「う……ぐうぅ……」
「……!ピア!!」
「う……ま、魔理沙……?俺は……一体……」
「動かない方がいいよ。あんたは怪我をしてるんだから」
ピアに話しかけたのはもう一人の方だった。
「初めまして、盟友である人間。……いや、あんたは悪魔だったね。私は河童の『河城にとり』。まぁ、よろしく」
「……助けて……くれたのか……」
「あったりまえだろ!!ピアがこのまま目を覚まさなかったらと思うと、私は……私は……」
「あぁ、すまない。心配……かけさせちまったな」
「ピ……ピアぁ~……」
「ああ、もう泣くなっての。魔理沙には笑顔の方が似合うんだから、笑ってくれよ」
「う……うん……」
思わず泣き出した魔理沙を慰めていると、にとりが口笛を吹いた。
「ひゅ~。お熱いねぇ、お二人さん」
「……にとり……だっけ?俺は、ピア・デケム。助けてくれたこと、感謝する。だが……俺はすぐにでも行かなくては……うぐっ!!」
ピアが無理に動こうとしたため、その体を激痛が襲った。魔理沙が慌てて制止に入る。
「や、やめとけって!私のマスパを喰らって無傷のお前が、ここまでボロボロになってるんだぞ!誰にやられたんだ?」
「……守矢の神……八坂神奈子だ」
「あ!あのオンバシラ女か!!あいつ……私が仇を取ってやるっ!!」
「やめろ、魔理沙っ!!俺は……ぐ……うぅ……」
「ピ、ピア……」
「……何か事情があるみたいだね」
二人の会話を聞いていたにとりが、ようやく話に入ってきた。
「……あぁ」
「……まぁ、私はあえてその話は聞かないでおくよ。……ただ、無理はよくない。あんまり女を泣かすもんじゃないよ」
「……それを女に言われると、結構傷つく……」
「あははは。そうだったね。でも……止めても無理っぽいね」
「……そうだ。俺は行かなきゃならない。神と悪魔……けじめをつけるために……」
「ピア……」
「やめときな、魔理沙。ピアの目を見てみなって」
「……!」
ピアの目を見た魔理沙は驚いた。ピアは、これ以上にないほど真剣なまなざしをしていた。
「ピア……やっぱり行くのか?」
「行く。行かなければならない……。多分、今は諏訪子が神奈子と……」
「守矢の二柱がやりあっているっていうのかい?!そいつはまずいね……」
「だから……俺が行かなければならない……!!」
ピアは一気に立ち上がった。あまりの回復力の速さに、にとりはとにかく驚いていた。
「……!もう平気なのかい?」
「あぁ、伊達に悪魔じゃないんでね。……俺は、行くぜ」
ピアはにとりの家を出ていき、すぐに飛んで行った。
「お、おいピア!待てって!私も行くからよ!!」
魔理沙は慌てて後を追った。にとりは二人を静かに見送った。
「がんばれ。……盟友である人間」
ピアの後を追った魔理沙は、ようやく追いつくことが出来た。
「待てよ、ピア!お前、八坂神奈子に負けたんだろ?!それなのに、また挑むのか?」
「魔理沙……俺が本当に神奈子に負けたと思うか?」
「あっ……。まさかお前……」
「俺が神奈子に勝ったら、早苗が悲しむと思ってな。どうしても……戦うことが出来なかったんだ」
「ピア……」
「だが、それは俺のミスだった。今頃、諏訪子と神奈子が戦っているかもしれない……。そうなったら、完全に俺の責任だ」
「でも、ピアは早苗のことを考えて負けたんだろ?だったらそんなの、ピアのせいじゃないっ!!神奈子の奴が悪いんじゃないか!!」
「神奈子は悪くない。あいつは……神として、正しい決断を下した。そこに過ちはない……」
「だったら!!」
魔理沙は回り込むと、ピアの襟首をつかんだ。そして、怒った口調でピアに言った。
「だったらピアは、早苗が間違っているって言う気かよっ!!お前がなんで守矢神社に行ったのかは知らないけどさ……でも、早苗は間違っていないと思う。でも、そこでお前が負けを選んだっていうことは、お前が逃げているだけじゃないかっ!!」
「…………」
「ピアがどんなやつなのかは、霊夢から聞いたから知ってる。人の優しさや、純粋な好意が怖いのはわかる……!でもよ……だからって逃げていたら、なにも始まらないじゃないか!」
「…………」
「ピア……お前の全力でぶつかってみろよ。神奈子とピアの実力差が圧倒的だとしても、それでも手を抜いたらダメだと思う。そんなの……相手に失礼だろ?」
「……そうだな」
「ピア……?」
魔理沙は手を離した。ピアは魔理沙の顔をしっかりと見つめた。
「そうだったよ。すまない……魔理沙に言われて、目が覚めた。……俺は逃げない。神奈子と全力で戦う」
「よっしゃっ!それでこそピアだぜ!!そうと決まれば、とっとと行くぜっ!!」
「あぁ!!」
二人は一気に加速させ、守矢神社を目指した。
ドゴオォォンッ!!
「神奈子のわからず屋がぁぁ!!」
ズガアァァンッ!!
「だからお前はアホなのだ!諏訪子っ!!」
守矢神社では、もはや収拾がつかないほどの大惨事となっていた。神奈子と諏訪子が暴れ続けたことで、妖怪の山の被害が次第に増していた。
「神奈子様……諏訪子様……」
早苗は祈った。ピアが再び戻ってくることを。神奈子と諏訪子が戦いをやめることを。
「(お願い……奇跡よ……私の力よ……!)」
早苗が祈る中、神奈子と諏訪子はこれまでにないほどに力をぶつけていた。
「神奈子はッ!早苗の気持ちを何にもわかっていないっ!!」
「これもすべて守矢のため!早苗を守るためだ!!いい加減にしろ、諏訪子っ!!」
「いい加減にするのは神奈子の方だよ!!目の前で惚れた男が落ちていくのを見せつけられて、早苗が悲しむわけないでしょう!?」
「スキマ妖怪が言っていたのだ!!あの男は、いずれ幻想郷を滅ぼすと!!だから私は、早苗を守るために魔王を討った!それだけだ!!」
「それだけ?それだけのためにピアを討ったのかい?自分の目で何も確かめないでぇぇ!!」
「黙れっ!!神穀、『ディバイニングクロップ』!」
「うぐっ!!」
神奈子のスペルを受け、諏訪子が地面にたたきつけられた。早苗はすぐに諏訪子のもとへ駆け寄った。
「諏訪子様ああぁぁっ!!」
「……っ!まだ……大丈夫だよ……」
「全然大丈夫じゃないですよ!……こんな怪我をして……」
「……早苗、そこをどくんだ」
「……!いやですっ!!」
早苗は神奈子の前に立ちふさがった。神奈子は一瞬だけ驚いたが、すぐに調子を戻した。
「どくんだ、早苗」
「嫌です!」
「どけっ!!」
「絶対に嫌ですっ!!これ以上、神奈子様と諏訪子様が戦う姿は見たくないですっ!」
「ならば今ここで、金輪際あの男をここへ連れてこないと……二度と会いに行かないと誓え」
「……!神奈子、あんたはっ!!」
「諏訪子は黙っていろ。……早苗、これはお前が決めることだ」
「そんな……」
「もとより、神と悪魔は相容れぬ存在……会うことは許されないのだ、早苗」
「…………」
「早苗……聞き分けるんだ!」
「だめだ、早苗!!」
「す……諏訪子様……」
諏訪子はフラフラしつつも、何とか立ち上がった。息は荒いが、それでも早苗に言った。
「早苗……あきらめちゃだめだ!だって、初めてなんでしょ?初恋なんでしょ?早苗にとって……外の世界で味わえなかった初めての恋なんでしょ?!」
「あっ……」
「新聞を読んでる時の早苗の目……すっごく輝いてた……。あんなにきれいな早苗の目は、初めてだった……。だから私も見たかったのさ……早苗が見初めた、初めての男の姿を……。なのに……神奈子!!」
諏訪子は再び神奈子を睨み付けた。その意志の強さに、さすがの神奈子も動揺した。
「アンタは……早苗の希望を奪ったんだ!!神奈子も見てたでしょ……早苗の楽しそうなあの姿を……!早苗のことを閑雅ているっていうなら、認めたっていいじゃないっ!!」
「それは……だめだ!!奴は幻想郷を滅ぼす。だから私が手を下したのだ!」
「どこにも確証が……ないくせにっ!!」
諏訪子はすばやく早苗の前に回り込むと、ゼロ距離で神奈子にスペルを放った。
「神桜、『湛えの桜吹雪』ぃぃ!!」
ゼロ距離で放たれては、さすがの神奈子もかわすことはできなかった。
「ぐああぁぁぁっ!!」
神奈子はそのまま吹き飛ばされた。何とかスペルを当てた諏訪子だったが、立っているのも精一杯だったのか、その場に座り込んでしまった。
「諏訪子様!」
「はぁ……はぁ……。ここまで……本気で、やりあったのって……いつ以来かな……」
「諏訪子様……」
「さすがだな……この距離で、当てられては避けようもない」
「くっ……」
煙の中から出てきた神奈子には、外傷がほとんど見当たらなかった。
「残念だが……これで終わりだ、諏訪子」
「…………!」
「……!早苗……」
早苗は再び、神奈子の前に立ちふさがった。神奈子は冷静に早苗に話しかけた。
「早苗……なぜ私の言うことが聞けないの?」
「神奈子様……。私は、東風谷早苗は……ピアさんが好きです!!」
「…………!」
「私はピアさんのことが好きです。まだ会って間もないんですけど……それでも、私は好きになってしまったんです!そして、実際に会ってみると、思いはより強くなりました。この思いに……嘘はつけませんっ!!」
「……そう」
神奈子は短く答えると、一枚のスペルカードを取り出した。
「神符、『水眼の如き美しき源泉』」
「…………!」
「…………」
神奈子がスペル宣言をすると同時に、大量の弾幕が早苗と諏訪子に向けて飛ばされた。
「(……ピアさん、助けてっ!!)」
ドカアァァァァンッ!!
弾幕が着弾すると同時に、神奈子は静かに目を閉じてうつむいた。
「……諏訪子……早苗……。私は、お前たちを……」
「……まだ終わりじゃないぞ、八坂神奈子」
神奈子がはっ、となって顔をあげた。土煙を一気に吹き飛ばし、目の前にいたのは
「ピアさん……っ!!」
「早苗……すまなかったな」
「遅いよ……まったく……」
「遅れてすまない……諏訪子」
「き……貴様っ!!」
神奈子はすぐに身構えた。目の前にいるのは、先ほど自分が倒したはずの悪魔。その悪魔が、再び現れたのだ。
「……なぜ生きている?貴様は私が……!」
「そもそも死んでない。俺は……こんなところで死ぬわけにはいかないんだよ」
「黙れっ!!貴様のような悪魔の存在を、神が許すわけないだろう!」
「私は許すよ」
「諏訪子!」
諏訪子はピアの横に立った。そして、ピアの顔を見上げると微笑みながら言った。
「だって、ピアは早苗が好きになった男だもん……。早苗が好きなら……私も大好きだよ」
「諏訪子……」
「諏訪子っ!騙されるなっ!!その男は……」
「騙されてるのは神奈子の方だよ!あんなスキマの言うことを信じて!!」
「(スキマ?紫のことか……?あいつが俺と神奈子が戦うように仕向けたのか?でも、なぜ……?」
「あの時の奴は、これまでになく本気だった。だから、私も信じてやろうと思っただけだ。そもそも……奴に言われなくとも、悪魔はこの手で滅ぼすっ!!」
神奈子は御柱をピアたちに向けた。しかし、ピアも同時にキャリバーを抜いていた。
「そうは……させない」
「悪魔め……一度敗れておきながら、まだ挑むというのか」
「そいつは違うぜっ!!」
途中からピアにすっかり遅れていた魔理沙が、ようやく追いついた。箒から降りると、八卦路を取り出した。
「お前は勘違いしてるぜっ!あれがピアの本気だと思ったのかよ!?」
「……何?」
「ピア……もう遠慮する必要はねぇ。思いっきり……ぶん殴ってやれ!!」
「言わずもがな……そのつもりだ」
ピアはエッジも抜き、腕を開放した。完全に戦闘モードに入ったことを確認すると、神奈子はスペルカードを取り出した。
「ふんっ……いまさら状況は覆らんっ!!神秘、『葛井の清水』!」
神奈子が弾幕を放った。しかし、ピアはエッジを振り上げて
「『龍炎刃(りゅうえんじん)』!!」
炎をまとわせたエッジの一振りで、弾幕をすべて消し去った。
「なん……だと……?」
神奈子が驚いているのもお構いなしに、次の技を構えた。
「……『破断撃(はだんげき)』!」
一気にエッジを振り下ろし、強烈な衝撃波を放った。その衝撃波はかなり巨大で、神奈子は回避せずに防御態勢を取った。
「うぐぅぅっ!!」
破断撃を受け止めた神奈子でさえも、かなり遠くへ吹き飛ばされた。
「神奈子様っ!!」
「すっげぇ……あの神奈子をあんなに吹き飛ばすなんてな……さすがはピアだぜ!」
早苗と魔理沙が驚いていたが、ピアはそのことを全く気にしなかった。
「……どうした、神様よぉ。俺を滅ぼすんじゃなかったのか?」
「くっ……うぅ……!まさか……これほどの力を……隠していたとは……」
「諦めろ……お前じゃ俺には勝てない」
「黙れぇっ!!天竜、『雨のげんせ』……」
「『双幻夢(そうげんむ)』っ!!」
神奈子がスペルを発動するよりも先に、ピアが技を使った。二人に分身したピアが、目にも止まらない速さで神奈子に一閃を繰り出した。
「があぁぁっ!!」
「神奈子様ぁっ!!」
神奈子はその場に倒れこみ、早苗が急いで駆け寄った。
「神奈子様……!!……ピアさん、もうやめてください!この勝負は神奈子様の負けですっ!!」
「手を……出すな……早苗!私はまだ……!!私が負ければ……守矢は……お前は……!!」
「……わかった」
ピアは武器をしまうと、歩き出した。
「……俺がここから手を引く。これ以上……早苗を泣かしたくはない……」
「ピアさん……」
「貴様!どういう……つもりだ!!お前は……!」
「俺は守矢神社に招かれただけだ。早苗に責任を押し付けるつもりはない。早苗についてきたのは俺の意思だ。その子をあまり責めないでくれ」
「…………!」
「早苗が悲しむ姿は……俺も、お前も、見たくないだろ?」
「それは……」
「神奈子……お前は神だ。だから、魔を敵対視するお前の考えは、間違ってはいない。だが……お前の“善”と、同じ神の諏訪子の“善”は違うんだよ」
「…………」
「すべての神が、等しく同じ意志を持っているとは限らない……。早苗のわがままも……少しは聞いてやれ。道を示すばかりでは、一人では進めなくなる。だったら、たまにはその意思を尊重してやるべきだろ?それが……親(・)ってもんだろ?」
「……!貴様に何がわかるっ!!」
「外の世界から連れ出して、早苗に後ろめたいものがあるのはわかってる!守らなければならないって、責任があるのも知っている!!だが……それと早苗の行き方は、別の話だろ……。本当に大事に思っているなら……もっと早苗を信じてやれよ!!」
「……っ!!」
「俺は……すべてに裏切られた。家族に、国に、世界に……すべてに裏切られた挙句、その存在を忘れられてここに流れ着いた」
「ピア……」
諏訪子がピアに何かを言おうとしたが、ピアがそれを制した。
「だがな……早苗にはまだ、信じることが出来る人がいるじゃないか。早苗は神奈子を信じている……だったら、神奈子が早苗を信じなかったら、どうするんだ?」
「…………」
「問題は俺をどうこうすることではなく、早苗を信じてやるかどうかだろう?早苗は……お前に愛でられるだけの人形じゃないっ!!」
「くっ……」
神奈子はとうとう何も言い返せなくなった。ピアは何も言わずに、早苗たちのもとへ戻った。
「……じゃあな、早苗」
「ピアさん……」
「あとは……お前次第だ」
「……はい!」
ピアは早苗と諏訪子の間を通り過ぎ、魔理沙の前に立った。
「……帰ろう、魔理沙」
「……いいのか?」
「あの三人なら……大丈夫だ。さぁ、行こう」
「……わかったぜ」
ピアは魔理沙とともに、空へと飛んだ。そのまま博麗神社に帰っていった。
翌日。ピアがいつも通りに境内で掃除をしている時だった。
「ピアさぁーん!」
「この声は……早苗?!」
ピアが慌てて振り返ると、早苗が真っ直ぐピアを目指して飛んできていた。早苗は地上に降り立つと、いきなりピアに抱き付いた。
「ピアさんっ!会いたかったです、ピアさん!」
「さ……早苗?!どうしたんだよ?神奈子は?あいつはどうしたんだ?」
「それがですね……」
早苗は説明を始めた。ピアとの戦いが終わった後、天狗たちが珍しく積極的に協力してくれたおかげで、神社の復旧は手早く済んだ。早苗は諏訪子とともに、神奈子を必死に説得した。その結果、ピアを招き入れることは許されなかったが、直接会いに行くことは許してくれた、とのことだった。
「そ……そうなのか……」
「はいっ!!これでいつでも会えますね♪ピアさん♪」
「(な~んか、俺がイメージした展開と違うなぁ~……。まぁ、いいか)」
ピアもそのまま早苗の背中に手をまわそうとした、その時だった。
ゾクッ!!
と、ピアは後ろからとてつもない殺気を感じた。
「ま……まさか……」
「ピィ~アァ~?」
「げぇーっ!!霊夢っ!?」
「仕事中にイチャついてんじゃないわよぉー!!」
「ご……誤解だぁーっ!!」
「絶対に、ゆるさぁーんっ!!」
そしてやはり、霊夢から誤解を受けてしまった。
しかし、今だけはこの時間が、とても心地よかった。