では第十六章どうぞ!
「ど~も~。こんにちは~!」
ピア、霊夢、萃香、そして魔理沙の食事中に外から声が聞こえた。ピアは、その声が誰なのかがすぐにわかった。
「この声……文か?」
ピアは一度箸を置き、外へ出た。でてきた相手がピアだとわかると、文はにっこりと笑顔を向けた。
「どうも!清く正しい射命丸です!!ピアさん、今日の新聞を持ってきました!」
「あぁ、ありがとう。おかげで幻想郷のことがよくわかる」
「どういたしまして!あ、あと……」
文は新聞を渡した手の逆の手から手紙を見せた。ピアは手紙を受け取り、それをまじまじと見つめた。
「……何だこりゃ?手紙か?」
「はい。あ、私は新聞を配達しなきゃいけないので……内容はピアさんの方でご確認ください」
「了解だ。お勤めご苦労さん」
「はい!それではっ!!」
そして文は風のように飛んで行った。ピアは手紙を持って、部屋へと戻った。
「よう。戻った」
「なぁ、ピア。いったい何だったんだ?」
「あぁ。文が新聞と……手紙を持ってきた」
「……その手紙、ちょうだい」
霊夢に言われてピアが手紙を差し出した。ピアから受け取ったその瞬間、霊夢は手紙を読まずに破り捨てた。
「あぁ!!ちょま、何やってんだよ!?」
「何って……あの天狗が持ってきた手紙なら、どうせろくなものじゃないに決まってるわよ」
「せめて読ませてくれよ……」
「……萃香、直しといて」
「はいよ」
返事をした萃香が能力を使って、バラバラに破られた手紙を再び一つにした。
「はい、元通りだよ」
「助かった。……えっと、なになに?」
手紙にはこう書かれていた。
拝啓 博麗の巫女の使い ピア・デケム様
紅葉に山が染まり、秋の始まりを告げる今日この頃。お初、お目にかかります。
私は命蓮寺にて僧侶をしております、聖白蓮と申します。
昨今のピア様のご活躍、そのお噂はこの命蓮寺にまで届いております。
つきましては、私どもとしては、ピア様と是非お話をしたく存じております。
もしお時間がよろしければ、この命蓮寺、聖白蓮をお尋ねくださると幸いです。
いつでも命蓮寺へお越しくださいませ。お待ちしております。
命蓮寺僧侶 聖白蓮
敬具
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
その場にいた四人が黙り込んだ。しばらく沈黙が続いたが、やがて魔理沙が口を開いた。
「なんていうか……あいつらしいな」
「とうとう白蓮まで……どうしてみんな、ピアに会おうとするのよ……」
「あははは!随分と堅苦しい内容だねぇ。それほどピアは慕われてるってことかな」
「いや……俺、この人知らねぇし……」
ピアが唖然としていると、魔理沙が笑い始めた。
「あはは!そうだった!ピアは白蓮を知らないんだったな。まあ、会ってみればわかるよ」
「そうね。会ってみればわかるわよ。多分……ピアが苦手なタイプだと思うわ」
「うぇ……なんか嫌になってきた」
「だめだよ、ピア。せっかく丁寧に手紙をよこしてきたんだ。会いに行かないと、罰が当たるよ?」
「……わかったよ」
手紙の中には、博麗神社と命蓮寺の場所、さらに道のりや方角まで、詳しく書かれた小さな地図が同封されていた。
「ここまでされちゃあな……行くしかない」
「ハイハイ。いってらっしゃい」
「……なんで霊夢が拗ねてるんだよ?」
「拗ねてないから、とっとと行きなさいっ!!」
「……へぇ~い」
小さな地図を片手に、ピアは命蓮寺へ向けて出発した。しかし、ピアには何か引っかかるものがあった。
「聖……白蓮……。……っかしいなぁ……どうして聞き覚えがあるんだ……?」
しかし、所詮は些細なことだと、ピアは忘れるように顔を横に振った。
ピアは人里の近くまで行き、その途中で地上に降りた。手紙をもらったとはいえ、いきなり飛んできたら怪しまれると考えたからだ。
「っと、この辺でいいか。さてと……こっちか」
ピアは地図に示された道を歩き始めた。人里のすぐ近くに建てられているため、人里からなら飛ばずに済みそうだった。
「さてと……命蓮寺って寺はどんなところやら……」
ピアがあれこれ考えながら歩くことにした。命蓮寺のイメージや、帰りに買出しをすること、今日の晩御飯など、いろいろと考えている時だった。
「う~ら~め~し~や~……!」
突然、後ろから少女の声が聞こえたきた。あまりに不意すぎたので、さすがのピアも驚いてしまった。
「どわああぁぁぁ!!」
「あ、やった!おどろいt」
ドゴォッ!!
ピアは反射的に後ろにいた少女を殴った。加減が効いていないピアのパンチを受けた少女は、木にぶつかって動かなくなった。
「……って!やっちまったあぁぁ!!」
ピアは急いで少女の元まで駆け寄った。
「おい!大丈夫か!?」
「ふわぁ……。やっと……驚いて……くれたぁ……」
「おいおいおい!頼むから死ぬのだけは勘弁してくれよ!?戻ってこぉーい!!」
結局ピアは、気絶した少女が意識を取り戻すまで介抱することとなった。
「……うぅん……」
「お、気が付いたか?」
「あれ……?わちき……どうしたんだっけ?」
「急に驚かしてくるから、反射的に殴ってしまったな。悪かったよ」
「え?あ……いえ、こちらこそ……」
「俺はピア・デケムっていうんだ。……君は?」
「あ、わちきは『多々良小傘』っていいます。あの……なんだか、すみません」
小傘は申し訳なさそうに謝罪をした。ピアはさほど気にしていなかったので、手を横に振った。
「いや、こちらこそ。ところで……小傘は変わった傘を持ってるな」
「あ、はい。わちきは、唐傘お化けだから、いつも傘を持ってるの。えへへ……驚いた?」
「驚きました」
「やったぁ!あぁ、よかった……」
「ん?どういうことだ?」
「わちき……最近は人間がまったく驚いてくれなくなって……。このまま誰も驚いてくれないんじゃないかって、不安になってたの。でも!ピアさんが驚いてくれて、わちきはすっごく嬉しかったの!」
小傘は本当に嬉しそうな顔をした。こうしてみると、小傘は普通の女の子と同じだった。
「……なるほど。人を驚かすことを生業とする妖怪か。まぁ、それはよかったな」
「えへへ……。あ!そういえば、ピアさんはどこに行こうとしてたの?」
「俺か?俺はこれから命蓮寺に行くところなんだ」
「命蓮寺に?なんでまた?」
「あそこの僧侶に呼ばれたんだ。招待されたってところかな」
「そうだったんだぁ!あそこの人たちは、みんないい人ばっかりだよ!あ、でも妖怪もいるんだった」
「妖怪?寺に妖怪がいるのか?」
「はい。あの……ピアさんって妖怪がダメな人?」
「いや、平気だ。……じゃあ、俺は行くよ。またな、小傘」
「はい!お元気で~」
小傘は楽しそうにステップを踏みながら去っていった。ピアは小傘の姿が見えなくなるまで見送ると、目的地へ向けて歩き出した。
「ん?」
その道中で、ピアは何かが落ちていることに気付いた。ピアは草陰に落ちているそれを拾い上げた。
「これは……宝塔か?なんでこんなところに……まぁ、いいか」
ピアは道中に落ちていた宝塔を拾い、命蓮寺へ向かった。
しばらく歩いていると、地面が土から石畳へと姿を変えた。さらに歩き続けていると
「おはよ―ございまーすっ!!」
「おうわっ!!」
今度はいきなり大声で挨拶をされた。二度も驚かされたピアは、冷静に対応した。
「……おはよう」
「あれー?声が小さいですよ!もう一度……おはよー……」
「あぁもういい!大丈夫だ!!元気はある!風邪で声が出ないんだよ!」
「あ……そうなんですか?……お気の毒ですね」
「まったくだ」
「“まったくだ”」
「……はい?」
「あ、いえ。何でもないです。私、『幽谷響子』っていいます。初めましてーっ!!」
「うぐぅ……本当に声がでかい。まるでやまびこだな……」
「はい!私は山彦の妖怪なので、これくらいは当然ですっ!!」
「そっか……俺はピア・デケム。ここの僧侶に呼ばれたんだが……」
「聖さんにですか?でしたら、ここをまっすぐ行けば命蓮寺ですよ!」
「わかった。ありがとう」
「はい、それでは!ぎゃ~て~、ぎゃ~て~」
響子はお経を読み、石畳を掃除しながらどこかへ行った。ピアは三度も驚かされまいと、気を引き締めた。
さらに歩き続け、ようやくピアは命蓮寺に着いた。
「あぁ……なんかすっごく遠く感じたな……。だが、もう大丈夫だろう。早速、中へ……」
中へ入れてもらおうとした時、こちらへ近づいてくる二人組がいた。
「まったく……また無くしてしまうとは。ご主人はどうしていつもそうなんだ……」
「ご……ごめんよ、ナズーリン……。あぁ……私はいつもナズーリンに苦労や迷惑をかけてばかりで……」
「いいよ、ご主人。また私が探そう。なぁに、すぐに見つけて帰ってくるさ」
「ナ、ナズーリン……」
「……寅が鼠に慰められるとは……とにかく行こう」
ピアは二人に近づいた。
「すまんが、ちょっといいか?」
「ん?……あぁ、すまない。今は少し取り込んでてね……後にしてくれないかい?」
「何があったんだ?」
「私のご主人がいつも持っている宝塔を無くしてしまったんだ。これから探しに行くところだから、用件なら後で……」
「宝塔?」
「はい……無くさないようにと、いつも大事にしているんですが……。ナズーリン、すみません。私が不甲斐ないばかりに……」
「いやいやいや。無くしたなら探せばいい。簡単なことだろう、ご主人」
「ナ……ナズーリィン~……」
「あ~……もしかして……宝塔ってこれのこと?」
ピアは道中で拾った宝塔を二人に見せた。ピアに宝塔を見せられ、二人はとても驚いた。宝塔を寅の少女に返すと、少女は泣きながらお礼を言った。
「あっ!宝塔っ!!あ、ありがとうございますっ!!」
「……!それをいったいどこで?」
「道中で拾った。もしかしたら、寺の物かもと思って持ってきたんだ」
「あ……ありがとうございますっ!!おかげで助かりましたっ!!」
「まったくだ。……ご主人が迷惑をかけたね。申し訳ない」
「謝ることはない。俺もたまたまだったから、もしかしたら拾ってなかったかもしれないし」
「いや、拾ってもらった以上は感謝をせねば……。あぁ、自己紹介がまだだったね。私は『ナズーリン』だ。よろしくたのむ。……ほら、ご主人もだよ」
「うん……。私は『寅丸星』です。初めまして」
「ピア・デケムだ。よろしく頼む」
「ピア・デケム……?はっ!もしや、聖が言っていた客人か!?」
「あ、そういえば……ここの住職から、手紙をもらったんだ。ほれ」
ピアは手紙を取り出した。泣き止んだ星がそれを手に取り、中身を確認した。
「ふむ……たしかに、これは聖の字ですね。……お待ちしておりました、ピア殿。聖は寺の奥でお待ちしています。ご案内しましょう」
「(急に態度が変わったな。いや……むしろ、これが本来の姿か)」
星とナズーリンはこれまでの態度から一変して、非常に礼儀正しくなった。
「お見苦しいところをお見せしてしまいました……。申し訳ありません、客人よ」
「いや、気にしてない。案内を任せてもいいか?」
「はい。不肖ながら、この寅丸めにお任せください」
「い、いやいやいや……。いくらなんでも堅苦しすぎるって……。もうちょっと気楽に接してほしいんだが……」
「しかし……あなたは聖の大切な客人ですから、軽率に扱うわけには……」
「俺はあんまり礼儀正しすぎるのは好きじゃないんだ。それとも……それを知ってなお、他人行儀でいるのは、俺を不快にさせるためか?」
「……っ!申し訳ありませんっ!!」
「決してそのようなことは……不快であったのなら、改めまするゆえ、なにとぞ……」
「それだよ、その態度がだめなんだって。別にいいじゃんか。無理に気を張る必要はないよ。ほら、肩の力を抜けって。な?」
「あ……」
「……ご主人。どうやらこの客人は、我々が考えている以上に仁徳にあふれる御仁のようだ」
「そうですね、ナズーリン。まるで……聖と同じです」
二人は顔を上げ、ピアをまっすぐ目を合わせた。
「すみません。聖があなたにとても会いたがっていたので、失礼のないようにと思っていたのですが……」
「まさか客人であるピア殿に気を遣われるとは……面目ない」
「なるほどね。だが、気遣いは無用だ。これからは普通に名前を呼んでくれるとありがたいな。あと、敬語も控えめで」
「わかりました。では、私はピアさんと呼ばせてください」
「なら私は、客人ではなくピアと呼ぼう」
「それで頼む。じゃあ、改めて案内を頼めるか?」
「はい、お任せください」
星とナズーリンの二人と打ち解けたピアは、改めて命蓮寺を案内してもらうことになった。
寺の内部を歩き続け、そのうちの一室へとたどり着いた。星はふすまの前で正座をし、中へ声をかけた。
「聖、星です。客人をお連れしました……入ります」
「……どうぞ」
「はい」
星はふすまを丁寧に開けた。ゆっくりとお辞儀をして、中へと入っていった。ナズーリンは立ったままお辞儀をした。ピアも二人の後に続く。
「…………」
その部屋の中には女性がいた。とても穏やかな表情をした女性で、まるで母親のような優しさを感じさせる人だった。女性はピアの顔を見ると、にっこりとほほ笑んだ。
「ようこそ、お待ちしていました。博麗の巫女の使いであるあなたの噂は、かねてよりお伺いしています」
「じゃあ……あんたが、聖……」
「はい。『聖白蓮』でございます」
「……っ!」
ピアはとっさに右手で頭を抱えた。白蓮は心配そうな顔をした。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……大丈夫だ……」
「そ……そうですか?もし具合が悪くなったら、いつでも言ってください」
「すまない……」
そしてピアは考えた。
「(なんだ……!コイツ……白蓮の顔を見たら、急に頭痛が……!なんだ……?俺は……白蓮を知っているのか……?初めて会った気が……しない……)」
「……星、ナズーリン。ご苦労様です。あなた方は、先に休憩してください」
「わかりました、聖」
「では、失礼するよ」
星とナズーリンが部屋を出ていき、部屋の中には白蓮とピアの二人だけになった。とりあえずピアは白蓮の前に座り、話を聞くことにした。
「……さて、初めまして、ピア君。ようやく……会えましたね」
「みたいだな。んで、俺を呼んだ理由は?」
「理由は……ありません」
「はぁ?ないだと?」
「はい、ありません。私は、ただあなたに会いたかった……会って確かめたかったんです」
「確かめる?」
「はい……。ピア君のことは、新聞で知りました。幻想入りした新たな住人、霊夢さんに仕える不思議な魔王……ピア・デケム君。私は初めてあなたのことを知った時から……ずっと会いたいと願っていました」
「まぁ、なんかそんな雰囲気はあったなと思ってたけどな。まさか悪魔を見たかったなんて、魔女みたいなことを言うんじゃないだろうな?」
「ふふっ……魔女、ですか……。確かにそうかもしれませんね。でも……ピア君からすれば、私もただの人間かしらね……」
「違うというのか?」
「私はね……魔法使いなんです。ただの僧侶と思ったら、怖い目に遭いますよ?」
「おいおい……」
「でも、だからこそわかるんです。この……懐かしい香り……」
「……なに?」
「恐ろしくも優しく……力強くとも、どこか弱弱しく……。とても懐かしいです。また……あなたと出会えるなんて……」
「おい!何を言ってるんだ!?」
「ずっと……ずっと会いたかったんです……。私は……いつかこの日が来ることを……望んでいました」
「だから!いったい何を……」
ピアの言葉を聞かずに、白蓮はそっと立ち上がった。そのままピアのすぐ目の前まで近づくと、そこで再び座った。
「白蓮……?」
「……やっぱり、あの時とずっと一緒ですね……。初めてお会いした時、私はあなたの中にある優しさに惹かれていました……」
「優しさ……?何の話を……!?」
「……もう、随分と転生をなさったのですね……。私のことがわからなくなるほどに……」
「おい……!!」
白蓮はピアにそっと抱き付いた。しかし、反応できたはずのその動きに、ピアは対応できなかった。
「!?!?!?!?」
白蓮を引きはがそうとしたピアだったが、その手は自然と動きを止めた。白蓮は泣いていた。世間一般に言う、うれし涙を流していた。
「やっと……やっとお会いできました……。別魔界への転送から、もう数年の歳月が過ぎてしまいました……。あの時の御恩は、今でも忘れていません……」
白蓮はピアの顔を見つめた。まるで恋人を見つめるようなそのまなざしは、ピアの心に鋭く突き刺さった。
「ずっと……お会いすることを心待ちにしていました。……ディザスター……ガールード様……」
「なん……だと……!?」
ピアは驚愕した。白蓮が口にした名前『ディザスター・ガールード』とは、ピアの肉体に封印されている破滅と混沌を象徴する魔王のことだったからだ。
白蓮が口にした魔王の正体は次回分かります