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では第二十九章どうぞ!
月落下開始から三日後。博麗神社にて、ついに幻想郷全体を覆う博麗大結界をはるかに上回る巨大結界、『八雲式・幻想結界』が完成した。いつでも展開できるように紫と霊夢、藍と橙の結界組。そして、四人を補佐するために集められた魔理沙とアリス、パチュリーと白蓮の魔法使い組が準備をしていた。
「……よっし!こっちの準備も終わったぜ!アリス、そっちはどうだ?」
「問題ないわ。……他の二人はどう?」
「大丈夫よ。いつでも行けるわ」
「私も、準備は万端です」
パチュリーと白蓮も問題はなかった。魔理沙は上空に展開されている巨大な結界を見上げて、すっかり感心していた。
「それにしても驚いたな……まさかこんなにでかい結界を作るなんてよ」
「えぇ……術による結界と、魔法による結界の二つを融合させて、一つの巨大結界にする……。“俺の世界でもできたんだから、こっちでもできる”なんて、ピアに言われたときは信じられなかったんだけど……本当にできてしまうのね」
「そのあたりは、ピアの魔力のおかげだな。あいつの魔力は、別の能力に化ける性質があるらしいし」
「その性質を応用して、術と魔法の二種類の結界を一つにする……相変わらず、デタラメなのね」
「あぁ……でも、今回はそのデタラメに助けられたんだ。何も言わないでおこうぜ」
「……そうね」
アリスも巨大な結界を見上げた。結界の中央では、霊夢と紫が最終調整をしているところだった。
「あとは二人と……ピアに賭けるしかないわね……」
「霊夢……頼むぜ……!」
「……いい?ピアの予想が正しければ、今晩にも月は大気圏を突破するはず……。そこで、段取りを説明するわ。月が大気圏を突破し始めたら、それとほぼ同時に私たちで張った、この『夢幻大結界』を発動。月に向けて発射するわ」
「えぇ」
「その後は、地上で待機している魔法使いたちが『絶対守護結界』を発動。『夢幻大結界』に重ねる形で発射する。そして、『夢幻大結界』と『絶対守護結界』の二つが、ピアの魔力によって融合することに成功すれば、『八雲式・幻想結界』が完成。月落下までの時間を稼ぐ算段よ」
「やっぱり……押し返すことはできないのね……」
「無理でしょうね。今回は相手が悪すぎたわ……食い止めている間のことは、ピアに任せましょう」
「えぇ……」
「ピアの読み通り、敵は落下を加速させるものを造ったようね。月の落下時刻が、予定より早まっている……。激突は免れないでしょうね」
「…………」
霊夢はあまりの不安に、どうしてもうつむいてしまった。紫はそんな霊夢を気遣ってか、肩にそっと手を置いた。
「……昔とだいぶ変わったわね。かつてのあなたは、不安や焦燥を顔に出すような子じゃなかったのに」
「……そうかもね」
「それも、すべて彼のおかげ?」
「……否定しないわ」
「だったら肯定しなさいよ。心を許すことが出来る相手が見つかるっていうのは、とっても素敵なことよ?それも、霊夢……あなたがね」
「……うん」
「どうするの?死ぬ前に、自分の気持ちを伝える?」
「そんなこと……するわけないでしょ?」
「あら?どうして?」
「誰も死なないから……この幻想郷に住む人、誰一人として死なないからよ」
「それは……ピアも含まれるのかしら?」
「はぁ?当たり前でしょ。ピアだって……絶対に死なないもの……」
そう言い切ってみせた霊夢だが、体は小刻みに震えていた。紫は霊夢に何かを言おうとしたが、最後まで言葉が見つからなかった。
「じゃあ……私は持ち場に戻るわ。……健闘、祈っているわ」
それだけしか言えず、配置に着こうと移動した時だった。
「紫!」
「……?」
「私……頑張るから!紫も……頑張って……」
「…………!!」
逆に霊夢に励まされてしまい、紫は思わず笑いがこみあげてきた。
「……っぷ!あははは!」
「ちょ!人が励ましているっていうのに、なんで笑うのよ!?」
「だ……だって、霊夢に励まされるなんて……思ってもみなかったし……!」
「……馬鹿にしてる?」
「してないわ……。ただ……純粋に嬉しかったわ、霊夢」
「……!さ、さっさと持ち場に戻りなさい!現場監督命令よ!!」
「はいはい!霊夢も頑張ってね」
「い……言われなくったって!紫こそ、しくじったりしないでよね!」
「あら、心配なら無用よ。霊夢……無理はしないでね」
それだけ言い残し、紫は持ち場へと戻っていった。紫との会話を終え、結界の中央に一人残った霊夢は、目を閉じて自身の胸に手を当てた。
「(お願い、ピア……力を貸して……!!)」
そしてゆっくりと目を開けた。目の前には空を覆いつくさんと言わんばかりに、接近していた月がそこにあった。
「……太陽よりは、月の方がよっぽどマシね。……勝負よ!」
月にケンカを売ると、霊夢は結界専用のスペルカードを取り出した。
~作戦開始まで、残り六時間~
「……『幻想郷守護結界作戦』?」
咲夜は首をかしげた。ピアは今、紅魔館にいる。レミリア達がなかなか動き出さないので、直接言いに来たところ
「私たちの居場所はここよ。そして……いずれはあなたの居場所にもなるの。だから……そんな簡単に手放したりはしたくないのよ!」
レミリアはそう言ったきり、紅魔館に籠城する構えを取っていた。咲夜が何度も説得していたらしいが、まったく聞かないらしい。そこでピアは、咲夜に今回の異変に対抗するための作戦の説明をしていた。
「あぁ。……と言っても、本当に気休めの足止め程度なんだがな。それなりに建て前がないと、かえって村人たちを不安にさせるだけだからな」
「でも……気休めの足止め程度では、すぐに突破されるんじゃあ……」
「わかってる。そのための最終手段は、ちゃんと考えてある」
「最終手段?それは一体……」
「それはまだ話せない。結界が突破されると、はっきりわかるまではな……」
ピアはそういって、窓の外を見た。月は確実に、博麗神社に近づいていた。その博麗神社の上空には、紅魔館からもはっきりと見えるくらいの巨大な結界が張られていた。
「(よし。『八雲式・幻想結界』の準備も万端だ。あとは……人事を尽くして天命を待つ……か……)」
「あれ……随分と巨大な結界ね。あれで、月が落ちる時間を稼ぐと言うの?」
「まぁな。時間を稼ぐだけでいい……あとは……俺が……」
「ピア……?」
「いや、何でもない。……じゃあ、俺は行くから……」
「えぇ……気を付けて……」
咲夜と別れを告げ、ピアが紅魔館を立ち去ろうとした時だった。
「お兄様……」
「……!フラン……!」
ピアの前に、不安で今にも泣きだしそうなフランがいた。ピアがひざを折ると、フランはピアに走って行って抱き付いた。
「怖い……怖いよ、お兄様……」
「大丈夫だ……俺が必ず守ってやる……!だから……泣かないでくれ、フラン」
「お兄様ぁ……」
「絶対に守る。フランも……レミィも……」
ピアはフランに誓うように言った。恐怖で体を震わせている少女を、必死に励ましていた。
「(……お嬢様……)」
「咲夜、レミィに伝えてくれ。“逃げるのが嫌なら、博麗神社に来い”……と」
「……わかったわ。必ず、お嬢様に伝えておくわ」
「あぁ。……ごめんな、フラン。俺はフランを守るために、次の準備をしなきゃいけないんだ」
「えっ……?そんな……」
「大丈夫。怖くなったら、いつでも博麗神社に来たらいい。俺はそこにいるからさ」
「うん……行く。絶対に行く!」
「フランが来てくれると、すごく元気づけられるよ」
「……うん!」
ここでフランはようやく笑顔になった。それを見たピアのほんの少し笑顔になり、スッ、と立ち上がった。
「じゃあ、俺は行くよ」
「ピア……気を付けて……」
ピアは紅魔館の窓を開けて、そこから翼を広げて飛び立った。ピアの翼を見たことがなかったフランと咲夜は、その姿に思わず目を見開いた。
「お兄様、かっこいい!」
「ありがとう……行ってくる!!」
ピアはバサァッ、と翼を広げて、目にも止まらない速さで飛んで行った。
~作戦開始まで、残り三時間~
タイムリミットが刻々と迫る中、月がさらに加速を始めた。
「これは……!?藍!!」
「大変です!紫さま!!月が更なる加速を始めました!!」
二人の会話を聞いていたピアは、小さく舌打ちをした。
「まずい……奴らの技術力は相当のものだったか……!!俺の予測の先を行ってやがる!!」
「ピ……ピア……!!」
霊夢の顔に焦燥の色が浮かんできた。それは不安によって、さらに強くなっていった。
「大丈夫だ……」
「でも……」
「大丈夫だ!」
ピアは力強く言った。その言葉に、やはり迷いなどは存在していなかった。
「問題ねぇ……。『八雲式・幻想結界』が発動されれば、あとは俺が何とかする」
「なんとかって何よ?一体どうするっていうのよ!?」
「俺を信じろ、霊夢。大丈夫……必ず守ってみせる……」
「ピア……これを……」
霊夢を励ましているところへ、アリスが近寄ってきた。ピアはそっちの方へと振り返った。
「どうした?アリス」
「これを……受け取って」
アリスから手渡されたのは、一体の人形だった。ピアは人形を受け取ったが、なぜ人形を渡されたのかはわからなかった。
「人形……?これは一体なんだ?」
「通信用の人形よ。一応……持っててほしいの」
「通信用……か。……わかった。受け取ろう」
ピアはアリスから人形を受け取ると、それを腰からぶら下げた。
「……よし、悪くないな。ありがとうな、アリス」
「これくらい、どうってことないわよ。……それより、さっきの話から察するに、作戦開始時間が早くなりそうね……」
「あぁ……月の技術力を、多少ばかりナメていた……。現代に近いほどに発展していたとはな……迂闊だった」
「仕方ないわよ……ピアは月に行ったことがないんでしょ?」
「ないとはいえ、ある程度予測はできたはずだ……クソッ!!」
ピアの表情にも、焦りが見え始めた。霊夢は手に持っているスペルカードを強く握りしめた。
「ピア……作戦を開始するわ」
「霊夢……」
「私たちが時間を稼ぐから……その間に、やることとかあるんでしょ?」
「……!あぁ……」
「任せてよ。私だって……ピアに信じてもらえれば、何でもできるから……」
「……わかった。作戦……開始してくれ……」
ピアは下を見下ろした。そこには、避難したはずの守矢神社組や、命蓮寺組。さらに、永遠亭組に、地霊殿組、神霊廟組と全員が集合していた。
「ここにいるみんなだって、ピアを信じてる。だから……私ががんばってこの世界を守るのよ!」
「霊夢……」
「下で待ってて、ピア。いっそここで……押し返して見せるから……!!」
霊夢の中にはもう恐れはなかった。守るために戦う。その強い意思が、霊夢の瞳に宿っていた。
「(あぁ……これなら大丈夫だな……。今の霊夢なら……この先、俺が……)」
一人考えながら、ピアは一度地上に降りた。ピアが地上に降りたことを確認すると、霊夢は辺り一面に聞こえるように叫んだ。
「行くわよ!!『幻想郷守護結界作戦』……開始っ!!」
「えぇ」
「わかった!」
「が、頑張ります!!」
「おう、任せろ!」
「守るわよ……絶対に!」
「魔法使いの底力……見せてあげるわ」
「必ず守って見せます……この世界を!!」
それぞれが返事をした直後、霊夢を中心にして、霊夢、紫、藍、橙の四人が同時に同じスペルを発動した。
「スペルカード……」
霊夢に合わせて、四人がスペルを詠唱した。
「「「「最強奥義っ!『夢幻大結界』!!」」」」
スペルを発動すると同時に、巨大な結界が展開された。霊夢はその結界に両手を添えると
「……うおりゃああぁぁぁぁっ!!」
その結界を全力で月に向かって押し込んだ。結界はまっすぐ月に向かっていき、やがてぶつかった。その時の衝撃で、木や山がかなり吹き飛ばされた。
「次っ!魔理沙!!」
「まっかせろおおぉぉぉっ!!」
霊夢の言葉を合図に、次は魔理沙たちがスペルを発動した。
「いくぜっ!みんなぁっ!!スペル……!」
魔理沙に合わせて、次の四人がスペルを詠唱した。
「「「「最終魔法っ!『絶対守護結界』!!」」」」
スペル発動と同時に、『夢幻大結界』よりも一回り大きい結界が発動された。そして、霊夢はその結界の下に回り込み、もう一度押し込んだ。
「こん……のおぉぉぉぉっ!!」
もう一つの結界が飛んで行き、『夢幻大結界』に接近したところで、魔理沙は霊夢にミニ八卦路を放り投げた。
「いっけえぇぇっ!霊夢ぅ!!
「任せてっ!!」
魔理沙からミニ八卦路を受け取ると同時に、あらかじめ充填されていた魔力にスペルカードを重ねた。
「スペルカード……。究極奥義っ!『八雲式・幻想結界』!!」
ミニ八卦路に充填されていたピアの魔力を、霊夢は一気に解き放った。魔力はレーザーとなって『絶対守護結界』を『夢幻大結界』に押し付けた。二つの結界は一つに交わり、さらに超巨大な結界に生まれ変わった。
「やったぁ!成功だぁ!!」
「えぇ……でも……!!」
霊夢の予想通りだった。どれだけ巨大な結界を張ろうと、大気圏を突き抜けてくる月の質量には敵わなかった。ほんの少しづつだが、確実に結界にヒビが入り始めていた。
「嘘……だろ……?」
「そんな……!これだけ巨大な結界でも……!?」
「守れない……というの……?」
八人が地上に降りてくると、その場にいた全員が八人に駆け寄った。
「霊夢!あなたは頑張ったわ!本当に……十分すぎるくらいに……。パチェもありがとう。よく頑張ってくれたわ」
「レミリア……」
「レミィ……ごめんなさい……」
「ごめん……こーりん……。私……私……!」
「魔理沙……君はよく頑張ったよ。僕は何も文句は言わない……ありがとう魔理沙、アリス」
「ごめんなさい……私にもっと、力があれば……」
「聖ぃっ!!」
「……!みんな……!!」
「姐さん……」
「聖……大丈夫です。私たちは……ずっと一緒ですから……」
「聖殿に文句を言う者は、一人としておりませぬ。聖殿……力になれず、申し訳ない」
「いいのよ……みんな……ありがとう……!」
そこに希望などなかった。頼みにしていた大結界は、少しづつだが崩れ始めていた。落下する月に、何もできずに呆然と見上げている時だった。
「……大丈夫だ」
ただ一人、希望を失っていない者がいた。その男は、一人月の前へと歩み出た。
「……ピア……?」
「霊夢、ありがとう。おかげで下準備は全部整った。あとは……俺に任せろ」
「任せろって……何をするんだよ!?」
魔理沙の問いに、ピアは月を背にして答えた。
「俺が……一人で月を押し返す!!」
誰もが信じられなかった。何より、信じたくなかった。月を押し返す。それはどう考えても不可能に近かった。この発言に、異を唱えたのはさとりだった。
「ま……待ってくださいっ!月を押し返すなんて、そんな……無茶です!!そんなこと、できるはずがないっ!!」
「出来る……俺ならばな」
「いくらピアさんでも、できないことがあるはずです!月を押し返すなんてもってのほか……」
「さとり……俺に任せろ。俺がすべて……終わらせる」
ピアがそういって飛び立とうとした時だった。
「待てっ!!」
ピアを呼び止める声が聞こえた。声の主は、依姫だった。
「月を押し返すなど……貴様、死ぬ気かっ!?」
「ど、どういうことなの?」
霊夢が依姫の言葉を理解できないでいると、豊姫がその場にいる全員に説明した。
「宇宙には……それぞれの惑星が持つ、大気圏というものが存在するわ。その大気圏を突破しようとすれば、人なんて簡単に死んでしまうような高熱に襲われる……」
「……それで?」
「月を押し返すことに成功したとしても……彼は……地上の大気圏の熱によって、間違いなく……死ぬ」
「えっ……?」
霊夢は言葉を失った。豊姫の言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になったのだ。
「(え、なに、死ぬ?死ぬって……誰が?誰?ピア?ピアが……死ぬ?月を押し返して、大気圏で燃え尽きて……ピアが……死ぬ……?)」
ピアが死ぬ。それは絶対に聞きたくない言葉であり、絶対にあってほしくないことだった。
「……え?嘘でしょ?ねぇ、ピア。嘘……だよね?」
「…………」
「いや……そんなのいや……いやあぁぁっ!!」
霊夢は思わずピアにしがみついた。そして、そのままピアの胸の中で泣きじゃくった。
「いや!絶対にいやぁ!!ピアが死ぬなんて……そんなのいやだぁっ!!」
「霊夢……」
「せっかく会えたのに……初めて好きになれたのに……たった一年しか一緒にいなかったのに!!こんな……こんなことって……!!」
「霊夢……大丈夫だ」
ピアは霊夢の肩に手を添えると、少しだけ引き離した。霊夢が泣き顔のまま、ピアの顔を見上げた。ピアは、笑っていた。
「俺は必ず帰ってくる。なんてったって……俺は『博麗の巫女の使い』だからな。絶対に……生きて帰ってくる……信じてくれ」
「ピア……ピアァ……」
「……魔理沙!霊夢を頼む!!」
「お、おう!」
ピアはそのまま霊夢の肩を突き飛ばすと、後ろにいた魔理沙にバトンタッチした。
「……っ!ピア!?」
「大丈夫だ。必ず生きて帰ってくる!俺は嘘はつかない!!」
「お兄様ぁー!!」
「お兄ちゃんっ!!」
「兄貴ぃぃっ!!」
霊夢と離れると、次にフランとこいしとぬえの三人がピアに抱き付いた。
「お前たち……」
「いやぁっ!!行っちゃやだぁ!お兄様ぁっ!!フランを一人にしないでえぇ!!」
「私……私……っ!!お兄ちゃんの心、まだ何にも知らないのに!会えなくなるなんてやだよぉっ!!」
「せっかく新しい家族が……私にも兄貴が出来たって……!ずっと思ってたのに……!!」
「みんな……」
ピアは三人まとめて抱きしめた。そして、これまで以上に優しく語りかけた。
「大丈夫だって。大丈夫になるまで押し返したら、すぐに帰ってくるからさ……。俺を信じて、待っててくれないか?」
「でも……でもぉっ!!」
「泣くなって。お前たちは俺にとって……大事な妹たちだ。大丈夫……生きて帰ってくるから……」
「うわあぁぁぁ!!お兄様……お兄様ぁぁぁっ!!」
「いやあぁぁっ!!行っちゃやだよ!お兄ちゃあぁぁんっ!!」
「兄貴ぃっ!ここにいてよ……ずっとここにいてよぉぉっ!!」
泣きじゃくる三人を慰めながら、ピアはレミリア、さとり、白蓮の三人を呼び、フランたちを預けた。
「ピア……」
その際、レミリアに声をかけられ、ピアは振り返った。
「……なんだ?」
「……生きて帰ってこなかったら……許さないんだから……!!」
「わかってる」
ピアは再び振り返り、月に向けて飛び立つために、その背に翼を広げた。
「ピア……ピアあぁっ!!」
「おいっ!霊夢っ!!」
霊夢は魔理沙の制止を振り切り、もう一度ピアに抱き付いた。
「霊夢……!」
「やっぱり行かないで!ピアが死ぬなんて……私には耐えられないっ!!」
「霊夢……聞いてくれ」
ピアは霊夢の目を見つめた。二人の視線が自然と重なり合った。
「俺は……今までずっと、自分が生まれ育ってきた世界を呪っていた。恨み、憎み、妬んでいた……。だが、この幻想郷に来て知ったんだよ。こんな俺のことを……受け入れてくれる世界があるんだって」
「ピア……」
「今までずっと言えなかったけどさ……。本当は、嬉しかったんだ。幻想入りできたこと……本当に嬉しかった。俺はこの世界だ好きだ!だから、俺は守りたいんだ!人間が……妖怪が……神々が恋した幻想郷を……。みんなが生きるこの世界を!俺は守ってやりたいんだ!」
「いや……ピアぁ……」
「霊夢……」
ピアは翼を広げて自分と霊夢を覆い隠すと、霊夢の唇にそっとキスをした。そして、ピアは自分の首に巻かれている紅白マフラーを霊夢の首に巻いた。
「……!ピアっ!!」
「もし……世界がこんな俺を許してくれるのなら……もう一度だけ……誰かを好きになりたかった……」
「ピアぁっ!!」
「霊夢……ありがとう。……愛してる(・・・・)」
ピアは翼を広げ、ゆっくりと浮上した。霊夢は何度も首を横に振りピアの後を追いかけようとしたが、魔理沙が後ろから霊夢を抑えた。
「いやぁっ!!魔理沙!放してっ!放してよぉっ!!」
「落ち着け!霊夢っ……!!私だって……私だってピアを止めたい!!だけど……他に方法がないじゃないかっ!!」
「いやあぁぁっ!行かないでっ!!戻ってきてええぇぇぇぇぇっ!!」
「(ありがとう……霊夢……さようなら……。きっと……必ず帰ってくる……)」
霊夢がどんなに泣き叫ぼうと、ピアは決して振り返らなかった。月を真っ直ぐ見据えると、翼を折りたたみ、踏み込む姿勢を取った。
「(……魔力調整……全重力を前方に集中……発動!!)」
踏み込むと同時に、ピアはものすごい勢いで飛び立ち、結界に激突した。ピアは体勢を立て直し、結界に自分の両手を乗せた。
「このまま……押し返すっ!!」
ピアは翼の力であらん限りの重力を自分に乗せて、月を押し返していった。
一方、人里からこの様子を見ていた人々は、押し返されていく月を見て大歓声を上げていた。
「おぉーっ!月が……月が押し返されてるぞ!」
「やったー!博麗の巫女様がやってくれたんだー!」
「ばんざーいっ!これで助かるぞー!!」
村人たちが喜ぶ中、慧音の表情だけは曇ったままだった。
「……妹紅」
「あぁ、わかってる。多分……ピアだ。ピアが結界ごと……月を押し返してるんだ」
「ピア……無茶だけは……しないでくれ……!」
慧音は妹紅とともに、ピアの無事を祈った。ただ、祈ることしかできないから。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ピアは押し返す。目の前に迫りくる脅威から、大好きな世界を守るために。大切な者たちを守るために。
「でえぇぇやあああぁぁぁぁぁぁっ!!」
月は確実に地上から離れていった。月はどんどん地上から遠ざかり、そしてやがて
「だありゃあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ピアは宇宙に飛び出した。そのまま月を一気に押し返し、月はやがて動かなくなった。
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
ピアは安堵の息をついた。地上への脅威は去った、と言っても過言ではなくなったからだ。ピアが安心していると、
「いやぁ、お見事……さすがはピア・デケム……。『人類最悪の魔王』と呼ばれるだけはあるな」
「……その声は……ネクロス!!」
ピアの目の前に、ネクロスが月から降りてきた。完全に動かなくなった月を見て、ネクロスは一度舌打ちをした。
「ほんっとに……やってくれるじゃあねぇか!この屑魔王が!!バケモノのくせに、人間から必要とされてんじゃねぇよ!!」
「不可……抗力だ。さすがに……想定はしていなかったさ……」
「ふん。だが……かなり無茶をしたみてぇだな?自分に乗せた重力のせいで、もう体の内部はほとんどグチャグチャだろうに……はっはははは!!」
「う……ぐうぅっ!がはっ……!!」
ピアは口から血を吐いた。超高圧な重力に、さすがの魔王の体のピアにも負担が重かった。
「“ピア!大丈夫!?”」
突然どこかから霊夢の声が聞こえた。ピアは腰にぶら下がっている人形を思い出し、霊夢に返事をした。
「大丈夫だ……大したことは……ない!!」
「“あるに決まってるでしょ!?お願い……戻ってきて……ピア!!”」
「いや、ここで奴を倒す……。今すぐ仕留めなければ……あとでいろいろと面倒だ……!!」
「“ダメっ!!戻ってきて!もう……こんな無茶はやめて……!”」
霊夢の泣き出しそうな声が聞こえる。それでもピアは、決して自分の意思を曲げはしなかった。
「心配するな。死ぬつもりはないからさ」
「“ピア……”」
「さっきからごちゃごちゃうるせぇよっ!!ぜってぇぶっ殺すからな……魔王!!」
ピアが独り言をつぶやいているように見えたのか、ネクロスが苛立ちながら叫んだ。
「はっ!!殺せるもんなら殺してみな!魔王の命は……罪の数だけ重いぜ?」
「黙れ。罰の受けた数だけ安くなる命のくせによ」
「……そうかい!」
ピアはキャリバーを抜いて、ネクロスを砲撃した。ネクロスはそれを余裕でかわすと、左手を突き出してレーザーを発射した。ピアはそれを避けると、今度はエッジを抜いた。ネクロスも自分の剣を抜き、ピアの剣とぶつかった。何度も交錯し合いながら、ピアとネクロスは激しい高速戦を繰り広げた。
「うおおぉぉぉぉっ!!」
「くたばれえぇぇっ!!」
互いの剣をぶつけ合い、ピアとネクロスはほぼ互角の戦いをした。
「ぐぅっ……!!」
しかし、先ほど月を押し返した時のダメージが大きすぎたため、ピアの方が動きが鈍っていた。
「はははははは!!どうした?随分とノロマじゃねえかよ!えぇ!?」
「……ちっ!……ふざけやがってぇ!!」
ピアは翼で重力を操り、ネクロスの背後に素早く回り込んだ。
「なにっ!?」
「うらああぁぁぁぁっ!!」
ピアはネクロスの背中に全力の回し蹴りを叩きこんだ。全く容赦のない蹴りは、大気圏外でも遠くに吹き飛ばした。ネクロスはそのままの勢いで宇宙を漂うデブリに衝突した。
「ぐ……はっ!や……やってくれるじゃねぇか……!!」
「はぁ……はぁ……。あいにくだが……今の俺に……負ける理由はないんでね……!!」
「……そうかい!!」
ネクロスはデブリから這い出てくると、一度月の裏側まで逃げた。
「何を……?」
次にネクロスが戻ってきたときには、ネクロスは巨大なロケットのような物体を持ってきた。
「それは……」
「そうさ……これこそが、『核搭載型・月製推進エンジン』だ!」
「なっ!?核だと……!?」
核と聞いて、ピアは驚愕した。ネクロスはピアの驚いた顔を見ると、勝ち誇ったように笑い始めた。
「ははははは!そのとぉーりっ!!俺がわざわざ、ちょいと違う世界から持ってきた核を、月の技術力をもってして完成させたのさ!!……ふん!月が落ちないっていうんなら……俺はコイツを落とすぜ!!」
「させるかっ!!」
「そうはいかねぇぜ……うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そう言うとネクロスは、突然手に持っていたエンジンを、自分の体内に吸収してしまった。
「なに!?」
「あぁ……そういやぁ、言ってなかったな……。この世界に来た時、俺も能力を手に入れたんだよ……『あらゆるものを吸収する程度の能力』をなぁっ!!」
「吸収能力……!?」
「そうだっ!俺は今からコイツを吸収し、そのまま地上に落とすっ!!そうすりゃあ何もかもが木端微塵だぜぇ!!あっははははは!はははははは!!」
エンジンを完全に吸収したネクロスは、不敵な笑みを浮かべた。しかし、ピアは決して臆することはなかった。
「ネクロス……知ってるか?そいつは俗に言う……死亡フラグってやつだぜ?」
「立派なフラグだろう?……テメェのための死亡フラグだあぁっ!!」
「残念だったな。俺の人生から……死亡フラグは退場してんだよ!」
ピアがエッジを振り上げ、スペルを発動した。
「終わらせる……!幻夢零……」
「おせぇよ」
ネクロスが左手の人差指を、上から下へ動かした。すると、動かした方向と同じように、ピアの右腕が切断された。
「……!?ぐああぁっ!!」
「ふん。痛覚が鈍っているとはいえ……やっぱりぶった切られたら痛えぇかよ!!」
「くっ……!エッジ……!!」
「おっと!そいつは使わせねぇよ!!」
ネクロスは目にもとまらぬ速さで突っ込み、ピアに頭突きをした。
「ぐあっ!」
「はっはははははぁっ!!いいざまじゃねぇか魔王さんよぉ!人間に飼いならされて、腕が腐っちまったのかぁ!?」
「……黙れ」
「残った左腕だけでどうするって?忘れられるだけの存在になったお前を、いったい誰が気にするっていうんだよ!?」
「“ピア!”」
「霊夢……!?」
アリスの人形から、霊夢の声が聞こえた。
「“ピア……もういい……もういいよ……!このままじゃ、ピアが戻ってこれなくなっちゃう……。お願い、ピア!月に逃げて……!!”」
霊夢は、ピアの身を案じていた。それでもピアは、逃げる素振りをまったく見せなかった。
「霊夢……俺は、この世界に来て初めて誰かを信じることが出来た……。人間だろうと妖怪だろうと神だろうと関係ない……俺は……すべてを守ってみせる」
「“ピア……!!”」
「霊夢……俺を……信じろっ!!」
「“ピアああぁぁぁぁぁっ!!”」
ピア…
次回へ続く…