東方魔郷談   作:Walther58

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お待たせいたしました、それでは第二十八章どうぞ!


第二十八章 ~月落下異変~

 

 幻想郷に近づいてきている月に、多くの人々が不安のまなざしで見つめていた。幻想郷のどこかにある『マヨヒガ』に住んでいる紫たちも、月の異変に気づいていた。

 

「紫様!月が……月が地上に迫っております!」

「わかっているわ……藍、橙と一緒に永遠亭に向かってちょうだい。月がかかわるとなると、八意永琳が黙っていないでしょう」

 

「わかりました!」

 藍は紫の指示通りに橙を呼び、永遠亭に向けて出発した。それを見送った紫は、小さくため息をついた。

 

「……できれば会いたくなかったわ……。……お酒のこと、根に持っていないかしら?」

 かつて月の都からお酒を盗んだことを思い出し、愚痴をこぼすように呟いた。

 

 真夜中の永遠亭では、豊姫と依姫が意識を取り戻していた。

「う……」

 

「気が付いたかしら?」

「……!八意……様……?」

 

 二人が意識を取り戻したことを確認すると、永琳は表情を変えずに尋ねた。

「答えてちょうだい。あなたたちに何があったのか……なぜ月が近づいてきているのかを……」

「八意様……申し訳ありません……。敵に……月の都を占拠されて……しまいました……」

 

「敵……?」

「外の世界から来た……と、言っておりました……」

「外の世界……」

 

 永琳はその敵の世界に心当たりがあった。一度本人から聞かされて話を、永琳が忘れるはずがなかった。

「外来人で、私たちよりも圧倒的な力の持ち主……」

 

「お師匠様!まさか……その敵の世界は……」

 鈴仙もすでに察しているようだった。永琳は小さく頷いて答えた。

 

「えぇ、おそらく……ピアと同じ世界の出身の可能性があるわね……」

「そんな……!それじゃあ、私たちに勝ち目は……」

 

「うどんげ」

「は……はい」

 

「外で待っているみんなを、部屋に入れてちょうだい」

「わ、わかりました」

 

 鈴仙は扉を開けて、外で待機していた霊夢らを部屋に入れた。霊夢はベッドに横になっている依姫を見て、軽く鼻で笑った。

 

「また会ったわね。……ふん、ざまぁないわね。あの時はコテンパンにしてくれたくせに、今度はそっちがズタボロにされているんだもの」

「き、貴様……!」

 

「やめなさい、霊夢。あの時はあの時よ。今は目の前のことに集中しなさい」

「…………」

 

 霊夢は黙ってそっぽを向いた。もし、ピアがいたとしたら、自分を注意するのはピアだったのだろうかなどと、まったく関係ないことを考え始めた。

 

「はぁ……。豊姫、もう一度何があったのかを説明して」

「はい……」

 

 永琳の指示を受け、豊姫は月の都で起こったことをありのままに説明した。

 それは、いつも通り月の桃の味を堪能していた時だった。突如、侵入者が現れたという報告を受けた依姫は、いつものように撃退するように指示をした。

しかし、ものの数分で連絡が途絶えてしまい、一度様子を見に行った依姫は、信じられないものを目にした。劫火にさらされる月の都。

そこらで転がって、息をしていない玉兎たち。中には原形をとどめないほどの仕打ちを受けた者もいた。

依姫は周辺を捜索し、侵入者と対峙した。侵入者を撃破するために、神降ろしを行った依姫だが、侵入者は依姫が降ろした八百万の神々をことごとく殺していった。“神殺し”。

侵入者が持つ圧倒的な力の前に、依姫は一時撤退を余儀なくされた。その後、玉兎たちが奮闘するも、侵入者の侵攻を阻止しきれず、レイセンが囮となることで脱出に成功する。

しかし、侵入者は最後まで二人を逃がさず、追撃をかけてきた。豊姫は最終手段として、森を一瞬で素粒子レベルで浄化する風を起こす、月の最新兵器である扇子の力を発動した。

しかし、信じられないことにその力でさえも侵入者の前に敗北した。完膚なきまでに叩き潰された二人は背に腹を代えられず、地上に逃げてきたのだ。

 

「……以上が、月の都で起きたことの一部始終です……」

 説明を終えた豊姫は、長いため息をついた。一同が言葉を失っている中、霊夢と鈴仙は特に驚きを隠せないでいた。

 

「そんな……月の部隊が……全滅……!?」

「私よりもすごかった神降ろしも……まったく通じないなんて……」

 

「それだけじゃない……月の最新兵器も歯が立たないとはね……」

「申し訳ありません……。まさか……あのような輩がいるとは、つゆ知らず……」

 

「そのことは、もういいわ。それより……侵入者の名前とか、何かわかったことはないかしら?」

「侵入者は……名を名乗っておりました……。たしか……ネクロスとか……」

 

「おい……そいつは本当か?」

 依姫がネクロスの名を出した、ほぼ直後だった。一同が振り返ると、そこにはピアがいた。ピアはこれまで一度も見たことがないような、真剣な顔をしていた。霊夢が思わず声を漏らした。

 

「ピア!?どうして……?」

「お前がいつまでも帰ってこないから、迎えに来たんだよ!それよりお前!そいつの名前は確かにネクロスだったんだろうな!?」

 

「あ、あぁ……間違いはない……」

「あの……クソやろぉ……!!生きてやがったのか(・・・・・・・・・)!!」

 

「生きていた……?ピア、どういうことかしら?」

 永琳の質問に、ピアはいらだちながら答えた。

 

「そいつは……ネクロスは……かつて俺たちが倒した、俺たちの敵だ!」

「ピアの……敵?」

 

「ちょっと待ちなよ!ピアが倒したピアの世界の敵が、死んだ後で幻想入りしたとでもいうの!?」

「あり得ない話じゃないんだよ、妹紅。前に言っただろ?“死んでもひょっこり生き返ってたりするのが日常”だって」

 

「まさか……」

 妹紅が信じられない、とつぶやくのと同時に、その通り、とピアが妹紅を指さした。

 

「“実は死んでませんでした”、なんてのは当たり前のことだ。死に損なって幻想入りした……と、いうことだろうよ……クソッ!!」

 

 ピアは歯ぎしりを立てて怒りをあらわにした。ネクロスはかつて、ピアが住むの世界で宇宙規模の戦争を起こそうとした敵だった。しかし、世界の神で、一国の王である“アベル”によって討ち滅ぼされ、消滅したと思われていた。

 

「(まさか生きているとはな……。ちっ!アベルの奴……詰めが甘いんだよっ!!)」

「ピア……?」

 

 ピアの怒りが相当のものだったのか、霊夢が心配そうにピアの顔を見ていた。

「あぁ、霊夢。大丈夫だ、心配そうすんな。要するに、ネクロスのヤローをぶっ潰せばいいんだ。何も問題はねぇよ」

 

「貴様……正気か!?」

 ピアの発言に、依姫が噛みついた。ピアは目を細めながら依姫を見た。依姫が怒っていることはわかったが、それ以外は何もわからなかった。

 

「奴は……月の最新兵器ですらも及ばなかった力を持っているのだぞ……!どこの馬の骨もわからんような奴が、勝てるはずがない……!」

「勝てるさ。奴は俺の世界の出身で、俺たちのかつての敵だ。一度倒した敵に、二度も遅れは取らん」

 

「だが、奴は……!」

「やめなさい、依姫」

 

「や、八意様……!?」

 永琳に止められ、依姫は思わず驚きを声に出した。ピアは黙って永琳の言葉を待った。

 

「彼が出来るといえば出来るのよ。今は彼を信じなさい。それに……貴方たち二人は、彼にも勝つことはできないわ」

「なっ……!どういう……」

 

「どういうことでしょう……八意様?」

 二人の疑問ももっともだった。二人からすれば、ピアはただの人間も同然だった。だからこそ、永琳が説明する必要があった。

 

「彼はそもそも人間ではないわ。この地上には存在しない生物……魔族なのよ」

「ま……魔族?」

 

「そう。そして彼には、過去に月を侵略した者たちには無い能力……能力無効の能力と、因果操作の能力があるわ」

「因果……操作……!?」

 

「そんな……そんなことが……」

「あるのよ。彼もまた、外の世界からやってきた外来人。可能性として、ないということはないのよ」

 

「…………」

「…………」

 

 因果律を操れると聞いて、驚かない人はいない。豊姫と依姫の二人もまた、驚きを隠せなかった。そんな二人に、ピアは話しかけた。

「ネクロスは俺たちの世界の人間だ。だったらその責任は、仕留め損なった俺たちにある。だから今度は……確実に仕留める」

「ピア……勝算はあるのね?」

 

「ねぇよ、アホ」

「はぁ!?」

 

 ピアの意外すぎる回答に、輝夜は思わず反論した。

「ちょっと待ちなさいよっ!勝算もないのに挑むわけ!?あんたは一体何を考えているのよ!!」

 

「うるせぇな……だったらお前がやるか?」

「うっ……」

 

「だろ?能力のあるなしに関係なく、奴とまともに戦えるのは俺だけだ。だったら俺が何とかするしかないだろう?」

「なんとかって……どうするの……?」

 

 霊夢が不安そうに尋ねてきた。ピアはしばらく霊夢の顔を見た後、呟くように答えた。

「……今から考える」

「そう……わかったわ」

 

 霊夢の表情から、不安の色が消えていった。まだ言えない。ピアは自分にそう言い聞かせ、答えをうやむやにした。ピアがほかの方法を思案していると

「失礼する!」

 

 部屋の中に、藍と橙が入ってきた。

「藍、橙!」

 

「ピア、話は聞かせてもらったぞ。紫様は、月から地上を守れるだけの結界を張るとのことだ。完全に守れなくとも、時間を稼ぐことはできる!」

「紫が……?助かる!」

 

「私と橙も、紫様の援護をするために一度戻る。ピア……決して早まった考えを起こすんじゃないぞ!」

 藍はピアに忠告とも言える言葉を残して、永遠亭を出ていった。藍の言葉に、再び霊夢が不安に駆られていた。

 

「ピア……早まるって、何を……?」

「……今はそんなことはどうでもいい。月は一体どこに落ちてこようとしているんだ?」

 

「敵が幻想郷のことを理解していると仮定すれば……落下地点は博麗神社でしょうね」

「……ちぃっ!どこに落ちたって幻想郷が消滅することに変わりはない……。だが、今は少しでも多くの人を、落下地点から遠ざけることが先決だな」

 

「なら、私が行こう」

 ピアの提案に、慧音が立候補した。ピアは小さく頷くと、慧音に任せた。

 

「頼む。できるだけ騒ぎにならないようにしてくれ」

「あぁ、わかっている」

 

「慧音!私も手伝うよ!!」

「すまない、妹紅。一緒に来てくれ!」

 

 慧音は妹紅とともに、人里へ向かった。霊夢は紫のもとへ向かうべく、マヨヒガへ行くと言い出した。

「マヨヒガ……?そこに紫がいるのか?」

 

「えぇ、そうよ。ピア、一緒に来て!」

「わかった」

 

 ピアは霊夢の指示に従い、ついていった。残ったのは永琳、豊姫、依姫、そして鈴仙と輝夜。月の民だけがその場に残り、他の者たちが姿を消した。

「さて……」

 

 永琳は窓を開け、向かってきている月に向かって呟いた。

「私たちの月……必ず取り返さないとね」

 

 霊夢の案内により、ピアはマヨヒガらしき屋敷にたどり着いた。しかし、名前のイメージとは大きく異なるほどのごく普通の家だったので、ピアは思わず霊夢を疑った。

「おい……こんな地味なところに、本当に紫が住んでいるのか?」

 

「住んでいるのよ、これが。……紫ぃー!どこにいるのよぉー!!」

「ここにいるわよ」

 

「ひゃあっ!!」

 大声を出して呼んでいたのにもかかわらず、紫はスキマを使って霊夢のすぐ真後ろに出てきた。突然のことだったのか、ただの反射なのか、霊夢はピアの後ろに隠れた。

 

「おい。なんで俺の後ろに隠れる?」

「え……?あ、ごめん……」

 

 霊夢はピアに言われてすぐにどいた。そんな二人を紫はクスクスと笑いながら見ていた。

「初々しいわねぇ~」

 

「うっさい!……それで、紫。結界を張るんですって?」

「えぇ。一応……というか、本当に応急処置程度だけれど」

 

「手伝うわ。私と紫……あと、あんたの式たち。四人で結界を張れば、月の一個や二個ぐらい……!」

「無理でしょうね」

 

 霊夢の言葉を遮るように、紫ははっきりと言った。霊夢は紫の言葉に反発した。

「なんでよ!?やる前から無理って決めつけるなんて……」

 

「質量が違いすぎるのよ……。あの月を止めるんだったら、私があと四十九人は必要になるわ」

「紫が……五十人分……?」

 

「スキマを使って月を動かすにしても、それだけで私が力を使い果たしてしまいそうよ。でも……結界で守るには、力が足りなさすぎるわ」

「じゃあ……本当に打つ手がないの?」

 

「あるにはある……でも、そのためには……」

 紫はピアの方を見た。ピアは紫と目が合うと、小さく頷いた。

 

「え……?なに?なんなの?」

「今はまだ言えない……。霊夢、紫の手伝いをしてやってくれ。俺は……行くところがある」

 

「ピア……?」

 ピアはそれだけを言うと、次に紫に向かって言った。

 

「紫……結界はどれくらいでできる?」

「霊夢の協力があれば……三日ほどで」

 

「月はいつごろ落ちてくる?」

「四日……あるかないか、ね」

 

「わかった。できることをやろう」

 そしてピアはどこに行くわけでもなく飛び去った。紫は霊夢とともに結界を作ることに専念することにした。

 

「ピア……」

 霊夢は嫌な予感がしていた。自分の予感の当たり具合をよく理解している霊夢だからこそ、信じたくない予感だった。それでも、今はできる限りのことをする。そう自分に言い聞かせ、霊夢は紫の後を追った。

 

 できることをする。そのためには、まず幻想郷全体で、今回の異変を認識してもらう必要があった。そこで、ピアは文に頼み、今回の異変を新聞を通じて幻想郷全体に知らせるように頼んだ。

 

「しかし、いいのですか?余計な混乱を招くような気もしますが……」

「何も知らないまま死ぬよりは、起きている異変のことを認識してもらった方がよっぽどいい……文、頼む」

 

「……わかりました。ピアさんにそこまで頼まれては、今更断るなんてできませんし」

「文……!」

 

「清く正しい射命丸、あなたのために一肌脱ぎましょう!では、行ってきます!!」

 文は疾風のように飛んで行った。それを見送ったピアはひとまず安心した。

 

「まずは一手……次だな」

 ピアは次の目的を果たすべく、守矢神社へ移動を開始した。

 

「……大体の事情は呑み込めたよ。でもまさか……月が落ちてくるなんてね……」

「あぁ。地上に激突するまで、もう一週間もない……だから、早苗たちにも避難をしてほしいんだ」

 

「…………」

 ピアから事情を聴いた神奈子は、ピアの目をじっと見ていた。ピアもまた、神奈子の目をまっすぐ見ていた。

 

「……神奈子様……」

「神奈子……まさか、今更ピアの言うことなんか信じられない……なんて言い出したりしないよね?」

 

「そうではない……。だが、月を落としてくる敵は、お前の世界の人間なんだろう?」

「……あぁ」

 

「お前の言葉は信じてやる……。だが、けじめは自分でつけろ。いいな?」

「わかってる。もとよりそのつもりだ」

 

「ピアさん……?」

 神奈子とピアの会話が理解できなかったのか、早苗は首をかしげていた。やがて、三人が避難を開始したことを確認すると、ピアは次の場所へと移動した。こうしてピアは場所を転々とし、そのたびに避難するように告げていった。

 

「ふぅ……」

 一通り避難を告げたピアは、一度博麗神社へと戻ってきた。

 

「お帰り、ピア」

 博麗神社に唯一残っている萃香が、ピアを出迎えてくれた。

 

「あぁ、ただいま萃香」

「どうだい?なんかわかったこととか、変わったこととかあったかい?」

 

 ピアは萃香とともに神社の縁側に座ると、今は傾いて沈みつつある月を睨みながら答えた。

「わかったことがある。紫がすでに結界を張る準備をしていること。それでも月は止められないこと。そして……月を落とそうとしている犯人は、俺と同じ世界の人間だってことだ」

 

「ピアの世界……幻想郷にとって、やたら強すぎる連中が集まっているっていう世界かい?」

「そうだ。それも……初対面の人間にもわかるくらいの悪党がな……!」

 

「月にはたしか……霊夢たちよりも強いっていう二人組がいるんだっけ?その敵は、そいつらも倒したのかい?」

「そうだろうな……いや、そいつならやりかねん……。力と恐怖で他人を支配しようとするやつだからな……」

 

 ピアが苦々しく答えると、萃香も悔しそうに握り拳を作った。

「まったく……こっちは月に行く手段がない……。そうでなくても月を止められない……。なのに敵はむちゃくちゃ強くて、月まで落としてくる……」

 

「あぁ……流れは完全に向こうのものだ」

「くそうっ!こんな時に何にもできないなんて……!!」

 

「…………」

 萃香は心底悔しそうに床に拳を叩きつけた。しかし、それでもピアは冷静だった。

 

「落ち着け。月は四日後には落ちてくる……霊夢と紫が結界を張るのに三日はかかる……そして、残念なことにその結界が食い止める時間は一日か……長く持ったとしても二日もない……。それでも、方法はないことはない」

 

「……!まだ方法があるの!?さすがはピアだねぇ!!」

「だが……そのためには……」

 

 ピアは自分の左手を、人間の手を見た。右手とは異なるきれいな肌。人の心を辛うじて保ったことによって、人の姿を残した左腕。

「(すべてを犠牲にする覚悟なら……とうにできている……!)」

 

「ピア……?よくないことを考えているんじゃないだろうね?」

「……ねぇよ……それはない。心配すんなよ。今回の異変も、月に乗り込んで黒幕を倒せば、すぐに片が付く。何も問題はねぇよ」

 

「……だと、いいけどねぇ……」

「ほら、今日はもう寝よう。霊夢がいないのはちょっとあれだが……とにかく、明日に備えるんだ。明日には、明日にしかできないことが……」

 

「ピア……」

「なんだ?」

 

 萃香は時計を指さした。

「もう零時を過ぎてるよ……」

 

「……じゃ、じゃあ!今日に備えて寝るんだよ!!」

「……ふふ、あっははは!やっぱりピアはピアだねぇ!……そうだね、今回もピアを信じようかね」

 

「あぁ、それでいい。……さぁ、今日はもう寝て、今日に……?次に備えるんだ」

「はいはい、無理しなくていいよ」

 

「うぐぅ……とにかく布団を敷くぞ!」

「はいよぉ~」

 

 ピアは結界作りに専念している霊夢の身を案じつつも、今の自分にできることを精いっぱいするために眠りについた。

 

 

 月落下まで、残り三日。結界完成まで、残り二日。

 ピアの警告と、文の新聞の協力があってか、幻想郷住人の避難は予定より早く完了した。あとは、結界が完了するのを待つだけである。

 

「……このまま何事もなく、時が流れてくれればいいが……。いや、相手はあのネクロスだ。仕掛けてこない方が不思議だ……。結界作りに、魔法使いたちにも協力を煽ろう」

 ピアは結界を早急に完成させるため、魔理沙たち魔法使い組にも協力を求めるために再び飛んだ。

 

 そのころ、月を落下させるために動いていたネクロスは、月に自分の力を与えることで落下速度の加速を試みていた。

「ふむ……こいつぁいいぜ。なかなかに使える兎どもに、意外とよく見たら使い道のある兵器やらなんやらと……宝の山っていうのは、こういうことを言うんだろうな!ははははは!!」

 

「……こ……こんなことを……して……!ただで済むと……思わない……ことです!!」

 高笑いをするネクロスを、拘束されたレイセンは強く睨み付けていた。ネクロスは一度レイセンの顔を殴り、襟元を持ち上げた。

 

「ほう……まだそんな口を利く元気があるんだな」

「いずれ……豊姫様と……依姫様が戻ってきます……!そうなれば……たとえお前だろうと……」

 

「あぁ、あの二人か。お前が寝てる間に追撃をしといたぜ。ありゃあ……死んだな」

「……!そ……そんな!!」

 

「うん?俺は狩りをするときは、鼠だろうと容赦はしない……。怪我人だろうと、戦場に出ればただの兵士だ。そして、兵士の末路は……死、のみだ」

「う、嘘だっ!!」

 

「うるせぇよっ!!」

 ネクロスはレイセンを思いっきり地面にたたきつけた。

 

「うああっ!!」

「俺は最初に言ったはずだぜ?“主の無事を信じ、生きて助かりたいのならば俺に従え”と。今、お前の仲間たちに命令して、この月の技術力を結集させた巨大エンジンを作っているところだ」

 

「エ……エンジン?そんなもの……どうしようと……」

「決まってんだろうが、ボケ。この月の落下を加速するための動力源にするんだよ」

「なっ!?」

 

 ネクロスはレイセンを掴んでいた手を放し、自慢げに語り始めた。

「なぁに、簡単なことだ。そのエンジンをまず、地上がある方向へと進むように作る。エンジン完成と同時に一斉噴射!そうすりゃあ、月は俺が動かすのとエンジンによる加速で、さらに速く進むんだよ!!今頃は地上でも落下の対策を練っているだろうしな……早いとこ落しちまわないと、後々面倒なことになりそうだからな」

 

「どうして……どうしてそこまで出来るんですか!?それでは多くの命が……!!」

「軍人が命とか、なに寝言をほざいてやがる!」

 

 ネクロスはレイセンのみぞおちに蹴りを入れた。あまりの強さにレイセンは吐血した。

「がっ!はぁ……!!」

 

「命を奪うための訓練を受けときながら、笑わせる。お前だってあれだろうが。自衛という名の人殺しをするために軍人をやってるんだろうがよ。えぇ?」

「ちっ……違う……私は……」

 

「違わない。他の兎どもも、あの姉妹だってそうだ。いいか?戦いっていうのはな……どちらかが滅ぶまで続くもんなんだよ。それなのにこの世界は、まるで殺生というものを知らん。だからこそ、いざ命がかかわるほどの事態になると、何もできないんだよ!例えば……異世界からの侵略……とかな。俺は……俺たちの世界は違う!生き残るためなら、どんなことだって平気でやるさ。他人の平和を糧にして、自分たちの平和を勝ち取ってきたんだ!お人好しだぁ?偽善者だぁ?そんな連中はいくらでもいる!現に俺自身も……世界の平和のための糧にされたのさ!」

「そ……そんな……」

 

「そんな世界でもなぁ……報われない奴がいたんだよ。そいつはヒトとバケモノの狭間で永遠にさまよい続けているクソ野郎だ。人間からは嫌われるくせに、神やら妖怪やらからは仲間意識を持たれているんだってよ。……はぁ!?意味がわかんねぇんだよ!!そいつ自身は仲間とも何とも思っちゃいないくせに、妙に好かれているんだってぇ!?ふざけんな!!奴は俺以上に人を殺した!俺以上に多くの世界を巻き込んだ!それなのに、なぜ俺が裁かれて、奴が許された!?なぜ人間が裁かれ、魔王が許されるんだよ!!俺は認めない……だからこそ!呑気に地上で生きながらえている魔王を、この手でぶっ殺してやるって言ってんだよ!」

 

 ネクロスは部屋の壁を破壊し、怒りをあらわにした。その後少し落ち着いたのか、普段通りの口調に戻った。

「……ふぅ。久々に怒った気がする。やれやれ……八つ当たりとかカッコわるすぎるぜ……悪かったな」

 

「え、あ、いえ……」

 いきなり謝ってきたので、レイセンは素直に驚いてしまった。それでも、ネクロスは殺気を隠すことなく続けた。

 

「とにかく……俺はその魔王をぶっ殺す。ついでに運がよけりゃ、現実を見ようとしないこの世界をぶっ壊す……って感じだ。オーバー?」

「サ……サーイエッサー……」

 

「よし。……さぁて、エンジンの様子でも見てくるかな。お前、ちょっと待ってろ」

「あ、はい……」

 レイセンに一言だけ言うと、ネクロスはさっさと部屋を出ていった。一人取り残されたレイセンは、遅れてやってきた強烈な痛みに再び意識を失った。

 

 

 ネクロスが月落下加速器を作っている頃、幻想郷では文が配達して回った新聞が話題となっていた。

「……どうだ、文?」

 

「えぇ。最初はみなさん、酷く慌てていましたよ。それはもう、絶望するほどに」

「そうか。……ん?最初?」

 

「はい、最初のうちだけです。しかし、あとから皆さん口をそろえて言ってました。“我らには博麗の巫女様と、その使いがいらっしゃる”と」

「……俺と霊夢を……信じているのか……」

 

「その通りです。皆さん、霊夢さんとピアさんがいれば、きっと助かると……そう信じています」

「……そうか。……文、結界の方は?」

 

「結界なら、魔理沙さんにアリスさん、パチュリーさんに白蓮さんと、魔法使いの皆さんの協力で、予定より一日半は早く完成するそうです」

「上出来だな……。これは俺の勘だが……おそらく敵も、月の技術とかいう奴を使って、推進エンジン的な何かを作る可能性がある」

 

「推進エンジン……とは?」

「物体の加速を促すものだ。それにより、月の落下速度を加速させるかもしれないからな……。魔理沙はともかく、他の三人なら間違いなく力になるだろうしな」

 

「なるほど……さすがはピアさん。すべて読み通りということですね!」

「いや、そうでもないんだよな……」

 

 ピアの表情が急に曇ったので、文は眉をひそめた。

「……どういうことでしょう?」

 

「たしかに俺たちは相手の先を行っている。だが、本当はこっちの方が完全に後手に回っている……。技術も力も、月の方が上だからな……」

「それでは、いずれ……」

 

「いずれはこちらが敗北する。その前に……出来る限りの手を尽くさなきゃいけねぇ……!文!もう少しだけ、俺に付き合ってくれ!」

「無論です!とことん協力させてもらいますよ!」

 

 ピアは文とともに、再び幻想郷の空を舞った。日が沈み、徐々に近づいてくる月がもう一度その姿を現した…

 





マヨヒガで結界を作る紫と霊夢、そして藍と橙。四人に協力する魔法使いたち。そして迫りくる月と、ネクロスの陰謀。幻想郷最大の危機に、ピアは……。
次回お楽しみに
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