無事解決しました(^_^)/
第二十五章どうぞ!
博麗神社の屋根には、びっしりと雪が積もっていた。そして、今も雪が降っている。季節はすっかり冬となり、寒さから外を出歩くものはいなかった。
「はぁ~……さみぃ~……」
さすがのピアも、顔と左腕の寒さを凌ぐのは難しかった。普段は気温を感じることがないピアだが、なぜか顔と左腕は感覚が残っているので、必死に息で暖めていた。
「今年の冬も厳しいな……野菜たちは大丈夫だろうか。あぁ……秋姉妹はもういないのか……」
いろいろと独り言をつぶやいていると、後ろから霊夢が服の袖を引っ張ってきた。
「ちょっと、ピア」
「ん?なんだ霊夢?」
「はい……これ……」
霊夢から手渡されたのは、紅白カラーのマフラーだった。マフラーの先端は白色で、あとは全部赤色という単純な色合いだった。
「おう、マフラーか。ありがたい、助かるよ」
「あぁ!ちょっと待って!私が巻いてあげるから……」
「え?いいよ、自分でできr」
「いいから!巻かせなさいよっ!!」
「あ、はい」
ピアは否応なしに、霊夢にマフラーを巻いてもらった。巻いている間の霊夢は少し楽しそうだったので、特に文句は言わなかった。
「よし、できた!!ピア、どんな感じ?」
「あぁ、いい感じだ。ありがとう、霊夢」
「ま……まぁね。主人として、部下のメンタルを気遣ってあげるのも重要なことなの。当然のことよ」
「そっか。でも、ありがとな」
「……う、うん」
ピアがマフラーを感触を堪能していると、霊夢の指先が絆創膏だらけになっていることに気付いた。
「おい、霊夢。その指……どうしたんだよ?」
「えっ?あ、その……な、なんでもないわよ!ちょっと包丁で指を切っただけで……」
「そうなのか……?」
「そ、そうよ!それで……今日から始めるんでしょ?」
「ん?あぁ、そうだよ。今日から始めるんだ。『幻想巡り』をな」
ピアは自信満々にそう言った。『幻想巡り』とは、多くの場所を見て回ったピアが、一日でその場所を訪れていくというピアの日課のことである。この提案に、最初は霊夢の反対を受けたが、何とか説得して今に至る。
「紅魔館ではレミリアと雑談。白玉楼では妖夢の剣の稽古。永遠亭では輝夜の相手。守矢神社は入れないから、すぐ近くで早苗と外の世界の話を。たまに文の新聞配達を手伝ったり、その足で慧音のところへ行って世間話。その次は地霊殿に行って、さとりと世間話をする。そのまま命蓮寺に行って、白蓮たちと雑談。次に仙界にある神霊廟で神子たちと軽い対話をする……って!どう考えても予定を詰めすぎでしょ!!」
「ん?そうか~?結構楽な方だと思うが……」
「それを一日でする方が無茶だって言ってんのよ!今日は……そうね……紅魔館、永遠亭、人里、命蓮寺ぐらいにしときなさい」
「じゃあ、次の日は……白玉楼、守矢神社前、地霊殿、神霊廟か……。うん、いい考えだ!さすがは霊夢!」
「と、当然でしょ!私はピアの上司なんだから、これくらい……」
言って霊夢は照れ笑いを浮かべた。ピアは霊夢の指示した場所を覚えると、そこを目指して飛んだ。
「じゃあ、行ってくる!」
「いってらっしゃい!」
ピアはシュンッ、と音もなく飛んで行った。ピアを見送った霊夢はそっと微笑んだ。
「いや~、初々しいねぇ~。“いってらっしゃいのチュー”はないのかい?」
「ちょ!萃香!?キスなんてするわけないでしょ!」
「おや?“おやすみのチュー”はしてたのに?」
「み、見てたの!?」
「当たり前じゃん。せっかく夫婦が馴れ初めようとしているっていうのに、見逃すわけないじゃん」
「うぅ……ぜ、絶対に誰にも言わないでよ!!」
「あれ?私はてっきり夢想封印を撃たれるかと思ったけど、撃たないんだ?」
「撃ってほしいわけ?」
「いえ、結構です」
「まったく……ていうか、なんで私がピアと夫婦なのよ?」
「うん?私は霊夢とピアがくっついたら、それでいいと思っているよ?」
「え?あ、ちょ……」
「霊夢がピアと付き合って、結婚して、幸せになれるんだったら、これほどに嬉しいことはないよ。あ、私はおばさん的な立ち位置でいいよ?」
「鬼のおばさんってどうよ……?でも、意外……。萃香もてっきり、“ピアと一緒にいたい”って思ってるとばかり……」
「そりゃあ、私だってピアのことは好きだよ?でも、一緒にいる(・・・・・)っていうだけなら、無理に恋人同士にならなくてもいいからね。霊夢が結婚してくれたら、ピアは実質、博麗神社にずっといてくれるからね」
「萃香……」
「私はね、霊夢」
萃香は霊夢に屈託のない笑顔を向けた。
「私は霊夢に幸せになってほしい。これは私の純粋な願い……鬼は嘘をつかないよ」
博麗神社から出発したピアは、まず初めに紅魔館を目指した。順番を忘れないように、目的地の場所を何度も復唱した。
「えっと……紅魔館、永遠亭、人里、命蓮寺……紅魔館、永遠亭、人里、命蓮寺……よし、覚えた!」
「やい、お前!また会ったわね!!」
ピアにいきなり声をかけてきたのは、チルノだった。相変わらず大妖精も一緒で、やっぱり振り回されていたのか、顔には疲労の色がうかがえた。
「おぉ、チルノか。……あぁ、会うのは二回目だったな。名前、知ってるか?」
「知ってるもん!あんたのこと、新聞で見たよ!ピ……ピカだっけ?」
「ピアだ」
「ピ、ピアさん……すみません……。もう、チルノちゃん!」
「えへへ……ごめんごめん。ちょっと間違えただけだし、もう大丈夫!アタイは二度も間違えないもん!!」
「そうかい」
「そうだ!ピア、弾幕勝負しようよ!!」
「ん?勝負か?」
「そうだ!いっくぞー!アイシクr」
「こら、チルノ!また通りすがりの人に勝負を挑んで……いい加減にしなさい!」
今まさにチルノがスペルを発動しようとした時だった。別方向から声が聞こえ、そこからさらに声は続けて叫んだ。
「寒符、『リンガリングコールド』!」
スペルが発動され、弾幕が二人の間を通り抜けていった。
「あ!レティ!!」
「レティ……?」
ピアが声のした方へ振り向くと、そこには雪のように白く、美しい女性がいた。女性はチルノの方へ近づくと、軽い説教を始めた。
「チルノ、いきなり人に襲い掛かったらダメって、あれほど言ってるでしょ?」
「えぇ~。でもでもレティ、コイツ……ピアはすっごく強いんだよ!アタイ、勝負したいもん!」
「でもね、チルノ……」
「おい、あんた。チルノと勝負をさせてほしい」
突然のピアの申し出に、女性は少し驚いた。
「えぇ!でも……」
「大丈夫だ。こっちだって、ただで負けてやるつもりはないからな。……ところで、あんたは?」
「あ、私は『レティ・ホワイトロック』。冬の妖怪よ」
「冬……なるほど。んじゃ、あんたはチルノとは……」
「やっぱり勘違いしちゃうわね。周りの人間たちは、私とチルノを親子だっていうけれど、実際は親子でも何でもないわ。ただ……娘のように可愛がっているのは事実だけどね」
「そっか……。よし!勝負するぞ、チルノ!」
ピアがチルノに合図すると、待ってましたと言わんばかりに手を大きく広げた。
「よーっし!アタイから行くよぉー!!喰らえっ!氷符、『アイシクルフォール』!!」
「(アイシクル……?まさか……)」
ピアは自身の中に一つの仮定を作り、その仮定が正しいかどうかを試すべく、そこから動かなかった。やがてチルノの弾幕が飛んできたが、それらはすべてピアの横を通り抜けていった。
「(あぁ、やっぱりだ……。魔理沙から教えてもらった、“正面安置の謎スペル”とは、これのことだったのか)」
「な……なんで!全部かわされている!?」
「なぜそうなる……。まぁいいや」
ピアはスペルカードを三枚取り出した。
「(刃灰、『龍炎刃』。これはダメだな。チルノが消滅する。斬凍、『氷裂斬』。いくらチルノでも氷のスペルは効かないか……ならば!)」
ピアは最初の二枚をしまうと、残った一枚を発動した。
「行くぜっ!撃滅、『雷神撃』!!」
ピアはキャリバーを抜くと、雷を纏った斬撃を繰り出した。もちろん、必死にスペルを撃っているチルノが避けられるはずもなく、ピアの弾幕を喰らった。
「うぎゃああぁぁぁぁぁ!!」
ピアはチルノに勝利した。しかし、あまり勝ったような気がしない。
「(う~ん……頭は悪いけど、その分基礎をしっかりと教えてやれば、霊夢や魔理沙と互角に戦えそうな気もするがな……)」
「チ、チルノちゃん!」
目をまわして落ちていくチルノを、大妖精が必死に受け止めた。それを確認すると、ピアはレティのそばまで近寄った。
「まぁ、こんなもんでさぁ」
「すごいわ……さっきのスペル、もしかして貴方は新聞の……」
「博麗の巫女の使い、ピア・デケムだ。よろしくな、レティさん(・・)」
「さん(・・)……?」
「いや、なんとなくだ」
「そう……。あ、ちなみに私は、あなたが博麗の巫女の使いだっていうのはわかっていたわ」
「新聞を読んだ?」
「いいえ……そのマフラー」
レティはピアが身につけているマフラーを指さした。ピアは不思議そうに自分のマフラーを見た。
「……?これがどうかしたか?」
「それ、紅白色でしょ?紅白と言えば、幻想郷ではただ一人……ふふっ、彼女の愛が伝わってくるわね」
「あ、あ、あ、愛!?」
愛という言葉を聞いて、ピアは非常に慌てふためいた。レティは優しくほほ笑むと、マフラーにそっと手を伸ばした。
「まぁ、あくまで私がそう感じるだけ……もしかしたら違うかもね。さて、私はチルノたちのところへ戻るわ。引き止めたりしてごめんなさい」
「あ、いや……大丈夫、だ」
「ふふっ……それじゃあ、またね」
「あぁ、またな。レティさん」
ピアはレティと別れを告げると、改めて自分が身につけているマフラーにそっと触れた。
「(霊夢が……愛をもってこれを作ったのなら……俺は……)」
少し考えた後で、ピアは紅魔館を目指して再び出発した。
霧の影響もあってか、なかなか紅魔館が視界に入らなかった。そうしてさまよううちに、紅魔館を発見した。
「ふぅ~……寒い……」
紅魔館の門の前では、美鈴が寒そうにしていた。マフラーと手袋と、防寒着は身につけていたものの、やはり服装に変化はなかった。
「おぉーい!めいりーん!!」
「この声……あっ!ピアさん!」
美鈴は声のした方へ手を振った。ピアも手を振り返し、美鈴の目で着地した。
「よう、お勤めご苦労さん」
「ありがとうございます。ピアさん、今日もお嬢様とお話を?」
「まぁな。今日は俺の方から来てやったぜ」
「おぉ!ピアさんからですか!珍しいですねぇ、お嬢様もきっとお喜びになりますよ!」
そう言っている美鈴の方が嬉しそうにしているような気がするが、ピアはあえて何も言わなかった。美鈴に門を開けてもらい、ピアは紅魔館の中へ入った。
紅魔館に入り、まず初めに咲夜と会った。咲夜はピアと目が合うと、笑顔で迎えてくれた。
「あら、いらっしゃいピア」
「よう、咲夜。レミィは?」
「ご自分のお部屋です。それにしても、ピアの方からウチを訪ねてくるなんてね」
「美鈴にも同じことを言われたよ。……なぁ……咲」
「え?さ……“咲”?」
「う~ん、やっぱりこっちの方がしっくりくるな。よし、俺はこれからお前を“咲”と呼ぶことにした」
「えっと……なんで?」
「呼びやすい」
「あら……そう……」
咲夜は少し戸惑っていたようだが、それでも嬉しそうに微笑んだ。
「ふふふ……誰かにニックネームをつけてもらえるなんて、こんなに嬉しいものなのかしらね」
「いや、呼び名次第だがな……。さて、俺は一旦、パチェのところに行こうかな」
「そう。じゃあ、私はお嬢様に、あなたが来たことを伝えておくわ」
「よろしく頼む」
「今頃は、妹様と一緒だと思うわ。お二人には部屋でお待ちしていただきましょう。……勉強、頑張ってね」
「まぁ、パチュリー先生の授業だからな。最近になって、やっと魔道書が解読できるようになってきたんだよ」
「パチュリー様も“魔道書が読めない悪魔なんて珍しい”って言って、随分と気合を入れていたわ」
「マジか……。最近、授業が厳しいんだよなぁ……。よし、行ってこよう」
ピアは自分に気合を入れて、図書館を目指して一度紅魔館を出た。
紅魔館を出て、ピアは大図書館へと入った。入ってそのまままっすぐ進むと、眼鏡をかけたパチュリーが魔道書を抱えて待っていた。
「ふふふ。待っていたわよ、ピア。早速授業を始める?」
「うわぁ……本当にやる気満々だよ……。オッケィ、始めよう」
「わかったわ。……こぁ、手伝ってちょうだい」
「わかりました!」
こうしてピアはパチュリーとの魔法の授業が始まった。ピアが魔理沙の家から購入した魔道書を一文字一文字解析していく。
「……つまりこれは、“遥か太古より目覚めし邪の意思は、神の血肉と魂を持って再び冥府に封じられん”ということね。幻想郷が生まれる昔から神族と魔族は互いに争いあっていたということ……魔族は、神の命と引き換えに封印されたこと……そのことについて記されているのね」
「そ……そうなのか……。まったく読めん……」
「そんなすぐに読めるものではないわよ。もっと勉強を積み重ねないとね。あ、これは今からおよそ数億年前の話ね。まだ人間が存在せず、魔族と親族だけが存在していたころの話ね」
「そんな頃なんてあったかな……」
「あるのよ……多分ね」
「また微妙な予測だな」
「私だってすべてを知ってるわけじゃないのよ。……さて、授業の続きをしましょうか?」
「あ、はい」
「そこまでよ、パチェ。あまり生徒を酷使するものではないわよ?」
二人の会話に、レミリアが割って入った。レミリアは机に手をつくと、パチュリーに面と向かって言った。
「パチェ。ピアは私を訪ねてきたのだから、そろそろ授業をお開きにしてもらってもいいかしら?」
「……ふふ、それもそうね。わかったわ、今日はここまでにする」
「ふぅ……そっか。んじゃ、次はレミィと話か」
「そうね。今日もたっぷり話をしましょう……フフフ……」
「(できるだけ早いうちに話を切り上げたいな……)」
ピアはパチュリーとの授業を終えて、レミリアと紅魔館に戻った。
「ほら、着いた。ふふ……やっぱり咲夜に頼まず、自分で案内するのもたまにはありね」
「いや……別に俺一人でも大丈夫だったんだが……」
「まぁ、いいじゃない。ほら、入りましょう?」
「了解……」
レミリアが扉を開けて、ピアが部屋に入ろうとした直後だった。
「おにぃ~さまぁ~♪」
ガバッ!とフランがピアに思いっきり抱き付いた。
「おわっ!フランか!?」
「えっへへ~!お兄様、つっかまえたぁ~!」
「ちょ、フラン!私より先にピアに抱き付くなんて……反則よ!!」
「え~!こういうのは早い者勝ちなの!ね、お兄様」
「え……それを俺に聞く……?」
「うっさい!とりあえず部屋に入るから、そこをどきなさい!」
「は~い」
レミリアに怒られつつも、フランはニコニコ笑っていた。ピアに会えたことが相当嬉しかったらしい。ピアはフランの頭を撫でてあげつつ、部屋に入った。
「んで、今日も俺の世界の話を聞くか?」
「えぇ、ぜひ聞かせてちょうだい」
「あ、フランも一緒に聞く~!お兄様、お膝の上に座ってもいい?」
「ん、いいよ」
わぁ~い、とフランは嬉しそうにピアの膝の上に座った。レミリアが嫉妬の目を向けてきたが、一旦そこは触れないでおくことにした。
「さぁて、一昨日はどこまで話したっけ?」
「魔王としてピアが復活して、ピアが神様にボッコボコにされたところね」
「そうそうそこだ。それでなぁ、その神様がとんでもないお人好しで……」
ピアの世界の話を、レミリアとフランは興味深そうに聞いていた。たまに質問などもあったが、ピアは簡単に答えてあげた。力関係などの説明もあってか、フランはともかく、レミリアは深く理解を示してくれた。
「……んで、そのお人好しでとんでもない馬鹿力の神様に、俺は何度も挑んでは負け、挑んでは負けの繰り返し……あぁ、くそっ!思い出すだけで胸くそわるい!今すぐにでもぶちのめしてやりてぇくらいだ!!」
「まぁ……気持ちはわかるけど、どう考えてもピアが悪い……よね?」
「えぇ、そうです。俺が悪いです、すみませんでした」
「そ、そんなに謝らなくても……」
「でもな……この世界に来れたおかげで、そんなものに縛られずに済んだ……。つくづく感謝だな。幻想郷には」
「……そうね。そして、あなたがわたs」
「おかげでフランたちに会えたもんねーっ!フラン、すっごく嬉しいよ!」
「ちょ、フラン私のセリf」
「ねぇねぇ、お兄様」
「ん、どした?」
「チューして!チュー!」
「自重しろ」
「…………」
フランに次々と先を越され、レミリアは悔しさに歯ぎしりを立てていた。
「ぐぎぎ……フラン!さっきから好き勝手しすぎよ!」
「だったらさ、お姉さまもフランと同じようにすれば?」
「えっ?ちょ、それはちょっと……心の準備が……」
「じゃあ、フランがお兄様を独り占めする~」
「うー……それはダメ!」
レミリアも半分やけになってピアに抱き付いた。ピアは慌てて二人を一緒に膝の上に座らせた。
「おい、なんでこうなる?」
「なんでって……だって、フランが……」
「えぇ~。フランは関係ないよ?お姉さまがお兄様にくっついただけだもんね~!」
「わ……私だってピアと……将来の執事と一緒にいたいもん……」
「(やれやれ……はっきりと言ってもらわないと、わかるもんもわからんだろうに……)」
スカーレット姉妹が納得いくまで可愛がった後、ピアは次に永遠亭に行くことを二人に伝えた。
「永遠亭に?確かピアって、月の姫に嫌われてなかったかしら?」
「まぁな。だから弾幕勝負しに行って、実力を見せてやれば、少しは認めてくれるかなと思う」
「お兄様なら楽勝だよね!」
「楽勝……まぁ、そうかもな。とりあえず、行ってくるよ」
「えぇ、いってらっしゃい」
「頑張ってね!お兄様!」
レミリアとフランに別れを告げると、ピアは永遠亭がある迷いの竹林を目指して飛び立った。
ピアが飛び続けて数分後、ピアは迷いの竹林の上空まで来た。
「ここからは……面倒くせぇから瞬間移動でもするか」
竹林で迷うのは嫌だったピアは、瞬間移動をした。次にピアが現れた場所は、永遠亭のすぐ目の前だった。
「さぁて、行くかな」
ピアは永遠亭の門をたたき、鈴仙を呼んだ。
「あっ!ピアさん、こんにちは」
「よう、鈴仙。約束通り輝夜に会いに……」
「待っていたわよ!ピア!!」
ピアが来るや否や、輝夜がすぐに出てきた。今にも暴れだしそうなくらいに興奮していた。
「ずっと待ってたのよ!さぁ、今すぐ私と弾幕勝負をしなさい!!」
「今日はそのために来たんだ。さっさとやって、さっさと終わらせよう」
「ふっふっふ……そうこなくっちゃ!さぁ、行くわよ!!」
そう言うと、輝夜はすぐに空へと舞い上がった。ピアも後に続いて空へと飛んだ。
「さぁて……あの時の恨み、今こそ晴らしてやるんだから!」
「やってみろ……できるならね」
「そうやって余裕ぶっているのも今のうちよ!私のスペル……かわせるかしら!?」
「できる」
「くーっ!!その鼻っ面、絶対にへし折ってやるんだから!!行くわよ……難題、『龍の頸の玉 -五色の弾丸-』!」
輝夜から様々な色の弾幕が放たれたが、ピアはそれを難なく回避した。
「よっととと……。自慢じゃないが、逃げるのは得意なんでね」
「うぎぎ……だったら、これでどう!?」
輝夜は次のスペルを発動した。
「難題、『仏の御石の鉢 -砕けぬ意思-』!!」
「よっ」
「難題、『火鼠の皮衣 -焦れぬ心-』!!」
「あらよっと」
「難題、『燕の子安貝 -永命線-』!!」
「ふん……」
「難題、『蓬莱の弾の枝 -虹色の弾幕-』!!」
「ほいさっさ」
輝夜が次々と放つ弾幕を、ピアはことごとく、軽々とかわしていった。
「な、なんで全く当たらないのよーっ!!さっきから避けんじゃないわよ!!」
「なぜ避けるかって?そこに弾幕があるからだ」
「いみがわからn」
「斬凍、『氷裂斬』」
ピアは氷の弾幕を一発だけ撃った。その弾幕は輝夜の足に命中し、膝から下を凍らせた。
「え?ちょ……」
足に当たった氷はどんどん大きくなり、空を飛ぶこともままならぬほどの重さになっていった。
「あ、あ、ああぁー!」
「よいしょ」
輝夜が足から落ちていく途中で、ピアは輝夜の両腕も凍らせた。腕と足の重さが逆転し、輝夜はさかさまの状態になって、ピアに足をつかまれた。
「ほれ、これで満足か?」
「満足なわけないでしょ!思いっきり手加減された挙句、助けられるなんて恥ずかしすぎる……妹紅には絶対に見られたくない……」
「なんなら助けてやろうか?」
「うっさい!!中途半端に情けをかけられるくらいなら、落ちた方がマシよ!」
「わかった」
ピアはつかんでいた右手をパッと離した。輝夜の表情が一気に青ざめていった。
「え、ちょ、本当に離して……きゃあぁぁー!!」
ガッシャァーンッ!
地面に激突し、氷が割れる音が派手に聞こえたところで、ピアは永遠亭に戻った。再び永遠亭に戻ると、永琳と鈴仙が待っていた。
「あ、ピアさん!姫様は、姫様どうしたんですか!?」
「はなしてやった」
「……うどんげ、姫様を迎えに行ってちょうだい。私はピアと先に中で待っているわ」
「は、はい!……姫様ぁー!どこですかぁー!!
鈴仙が輝夜を探しに行った後で、永琳はピアを永遠亭に招き入れた。
「いつもごめんなさいね。こっちとしては、あなたに姫様の相手をさせるつもりはなかったんだけど……」
「いや、いい準備運動になった。おかげで今日も事故に遭わずに済みそうだ」
「そ……そう。ならいいのだけど……」
「ところで永琳。今日は何の話をすればいいんだ?」
「そうね……あなたの世界の医療とか、ちょっと気になるわね」
「わかった、簡単に説明するよ。難しい話は好きじゃない」
ピアは自分の世界の医療について、簡単に説明した。今や細胞レベルまで治療が可能で、発達している国では死者を生き返らせることが出来るほどの医療レベルを誇ること。それによって、死なない喜びを得るとともに、死に対する思いが薄れてきている国が存在すること。
「細胞レベルまでねぇ……それじゃあ、死に対する思いが薄れていくのも、無理ないわね」
「蓬莱人も涙目だな。今は“不死”じゃなくて、“死者蘇生”の時代だなんてよ。それでも、一部の国はその機能を封じているらしいぞ」
「……その国は?」
「外の世界にある『炎紅国』って国だ。その国は“治療はするが蘇生はしない”と堂々と世界に言ってのけたのさ。その国の王で、世界の神が言ったのさ。“死は悲しいが、死がもたらしてくれる命の重さ、その意味を知ることを避けては、やがて機械のような生き方になってしまう”と。……ふざけてる」
「ふざけてる?一般的にも、素晴らしい意見だと思うけど?」
「死を忘れるなと言った本人が、人から死の概念を奪ってんだぞ?言ってることとやってることが矛盾してるんだっつーの、あのクソ神」
「ピア……その神様が嫌いなのね」
「大っ嫌いだ。……妹紅が輝夜のことを嫌う、それ以上にな」
ピアは静かにそう言った。しかし、その言葉には計り知れないほどの怒り、憎しみ、苦しみ、悲しみ、そして狂気が感じられた。それを察したのか、永琳はそれ以上何も言わなかった。やがて長い沈黙の後で、ぼろぼろのふらふらの輝夜が鈴仙と一緒に戻ってきた。
「ピ……ピア!さ……さっきはよくも……やってくれたわね!!こ……今度はこっちの……番だから!!」
「姫様、それ以上暴れないでください。ピアとの実力差は、すでに理解したのでは?」
「理解……できるわけないでしょぉー!!あそこまで手加減されるなんて、生まれてこのかた、一度もなかったわよ!!だから余計に許せないのよ!!」
「じゃあ、もう一戦……やるか?」
「望むところよ!表に出なさいっ!!」
「さっきより早く仕留めてやるよ」
「言ってなさい!今度こそ勝つんだからっ!!」
ピアと輝夜は再び外に出た。その後しばらくすると、弾幕を撃ちあう音が聞こえた。
「はぁ……またピアに迷惑をかけるわね。鈴仙、ピアにお詫びの配置薬の用意を」
「はい、お師匠様」
永琳の指示に素早く反応し、鈴仙は部屋をあとにした。
「さて、あとは待つだけね」
弾幕勝負が終わり、ぼろ雑巾のようになった輝夜が、永琳に泣きついた。永琳は輝夜をなだめながら、用意した配置薬をピアに譲った。ピアはそれを受け取ると、鈴仙に昼食をごちそうしてもらった。その後、永遠亭をあとにし、次に人里を訪れた。人里に着くと、迷わず寺子屋を目指した。
「やぁ、ピア。待っていたよ」
「よう、慧音」
「ふふっ。ようやく子供たちに授業が出来るな。いまさら世間が笑うとか、言うなよな?」
「言わねぇよ。どうせこれっきりなんだからよ」
「まぁまぁ、そう言わずに。今日は頼むよ」
「まぁ……任せとけ」
ピアは慧音に案内され、寺子屋へと入った。寺子屋では、すでに子供たちが今か今かと待っていた。
「うわぁ……やっぱりガキばっかだよ……」
「ガキとか言わないでくれよ。みんな素直でいい子なんだ」
「なっ……!チルノと大妖精もいるのか!?これは想像以上にやりづらい……」
「とにかく……私が先に入ってピアを呼ぶから、その時に入ってきてくれ」
「わかった……なんとかする」
そう言うと、慧音は先に教室に入り、生徒のみんなに声をかけた。
「はい、静かに!今日はみんなに大事な話があるぞ!!」
「せんせぇー!話って何ですか?」
「うむ。今日は臨時で、一日だけ先生をしてくれる人がいるんだ。誰だと思う?」
「えぇー?だれぇー?」
「もしかして妹紅お姉さん?」
「やった!僕、あの人好きなんだよね!」
ピアはそっと扉を開け、中の様子をうかがった。子供たちは口々に慧音に質問をしている。
「こら静かに!今日来てくれたのはなんと……博麗の巫女の使いのお兄さんだ!」
瞬間、子供たちの目の輝きがそれまでの数倍に輝いた。
「みこのつかいのにいちゃん!」
「すっげー!あのしんぶんにのってたひとだよね!!」
「わたし、あのひとだいすきー!!」
「おぉー!ピアが来るのか!さてはさいきょーのアタイに会いたくなったな!?」
「チルノちゃん……さすがにそれは無理があるような……」
子供たちのテンションが上がれば上がるほど、ピアのテンションはさがっていく一方だった。
「(あー!いやだ!もう嫌だ!!帰りたい!今、俺は無性に帰りたいっ!!)」
「じゃあ、早速授業をしてもらおうかな。ピア、入ってくれ」
「……あい」
慧音に呼ばれたので、ピアはしぶしぶ中に入った。しかし、教室へ一歩踏み出した瞬間、大量の視線を全身で感じた。
「あーっ!ピアだ!やっぱりアタイに会いに来たなっ!!」
「ちげーよ、馬鹿ッ!んなわけねぇだろ!!今日は授業に来たんだっつーの!」
適当にチルノをあしらうと、ピアは教卓に立った。子供たちから期待されつつも、とりあえず挨拶はすることにした。
「え~……まぁ、とりあえず今日一日は俺が授業をするから、そこんとこよろしく」
「「「よろしくおねがいしまぁーす!!」」
「(……帰りたい)」
帰巣本能に駆られそうになりつつも、ピアは授業を開始した。と言っても、ピアについて簡単な説明をする程度なので、授業とはあまり言えなかった。とりあえず、ピアは自分の出生や自分の世界のことをものすごくオブラートに包みつつ、簡単に説明した。この男に原稿用紙三枚以上の説明はできない。
「……と、まぁ……こんな感じで、俺は幻想郷にやってきたわけだ。……以上」
ピアが説明を終えると、拍手喝采が巻き起こった。
「はい、静かに!ここからは質疑応答の時間にします。みんな、彼に聞きたいことがあったら、今のうちに聞くように」
「はい、しつもんです!みこのつかいさまは、みこさまのことをどうおもっているんですか?」
「なっ!?なんでその話に……」
「すきなんですか?」
「いや、あれはぜったいにこいびとどうしだよね!」
「えぇー!こいびとどうしなのー!?」
「だぁーっ!違うっての!!なんでそうなるんだよ!たしかに俺は霊夢に世話になってはいるが、なぜ恋人ってなるんだよ!」
「えぇー?だっていつもなかよしなところ、ぼくはみてるよ!」
「見るなっ!」
「みこさまがおにさんにぴあさんのことをはなしているのを、おまいりしたときによくきくよ!」
「聞くなっ!」
「まわりのひとたちも、みこさまとつかいさまはあいしあってるって、うわさしてたよ」
「信じるなっ!」
ピアは三度も否定した。しかし、子供たちの勢いは止まらず、口々に言い合った。ピアは慧音に視線で合図を送り、それを受け取った慧音は子供たちに声をかけた。
「はい、静かに!質疑応答はここまで!これ以上は彼を直接訪ねることだ。以上で、授業は終わりにする!」
慧音がそう言った直後、ピアは目にも止まらない速さで教室を出ていった。
「(……逃げたか。まぁ、無理もないな。あんな純粋な言葉や気持ちは、悪魔の彼には少しつらいかもな……)」
慧音は寺子屋の窓から、命蓮寺を目指して飛んで行くピアの後ろ姿を見送った。
「あぁ~しんどかった……。まったく、死ぬかと思ったよ……精神的に」
ピアはぶつくさとつぶやきながら、命蓮寺に続くいつもの道を歩いていた。
「あぁ~。どうしてかな……また星が宝塔を落としてると思うと、つい歩いてきちまうなぁ~……」
「うらめしや~!!」
「どうわあぁぁっ!!」
後ろから小傘に声をかけられ、ピアはやはり驚いた。
「くぅ……なんで小傘の気配を感じられないんだ……?また驚かされた……」
「えへへ~。ごちそうさまです♪」
「はぁ……いつも気を張ってるつもりなんだが、なぜかダメだな……気が緩んじまう」
「それはわちきとしては嬉しい限りです!おかげで妖怪としての面子も保てますし!」
「そっか……役に立てているなら結構です。じゃあな。俺は命蓮寺に行くから……」
「あ!待ってください!」
小傘はピアを引き留めると、手に持っていたものを差し出した。
「これ、命蓮寺に持って行ってくれませんか?」
「これは……あぁ、宝塔か。ま~た落としたのか……」
「みたいです。それじゃあ、わちきはこれで……」
「あぁ、またな」
「はい!また会いましょう!」
小傘は上機嫌のまま去って行った。小傘から宝塔を預かったピアは、とりあえず星に返すために命蓮寺へ向かった。
歩き続けること、数十分。ピアはようやく命蓮寺に到着した。そして、寺の前では、やはり星がナズーリンに怒られていた。
「おーい。星、ナズーリン」
ピアは説教中の二人を呼び止め、すぐに宝塔を差し出した。
「ほい、宝塔。できるだけ落とさないように、気を付けるんだぞ?」
「すまないな、ピア。いつもいつも君にばかり見つけさせてしまって……」
「気にすんなよ、ナズーリン。道中にたまたま落ちてたんだ。普通に拾っても不思議じゃないよ」
「ピアさん……本当に申し訳ありません……」
「星もだ。反省する暇があったら、次に活かすよう努力をしろ」
「は、はい!」
「ところで……白蓮はどこだ?」
「奥で君を待っているよ」
「……まるで来ることがばれているみたいだな……」
「それが……どうやらぬえが盗み聞きをしていたようで……」
「なるほど。そのことについてはスルーするとして……会いに行くか」
ピアは二人に通してもらい、命蓮寺の中へ入っていった。部屋はあらかた覚えているので、すぐに白蓮がいる部屋にたどり着いた。
「白蓮、入るぞ~」
「はい、どうぞ」
ピアがふすまを開け、部屋の中へ入った直後だった。
「ア・二・キー!」
待ってましたと言わんばかりに、勢いよくぬえが抱き付いてきた。さすがに二回目だったので、ピアはいつもより冷静だった。
「よう、ぬえ。元気そうで何よりだ」
「ご飯にする?お風呂にs」
「しないしないしない!!今日は白蓮と話をしに来たんだよ」
「えぇ~。……おっかしいなぁ~。こう言えば男はイチコロだって、ムラサが言ってたんだけどなぁ~?」
「……あとで水蜜を呼んで来い」
「ピア君、ごめんなさい……。ぬえ、ピア君を困らせちゃダメでしょ?」
「はぁ~い。それじゃ、私は先に退室してま~す」
「……んで、白蓮。今日はどの魔王の話をすればいい?」
「……すべてを。聞かせてください……彼が生きた証を」
「…………」
白蓮に話すこと。それは、先代の魔王たちのこと。そして、自分の中に封印し、消えていった魔王のこと。白蓮はその話を聞くだけで満足していた。
「白蓮……なぜ魔王に惚れた?」
「えっ……?」
「今の俺ならともかく……昔の連中はどいつもこいつも鬼畜野郎ばっかりだ……。殺戮を日常にして、奴隷を生き物として見ない……服従なんて当たり前で、従わないなら殺すだけ……。人間なんて道具以下……そもそも使うことすら考えない。なのに……どうして……お前は……」
「……自分でも……よくわかりません……」
「……え?」
白蓮はそっと立ち上がり、ふすまを開けた。まだ昼下がりの外の景色は、日の光と気温の低さで、ほんの少し輝いていた。
「自分でも……よくわからないの。彼は間違いなく人間の……妖怪の敵だった。それなのに……私は彼に心を奪われ、次第に彼に惹かれていった……。なぜ彼が私を生かしてくれたのか……どうして傍にいることを許したのか……今になってはわかりません……。ですが、一つだけわかっていることがあります」
白蓮はゆっくりと振り返り、にっこりと笑った。
「それは……彼にも、誰かを思いやる心があるということ……。たとえ誰にも理解されなくても、その心を誰かに伝えることが出来るということです」
その言葉を聞いたとき、ピアの脳裏に記憶の一部が蘇った。それは、ピアが幻想入りする遥か昔の話。それは、ピアが唯一心を許した女性の話。
「ねぇ、ピア」
「ん~?」
「大好き!」
「うるせえ、殺すぞ?」
「だったら殺して?あなたに殺されるなら、私としては本望よ」
「うぐぅ……」
「ほら、やっぱりできない。ピアって優しいわね!」
「……るせぇよ。お前は少し黙ることを覚えろ」
「もう!私だってピアのこと、一生懸命考えてあげてるのよ?ほら、穴子丼!」
「あるなら先に言えっての!いっただっきま~す!!」
「ふふ。たくさんあるから、た~んと召し上がれ!」
「……遠慮しないぞ」
「いいよ。遠慮しないでね」
「ははは……やっぱりお前には敵わんな」
「もう、ピアったら!あははは!」
「はっははは!」
「……もう何度目の春かな?」
「さぁね?もう……覚えてないわよ」
「そうか?俺は……あ、やっぱり覚えてないわ」
「ふふ……やっぱりピアはピアね。そういうところ……好きよ」
「うるせぇよ。次、“好き”って言ったらぜってぇ殺す」
「そう?じゃあ……大好き」
「テメェ……さっき殺すって……」
「あれは“好き”でしょ?私は“大好き”って言ったのよ?」
「じゃあ、“大好き”も禁止!」
「だったら、大大好き!」
「それもダメだ!」
「それなら……大大大好き!!」
「いい加減にしろぉっ!!」
「あははは!」
「てめ、この……ったく……ははは!」
「……ピア……」
「しゃべるな。体に障るぞ」
「いいの……最後に……聞いてほしいから……」
「すまない……俺は……お前に何も……」
「“何も”……?違うわ……それは違う……」
「何?」
「ピアは私に……愛をくれたでしょ?それはずっと……この胸の中にあるから……」
「やめろ……俺のは……そんなんじゃない……!」
「ううん……。ずっと……感じてたよ。ピアの優しさ……ピアの暖かさ……そして……ピアの……愛しさ……」
「フェン……」
「ピア……私……。ずっと……あな……た……と……」
「フェン……?フェン!逝くな!俺を一人にしないでくれ……フェン、死ぬな!死ぬんじゃねえぇぇぇっ!!」
「……ねぇ、聞いた?魔王と同棲していた女性の話」
「あぁ、知ってる。たしか……死んじゃったのよね……」
「きっと魔王が食っちまったんだよ!結局、悪魔にとって人間は糧に過ぎなかったんだ!」
「あぁ、アイツの呪いだ……魔王の呪いだぁ!!」
「出ていけ!人殺し!!」
「消えろ、バケモノ!悪魔になり損なった出来損ないの人間めっ!!」
「…………」
「……違う……。俺は……ただあいつと一緒にいたかっただけ……フェンと一緒に生きたかっただけなんだ!俺は……また誰かを殺してしまったのか……?俺のせいで……フェンは……。俺に……添い遂げてくれたばっかりに……。俺が!心を開いたばっかりに!俺の……せいで……!!フェン……フェン……!う……うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「フェン……俺は……」
「ピア君……?」
「俺は……また誰かを……」
「……!ピア君!!気をたしかに持ってください!!」
「えっ……?」
ピアが顔をあげた時、そこには心配そうにピアの顔を覗き込む白蓮の姿があった。
「白……蓮……?」
「ピア君……今、あなたに死相が……いったい何があったのですか?」
「何でも……ない」
「でも、ピア君……」
「何でもないっ!!」
ピアは思いっきり白蓮を振り払った。あまりに力強く払ったため、白蓮は壁に打ち付けられた。
「……はっ!白蓮!!」
「う……くっ……」
「白蓮、すまない!俺は……」
「ピア君……」
「くぅ……ごめんっ!!」
ピアは何かを必死に隠すように、命蓮寺から飛び去った。
「ピア君!待って……」
白蓮はとっさに呼び止めたが、ピアの耳には届かなかった。結局、白蓮は呆然と立ち尽くし、ピアが見えなくなるまで後ろ姿を見ていた。
ピアはが博麗神社に戻ったときは、すでに日が暮れて、夜だった。ピアはフラフラしながら、何とか神社にたどり着いた。
「はぁ……はぁ……俺は……俺はぁ……!!」
過去の記憶、思い出したくない傷。それは、壊れた人魔の壊れた心に強く突き刺さった。
「ピア……?どうしたの?血相を変えて……」
「違う……!俺は……ただ誰にも縛られずにいたかっただけなんだ!!なのに……俺があいつを……」
「ピア!どうしたの!?しっかりして!!」
「……!?れ……霊夢……」
ピアが我に返った時、そこには霊夢がいた。いつもと違うピアの姿を見た霊夢は、心配そうにしていた。
「ピア……どうしたの?いつものあんたじゃない……どうしたの?」
「霊夢……俺……俺は……」
今にも崩れそうな姿。それは普段のピアからは想像できないほどの弱い姿だった。
「ピア……」
「霊夢……俺は……また、誰かを殺す……。俺のせいで……また、誰かが死ぬ……。俺が……誰かを……」
「ピア……」
霊夢は崩れ落ちるピアをそっと受け止めた。涙こそは流していないものの、ピアの表情は悲痛と恐怖で震えていた。
「大丈夫よ……私が……ピアを守るから……」
「霊夢……」
「私の想いが……ピアを守るわ……」
「れい……む……」
月は二人を照らす。疲れ切ったように眠るピアの布団の中に、霊夢はそっと入った。そして、震え続けるピアに右手を、優しく握った。
ピア君にも悲しい過去がありました。
だからこそ白蓮と会うと思い出してしまうために辛いのです
では次回また