

「ガタリ、折角温泉に来たんだぞ。さらに可愛い子たちがたくさんいるんだ、こんなチャンスを逃すわけには行かないだろ」

 

ああ、この間こいつらがアイコンタクトしてそしてやたらテンション高かったのはこれか。

 

「あの二人さえどうにかしたらいけるんだ」

「諦めろ」

 

俺は突き放す、見ようとしたらカマクたちにぼこぼこにされるし、見れたとしても絶対にアスナあたりにぼこぼこにされるんだ、これは見ないのが正解だ。

 

「くっ・・・このまま諦めきれるか!」

 

ワールンの真剣な表情に不意に飲み込まれそうになった。

しかしながされてはいけないと頭を振り質問する。

 

「何がお前をそこまで突き動かすんだよ?」

 

理由次第では手伝うくらいならいいかもしれないし。

ワールンは少し照れたように頭をかきながら言う。

 

「恥ずかしながら性欲だよ!」

「本当に恥ずかしいな、おい」

 

さっきの発言で手伝う気は失せに失せた。

俺はもう関わらないことを決め湯船から上がり着替えることにした。

出口に向かう途中でユウマがナオキの背中を流していて、ナオキが幸せそうな顔をしていたように見えたのはきっとのぼせていたからだろう。

 

「くそ!こうなったら強行突破だ!行くぞワールン」

「ああ、僕たちの夢は誰にも邪魔させない!」

 

あの二人そろそろ死ぬだろう。

二人の断末魔をBGMに服に着替え外に出るとチヒロがいた。

 

「あ?ガタリ君もう上がったんですか?」

「ああ、ちょっとのぼせそうだったから先に上がったんだよ」

 

チヒロの手元を見るとハンカチがあった。

 

「ハンカチ・・・」

 

気になり口にしてしまった。

 

「このハンカチ気になりますか?」

「いや、別にそういうわけじゃ・・・」

「ふふ、いいですよ別にガタリ君になら話してもいいかもしれないです」

 

チヒロは微笑をした後、すこし寂しげな表情をした。

 

「このハンカチはお兄ちゃんの何です」

「お兄ちゃん?」

「はい、双子の兄で一緒にこのゲームに来たんですけどモンスターにやられてしまい、それで」

 

俺は無言で聞くしかなかった。

チヒロは俺の表情を確認するように覗き、話をつづけた。

 

「このハンカチはお兄ちゃんが出かける前に渡してくれたもので最後の形見です」

「そうか、そんな話俺にしてよかったのか?」

「はい、ガタリさんになら話てもいいかなって。私が攻略組に来たのはお兄ちゃんの代わりに攻略しようと思ったからなんです。自分の意思とかじゃないんでなさけないですよね・・・」

 

チヒロはえへへと自分の気持ちを騙すように笑った。

チヒロの言葉に俺はしっかりした意思を感じた気がした。

 

「そんなことないと思うよ、お兄さんを思う気持ちは本物だと思うし、お兄さんのために戦うっていうチヒロの意思はきちんと自分の意思だよ」

「・・・・ありがとうございます、やっぱりガタリ君に話して良かったです」

 

チヒロの青い瞳から涙が流れた。

チヒロはそれを形見のハンカチで拭った。

俺はチヒロを背にし、彼女の涙を見ないようにし、みんなが来るのを待った。

 




読んで頂きありがとうございます。

マリが登場しましたね。

女の子の方の入浴シーンがなくすいません。

今度機会があれば書こうかと思います。

では、また次回。
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