東方魔郷談   作:Walther58

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二人の思いが交差する第二十二章どうぞ


第二十二章 ~妹たちの暴走、目覚める因果~

 

「こいしっ!もうやめなさいっ!!」

「嫌だよ……。だってこうしないと……お兄ちゃんが私を見てくれないもんっ!!」

 

 フランが地上で暴れている頃、地底でも同様にこいしが暴走していた。さとりはお燐とお空に地底妖怪たちの避難誘導を任せ、自分はこいしの相手をしていた。

 

「だってそうでしょ!?無意識を操る私を見つけてくれるのは、お姉ちゃんとお兄ちゃんだけ……。でも、お兄ちゃんはお姉ちゃんと違って、いつ、どこにいても私を見つけてくれる……。私にはお姉ちゃんとお兄ちゃんしか……お兄ちゃんしかいないのよ!!」

 

「こ……こいし……!!」

 こいしは容赦なくスペルを発動した。

 

「表象、『弾幕パラノイア』!!」

 こいしの弾幕が展開され、さとりはそれをなんとか回避した。

 

「やめなさい、こいし!ピアさんはこいしを見捨てたりはしないわっ!」

「私にはお兄ちゃんしかいないのに……お兄ちゃんだけなのに……私の閉ざした心をわかってくれるのは、お兄ちゃんだけだと思ってたのに……。みんなが私からお兄ちゃんを奪っていくんだっ!!」

「(こいしが誰かのことを好きになってくれたのは嬉しいけど、これはさすがに……放置できない……!!)」

 

 さとりは何とか説得を試みるも、こいしは聞く耳を持とうとしない。こいしの弾幕をかわすにつれて、徐々に追いつめられてくる。

「くっ……!」

 

「お姉ちゃん……お姉ちゃんもそうなんでしょ……?お姉ちゃんだって……お兄ちゃんのこと……」

「こいし……?」

 

「お兄ちゃんのこと……好きなんでしょー!!」

「!?」

 

 こいしの言葉に、さとりは一瞬だけ心が揺らいだ。自分がピアのことを好きなどと言われて、動揺しないはずがない。

「ど、どどど、どうしてそうなるの!?私は、ピアさんのことは……」

 

「好きじゃないの?でも、嫌いじゃないでしょ!」

「それは……そうだけど……」

 

「うそつき!お姉ちゃんだって、お兄ちゃんに心を開こうとしてたでしょ!?心を覗く覚り妖怪が心を開くって……どんな冗談よぉ!?」

「(こいし……?言ってることが支離滅裂だわ……!こんなの……こいしじゃない!まるで……誰かに洗脳されているような……)」

 

 確かにおかしかった。心を閉ざしたこいしなら普段は心の話題には全く触れないというのに、今日はやけに心について話をしてくる。しかし、これではまるでこいしが言っているのではなく、言わされるようなことを、こいしが誰かに言われたようなものだった。

 

「(……誰かが、こいしの閉ざした……開きかけていた心を揺さぶっている……?誰かがこいしの思いを……利用している……?)」

 さとりはいろいろと思考を巡らせるが、こいしはそんな時間を与えてはくれなかった。

 

「うああぁぁぁっ!!」

「くっ……!」

 

 こいしの激しい攻撃に、さとりは防戦一方だった。今のこいしを傷つければ、今以上に暴走しそうだったからだ。かと言って、ここでやられてしまえば、こいしは地上で戦いを始めるかもしれない。とにかく逃げて、生き延びるしかない。さとりは必死にかわし続けた。

 

「お姉ちゃん……どうして戦わないの……?誰か助けが来ると思っているの?」

「……!どういう……?」

 

「旧都のみんなはもうやっつけたの……。お燐やお空は、今頃救助活動で来れないから、今のうちにお姉ちゃんをやっつけてあげる……」

「こいし!?」

 

 旧都のみんなはやっつけた。それは、こいしが一人で勇儀やパルスィたちを相手取り、勝ったということだ。さとりは信じられなかった。どうりでお燐やお空の帰りが遅いはずだった。

 

「(それならそれでいい……。お燐やお空たちには、人命救助をしてくれた方が助かるわ。あの二人じゃ……こいしの相手はできないだろうから……)」

「さぁ、お姉ちゃん。お姉ちゃんを……思いっきり殺してあげるっ!!」

 

 こいしの容赦のないスペルが襲い掛かってくる。さとりは何とか逃げつつけたが、とうとう追いつめられてしまった。

「終わりぃっ!!」

「……っ!!」

 

 こいしの弾幕がさとりを捉え、確実に直撃コースでとんできた。やられる、さとりがそう思った時だった。

「式神、『仙狐思念』!」

 

 さとりに向けられた弾幕は、別方向から飛んできた弾幕によって弾かれた。

「……!これは……」

 

「古明地さとり!無事か!!」

「あなた方は……」

 

 そこに現れたのは、藍と橙だった。橙はすぐにこいしに飛びかかり、こいしを引き付けた。その間に、藍がさとりに事情を説明した。

「そんな……紫さんが……?」

 

「申し訳ない……。私が……紫様を止めていれば、こんなことには……」

「いえ……ですが……。幻想郷を守るためとはいえ、人の想いを利用するなんて……」

 

「それは……」

「……今はこいしを止めることが先です。お二人の協力を得られれば、私も……」

 

「いや、古明地さとり……貴方にはピア・デケムを連れてきてほしい」

「えっ……?」

 

 さとりは藍の方を見たが、藍は橙とこいしの戦闘から目を離さなかった。戦況は、橙の方が不利だった。

「彼は今、レミリアの妹、フランドールの相手をしている……。彼の実力から察すれば、今から行けば終わっている頃だろう……」

 

「ですが、それではお二人に迷惑を……」

「古明地こいしの実力は、姉であるあなたが一番分かっているはず……。頼む!ピア・デケムを連れてきてくれ!今の彼女を止めるのに必要なのは力じゃない!“彼”が必要なんだ!」

「……!」

 

 “彼”。こいしを止めるために必要な存在。弾幕勝負をして止めるのではなく、“彼”が必要だといった。

「(……知らなかった……。あの人の存在が……これほど大きなものだったなんて……。あぁ……なるほど。だから……こいしも……)」

 

 さとりは黙って頷くと、地上を目指して飛んで行った。

「あっ……お姉ちゃん……どこにいくのよぉーっ!!」

 

 人が変わったように暴走しているこいしが、さとりを逃がすまいと追いかける。しかし、こいしの進路上には藍と橙が立ち塞がった。

「ねぇ……そこをどいてよ……」

 

「ここから先へは行かせない。……橙、まだ行けるか?」

「はぁ……はぁ……。は、はい!藍さま!!」

 

「どいてよぉ……どいてってばあぁっ!!」

 豹変したこいしが二人に襲い掛かる。二人も遅れは取るまいと、弾幕を放った。

 

「本能、『イドの解放』おぉぉっ!!」

「お前はここで止めてみせる……式輝、『プリンセス天狐 -Illusion-』!」

「全力で行きますっ!天符、『天仙鳴動』!!」

 

 

 妖怪の山の上空。フランを追っていたピアはようやくフランに追いついた。

「フランっ!待てぇっ!!」

「…………!」

 

 ピアに呼び止められ、フランはようやく動きを止めて振り返った。

「あ、お兄様!」

 

「フラン……何をする気だ……?」

「何って……ほら、お兄様って、前に山の神様に酷いことされたって、魔理沙から聞いたことあるんだぁ……。だからね、フランが仕返しをしてあげるっ!!」

 

「しなくていい!する必要もない!そんなことしたら、フランが危なくなるだけだ!!」

「フランのことはどうだっていいの!お兄様が……お兄様がつらい目に遭わなかったら、それで……それだけで!」

「……!?」

 

「今のお兄様……フランと一緒……。傷ついて、自由もなくて、苦しそう……。だから!フランがお兄様を自由にするのっ!!」

「フ……フラン……」

 

 今のフランは、狂気に囚われていなかった。むしろ至って正常で、ピアのためにやろうとしているだけだった。

「フラン、頼む!俺の話を聞いてくれ!!」

 

「大丈夫だよ、お兄様……。フラン……ガンバルから!」

「……!斬符、『斬鋭弾』!!」

 

 ピアはとっさにスペルカードを使った。フランはピアが撃ってくると思っていなかったのか、慌てて回避した。

「え……?お兄様……何をするの……?」

 

「フラン……俺と遊ぼう。……弾幕勝負でな」

「……!!」

 

「俺の技……スペルカードにしてみたんだ。どうだ?よくできてるか?」

「……すごい……すごいよお兄様!やっぱりお兄様ってなんでもできるのね!!」

 

「まぁな。そこで、だ。どうだ?“負けたら一日だけ、相手の従者になる”ってルールで、俺との勝負……やらないか?」

「勝ったら……お兄様を従者に……!私、やる!!」

 

「(よし……。やっぱり簡単に釣れたな……。だが……あまりいい気分ではないな……。ごめんよ……フラン……)」

 ピアはエッジとキャリバーを抜き、戦闘態勢に入った。フランもピアと同じように構えた。

 

「行くよ、お兄様!あの時のようにはいかないんだからっ!!」

「そうだな。行くぞ……フラン!!」

 

 まず手始めに、ピアは先制攻撃をした。

「まだ見せてないスペルを見せてやるよ……破符、『落砕牙』!」

 

 ピアは空に大きな刃を出現させ、それをフランにめがけて落とした。

「そんなもの!当たらないよっ!!」

 

「だったら逃げ場を奪う!斬凍、『氷裂斬』!!」

 ピアは大量の氷型の刃を出現させ、高速でフランに撃った。

 

「うっ……!どこかに逃げ道……!」

 フランは弾幕の隙間をかいくぐり、何とか脱出した。そして、後から遅れてやってきた落砕牙が、先ほどまでフランがいた場所を吹き飛ばした。

 

「素敵……カッコイイよ!お兄様!!」

「あ……あぁ、ありがとう……」

 

「でも私だって負けないよ!禁忌、『カゴメカゴメ』!」

 フランも負けじとスペルを放つ。ピアは弾幕をよけながら、次のスペルを使った。

 

「刃符、『天裂刃』!」

「禁忌、『クランベリートラップ』!」

 

「撃符、『烈風撃』!」

「禁忌、『恋の迷路』!」

 

 ピアはフランと激しい弾幕の撃ち合いを繰り広げた。その間も、フランはとても楽しそうだった。

 

「アハハ!やっぱりお兄様との弾幕ごっこは楽しいよ!」

「そうか……」

 

「ねぇ、お兄様……」

 フランは突然ピタリ、と動きを止めた。ピアも動きを止めて、フランと向き合った。

 

「どうした……?」

「お兄様は……フランのこと……好き?」

 

「えっ、あ、なっ!?」

 いきなりすぎてピアは気が動転してしまった。自分に必死に落ち着くように言い聞かせ、冷静に対処した。

 

「えっと……いきなり驚かすなよ……」

「あ……ごめんなさい……。でも……知りたかったから……」

 

「それは……」

「ねぇ……フランは……好きだよ。お兄様は……好き?」

 

 フランはどこまでも幼い瞳でピアを見つめた。今にも飛びかかって、ピアに甘えたい気持ちを必死に抑えているようにも見えた。

「お……俺は……」

 

 好きだ。それだけで済むはずなのに、どうしても喉の奥でつっかえる。ピアは認めたくなかった。自分が誰かを愛するという甘さを。それでもピアは、今の自分に必要な思いを無理矢理引き出した。

 

「好き……だ。俺は、フランのことが……好きだ……」

 言った後で後悔した。上辺だけを繕ったような言葉。まったく思いがこもっていない虚しい声。そこには愛など存在していなかった。それでもフランは、ピアに向けてにっこりと笑った。

 

「ありがとう……お兄様……。大好きっ!!」

 フランはレ―ヴァテインを捨てて、ピアに思いっきり抱き付いた。あまりに無垢で純粋すぎる少女。彼女を騙しているのは紫ではなく、自分の方だった。

 

「ごめん……フラン……ごめんな……!」

「え……?どうしたの……お兄様?」

 

「俺は……最低な奴だ……。人の心をもてあそんでいるのは、俺の方だ……。今だって……フランの気持ちを利用して……」

「そんなこと……ないよ……」

 

「えっ……?」

 フランは顔を上げると、ピアに小さくキスをした。突然すぎて、ピアはどうすればいいのかわからなかった。

 

「ちょ、フラン……?」

「フラン……怖かったの……。お兄様に見捨てられるんじゃないかって……。他の人と一緒にいて、もう遊びに来てくれないんじゃないかって……」

 

「ばかやろう……。俺がフランを見捨てるわけないだろ?そんなに心配するな」

「うん……ごめんなさい……。フラン……お兄様が嫌いになったのかなって思って……怒ってたし……」

 

「あのな、フラン……生き物ってのは不思議なもんだ。相手を怒ったりするのはな、相手のことを大事に思っているからなんだ」

「本当……?」

 

「あぁ、本当だ。本気で嫌いだったら、そもそも会話すらしないらしいからな。俺がフランを怒ったのは……フランのことが大事だからなんだよ」

「お兄様……」

 

 フランはさらに強く抱きしめてきた。その顔は、すっかり安堵の表情を浮かべていた。

 

「(愛すること……もう一度、許されるならば……)」

 もう一度誰かを愛するならば。それははたして誰なのか。ピアがそう考えていると

 

「ピアさーんっ!」

 遠くから誰かが呼ぶ声が聞こえた。ピアが振り返ると、さとりが慌てた様子でピアの方に向かっていた。

 

「さとり……?どうかしたのか?」

 さとりはかなり急いできたらしく、呼吸が乱れていた。

 

「ピ、ピアさん!大変なんです!助けてください!!」

「助けって……いったいどうしたんだ!?」

 

 ピアはさとりから事情を聞いた。それは藍から聞かせてもらった情報と全く一緒だった。

「今は藍さんと橙さんが足止めをしていますが、いつまでもつか……」

 

「わかった。どうやら今回はとことん紫が黒幕だっていうのは理解した。俺もすぐ地底に……」

「その必要はないよ♪」

 

 三人が声のした方へ振り返ると、そこにはこいしがいた。

「こいし……!?二人はどうしたの、こいし!」

 

「うん。邪魔だったから……お片付けしたよ」

「そんな……」

 

「こいし……!」

「あ、お兄ちゃんだぁ」

 

 こいしは無邪気に手を振った。同じだった。あの時のフランと同様、こいしの行動にも悪意がない。

「こいし……何をやっているんだ?」

 

「うん。お兄ちゃんが私のことだけを見てくれるように頑張ってるの」

「なに……?」

 

「だって、私がお兄ちゃんと一緒にいたいのに、みんなが邪魔をするんだもん。だから……邪魔な人には消えてもらうの」

「そんなことで……」

 

「え?そんなこと?」

「そんなこと……許されるはずがないだろうがっ!!」

 

 ピアはさっきまでフランと戦っていたとは思えないほどの覇気で、こいしを圧倒した。

「お、お兄ちゃん……?」

 

「勝負だ、こいし……説教だっ!!」

 ピアはスペルカードを発動した。

 

「刃灰、『龍炎刃』!」

 ピアがエッジを振って弾幕を放つと、こいしは楽しそうにそれをよけた。

 

「わぁ!今度はお兄ちゃんが相手になってくれるの!?嬉しいっ!!」

「あぁそうだ、俺が相手だ。こいしのやっていることが正しいかどうか……俺が教えてやる!」

 

「……?まぁ、いいや。じゃあお兄ちゃん、いっくよー!無意識、『弾幕のロールシャッハ』!」

「来いよ、こいし!撃滅、『雷神撃』!!」

 

 ピアとこいしのスペルがぶつかり合う。しかし、力の差ならピアの方が上だった。

「やっぱりお兄ちゃんは強い!普通に戦ってたら、勝ち目はないね!」

 

「そこは感心するところじゃないぞ……。とにかく、こいし。旧都のみんなは……藍と橙は大丈夫なのか?」

 ピアの質問に、こいしはうつむきながら答えた。

 

「……生きてる……と思う」

「思うって……どういうことだ!?」

 

「だ、だって……こうでもしないとお兄ちゃんが……お兄ちゃんが私を見てくれないと思ったから……」

「……紫にそう言われたのか?」

 

「うん……。……無意識の中にいる私を……心を閉ざした私を見てくれるのは、お兄ちゃんだけだから……だから……!」

「それは違うぞ、こいし」

 

「え……?」

 こいしが顔をあげた時、ピアはすでに目の前にいた。

 

「お前には俺だけじゃない……お燐、お空……旧都のみんな……そして、さとり。みんなが……家族がいるじゃないか」

「……!か……家族……」

 

 こいしは思い出した。自分の周りにいる者たちを。そして、それを自らの手で壊そうとしていたことを。

 

「こいし……俺はお前を見失ったりはしない。能力を無効にしているとはいえ、俺にははっきりとお前が見える」

「お兄ちゃん……」

 

「心を閉ざしていようとなかろうと、俺には他人の心なんてさっぱりわからん。だがな……今のお前が苦しんでいることぐらいはわかる」

「お……兄ちゃん……」

 

「こいし……もういいんだ。俺のために……こんなこと……でも、ありがとう……」

「お兄ちゃああぁんっ!!」

 

 こいしはピアに泣きついた。ピアは先程のフランの時と同様、こいしを抱きしめた。さすがに三連戦もしたので、ピアの顔には疲労の色がうかがえた。

「ピアさん……大丈夫ですか?疲れているようにも見えますが……」

 

「だ……大丈夫だ……。だが……状況はあまりよくはないな……」

 ピアはフランの方を見た。不安そうな顔をするフランに手招きをして、二人一緒に抱きしめた。

 

「(紅魔館は、フランが皆に致命傷を与えちまったみたいだし……地底の方もこいしが暴れたから、おそらくひどいことになっているだろう……。それよりも藍と橙だ。負傷した二人を紫が回収して、人里とかで妙なほら話でもしたら……たちまち人は信じてしまうだろう。俺としては……それでもいいのだが……)」

 

 ピアは自分に甘えてくる二人の妹を見た。二人とも離れようとするそぶりは見せず、時たま言い争いもしていた。

「(それだと……二人のような人たちを悲しませることになる……。……くそっ!もしこの現実を嘘にできるなら俺は……俺は……!!)」

 

 ピアが強く願った。力が、力があれば。この世の現実をひっくり返すくらいの力があれば。そう思って空を見上げた時、そこには大きな口を開けたスキマがあった。

 

「……!?フラン、こいし!あぶねぇっ!!」

 ピアはとっさに二人を突き飛ばした。フランとこいしが状況をつかむ前に、ピアはスキマから現れた電車に地面まで押しつぶされた。

 

「があぁぁっ!!」

「お兄様!!」

 

「お兄ちゃん!?」

「……っ!これは……!!」

 

「……廃線、『ぶらり廃駅下車の旅』……」

 スキマの中から、紫がゆっくりと現れた。フランとこいしは、大好きな兄を傷つけた妖怪に、敵意をむき出しにする。

 

「紫!お兄様に何をするのよっ!!」

「いきなり攻撃するなんて……お兄ちゃんが何をしたっていうのよ!!」

 

 憤る二人に対し、紫は冷徹なまなざしを向ける。

「なにも……ただそこにいたから攻撃しただけ……それが何か?」

 

「よくも、お兄様を!禁弾、『スターボウブレイク』!!」

「許さないんだから!心符、『没我の愛』!!」

 

 二人は怒りのままに弾幕を放った。しかし、紫はそれを鼻であしらうように、淡々とスペルを発動した。

「……境符、『四重結界』」

 

 すると、紫の前に分厚い結界が出現し、二人の攻撃を遮った。

「……っ!?」

「そんな……!!」

 

「お前たちのような……悪魔にたぶらかされた妖怪風情が、私に勝てるわけがない……身をもって知るがいいわ。……結界、『夢と現の呪』」

 紫が放つ強力な弾幕は、二人に大ダメージを与えた。

 

「「きゃあぁぁっ!!」」

 フランとこいしは同時に被弾し、二人は力なく落下していった。

 

「こいしっ!フランさん!!」

 さとりが後を追いかけようとするが、紫がそれを許さなかった。

 

「紫さん!?どうしてこんなことを……!」

「すべては幻想郷のため……あの男を殺すためよ」

 

「……因果操作による消滅が恐ろしいのですか?」

「……!古明地さとり……!!」

 

「今、感情によって取り乱しているあなたから、わずかでしたが心を読みました。……ピアさんにそのような力があったなんて……」

「そう。彼が幻想郷を否定すれば、ここはなくなってしまう。その前に排除する必要があるわ」

 

「彼が本当にそうするとでも……!?」

「可能性は……否定できない」

 

「くっ……」

 早くしなければ、フランとこいしが地面に激突する。だが、目の前には紫がいる。

 

「(八方塞がり……。このままじゃ、こいしが……!!)」

 さとりがそう思った時だった。下の方でわずかに光が見えたと思った、その時だった。

 

「滅符、『滅閃光』!!」

 スペルの宣誓が聞こえたと同時に、強力なレーザーが下から紫を砲撃した。

 

「ぐぅ……!ピア・デケム!!」

 紫が叫んだ方向には、けがをしたフランとこいしを抱えたピアがいた。そのままゆっくり浮上して、さとりの隣まで上昇した。

 

「紫……なぜ二人を撃った?」

「なぜ?私に対して、敵意を向けてきたからよ」

 

「お前が殺したかったのは……俺じゃなかったのか?」

「えぇ、あなたよ。だから、あなたの味方である二人を撃っただけよ」

 

「……て……めぇ……っ!!」

 ピアは本気で怒った。許せなかった。自分ではなく周りを巻き込み、傷つけたことが何より許せなかった。

 

「認めない……こんな現実が……あってたまるかああぁぁぁっ!!」

 ピアは一瞬だけ自分の何かが変わるのを感じた。そして、ピアは頭の中に浮かんだスペルカードを発動した。

 

「うおおおああぁぁぁっ!!因果ぁ!『有象と無象の二律背反(アンチモニー)』!!」

 ピアが叫ぶと突然、世界が鏡のように割れる感覚が幻想郷を襲った。そして、気が付いたときにはフランとこいしの傷はなくなっていた。

 

「なるほど……これが、因果を狂わせる俺の力……か」

「馬鹿な……!力に目覚めたですって!?一体何をしたの!!」

 

「何って……因果反転」

「因果……反転!?」

 

「起きたことを無かったことに……起こりうるであろうこと、可能性として起きなかったことを起こした……必要なことだけな」

「……!」

 

「多分……今頃は影響が出ているだろうな」

 ピアの言う通り、『有象と無象の二律背反』の力は、ピアが因果の反転が必要と判断した場所で発生していた。

 

 

~紅魔館~

 

「……うっく……。こ……ここは……?」

 パチュリーは大図書館の床で目を覚ました。

 

「たしか……私……」

 パチュリーはこれまでの経緯を振り返った。咲夜と美鈴、レミリアが負傷したので、紅魔館の修復を行おうと魔法を使おうとした時だった。フランに声を掛けられ、気が付いたときにレ―ヴァテインによって内臓を抉られた。このままでは死ぬ。確実にそう思いつつ意識を失い、次に目を覚ました時にはまるで何事もなかったかのような状況になっていた。ぶちまけられたはずの臓器も血痕も、最初からなかったかのように消えていた。

 

「これは……一体……?」

 パチュリーが辺りを見回すと、近くに小悪魔も倒れていた。パチュリーは近くに駆け寄り、小悪魔を起こした。

 

「うぅ……あれ……?パチュリー様?お怪我は……?」

「私は平気。それより、いったい何があったの?こぁ、あなたは何を見たの?」

 

「はい……」

 小悪魔は見てきたものをすべて説明した。

 

 パチュリーの命令により、紅魔館修復と、けがの治癒に必要な材料を取りに出かけた小悪魔。材料をそろえて、図書館に戻ってきた小悪魔だったが、そこではすでにパチュリーはフランの手によって殺されていた。小悪魔が状況をつかめず、フランに説明を求めようとしたところ、『スターボウブレイク』を全弾直撃で喰らってしまい、自分も死んでしまったこと。

 

「私が知っているのはそこまでです……。申し訳ありません……」

「いえ、私も完全に不注意だったわ。……!もし、そうだったら咲夜や美鈴も!!」

 

 そういってパチュリーが大図書館を出ようとした時だった。

「パチュリー様!大丈夫ですか!?」

 

 先に大図書館へ美鈴が飛び込んできた。パチュリーは美鈴の無事を確認できたことで、ほっとした。

「美鈴、無事だったのね!」

 

「…………」

 パチュリーの言葉に、美鈴は思わず目を逸らした。パチュリーはまさかと思い、美鈴に訊ねた。

 

「美鈴……あなた、まさか……」

「はい……お察しの通りです……。私も……一度死んでます」

 

「!!」

 美鈴は死んだといった。パチュリーたちと同じく、フランの手によって殺されていたのだった。

 

「私も……妹様に殺されました……。本当に信じられませんでした……まさか、妹様が……」

「それよりも美鈴、もっと重大な問題があるわ。誰が私たちを生き返らせたの(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「……っ!!」

 美鈴はパチュリーに言われるまで、まったく気づいていなかった。パチュリーは美鈴から一通り状況を聞いた。

 

「咲夜さんは無事です。いえ……正確には、私と同じなんですが……。お嬢様の無事も確認が取れました。あと、戦闘で破損していた所も、修復が終わっています」

「…………」

 

「パチュリー様……いったい何が……?」

「……因果……」

 

「えっ……?」

 美鈴は驚いて言葉が出なかった。小悪魔がパチュリーに恐る恐る聞いた。

 

「あの……パチュリー様、これは……?」

「因果律……すべてを捻じ曲げる力……。まさか……死んだことすらなかったことにした(・・・・・・・・・・・・・・・・)とでもいうの……?」

 

 パチュリーの疑問は尽きなかったが、とにかくレミリアと合流するため、彼女の部屋を目指した。

 

 

~地底・旧都~

 

「……っつぅ……」

 地底で最初に目を覚ましたのはパルスィだった。いまいち状況がつかめず、パルスィが起き上がろうと頭をあげた時だった。

 

「じゃあ……行くよ……!旧都のみんな!私はみんなを忘れない!!」

 そこではお空が旧都の妖怪たちを焼却しようとしていた。

 

「だあぁーっ!ちょっと待てえぇい!!」

「うにゅ……?……あ!生きてる!?」

 

 お空は制御棒に溜めていたエネルギーを消滅させ、お燐を呼んだ。

「おぉ、パルスィ!あんた無事だったんだね!」

 

「無事じゃないわよ!今まさに焼かれそうになってたわ!!」

「え、だって……さっきまで死んでたし……」

 

「えっ……?」

 死んでいた。お燐にそう言われ、パルスィはすべて思い出した。

 

「そうだ……!勇儀は!?」

「ん?隣で寝てるけど……なにがあったの?」

 

 パルスィは慌てて隣を見た。そこでは勇儀が意識を失っているのか、ヤマメやキスメらとともに横たわっていた。

 

「ねぇ、パルスィ。いったい何があったの?こいし様もいないし……もう何が何やら……」

「そうよ!それもこれも、全部こいしのせいなのよっ!!」

 

「うにゅ!?やっぱりこれって、こいし様の仕業なの!?」

 お空は信じられないといった顔をした。お燐はパルスィから事情を聴くことにした。

 

「本当にいきなりだったのよ……。急に現れたと思ったら、“お兄ちゃんには、私だけを見てほしいの”とか言い出して、みんなを次々と殺し始めたのよ!!私や勇儀が全力で止めに入ったけど……」

 

「同じように……殺されたって?」

「うん……。まず初めに勇儀が……次にヤマメ、そしてキスメ……最後に私だったわ……」

 

「そう……でも、間違いなく死んでたと思ったのに、生きてるなんて奇跡だったね!」

「そうね……本当に奇跡……」

 

「うにゅにゅ?じゃあ……誰が旧都と修理とパルパルたちの怪我の治療をしたの?

「え?」

 

「え?」

 お空の何気ない問いかけに、お燐とパルスィは驚いた。パルスィが自分の体をよく見ると、たしかにそこには傷がなかった。

 

「たしかに……いつの間に……誰が……?」

 お燐は自分なりに考えを巡らせるが、何も思い浮かばなかった。お燐は地上に出たきり戻ってこないさとりとこいしのことを心配した。

 

 

~地上~

 

「許さないわ……!自然の摂理をとことん無視して、ついには幻想郷にまで……!!」

「紫……」

 

「私はあなたを討たなければならないわ。幻想郷を……守るために……!」

「なら、俺がやることは一つだけだな」

 

 ピアはエッジを抜いた。右腕の封印を解き、その醜く禍々しい姿を露わにした。

「俺は……俺の居場所を……俺を信じてくれるもののために……お前に勝つ!!」

 

「……因果はすべてを否定し、拒絶する力……。すべてを受け入れる幻想郷に、あなたは必要ないわ!!」

「そう思うか……?なら、試してみろよ!!」

 

 ピア・デケムと八雲紫。ついに邂逅した二人は、互いの譲れないものを賭けて、スペルカードを構えた。

 




ピア・デケムと八雲紫 その話は次回…
Next Phantasm…
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