ソードアート・オンライン 十人の物語   作:蹴急

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芽生えるもの

周りは壁で暗視スキルが無ければ歩くことさえ難しい洞窟のダンジョンにワールンとカヤはいた。

彼らが受けているクエストとは一体のボスモンスターを倒し、鉱石・ダイオプサイドを手に入れるというものだ。

彼らがこの洞窟に入ってから約二時間、いまだにボスモンスターの姿はない。

薄暗い洞窟の中で紅い光りが瞬く。

光りの源はカヤの持つ刀だ、それは目の前の<ブラックウルフ>を三度斬る。

 

「・・・・ふっ!」

 

刀三連撃<ドラコ・ムーン>、これは<ムーン・フォール>の様に始めに三日月を描くように敵を斬るが、<ムーン・フォール>とは違い下がるのではなく前進して追撃するソードスキルだ。

カヤの剣は綺麗に<ブラックウルフ>の急所に決まり、結晶へと還る。

この戦いをワールンは後ろから見ており、カヤの剣捌きに見惚れていた。

カヤが刀を納めると我に返り、言葉を発する。

 

「カヤの剣捌きはやっぱり凄いな」

 

ワールンの発言にカヤは無表情で答える。

 

「そんなことはどうでもいいだろう、早く行くぞ」

 

そう言うとカヤは歩き出す。

ワールンはもう少し会話をしてもいいんじゃないかと思うが、以前誰かに言われたことを思い出す。

「あいつは人と群れるのが嫌なんだとよ」

それを思い出すとどうすれば仲良くなれるかと思案する。

せめて日常会話が出来るようにと。

 

「なぁカヤ」

「・・・・」

「この間のボス戦だけどさ」

「・・・・」

「聞いてるか?」

「聞こえている」

 

会話にならない。

この後も何度か試すがこれといった返答もなく反応もない。

ここでワールンはカヤの身近な人物の話題なら食いつくかと思い至った。

この後、彼はこの話題がカヤの地雷だということを知る。

 

「そういえば、カヤといつも一緒に居るマリっていう人はお前とどういう関係なんだ?」

 

言葉が終わるとワールンは周りの温度が少しばかり下がったような感覚に合った。

前を見るとカヤの雰囲気も少し刺々しい。

カヤは眼にも映らぬ速さで刀を抜き、ワールンの眼前に突き付ける。

 

「マリに手を出してみろ、貴様の命は無い」

「はっ・・はい!」

 

急なことにワールンの返事は裏返っていた。

カヤの目は先ほど<ブラックウルフ>と戦っていた時よりも鋭く禍々しい殺気を放っていた。

ワールンがすぐに謝罪すると許したのか殺気も刀も引き再び歩いた。

ワールンはこのことを心に留め二度とカヤの前でマリの話をしないことを誓った。

 

しばらくワールンが一方的に話しかける(勿論マリの話題は避けている)時間が続き、先ほどまでの狭い道ではなく、広い部屋のようなに場所に着く。

二人の前には二つの頭を持った翼の無い竜がおり背後には扉が重々しく閉じられている、さながら守護竜と言ったところだろう。

今は二人に攻撃を繰り出す様子はないが部屋に踏み込めばワールンとカヤに竜は襲い掛かるのではという気迫を感じる。

 

「なぁカヤ、あの扉の奥に目的のものがあると思うんだけど、あいつをどうする?」

 

ワールンは首をドラゴンに向けたままカヤに聞く。

それに対してカヤも視線をドラゴンに向けたまま応える。

 

「・・邪魔なものは消せばいいだろう」

「聞くだけ野暮だったな」

 

ワールンの言葉が切れると同時にカヤは飛び出しドラゴンに一太刀浴びせた。

ワールンはやれやれといった表情を浮かべるがすぐに後ろの大剣を抜きカヤの後を追う。

<ツイン・ミネラルドラゴン>これが扉を守護する竜の名前。

その名の通り皮膚はとても硬く、二人のこの層では業物に入る剣と刀でも斬り方が甘ければ弾かれる。

さらにドラゴンだ、一撃も重く、火を吹く特殊能力もある、当たればHPをごっそり持っていかれる。

だがワールンもカヤも最前線で戦う攻略組だ。

攻撃を受けながらもドラゴンの攻撃パターンをすぐに覚え、今では最小限のダメージで相手の体力を削っている。

彼らの間に連携と呼べるようなものはない、特にカヤはワールンの動きなど気にせず攻撃をしている。

唯一連携と呼べるのが相手の回復している間のタゲ取りだけである。

しかしドラゴンとの戦闘が続いて行く間に呼吸が合ってきたのか、序盤のようなぎこちなさがなくなっていく。

それは一つのリズムのようになり、加速してく。

けれど竜の二つの頭はワールンもカヤも見逃さない。

一進一退の攻防が続くが押しているのは確実にワールンとカヤだ。

加速していく彼らにドラゴンも食らいつくがその巨体が仇となり攻撃が当たらない。

痺れを切らしたドラゴンが上体を上げ攻撃を繰り出そうとするが今の彼らにとってそれは大きな隙でしかない。

カヤが左腰に刀を構えと刀が黒く輝く、曲刀突進技<ファントム・エッジ>。

 

「・・散れっ!」

 

刀スキルは曲刀スキルの派生スキルなので曲刀スキルを使うことも出来る。

カヤは一瞬でドラゴンの背後まで駆ける。

それによりドラゴンは誰もいないとこに体を倒してしまう。

ここで<ツイン・ミネラルドラゴン>のHPも残りわずかとなる。

最後にとワールンがドラゴンの足元まで走り両手で大剣を持ち、下段に持っていく。

大剣は鮮やかな緑色の光を放ち始める、その光が最大まで輝いたとこでワールンは足に力を籠め真上にジャンプする。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

大剣空中技<ヴォルテクス>、体を捻りながら飛び上がることで周囲を巻き込みながら切り上げるソードスキル。

今の状況で使用するのは的確ではないかもしれないがこのソードスキルは空中で技が終わるので限定されるが続けてソードスキルを放つことが出来る。

ワールンは両手で持っていた大剣を右手で持ち、左手が前に来るように体を少しずらす、さらに右足のひざから下を折り、左足を軽く伸ばす。

この状態から使用できるソードスキルは体術スキルの<崩襲脚>。

 

「これで終わりだ!」

 

ソードスキルがドラゴンの片方の頭に決まり、HPがゼロとなった。

そしてドラゴンはポリゴンとなり四散するはずだった・・・・。

 

「な・・・・!?」

 

ワールンとカヤは完全に虚を突かれた。

何故かドラゴンは結晶とならずにいる。

ドラゴンは無防備なカヤにテール攻撃を繰り出し襲い掛かる。

 

「くっ・・・!!」

 

ぎりぎり刀を前に出し直撃を避けたが壁まで吹き飛ばされる。

咄嗟の異常事態で止まっていたワールンだがカヤが攻撃されたことで我に返りカヤに声をかける。

 

「大丈夫か!カヤ!」

 

吹き飛ばされたカヤの安否を確認するためにカヤの方を見やる。

それによりドラゴンから視線を外してしまった。

 

「僕の事はいい!貴様も前を見ろ!」

「え!?」

 

振り向くとドラゴンはブレス攻撃を出す直前であった。

ドラゴンの額が一瞬輝き口から炎を繰り出した。

体を無理やり右にやりブレスの攻撃射線から逃げるが先ほどよりも射程範囲が広がっているブレスを避けることは出来ず攻撃を受ける。

 

「くそっ・・・・!」

 

ブレスはみるみるHPを削り、黄色ゾーンをすぐに越え赤色まで持っていく。

ワールンの装備がところどころ燃え、きっと装備の耐久値もかなり削られているだろう。

―――このままではやられる!

そう思い全力でジャンプし、ブレスから逃げドラゴンから距離をとる。

着地するなりポーションを取り出し急いで口にする。

回復するまでドラゴンから距離をとり様子を見る、デスゲームであるSAOでは無茶は出来ない。

慎重に確実に行かなくてはならない、今の状況なら体力が回復するまで待ち、相手の出方などの情報を集めるのが普通だ。

ましてドラゴンのHPはゼロなのだ、闇雲にぶつかっても効果が無いはずだ。

けれどカヤは回復しきっていない状態でドラゴンに向けて飛び出した。

 

「おい!待てよカヤ!」

「うるさい!僕に指図するな!」

 

ワールンの制止の声も無視しドラゴンに攻撃を仕掛ける。

だがドラゴンのHPはゼロ・・・、いくら攻撃してもこれ以上減ることは無い。

これではカヤが消耗するだけで埒が無い。

後ろで見ているワールンは何かないかと考える。

 

「(くそっ、どうなっている。こんなイレギュラー聞いたことが無い)」

 

カヤとドラゴンの戦闘を見るがカヤの闇雲な攻撃では大した情報も取れない。

こんなむちゃくちゃがあってたまるかと思うがそこで一つあることを思い出す。

 

「(いや、この世界はいくら死ぬといってもゲームだ、必ず何かしらの攻略法があるはず)」

 

そう思い、ワールンは周囲やドラゴンの観察をする。

まずはこの部屋、特に装飾もなく何かカギになりそうなものは見当たらない。

強いて上げるなら奥の扉だが守護竜のせいで確認するのは難しいだろう。

ワールンはこういった考え事はいつも相棒のカマクに任せていたのでこんな時カマクがいればと考えるが無い物ねだりをしたとこで状況が変化するわけではないと諦めドラゴンの観察に移る。

さほどさっきと変わった所は見られない、変わったとこと言えばブレスの威力や尻尾で攻撃をするようになったこと・・・。

カヤが必死に奮闘しているがそろそろワールンも行かなくては持ちこたえられないであろう。

カヤの集中も切れかけそうになり敵から目を反してしまった瞬間、ドラゴンがブレス攻撃の態勢に入った。

 

「くっ・・」

 

カヤは<ファントム・エッジ>で辛うじて攻撃射線から逃げる。

ドラゴンのブレスは空振りに終わったがそこでワールンはドラゴンがブレスの直前に額が輝いたことに気づく。

よく見ると最初には無かった赤色の宝石のようなものがドラゴンの二つの額にある。

きっとHPがゼロになることで出てくるようになっているのだろう。

そう考えに至ったワールンはブレスが終わる直前に叫んだ。

 

「カヤ、額だ!ドラゴンの額にある赤色の石を狙え!」

「!?・・・わかった!」

 

カヤは返事をすると素早くドラゴンの額に一撃を入れる。

が、ドラゴンにこれといった変化が起きなかった。

違ったのかとワールンは歯噛みするがカヤは続けざまにソードスキルを先ほどとは別の頭の額に当てる。

 

「ふっ!」

「ぐるぅぅ」

 

今度は効果があったのかドラゴンが大きく仰け反る。

カヤはワールンの近くまで下がり声をかける。

 

「どうやらソードスキルしか効果が無いみたいだな」

「そういうことか、だけどこれでも倒せないってことは他にも何かあるんだろうよ」

 

ワールンは大剣を構えドラゴンに向かう準備をする、だがカヤは刀を軽く下げ、嘆息を突いた。

 

「何を言っている?ここまでヒントがあれば奴を倒す方法などわかるだろう?」

 

何を言っているのか理解できずワールンの動きが固まりカヤを見やる。

そんなことなどお構いなしにカヤは言葉をつづける。

 

「不死に二つの頭、赤い石、ソードスキル、さらに言えばこのクエストが二人一組ということだろう」

 

カヤが言い終わったところでワールンは完全に理解したのか答えを口にする。

 

「そうか!二人同時にあの石にソードスキルを当てればいいのか!」

「きっとそうだろう」

 

ワールンの口角がくいっと上がる。

それならいけると思い再び剣を持つ手に力が入るがここで問題が出てきた。

そう、ソードスキルを同時に当てるというのはとても困難なのである。

行けるのかなと躊躇うとカヤが刀を構えながら告げる。

 

「貴様が僕に合わせろ!」

「だよな・・、わかった」

 

何とかなると言い聞かせドラゴンを見る。

そして軽く空気を吸い、息を吐いたところで二人同時に地を蹴った。

足並みも合いスピードも完璧に合致している。

カヤが狙うのは左、ワールンは右。

迫りくる二人にドラゴンがブレスで応戦する。

 

「ぐらぁぁぁ!」

 

炎の壁が二人の行く手を阻む。

 

「・・・ッツ!!」

「はっ!」

 

しかし二人は跳躍し躱す。

そしてその勢いのままドラゴンの額へと飛ぶ。

 

「はあぁぁぁぁ!」

「ふっ!」

 

白と黒・・・二つの軌跡が竜の双頭を切り裂く。

二人が着地するとドラゴンの額の宝石が砕け、すぐ後に<ツイン・ミネラルドラゴン>もその体をポリゴンとなり砕け散った。

 

「ふぅ、何とか上手くいったな」

 

ワールンは大剣を納めながら、同じように刀を納めるカヤを見る。

 

「当然だ・・・、何だこの手は?」

 

カヤがワールンの方を見るとワールンが掌をカヤに向け待っている。

 

「何って・・ハイタッチしようと思っただけだけど?」

「何故僕がお前なんかとしなくてはならない」

 

そう言うとカヤはスタスタと奥の扉に向けて歩き出す。

ワールンは不満げな表情をするが仕方ないかと諦めカヤについて行く。

扉の奥にはポツンと宝箱が置かれておりそれをワールンが少し丁寧に開け、中身を確認する。

 

「えっと・・・鉱石・ダイオプサイドっとこれを持っていけばクエスト完了だな」

「はぁ、これでやっと貴様と離れられる」

「あーはいはい、僕も清々するよ」

 

二人の帰途は少しばかし行きよりも会話があったであろう。

 

 

 

 

 

 

こんな二人をボス戦から見ていた人物がいた。

姿は膝上までも包む艶消しの黒いポンチョに覆われ、目深に伏せられたフードで男か女かもわからない。

そいつは二人を見て奇妙な笑い顔で呟いた。

 

「Wow……あいつを倒すなんて面白い連中だな。カヤとワールンか・・・これから楽しくなりそうだ。」

 

だらりと垂れ下がる肉切包丁を持ちながら、そいつは暗闇の中に溶け込むように消えていった。

 

「イッツ・ショウ・タイム」

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

前回の続きです。
次回はクリスマスイベントくらいかなと思ってます

ではまた次回。
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