最前線が三十層を越え、二十六層からはフロアボス戦で死者が出ることもなく順調に攻略が進んでいる。
攻略組には最近になり、赤髪の野武士ことクラインの率いるギルド・風林火山が加わりより安定して攻略が出来るようになってきた。
他には、聞いた話だけどキリトがギルドに入ったらしい。
トップギルドではなく中層ギルドらしいのだけど、俺はそれを聞いた時とても安心した。
一層の事でキリトはギルドに入ることが出来ないのではないかと思っていた。
けれどキリトが自分の居場所を見つけられたことに心の底から嬉しかった。
かくいう俺はと言うと、相変わらずギルドに所属することもなく、ソロとして活動している。
まあほとんどはタクトやマルカとパーティーを組んでいるのでソロなのかと言われると微妙ではある。
タクトとマルカ、他にワールン達もどこのギルドにも入っていない。
それならいつものみんなでギルドを組まないのかと言われたこともあるけど形になったことは無かった。
みんなコンビを組むことが多いのでソロで不安ということもないし、ギルドの業務や抗争なども面倒くさいといった感じで流れた。
俺もそれが理由なのもあるけど、キリトの事を少なからず負い目に感じていたからかギルドに入ることは考えなかった。
今、俺はタクトとマルカとパーティーを組んで最前線から三つほど下の迷宮区で強化素材やコル集めをしに来ている。
今も丁度モンスターと戦っている最中だ。
「やあっ!」
マルカが<ホリゾンタル・スクエア>で敵を切り裂きポリゴンへとかえた。
マルカは振り向きこっちを見ると笑顔で話す。
「これで今日は私が一番ね!」
「ちっ・・仕方ねえな」
タクトが悔しそうに舌打ちをする。
俺達はモンスターを倒した数を競っていて一番倒した数の多い人が一番少ない人から飯を奢ってもらうといった賭けをしていた。
今回はマルカ、俺、タクトの順で倒した数が多いのでタクトがマルカに奢ることが決まった。
「あんまり高いのはやめてくれよ・・・」
「う~ん、どうしよっかな」
タクトはとぼとぼ歩くがマルカは対照的に足取りが軽そうだ。
俺は今回は二位なので自分の分だけだ。
三人で街に戻るために出口に向かいだすと、どこからかアラーム音が聞こえてきた。
これってトラップ音?誰かが引っかかったのか?
俺は二人と顔を見合わせ、言う。
「これってトラップのアラーム音だよな?」
「そうだろ、でもいつものトラップなら大したことはないんじゃ・・・」
タクトは別に急いで助けに行かなくてもいいんじゃないと提案するがマルカの発言でその案はタクトも却下することになる。
「いえ、この層から確かトッラプの難易度が上がるはずよ!」
「なっ・・?!急いでいくぞ!タクト、マルカ!」
「ああ!」
「ええ!」
俺達三人は急いでトラップが発動したであろう場所に向かう。
途中のモンスターも無視し、ただ走った。
「おい!あれじゃないか?」
タクトが指を指したとこには前には無かった扉があった。
その扉は中からは開かないのかプレイヤーが出てくる気配はない。
「うわぁぁ!」
中から悲鳴が聞こえる。
俺達はすぐに扉を開け中へと入る、すると中では警告音が鳴り響いており、あちこちからモンスターが湧いていた。
プレイヤーたちはモンスターに囲まれており無事かどうかもわからない。
そのせいで助けようにも助けられない。
俺は鳴り響く宝箱を見つけると二人に告げる。
「タクト、マルカ、まずはあの宝箱を破壊するぞ!」
二人は俺の声を聞くとモンスターを斬り、宝箱へと向かう。
けれどモンスターが多すぎて中々たどり着けない。
その間にもプレイヤーがポリゴンへとなり死んでいくのがわかった。
「クソ!うお・・・おっ!」
俺はソードスキルを連発しモンスターを一掃する。
するとまだ助かっているプレイヤーがいることに気づく。
そのプレイヤーは黒が特徴的のプレイヤー、キリトだった。
キリトは俺達が来ているのに気が付いていないのか、とても錯乱し、叫びながらモンスターを倒している。
俺はキリトの邪魔にならないようモンスターを倒して宝箱をめざし、破壊に成功する。
それから二分ほどでモンスターをすべて倒し終えるが、生き残っているプレイヤーが助けに来た俺達三人とキリトしかいないことに落胆する。
俺は立ち尽くしているキリトに話しかける。
「キリト何があったんだ?」
「・・・・・」
キリトは茫然としており返事がない。
しかし僅かに声を発していることに気づく。
「・・・チ・・・めん。・・・サチ、ごめん」
キリトは俺達のことに見向きもせずそのまま部屋を出て行った。
キリトが部屋から出ていくと、マルカが横に来て声をかけてきた。
「キリト、大丈夫なの?」
「わからない・・・俺はまたあいつに何も出来なかった・・」
「それよりキリトを追いかけなくてもいいのか?」
俺はタクトの言葉に何も言わずキリトの後を追うように部屋を出た。
後で聞いた話だと、キリトは月夜の黒猫団というギルドに所属し、リーダーがギルドホームを購入しに行っている間に他のメンバーでコル稼ぎをしに迷宮区に行ったら、トラップにかかり、キリト以外のメンバーが死んだらしい。
リーダーもその事をキリトから聞き、キリトにただ一言。
ビーターのお前が、僕たちに関わる資格なんてなかったんだ、と言い残し自殺したらしい。
俺はこのことにこれ以上関与することが出来なかった。
☆
三十五層迷いの森奥地で二つの剣がぶつかり合い火花を散らす。
私はそれを少し下がった所から見ている。
私の横にはいつもコンビを組んでいるチヒロがいる。
二つの剣のうち一つはここによく出るモンスターの直剣だ。
最前線だからか使ってくるソードスキルも下の層より多い。
そしてもう一つは斧で、今日ここに来た時に偶々出くわし一緒に行動をすることになったユウマ君。
彼は私とさほど背丈も変わらないのに大きな斧を片手で持ちモンスターと対峙している。
そして彼がモンスターの剣を上に弾こうとするときに彼から声がかかる。
「ワカナちゃん!スイッチするよ!」
「任せて!」
私は自分の武器の短剣を右手に持ち地面を蹴った。
そしてユウマ君が敵の剣を弾き、私はモンスターの懐に入り短剣中級突進技<ラビットバイト>を放つ。
「やああぁぁ!」
モンスターの体に短剣で斬りつけるとモンスターのHPがゼロになり散った。
「流石ワカナちゃんだね」
私が振り向くとユウマ君が無邪気な笑顔で告げた。
それを見て私もつい照れてしまう。
「そうですよ、ワカナちゃんは私の一番の自慢ですから」
「か、からかわないでよ~」
私は武器を腰に直し二人の所まで歩く。
「それにしても男の子が一人いるだけで心強いね」
私がユウマ君に向かって言うと彼は少し恥ずかしそうに笑った。
「うんうん、僕も二人に合えてよかったよ。ナオキ君と途中で逸れちゃったから心細かったし・・・」
「でもどうして逸れちゃったんですか?」
チヒロが何気なく問うとユウマ君は急に眼を逸らした。
ナオキ君と喧嘩でもしちゃったのかな?二人が喧嘩なんて想像できないけどな~。
ユウマ君は少し言い淀みながらも口を開いた。
「えっと・・・綺麗な蝶々がいて、つい見惚れて追いかけてたら・・・」
「逸れちゃったんだ」
「うん」
きっと今頃ナオキ君は必死に探しているんだろうな。
この森じゃあ地図が無いと何時間も迷う羽目になるし、何より早くナオキ君にユウマ君を会わせてあげないとかわいそう・・・。
「と、とりあえず、早いとこ、この森を抜けちゃおー!」
「うん!!」
「はい!」
私の掛け声に二人とも応じてくれ、森を抜けるために歩き出した。
最奥部付近まで来ていたのでここを出るのは少し時間がかかるけど地図があるので迷うことは無い。
もう少しで出口というところで小さなモンスターが私の目に映った。
「ねぇ二人とも、あそこ見て!」
「どうしたんですか?」
「何々?」
「ほらあそこ」
私が指したところにいたのは見た目は黄色く、耳が兎のように少し長く、尻尾が雷のような形が特徴的なモンスターだ。
私達が騒いでいるのに気が付いたのか黄色のモンスターが近づいてくる。
「ピカ?」
「何だろう?」といった感じに少し頭を傾けている、可愛い!!
目をパチクリさせているとことか、口元も全部が可愛い!
カーソルは赤だけど触っても大丈夫なのかな?
「ねえワカナちゃん、その子お腹が空いているんじゃないかな?」
「そうなのかな?」
ユウマ君の言葉を聞き、ストレージの中を見てみる。
う~ん、あの子が食べられそうなのか~。
私は少しアイテムを確認するとどこでも手に入る果物のようなものをオブジェクト化する。
「ほら、こっちにおいで!」
「・・ピィカ?」
私は手に持ったリンゴのような果物をその子の口元に持っていく。
その子は匂いを嗅いだり、手で突いたりし大丈夫だとわかったのか両手に持った。
「チュウ~!」
その子は嬉しそうに食べ始める。
食べる姿も可愛い!
小さな口をモグモグしてるし。
「ワカナちゃん!その子のカーソルが緑に変わってますよ」
「本当だ!これってどうなったの?」
「僕、聞いたことあるよ、確かていむ?っていうやつだ」
テイム?ってことはこの子は私の仲間になったってこと?
「ワカナちゃん、自分のHPバーの下に新しく何か増えてない?」
「あっ増えてるよ!名前は・・ぴー、あい、けー・・・・ピカチュウ?であってるのかな?」
ピカチュウという名を口にするとその子は元気よく応えてくれた。
「ピカー!」
「良かったねチヒロちゃん?」
「おめでとうございます」
「えへへ、ありがとう」
この子とずっと一緒に居れるんだ。
ピカチュウは私の肩まで登ってくると頬摺りをしてきた。
くすぐったいけど悪い気はしないよね。
「よろしくね、ピカチュウ!」
「ピッピカチュウ!」
私たちは新たにピカチュウをパーティーに加え街でピカチュウの歓迎会を三人と一匹でした。
何か忘れてる気がするけど大したことじゃないよね、きっと。
「ユウマくーん、どこですかー!」
☆
僕は今、クエスト掲示板の前で人を待っているのだが、約束の人物が来ず、かれこれ一時間ここでボーっとしている。
約束の人物とは言わずもがな悪友カマクである。
あいつは僕に対して嘘をついたり、約束を守らないことはあっても約束を破ることっは無いと信じている。
メッセージを飛ばすことを考えたのだけど何故か負けた気がするので送っていない。
とりあえずもうしばらく待つことにする。
すると視界にメッセージが届いたことが知らされる。
どうやらカマクみたいだ。
さて、どんな言い訳が来るのやらと思いながらメッセージの内容を確認する。
[すまん、捕まった]
言い訳も無ければ、内容もない文だが僕はこれだけであいつの身に何が起きたのか容易に想像がついた。
カマク、南無。
おおかた、彼女のメユに捕まり連行されたのだろう。
傍から見れば羨ましいのかもしれないがカマクのこれまでの苦労を知っているのでそんなことを思う気にもなれない。
さて、カマクが来られないとなるとこのままここで時間を潰すのも勿体ない。
少しクエストをこなして、レベリングでもするか。
掲示板を眺め、どのクエストを受けようか迷っていると一つ気になるクエストに目がいった。
それをよく見ようと手を伸ばすと横から僕とは別の手と当たる。
これが女の子ならラブコメ的展開をとても期待するのだけど現実はそんなに甘くなかった。
「なんだ、お前も受けるのか?」
僕が話しかけた人物は藍色の服が特徴のカヤだ。
「貴様には関係ないだろう」
キッと睨んで話しかけてくるなと訴えてくるが僕は気にせずに話しかける。
「いや、でもさこのクエスト二人一組じゃないと受けられないみたいだぜ」
「何を言って・・・マリめ余計なことを」
カヤは少し驚いた表情を見せたがすぐにいつもの表情に戻る。
「お前も組む相手なんていないだろ?よかったら僕と組まないか?」
「勝手に一緒にしないでくれ」
「でもいないのは事実だろ?ならいいじゃないか」
僕の説得が上手くいったのか、カヤは半ば諦めた様子で了承した。
「不本意だが今回は特別だ、貴様が申請をするなら受けてやってもいいだろう」
何ともわかりやすい捻くれだ。
まぁ僕から申請をするつもりだったので特に文句も言わずに申請をする。
カヤは承諾するのに少し躊躇いを見せたが、問題なく承諾し僕のHPの下にカヤの名前とHPが表示された。
それを確認すると僕とカヤはクエストの目的地へと向かった。
読んで頂きありがとうございます。
今回は短い話が三つです。
ワールンとカヤの続きは次回です。
また次回。