東方魔郷談   作:Walther58

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第十章 ~月の姫、蓬莱山輝夜~

 永遠亭に到着したピアは、鈴仙に永遠亭を案内してもらっていた。ピアはその間、鈴仙と全くと言っていいほど会話をしなかった。

 

「(ど、どどどどうしようっ!?思わず中に入れちゃったけど……何か話さなくちゃだめなのかな……?でも私……人見知りだし……)」

 

「あの……」

「はいぃぃっ!!」

 

 突然声を掛けられて、鈴仙は驚いてしまった。ピアはがぽかんとしていると、鈴仙は慌てて弁解した。

 

「ち、ちち違うんですっ!!ちょっと驚いただけで、なんでもないんですっ!!」

「あ~……驚かせたならすまん」

 

「そ……そんな!謝らなくて結構ですよ!私が……その……不甲斐ないだけですから……」

「……もしかして、人見知り?」

 

「あぅ……。……そうなんです……」

「そっか。……まぁ、気にしないでくれていいよ。俺の知り合いには、初対面の人間は絶対に信じない奴とかいるから」

 

「そうなんですか?」

「あぁ。そいつは話すこともしないから、君の方が遥かにマシさ」

 

「そう……ですか。なんだか、すみません。気を遣わせちゃったみたいで……」

「そんなのお互い様さ」

 

「あはは……なんだかおもしろい人ですね。……あ、着きました」

 鈴仙は扉の前に立つと、軽くノックをした。

 

「師匠。お客様です」

「どうぞ」

 

「はい、失礼します」

 鈴仙が扉を開け、ピアとともに中へと入った。

 

「いらっしゃい」

 その中にいたのは、長い銀髪を三つ編みで束ね、赤と青を基調にした医者のような女性だった。

 

「うどんげ、その人は?」

「はい。この人は解熱剤を求めてこの永遠亭まで訪ねてきました」

 

「あら?解熱剤?誰か倒れたのかしら?」

「博麗の巫女、博麗霊夢だ。俺は博麗の巫女の使い。業務命令で本名は……」

 

「あっ!!お師匠様、この人だよ!」

「てゐ?この人ってことは……あぁ、なるほど……」

 

 女性のすぐそばには、てゐもいた。ピアが首をかしげていると、鈴仙が先ほどまでの口調と打って変わって、急に厳しいものになった。

 

「こら、てゐ!お客様を指さしたらだめでしょ!!」

「え~。べっつにいいじゃん。どうせすぐ帰っちゃうんでしょ?鈴仙はいちいちうるさいなぁ……」

 

「うるさくない。失礼でしょ!謝りなさい!」

「へいへ~い。すいませんでした(棒)」

 

「てゐっ!!」

「おぉ怖い……」

 

「二人とも、やめなさい。……さて、博麗の巫女の使いさん。解熱剤ならすぐに持ってこさせるわ。……うどんげ」

「はい、ただいま持ってまいります」

 

 鈴仙は女性の一言で、素早く部屋から退室した。女性はピアの方へ向き直ると、椅子に座るよう促した。ピアが椅子に座ると、改めて自己紹介をした。

 

「初めまして。私の名前は『八意永琳』。この永遠亭で、薬師をしているわ。自分の主人のためにわざわざ足を運ぶなんて、献身的ね」

「まぁ、いろいろとお世話になってるからな。一つでも恩を返さないと、罰が当たるだろう?」

 

「ふふっ、そうね」

「ねぇ、お師匠様ぁ~。私の情報は?」

 

「わかってるわ。……こっちの兎は『因幡てゐ』。私の弟子よ」

「どうも~。あ、さっきの鈴仙も、お師匠様の弟子だよ」

 

「そうか。よろしく、てゐ。そして……永琳」

「よろしく。……さて、うどんげが薬を持ってきてもらうまでの間……あなたに聞きたいことがあるわ」

 

「聞きたいこと?」

「えぇ。……あなた、竹林に住んでいる藤原妹紅という人間に会ったかしら?」

 

「あぁ。あいつに案内してもらったんだ」

「それでなんだけど~」

 

 てゐがピアの前に出てきた。にやにやしながら、ピアの顔色を窺った。

 

「私……聞いたんだよね」

「聞いた?」

 

「そ。あんたの“不死”について」

「なっ……!」

 

 ピアは驚いた。あの時の会話をすべて聞かれていたのだ。

「いやぁ、人が仕掛けた罠をああもあっさり見抜かれちゃあ、私の面子が保てないわけで……後をつけさせていただきました」

 

「…………」

「そしたら、あんな貴重な会話を聞けるなんてねぇ~。お師匠様が聞いたら、絶対に興味を持つと思ったんだ」

 

「……なかなかの策士だな。ずる賢いことは悪くない。むしろ立派な処世術だ。見事だな」

「……まさか、褒められるとはね。あんた、頭おかしいんじゃないの?」

 

「俺の周りにそういうやつしかいなかっただけだ。てゐは自分の上司のことをよく理解しているんだな」

「……あ~その~……。わ、私も鈴仙の手伝いをしてくるね!」

 

 てゐは慌てた様子で部屋を出ていった。てゐがいなくなったことで、ピアは永琳と二人っきりになった。

 

「さっきの言葉……本当かしら?」

「本当だぜ。てゐのようなタイプは、俺の周りによくいたから。ああいうやつは、嘘はつくけど約束は守るタイプだな」

 

「てゐのことを、もう信頼してるの?不思議な人ね」

「てゐは信じていい。俺はそう思う」

 

「そうなの。……ところで、話を戻すわよ」

「あぁ。俺が……蓬莱人でもないのに不死者である理由……か?」

 

「えぇ。てゐからあらかた話を聞いているわ。罪の傷に、死ねない呪い……そして、蓬莱人をも殺せる、魂を喰らう剣。まさに、私たちの天敵ね」

 

「そう思うなら、今ここで殺すか?」

「無駄だからやめておくわ。それよりも、あなたのその剣……」

 

 永琳が指摘したのは、エッジの方だった。

「こいつは渡さないぜ」

 

「わかっているわ。その剣……生きているみたいだし、魂を喰われたくないから、直接さわったりはしないわ」

「そうしてくれると助かる」

 

「その不死は術によるものかしら?それとも薬?」

「薬ではなく、術の類だ。ただ……解除不能だがな」

 

「……解除方法はまったくない……と?」

「あるにはある。俺が死ぬことだ。だが、この方法は非常に効率が悪い」

「なるほど……。あと一つ、聞きたいことが……」

 

 永琳が再び質問をしようとした、その時だった。

「えいりーん。なんか客人が来たんですってー?」

 

 二人の会話に割って入るように、誰かが部屋に入ってきた。

「姫様?!なぜここに?」

 

「なぜって……決まってるでしょ?あの妹紅と口喧嘩をして言いくるめたっていう人間が来てるんでしょ?どんな奴か見ておきたくてね」

「……誰?」

 

「あっ!!あんたね。ふ~ん、なんか地味なやつね」

「地味……」

 

「まぁいいわ。私は『蓬莱山輝夜』。ほら、せっかくこの私が名前を教えたんだから、あんたも名乗りなさい」

「博麗の巫女の使い」

 

「はぁ?何それ?ちゃんと本名があるのは知ってるんだから、そっちを名乗りなさいよ」

「無理。業務命令」

 

「そんな命令はどうでもいいから、早く名乗りなさい」

「嫌だ」

 

「な……私がここまで頼んでいるのに、何なのよあんた!!」

「姫様。あまりお客様にご迷惑は……」

 

「永琳は黙ってて。……いいわ、だったらこの私が出す五つの難題を……」

「却下」

 

「ちょ!!……ははぁん、そっか~。逃げるんだぁ~?」

「逃げる以前に、そんな暇はない。こっちは病人が待ってるんだ」

 

「…………。とにかく、私が遊んであげるって言ってるのよ!いいから付き合いなさい!!」

「永琳……こいつはアホなのか?」

 

「ごめんなさい……ウチの姫様が……」

「ちょっと!永琳までそんなことを?!」

 

「お前、妹紅から聞いたことがある。月のお姫様だってな」

「ふっふっふ……その通りよ。どう?驚いたかしら?」

「いや、全然」

 

 ピアは妹紅に言ったセリフをそのまま返した。

「全然?!そこは、“驚いた”、とか、“綺麗だ”とか言うところじゃないの?!」

「お前ってさ……俺が考えていた以上に美人じゃない。むしろ……そこら辺にいそうな感じで、驚く要素は一つもない」

「~~~~っ!!」

 

 輝夜は目に涙を浮かべていた。プライドをズタズタにされた挙句、無視をされるとは、輝夜でなくても最低な侮辱行為だとわかった。

 

「うえ~んっ!!え~り~ん!!」

「はいはい、よしよし。構ってくれなくて寂しかったのね。……本当にごめんなさいね」

 

「いや、俺も言い過ぎた」

 ピアと永琳がお互いに反省をしていると、鈴仙が戻ってきた。

 

「師匠、解熱剤を……って、姫様っ?!」

「あぁ、うどんげ。姫様を部屋にお連れして頂戴。薬はそこに置いてくれていいから」

 

「わかりました」

「イナバ~っ!!あの男酷いんだからぁ~っ!!」

 

「わかりました。愚痴ならお部屋で聞いて差し上げますから。さぁ、行きましょう」

「グスンッ……わかったわ。……そこのあんた!今度来たら、弾幕勝負で滅多打ちにしてやるだからっ!覚えてなさいよっ!!」

「今日だけ覚えとく」

 

 鈴仙に連れられて、輝夜は部屋を出ていった。そして、再び永琳とピアは二人っきりになった。

 

「……意外と騒がしいな。ここの連中は」

「本当にね……。私としては、もうちょっと節操を持ってほしいのだけど……」

 

「まぁ、いいんじゃないか?これはこれで、一つの日常だ」

「……そうね。あ、そうだ……はい、これ。薬よ」

 

 永琳に薬を手渡され、ピアはそれを受け取った。

「すまない」

 

「もし、もう一度ここに来ることがあったら……姫様の相手をしてくれないかしら?」

「あいわかった。……まさか泣かしてしまうとは思わなかったし」

 

「そうね。私も後で、姫様をなだめておくわ」

「わかった。じゃあな、永琳」

「えぇ、またいらっしゃい」

 

 ピアは椅子から立ち上がり、部屋をあとにした。一人になった永琳は静かに呟いた。

「……八雲紫」

 

 永琳が呟くのと同時に、紫が姿を現した。その表情は相変わらず冷徹なものだった。

「で、何の用かしら?ずっと部屋を覗いてたのなら、答える義務くらいはあるわよね?」

 

「……あの男がふざけたことをしないか、見張ってただけよ」

「見張ってた?見張るようなことはなかったと思うけど?」

 

「月の頭脳……あなたは何もわかってない。あの男は……やがて幻想郷の脅威となる」

「幻想郷の……脅威?」

 

 永琳は紫の方を見た。紫は永琳を見ていなかった。

「あの男には……能力を無効にする程度の能力という能力があるわ」

 

「能力を無効に?!そんな馬鹿な……」

「馬鹿ではないわ。事実、あの男はその力を持っている」

 

「……そんな感じはしなかったけど……」

「当たり前じゃない。私が彼に、その能力の存在を気づかせてあげたのだから……彼も制御できるようになったのよ」

 

「だったら、何も危険はないんじゃない?」

「…………」

 

 紫は永琳の方を見た。紫の目は、ピアに対する敵意が満ち溢れていた。

「あの男は、能力所持者(スキルホルダー)ではなく……二重能力者(デュアルスキル)なのよ」

 

「……!!二重……能力者……?!」

「そう。彼の無意識の中に眠る、もう一つの能力が存在する」

 

「その……能力は……?」

「その能力は……世界を滅ぼす力。『因果律を狂わせる程度の能力』よ」

 

 永琳から薬を手に入れたピアは、大急ぎで博麗神社を目指した。太陽は沈んで夜になっていたので、ピアはなおさら先を急いだ。そして、博麗神社が見えてきて、安心したピアだったが

「……あれ?」

 

 よく見ると、博麗神社上空で、弾幕の光が見えた。誰かが弾幕勝負をしている。

「霊夢だったらまずい……急げっ!!」

 ピアはさらに速度を上げた。

 

 一方博麗神社では

「魔符、『スターダストレヴァリエ』!!」

「紅符、『スカーレットシュート』!!」

 

 魔理沙とレミリアが派手な弾幕勝負を繰り広げていた。

「あぁ~もうっ!!萃香はいきなり帰ってきてお酒は飲むし……魔理沙はお見舞いに来たのかと思ったら、お賽銭を勝手に持っていこうとする……レミリアに至っては弾幕勝負に勝ったらピアをよこせですッて?もう……今日は厄日だわっ!!」

 

「そう言いなさんなって。霊夢の従者が、薬を持ってきてくれるんだろ?いい男じゃないか」

「全然よくないわよ!こんなに帰りが遅いなんて……あいつ、竹林で迷ってたりしてないかしら……?」

 

「おや、心配なのかい?」

「そ、そんなわけにゃいでしょ!!」

 

「思いっきり噛んでるしww」

「なっ……かんでなんか……!」

 

「おぉーい!霊夢ぅー!!」

「……!ピア!!」

 

「あ、嬉しそうな顔した」

「してないっ!!」

 

 ピアは魔理沙とレミリアに気付かれないように神社に戻ってきた。そして、薬を机の上に置くと素早く台所へと走っていき、戻ってきた。

 

「ほい、水。あと……薬!」

「あ……ありがとう……」

 

「気にすんなって。霊夢から受けた恩をちゃんと返さないとな」

「…………」

 

「ほら、霊夢。やっぱりこいつはいい男じゃん」

「す、萃香はいちいちうるさいっ!!」

 

「ん?何の話だ?」

「ピ、ピアには関係ないわよっ!!」

「えぇ~……」

 

 ピアが唖然とする中、魔理沙とレミリアは弾幕勝負を続けていた。

「ちくしょうっ!!霊夢に勝って、ピアを借りていくのは私だぁー!!恋符、『マスタースパーク』!!」

 

「ふんっ!!ピアは私が霊夢に勝って、専属執事にするのよ!!神槍、『スピア・ザ・グングニル』!!」

 

「……というか、誰か今すぐあの二人を止めなさいよぉー!!」

「あっははは。やれやれだねぇ」

 

 霊夢の悲痛の叫びに、ピアが慌てて飛び出した。その様子を、萃香はお酒を飲んで笑っていた。

 




この小説が皆さんの意識に少しでも残っていただければ幸いです(*^_^*)
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