東方魔郷談   作:Walther58

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遂に来ました最終話!?
では第三十章どうぞ!


第三十章・最終話 ~幻想の英雄~

 

「俺を……信じろっ!!」

「“ピアああぁぁぁぁぁっ!!”」

 

 ピアはネクロスの方へと向き直った。ネクロスは少し不思議そうな顔をしていた。

「お前……なんか独り言が多いぞ?頭は大丈夫か?」

 

「心配は無用だ。お前よりも固いんでね」

「あぁ……そうかいっ!!」

 

 ネクロスはさらに力を開放した。ピアもまた、己の中にある力を解き放った。

「容赦は……しないっ!!」

「ぜってぇぶっ殺してやるっ!覚悟しやがれ……魔王っ!!」

 

 再び両者はぶつかり合った。ピアは先程の負傷が嘘のように、素早い身のこなしでネクロスの攻撃をかわした。

 

「……ちっ!さっきよりも速くなってやがる!?」

「魔王を……なめんなぁっ!!」

 

 ピアの蹴りがネクロスを捉えた。みぞおちに綺麗に入った蹴りは、ネクロスに手痛いダメージを与えた。

「ぐあっ!!くそったれがあぁぁぁっ!」

 

 ネクロスは怒りのままに、さらに力を開放した。すると、ネクロスの全身が機械におおわれ、巨大な兵器と化した。

「……巨大化なんてますます死亡フラグだぜ?」

「今度は世界に対する死亡フラグだ!殺す……こぉろしてやぁるぞおおぉぉぉぉぉ!!」

 

「やってみな……死ぬのはお前の方だぁっ!!」

 ネクロスは左腕の指先に巨大なサーベルのようなものを、一気に五本も出現させた。

「指の数だけサーベルか……。だが……弾幕だと考えれば、避けることはたやすい!!」

 

「ごちゃごちゃうるせぇっ!覚悟しやがれっ!!」

 ネクロスは巨大な左腕を振り回した。ピアはそれをレーザーを避ける感覚で回避した。回避しつつ、ピアは切断された右腕を再生させた。

 

「くそがっ!」

 ネクロスは右腕に巨大な砲台を創りだした。そしてそれを、迷うことなくピアに向けた。

 

「知ってるだろうから、言わせてもらうぜ……。コイツはコロニーレーザー級だ……避ければ地上も吹き飛ぶ!!」

「……!!」

「くたばれぇ!!」

 

 ネクロスは超巨大なレーザー砲を発射した。ピアはそのレーザーに合わせて翼を巨大化させ、シールドのように展開した。

 ズドオオオォンッ!

 

 巨大な翼でシールドを張ったピアに、コロニーレーザーが直撃した。

「うっ……ぐううぅぅぅぅぅっ!!」

「はっはっは!いつまで持つかねぇ!?足掻いて見せろよ?ははははは!!」

「くっ……ううぅぅっ……」

 

 照射され始めて、三分が過ぎた。ピアの翼が徐々に焼き切れ始め、シールドが薄くなってきた。しかし、そのことを予見していたピアは、キャリバーにありったけのエネルギーをチャージしていた。

「っつぅ……!!覇滅……『裂光覇』……フルパワーッ!!」

 

 今まで誰にも見せたことがない全力で、ピアはコロニーレーザーを撃ち返した。徐々にレーザーの方が押し込まれ、最終的にはネクロスの右腕ごと吹き飛ばした。

「な……なにぃっ!?」

「言わなかったか……?“なめんな”ってな……」

 

 ピアは宇宙を漂うエッジを再び右腕に引き戻した。右腕の封印を開放し、その真の姿を現した。

「俺はあの世界を守らなきゃならない……そのためにここにいる……退く理由も、負ける理由もないっ!!」

「悪魔が誰かのために戦うなんぞ、余も末じゃねぇか!テメェは魔王なんだろうが!!」

 

「……さぁな。少なくとも……今は人間の気分だ」

「はぁ!?」

 

 ピアの言葉に、ネクロスは心底呆れた様子でため息をついた。

「もはや何でもねぇ……テメェは人間でも悪魔でもねぇ!存在を持たぬ者……いや、もはや生物でもねぇな!!」

「何とでも言え……俺は……“世界からはみ出された者(魔王)”だからな!!」

「ほざけぇっ!!」

 

 ネクロスは背中のバックパックから、大量のミサイルを発射した。ピアはそれを回避しつつ、滅符『滅閃光』ですべて撃ち落とした。

「くそったれがっ!!」

「甘いんだよっ!!」

 

 ピアはネクロスの背後に回り込み、バックパックをバラバラに引き裂いた。

 ドオオンッ!

 破壊されたバックパックは豪快に爆発し、ネクロスは多少吹き飛ばされた。

「ぐああぁぁっ!ちく……しょおぉぉっ!!」

「うおお!!」

 

 ネクロスは右腕を再生させ、左腕と同じようにサーベルを発動した。ピアは巨大サーベル十本の隙間をくぐるように回避に徹した。

「おらおらっ!にがしゃしねぇよぉっ!!」

 

 ネクロスはひたすらサーベルを振り回した。ピアもまた、ただひたすらサーベルをかわし続けていた。

「……ちっ!指をサーベルにするとは……考えるじゃねぇか……」

「逃げてばっかじゃ勝てねぇぞ!ひと思いに……仕留めてくれるわぁっ!!」

 

 ネクロスは指をくっつけて一本の巨大なサーベルにすると、それをピアにめがけて振り下ろした。

「あっぶねっ!!」

「もう片方もあるんだよ!!」

 

 ネクロスの右手のサーベルが、横からピアを襲った。

「くっ……!くそっ!!」

 

 ピアはなかなか近寄れずに苦戦していた。

「そら、そら、そらぁっ!!」

 

 ネクロスの絶え間のない連撃に、ピアはとうとう体勢を崩してしまった。

「しまっ……!!」

「もらったあぁぁぁっ!!」

 

 ネクロスの左腕の横薙ぎがピアの下半身を引き裂いた。

「がはぁっ!!ぐおぇっ……!!」

 

「ほらほらどうした?さっさと再生しねぇと……上半身も消し飛ばすぞ?」

「うっぐぅ……があぁ……!!」

 

 ピアは何とか下半身を再生させた。しかし、次第にピアの息が荒れ始めていた。

「はっはっは!再生に魔力を使うから、かなり力を失ってるんじゃないか?そんなんで、この先俺と戦おうっていうのか?そいつぁ傑作だぜ!あっははは!!」

「だ……黙れ……!」

 

「もうやめときなって。地上ならともかく、宇宙で俺に勝てると思ってんのかよ?そもそも、テメェが誰かのために戦うこと自体がキチガイだってのに、まだやるのかよ?これ以上は無駄だぜ?」

 

「無駄……?ふん……やっぱりお前は雑魚の範疇を越えられないみてぇだな……」

「……なんだと?」

 

 ピアはネクロスを睨み付けた。それは、ネクロスが知っている魔王、ピア・デケムの目ではなかった。

「……テメェ……」

 

「今の俺は……少なくとも人間だ……!誰が何と言おうと……この世界だけは守ってみせる!!」

「ほざけぇっ!世界一の嫌われ者の憎まれ役がぁ!!生意気なことを言ってんじゃねぇよ!!」

 

 ネクロスは両手のサーベルを束ねて、ピアに向かって振り下ろした。ピアはそれをエッジだけで受け止めたが、エッジだけでは持ちこたえられずに折れてしまった。次にピアは、自分の右腕でそれを受け止めた。

「……っ!!」

 

「お前は一生憎まれ……恨まれ……妬まれて裏切られる!!テメェに仲間も友達もいない……いるのは自分だけだぁ!!お前はすべてを支配する黒だ!馴れ合いなんてできやしない……すべてを支配し、すべてから忌み嫌われる黒色なんだよ!!」

「そうだ……俺は黒……。絶対にして無二の色……他者を侵食し、支配し、自分と同じ色に染め上げる……。だからこそ俺は、誰からも嫌われる存在でなければダメだった……」

 

「はっははは!そいつぁ残念だったなぁ!!世界はお前という存在を見捨てようとはしない!お前がどれだけ望もうとも!お前という黒色が、誰かの領域を侵さない日なんてのはないんだよ!!お前は黒(やみ)だ!絶対的な悪(くず)だ!そして……存在すら認められない無(ゼロ)なんだよ!!ははははは!はははははは!!」

 

「……その通りだ。それが正しいと、俺はずっとその生き方をしてきた。……後悔なんてなかった……自分で決めた道だからな。でも……それでも……」

 

 ピアはぽろぽろと涙をこぼしていた。今まで流したことがないものが、自分の目から溢れてきていた。

「それでもなぁ……誰も俺を見捨ててくれないんだよぉ……。みんな……俺のこと心配したり、俺のために戦ってくれたり……意味がわかんねぇんだよ……なんで……どいつもこいつも……」

 

「そりゃあ、全部テメェのせいだ!テメェみてぇな日陰者が、のこのこと白日に晒されに行くからそういうことになるんだよ!お前のせいでどれだけの人間が傷ついた?お前のために何人の人が死んだんだ?お前とともに、どれだけの人間が世間から蔑まられた!?答えてみろよぉ!えぇ!?」

 

「……知らねぇよ……そんなの知らねぇよ……。俺にはわかんねぇよ……!俺はただ……俺のせいで誰かが死なないようにしていただけなのに……人の優しさだって無碍にしてきた……子供だって怒鳴り散らして恐怖を与えた……なのに……どうしてみんな、俺についてくるんだよ……なんでだよぉ!?」

「そんなのこっちが聞きたいわっ!!テメェ見てぇなバケモノ、信頼するに値するような価値なんてねぇだろうに!!」

「……そうだ……その通りだ……。だが……!」

 

 ピアは右腕一本で、サーベルを押し返した。ネクロスは思わずたじろいだ。

「なっ……!バカなっ!?」

「だが……今の俺は信頼されている……。悪魔ではなく、人間として(・・・・・)信じてくれている……!だから……」

 

 ピアは顔をあげた。もう泣いてはいなかった。そこには人間としての強い意思が宿っていた。

「負けるわけには……行かねえんだよぉぉー!!」

 

「……ピア……ピア……!」

 地上から見守ることしかできない。そばで一緒に戦えないことが、霊夢にとってどれだけ歯がゆいものだったのかは、みんながよくわかっていた。

 

「霊夢……」

「大丈夫……ピアならきっと……大丈夫……!」

「……そうだな!私も……ピアを信じるぜ!」

 

「私も信じるわ、魔理沙。あの魔理沙がここまで信じてるんだもの。私も……信じたくなったわ」

「アリス……」

 

「……まぁ、ピアは私の専属執事に相応しい、私が認めた男よ?出来るに決まっているじゃない。ねぇ、咲夜?」

「はい……ピア様なら……きっと成し遂げてくれます」

「レミリア……」

 

「ピアはみんなから愛されている人……大丈夫、ピアならできるわ」

「私も……お兄さんを信じます!お兄さんは……強いですから!!」

「幽々子……妖夢……」

 

「たとえ一緒に戦えなくとも……祈りましょう。彼が生きて帰ってくるために……!」

「永琳……」

 

「ピアさんならできます……たとえ心が見えなくても、彼の言葉は信じることが出来ます!」

「さとり……」

 

「ピアは私ら鬼が見込んだ男だ!絶対に……勝つ!!」

「そうだねぇ……勇儀の言う通りかな。ピアは負けない……絶対に負けない……!!」

「勇儀……萃香……」

 

「ピアさん……負けないで……生きて帰ってきてください……!!」

「早苗……」

 

「ピア君は……あの人……先代魔王の遺志を継いでいます……!きっと……きっと帰ってきてくれます!!」

「白蓮……」

 

「彼は……バラバラになった意思を、一つにまとめる力があります。その力は……なににも屈さぬ、絶対的なものになるでしょう……」

「神子……」

 

「霊夢……みんながピアを信じてる!だから……霊夢もピアを信じようぜっ!!」

「……うん!」

 

 みんなの意思が一つになろうとしていた。その様子を、遠くから紫が眺めていた。

「……不思議ね。幻想入りして一年が過ぎようとしているというのに、みんなが彼を信じている……」

「それは当然じゃないかしら?」

 

 紫は後ろから声をかけられ、振り返った。

「あなた……風見幽香……?」

 

「そ。私よ。ちなみに……私も彼を信じているわ。不思議と……信頼できるのよね」

「私は……初めは彼を殺そうとしたわ。でも……彼は私を許してくれた……」

 

「それがピアにできて、紫にできないところよ。だって、彼は」

「すべてを拒絶する身でありながら、すべてを受け入れる覚悟があります」

 

 もう一人、別の声が聞こえた。二人が振り返った先にいたのは、意外な人物だった。

「これはこれは……かの閻魔さまも、彼に興味があると?」

「興味があるわけではありません。彼は私が唯一裁けない者……灰色の存在なのですから」

 

 そこにいたのは、“地獄の最高裁判長”、『四季映姫・ヤマザナドゥ』と、その部下で“三途の水先案内人”、『小野塚小町』だった。

「灰色……ねぇ。確かにあの人は不思議な人ですよねぇ、四季様。能力を無効にして、四季様にも裁けなくしているもんですからねぇ」

 

「私にとって、彼は天敵ともいえる存在……いずれは正式に白黒はっきりとつけなければ……」

「それは無駄ですわ。いくら閻魔と言えど、彼を裁くことはできません……なぜなら彼は、すでに裁きを受けている身ですから」

「どういうことでしょう?」

 

「彼ならきっと……貴方にお説教をされても、こう言い張りますわ。“俺を裁けるのは閻魔じゃない。神だけだ”……と」

 

「ふ……ふはははは!あっははははは!!」

「…………」

 

 ピアの目を見て、ネクロスは再び大笑いをした。

「……なにがおかしい?」

 

「全部だよ、全部っ!何カッコつけてエラそうなことを言ってんだよボケェッ!お前みてぇな人間以下、悪魔未満な屑に、そんなことを言う権利でもあると本気で思ってんのかよ!?そいつぁ、マジで傑作だぜ!神も思わず大爆笑だ!ハハハハハ!」

 

「……ふっ。そうかもな……アベルや刹那が見たら、きっと笑うだろうな……」

「ふん……アベルか……。また懐かしい名前を聞いたな……あのクソガキぃ……」

 

「まったくだ。あいつはただのクソガキだ。お人好しで、おせっかいで……そのくせ、傍迷惑なほどに善意を向けてくる……本当に許せねぇ奴だ……」

「あぁ?」

 

「許せねぇけどよ……必要なんだ、あいつは。アベルは世界から必要とされている……だから守るべき盾が必要だった」

「あぁ……あの狐か」

 

「そうだ。刹那とアベル……二人が手を組めば、この先ずっと世界は平和だ。そのためには……きっかけが必要だった」

「そのための……魔王復活……だろ?」

 

「そうだ。俺が魔王となることで、二人は急接近した。……これでいい」

「だが!お前は世界全体を敵に回した……ほんっとにざまぁないなぁっ!!アホらしくて笑いが止まらないぜ!!

 

「笑えるうちに笑っとけ……二度と笑えなくなるからな……!!」

「だったらお前も、愛する人の名前でも叫んどきな……すぐにそいつんところに送ってやるからよぉっ!!」

「やだね」

 

 ピアはサーベルを受け止めている右腕を、思いっきり振った。右腕は千切れたが、ネクロスのサーベルを弾き返すことに成功した。

「なにっ!?」

「俺、死なないから」

 

 ピアは残った左腕で、キャリバーを構えると、ネクロスに向けて突撃した。

「うおおおぉぉぉーっ!!」

「なっ……くっ!!」

 

 ネクロスは全身から大量の小型レーザーを乱射した。それは何十発、何百発もピアに命中したが、ピアはまったく怯まずにネクロスの腹部にキャリバーを突き刺した。

「ぐはぁっ!き……貴様っ!!俺を直接狙えば、俺が体内に吸収した核が……!」

「だからどうした?まさか……死ぬのが怖くなったのか、ネクロス?」

「な、なんだとっ!!」

 

「今なら俺は死んでも構わないと思っている……もう……何も怖くはないっ!!」

「やめろおおぉぉぉぉぉっ!!」

 

 ネクロスの叫び声と同時に、ピアは左腕のキャリバーをネクロスの顔面に突き刺した。途端に、ネクロスの全身から爆発が起こり始めた。

「がっあ……俺が……貴様なんぞに……っ!ピア・デケムぅ!滅べ……滅んでしまええぇぇぇ……!!」

「(……これでいい……)」

 

 ネクロスに差したキャリバーから手を離すと、ピアは大気圏に吸い込まれていった。

「(あぁ……満足だ……。もう……思い残すこともないだろう……。たとえ俺がいなくなっても、霊夢なら大丈夫だ……あいつは……強いからな……)」

 

 ピアは大気圏を落ちていくなかで、自分の左腕を顔の前まで持ってきた。腕は徐々に燃えていき、今にも消えそうだった。

「(体に力が入らない……俺は……ここまでのようだな……。あぁ……俺はなんて愚かな奴だ……。今になって、死ぬのが怖くなるなんてな……魔王失格だ)」

 

 次第に意識も遠くなってきた。すべてが燃え尽きようとしている。ネクロスの体は今にも大爆発を起こしそうだった。ピアはそっと右腕を上げ、人差し指をネクロスに向けた。

「(俺はすべての罪を背負い……罰を受ける覚悟で今まで……。あぁ、そうか……“死ぬな”ではなく、“生きろ”ということだったのか……アベル……)」

 

 やがてピアは、指先に小さなエネルギーを集め始めた。その指先はぶれることなく、真っ直ぐにネクロスを捉えていた。

「(俺の罰は……“生きて罪を償うこと”か……。まったく……とんだお笑いだよ……ただの案山子じゃねぇか……。でも……悪くは……なかったな……)」

 パンッ。

 

 ピアが打ったエネルギー弾はまっすぐ飛んで行った。それはネクロスに徐々に近づいてった。ピアは最後に小さくほほ笑んだ。

「……ははっ……。アベル……俺を笑うか……?フェン……俺は……誇れるか……?」

 

 やがてエネルギー弾はネクロスに優しく振れた。そして

 ドオオオオォォォォォォォォォンッ!!!

 

 それは巨大な核爆発を生み、ピアの全身を一瞬にして飲み込んでいった。

「(ありがとう……)」

 ピアは最後にそう願い、やがて……消えていった。

 

 

 巨大な核爆発は、地上からも太陽と同じくらいの大きさと明るさで、はっきりと見えた。

「くっ……!なんだ!?」

「爆発……?ピアさんは!?」

 

「……っ!霊夢、通信機は……」

「ピア!ピア!!お願い……返事をして!!」

「霊夢……」

 

「ピア……お願い……返事を……して……」

 霊夢が必死に人形に語りかけるが、人形は何も答えないままうつむいていた。耳を澄ましてもそこからは雑音しか聞こえず、ピアの声は全く聞こえない。

 

「……月は大気圏外に脱出。侵略者の気配も消えたわ。作戦……成功よ……」

 紫は静かにそう言うと、それ以上何も言わず、藍と橙とともにスキマの中へと消えていった。人形は霊夢の手の中から静かに落ちた。

 

「おい……霊夢……」

 魔理沙が心配そうに声をかけるが、霊夢は何も言わずに走って博麗神社の石階段を下りていった。

 

「霊夢……!」

「魔理沙、追うんだ!」

 

「こーりん……」

「いいから……行くんだ」

「……!わかったぜ……」

 

 魔理沙は霊夢の後を追って階段を下りていった。それを見ていたレミリアは、涙をこらえながら空を見上げた。

「(馬鹿……死ぬなって……あれほど言ったじゃない……!!)」

 

 咲夜がそっとレミリアの肩に手を乗せた。するとレミリアは咲夜の方に振り返って抱き付いた。そしてそのまま静かに泣き始めた。

「うっ……くっ。ピア……ひっく……死なないって……あれほど……!!」

「お嬢様……」

 

「嘘よ……私……死なないって……ピアぁぁ……」

「お嬢様……!」

 

 咲夜もレミリアを抱きしめた。他にできることが思い浮かばなかった。フランも美鈴に抱き付いて号泣していた。周りにいる者たちも、次第に涙がこぼれ始めていた。

「諏訪子様ぁっ!ピアさんが……ピアさんがっ……!」

「早苗……」

 

 泣きじゃくる早苗を諏訪子が慰めていた。神奈子は空に浮かぶ月を眺めながらつぶやいた。

「馬鹿者……。早苗を泣かしたら許さんと……あれほど言っただろう……!!」

 

 この時、神奈子はピアのことを信じていた。力も仁徳もあり、誰からも信頼されている。この男なら信じられる、そう思った矢先の出来事だった。

「(私が……もっと早くピアを信じてやれれば……ピア……すまない……!)」

 

 後悔先に立たず。神奈子は思い知らされたのだった。ピアを失うことの重大さを。人としてきた悪魔が、世界に与えた影響の大きさを。そして、それに気づくのがあまりにも遅すぎたことを。

 

「お姉ちゃん……?お……お兄ちゃんは……?死んじゃったの……?」

「こいし……!ごめん……ごめんね……!」

「そんな……!いやぁ……お兄ちゃん……!!」

 

 さとりはこいしをそっと抱きしめた。声を張り上げて泣くこいしを、ただ抱きしめてあげることしかできなかった。マヨヒガに戻った紫は、一人だけ月を見ていた。

「幻想郷は……すべてを受け入れる……たとえ彼の死であっても……。それは……残酷なこと……」

「紫さま……」

 

「わかっているわ。私も……この幻想郷も……何もかもが遅すぎた……。もっと早く彼のことを知ればよかった……」

「紫さま……」

 

「藍……明日からは私たちで、霊夢の全面補佐をするわ。……あの子はきっと……すぐには立ち直れないでしょうから……」

「……わかりました」

 

「はぁ……はぁ……!はぁ……はぁ……!」

 霊夢は石階段を下り、その場にうずくまった。

「う……うぅ……うあぁぁぁ……」

 

 そしてそこで泣いた。初めて人を愛した。初めて誰かに心を許した。初めて誰かと一緒にいたいと思った。初めて生きる意味を見つけた。だが、空に浮かぶ月が、そのすべてを一瞬にして奪い去った。

「いやぁ……いやああぁぁぁ!!」

 

 なぜ彼だったのか。なぜ彼が死ななければならなかったのか。なぜ月が落ちてきたのか。なぜ異世界から侵略者が来てしまったのか。今になってはすべてが謎。だが、その謎が霊夢の心を締め付けて、そして苦しめた。

「うああぁぁぁぁっ!!あああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 もう一度、やり直したかった。もう一度、すべてをリセットしたかった。初めて出会えたあのころに。初めて好きになれたあの場所に。もし、因果律を操ることが出来るなら、この異変を無かったことにしたい。

「うああぁぁ……ピア……ピアあぁぁ……」

 

 進んだ時間はもう戻らない。起きてしまった出来事も、失われた命も、霊夢にはどうすることも出来なかった。一人泣き続ける霊夢に、ようやく魔理沙が追いついた。

「……霊夢……」

「…………」

「霊夢……!」

 

「だい……じょうぶ……」

「霊夢……?」

 

 霊夢は立ち上がると、魔理沙の方へ振り返った。大丈夫、とは言っていたが、その表情には悲壮感が残っていた。

「もう……大丈夫だから……」

「でも、霊夢……」

「ピアは……生きてる」

「!!」

 

 霊夢は月を見上げた。自分のすべてを奪った、憎むべき月を。しかし、霊夢は決して月を憎んではいなかった。

「ピアは……ちゃんと帰ってくるって……言ってたから……。私は……ピアを信じる……」

「霊夢……」

 

「魔理沙……戻りましょう。みんなのところへ……」

「……わかったぜ」

 

 今、一つの異変が終わりを告げた。それにより失ったものも大きく、幻想郷は結果的に大きな傷跡を残すこととなった。それでも霊夢は、前だけを見ていた。ピアがそうしたように、決して後ろを振り返りはしなかった。

「(ピア……私は……出来るだけ頑張ろうと思うわ。でも……やっぱり、ピアがいなきゃ……私……)」

 

「霊夢?」

「ううん……何でもない。さぁ、戻りましょ」

「あ……あぁ」

 

「ピアは帰ってくるって……そう言ってたから……。私はピアを信じる……。ピアを……ずっと待ってる……」

「……そうだな。ピアを……待つか。あいつ……帰ってくるもんな……」

 

 魔理沙もピアの帰りを信じることにした。霊夢は階段を一段一段上がるたびに、ピアのことを思い出していた。ピアは最後に言ってくれた。“愛してる”と。その言葉を支えにして、霊夢は階段を上がっていった。異変を終えた幻想郷に、新たな歴史が生まれた。“幻想の英雄”、ピア・デケムの誕生だった。

 

Next Phantasm…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んあ?」

「よう、クソッタレ。気分はどうだ?」

 

「……サイアクだな。目を覚ましたらお前とか、吐き気がする」

「……もう一回死ぬか?」

「……やれよ」

 

「おや、珍しいな?いつもみたいに殴りかかってこないのか?」

「……そんな気分じゃない……」

 

「お前……この一週間の間、何があった?」

「一週間……?あぁ、そうか……時間の流れが違うのか……」

 

「何を言っている?アイツも随分と心配を……」

「あっ!意識を取り戻したのね!!よかった……本当によかった……」

「…………」

 

「ねぇ、いったい何があったの?一週間も姿を消して……私、すごく心配して……それで……」

「異世界を含む、全世界を探しても見つからなかったんだぞ?お前は一体どこにいたんだ……ピア?」

「…………」

 

「黙ったままじゃ、何もわからんだろうが。さっさと答えて……」

「なぁ……アベル……刹那……」

「なんだ?」

「何?」

 

「俺の……幻想は……」

 

-------------------------------------------------------------------------------

…END?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やぁ、こんにちは。初めましてだね。ん?ボク?僕の顔は見せられないけど、名前は教えてあげよう。ボクは『時空(じくう)空時(そらとき)』。あ、一人称はボクだけど、一応女の子だからね?そこんところ、よろしく。……え?何しに来たのかって?君に道を尋ねに来たのさ。誰のって?誰って……彼のさ。

 あぁ、そうか。君はここで終わったとか勝手に思っているのか。……あぁ、それはそれでいいんだ。彼の幻想はここで終わった……っていうのも、一つの物語の区切りでもあるしね。でも……もし君が道を決められるなら……どうする?もしかしたら、君の決定次第で、下の空白に新たな物語が生まれるかもしれない。……えっ?なぜそんなことが出来るのかって?だって……君はこの物語の因果律を操れるからさ。この物語はフィクションです。実際の……って、こんな説明はいらないか。君は目の前にあるキーボードで、この物語の因果を操れるじゃないか。……知らなかったのかい?君はこの物語を読みながら、それに気付けなかったと?……だったら黙ってた方がよかったか?いや、もういいだろう。

 さぁ、どうする?正確に言えば、因果を変えられるのは君じゃなく、この物語の創造主。動画で言うところの、うぷ主……(?)ってやつか。まぁ、いい。君なら、彼を説得できるかもしれないね。彼はこのまま物語を終わらせるつもりだし……。あ、でもそのころにはこの空間は無くなっているかもね。そうなれば、ボクも君に会えなくなる。……ま、いいけど。

 すべては読み手の君次第……。書き手は読み手の意見に応じて、物語を改変することだってあるのさ。もしかしたら……この物語も……不可能ではないね。彼の幻想はここで終わるのか……それとも、この幻想はいつまでも続くのか……それも君次第だね。

 あぁ、感情移入したとか、霊夢さんたちが可哀そうだとか、そんな下らないことの為に答えなくていいよ。ただ純粋に……このまま終わったら面白いか、面白くないかだ。作者なんて、みんなそんなものさ。……ここの創造主は、まだまだ子供だけどね。

 さぁて、ボクもそろそろ消えようかな?おっと、君が決めてしまえば、多分この空間は消えるよ。他の人に、決定権はない。今この空間にいる、君にしか決められないことだ。期待しているよ。

 ちなみにボク的には……いや、やめておこう。ここでボクの意見を聞いたところで、それは何の意味もなさないからね。……あまり彼には同情しないことだ。彼は同情が一番嫌いな悪魔だからね。敵に回すことはオススメしないよ?

 それじゃあ、お別れだ。ボクもこの空間から、この物語の結末を見るとするよ。……は?どういう意味かって?だって、この物語は、まだ結末を迎えていない。そして、優柔不断な創造主に変わり、君に決めてほしいのさ。この物語の……ピアの人生の……結末を……ね♪

 





2か月もの長い間ありがとうございました
皆さんに支えられてここまで来られました パチパチパチ o(^ー^)o☆o(^ー^)oパチパ
長いようで短かったですね(^_^;)
先ほどの時空空時さんの言葉は本当で
実際続きをおまけとして書くべきか迷っています
それではまたどこかの幻想で…
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