今回本編に戻ります
では第十五章どうぞ
幻想郷の季節は秋を迎えた。空はトンボが飛び交い、風に飛ばされた紅葉が宙を舞っていた。
「おぉ、すっかり秋だな。芋でも焼こうかな」
ピアは神社の裏に行って、芋を収穫してきた。
適当に集めた落ち葉を集め、新聞紙で巻いた芋を置くと、『龍炎刃』で火をつけた。
あっという間にたき火が出来上がった。炎は一気に燃え上がり、芋を覆い尽くした。
「……やりすぎた。もうちょっと加減すればよかったなぁ……」
その後、火加減を調節していると匂いに惹かれた霊夢が出てきた。
「あら、焼き芋?ピアにしては気が利くじゃない!早速いただこうかしら?」
「今さっき焼き始めたばっかだっての。ちょいと待てよ」
「えぇ~。さっさと焼きなさいよ~。あんたの『龍炎刃』とかでさぁ~」
「人の技を一般家庭用みたいな言い方をするな。ついでに見世物じゃない」
「それを言うなら、私だってあんたを見世物にした覚えはないのよ」
「俺は見世物になった覚えはないぜ?とりあえず、俺はここを離れるつもりはないよ。霊夢にはしっかりと恩を返したいからな」
「……そう思ってるんだったら…ちょっとはここでゆっくりしなさいよ……」
「うん?どういう意味だ?」
「べっ!別に意味なんてないわよ!!ほら!もう芋が焼けたんじゃないの?」
「おっ!ちょっと見てみるか」
ピアは右腕を燃え盛る焚火の中へ、迷うことなく突っ込んだ。それを見た霊夢は慌ててピアの左腕を引っ張った。
「ちょ、腕!なんで突っ込んでんのよ!?」
「なんでって……俺の右腕は悪魔だからさ。温度とかを感じる感覚はないんだよ。辛うじて、痛覚が残っている程度かな」
「だ……大丈夫なの?」
「平気だって。霊夢……いつから心配性になったんだ?俺のことなら気にすんなって」
「し、心配なんか……!ただ……ピアが平気なのか気になっただけで……」
「ん……いい具合に焼けてるな。ほら霊夢!食ってみろよ。美味しいぞ」
「……うん」
霊夢はピアに手渡された焼き芋を食べた。焼きたてだったため、熱さを我慢しつつ食べた。
「美味しいわね!すっごく美味しい!!」
「そりゃよかったよ。まぁ、これはおやつ代わりと言ったところだな」
ピアもそう言って、芋を半分にして食べた。ピアが美味しそうに食べているところを、霊夢は少し嬉しそうに見つめていた。
「……?どうした?」
「え……。な……何でもないわ……」
「……?それにしてもおいしい芋だな。さすがは、みのりの秋と言われるわけだ」
ピアが満足そうに芋を食べている時だった。
「ありがと~」
「……?」
「……今の声は……」
ピアと霊夢が振り返ると、鳥居の上に誰かが座っていた。一人は頭に髪飾りをつけており、もう一人は裸足で帽子をかぶっていた。
「アンタたち……秋姉妹!」
「秋姉妹?誰だ?」
「ピアが苦手な神様よ」
「か……神かよ……」
「何よ?神様がそんなに嫌い?」
「まぁまぁ、穣子。あの人は悪魔って、新聞に書いていたでしょ?悪魔って、神様が苦手らしいのよ」
「でも、お姉ちゃん。あの人は芋の美味しさをわかってるわ!きっといい人なのよ!」
「お~い。そんなところにいないで、こっちにこいよ。一緒に芋を食べようぜ」
「えっ、いいの!?わーい!!」
「ちょっと、穣子!」
二人の少女は一緒に降りてきた。ピアは二人に焼き芋を分けてあげた。
「ありがとう。私は『秋静葉』。紅葉をつかさどる神なの。よろしくね」
「私は『秋穣子』。お姉ちゃんの妹よ!私はね、豊穣をつかさどる神なの」
「へぇ~。二人は姉妹なのか。俺はピア・デケム……博麗の巫女の使いなんだ。よろしく」
「こちらこそ!秋を大切にしてくれてありがとう!!」
「まぁ……秋は好きな方だしな。こう……静かな感じがいいよな」
「そうですね。秋は時に、寂しいような……儚いようなイメージもありますが……そこに趣を感じることが出来るのは、とても素晴らしいと思います」
「素晴らしいって……そうか?」
どうやらピアはすっかり静葉と穣子に気に入られたようだった。しかし、霊夢はそのことをあまり快く思っていなかった。
「ちょっとあんたたち!用がないんだったら、とっとと帰りなさいよっ!!」
「あら、そうでしたね。それではピアさん……優雅な秋のひとときを……」
「秋を満喫して行ってね!」
「あぁ。ありがとう」
ピアに別れを告げて、秋姉妹は妖怪の山がある方角へと飛んで行った。
「霊夢、あの二人は妖怪の山に住んでいるのか?」
「住んでると言えば住んでるわね。でも、秋の季節にならないとでてこないのよね」
「ふぅん……」
「それよりもピア、また用事を頼めないかしら?」
「用事?」
「人里に『稗田阿求』って人間がいるんだけど、その人がピアに話を聞きたいっていうのよ」
「ひえだの?変わった名前だな。その人が俺に何の用だ?」
「さぁ?多分、あんたのことを『幻想郷縁起』に書きたいんでしょうね」
「幻想郷縁起?」
「この幻想郷に住む人間や、妖怪のことを記している書物よ。ピアみたいな魔族って、実は幻想郷にはまだいないのよね。文の取材を受けたことで、ピアが正式に幻想郷の住人になったって、認識し始めた人が増えてるし……だから、阿求もピアのことを幻想郷縁起に記しておきたいのよ。……多分ね」
「なるほどな。でも、その幻想郷縁起ってのに書かれたら、俺もようやく幻想郷に受け入れられたってことになるな。よし、行こう」
「あんまり……寄り道しないでよ?」
「しねぇよ。ちゃんと帰ってくる(・・・・・)」
「…………!」
「じゃあ、行ってくるぜ」
ピアは翼を広げて飛び上がると、そのまま人里を目指して飛んで行った。ピアを見送った後、霊夢は胸をギュッとつかんだ。
「あいつ……帰ってくるって……。ちゃんと居場所が出来てるじゃない……」
一人でぽつりとつぶやくと、安心した顔をして神社の中へ入っていった。
人里にいるという人間、稗田阿求。ピアにとっては阿求のような、自分に興味を示す人間が珍しかった。ピア自身も阿求がどんな人間なのか興味があった。人里へ行くため、ピアが妖怪の山の上空に差し掛かった時だった。
「お~い!ピア~!!」
「……ん?この声は……」
ピアが急停止をして下を見ると、将棋をしているにとりと椛、そしてやたらとフリルが多い服を着た少女がいた。
「……下りてみるか」
にとりに呼ばれたこともあって、ピアは降下した。音も立てずに着地をして、三人に声をかけた。
「よう。にとり、椛。それと……誰?」
「あぁ、ピアは会うのは初めてだったね。彼女は『鍵山雛』。私の親友だよ」
「初めまして。鍵山雛です。突然ですが……あなた、厄いですね」
いきなり笑顔で、“厄い”と言われ、ピアはしかめっ面になった。
「なんだ、急に?厄いってのは否定しないけどさ」
「あぁ、そうだった!あのさ、ピア。雛は『厄神』っていって、厄を集める神様なんだよ」
「ま……また神か……。最近多いなぁ……」
「うふふ……あなたは神という存在に、やや敬遠しているようですね。私のことは存分に敬遠してくださいな」
「なんで?たかが厄神だろう?」
「あまり近づくと、私の厄が移りますから……。それが私の能力ですから」
「そうか。じゃあ、俺にはあまり関係がないな」
「……?どうしてそんなことを言えるのですか?私に近づいたら……」
「にとり、王手です」
「えぇっ!?あ~、ちょっと……」
「待ったは、なしです」
「あらら……こりゃ負けたな~」
「負けたというより……彼が来てから、集中力が切れるの早すぎますよ」
「あはは……面目ない」
「まったく……」
にとりとの将棋を終えて、椛は座ったままピアの方へと向いた。
「ピアさん、お久しぶりです」
「あぁ、久しぶりだな。その様子だと……文にちゃんと聞いたみたいだな」
「はい。文様に確認を取ったところ、あなたが人望のある半人半魔であることを知りました。それによりあなたを通すことは、危険ではないことと判断させていただいたまでです」
「そうか……ありがとう、椛」
「なっ……!ち、違います!これはあくまで、文様がそうおっしゃってただけです!別に、あなたを信じたとか……もう一度、話がしたかったとか……そんなのではありませんっ!!か……勘違いしないでください!お礼なら私ではなく、文様に言ってください!!」
「……そうだな。椛、代わりに文によろしくと伝えておいてくれないか?」
「……そ、それくらいなら。伝えてあげないでも……ないです」
「助かるよ」
雛との会話が途切れてしまったので、ピアは雛に向き直った。
「……んで、俺には関係ないって理由だが……。俺には能力を無効にする程度の能力って能力がある。だから、雛の厄がうつることはないぜ」
「能力を無効にするって!?それはすごいや!ねぇ、雛!」
「え……えぇ。驚いたわ。それで私の厄がうつらないようにしているのね?」
「そういうことだ。……っと!そういえば用事を頼まれてるんだった。そろそろ俺は行くぜ」
「そうだったの?呼び止めたりしてごめんね」
「気にすんな。じゃあな」
ピアは再び空に舞い、人里へ向かった。妖怪の山を通り抜けると、人里が見えてきた。ピアが人里へ下りると、村人たちが声をかけてくれた。
「おや、ピアさん。今日も買い出しですかな?」
「いやいやいや、今日は稗田さんに用があるんです。稗田さんの家はどちらに?」
「あぁ、阿求様ですか。阿求様のお屋敷でしたら、このまままっすぐ進んでくだされば、右手に見えてまいりますよ」
「そうですか。ありがとうございます」
村人から道を教えてもらい、ピアは人里内を歩き始めた。人里の中にはピアを見かけると、会釈をしてくれたり、手を振ってくれたりもした。
「まるで地底と一緒だな」
地底においても、同様の歓迎を受けたことを思い出した。もはやピアの存在を知らぬ者はいないだろう。ピアが村人たちに返事をしていると、子供たちが近寄ってきた。
「あ!まおうのにーちゃんだ!!」
「ホントだ!はくれいのみこのつかいさまだ!!」
「よう、ガキども。相変わらず無駄に元気だけはあるな」
「ねぇねぇ!まおうのにーちゃんは、はくれいのみこさまのことが好きなの?いつもいっしょにいるの?」
「ばっ!!何を言ってやがる!?」
「あーっ!にーちゃん、かおがまっかー!!もしかしてすきなの?」
「てっめぇ!クソガキぃ!!今度余計なことを言ってみろ……その口を縫い合わすぞ!!」
「わぁー!まおうのにーちゃんがおこったぁー!!」
「にげろぉー!ころされちゃうぞぉー!」
「待て!このガキどもぉ!!」
ピアは完全に子供に振り回されていた。子供たちは楽しそうに逃げていくなか、ピアは追いかけるのをやめた。
「……ったく、これだから無邪気なガキは……」
「すまない。うちの生徒たちが迷惑をかけてしまったな」
「うん?」
ピアが後ろを振り返ると、いかにも教師らしい女性が立っていた。
「いや、気にしないでくれ。俺も本当は迷惑とか思ってないから」
「そうか?それならいいんだが……。あ、私は『上白沢慧音』。寺子屋で教師をしている者だ」
「寺子屋?さっきの子供は、あんたの生徒って言ってたな」
「あぁ。あなたの噂は聞いているよ。博麗の巫女の使い、ピア・デケムだね?子供たちがよく、あなたの真似をするんだ」
「俺の真似ぇ?やってて楽しいのか?」
「ふふっ……とても楽しそうにしているよ。君の真似で、人助けをしているからね」
「ぐあっ……!マジかよ……」
「初めは悪魔だと聞かされていたから、恐ろしい奴なのかと思っていたが……。なるほど……大人から子供まで、好かれやすいタイプなんだな」
「俺だって……好かれたくて好かれてるわけじゃ……」
「ん?」
「いや、何でもない。俺のことは名前で呼んでくれ。ピアでいい」
「そうか。なら、私のことも名前で結構だ。……ところでピア。今からどこへ行くんだ?」
「あぁ、稗田阿求のところにな。何でも、俺のことを幻想郷縁起に載せたいらしい」
「阿求が?……なんとなくわかる気がするな。ピアのような魔族って種族は、阿求にとっても珍しいんだろうな」
「そして、俺に興味を示す人間は、俺にとっても珍しい」
「なるほど……。なぁ、ピア。もし時間があったら、子供たちに授業をしてやってはくれないか?」
「俺が授業?やめとくぜ。そんなガラじゃないし。魔王が授業って……世間が笑うぜ?」
「それでも頼みたいんだ。子供たちに、外の世界の話をするだけでもいいんだ。頼む……」
「…………」
慧音に頼み込まれては、さすがのピアも断れなくなった。寺子屋の教師となれば、人里での信頼もあるからである。
「……わかった。一回だけだぞ?」
「……!本当か!?」
「あぁ。でも、今は無理だ。先に阿求に会いに行かなければならんからな」
「わかった。それじゃあ、またの機会に」
「ん。またな」
慧音と授業の約束をしたピアは、引き続き阿求の屋敷を目指した。しばらく歩いていると、それっぽい大きさの屋敷を見つけた。
「ここかな?」
ピアは屋敷の門をくぐり、玄関を叩いた。
「ちわーっす。博麗の巫女の使いだ。稗田阿求はいるかぁー?」
「はぁーい。今行きまーす」
ピアの呼びかけに答え、玄関が開いた。そこから出てきた少女は、ピアを見るなり表情が明るくなった。
「あっ!あなたが……ピア・デケムさん?」
「そうだ。博麗の巫女の使いのピア・デケムだ。霊夢から、あんたが俺に用があるって聞いて、ここに来た」
「はい、お待ちしていました。どうぞ中へ……」
阿求に招待され、ピアは屋敷の中へと入っていった。
「どうぞ」
阿求からお茶をもらい、ピアは一口飲んだ。阿求が椅子に座るのを確認すると、早速本題に移った。
「それでは改めて……初めまして。私の名前は『稗田阿求』と申します。今回ピアさんを呼んだのは、あなたのことを私の幻想郷縁起に記録したいからです」
「うん。それはわかっている。それで、俺は何をすればいい?」
「はい。ご存知の通り、ピアさんのような魔族は幻想郷にはいません。私のご先祖様も、さすがに魔族についての記述はありませんでした……」
「ふむふむ」
「そこでです。私が魔族のことを記せば、過去に例がない、新しい幻想郷縁起が生まれるんです!」
「まぁ、そうだろうな」
「はい。ですから、ピアさんに簡単な質問をしたいんです」
「幻想郷縁起は、前に買出しに来た時に読ませてもらった。……随分と主観が混じった内容だな」
「あ……はい……。ですが、魔族はピアさん一人ですので、ちゃんと本人に話を聞こうかな……と」
「オッケーだ。質問を始めてくれ」
「はい」
こうして幻想郷縁起作りのため、質疑応答が始まった。
「では……まず、あなたの名前と職業、世間からの通り名を教えてください」
「名前はピア・デケム。通り名は職業と同じ、博麗の巫女の使いだ」
「はい……。危険度は極高……人間友好度も極高……っと」
「お?危険度が極高?わかってるじゃないか」
「あ、はい。その背中の魔剣……ですね。あと、悪魔としての力とか」
「うん。間違っていない」
「では次に……あなたの能力を教えてください」
「能力を無効にする程度の能力だ」
「はい。……能力を無効に……っと。主な活動場所は幻想郷全域……。魔族は……主な危険度は高、遭遇頻度は高、多様性は高、主な遭遇場所、遭遇時間はいつでもと……」
「いろいろなステータスが随分と高めだな。」
「あぁ、はい。だってピアさんはほぼ毎日、幻想郷中を飛び回っているじゃないですか。目撃報告例なんて、たくさんあるんですからね」
「……たまには神社でゆっくりしようかな……」
「では、続けますね?えっと……被害内容は特になし。対処法は……」
「対処法?ねぇよ、んなもん」
「ですが、何かしら対策がないと……みんなが不安になるかもしれませんし……」
「そうだな……。俺みたいな魔族は、かなり稀だ。一つの世界に、一人はいる確率でな。つまりほとんどいない」
「はい」
「もし……誰もいないのに話し声が聞こえたら、それは悪魔のささやきだ。決して話を聞いてはいけない」
「話を聞かない……と」
「性格がよくても、基本的に悪魔は信じたらだめだ。悪魔は全員が詐欺師だからな。仲間だって騙すような連中だ」
「仲間をも……?でも、“敵を欺くにはまず味方から”という言葉が……」
「それは建て前。悪魔はみんな“敵を欺くなら味方は切り捨てる”が、信条だからな。信じるだけ無駄だ」
「……こうやって聞いてみると、本当にピアさんは特殊なんですね」
「特殊っていうか……おかしいだけだ」
「そうですか……。では、続けますね」
こうして阿求との質疑応答は、日が暮れるまで続いた。幻想郷縁起には、ピアのことが明確に記録されていった。
「……今日はありがとうございました。おかげで魔族について、とてもよく理解できました」
「そうかい。……あまり悪魔にはかかわらないことだ。厄神じゃないけど……不幸っぽいものがとり憑くぞ」
「今日の質疑応答で、ピアさんが“限りなく人間に近い悪魔”であることはわかりました。ですから、大丈夫です」
「……変なことを言うな。じゃあな」
「はい、お元気で……ピアさん」
ピアは日が暮れていたので、まっすぐ神社に帰ることにした。
翌日。ピアが昼食の支度をしていると、外から話し声が聞こえた。盛り付けを一通り終えて、ピアも表に出た。
「なんだ?どうかしたか?」
「おぉ、ピア!見てみろよ!幻想郷縁起にお前のことが載ってるぞ!!」
「知ってる。昨日の今日で仕事が早いなぁ……」
「霊夢、お前も見てみろよ!」
「別に……ソレに書かれていることなんて、私には関係ないわよ。……で、なんて書いてるの?」
「関係はなくても興味はあるんだな……」
「そんなことどうでもいいから。魔理沙、はやく読みなさいよ!」
なんだかんだで、霊夢も興味津々だった。魔理沙は幻想郷縁起のピアのページを開き、音読を始めた。
「えっと……。魔族……人間の心の裏側の住人。主な危険度は高、遭遇頻度は高、多様性は高、主な遭遇場所、遭遇時間はいつでも。
特徴は……最近幻想郷で発見された、新たな種族。その生態、能力が謎に包まれた生物である。
基本的には人間の心の弱った部分に侵入して、魂を喰らって、それを糧にしている。たまに捕食活動も行い、目についた生き物を片っ端から捕まえて食べるらしい。
また、魔族の中には強力な魔法を使う者。魔法が使えない代わりに、驚異的な身体能力を誇る者。そのどちらも劣るが、知略に優れる策謀家など、バリエーションが豊富である。
魔族には一般人と呼べる存在はおらず、生まれた時点で高い戦闘能力を持っている。悪魔には、魔界で生まれるものと、人間に憑依する二種類のタイプがいる。もし憑依されたら、まず諦めるしかない。人の心を失わないように、しっかりと自我を保つことが大切である。
心を完全に悪魔に乗っ取られたら、二度と人間には戻れなくなる。完全に憑依されてしまう前に、悪魔祓いをすれば助かるかもしれない。悪魔の階級によっては、お祓いも意味がない。
対処法は……外の世界に専門のデーモンハンターが存在するが、幻想郷にはいないので、事実上、対処法は存在しない。しかし、今回幻想入りした魔族は比較的安全なので、安心して話しかけてもよい……だって」
「ふぅん。ピアの仲間って、みんな変な奴ばっかりね」
「変ってなぁ……。まぁ、変なのは俺の方だが……」
「魔理沙、はやく次を読みなさいって!」
「まぁ、待てって!すぐ読むから……えっと……」
「はぁ……。俺は昼食の準備を続けに戻るわ」
魔理沙はページをめくり、続きを読み始めた。
「博麗の巫女の使い、ピア・デケム。能力は、能力を無効にする程度の能力。……ん、ちゃっかりもう一つの方もある。紫から聞いたのか?」
「でしょうね。それくらいしかないでしょう?」
「そうだな。続き続きっと……危険度は極高、人間友好度は極高、主な活動場所は幻想郷全域か。まぁ、間違ってはいないな」
「そうね。危険だけど仲良くなれる……なんか、中途半端ね」
「あぁ。これはこれでわかりにくいぜ」
「それはいいから、続きを読みなさい」
「りょーかい。ん~……幻想郷に新たに幻想入りした種族、魔族の代表者。外の世界では魔王として君臨していた、魔族の中で最強を誇る実力者。
彼の力は幻想郷にとっては非常に強すぎるため、普段は力を隠して生活している。
背中に背負っているのは決して棒なんかではない。魂を喰らう呪われた魔剣で、力の封印とその姿の隠蔽もかねて、包帯でぐるぐる巻きにしている。
彼の腰に差さっている宝石のような剣は、聖剣である。本来ならば、魔族にとって聖剣は禁忌とも呼べる存在で、触れるだけで消滅する。
しかし、人間の左腕を持つ彼ならば、容易にその剣を扱うことが出来る。これは、体は悪魔でありながら、人間の心を持つ彼ならではの特徴である。
魔剣は封印が解けると、彼の右腕とともに歪な形に変わるらしい。見たものを狂い殺す力を持っているのが魔剣である。
逆に聖剣は触れたものに命を宿すことが出来るらしい。また、正当な所有者が使うことで、その意思に反応して姿を変えることも出来る。
彼の能力は“能力を無効にする程度の能力”で、文字通り相手の能力を無効化してしまうのだ。能力者が多いこの幻想郷において、まさに最強とも呼べる能力である。
さらにこの能力は、相手の能力を直接使えなくしたり、相手の能力が自分に効かないようにしたりと、攻防一体となった無敵の能力である。
加えて、彼にはもう一つの能力が存在する。それが“因果律を狂わせる程度の能力”である。吸血鬼の“運命操作”に対し、こちらは“現実操作”である。現実を創りだしたり、なかったことにするなど、歴史を創ったり隠したりするのとはわけが違うようだ。
現実とは、いわゆる事実でもあるので、彼に存在を否定されれば、たちまち世界から存在を消されてしまう。すなわち、世界を否定すれば世界そのものが消滅してしまう、恐ろしい能力なのだ。しかし、彼自身はこの能力を自覚していないので、使ったとしてもほぼ無意識だったりする」
「随分と長いわね……。絶対に紫が手を加えたわね」
「次、読むぜ。えっと……目撃報告例は……村人、“わざわざあんな遠い神社からお遣いなんて偉いと思った。とても悪魔には見えなかった。”だってさ」
「対して阿求は……“私も悪魔には見えませんでした。本人はかなり複雑な心境だったそうですが……。”ね」
「次。匿名か……“最近、いろんな女性といるところを見たよ。よくわからないけど、悪魔って人気者なのね。”だとよ」
「阿求は……“彼には人気があるという自覚はないようです。彼にとっては普通に生活していただけでしょう。”だって」
「ほうほう、じゃあ次。また匿名か……“巫女の使いさんのおかげで、いろんな妖怪と話が出来たよ!”か……」
「阿求の方は……“彼は人妖ともに好かれているようですね。彼が仲介役を担ってくれれば、私も様々な妖怪たちに話をうかがうことが出来そうです。”ね。ピアって、意外とまともなことをしてるじゃない」
「だな。次は対処法だが……ん?ほとんど書いてないじゃないか」
「あら、本当ね。あ、でも少しだけ書いてある」
「おっ?気づかなかったぜ。なになに……対処法に関しては、ほぼ無いと言っても過言ではない。
さすがは魔王だけに、戦闘能力が圧倒的なので、彼に挑むのは自殺行為と言えるだろう。ただ、彼自身はとても温厚なので、感情を逆なでしない限りは決闘を挑まれることはない。
仮に決闘をしたとしても、相手に合わせて実力を発揮するので、本気を出すことはまずないだろう。
また、対処法ではないが、一途に思いをぶつけてくる女性や、母性があふれる優しい女性は苦手なようだ。
また、子供嫌いを自称しているが、非常に子供に懐かれていることも、彼の苦手意識の一つらしい。悪魔に関する情報はあまりに少なすぎるので、基本的には決闘を挑まずに親しげに話しかけることをお勧めする……だってさ。これで終わりだな」
「ふぅん……」
「へへっ!なんかピアについてわかったような気がするぜ!!なぁ、霊夢?」
「そう……ね。うん。私も……わかった気がする」
二人が納得していると、ピアが二人を呼んだ。
「おぉーい!飯が出来たぞー!魔理沙もついでに一緒に食えよー?」
「はいよー!……霊夢、行こうぜ」
「うん」
二人は居間へと向かった。そこではピアと萃香がすでに盛り付けを終えて、二人を待っていた。
幻想郷縁起に記録されたことにより、ピアは正式に幻想郷の住人となった。魔理沙と萃香はそれを大いに喜び、霊夢もとりあえず祝してくれた。
そのころ四人が昼食をとる博麗神社の上空に、文が姿を現した。文が手に持っていたのは新聞ではなく、一通の手紙だった。
これからも読者の方の心に残る話を書いていきたいと思います