東方魔郷談   作:Walther58

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では第九章へご案内~


第九章 ~死なないことと死ねないこと~

「はっくしょんっ!!」

 食事中に霊夢が大きなくしゃみをした。ピアが心配そうに霊夢に訊ねた。

 

「おい、霊夢……大丈夫か?」

「げほげほ……だ、大丈夫じゃないにきまってるでしょ!……うぇ」

 

「ほら、無理すんなって。俺が布団まで運んでやるから」

「よ……余計なお世話よっ!!」

 

「強がんなって……。よっ……と!!」

「ひゃあぁ!?」

 

 ピアは霊夢をお姫様抱っこで抱き上げると、そのまま寝室へと向かった。

「ちょっと!降ろしてよっ!!私なら大丈夫だから……げほごほ」

 

「無理をするな。俺は霊夢の従者なんだから、たまには頼ってくれよ」

「うぅ……」

 

 霊夢は何も言い返せなかった。ただの収入源としか考えていなかったピアに、ここまで助けられる自分が少し情けなかった。

 

「……ありがと……」

「ん?なんか言ったか?」

 

「な、なんでもな……げほげほ」

「ほら、無理をするな」

 

 寝室用の部屋に着き、ピアは霊夢を座らせた後、布団を敷いた。そのまま霊夢を寝かせ、濡らしたタオルを額に乗せた。

 

「う~ん……。霊夢、前にメディスンを助けた時、薬をもらってきてたよな?あの薬、どこでもらった?」

「げほげほ……。え……永遠亭ってところ……。あそこに……薬を作っている人がいるから……」

 

「わかった。俺が行ってくる。……と、その前に……」

 ピアは一度外に出た。今日はまだ参拝客は来ておらず、魔理沙が来る気配もなかった。

 

「まずいな……。薬を取りに行きたいが、霊夢をほったらかすわけには……。マズイ、コマッタ、ドウシヨウ……」

 

 ピアは途方に暮れてしまった。大事な時に限って来てくれない魔理沙のことも気がかりだが、今は霊夢のことが最優先だった。

「やばい……本当に誰か来てくれ!!」

 

「何かお困りかい?」

「うわあぁ!!」

 

 いきなり声を掛けられたピアは、驚きのあまりに飛び跳ねた。声の主は大笑いをすると、手に持っていた瓢箪を口にした。

「……ぷはぁっ!やっぱりお酒はうまいねぇ!……んで、あんたはどうしたんだい?」

「ち、ちょうどよかった!!実は頼みたいことが!」

 

「まぁまぁ、お酒でも飲んでリラックスしなよ」

「飲んでる場合じゃないっつーに!!実は、この神社の巫女さんが熱があるみたいで……」

 

「あぁ?霊夢が熱ぅ?あっはっは!霊夢が熱で倒れるとはねぇ!!世の中は何があったか、わかったもんじゃないねぇ」

「感心してる場合じゃないんだって!……って、あんたは霊夢を知ってるのか?」

 

「知ってるともさ。私は『伊吹萃香』。ここで霊夢に世話になってるんだ。そういうお前さんは?」

「俺は博麗の巫女の使い。霊夢に仕えている者だ。霊夢に言われて、初めて会ったやつには本名を名乗るなと言われているから、本名は明かせない」

 

「ふむ……どうやら嘘ではないみたいだね。鬼に嘘は通じないから、すぐにわかるけど……お前さんは嘘つきって顔をしていないね」

「それはどうも。……え、鬼?」

 

「むぅ?お前さん、私の角に気付いてなかったのかい?あっはっは!いったいどれだけ慌ててたんだい?」

「え?……あ」

 

 ピアは萃香の頭をよく見た。そこには二本の角がしっかりと生えていた。

「おぉ、鬼だ」

 

「ようやく気が付いたかい?まったく、お前さんは面白い人間だねぇ」

「人間じゃない。悪魔だ」

 

「悪魔?う~ん……聞いたことないなぁ……」

「じゃあ、後で霊夢に聞いてくれ。だから、頼む!俺が薬を取りに行ってる間、霊夢の看病をしてくれないか?」

 

「お安い御用さ。ただし……あんたが帰ってきたら、私の酒に付き合ってくれるならね」

「わかった。何百でも何千でも付き合ってやる。そのかわり、頼んだぞ!」

 

「あいよ。いってらっしゃい」

「ありがとう、萃香!!」

 

 ピアは萃香に霊夢を任せ、永遠亭を目指して飛び立った。

「しっかし……あの霊夢が誰かを雇うとはねぇ……。あの男……ちょいと興味が出てきたよ」

 

 ピアを見送った後、萃香は一人酒を飲んでつぶやいた。霊夢の様子を見るべく、萃香は博麗神社の中へと入っていった。

 

 薬を求めて飛び出したピアだったが、途中で大事なことに気付いた。

「……永遠亭って……どこ?」

 

 それは、自分が永遠亭の場所を知らないことだった。

「リリーさん……は、もういないな……」

 

 今の季節は夏。春告精であるリリーホワイトは姿を消している季節である。ピアは心底がっかりした。

「まずい……誰を頼ればいいんだ?」

 

 しかし、今の時点で頼れる人物はごくわずかだった。ピアはこれまで会ってきた人物の中で、一番頼れる人物を必死に絞り出した。

 

「……はっ!咲夜と妖夢の二択しかない!?どっちにするか……」

「おいおいっ!!なんでそこで私が出てこないんだよ?」

 

「ん……?なんだ、魔理沙か……」

 ピアの近くをたまたま通りかかった魔理沙が、ピアに必死のツッコミを入れた。

 

「えぇ~……。だって魔理沙って、前に紅魔館の場所を聞いた時、すっげ~雑に答えたじゃん。それに比べたらリリーさんは……」

 

「リリー?リリーって、あの春告精か?あいつが道を教えてくれたのか?」

「まぁな。かなりわかりやすく教えてくれたぜ」

 

「……ウソだろ……」

「それより魔理沙。永遠亭への行き方を教えてくれ。霊夢が熱で倒れてやばいんだ」

 

「霊夢が……?!わかったぜ!!」

 魔理沙は向きを変えると、ものすごい勢いで飛んで行った。

 

「ちょ!?“行くぞ”とか何とか言えよ!!」

 置いていかれそうになったピアは、慌てて魔理沙の後を追った。

 

 二人が着いたのは、人里から少し離れた竹林だった。

「ここだぜ」

 

「いや、どう見ても竹林じゃん」

「そうじゃないんだぜ。永遠亭は、この竹林の中にあるんだよ」

 

「……そうなのか?」

「あぁ。でも、ここは『迷いの竹林』って呼ばれてて、普通に行くと簡単に迷っちまうぜ」

 

「んなあほな。……だが、たしかにこれは迷いそうだ」

「だろ?だから私もついて行ってやるよ」

 

「いや、俺一人で行く。魔理沙は神社に行って、霊夢の様子を見ていてくれ」

「はぁ……結局そうなるのかよ。……わかったぜ。ピアの頼みともあれば、喜んで協力してやるよ!」

 

「すまん、魔理沙」

「気にすんなって!あ、そうだ。この竹林の中に、藤原妹紅ってやつがいるから、案内はそいつに頼むといいぜ」

 

「わかった」

「んじゃ、私は神社に行くとするか」

 

 魔理沙は箒にまたがり、博麗神社へと飛んで行った。魔理沙が見えなくなった後、ピアは迷いの竹林へと入っていった。

 

「……迷った」

 そしていきなり迷った。魔理沙に言われた人物も見当たらず、ひたすら直進を続けた結果、今に至るのだ。

 

「おいおい……勘弁してくれよ。……まぁ、いざとなったら瞬間移動でもして帰るか。……ん?」

 

 ピアが竹林の中を歩いていると、一部だけ草の生え方が異なる部分があった。ピアは近くに落ちてあったそこそこ大きい岩を、その場所へと投げた。

「そぉいっ!!」

 

 ズボンッ!!

 岩が落ちた足場は地面を抜け、そのまま穴の中へと消えていった。

 

「……ガキか……」

 落とし穴をいとも簡単に見抜いたピアは、穴をよけながら前へと進んだ。

 

「……あっれ~?なんでばれたのかなぁ~?……おかしい」

 仕掛けを突破して先を進むピアを、一匹の兎が不思議そうな顔で眺めていた。

 

「……だめだ……ますますわからん……」

 ピアは完全に道に迷ってしまった。戻ろうにも戻れず、かといって進めば、先ほどのような落とし穴があるかもしれない。

 

「……面倒くさくなっちまった」

 しかし、神社では解熱剤を待っている霊夢がいる。衣食住を提供してもらっている側として、恩に報いないわけには行かない。

 

「……ここを吹っ飛ばそうかな」

 ピアが自暴自棄になり、エッジで竹林を破壊しようと手を伸ばした時だった。

 

「おい、あんた。こんなところで何をやっているんだい?」

「…………?」

 

 声を掛けられ振り返ると、そこには筍を抱えた少女が立っていた。

「……誰?」

 

「私は『藤原妹紅』。この竹林の案内人さ。ただの人間が、こんな所へ来ちゃだめだ。ほら、出口まで案内するから、私の後についてきなさい」

 

「気持ちは嬉しいが……あいにく俺は帰るわけには行かない」

「何?」

 

「仕事先の上司が倒れてな。永遠亭の薬が必要なんだ」

「それで迷うことも承知でこの竹林に?ふふっ……面白い奴だね」

 

「こっちは全然面白くない。なぁ、頼む。俺を永遠亭まで案内してくれ」

「わかったわよ。じゃあ、私についておいで」

 

「すまん、助かる」

「困ったときはお互い様さ。……ところで、あんたの名前は?」

 

「業務命令で名乗れない。ただ……“博麗の巫女の使い”って言えば、わかると思う」

「博麗の……あぁ、なるほど」

 

 妹紅は察したようにうなずいた。そして、ピアを案内するため、竹林の中を歩きだした。

「……妹紅……だっけ。なんか随分と変わってるな」

 

「変わってる?……まぁ、よく言われるよ」

「そういう意味じゃなくて……。俺は悪魔……魔王って言ってな。人の生き死にに一番かかわってる種族だ。だからわかる。お前から、生のにおいがしない」

 

「…………」

「かと言って、死んでいるわけでもない。生の果てにある死を越えたような……そんな感じ」

 

「……ふ、あははは!」

 突然、妹紅は笑いだした。ピアは思ったことをそのまま言っただけなので、怪訝そうな顔をした。

 

「……なんだよ」

「お見事。……と言いたくてね。その通りよ。私はあんたの言うとおり、生きてもなく死んでもいない……そういう人間さ」

「…………」

 

 妹紅は話を続けた。昔、妹紅はとある貴族の娘として生まれた。何不自由のない、幸せな毎日だった。

「だが……それも長くは続かなかった」

 

 妹紅の父は、月からやってきたというお姫様に求婚を申し出た。しかし、彼女から難題を突き付けられ、結果、それを果たせずに周りから笑いもの扱いされた。

 

妹紅は彼女を許さなかった。父を侮辱した罪を、この手で晴らそうとするも、彼女は月へ帰ってしまう。

 

「けど……そんな私にも、転機が訪れたのさ」

 

 妹紅は彼女が帝と竹取の翁に贈った蓬莱の薬を強奪を計画。帝から蓬莱の薬を富士山の火口で燃やすよう勅命を受けた岩笠らを追跡するが、子供の身に富士登山は厳しく力尽きたところを逆に助けられ岩笠らと同行することになる。

 

岩笠らは、富士山の噴火を鎮める女神木花咲耶姫に富士山で薬を燃やすことは拒否され、姉で不死と不変を扱う女神石長姫のいる八ヶ岳に行くよう言い渡される。

下山の途中、妹紅は命の恩人である岩笠を殺害して蓬莱の薬を奪取し、その薬を口にした。 

 

「そして……今の私があるのよ」

「不老不死の薬……ねぇ」

 

「どう?少しは驚いた?」

「いや、全然」

 

 ピアはサラッと返した。妹紅は驚いた様子で振り返り、ピアをきつく睨み付けた。

「全然って……本気かい?」

 

「不死だからなんだって?別に驚くことでも何でもねぇよ。というか……しょうもない」

「しょうもない……?しょうもないだって?!」

 

「しょうもねぇよ。俺の世界にはな、薬なんか飲まなくても生まれた時から不死身だったり、死んでもひょっこり生き返ってたりするのが日常なんだよ」

「……どんな世界よ……」

 

「デタラメ」

「…………」

 

「だが、少しお前が羨ましいな」

「何を言ってるの?老いることも、死ぬこともできず、永遠の時を生き続ける……そんな苦しみを羨ましいって?あんたは、死なない痛みを理解していない」

 

「その苦しみを選んだことに、自分の意思があることが羨ましいと言った」

「……?あんた、いったい何を言って……?」

 

「妹紅……お前は“死なない”って言ったな。お前の不死が“死なない”ものなら……俺は、“死ねない”不死だ」

「死ねない……?」

 

「俺の望みはただ一つ……己の死(・・・)だ」

「…………!」

 

 妹紅は足を止めた。ピアも一緒に足を止めた。

「俺は……過去に多くの命を奪った。自分の世界と……異世界を含む、何億の命を………。俺は世界を滅ぼそうとして、神によって粛清された。そのあと、俺の死を憐れんだ神によって、俺は死を奪われた」

 

「死を……奪う……?」

 ピアは空を見上げた。遠くを見るような目で、どうでもよさそうに言った。

 

「俺の体には……奪った命の数だけ、『罪の傷』がある。その傷が消えない以上……俺は死ぬことはできない」

「だったらいいじゃないか。その罪を償えば、死ねるじゃない。私は死んでも、魂の身となるだけ……またいつでも復活できる」

 

「それは無理。少なくとも……俺が相手じゃあな」

「なんだって?」

 

「さっきの話から推測すると……妹紅の場合は魂が本体になってるから、何度でも蘇ることができるんだろうな。だが、俺にはその魂を根こそぎ喰らい尽くす魔剣がある」

「魂を……喰らう?」

 

「もっというと、俺には能力を無効にする程度の能力がある。だから、妹紅の能力を無効化することもできる」

「…………!!」

 

「妹紅は俺を殺せない……。だが、俺は妹紅を殺すことができる(・・・・・・・・)。俺は死なない痛みを知らない。だが、お前は生きる喜びを忘れている」

「あんたは……危険だね」

 

「自分で言うのもあれだが……危険だぞ」

「蓬莱人を殺せる……つまり、あんたなら輝夜も殺せるってことか……」

 

「輝夜?」

「月のお姫さんだよ」

 

 妹紅は再び歩き出した。ピアもその後に続く。

「それにしても……“死なない”じゃなくて、“死ねない”……か。価値観も違えば、死の意味も異なるってことね」

 

「そういうことだ。お前は不死になった程度で、命を軽んじすぎている。死なないからって、死んでいいわけがないだろう」

「……ふぅ。まさか、今日会ったばかりのあんたに説教をされるとはね……。……まるで慧音みたいなことを言う……」

 

「は?」

「いや、何でもない」

 

「そうか……。ところで、道中で落とし穴があったんだが、あれはいったい何なんだ?」

「落とし穴?あぁ……多分、それはてゐのせいだと思うよ」

 

「てゐ?」

「この竹林に住む、いたずら兎。まぁ、あんまりかかわらない方がいいよ」

 

「わかった」

「……おっと、もうすぐ永遠亭に着きそうね」

 

「そうか!早く薬をもらわねぇと!」

「ちょ、私から離れないでよ!またすぐ迷うわよ!!」

 

 ピアが走り出してしまったので、妹紅は慌てて後を追った。二人が歩いていたその道に一匹の兎が飛び出した。

 

「ふぅん……。蓬莱人でもないのに不死者とは……いいこと聞いちゃった!お師匠様が聞いたら、すっごく興味を持ちそうだなぁ~!」

 その兎、『因幡てゐ』は、クスクスと笑うと、再び茂みの中に隠れた。

 

「ほら、到着だよ」

「おぉ、助かった!!」

 

 妹紅の案内により、ピアはようやく永遠亭に到着した。妹紅はピアの方へ振り返ると、念を押すように言った。

 

「一応、私はあんたが戻るまでは、ここの近くで待ってるから。もし用が済んだら、また呼んでね」

「ありがとう、妹紅」

 

「もし戻ってきたら、その時はあんたの名前を聞かせてね」

「あ~……まぁ、大丈夫か」

 

「ふふっ。それじゃあ、待ってるからね」

 妹紅は一時の別れを告げると、竹林の中へ消えていった。目的地にたどり着けたピアは、とりあえず安堵した。

 

「よっしゃ!霊夢……待ってろよ」

 意を決して、ピアは永遠亭の門をたたいた。しばらく反応がなかったが、やがて

「はぁ~い。今行きま~す」

 と中から声がした。門が開き、中から出てきたのは

 

「ん?兎?」

「えっ……人間……?」

 

 中から出てきたのは兎の少女だった。来客が珍しいのか、それともただの人見知りなのか、少女はかなりおどおどしていた。

 

「えっと……薬をもらいに来たんだけど……誰?」

「わ……私は、『鈴仙・優曇華院・イナバ』……。薬なら、どうぞこちらに……」

 




文章が長くなり前半後半ぽい形になりました。
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