虚空の生存者   作:レンハルト

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明日はクリスマス、そしてテストDETH!

・・・しにたい


第1話  街中の召喚者

 

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変わっても変わらぬもの

変わらなくても変わるもの

配点(日常)

 

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空を行く八艦からなる船がある。

中央に二艦、左右に前後三艦という配置のこの船は、地上の森に影を落としながら悠然と進んでいた。

その内の一艦、艦首に『右舷二番艦“多摩”』と黒の字で書かれた艦の表層にて、

 

「あいたーーーーー!」

 

打撃音と少女の悲鳴が響き渡った。

 

 

  ●

 

中央前艦“武蔵野”

 

右舷側の通りで“多摩”のほうを見ている少年がいた。

くせのある黒髪で眠たげな目の“副長代理 天宮・玖狼”という腕章をつけた少年だ。

所属する武蔵アリアダスト教導院の制服ではなく、二本の細長いウサギの耳のような布がついたフード付きの白い上着を着ているのが特徴的だ。

腰には辞典大の本が、鎖でハードポイントにつながれている。

 

「いい音なったな。今のはアデーレか・・・。やっぱ軽いからよく飛ぶな」

 

「クロウ・・・。結構ひどいこと言ってない?」

 

本人が聞いたら「ひどーーー!」とか言いそうなことを呟いた玖狼にツッコミを入れたのは、

彼の足元にいる黒猫だ。

黒猫の言葉に玖狼は心外だという風な表情を浮かべた。

 

「俺が言っているのは、機動殻着てないからって意味だぞ。

そんなこと考えるなんてひどい奴だな、ゴウト」

 

「え?ボク?僕が悪いの!?ってか、ボクがそう言わなかったらどうなっていたのさ?」

 

「何も答えないってことは、お前もそう思っていたってことだな。なんてひどい奴だ」

 

「結局責められるのボクなのーーー!?」

 

「あ、あの?」

 

  ●

 

前足で器用に頭を抱えるゴウトを無視して振り返れば、武蔵の夜警団の制服を着た男がいた。

 

「ああ、すいません、放っておいてしまって。何の用でしたっけ?」

 

「あ、はい。うちの隊長が『予定を少し早めることにしたから、早めに来てくれ』と」

 

「Jud.。すぐ行く、と伝えておいてください。・・・いくぞ。いつまで悶えてる」

 

「ちょっ、首鷲掴みはやめ―――って、え?なんで大きく振りかぶって―――!」

 

全力でゴウトを投擲した。

あっけにとられる男に一礼してから、僅かに膝をかがめる。

瞬間、足元に青い円陣型の表示枠(サインフレーム)が展開。その中に書かれた文字は、

 

『創作術式“飛翔天駆”』

 

「―――発動」

 

言葉とともに表示枠は砕け、体は宙へと打ち出された。

手や足を使い空中でバランスを取り、その過程でゴウトのしっぽをつかみ、家屋の屋根へ着地する。

腰の後ろの本を手の甲で軽くたたき、

 

「―――ガルム、召喚」

 

『召喚:ガルム―――――承認』

 

足元に展開した表示枠から、巨大な犬のような獣が飛び出す。

ただの犬とは違うのは蛇の尾のような尾を二本持っていることだ。

玖狼はそのガルムの背中にまたがる。

 

「ガルム、“浅草”のヤクザの事務所まで全速力。いけるか?」

 

『応』

 

「ちょっと待って、玖狼!さすがにこの持ち方には断固抗議―――――ぎゃーーーーー!!」

 

ガルムは静かに一言だけ答え、走り出す。

ゴウトの悲鳴を置き去りにして浅草の方へと駆けて行った。

残ったのは呆然とした男だけだった。

 

  ●

 

左舷一番艦“浅草”ヤクザ事務所前

 

貨物艦である“浅草”の荷物にまぎれるように立つ建物を夜警団の制服姿の人物達が包囲していた。

その内、隊長らしき男が拡声器を手に前に出る。

 

『あー、犯人に告げる。お前たちは完全に包囲されている。おとなしく投降しなさい。

繰り返す―――、さっさと出てこいやワレェ!今日は娘の4歳の誕生日なんだよ!

お前らにかまってる暇なんてねぇんだよ!分かったかこの野郎!』

 

「隊長隊長!全く繰り返していない上に、本音ダダ漏れ過ぎです!もうちょっと自重してください!」

 

『ああっ!?してるだろうが!してなかったら今頃お前ら全員うちの娘にキュン死してんぞ?!』

 

「どれだけ娘自慢したいんだよ!」

 

建物と夜警団両方からツッコミと同時に、建物正面の扉が開いた。

そこから現れた姿を見て、夜警団からどよめきが上がった。

 

「は、半竜?」

 

「それも、航空系かよ・・・!」

 

黒い装甲に覆われた巨体と荷重に対し高い抵抗力を持つ半竜は基本的に強敵と言っていい相手だ。

ましてや、この場に出てくるのだ。弱いはずはないだろう。

 

「警告する」

 

ぼそり、と黒の半竜が静かに告げる。

 

「これ以上踏み込むつもりがないのなら、こちらからは手を出すことはない。

だが、踏み込むのであれば―――」

 

腰を落とし、体の各部にある加速器に周囲の空気をチャージしていく。

 

「―――叩き潰す」

 

「はっ!何言ってんだよ」

 

警告に対し応じたのは夜警団の隊長だった。

怯む夜警団の前に立ち獰猛な笑いを見せる。

 

「こちらも仕事なんでな。引くわけにはいかねぇんだよ」

 

「なら、つぶ――――」

 

「―――――必殺!黒猫投擲ーーーー!」

 

「クロウ、そのまますギャーーーーーーーー!」

 

声とともに飛来してきた黒い物体が、半竜の顔面に衝突した。

 

 

  ●

 

微妙な沈黙が落ちた中、その黒い物体―――良く見ると猫の形をしている―――が落ちる。

それに続くように、半竜と夜警団の間に人影が軽やかな音を立てて着地した。

その人影は一つ息をつくと両方に聞こえるように名乗った。

 

「武蔵アリアダスト教導院 副長代理、天宮・玖狼。応援の要請に応じ、参上しました」

 

と、周囲の微妙な空気に気付き首をかしげる。

しばし悩み、夜警団に向かって、

 

「どうしたんですか、この微妙な空気は。―――一体誰がやったんですか?」

 

「お前だよ!」

 

ヤクザ、野次馬、夜警団の心が一つになった瞬間だった。

 

  ●

 

「おや?」

 

「いかがなされました?酒井様―――以上」

 

中央前艦“武蔵野”の甲板上で双眼鏡をのぞいていた中年の男―――酒井・忠次が声をあげる。

それに反応したのは侍女服の女性―――“武蔵”だ。

 

「いやぁ、浅草の方でも何か騒がしいなぁって思ってさ」

 

「Jud.。確か夜警団が品川のヤクザと協力関係にある組織の制圧を行っています。応援として、副長代理 天宮様が行っているはずです。―――以上」

 

「へぇ、玖狼が、か。相変わらずよく働くねぇ」

 

「Jud.。もう少し酒井様も見習ってほしいものです。―――以上」

 

きびしーねぇ、という酒井の言葉を無視して浅草方面を見る。

 

「酒井様。少々、お聞きしたい事がございます。―――以上」

 

「何だい?“武蔵”さん」

 

「天宮様が武蔵に来た時のことを、お聞きしたく思います。―――以上」

 

  ●

 

「おや、知らないのかい?」

 

「いえ。資料には目を通しています。が、主観と客観は別物ですので。―――以上」

 

浅草の方で爆発が起こったが気にせず続ける。

 

「天宮様が武蔵に現れたのは13年前。青雷亭前に倒れているのを店主様が発見。その後、記憶喪失であることが分かり当時の生徒会に保護されたと。―――以上」

 

「そうそう。で、本人も希望していたし、本来ならそのまま武蔵の住民になるところだったんだけど・・・聖連が介入してきたんだよねぇ」

 

「その部分が一番お聞きしたい部分であります。資料によれば、天宮様の能力関係としか記載されておりませんでした。―――以上」

 

「そうだねぇ・・・武蔵さんはさ、彼の戦種(スタイル)って知ってる?」

 

「Jud.記録によれば全方位召喚師です。契約を結んだ妖物などを使役、もしくはその一部を呼び寄せ戦いに使用する戦種であります。―――以上」

 

そうそう、と酒井が言うのに合わせ、品川に目を向ける。

そこでは、ヤクザ側の半竜と、玖狼が向き合っている。

 

「で、彼が持っている本。あれ、契約書の束みたいなものでさ。そこに書かれていた名前が問題だったわけよ」

 

「聖連側にとって都合が悪い名前だった、と?―――以上」

 

「半分正解・・・かな?確かに聖連・・・というか、Tsirhcにとって悪いのもいたことにはいたんだけど、それだけじゃなくて―――――」

 

身構えた玖狼を双眼鏡で見ながら、

 

「Tsirhcや神道、ムラサイ、それ以外の多くの神話に登場する名前が書かれていたんだよねぇ」

 

  ●

 

・・・玖狼、結構やる気だなぁ。

 

現場が見えた途端、ブン投げられたゴウトは匍匐前進で後退しながら思った。

 

「で、お前が最初の相手?」

 

「お前がこれ以上踏み込もうとするなら」

 

黒の半竜と相対している玖狼の表情には余裕がある。

それどころか、どこか楽しそうでもある。

 

「な、なあ。あいつ、大丈夫なのか?」

 

「うん?」

 

疑問の声に視線を上に向けると、最近知り合ったばかりの若い男がいた。

周りの夜警団の隊員と比べ、装備も新しい。

 

「あ、この前、越してきたお兄さん?」

 

「Jud.引越しの時は世話になったな・・・じゃなくて。マジで大丈夫なのか?

相手は半竜だぞ?」

 

「ん、まあ大丈夫だよ?ただまあ、最近色々あってストレスたまってるみたいなんだよね」

 

ストレスがたまっていることと今の事とのつながりが分からないのか首をかしげている。

・・・僕も2年ぐらいだけど、染まってきたかなぁ。

なんとなく致命的な感じがするのを無視しつつ、

 

「ああ、本当に心配だなぁ。―――――相手が」

 

   ●

 

天宮・玖狼。役職としては副長代理。

傭兵として、武蔵へ渡ってきたのは少し前だが、彼の話は聞いたことがあった。

曰く、優秀で生徒会の仕事も請け負っている。

曰く、召喚師である。

曰く、『愛家』の特製ギガ肉丼を完食した。等々

おかしな噂もあるが、今必要な情報は彼が召喚師である、ということだ。

召喚師は強力な妖物を召喚できる半面、術者自身の能力は低めだ。

故に、対策法としては、

 

・・・加速で一気に間合いを詰め、仕留める。

 

単純だが、それ故に最も適した方法だろう。

見れば、相手は構えも取らずに立っている。

 

・・・なれば、今が好機か。

 

即断即決。

即座に、チャージしていた加速器を解放。

蹴飛ばされたように一瞬でトップスピードに乗り、相手を肉薄し―――――

 

次の瞬間、半竜は何処からか現れた巨大な岩の手によって地面に叩き潰されていた。

 

 

  ●

 

岩の手がゆっくりと持ちあがると、地面にめり込んだ半竜がいた。

一応、手加減はしたようで生きているようだ。

隣では新人が驚いて固まっているが。

 

「えっと、大丈夫?お兄さん」

 

「え?あ、ああ。今のは?」

 

「ヒッタイトの神話に出てくるウベルリっていう岩の巨人だよ。

今のは腕だけを召喚したんだよ」

 

「へ、へぇ・・・」

 

ドン引きしているのが分かるが、とりあえず無視しておく。

玖狼の方は半竜を拘束し終えて、隊長さん達とこれからの事を話している。

さっきの一撃で多少ストレスが解消できたのか、どこかスッキリしているようだった。

 

「噂には聞いてたけど、あいつが召喚できるのってあんなのばっかりか?」

 

「ピンキリだね。神代の時代の英雄もいれば妖精もいるから。

そんなのを扱えるから―――」

 

玖狼へ目を向け、

 

「聖連から“百鬼夜行”の字名をもらっているんだよ」

 

  ●

 

「・・・と、まあそんなこともあって彼の能力を問題視した聖連が色々議論した結果、本人の意思もあって能力の限定的な封印とかの条件付きで武蔵の住人になったってわけ」

 

わかった?と酒井が振り向くと、掃除が一通り終わったのか“武蔵”が掃除道具を集めながら頷いた。

 

「Jud.。ありがとうございました。おかげで天宮様について理解が深まりました―――以上」

 

「武蔵さん、もしかして結構彼の事、気に入ってる?」

 

「気に入っているかは判断できかねますが、天宮様には武蔵の運航の手伝いをよくしていただいていますので。―――以上」

 

「そういや、そんなこともしてたっけか。・・・さて」

 

「どちらへ?―――以上」

 

立ち上がった酒井に“武蔵”が問うと“奥多摩”の方へ歩きながら目を向けた。

 

「ほら、俺三河に着いたら玖狼と一緒に降りるんだけどさ、その為の書類を教導院へ取りに行くだけだよ」

 

「Jud.。ならば、お気を付けください、酒井様。

現在三河は聖連を半脱退、P.A.ODAと同盟関係にあります。

その上、近頃は街中でも怪異が発生するという状況ですので。―――以上」

 

面倒だねぇ、とぼやく酒井を尻目に次々とヤクザを確保していく光景を見ながら、

 

「Jud.。なにしろ、もうすぐ末世―――世界の終わりですので。―――以上」

 

 

 

 




べべベン ベンベン♪

弁士
「さて、今回はこれにて終了!
時は聖譜歴1648年。人類の道標となる聖譜が更新されなくなって百年。
様々な変化の中、玖狼や仲間達は騒がしくも平穏な日常を過ごしていました。
ですが、武蔵の停泊地である三河では何やら不穏な雰囲気。
彼らはそこで何を見、どうしていくのでしょうか。
まぁ、それもこれもこれからのお話。
不変の日常は変動する世界の足場となり候。
次回『軽食屋の問い』にて、またお会いを」

べべベン ベンベン♪

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