ノルヴァストーリー   作:ゆずれもん

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第2話『鮮血色の月』

ノルヴァの世界。ここは中世ヨーロッパと近代文明が混合するフィクションの世界。

各国家はロア世界大戦をきっかけに緊迫状態。

国家交流が途絶え、同じ時代に存在するにも関わらずその文化には各国ごとに大きな差があった。

近代化を進める豊かな国。

依然内乱が続き、弓や槍を兵器とする原始的な国家まで多種多様である。

国家間のモラルが欠如した世界、そして弱肉強食。

世界に九つある国家を除き、この星には史上人々が足を踏み入れたこともない荒野と森、未開の大地が無限に広がっている。

そして今、この世界を支配しているものが三つ存在する。

一つ、『ガイア』……それはこの物語を語る上で要ともなる単語だろう。

このノルヴァの世界には、ガイアという特殊能力を持つ者が存在する。

彼らは生まれつき体内に存在する「スピリット」と呼ばれる力をエネルギーとし、様々な戦闘能力を具現化させることができる。

全ての人間に先天的に存在する『スピリット』。

この力は、ガイアへ覚醒する要因であること、個々によって形状や力の種類が異なることなど、詳しい詳細はほとんど明らかにされてはいない。

ガイアとはスピリットを持つ全ての人間に覚醒の可能性がある力。

それは何がきっかけで覚醒するかわからない。

生まれつき覚醒している者、大きな体験を通して覚醒する者、様々だ。

国家繁栄にも大きく価値のあるこの力。

しかしこの力を悪用する者もまた、多く存在した。

二つ、この世界では人間以外に『奇鬼』という野生の生物が存在する。

人の血を吸いつくす、理性無き化け物である。

確認されている多くの形状は黒く大柄な二足歩行の人型。

トルフィリンという独自のウイルスを持ち、感染した人間はその後奇鬼になってしまうという繁殖能力もあった。

三つ、主人公達の所属する国、ヴェイツ王国である。

経済、国土、軍事、人口、名声、等々。

ありとあらゆる面において世界トップの国力を持つリーダー的先進国である。

国家間同士の文化交流がなくなったこの世界では近代化に大きな差が生じていた。

その中でもヴェイツの近代化は凄まじく、依然馬車が交通手段とする国家も多い中で、飛行艇、車、ヘリなど世界屈指の先進国家であった。

その国を治めているのが僅か一〇歳の少女、アルメイル=ラス=ヴェイツ女王である。

実際は『元老院』と呼ばれる影の権力者達が、幼い女王を利用し、自分達が国政を行なっているという状態だ。

ヴェイツ王国は古い歴史を持つ国家で、何百年もの昔から強力な軍事力をもって世界の覇権を握ってきた。

ヴェイツ王国はいわば力の象徴、その名前が世界に対し、戦争を起こさせない抑止力となっているのである。

さらに、このヴェイツ王国には女王を支える強固な、「グランドロイヤル」と呼ばれる騎士階級制度が存在する。

グランドロイヤルは女王直轄の騎士集団。国内に置ける地位は貴族に次ぐ権力を有している。

いわば国最強を表す称号であり、正規軍とは全く別の組織として結成されている。

細かい階級は上から順にこうなっている。

・シュヴァリエ:騎士最高位。女王に認められた立った一人の側近の騎士。

・デュランダル

・エクスカリバー

・クレイモア

そして、このグランドロイヤルの下にはさらに別の組織が存在する。それが『シルバーナイツ』である。

これは正規軍の中でも主にガイア使いのみで組まれた特殊チームの総称である。

各四地方によって三~五人程度のチームが数多く存在し、奇鬼の討伐、賞金首となっているガイア使いの討伐を主な任務としている。

物語の主役となる『インフィニッツ』というチームも、このシルバーナイツのチームに含まれる。

正規軍であれシルバーナイツであれ、女王に認められた一握りの者のみがグランドロイヤル称号を手にできるという仕組みだ。

そしてこれは、『悪魔』の力を持った青年、リオを主人公に、笑あり、感動あり、サスペンスあり、SFとホラーがちょっとありの物語。

インフィニッツと呼ばれる訳有の寄せ集めチームが、数多くの戦いを経て強く成長していく物語である。

と、いうわけで、第二話の始まりはじまり~。

 

 

 

「ん……」

四人の旅が始まって三日目の朝を迎える今日。

未だハルデン司令からの命令は来ず。

ベッドの上で、朝のさわやかな日差しを感じながらそっと目を覚ました少女、ルキ=ソーラ。

赤いショートヘアが特徴のボーイッシュな一六歳の女の子。

さぁ、チームも結成し、今日も張り切って行くため、まずは朝のお約束。

両手を思いっきり伸ばして……

伸ばし……

「ん?」

何? この窮屈な感じ。

ふとルキが横を振り向くと、そこにあったのはさも当然かのようにベッドを占領するリオとナサの寝顔であった。

「き、キ、キィィヤァァァァッッッ!!!!」

まるで目覚まし時計の如くルキの悲鳴で第二話が始まる。

「出てけ変態共ォォッ!!」

扉から部屋の外へ野郎二人を蹴りだすルキ。

「痛ぇなてめぇ何すんだ!」

「『何すんだ』? それはこっちの台詞よ!なんで麗しき乙女のベッドに野郎二匹が我が物顔で寝てんのよ!」

両手を腰に、廊下に叩きだされた二人を見下ろし

て激怒するルキ。

「だって床寒いんだもん!」

リオは相手のことお構いなしの率直な理由を。

「しかし、あのままでは風邪をひいてしまいます。」

ナサは全く罪悪感を感じさせない平然とした理由を淡々と述べた。

「簡単にゃひかねぇわよ!むしろひけばいいわ!あんたら、会って間もない乙女のベッドに侵入なんて何考えてんのよクソッタレ共ッ!!」

「まぁそう怒んなよ、俺は気にしてねぇって☆」

「私に気遣えって言ってんのよ!」

あっけらかんと笑い飛ばすリオにルキの踵落としが炸裂する。

「何もあなたの身体に興味があって入ったわけではありませんよ。」

「それはそれでムカつくわ!」

ルキの怒声も無表情にいなすナサ。

朝から宿の廊下で、近所の迷惑も顧みず三人のや

り取りがこだまする。

「おい、朝から何の騒ぎだ貴様等……?」

するとそこへ、朝も早よから軍服姿のルノが、宿の公衆通信所から部屋へと戻って来ていた。

「馬鹿騒ぎしてないで中へ入れ。たった今、ハルデン司令から通達があった。」

その言葉に、三人の注意は一斉にルノへと向けら

れた。

〝やぁ諸君、おはよう元気かい?ハルデンだよ!〟

ナサのコンピューターを通し、宙の画面へ映し出されたのは、無駄に爽やかなハルデンの顔。

朝からラジオ体操のお兄さんのようなテンション

がぐったりと体を脱力させられる。

「あのおっさんこういうキャラだっけ?」

〝とまぁ冗談はさておき早速だが本題に入ろう。〟

ハルデンの話はこうだ。

最近ヴァーナと呼ばれる辺境の村で、夜な夜な村人が殺されるという不可思議な事件が起こっているとのこと。

ミレッタという住民の女性から通報があり、現地ですでに待機しているらしい。

インフィニッツはミレッタと合流し、現地で詳細な情報を入手後、事件の解明と鎮圧を図れ。

というものであった。

「我々シルバーナイツが行くということは、奇鬼あるいはガイア使いが絡んでいると?」

ルノは尋ねた。

〝話で聞く限り殺され方が不自然でね、私は奇鬼が絡んでいると判断した。〟

「わかりました、すぐに現地へ向かいます。」

 

―――と、言うわけで。

 

現地へ向かう山道、すっかり日も暮れるが、四人は未だ村へはたどり付けていない様子。

世に言う『迷子』である。

「ちょっと、なんで初任務から迷子なのよ!」

「野暮な質問すんなよルキ=ソーラさんよ。先頭を行くあの真っ赤な兄ちゃんが方角間違えたからだよ。」

「リオの発言にも一理ありますね。」

そうして三人の視線が先頭を行くルノの背中を刺した。

しかし振り向いたルノは豪語する。

「黙れ貴様等斬るぞ。」

僅かに動揺を含んだ口調でルノは三人を戒める。

「さてはテメェ方向音痴だろ。」

空気を読みつつもブチ壊すリオの発言が、ルノの気を逆撫でる。

「黙れと言っている……ッ」

「大体地図持ってんのに迷うっておかしいでしょ!あんたそれでもクレイモアか!」

それに便乗するかのようにルキの露骨なツッコミが入る。

「このナビでは確かに東をさしている!」

終に弁解にでたルノ。

「はぁ!?あれを見ろ!今太陽がどっちに向かって沈もうとしてんだよ!」

リオが夕陽を指さして促す。

「……き、北……?」

「死ねてめぇ、マジで死ね!どこの世界に北に沈む太陽があんだよ!太陽は東へ沈むんだろーが!」

と豪語するリオ。

「太陽は東から西ですが?」

「……」

「……」

とそこへ知的キャラ、ナサの一言がその場を黙らせた。

「馬ッ鹿な男共ね……。」

そんな二人にさらっと斬り捨てたのはルキだった。

「それより、地図を貸して。あたしが道を調べるわ。あんた等に任せてたら、到着する頃には村人全滅よアホ。」

と、状況打開を引き受けるルキ。

「始めからこうすりゃ良かったぜ。」

「それ以上しゃべったら消し炭にするぞ!」

「っだコラ!やんのかテメェ!」

「あぁ、いい機会だ。上官に対する口のきき方を教えてやる!」

「うっさい馬鹿男共ッ!役に立たないならせめて黙ってて!」

背後でキャンキャンうるさいリオとルノへルキのキツ~い一言が贈られた。

「ッてかこの女、口悪くね……?」

リオはボソッとつぶやくのだった。自分に聞こえる声で、ボソッと。

そんなかんだでようやく目的地に近付いた四人。

「この付近のはずだけど……」

ナビを何度も確認しながら周囲を見渡すルキ。

しかし周囲には生い茂った木々と、どこまでも続く深い森があるだけであった。

すでに青かった空も黒く染まり、月光もない夜が周囲を闇に変える。

さらに森の奥深く、足を踏み入れて行こうとしたその時、突如ルノがその異変に気付いたのだった。

「伏せろ!」

この一声に他の三人も反射的に頭を下げると、その頭上を無数の火の矢が通過していくではないか。

二、三テンポ遅かったら直撃だった。

「ぬぁッ!狩られるぅ!!」

次の瞬間、情けない声で叫んだリオの頭上から、飛びかかった男が白刃を光らせ斬りかかる。

「おっと!」

軽々と後方へ飛んだリオが回避する。

「わかりやすい挨拶じゃねーの!」

男は尚もリオへ斬りかかる。

暗闇で姿はよく見えないが粗大的で単調な戦い方、リオにとっても回避に難はなかった。

その一方では、ルノのもとへも男が二人がかりで斬り込んでいた。

「まるでド素人……」

森の薄暗さの中、ルノはかすかな白刃の光を頼りに相手の大振りな動きを見切る。

体術にて相手の腕を絡め捕り、そのまま捻り上げて地面へと押えこむ。

「貴様よくも…!」

もう一人の男が、仲間を助けようと刃物を振りかざすも、振り下ろす寸前でルノの抜刀した刀によって間合いを封じられた。

「ここまでだな。」

「くっ…!」

「貴様等は一体何者だ…!?」

ルノが男達へ問い詰めた次の瞬間だ。

「そこまでだ!」

という制止声と共に、四人は自分等の周囲が、いつしかランプと刃物を持った民間人達によって包囲されていることに気づくのであった。

「な、何だこいつら!?」

「何者だ貴様等!ここへ何をしに来た!?」

「よそ者め、今すぐに出ていけ!」

「村へは一歩も通さないぞよそ者め!」

先程は暗がりで良くは見えなかったが、ランプなどの明かりによって、声の集団が顕となる。

鎌やら短刀など原始的な武器を突きつけられ、いきなり罵声の雨あられを受ける二人。

「よそ者ねぇ、てことは俺らが行こうとしてる村ってのもそう遠くなさそうだな。」

リオは村人たちの会話からそう推察した。

「私はこの村の村長だ。見たところ、軍の方とお見受けするが、この村へ何用で参られた?」

先頭で村人を率いていた村長がルノを見てそう尋

ねた。

唯一制服らしきものを着ていたからだ。

「この村から救助要請を受け来た。」

「救助要請?はて、そんなもの出した覚えはありませんが?」

「?……そんなはずはない。」

ルノと村長の間で情報の食い違いが生じ両者に再び警戒心が沸き立った。

「待って村長!」

その時だ、一人の少女の登場によってその場の険悪な空気にストッパーがかかる。

「ミレッタ!お前がどうしてここに!?」

息を切らした少女の名を村長が呼ぶ。

「待って皆、その人達を呼んだの……私なの!」

「ミレッタ、お前…軍を呼んだのか…!?」

「ごめんなさい…。」

村人達がミレッタと呼ぶ、突如現れたその少女に、ルキが声をかける。

「それじゃ、あなたが私達を呼んだミレッタちゃん!?」

呼ばれた少女もやはりと言った表情で頷いた。

ルノとリオも抑え込んでいた村人を開放し武器と警戒を解くのであった。

その場は一時ミレッタの登場により大きな揉め事もなく収まり、インフィニッツは一時彼女と一緒に村長の家に転がり込むことに。

「さっきは本当にごめんなさい。実は私、軍に援助を求めたこと、村の人達には誰にも話していないの。」

ミレッタは見た目一五歳くらいで、リオ達ともさほど年齢差のない容姿をしている。

「まぁルノ以外私服の私達にも問題はあるけどね。」

ルキは苦笑する。

そしてインフィニッツはそのまま例の事件について話を聞くことに。

「吸血鬼……?」

リオの頓狂な復唱に真剣な表情のミレッタが頷いた。

「被害にあった人達は皆首元から大量の血を吸われているの。」

「一月前、私の兄は、私の目の前で殺されたわ。」

「目の前で……」

「眼を覚ました時、切り裂かれた兄の遺体があったわ。私をかばって死んだって、後で聞いた。」

その時のショックで、兄が死んだ時のことは何も覚えていない。

事情は後で村長から聞いたという。

ミレッタはうつむいたまま、噛みしめるような口

調でそう言った。

ずっと肌をさすっていた右手にも力が入る。

たった一人の家族だった。

ミレッタは幼いころ両親を戦争で亡くし、今まで兄と、この村の村長が親代わりになってくれていた。

村の誰よりも優しく、自分の為に必死に働いて支えてくれていた。

「私は、兄さんを奪った奇鬼が許せない……!」

ミレッタは兄からもらった首飾りの『木の御守』を握り締める。

「だから俺らに討伐を依頼した……ってわけか。任しときな!俺が一捻りしてやっからよ!」

リオの言葉にまたもうつむいたまま黙って頷くミレッタ。

「いかんミレッタ、もう遅い、今日はもう帰りなさい。そしてすぐに眠るんだ、いいね?」

「あ……はい。」

そう言って村長宅を後にしたミレッタ。

その帰る後ろ姿を、やや過保護とも思える様子で

見守る村長。

「随分とあの子に入れ込むんだな。」

ルノの言葉が村長の横顔に向けられる。

「娘のようなものだ。生きていれば、私の娘もあれくらいの歳になっている。」

村長はドアを閉めながらそう話した。

部屋の壁には何枚もの写真が飾られている。

村長がミレッタとその兄を我が子のように可愛がる、幸せに溢れた笑顔の数々。

兄が死に、ミレッタを過保護にするのも頷ける話である。

「…… …… ……」

村長がテーブルに相席したところで、ルノは改めて事件の話を切り出す。

「事情は先の話で理解した。我々も早急に対処を……」

「いや、軍の方々には申し訳ないが、明日にでもこの村から手を引いていただきたい。」

「!?」

「ちょ、ちょっと、人が死んでるのにノコノコ帰れるわけないでしょ!」

ルキが会話に割って入った。

だがもう話は終わったと言った様子で、用件だけ伝えると村長はベストに袖を通し、夜の見回り支度を始めるのであった。

手には猟銃とジャックナイフが。

「とにかくだ、この村のことは我らで何とかする。」

「ちょっと、無理に決まってんでしょ!相手は化け物なのよ!?」

「……。今夜はゆっくりと休まれるがいい。」

完全に無視だ。

村長はルキの話しに微塵も耳を傾けることなく、出て行ってしまったのであった。

村長が夜の見回りに出ていったその後も、イン

フィニッツは一階の食卓で旅の疲れを癒していた。

「今回は奇鬼が犯人で間違いなさそうね。」

椅子に腰かけ、ルノに相席したルキが結論を述べる。

「サクッとぶっ飛ばしちまおーぜ!サクッとよ!」

床に寝転がったままリオが適当に言い放つ。

早い話が奇鬼の討伐、話がまとまろうとしたその場で、唯一納得のいかない表情を浮かべ続けたのがナサ=アーベルであった。

じっと考え込んでいた彼がようやく口を開く。

「ルノ=アイゼン……」

「ルノでいい。」

「……じゃぁルノ、あなたはさっきの話、どう思いましたか?」

ナサがルノに振った。

「『どう』とは?」

「僕は今回の事件、今一つ腑に落ちません。」

ミレッタや村長の口ぶりからするとかなり以前から被害者が出ていたはず、なのにこの村の人間は軍に通報するどころか自分達だけで討伐しようと、見回りさえしている。

「不自然過ぎます。そもそも自分達だけで奇鬼討伐をするメリットがない。」

そう言われ、改めて違和感をもつ三人。

「村長が何かを隠している……と?」

「村長だけとは限りません。」

「まさか村全体が?」

「はい。でもそれだけではありません、先ほどのミレッタの様子も何かおかしい。」

「?」

「気づきませんでしたか?彼女、話している最中ほとんど目線を合わせようとしませんでした。」

目線は人がコミュニケーションをとる際に、相手

の情報を得るための重要なポイント。

通常、心理学的にみれば、その目線を逸らすということは、こちらに必要以上の情報を与えないための防衛行動。

「さらに、ずっと肌をさすっていましたよね。あれは『親和欲求』と呼ばれる心理行動で、不安や緊張が高い時に良くみられる無意識の行動です。」

人間には人肌のぬくもりに触れることで安心する

という、母親に抱かれていた幼児期の感覚が残っている。

つまり、自分の肌でそれを補い安心を得ようとする行為が、ミレッタにみられた親和欲求の形である。

本来、親和欲求の強い人は目線を合わせてくることが多いが、それがないということはやはり後ろめたいこと、または何かを隠している可能性が高い。

ナサが専門的立場から感じた不信感とはそのことであった。

「おまえスゲーな! ナスだっけ!?さすがはカウンター!」

「ナサです。そしてカウンセラーです。」

リオのボケにも芸人殺しの如く真顔で返すナサ。

確かに、普通であれば軍が来たことで不安は軽減されるはず。

しかしナサから見たミレッタはむしろ落ち着かず、緊張が高かったのである。

「僕もあくまで観察上の推測になりますが、彼女にはまだ我々に言えない『何か』があるように思えます。」

ナサの言葉に考え込むメンバー。

ぼーっと考え込むルキの眼に飛び込んできたのは、棚の上に置かれた金色の動物を模った置物。

興味本位で手に取ったそれは予想以上の重量感。

「ま、まさかこれ……」

女の感がこう言った。〝これは純金よ〟と。

さすがは村長の家。家宝は金の置物とは……

その時、話に飽きたリオが、立ち上がり出入口のノブに手をかけた。

「どこへ行く?」

「ちょいと夜這いに。」

「……」

「っだよ、冗談通じねぇ野郎だな。ちょっと散歩しに出てくんだよ。いいだろ別にぃ。」

「勝手な行動は許さん。」

「ハァ?俺はテメェの部下じゃねぇンだよ。俺の自由は誰にも邪魔させねェ。」

ルノの堅物さに舌打ちし、リオは夜の村へと出て行ってしまった。

夜の村は月明かりのみが行く道を照らし、静寂だけが支配する。

「しっかし、不気味なくらいド田舎だねぇ。」

少し歩き、村の外れにある森へ足を運んだリオ。

すると、乾いた夜空に突如女の悲鳴がこだまする。

「!?」

声のする方へ駆けつけるリオ。

すると、そこには馬小屋の前で女の喉元へ喰らい付く、黒い獣の影が。

獣と思われる影は、三メートルはある巨体で二足歩行、月夜に光る研ぎ澄まされた赤い眼。

リオの気配に気づいた影はすぐさま森の茂みへと逃げて行った。

「クソッ! 待ちやがれ!」

しかしリオが影を追跡しようとしたその時である。

「待て!」

という男の声に突如足を止められるのであった。

「あんたらは……!」

それはランプと猟銃やらで武装した村の男達だった。

先頭にいた村長は女性を調べると、まだかろうじて息があるにもかかわらず、医者を呼ぶどころか、息の根を止めるよう男達に命じたのであった。

「お、おい!何してんだ!まだ生きてんだろ!」

制止しようとするリオへ、村人たちは『邪魔をするな』と言わんばかりの様子で鎌や短剣を構えるのであった。

「知らんのか…?噛まれて息がある者は奇鬼の呪いで身体が奇鬼に変貌する。だからこうして息の根を止めているのだ。」

「ッ……!」

「軍の者よ、この村のことは、我ら村の人間で解決すると言ったはずだ。これ以上の干渉は、無用である!」

村長は冷たくもそう言った。

「はぁ?何悠長なこと言ってんだ!また一人死んだんだぞ!」

リオが反論するも、やはり村人たちに動じる様子はなく、冷たい眼差しが向けられた。

「あの獣が村人を襲うのは二、三日に一人だけだ。」

村長は言った。

「な、何言ってやがる……?」

次の瞬間、リオは男から驚愕の言葉を聞くことになる。

「それで、他の村人が助かるのであれば、些細な生贄だと言っているのだ。」

信じられない言葉であった。

この村人達はそこまで詳しく犠牲者の出る日を特定しているにも関わらず、何の手も打たなかったばかりか、あえて犠牲者を出していたのだ。

「ふざけんな!何が生贄だ!テメェら自分が何してるかわかってんのか!?」

「……」

「死ぬってわかってて、今までも見捨ててきたってことだろうが!!」

 

そして翌朝を迎え、ナサは昨夜殺された女性の遺

体を調べに、留置してある小屋まで足を運んでいた。

すると、そこには村長と数名の村人たちの姿も。

ナサが遺体を調べていると、ふと小屋の隅で村長と村の男等の会話が耳に入る。

ナサは物音を殺し、物陰から耳を傾けた。

「村長、まだミレッタからは何も聞き出せないんですか?」

「うむ、私も努力はしているのだがな。」

「もうあれから一月以上が経つ、これ以上は村人も犬死だ。」

「そうだ、これ以上軍が介入する前に、多少強引にでも遺跡のことを聞き出すしか……」

「待て、それはならん。もう少しだけ時間をくれ。」

……遺跡……?

かすかではあったが、ナサにはその会話の終始が聞こえていた。

その一方、ルノ、ルキ、リオの三人は、近くの公園で、ミレッタと昨夜の出来事を話していた。

特にリオは昨晩のことが頭から離れず、不機嫌な様子。

「ひ、ひどい……!」

そして最初に怒りを顕わにしたのはルキだった。

「しかし、貴様の話を聞く限りでは、やはり得心がいかん。」

とルノが冷静に思案した。

「あ!?何が?」

「今回に限らずだ。ならば何故、最初の犠牲者が出た時点で、この村は軍に救援を求めなかった?」

「そりゃ……何でだ??」

「軍に介入されると不味いことがある……つまり、今回の一件で村人が何かを隠していることは明白になった。」

「それ、多分『アーラム遺跡』のことだと思う。」

ミレッタは思い当たるように言った。

「アーラム遺跡……?」

「うん。この村にはね、昔から世間に知られていない小さな遺跡があるの。」

かなり古い遺跡で、最初は村人がお参りする程度

のものであったが、ある日を境に遺跡の価値観が覆った。

金塊である。

ミレッタの兄が最初に遺跡付近で金塊を見つけたことで、あの古びた遺跡は、古の昔滅びたとされる黄金都市の一部なのではないかという可能性が浮上した。

「その金塊が村長の家の棚にあった金塊よ。危ないからって預かってもらっているの。」

それからというもの、村人は来る日も来る日も金塊欲しさに遺跡を掘り荒らしたという。

ちょうどそれくらいからだ。森で奇鬼が出現するようになったのは。

「兄さんは金塊の隠し場所を誰にも言わないまま死んでしまったから、私も全部は見たことがないの。」

しかし軍に通報すれば遺跡も取り押さえられ、外部に助力を求めれば、金塊目当てであらゆる人間が集まってくる。

村人はそれを恐れ、金塊欲しさに同じ村人を見捨て、犠牲者を出し続けてきた。

「ってとこか……。」

各々の中でおおよその糸が繋がった。

「あの村長!最低じゃない!あの金の置物だって上手いこと言って自分の物にする気じゃない!」

ルキがさらに怒りを顕わにして吐き捨てる。

「村長を悪く言わないで。私のせいでもあるから……すごくいい人だから……。」

「あんた、何言って……」

知っていながらも、村長をかばうミレッタ。

親同然の存在、かばう気持ちもわかるが……。

「子供を上手く丸めこんで、結局金に眼がくらんで利用している。といったところでしょうね。」

ナサも呆れたように言い捨てた。

ルキの会話を遮るように昨夜の被害者の遺体を調べに行っていたナサが戻った。

「どうだった?」

ルノの直球な問い。

「傷口から検出されたサンプル反応……陽性です。案の定『トルフィリン』が検出されました。」

トルフィリンとは奇鬼の体液のみに存在する感染ウイルスのことである。

噛まれ、これに感染すると身体が奇鬼に変貌してしまう。村長が口にしていた『奇鬼の呪い』はこのことであった。

ナサも案の定と言った様子で冷静にそう言った。

「やはり、これでリオの目撃証言に加え、奇鬼の仕業であるという裏付けも取れたな。」

ルノは席を立ちアーラム遺跡へ向かうことを切り出した。

「えぇっと、遺跡は西南へ真っ直ぐ向かって吊り橋が見えたら先にある小さな道を西に――」

「ミレッタ、悪ぃが案内してやってくれねぇか、この赤服の兄ちゃん方向音痴だからよ(笑)」

「言うな貴様ァーッ!そして笑うな!」

「うん、わかったよリオ(笑)」

「なんで君も!??」

その時、ふと思い出したようにナサがミレッタに

問う。

「ミレッタ、一つ聞いてもいいですか?」

「え?」

「最近、村長があなたから何かを聞き出すような素振りはありませんでしたか?……例えば、遺跡に関することとか。」

「……いいえ、何も。」

「…本当に?」

「うん。でもどうして?」

「いえ、ちょっと気になっただけです。すみません、変なこと聞いてしまって。」

こうしてその日の夕方、辺りの景色がオレンジ一色に染まりかけた時間帯、遺跡へ向かうことになったインフィニッツとミレッタだが、そこで彼等五人を迎えたのは森への道を塞ぐ村人たちの姿であった。

「軍人よ、この地を去れと忠告したはずだ。」

村長が背に大勢の村人を連れて対面する。

昨夜の一件以来、どちらも緊張が高まった。

しかしルノが村長の口から放たれるその言葉に、違和感を覚えたのは次の瞬間であった。

それはルノ達に同行しているミレッタへ向けられた言葉であった。

「ミレッタ何をしている!?もう日が暮れるぞ、早く家に帰るんだ!夜は一歩も外へ出るんじゃない!」

そう言えば、昨日もこれくらいの時間帯にミレッ

タを家に帰そうとしていた……過保護なまでに。

「ご、ごめんなさい、でも私…!」

ミレッタへ向けられた村長の眼差しは、さっきまでの冷静さとは一転した様子で、一切の余裕を無くしていた。

「いいから早く帰るんだ!私の言うことが聞けないのか!」

尚も怒鳴る村長の掌はミレッタの頬を打った。

ミレッタの華奢な体が弱々しく倒れ込む。

「ちょっとおじさん!殴ることないでしょ!?」

それをかばうようにルキが村長に反抗する。

「村長、貴様まさか……」

ルノがそんな村長に言葉を贈ろうとした次の瞬間、森の奥から響いた男の悲鳴に、全員の注意が薄暗い森の中へと向けられた。

「どうした!?」

「大変です村長!ビットと二―とジェームズが!」

「どうした!?」

「三人が急に奇鬼に…!感染してたんです!多分遺体を運んだ時に…!」

「これでは奇鬼が村へ降りてきます村長!」

「うろたえるな!三人のことは忘れろ、全員すぐにここから避難するんだ!」

村長の言葉に村人全員が一斉に騒ぎ出す。

「誰でもいい!家が近い者はミレッタを連れていけ、夜明けまで絶対に出すな!」

「い、いや! 放して! 助けて!」

リオ達に助けを求めるも、村長の言葉にミレッタは有無を言わせず村人に連行されていく。

「ちょっと! ミレッタをどうするつもり!?」

「黙れ!何も知らんよそ者風情が、余計なこ――」

次の一瞬、ルキに怒鳴り散らした村長の背後で、森から現れた黒い影が村人の影に喰らい付く。

夕陽を背に見せた巨大なシルエット、それは紛れもなく奇鬼であった。

「ハッ! ようやくお出ましかよ!」

リオは臆するどころか戦意をむき出しにする。

「待て、まだいる。」

気配を感じ取ったルノが後方へ視線を移すと、まるで飛び出すかのように奇鬼が二体、さらに姿を見せるのであった。

「ちょッ…さ、三体も!?」

「恐らく、今やられた三人の村人です。トルフィリンに感染し、奇鬼と化したんでしょう。」

ナサが解説する。

「貴様等は退っていろ。俺がやる。」

傍らで驚愕するルキと反面、冷静に一歩前へ出るルノ。

「おい!俺にもやらせろ!」

血の気の多いリオはワクワクしながら前へ出る。

「…勝手にしろ。」

どうせ使えないことは判っている、敵の牽制ぐらいにはなると、リオの参戦を認めた。

三体の奇鬼に挟まれた状態で戦闘は始まった。

「さぁ、その命、この俺が奪うぜッ!!」

リオは体を発光させると、悪魔、ベルガリオンの両腕を具現化させる。

奇鬼の爪とリオの腕が激突し、周囲を震撼させる。

リオは奇鬼の蹴りによって弾かれ、近くの岩に叩きつけられる。

さらに軽々と跳躍した奇鬼は、ひるんだリオの頭上から押しつぶすかのように追撃をかける。

「ヤッべ!」

それを転がるように回避したリオ、今まで寝そべっていた岩は轟音と共に粉砕されていた。

「今度は俺の番だぜ!」

リオは再び拳を打ちこんでいく。

しかし奇鬼の巨体にはあまり効果はなく、ならばと顔面へ打ち込んだ拳も、相手をひるませる程度であった。

「ったく、タフな野郎だッ!」

 

リオが苦戦する一方、ルノはアクロバティックな動きで相手を翻弄しつつ、抜刀した刀で冷静に切りつけて行く。

しかし鋼のように固い奇鬼の皮膚に刃は効果を成さず、簡単に防がれてしまっていた。

「斬れんか……。」

状況に合わず冷静なルノ。

動きが止まったこの一瞬、もう片方の奇鬼がルノの頭を鷲掴みにして地面へと叩きつけるのであった。

「ルノ!」

「これくらいなんてことはない。」

地響きと共に、陥没した地面からルノの声が。

依然慌てる様子もない口調だ。

奇鬼の重い足が幾度となくルノを踏みつける。

「大丈夫だ。下がっていろ!」

今度は二体の奇鬼によってリンチにあう。

「だ、…だいじょ……ゴブッ!」

「えぇぇ~!?大丈夫じゃないよね?ゴブッとか言ってるし!吐血しちゃってるし!」

ルノは二対一、状況的に不利と思い、銃を構えて参戦する姿勢を見せたルキであったが、次の刹那戦いは一瞬にして勝敗を決した。

二体の奇鬼の足元から突如起こった巨大な炎。

炎はさらに膨張し、奇鬼はその場から跳躍して距離をとった。

起き上ったルノがガイアを発動させたのだ。

体から出る、真っ赤に発光するスピリットのオーラ、周囲はまるでルノを守るかのように炎が取り囲む。

「あれが、クレイモア:ルノ=アイゼンのガイア…。」

「あいつ、炎属性だったんだ。」

突然の展開に傍観していた二人も唖然と見入った。

「遊びは終わりだ、害虫ども…。」

ルノの眼光が鋭く研ぎ澄まされる。

ルノへ再び襲い掛かった奇鬼の一体は、間合いに入ったとたん一瞬にしてばらばらに切り刻まれてしまったのであった。

「え!?何今の!剣閃が見えなかった!」

ルキやナサの眼では追えないほどのまさに一瞬。

ルノは返り血を浴びることなく、超人的な高さまで跳躍すると、剣から伸びた炎で逃げようとするもう一体の奇鬼を捕える。

奇鬼はまるで縄に捕まったかのように灼熱の炎に拘束された。

「消し炭となれ!」

ルノが更なるスピリットを注ぐと、炎は業火となって奇鬼を文字通り、消し炭に変えてしまったのであった。

「スピリット値五五〇〇。初期数値でこの高さ、さすがはグランドロイヤルと言ったところでしょうか。」

「これが、クレイモア級の実力……。」

ルノを分析するナサとルキ。

「やはり使えん奴め、リオ=バンクロフト!『火龍』!!」

ルノの拳から出現した炎の龍は遠距離にいた、 着陸寸前の奇鬼を空中で呑みこみ、一瞬にして灰と化してしまったのであった。

「炎の龍に、食われた……。」

村長ですら驚愕の眼差しで腰を抜かしていた。

圧倒的であった。

この場において、ルノのガイアは圧倒的なまでに存在感を示していた。

「っだよテメェ!結局三体ともお前がやってんじゃん!第一話で俺がどんだけ――」

「いつまでも遊んでいる貴様が悪い。それに……」

「あん?」

「その悪魔の腕、闇属性とはいえまだ完全ではないようだな。」

「!……チッ……。」

これで奇鬼は滅び、村の安全は確保されたかのように思われた。

終に、周囲が完全に月明かりが支配したころ、それが刹那的なものであることを全員が実感することになる。

それは、遠くから聞こえる小さな悲鳴と、近くの民家の屋根を貫き、こちらに飛来してくる黒い物体。

地面に無造作に転がったそれは人の生首だった。

思わず両手で口を塞ぎ、悲鳴を押し殺したルキ。

民家の扉が鈍い音を立ててゆっくりと開いていく。

そこから出てきた人物に誰もが驚愕した。

「ミレッタ!!?」

そこには、少女の体に合わない巨大な奇鬼の右腕と、返り血で真っ赤に染まった姿があった。

「み、ミレッタ、お前、その腕……!」

「そ、村長……私、私やっぱり……!」

「ま、間に合わなかったのか……!」

村長は愕然と膝をつき脱力した。

「間に合わなかった!?おいオッサン、そりゃどういうことだよ!」

服をつかみ上げたリオが食ってかかる。

「あの子は、ミレッタは……この村で起こった殺人の、犯人だ。」

「なッ……!?」

ミレッタは以前から夜になると、月明かりによって奇鬼の姿に変身し、村人を襲ってきた。

襲われた人も時間と共に奇鬼に変身するため、村人全員で見回り後始末をしていた。

だが彼女に人を襲っている時の記憶はなく、さらに日を追うごとに変身する期間が短くなっていった。

今では毎晩のように変身する。

だからこそ村長は、夕方になると過剰なまでにミ

レッタを家から出さないようにしていたのだ。

「じゃぁ、奇鬼に兄が殺されたって言ったのは……」

「ミレッタ自身がやったことだ。」

当然兄を殺した記憶などない、だがもし自分が最愛の兄を殺したと知ってしまったら、彼女は本当の狂気と化してしまうだろう。

「だから軍にも通報せず、彼女の正体を隠し続けた。本人にすら。」

ナサは結論を述べ、村長も静かに首を縦に振った。

黄金など初めから存在しない、全てはたった一人の少女を守るための口実だったのだ。

村人には『ミレッタが黄金の隠し場所を知っている』と偽り、騙しながら自分に協力させていたのだ。

だからこそ、村人もミレッタが奇鬼だと知りつつも、黄金のありかがわかるまで、村長に協力してミレッタを守っていたのだ。

村長にとって、軍へ通報させないためには黄金という嘘が村人に必要だったということだ。

無論棚にあった金の置物もメッキで塗った偽物。

これが真実であった。

しかし彼女は先ほど『やっぱり』といった。

彼女も薄々、自分が奇鬼であることに気づいていたに違いない。

だからこそ、彼女は自ら軍に討伐を依頼したのだろう。

自分を殺すようにと。

これ以上の犠牲を出さないようにと。

「だから我々に討伐の話をした時、彼女の様子がおかしかったんですね。」

ナサは得心したようにそう言った。

「お願い!皆逃げて!」

ミレッタは薄れゆく自我と戦いながら、涙してそう叫んだ。

しかし彼女の体を侵食する奇鬼の細胞は、一時の猶予もなく支配していく。

「リオ!お願い!私を、私を殺してぇぇッッ!!!」

「ミレッタ、おまえ……!」

そして、ついに完全なる奇鬼の姿に変身した彼女に、もはや少女としての人格はない。

すでに人を喰らうだけの魔物と化していた。

「『アレ』を捕獲する。下がっていろ。」

人間と奇鬼、二つの時間を入れ替わり持った者は今までの例にない新しい種類だ。

研究資料として捕獲し、軍に引き渡す必要があった為、ルノは抹殺ではなく捕獲を指示した。が…

「……」

「聞いているのか、『命令』だ。下がれ。」

ルノの声にも反応を示さないリオの背。

「おいクレイモア、こいつ、俺にやらせろよ。」

いつになく真面目な声でリオが進言した。

「アレの妖力はお前のスピリットの数倍。手に負えん。お前では捕獲など無理だ。」

「うるせぇよ…俺はな、今、自分にムカッ腹が立ってしょうがねぇんだよ…!!」

「……?」

「俺は、ミレッタを殺す。」

リオは誰もが予想しない言葉を口にした。

「そんな!まだ軍に連れて行けば元に戻る可能性が…」

とルキ。

「ふざけるな。そんな越権行為は許可しない。アレは捕獲する!退けバンクロフト!」

ルノの口調が警告を含む。

しかしリオは従わない。

「『アレ』じゃねぇ。『ミレッタ』だ!次ふざけた事抜かしたらテメェぶっ殺すぞッ…!」

リオからルノへ送られた、本気の殺意を含んだ眼光。

「テメェ等ミレッタの言葉聞いてなかったのかッ!」

「……!」

ミレッタは、自分等なんかよりずっと覚悟を決めてた。女一人護れない自分の不甲斐なさに腹が立つ。

軍に行ったところで実験体として使い捨てられるだけ。

「だったらせめて、あいつの覚悟に答えてやらなきゃ、ミレッタが救われねェだろうがッッ!!!」

リオに襲いかかる奇鬼の巨体。

さっきまでとは比べものにならない重量の拳がぶつかる。

それを正面から受け止めるもあっけなく押し負け、

マッハの如く地面へと叩きつけられてしまう。

「ぐはッ……!」

体全体が地面へめり込み、巨大なクレーターの中へリオの姿が消える。

「リオ!」

呼びかけに反応のないリオにメンバーへ緊迫が走る。

「どうしたミレッタ……!俺は、まだ、生きてんぞッ!」

稲妻を帯びたリオの腕が、奇鬼の拳を持ち上げて

行く。

「オラァァァァァァッッッッ!!!!!」

何と、リオは奇鬼の巨体を一本背負いで投げ飛ばし、小屋へ叩きつけたのであった。

「リオといったか………もういい。」

「……?」

「もういい!あの子を楽にしてやってくれ!頼む、頼むから、これ以上苦しませないでやってくれ!」

地に膝をついた村長は苦悩の決断の末、そうリオの背へ懇願した。

村長が泣いていた。男が泣いていた。男が涙を流す…それは、そこに自分よりも大切なものがあるからだ。

この時の村長の決断がどれほど辛かったのか、それはわからない。けど、血が滲み出るほどに握り締めた拳からは、村長の深い悲しみだけが伝わってきた。

……………

「………下がってろよ、オッサン。」

リオの背中は、村長の言葉にしばしの間を置き、静かにそう答えた。

村長の覚悟を受け取った、ということだ。

黒いスピリットオーラに、帯びた稲妻。

ナサはリオのスピリットが一時的に向上したことに気づいていた。

「さぁ、これでお別れにしようぜ、ミレッタ!お前の命、この俺がきっちり奪ってやる!」

奇鬼はすぐさま復活すると、獣の叫びを轟かせながら巨大な爪で襲い掛かる。

「お前の覚悟、確かに受け取ったぞォォッッ!!!」

リオの稲妻を帯びた拳、ベルガリオンの力が奇鬼の巨体にヒットする。

「うおぉおぉォォォッッッ!!!!!」

周囲にショックウェーブが起こり、奇鬼の体は宙を舞い地面へと叩きつけられるのであった。

完全なる一撃必殺。

奇鬼の体は黒い砂となって消えて行ったのであった。

「勝った……の………?」

ルキは呆気にとられ、村長は無念の表情を浮かべた。

黒い砂の中からはミレッタが御守りにしていた『木の御守り』がそっと顔をのぞかせていた。

それを手に取った村長は膝をついて座り込み、涙ながらにただひたすらこうつぶやいていた。

「すまないミレッタ…本当に、すまないッ…」

ずっと、ずっと…。

こうして辺境の村、ヴァーナにおける奇鬼の事件は幕を下ろした。

その後、正規軍が村へ介入し、負傷者の保護や、現場検証が執り行われた。

多くの犠牲者を出しながらも村人全員を騙し、軍への通報をしなかった村長は重い罪と共に、軍へ連行されることとなった。

護送車へ連行される村長の背へ、リオが問う。

「一つ教えてくれよ、オッサン。」

「……」

「小娘一人のために、なんで村人を犠牲に……なんでそうまでしてミレッタを守ろうとした?」

村長は悲しい遠い眼差しと、重い口を開いてこう言った。

「私は、あの兄妹を我が子のように想っていた。」

「……だから?」

「子供を殺せと言える親が、一体どこにいるのかね・・・?」

村長は最後にそう反問を残して運ばれていった。

その口調は抜け殻のように、まるで当たり前のように、そして馬鹿げた問いと言わんばかりに…。

木の御守りを強く握り締めたまま…。

例え化け物に成り果てたとしても、我が子のように想っていたミレッタを守りたかった。

ただそれだけであった。

その不器用で真っ直ぐな村長の想いが、黄金という嘘を作り、村人を騙し、多くの犠牲者を生んだ。

「結局、我々には何もできませんでしたね……。」

「言うなよナサ。皆わかってる。所詮俺達ガイア使いは、綺麗事言ったって殺ししかできねぇんだ。」

リオはさも当然のようにそう言った。

その言葉に反論こそしなかったのは、四人がそれを自覚していたからだろう。

「だが、村長のしていたことは気休めだ。」

とルノ。

「そうですね。遅かれ早かれ、嘘はばれて、ミレッタも助からなかったと思います。」

とナサ。

「嫌な言い方になるけど、結果を先延ばしにしてただけ。それでも一日でも一緒にいたかったのね。」

ルキの口調からも切なさを感じさせる。

「馬鹿野郎……!」

リオはもどかしさを噛みしめつぶやいた。

村長の家族を想う気持ち、それを理解したからこそのもどかしさだった。

しかし、しんみりその場の空気を壊すかのように、ルキは大きく深呼吸して笑顔を作った。

「ったく、いつまで凹んでんのよあんた等!ほら行くよ!」

ルキがリオの背中を明るく後押しする。

促された三人は苦笑を浮かべながらも互いに顔を見合わせ歩き出すのであった。

 

 

Continued

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