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では第十九話です
紅葉に染まっていた山は、大分枯れ木が目立ち始めていた。秋が終わりかけ、冬の季節が始まろうとしていた。季節は廻れど、博麗の巫女の使いの日常は変わらない。
「ふぅ……。もうすぐ秋が終わるな……。そろそろ冷え込んでくるかな?」
移り行く季節に趣を感じながら、いつも通り神社で掃除をしている時だった。
「ピアくーんっ!!」
遠くからピアを呼ぶ声がした。ピアはその呼び声に嫌な予感を感じていた。
「この声……白蓮か……」
神社にやってきたのは、白蓮と星だった。二人ともかなり慌てた様子で神社に飛んできていたので、ピアは冷静に対応した。
「よう、白蓮……それに星。朝からお勤めご苦労さん。霊夢はまだ寝ているぞ?用があるなら、またあとで……」
「そうではありません!ピア君、今すぐにここから逃げてくださいっ!!」
「はぁ?逃げるって……なにを言ってるんだ?」
「急いでください、ピアさん!もうすぐ奴らがここに来ます!!」
「いや、誰だよ?そんなに慌てるような連中か?」
「その通りです!なぜなら……」
「道教は仏教の敵……だからですか?」
白蓮が説明をしようとした時、後ろから誰かの声がした。白蓮と星の向こう側にいたのは、見たこともない謎の一団だった。
「くっ……!もうここまで……!?」
「ふっふっふ……聖白蓮。われわれよりも先回りしたことは褒めて差し上げましょう。しかし……先回りできたとしても、彼を誘導するに至ることはできなかったようですね。彼は仏教に対し、さほど関心がないようですね」
「そんなことはありませんっ!彼は私たちの夢に強く共感を示してくれました!道教の道に外れることは決してありません!!」
「おい、お前ら!さっきから俺を無視して話を進めるな!!用がないならとっとと帰るなり参拝するなりしろっての!!……まだ朝の五時だぞ」
「ふふ……焦ってはいけませんよ?われわれは貴方に用があるのですから……ピア・デケム」
「俺に……?」
「ダメです!ピア君!!あの人たちの話を聞いては……!!」
「話を聞くだけだ。その後どうするかは、俺が決める。心配するな、白蓮」
「ピア君……」
白蓮と星の間を抜け、ピアは一段の前に歩み出た。その中でも、特にリーダー格と思われる人物に話しかけた。
「それで?俺に何の用だ?」
「その前に、自己紹介をしましょう。私の名前は、『豊聡耳神子』と申します。初めまして、ピア・デケム」
「あ、どうも」
「これ、お前たちも名乗りなさい」
「はっ!太子さま!」
「ならば、まずは我から……我が名は『物部布都』じゃ!よろしく頼むぞ、ピア殿!」
「よろしく、布都」
「私は『蘇我屠自古』だ。よろしく頼むよ」
「あぁ、よろしく」
二人と自己紹介をしたピアは、二人の名字に聞き覚えがあった。
「(あれ……?物部に蘇我って、もしかしてなんちゃら時代の人か?……なに時代だったっけ……?)」
「どうかしましたか?」
「あ、いや……」
「うふふ……あなたの噂はこの幻想郷中に広まっておりますわ。あ、私は『霍青娥』と申します。こう見えて私、仙人なんですよ?」
「仙人?仙人までいるなんてな。驚いたぜ」
「それはそれは……ほら、芳香ちゃんも挨拶をしなさいな」
「あ~?お前は誰だ~?」
「…………」
ピアが返事に困っていると、代わりに青娥が説明してくれた。彼女の名前は『宮古芳香』。とある場所で、青娥がキョンシーとして生き返らせた死体らしい。
「死体ねぇ……」
「ふふっ。とっても素敵でしょ?」
「あ~……死体ってところは悪くないな。だが、キョンシーでは行動範囲が限られてくるぞ?俺だったら、この剣で……」
そう言ってピアは、腰に差していたキャリバーを見せた。青娥はキャリバーに食い入るように見つめた。
「あら、すごく素敵な剣ですね!ぜひ触らせていただいても?」
「ダメだ。触ったら、殺すぞ?」
「あら、残念」
青娥が大人しく引き下がると、神子がピアの前に出てきた。
「ふふ……貴方のことは、青娥からよく聞いていますよ。博麗の巫女に仕える、優秀な従者であると」
「従者かどうかはともかく……随分と皮肉った言い方だな。その言い方だと、まるで俺は霊夢にとって分不相応とでも言いたそうだな?」
「逆ですよ。あの巫女が貴方に対して分不相応だと言ってるんです」
「なんだと?」
神子はさらに歩み寄ってきた。ピアは思わず一歩後ずさりした。
「貴方が仕えるには、あの巫女は未熟すぎます。あなたはもっと、自信の立場を考えてもらわないといけません」
「……どういうことだ?」
「貴方は……八雲紫に命を狙われている」
「……!?」
ピアはさらにもう一歩後ずさりした。それでも神子はピアとの距離を離そうとしない。
「あのスキマ使いは、あなたを殺そうとしている。あなたは歓迎会という名の宴会で、八雲紫に会ったはず……」
「たしかに……そうだ」
「あの時、彼女は貴方を殺そうとした」
「なんだって!?」
「嘘ではないですよ。しかし、何か不都合でもあったのか、彼女は何もせずに帰っていった……そんなところでしょう」
「紫……」
「原因はおそらく……貴方の中にある何かか、もしくは力……何か心当たりは?」
「いや……特には……」
「そうですか……。そこでです。我々のもとへ来てみませんか?」
「え?」
ピアがさらに一歩後ずさりをしようとして、神子に左腕をつかまれた。捕まった。ピアは間違いなくそう思った。
「我々ならば、貴方を守ることも出来ます。未熟な博麗の巫女や、そこにいる偽善僧侶に比べれば、我らの方が遥かに強い……。それに……守ることとは別に、貴方にはぜひ道教の素晴らしさを知ってもらいたいですしね」
「いや……それは……」
「どうでしょう?ぜひ我々のもとで、ともに道教を信仰してみるのは。悪くはありませんよ?布都や屠自古も、貴方のことを知りたいと言っているので……そうでしょう?布都、屠自古?」
「はい!我はぜひともピア殿と親睦を深め、さらなる見聞を広めたいと思っております!!」
「そうですね、太子さま。個人的には、ピア殿ともっと話をしてみたいと思っています」
「おいおい……」
「ふふっ……。あなたは我々によって命を守られる。さらに我々は、貴方を通して道教を世間に広められる。そして、お互いの敵は八雲紫……利害は一致してますね」
「それはちg」
「それは違いますっ!」
ピアの代わりに反論したのは、白蓮だった。神子は、白蓮に対して冷めた視線を送った。
「何が違うと?我々は利害が一致したから、こうして協力を……」
「それは間違っています!ピア君にとって、霊夢さんこそが仕えるにふさわしいと認めた存在……ピア君にふさわしくないのは、あなたの方です!!」
「それはどうでしょうか?あなたのような偽善者は、彼にとってむしろ邪魔な存在……。さらに博麗の巫女は、魔王たる彼にとっては弱すぎる。未熟ですよ」
「たしかにそうかもしれません……。ですが、先ほどのあなたの言葉を察するに、貴方はピア君を宗教の道具としか見ていませんっ!!」
「それは違いますよ。私は彼を同志だと言っているのです。ピア君がともに歩むべき同志は、我々なのですよ?それとも、あなたは八雲紫の刺客から、彼を守ることが出来るのですか?」
「ま……守れますっ!守ってみせます!!」
「フフフ……それは無理ですよ。あなたと彼では、生まれてきた世界が違いすぎます。ならば尸解仙たる私が、彼とともに道教の道を歩むことは必定……」
「それこそ違います!ピア君を、貴方の道具として振り回すようなことはあってはいけません!もっと彼の意思を尊重すべきです!」
「今のままでは、彼は八雲紫に殺されるだけ……ならば、少しくらいの辛抱は必要なのですよ」
「そんなの……間違っています!!」
「…………」
神子と白蓮が激しい言い争いをし始めたせいで、ピアは完全に置いてけぼりをくらった。
「……ダメだ、こいつら……はやくなんとかしないと……」
ピアがいろいろと対応に困っていると
「ピア……」
後ろから声を掛けられた。ピアが後ろを振り返ると、そこには意外な人物がいた。
「あれ、咲夜?何をやってるんだ?」
「いえ、昨日のお詫びをと思ったのだけれど……なんだか大変なことになってるわね」
「だな。これが宗教戦争ってやつなんだな」
「ところで……今、いいかしら?」
「なんだ?昨日のことがどうのこうのって言ってたようだが?」
「ええ。昨日、お嬢様が霊夢と戦った後にピアに紅魔館まで運んでもらったじゃない?そのことで、お礼がしたいと言ってるの」
「そのことか。気にすんなよ、と伝えてくれないか?」
「そう言うと思っていたわ。お嬢様はどうしてもって言うの。ねぇ、聞いてくれないかしら?」
「あぁ……まったく、レミィらしいな。……わかったよ。今から行こう」
「いいの?取り込んでいるから、ダメだと思ったのだけど……」
「取り込んでいるからこそ、さっさとこの場から立ち去りたいと思っていたところだ。……気づかれないうちに、行こう」
「そうね。行きましょうか」
ピアは咲夜とともに、こっそりとその場から立ち去った。しばらくして、ピアがいなくなったことに気付いた星は、白蓮に声をかけた。
「聖!ピアさんがいませんっ!!」
「え、えぇ!?」
「太子さま!ピア殿はメイド服の女と、どこかへ向かわれてしまいました!!」
「ふむ……布都、屠自古。あなた方で、彼の尾行をお願いします」
「お任せあれっ!」
「わかりました!」
「星!ピア君を追いかけてください!ここは私が!!」
「わ、わかりました!!」
神子は布都と屠自古。白蓮は星に、それぞれピアの追跡を頼んだ。三人は同時に飛び立ち、ピアの後を追いかけた。
「ふっ……意外ですね。てっきり私は、あなたが追いかけるものだとばかり思っていました……」
「あなたをピア君に近づけるわけにはいきません……豊聡耳神子っ!!」
「望むところです。聖……白蓮っ!!」
日の出が二人の影を大きく伸ばしたところで、二人は同時にスペルを発動した。
「光魔、『スターメイルシュトロム』!」
「光符、『グセフラッシュ』!」
「助かったぜ、咲夜。あのままだったら何が起こったか、わかったもんじゃない」
「まったくね。まさかあなたが宗教戦争に巻き込まれるとはね」
「……もう勘弁してほしいぜ」
「さて、もうすぐ紅魔館ね。……ピア、追手は私と美鈴で何とかするわ。あなたは一度、パチュリー様のところへ行ってちょうだい」
「任せるぜ、咲夜」
「えぇ、任せてちょうだい」
紅魔館が見えてくると、ピアはそのまま大図書館へ直行した。咲夜は門の前に下りて、美鈴に声をかけた。
「美鈴!起きてるわね?」
「もちろんです、咲夜さん!」
「ふふっ。あの日以来、あなたがちゃんと起きてくれるようになってくれて助かるわ」
「いやぁ……さすがにピアさんには、いろいろとお世話になりましたからね。いつピアさんが来てもいいように、しっかりと起きていないと!」
「そのピアが、敵に追われているわ。美鈴……私たちで、門を守るわ。敵を迎撃するのよ」
「了解です!!」
咲夜と美鈴は、紅魔館を背にして仁王立ちした。そこへ遅れてやってきた布都、屠自古、星の三人が現れた。
「ふむ、どうやらピア殿はこの館におるようじゃな」
「そうだな。……おい、そこの二人。この館にピア・デケムというやつが来たな?今すぐ通してもらおう」
「これはこれは……随分と手荒いお客様ですね、咲夜さん?」
「そうね、美鈴。礼儀がなっていない、マナー違反のお客様には……早々に、お引き取り願いましょうか」
「(……くっ!このままでは誤解を生むだけ……。聖のために、戦いは避けなければ……!!)」
布都と屠自古が構える中、星だけは戦線を離脱した。そのことを誰も気にせず、もう一つの弾幕勝負が始まった。
「行きますっ!三華、『崩山彩極砲』!!」
「ここから先へは行かせないわ!幻符、『インディスクリミネイト』!!」
「我々も行くぞっ!!炎符、『廃仏の炎風』!!」
「門番とメイド風情が……!雷矢、『ガゴウジサイクロン』!!」
なんとか大図書館に避難したピアだったが、今頃になって空腹がピアを襲った。
「はぁ……はぁ……。まったく、なんで今日は朝から追いかけられてるんだ?あぁ……朝ごはんすらまだなのに……」
「だったら、うちで食べてく?」
空腹のピアに食パンを差し出してくれたのは、パチュリーだった。ピアは皿の上のパンを、目にもとまらぬ速さで食べた。
「もぐもぐ……ん、うまいっ!助かったよ、パチェ!」
「そう。それはよかったわね」
「さぁてと……外で咲夜と美鈴ががんばってるうちに、館の方へ行かないと……」
「あ!お兄様ぁ~!!」
ピアが出口を向かおうとしていると、後ろからフランが抱き付いてきた。
「うおっ!?フランか!」
「えっへへ~。お兄様、フランと一緒にあそぼ?」
「あ~……フラン。遊んでやりたいのも山々なんだが……今はちょっと用事があるんだ」
「えぇ~!そんなのどうでもいいから、フランとあそぼぉよぉ~!」
「ごめんごめん。レミィに呼ばれているんだ。終わったらすぐそっちに行くから、それまで待っててくれないかな?」
「うぅ~……」
フランがいつまでもだだをこねるので、ピアはフランをギュッと抱きしめてあげた。
「大丈夫、俺は嘘をつかないよ。必ずここに来るから……な?」
「お兄様……フランは……」
「ごめんな、フラン……じゃあな!」
「あ……お兄様……」
ピアはフランにしっかりと約束すると、急いで図書館を出ていった。フランはその後ろ姿を呆然と眺めていた。
「仕方ないわ、妹様。ピアは昨日、レミィをここまで運んでくれたのよ。きっと、レミィはそのお礼がしたいだけなのよ」
「うん……」
「そんなに心配しなくても、ピアはすぐに戻ってくるわ。それまで、この図書館で待ちましょう?」
「……うん……」
パチュリーは先に奥へと戻っていった。フランは少し寂しそう顔をした。
「そう……だよね……。お兄様はお姉さまに呼ばれているんだもの……。仕方ない……よね……」
必死に自分にそう言い聞かせ、パチュリーの後を追った。そんなフランの様子を、小さな小さなスキマがじっと見つめていたことも知らず。
何とか紅魔館へは入れたピアは、まっすぐレミリアの部屋を目指した。やがて部屋にたどり着き、中へと入った。
「よう、レミィ。何か用か?」
「あ、あら。ピア……随分と来るのが早かったわね」
「そりゃそうだろ?お前に呼ばれたとなれば、早いに越したことはないだろ」
「そ……そうかしら……。そうでしょうね!フフフ……この私に呼ばれたのだから、無理もないわね!」
「今日の俺は暇じゃないんでね。できるだけさっさと終わらせたいと思っているんだ」
「うぐっ……やっぱりそうくるか……」
「……ん?何のことだ?」
「な、何でもないわ!……それより……」
前置きをしてから、レミリアは改まった口調でピアに言った。
「昨日はありがとう。またあなたに助けられたわね」
「助けたっつーか……お前と霊夢が派手に同士討ちしてただけじゃんかよ」
「うー……あれは勝てると思ってたのに……」
「まぁ、なにはともあれ……お前たちに怪我がなくて良かったよ」
「そ……そう。おかげさまで、ぴんぴんしてるわ。……ところで、ピア。執事の件なんだけど……」
「ならないよ」
「もう!どうしてなのよ!霊夢から受けた恩の方が、そんなに大事だと言うの!?」
「大事だよ」
ピアははっきりと言った。レミリアはやっぱり、と言わんばかりの顔をした。
「そんな顔をするなって。俺にとって、恩を受けるほうが信じられないんだっつーの。だから、受けた分くらいは、ちゃんと働いて返さないとな」
「……あっそう。まぁ、ピアのことだから、そう答えるとは思っていたけど」
「ん?そういえば、まだ朝だっていうのにレミィもフランも随分と早起きだな」
「えっ!?あっ、それ……は……」
「あぁ、そうか。昨日のことで礼を言いたかったレミィが、朝に起こすように咲夜に頼んでいたところを、フランに見られてたんだな?(自論)」
「え……あぁ、そうね!そういえばあの時、誰かの気配を感じると思ったら、フランだったのね!なるほど、どうりで……」
「やっぱりか。さぁてと、そろそろ外への援軍に行かないとな……」
「外?そういえば、誰かが弾幕勝負をやってるわね。誰かしら?」
「わからん。とりあえず、俺は外に……」
「ようやく見つけましたわ」
ピアが扉から部屋を出ようとして、誰かの気配を感じてすぐにやめた。ピアとレミリアが振り返ると、そこには青娥と芳香がいた。
「お前らは……青娥!芳香!」
「あら、お名前をもう覚えていただけるなんて、光栄ですわ。さぁ、ピア様。このようなところでは、非常に見つかりやすいでしょう?今は物部様と蘇我様が外でがんばっていますから、今のうちに移動を……」
青娥がピアに手を伸ばした時、二人の間を槍が飛んでいった。青娥は横目でレミリアを見た。
「……あなたも、私たちの邪魔をするのかしら?」
「邪魔をしたのはどちらでしょうね?……人の一番の至福の時を邪魔して……ただで済むと思ってるんじゃないだろうなぁ!!」
「あらあら。……芳香、こちらの吸血鬼をお相手を」
「わ~か~った~」
青娥の命令を受け、芳香がレミリアの方へ近づこうとした時だった。
「光符、『アブソリュートジャスティス』!」
一筋の弾幕が、芳香を吹き飛ばした。
「う~わ~!」
「くっ……何者!?」
青娥が弾幕が飛んできた方へ目をやると、先ほど外での戦闘で戦線離脱した星だった。
「やはりですね……。あの時、なぜ全員でピアさんを追いかけさせなかったのか……。それは、あなたの壁抜けの能力を使い、確実にピアさんに近づくためだったんですね!」
「ふふっ……さすがは毘沙門天の代理といったところかしら。見事な洞察力ね。それでも……私を止めることはできないわよ?」
「ピアさん!そこのキョンシーは私がひきつけます!その間に、吸血鬼さんと一緒に邪仙の方を!」
「ちょ!誰が吸血鬼さんよ!!私はねぇ……!」
「レミィ、今は後だ!……さて、仙人さんよ。俺は道教を信仰するつもりはないぜ?というより、俺はこの宗教戦争に加わるつもりすらなかったぞ」
「あら?我らが太子さまは、ただあなたを守ろうとしているだけなのよ?それをわざわざ……」
「その件については、感謝しているよ。ただな……」
ピアはエッジを抜いた。右腕が禍々しく変化すると同時に、レミリアも神槍、『スピア・ザ・グングニル』を発動した。
「あいにく俺は従者の身分でね。勧誘したいなら……主人と話をしてもらわないとな!!」
「そう……わかったわ。とりあえず……ここであなたを確保しておかなければね!」
「そうはいかないわ!霊夢を倒して、ピアを手に入れるのはこの私よ!」
「いや、なんかそれいろいろと台無し……」
こうして三度目の弾幕勝負が始まった。時計の針は、まだ昼を過ぎていなかった。
「はぁ……はぁ……。なかなか……やりますね……」
「あなたを……ピア君のところにはいかせませんっ!」
「まだ、そんなことを……いいでしょう。これで最後にしてあげます!」
「そうは……行きません!」
神子と白蓮はかなり長い間戦い続けていたが、未だに決着がついていなかった。そこで、二人が同時に最後の一撃を決めようとした、そのときだった。
「夢想封印……全種類!!」
二人の激しい争いで目が覚めた霊夢が、夢想封印の全種類を同時に発動した。
「え……」
「あ……」
気が付いたころには、時すでに遅し。怒りが爆発した霊夢の夢想封印が全て二人に炸裂した。
ドバゴシャンッ!!
一度に複数の爆発音が聞こえた。ドンと、バゴンと、ガシャンが、同時に聞こえてきたからだ。
「……うぅ……不覚でした……。博麗の巫女を起こしてしまうとは……」
「れ……霊夢さん……すみません……」
「朝からうるさいのよあんたたちはっ!ピアは私が雇っているんだから、あんたたちに口出しする権利は……」
「いいえ、ありますよ博麗の巫女。あなたはなぜ、ピア・デケムが八雲紫に狙われていることを、彼に話さなかったのですか?」
「……!あんた、話したの!?というか、なんで知ってるのよ!?」
「当然ですよ。八雲紫は、私のところにも来ましたから」
「なんですって!?」
「その時のことを、お話ししましょう」
神子は、昨晩の出来ことを話し始めた。
昨晩、神霊廟から満月を見ていた神子は、暇つぶしがてらに歌を詠もうとしていた。そこへ、青娥が近寄ってきた。
「太子さま、まだ起きていらしたのですか?」
「おや、青娥ですか。そういうあなたこそ、まだ起きていたのですか?」
「はい。少し……気になることがありましたので、太子さまのお耳に挟んでおこうかと」
「ふむ……気になることとは?」
「はい、それは……」
「お取込み中、失礼しますわ」
青娥の声を遮るように、どこかから声が聞こえた。神子はそれが誰のものなのかが、すぐにわかった。
「ん……?この声は……スキマ使いですか」
「失礼しますわ」
スキマの中から、新聞を片手に持った紫がおりてきた。青娥がすぐに新聞へと興味を示した。
「あら、その新聞は何でしょうか?」
「とある人物……最近幻想入りした者についての新聞ですわ」
「……で、なぜそれを私に?」
「答えは簡単……」
紫は新聞の一面が見えるように折りたたむと、神子に新聞を手渡した。神子はその新聞の一面を飾っている男の顔を見た。
「ふむ……この男は?」
「幻想郷を滅ぼす者ですわ」
「幻想郷を……?」
神子は目線で合図を送り、青娥をさがらせた。そして、二人きりになったところで会話を進めた。
「……どういうことでしょう?スキマ使い」
「本当に簡単なことですわ。彼は幻想郷を滅ぼす力を持っています」
「して、その力とは?」
「『因果律を狂わせる程度の能力』ですわ」
「因果を……?それは尋常ではなさそうですね」
「えぇ。今、幻想郷のすべてを使い、彼を滅ぼす算段を立てていますわ。……そこで……太子さま」
「…………」
「あなたの力を、ぜひお貸しくださいな。彼が幻想郷を否定すれば、この世界はなかったことになります。そうすれば、道教を広めると言うあなたの夢も、簡単に潰えてしまうでしょう」
「……ふむ」
「すぐにとは言いませんわ。後日、改めてお返事を聞かせてくだされば、結構ですわ」
「…………」
「それでは、ご機嫌よう。よい返事をお待ちしておりますわ」
紫は再びスキマの中へと消えていった。紫がいなくなった後、神子は青娥を呼び戻した。
「青娥。先ほどの話、聞いていたのでしょう?どう思いますか?」
「にわかに信じがたいですね。その新聞の内容を見る限り、悪い者ではないと思われますが……」
「…………」
「太子さま。私に考えがございます」
「ほう、考えですか?それは?」
「この男……あの博麗の巫女に仕えているようです。おまけに、人里では彼の噂が絶えぬほどの人気を誇っております」
「ふむ……それで?」
「彼を通じて、幻想郷中に道教を広めるのです。彼が道教を信仰しているとなれば、人々は自ずと彼の後に続くでしょう」
「なるほど……彼の人気にあやかろうと言うのですね?確かに……いい考えではあるようですね」
「その通りです。しかし、それには彼の命を狙う八雲紫と、彼を従えている博麗の巫女が邪魔です」
「ふむ……」
「しかし、博麗の巫女は彼の存在に甘んじている。あのような未熟者に、彼を扱いこなすことは困難でしょう」
「ふふ……それで、私に彼を?」
「彼は素晴らしい才能の持ち主……それこそ、太子さまにふさわしき殿方にございます」
「あっははは。言ってくれますね、青娥よ。ならば……彼に道教の素晴らしさを、教えて差し上げなければいけませんね」
「では、太子さま……」
「青娥、明朝になったら皆を起こしなさい。起床と同時に朝食。その後、すぐに博麗神社へ向かうよう伝えてください」
「わかりました」
青娥は壁を抜けて部屋を出ていった。神子は紫から手渡されて新聞を広げた。そこには、“博麗の巫女の使い歓迎会!相変わらずの人気ぶり!!”と、大きく見出しが書かれていた。
「……以上が、昨晩の出来事です。私は彼を守るために、彼に道教の素晴らしさを知ってもらおうとしたまでです」
「なんで……なんで教えたのよ!」
「それはこちらのセリフですよ?なぜ教えなかったのですか?」
「そ……それは……」
「彼が恩人に命を狙われているだけで、簡単に絶望すると思ったのですか?彼がこの先、我々に遠慮すると思っているのですか?……寝言は寝て言いなさい。博麗の巫女よ、あなたは彼を軽んじすぎている。彼は我々以上の修羅を、絶望を、恐怖を、怒りを、悲哀を乗り越えてきているのですよ?そんな彼が、今更命を狙われているからといって、恐れるはずがないでしょう?」
「…………」
「博麗の巫女。……彼は魔王なのですよ?その程度の負の感情、なんてことはないでしょう。そんなことにも気づけないとは……どうやら私の予想通りですね。やはり……『限りなく人間に近い悪魔』は、あなたにふさわしくないようです」
「…………」
「おや、何も言い返さないのですか?どうやらあなたは、彼のことを何一つ理解していないようですね。あなたは、彼の何を見てきたのですか?彼の主人を名乗るくらいなら、もっと従者のことを理解するべきでは?」
「くっ……!」
「博麗の巫女……彼は我々が保護させていただきます」
「……っ!それはダメっ!!」
「あなたもつくづくわがままですね。ただ彼とともにいるだけでは、彼を守ることはできませんよ?それとも、彼の助力を借りずに、あなた一人で八雲紫とその式を倒すことが出来ると?」
「それは……」
「それは無理でしょう。なぜなら相手は妖怪の賢者……あなた一人でも、骨が折れる相手です。……彼は我々が守ります」
「いや……いやだっ!ピアは、私が……!!」
「いい加減になさいっ!!」
神子は大声で霊夢を怒鳴った。そのまま霊夢の前まで歩み出た。
「そんな言い訳が、いつまでも通じると思っているのですか!彼はあなたのモノ(・・)ではないのです。彼をあなたの思うようにできると思ったら大間違いです!この幻想郷で、彼を独裁しているのはあなたの方です(・・・・・・・・・・・・・・・・・)!!」
「……!ち、違う!!」
「そうでしょうか?では、あなたこそ彼の意思を尊重しているのですか?あなたは彼の提案を、肯定したことがあるのですか?……ないでしょう?ないはずですよ。彼が他人に向ける親切心を恐れたのです。だからこそ彼と、彼の周りの者とのかかわりを……」
「違う違う違うっ!!そんなんじゃない!そんなつもりじゃ……」
「もうやめなさいっ!」
二人の間に、白蓮が割って入った。白蓮は霊夢を守るように、神子の前に立ち塞がった。
「これ以上、霊夢さんを追い詰めるというのならば、私が本気で相手をします!!」
「聖白蓮……。あなたはもう気づいているでしょう?博麗の巫女には誰かを支え、守る覚悟が無さすぎる。ゆえに私が守ろうというのです」
「それではいけないのです!ピアくんは、霊夢さんが責任を持って守ります!これは霊夢さんとピア君の問題です!」
「八雲紫がかかわる時点で、これは二人の問題ではないのです。……これ以上の争論は無用のようですね。私も布都たちのもとへ行きましょう」
「……っ!させませんっ!!」
白蓮が魔法、『マジックバタフライ』を放ち、神子の足止めをした。
「霊夢さん!行ってください!!」
「……白蓮……?」
「私にとって、ピア君の幸せが私の幸せです……ですから、彼を追ってください!彼はメイド服の女性とともに飛んで行ったそうです!」
「(メイド……咲夜か!)」
霊夢はすばやく立ち上がり、紅魔館へと向かった。
「くっ!逃がすわけには……」
神子はすぐにあとを追いかけようとしたが、白蓮によって阻まれた。
「豊聡耳神子……私の幸せを、あなたに託すことはできません」
「……これでよい……」
「……?」
「いえ、何でもありませんよ。さて、勝負の続きと行きましょうか」
霊夢は飛んだ。ただただまっすぐに紅魔館を目指して。大切な従者のもとへ。
「ピアは……私が……守るっ!!」
今の霊夢に迷いはなかった。ただ守る。どんな障害だろうと、どんな刺客だろうと、必ず守ってみせる。たとえ自分の方が弱くても、守る資格が無かろうと、絶対に守ってみせる。
「私が……ピアを守るんだからっ!!」
第二十章へ続く…