カシャッ!
「…………?」
突然のシャッター音に、ピアは思わず振り返った。すると、もう一度シャッターが切られた。
「はい、ありがとうございます!いやぁ、いい絵が撮れましたぁー!」
「……え?」
「あ、申し遅れました!私、清く正しい『射命丸文』と申します。『文々。新聞』という新聞をご存知ですか?」
「あぁ、あれか。いつも読ませてもらってるよ」
「ありがとうございます!最近、人里内で博麗の巫女の使いの存在が専ら噂になっていまして……これはぜひ、わが『文々。新聞』としても取材したく……」
「ん~……。まぁ、俺は問題ないよ」
「おぉ、そうですか!!それでは、取材をさせていただきますね!!」
「よろしくな、文」
「……で、あの天狗の取材をまんまと受けた……と?」
「……はい」
「あんた、馬鹿ぁ?!あれほど天狗にはかかわるなって言ったのに……」
「……すいません」
突然現れた鴉天狗、射命丸文に取材を受けた翌日、ピアは霊夢から説教を受けていた。霊夢の手には“激撮!博麗の巫女の使いの正体とは!?”と、大きく書かれた新聞が握られていた。
「はぁ……おまけに名前までばれてるし……。これじゃあ、最初の業務命令の意味がなくなっちゃうじゃない……」
「え?なんで?」
「あれはね。ピアを守るためのものだったのよ」
「俺を……守る?」
「そう。名前を言っちゃうと覚えられるけど、“博麗の巫女の使い”とだけ名乗っておけば、さほど印象付かないでしょ?」
「なるほど……」
「なのに……よりにもよってあの天狗にばれるなんてぇ~!!これは完全に誤算だったわ……」
「……あっそう」
霊夢が悔しがる中、ピアは静かにお茶を飲んだ。自分の存在が世間に知れ渡ったなら、いちいち名乗る手間が省けるので、ピアとしては楽だった。
「まぁ、いいんじゃないか?名前がばれただけで、何も問題はないと思うけど……」
「問題あるわよ!紫とかに名前がばれたら、まずいでしょ?」
「紫か……。俺に能力のことを教えてくれたのも、そういえば紫だったな。あとでちゃんとお礼を言っとかないと……」
「言わなくてもいいわよ。……ピア、紫に嫌われてるっぽいわよ」
「えっ!?なんで?」
「知らないわよ」
「…………?」
ピアの能力は紫の助言があって、初めて使えたものだった。嫌われている理由に関して、心当たりを探っていると
「たのもーっ!霊夢さん、いますかぁー!?」
霊夢を呼ぶ大きな声が聞こえた。ピアが動く前に霊夢が先に動いた。外に出ると、霊夢とよく似た格好をした巫女が立っていた。
「何の用なのよ……早苗」
その少女、東風谷早苗は霊夢の前に新聞を突き付けた。
「新聞を見ました。博麗の巫女の使いという人に会わせてください!というか、会いたいです!!」
「私の部下は見世物じゃないのよ。帰ってくれない?」
「……最近、博麗神社へ参拝する人が増えているという噂を聞きました。私が人里へ下りた時も、里では博麗神社の噂で持ちきりでした。いえ、正しく言うならば、博麗の巫女の使いの噂でした。私や神奈子様、諏訪子様も、初めは信じられませんでした。まさか、あなた方が仁徳で信仰を集めるなど……。ですが、この新聞を読み、博麗の巫女の使いの正体を知りました。神奈子様は会いに行くことすらも反対しましたが、私はもう我慢できません!!そこで、私は神奈子様の制止も振り切り、ここまで来たのです!」
「はぁ……わざわざご苦労様」
「あぁ……博麗の巫女の使い……ピア・デケム様……。いったいどんな人なんでしょう……。私と同じで元外来人、しかも外の世界では魔王様!!おまけに魔王なのに聖剣を使うなんて、かっこいいじゃないですか!!」
「あのねぇ……」
「博麗の巫女の使いは、俺だ」
とうとうピアが神社から出てきてしまった。早苗の目の色が、一気に輝きを増した。
「あっ!あなたがピア・デケム様ですか!?」
「“様”って……そんなえらいもんじゃないんだけど……」
「か……」
「か?」
「かっこいい!!」
「は?」
「生で見たらすっごいイケメンじゃないですか!!霊夢さんのところに、参拝客が増えるのもうなずけますね!!」
「だから言ったでしょ?私が雇った男なんだから、間違いは……」
「あの……よろしければ、守矢神社で神主をやってみませんか?」
「えっ?」
そして早苗はいきなりピアにキスをした。霊夢の目の前で、堂々と。
「!?!?!?!?」
「ちょ、早苗っ!?」
「……ふふっ。これ、私のファーストキスだったんですけど……ピア様がお相手でよかったです」
「え、あ、ちょ、いや……あの、これ……うえぇ?!」
「……早苗えぇぇ!!」
霊夢は顔を真っ赤にして怒っていた。どうやら本気で怒っているらしく、スペルカードを一枚取り出していた。
「ちょ、霊夢っ!!落ち着けって!!」
「うるさーいっ!!」
「ピア様、逃げましょうっ!」
「って、もともとは君が……うわっ!!」
早苗に手を引かれ、ピアは博麗神社の階段を下りていった。その後、霊夢の退魔符乱舞が鳥居を吹き飛ばした。
「はぁ……はぁ……。まったく、なんてことをするんだ……」
「ピア様、ごめんなさい……。でも私、ピア様のこと……好きですよ」
「そんな堂々と……」
「でも……私の思い、伝わりましたか?」
「あ……えっと……」
ピアは困惑していた。初対面の人間に“好きだ”と言われてはさすがにどう受け止めていいのかわからなかった。
「えっと……今のって、本気?」
「本気です!」
「その……神主って……?」
「はい。その……」
「あぁ、待て!!説明はいらない。理解は……しているつもり……」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は『東風谷早苗』と言います。妖怪の山にある、『守矢神社』で巫女をしているんです!」
「巫女?じゃあ、霊夢とは同業者か」
「同時に、ライバルですね。巫女として……何より、一人の女性として」
「…………」
「あの……ぜひ、守矢神社に来てくれませんか?今戻ったとしても、霊夢さんに怒られるだけでは?」
「……まぁ、たしかに。だったら、その“様”付けをやめてはくれないか?」
「わかりました、ピアさん!」
早苗は満面の笑みを浮かべた。本当にピアのことが好きらしく、ピアが行くと言っただけでとても喜んでいた。
「じゃあ、行きましょう。案内しますね!」
「あぁ、任せたよ。早苗」
「きゃっ♪ピアさんに名前で呼ばれちゃいました!」
「(どうしよう……俺、この子もちょっと苦手だ……)」
早苗は嬉しそうに道案内を始めた。ピアはおとなしくその後に続いた。
早苗に案内され、ピアは妖怪の山を歩いて登っていた。少しでも長くピアと話がしたい、早苗の提案だった。
「へぇ~。早苗って、元々外の世界にいたのか」
「はい。でも、外の世界で信仰が集まりにくくなって……それで、幻想郷に来たんです」
「家族とも別れた……ということか」
「はい……。ピアさんは、ご家族とは?」
「別れを告げたよ。この手で終わらせた」
「終わらせ……って?」
「殺した」
「……!つらく……なかったですか?」
「今生の別れだ。かえってつらくはなかったよ。……早苗の方がつらかったんじゃないか?だって、生きてるから」
「……つらかったですよ。でも、それを乗り越えて、ここにいるんです!」
「そうか……早苗は強いな」
「そんな、強いだなんて……そんなことないですよ」
「いや、早苗は立派だと思うよ。悲しみを乗り越えて巫女をやってるんだから、えらいえらい」
ピアは早苗の頭を撫でてあげた。早苗は照れ笑いを浮かべながら、にっこりと笑った。
「えへへ……。ピアさんに頭を撫でられちゃいました。まるで……デートみたいですね」
「デート?」
「あ!い……いえ、何でもないです!……えへへ♪」
「……?まぁいいか」
早苗は終始、満足そうに笑っていた。ピアが早苗の様子に首をかしげていると、
「そこの人間っ!とまれっ!!」
二人は言われたとおりに止まった。すると、茂みの中から誰かが飛び出してきた。
「あっ!椛さん!!なんでこんなところに?」
「山の上の巫女か。あなたに用はありません。……そこの人間!」
「……俺?」
「私は白狼天狗の『犬走椛』。人間が不用意にこの山に入ってこないよう、見張りをしている者だ。そこの巫女は見逃してもいいが、お前はだめだ!」
「も、椛さん!この人は私の友人で、神社の方へ案内していただけです!決して怪しい人ではありません!」
「何?」
「これを見てください!」
早苗は椛に駆け寄り、持っていた『文々。新聞』を見せた。椛はそれを手に取り、読み始めた。
「……ふむ。これは文様の新聞……。ここに書かれていることは本当ですか?」
「本当です!私が好きになった人ですから、間違いはありませんっ!!」
「ちょ!そういうことは堂々と言うなっての!!」
「……わかりました」
「椛さん!では……」
「ただし、文様に確認を取らせてもらいます。もし嘘だったら……帰りの道中で、覚悟してくださいね!」
「了解した。通してくれてありがとう、椛」
「べ……別に新聞の内容を信じたとか、あなたの人柄を見直したとか、そんなのではないんですからねっ!!」
椛は文のもとへ向かったのか、どこかへ飛び去って行った。ピアはふぅ、とため息をついた。
「危なかったな」
「えぇ。椛さんは仕事熱心な人ですから……私も正直、心配でした」
「椛か……自分の仕事に誇りを持っているんだな。それはいいことだ」
「ピアさんって、優しいんですね。すごく、かっこいいですよ」
「そんなんじゃないさ……。俺に比べたら、だよ」
二人はそのまま山を登り続けた。そして、しばらく登り続けていると、今度は階段が見えてきた。
「さぁ、この階段を登りきれば、守矢神社です!」
「あぁ」
早苗は意気揚々と進み始めた。ピアも早苗の元気な姿に、思わず笑みがこぼれていた。
二人が階段を上がりきると、そこには一人の少女が待っていた。
「待ってたよぉ~。お帰り、早苗」
「あ、諏訪子様!ただいま戻りました!」
「……誰?」
「あ、ピアさんに紹介しますね。この人は『洩矢諏訪子』様といって、この守矢神社を支えてくださっている神様なんです!」
「げぇーっ!神ぃ?!」
「あぁ、安心していいよ。私は神奈子とは違って、君のことは大歓迎だからね」
「……はぁ」
「それに……それをいうなら、早苗だって現人神だしね」
「現人神?」
「人であり、神でもある存在……現人神。それが早苗だよ」
「早苗も神だったのか……。しかも……諏訪子って外観が子供じゃん……」
「ん?それがどうかしたの?」
「いや……俺の世界には、諏訪子と早苗を足して二で掛けたような神がいて……。それでちょっと神に苦手意識があるんだよね……」
「そうなんだ。それにしても……早苗、いい男を捕まえたねぇ~」
「はい!この人のおかげで、博麗神社は参拝客が集まっているようなんです」
「ほうほう。そいつはすごいねぇ~。君、ピア・デケムっていうんだっけ?新聞、見たよぉ~。ピアにその気があるんなら、今度からウチで働かない?」
「あ~、それは嬉しいんだが……」
「諏訪子、早苗。そんな男、ここに住まわせてやる必要はない」
「神奈子?!」
「神奈子様!!」
「…………?」
守矢神社の奥から、声が聞こえた。中から出てきたのは、注連縄を背中に背負った女性がだった。
「……あんたは?」
「私は『八坂神奈子』。守矢の神の一人だ。ここはお前のような悪魔が来るようなところではない!とっとと立ち去れっ!!」
「……悪魔……」
「神奈子様!そんなひどいことを言わないでください!ピアさんは体は悪魔かもしれませんけど、中身はちゃんと人間なんです!」
「そうだよ。神奈子、ちょっと偏見が強すぎるよ。あの天狗の新聞を見たでしょ?」
「たしかに見た。だが、あの天狗の新聞は、日頃から書いていることはデタラメだっただろう。だから、今回もあの天狗が適当なことを書いただけかもしれん」
「そんなことありませんっ!!文さんは“今回の出来は最高だ”って言ってたじゃないですか!!」
「たしかにそう言った。だが、そうでなくとも奴は悪魔……それも魔王だ。遥か昔より、神と悪魔は敵同士だった。悪魔であるその男は、私と諏訪子……そして、現人神である早苗……お前の敵でもあるのだ!!」
「そ……そんな……」
「神奈子……ちょっとあんた頑固すぎ。早苗が見初めた男なんだから、それくらい許してやりなよ?さすがに私も……怒るよ?」
「ふん。諏訪子が怒ったところで、私に勝てるとでもいうのか?私はその男を認めない。悪魔の存在を認めては、神の名折れ……帰らぬと言うならば、ここで討ち滅ぼしてくれる!!」
神奈子は背中に御柱(オンバシラ)を装備し、その銃口をピアに向けた。ピアは黙って自分の剣を抜いた。
「……確かにその通りだ。俺は悪魔……お前の……お前たちの敵だ」
「ピ……ピアさん……!」
「ピア……」
ピアは魔剣を神奈子へ向けると、一言だけ言った。
「勝負だ、八坂神奈子。神と悪魔の名を賭けて……な」
「ふ……いいだろう」
「ピアさん!神奈子様!!」
「……ったく、どうなっても知らないよ……」
二人はお互いに構えた。そして、先に動いたのは神奈子だった。
「行くぞ、魔王!神祭、『エクスパンデッド・オンバシラ』!!」
すると、ピアにめがけて大量の御柱が飛んできた。
「くっ……!」
ピアはそれを一つ一つ、確実に回避していった。
「……っ!『真(しん)月(げつ)輪(りん)』!!」
ピアはブーメラン状のエネルギー破を、神奈子に向けて飛ばした。神奈子はそれを御柱からの砲撃で撃ち落した。
「ふんっ!!そんなものか……筒粥、『神の粥』!」
神奈子は大量の弾幕を放った。ピアは回避を続けたが、神奈子から直接砲撃されていることもあってか、弾幕がかすっていた。
「ちっ……!」
「どうした、魔王!貴様の力はその程度か!!」
「なんの……まだまだだっ!」
ピアと神奈子が戦う様子を見ていた諏訪子は、ピアの動きに違和感を覚えていた。
「ピアさん!神奈子様!!もうやめてくださいっ!!」
「おかしい……」
「えっ?おかしい?」
「ピアの動きが明らかにおかしいんだ。まるで……初めから戦う気がないような……」
「戦う気がない……?それって、一体……?」
「……!まさか、ピア……?!」
諏訪子は空を見上げた。そこでは、ピアが神奈子のスペル、天流、『お天水の奇跡』を受けて苦戦していた。
「ピアぁぁ!!」
諏訪子はピアを呼んだが、その声はピアに届かなかった。神奈子は、ある一枚のスペルカードを取り出した。
「さて……遊びは終わりにしようか、悪魔。とどめだ……『マウンテン・オブ・フェイス』っ!!」
「…………!」
神奈子の最大のスペルの一つ、『マウンテン・オブ・フェイス』を、ピアは避けることが出来なかった。
ドオォォンッ!!
『マウンテン・オブ・フェイス』の弾幕がピアに直撃した。
「ピアァッ!!」
「いやあぁぁぁっ!!ピアさぁぁんっ!!」
諏訪子の叫び声も、早苗の悲鳴も、ピアの耳には届かなかった。ピアはそのまま、妖怪の山の麓まで飛ばされていった。
「……神奈子っ!!」
諏訪子は怒りに満ちた表情で神奈子を睨み付けた。しかし、神奈子は全く動じなかった。
「……ふん。これが当然の結果だ。悪魔が神に敵うはずがなかったのだ」
「違うよっ!ピアは……あいつは、最初から神奈子と戦うつもりなんてなかったんだ!!なのに!悪魔だからって、敵意のない相手を討つなんて……それが、神奈子のいう神様なの?!だったらとんだお笑いものだねっ!!」
「なっ……!奴が手加減したとでもいうのか?!ふざけるなっ!!」
「神奈子が負ければ、早苗がきっと悲しむ!ピアはそう思って、力を出せなかったんだよ!!それなのに……神奈子はッ!!」
「す……諏訪子様……」
「……そうか。諏訪子……お前も、悪魔の肩を持つのだな?ならば……貴様も……敵だっ!」
「かあぁなこおおぉぉぉぉ!!」
「諏訪子ぉっ!!」
怒りが爆発した諏訪子は神奈子へ向けて、土着神、『手長足長さま』を撃った。神奈子もまた、御柱、『メテオリックオンバシラ』で迎え撃った。
「(ピアさん……どうか……無事でいてください……)」
何もできず、見ているだけだった早苗は、ただピアの無事を祈るばかりだった。
「ふんふんふふ~ん♪」
妖怪の山の中を、リズムに乗って歩いている少女がいた。緑色の大きなリュックサックを背負った少女は、楽しそうに鼻歌を歌いながら、山を下りていた。
「いや~。さっきの爆発は何だったのかな?どっかで誰かが実験でもしてたのかな~?……って、ん?」
少女は、川に打ち上げられていた人間を発見した。弾幕勝負で負けたのか、ひどい怪我を負っていた。
「やや?!盟友である人間が、こんなところで死にかけてる!!ど……どうしよう……」
「おぉーい!にとりぃ―!!」
「ん?この声は……魔理沙か!」
少女、『河城にとり』は呼ばれた声に返事をした。にとりを呼んだのは魔理沙だった。
「おい、にとり!この変に何か落ちて……!!ピアッ!!どうしたんだ?!怪我してるじゃないか!!」
「魔理沙、この人間と知り合い?」
「それどころじゃねぇって!!にとり、お前の家にこいつを休ませてくれないか?頼むっ!」
「わ、わかったよ!……それにしても、魔理沙が必死になって助けたくなる人間かぁ……」
「感心してないで、はやくっ!!」
「わかったてば!!」
にとりはリュックサックのなかからマジックハンドを出すと、倒れているピアを持ち上げた。魔理沙はすぐ近くにあったピアの剣を持っていこうとしたが、
「こ……これ……すごく重い……!!」
「私に任せて」
にとりはマジックハンドで、エッジとキャリバーを持ち上げた。そして、そのままにとりの家を目指して歩いていった。
「頼む……ピア……。死ぬなんて冗談はやめてくれよ……。ピアがいなくなったら、私は……」
魔理沙は不安と悲しみで、ピアに必死に声をかけた。しかし、意識を失っているピアが返事をすることはなかった。
神奈子の攻撃に意識喪失!どうなるピア、次回明らかに…です。