ではEx-4どうぞ!
ここは魔法の森。幻想郷の中で最も広い森であり、ここにはその名の通り、魔女やら妖怪が住んでいるという噂が広まっている。
そんな危険なうわさがやたらと飛び交う森の中を、一人の小さな人間がふよふよと浮いていた。一見すると、そのサイズからは人形のようにも見えた。頭の大きなリボンが目立つその少女は、小さくため息をついた。
「はぁ……どうしよう……困ったな……」
辺り一面、すっかり真っ暗な状態になっていた。今、妖怪などに襲われてはひとたまりもない状況だった。
「どうしよう……」
少女ががっくりと肩を落とした、その時だった。突然少女の視界は真っ暗になり、何も見えなくなってしまった。
「え、えっ?なになに!?」
「あなたは……」
驚く少女に、後ろから誰かが声をかけてきた。
「へっ?」
「あなたは食べられる人類……って、なんかちっちゃい……。まぁ、いいや」
そこから現れたのは、“宵闇の妖怪”こと、『ルーミア』だった。人食い妖怪のルーミアは、少女を食べる気満々だった。
「は、はわわ……!私を食べたらお腹を壊しますよ!」
「ん~?そうには見えな~い」
「そ……そんなぁ……」
「とりあえず……まずは捕獲だぁ~!喰らえ~!夜符、『ナイトバード』!」
ルーミアは少女に向けてスペルを使った。
「あわわ……!キャアアァァァ!!」
少女は一切抵抗できないまま、撃墜されてしまった。しかし
「……あれ?」
少女の小ささが幸いし、撃墜されたところでルーミアは少女を見失った。
「……遠くに飛んでったかな……?探しにいこ~」
ルーミアは少女を吹き飛ばしたと勘違いし、遠くの方へと探しに行った。何とか食われずに済んだ少女であったが、スペルの直撃がかなり効いたらしく、徐々に意識が遠のいていった。
「(あぁ……私……。あ……アリス……)」
少女が意識を失う直前、一人の人間が少女の前に現れた。人間は少女を拾い上げると、左手に寝かせた後で、包帯でぐるぐる巻きにされた右手の方で少女を覆い隠すと、そのまま大事そうにどこかへ運んだ。少女はその人間に見覚えがあったが、意識を失ったのですぐにわからなくなった。
「……う、うぅん……」
少女は意識を取り戻した。少女が目を覚ますと、そこは神社の一部屋だった。辺りを見渡したところで、外はすっかり日が高く昇っており、少女はそこで見覚えのある人間を見つけた。
巫女服を着た大きな少女は、少女が目を覚ましたことに気付くと、誰かを呼びに部屋を出ていった。少女は、その大きな少女のことを知っていた。
「(あれ……ここって……たしか……)」
少女が全てを確認する前に、部屋の中に誰かが入ってきた。それは先ほどの大きな少女と、それとは別の大きな少年だった。少女は、その少年のこともよく知っていた。というよりも、なぜか少年に対する記憶がとても強かった。
「おぉ、気が付いたか」
「ねぇ、ピア……やっぱりこの子って……」
「まぁ待て、霊夢。今から確認を取る。……本当は嫌なんだけどなぁ……」
少女の名は霊夢、少年の名はピア。どちらも聞いたことがある名前だった。ピアは少女に訊ねた。
「君の名前は……というより、もう知っているけどね。君……『上海人形』だろ?」
「…………」
そこで少女はすべて思い出した。あの日、あの時、いったい何が起こったのか。
「そうです……。私……上海です!」
~昨日、魔法の森にて~
ピアはなぜか、霧雨魔法店の前に呼び出されていた。魔理沙がいきなり神社に現れ、
「今から五分以内に来ないと、神社がドカーン!だぜ!!」
言って再びどこかへ飛び去るという、奇怪な行動をして言ったからである。さすがに神社を吹き飛ばされるのは困るので、ピアは魔理沙に言うことに従うことにした。
「まったく……なにを考えているんだ、魔理沙の奴……」
ピアは魔理沙の家である、霧雨魔法店に到着した。するとそこには、なぜかアリスもいた。
「ん、アリス?お前、何をやってるんだ?」
「それはこっちのセリフよ。どうしてあなたがここに……」
「ようよう、お二人さん!お揃いだな」
二人がお互いに顔を見合わせていると、呼び出した魔理沙が現れた。
「ちょっと、魔理沙!いったい何の用があるのよ!」
「いやぁ、ちょっとアリスから借りてた本を返そうかなと思ってな……」
「あら、魔理沙にしては珍しいじゃない?さぁ、返すんだったらさっさと返して……」
「おっと、そうは問屋が卸さないぜ。なぜなら私はその本を……ピアに貸すつもりだからな!」
「……?え、ちょ、はぁ!?」
魔理沙の意味不明な発言に、ピアは訳が分からなくなった。
「おい、魔理沙。俺はお前のh」
「つまりだ、アリス!ピアを倒すことが出来たら、お前から借りてた本……全部返すぜ!!」
「……ふ~ん。そんな安い条件でいいのね?」
「安い……?安いって言われたよ……俺!?」
アリスは余裕たっぷりにそう言ったが、魔理沙も魔理沙でかなり余裕があった。
「と、いうわけで!ピア、頼んだ!!」
「冗談じゃねぇっつーの!そんなことの為にわざわざ……」
「あら?ちょうどいいじゃない。私、一度でいいからあなたと戦ってみたかったのよね、ピア」
「えぇ~……」
ピアはかなりドン引きしていたが、アリスはやる気満々だった。ピアは少しだけ悩んだ後、やむを得ず了承した。
「よしっ!これで勝つる!!……それじゃあ、アリス対ピアの弾幕勝負……始めぇーっ!」
魔理沙の合図と同時に、アリスは空へ飛び立った。ピアもアリスの後を追って空に上がった。
「おい、アリス……本気でやる気か……?」
「ま、たまにはいいでしょ?……それなりに手加減はしてあげる」
「いや、結構だ。そうやって本気を出し惜しんだ奴の言い訳とか、聞きたくないし」
「……っ!ふ、ふ~ん……あら、そう?だったら本気を出すわよ?」
「本気出さねぇと、何かする前にさっさと終わらせるぞ?……因果律とかでさ」
「……それを使われたら本当に勝てないわね。魔理沙にとられた本も取り返したいし……仕方ない。全力で行くしかないかなぁ……」
「それがいい」
「巫女の力は、私の二割六分八厘に満たない。そもそも色が無いあなたは、私の十割にも満たないわね」
「どうかな?案外……黒色って、かなり危険な色なんだぜ?ほら、何でも自分の色にできるからさ、黒っていうのは」
「そうかもね。でも……あなたの色が、私の色を黒く染め上げられるならね!」
そう言うと、アリスは早速スペルを使ってきた。
「行くわよ……蒼符、『博愛の仏蘭西人形』!!」
アリスの周りに、大量の人形が現れた。その人形から、ピアに向けて弾幕が放たれた。
「おっと!アリスのお得意の人形ごっこかよ!」
「ふん、“ごっこ”と言っていられるのも、今のうちよ!次、紅符、『紅毛の和蘭人形』!」
アリスはさらに別の人形を操り、ピアに攻撃した。ピアはそれをかわしつつ、距離をとった。
「……ちっ。一気に距離を詰めるか……いや、ここはアリスの戦力を挫く意味で……」
ピアは回避をしながらエッジを抜いた。その封印を解き放ち、大きく振り上げた。
「人形をすべて……叩き落とす!!」
ピアはアリスの弾幕を抜けつつ、エッジで和蘭人形をすべて撃墜した。短時間のうちにすべて撃墜されたので、さすがのアリスも驚いた。
「くっ……さすがね」
「言ったろ?黒はゼロ……その数字に掛け算すれば、すべて同じ色になるってことだ」
「どうかしら?一でも足すことが出来れば、黒はあっという間に色を変えるわ」
「変わらんよ。なぜなら……変わることを知らないからさ!!」
ピアは一気に距離を詰めるべく、突撃した。アリスもとっさにスペルを発動した。
「……っ!闇符、『霧の倫敦人形』!倫敦、お願い!!」
「ロンド~ン」
アリスの命令に従い、ロンドン人形が弾幕の壁を作った。距離が近すぎるせいでピアは回避が出来ず、一度距離を置いた。
「さすがだな……なら……撃滅、『雷神撃』!」
ピアはスペルを発動した。ピアが左手で抜いたキャリバーから雷が発生し、一体の倫敦人形を攻撃した。
「……!?たかが一体倒したところで……」
「甘いぜ、アリス」
ピアの言う通りだった。雷は、弾幕を伝って別の倫敦人形に感電し、さらに倫敦人形につながっている糸から、アリスへと感電した。
「うそっ……きゃああぁぁぁぁ!!」
アリスは魔法使いなので、多少の電撃は耐えられた。まして、スペルカード化したピアの攻撃は、ある程度耐えられるように作り変えているので、アリスには、全身にとげが刺さるような痛みが走る程度で済んだ。
「うっ……くぅ……。今のは……効いたわ……」
「だろ?黒を馬鹿にすると、痛い目を見るぞ?」
「でも……このままでは終わらないわ……!咒詛、『魔彩光の上海人形』!!」
「そうかよ!斬凍、『氷裂斬』!」
アリスは上海人形を取り出し、ピアはその人形を凍らせるべく、氷のスペルを発動した。上海から放たれる弾幕と、ピアの氷の弾幕がぶつかり合い、下にいる魔理沙が被害をこうむった。
「うわ!うわぁ!……ったぁ!いってぇ……氷が頭に……私は家に避難するぜ!!」
魔理沙が店の中に入った直後、一体の上海がピアの懐に飛び込んできた。
「……っ!?邪魔だぁ!!」
ピアはその上海に繋がっている魔法の糸をエッジで切断すると、キャリバーの柄で地上に叩き落した。
「あぁ!上海!!」
「もらったぁ!破符、『落砕牙』!!」
アリスが落ちていく上海に気を取られている隙に、ピアはアリスを攻撃した。ピアのスペルは、完全に避け損なったアリスに命中した。
「きゃあっ!!」
スペルを喰らったアリスは、そのまま地上に叩き落された。それを見ていた魔理沙は家の窓を開けて、嬉しそうに歓声をあげた。
「やったー!!勝者、ピア・デケムぅ~!!」
「……なんかうれしくないんだけど……」
こうしてピアは勝利し、魔理沙はアリスに本を返さなかった。しかし戦闘終了後、アリスは大事なことに気付いた。
「あっ!上海!!ちょっと、ピア!上海になんてことをするのよ!!」
「なんてって……一応、上海も弾幕扱いだろ?だから撃ち落としただけだぜ?」
「だからって、糸を切った後でさらに柄の部分でどつくなんて、いくらなんでもひどすぎない?上海に謝りなさいよっ!!」
「えぇ~……」
「とにかく、ピアも上海を探すのを手伝って!……というか、ピアのせいでどっかにいっちゃったんだから、探すのは当然よ!!」
「はぁ……さいですか」
こうしてピアは、上海探しに付き合わされた。結局深夜になるまで見つからず、アリスは夜明けまでに見つけるようにと言い残し、先に帰ってしまった。魔理沙は途中まで一緒に探してくれたが、ピアが気を遣って先に帰らせた。
暗闇の中で捜していると、どこかで弾幕が爆発する音がした。音がした現場まで行って見ると、そこには小さいまま人間の姿になっている上海人形がいた。ばれたらアリスに怒られるような気がしたピアは、上海を神社まで連れて帰った。
~今~
「……ということがあったとさ。めでたしめでt」
「めでたくないわよっ!!あんたは一体何をやらかしてくれちゃってんのよ!!アリスにどう説明する気よ!?」
「いや……その……不可抗力で……」
「上海に宿った魂は何とかならないの?」
「一応、なる。エッジに食わせれば……」
「だったら、さっさと食わせちゃいなさいよ!」
「いや……エッジが魂を食えるのは、俺が病んでる時だけで……」
「じゃあ、今すぐ病みなさい!」
「それは無理だ」
「あぁ、もう!いったいどうするっていうのよ!!」
「あ、あの……!」
ピアが霊夢に一方的に怒られている中で、上海は勇気を振り絞って声をかけた。
「ん?どした、上海?」
「私……このままでいいです」
「ちょ、はぁ!?何を言ってるのよ!だって、このままじゃあんた……」
「それはわかってます!この姿でアリスと会うのは……ちょっと怖いです。でも、私は普段は喋れないし、たまに表情がちょこっと変わる程度だし……それに……」
上海はそう言いながら、ピアの方を見た。ピアがきょとんとしていると、上海はにまっ、と笑った。
「ピアさんと……一度、お話してみたかったんです。アリスから、よくピアさんの話を聞いてましたから……」
「あ?俺の話?アリスが?」
ピアが、それは心底不思議そうな顔をして訊ねた。その顔が、ほんの少し面白かったのか、上海を少しだけ笑った。
「ふふ……それはもう。最近は霊夢さんからそうd」
「あぁーっ!あぁーっ!!上海っ!家に帰ったらアリスになんて言うのか、今のうちに考えておこうかなぁーっ!!」
「え?あの、ちょ、霊夢さん?」
霊夢は上海の言葉を遮るほどの大声を出しながら、上海を連れてどこかへ行ってしまった。結局ピアは、一人だけ部屋に取り残された。
「……なぜ毎回こうなるし……」
誰もいない部屋の中で、ピアは愚痴をこぼした。
一方、上海を連れだした霊夢は、別の部屋で上海と話をしていた。
「駄目でしょ、上海!ピアの前でその話は……ばれたら恥ずかしいじゃない!」
「あ、その……すみません。つい……あの……」
「ところで……あんたって、本当にアリスのところの上海なの?」
「あっ、はい。そうです、上海です」
「やっぱり上海かぁ……。はぁ……どうしよう……。アリスは自力で自律型人形を作るって言ってたから、これじゃあアリスの夢を奪ったみたいね……」
「そ、そんなことないですよ!だって、ほら……」
上海をそう言いながら、自分の腕をつねって見せた。上海の腕はつねった場所だけぐにゃり、とまがった。
「あれ……皮がある……?」
「はい……。どうやら私……この大きさのまま、人間になっちゃったみたいなんです……。ですから、アリスの夢を奪ったりとかは、決してしてません!」
上海が力強くそう言ったので、霊夢は少し悩みながらもうなずいた。
「うん……まぁ、上海自身がそう言うなら、別にいいけど……いつごろ帰る?」
「あぅ……どうしましょう……」
「まぁ、ピアに頼めばいつでも帰れるわよ。……その体のことは、一応説明しないとね」
「はい……」
「……っていうか、アリスは今頃何をやってるのよ……」
上海のことが心配なら、いつ博麗神社に来てもおかしくはない。ピアに頼んだのであれば、なおさら来ても不思議じゃない。霊夢がそんなことを考えている頃、アリスの家でも同じようなことがあった。
「う……そ……。それじゃあ……上海は……」
「あぁ……多分、今頃は人間になっている頃だろうぜ」
「上海が……人間に……」
アリスの家では、魔理沙がキャリバーの能力をアリスに説明していた。ピアが持つ二対の剣、魔剣エッジと聖剣キャリバー。これらはお互いを相殺しあう力を持ちながら、持ち主のピアによって、見事に両立していた。
エッジには、『魂を喰らい、自らと同化する程度の能力』があり、その名の通り魂を喰らう剣である。対となるキャリバーには、『触れた者に魂を宿す程度の能力』がある。これにより、戦闘中にキャリバーに触れてしまった上海人形は、ピアの攻撃によってアリスの支配下にいなかったこともあり、魂を持つ生ある者、“人間”となってしまったのだ。
「今頃、上海は博麗神社だな……いきなり人間になった状態で返したら、怒られるとかもとか思ったんだろうなww」
「…………」
「ん?アリス……本当に怒っているのか?」
「魔理沙……ピアの魔剣があれば、上海は元に戻るのね?」
「アリス……!上海を元に戻すのか?」
魔理沙が驚いて聞くと、アリスはゆっくりと首を横へ振った。
「それもあるけど……その前に、上海と話をしてみたいの。上海の声を……聞いてみたい……」
「……わかったぜ!」
アリスの言葉を聞き、魔理沙は窓を開けて箒にまたがった。
「魔理沙!?」
「私が先に神社に行って、上海を戻さないように頼んでくるぜ!アリスはちゃんと準備を整えて、それから来い!」
「魔理沙……」
「こいつは貸しにしとくぜ!」
魔理沙はニヤリ、と笑うと、ものすごい速さで飛んで行った。魔理沙が見えなくなると、アリスはフッ、と笑った。
「えぇ……あなたに借りが出来たわね、魔理沙。待っててね……上海」
アリスは博麗神社に向かう準備を始めた。アリスの部屋の人形が置かれているタンスには、一か所だけスペースが空いていた。
魔理沙が博麗神社に向かっている頃、上海はピアに、普段アリスが行かないようなところをいろいろと案内してもらっていた。妖怪の山の麓まで来ると、ピアは右肩の上に乗せた上海に説明を始めた。
「ほら、ここが妖怪の山だ。ここの山の頂上に守矢神社があって、そこには神様が住んでいるんだとよ」
「へぇ~っ!神様なんですか!私、神様とお話してみたいです!!」
「あ~……それはやめた方が……」
「え?」
「い、いや!何でもない!!……さて、時間制限がないとはいえ、いつまでも人間の姿でいるわけにはいかんしな……もうちょっとだけ見て回ったら、戻るとしようか」
「あ、はい……」
上海はほんのちょっとだけ、しょぼんと肩を落とした。ピアは左手で上海の頭を撫でた。
「上海……お前の気持ちもわかるさ。世の中には、人間じゃないとわからない感覚もあるからな……」
「はい……。私、ピアさんに初めてをいろいろと教えてもらいました。知らない場所へと案内してもらいました。ご飯を食べることも教えてもらいました。人間は動くと疲れることも知りました。痛かったり、温かかったりする“感触”というものも教えてもらいました……」
「……上海……」
「私ならいざ知らず、ピアさんにその感覚がほとんど残っていないことを知ったときは……とってもつらかったです……。あ、そっか……。“感情”も教えてもらいましたね」
「上海は……もう立派な人間だな。正直なところ、人形に戻すのが惜しいくらいだ」
「ピアさんも……」
「ん?」
「あ、いえ……何でもないです。あの……今度は太陽の畑に案内してもらってもいいですか?」
「あぁ、構わんぞ」
上海からの注文を受け、ピアは太陽の畑へと向かった。
「(ピアさんも……とっても素敵な人間ですよ……)」
「どした、上海?」
「ふふっ……何でもないですよ♪」
上海はにっこりと笑った。しかし、ピアは上海の笑顔の意味がわからず、首をかしげただけだった。
「霊夢ぅー!いるかぁー!?」
霊夢の名前を叫びながら博麗神社に到着した魔理沙だったが、地面に書かれた大きな魔方陣を見つけてすぐに驚いた。
「うわっ!なんだこれ……?」
「あら、魔理沙。いらっしゃい」
「おぉ、霊夢!ちょうどよかったぜ!上海は?まだ人形に戻してないよな!?」
魔理沙の必死さにもかかわらず、霊夢はのんびりと答えた。
「……戻してないわよ。今、ピアが幻想郷を案内しているから、その間に“帰魂の術”の準備中よ」
「それで……上海の魂を移すのか?」
「まぁ、帰魂とかいってるけど、正確には“喰らう”が正しいけどね。とにかく、エッジで上海の魂を喰らうっていうだけ。今回は“術を使う”ってことになったけど……まぁ、成功するでしょ」
「なぁ……その帰魂の術……もうちょっと待ってくれないか?」
魔理沙は霊夢に頼んだ。霊夢は横目で魔理沙を見ると、視線を戻した。
「……アリスのこと?」
「察しが良くて助かるぜ。アリスと上海を、一度話させてやりたいんだ!な?いいだろ?」
「別に……それくらいなら問題ないわ。ただこれ……日が沈む前にやらなくちゃいけないのよね」
「何!?どういうことなんだよ!!」
霊夢はすっかり傾いた夕日に向けて指をさした。日が沈むにはまだ時間はあるが、太陽は半分も沈んでいた。
「日が沈む前にやらないと、他の魂がよってくるのよね。そうなったら、魂の急性過剰摂取で、エッジが暴走するんだって。ほら、幻想郷は幽霊とか亡霊とか神霊とかいるでしょ?日没前にやらないと、それらが全部こっちに来るんだって」
「じゃあ……!時間がほとんどないじゃないか!!」
「だからそろそろ、ピアも戻って来るんじゃないかしら?あと三つ数えたら、多分到着する。三、二、一……」
「悪い!待たせたっ!!」
霊夢が三つ数えると、ピアがぴったり到着した。魔理沙が唖然とする中、霊夢が見事なドヤ顔をして見せた。
「ほらね?」
「ほらね……じゃねぇよっ!!おい、ピア!」
「……ん?なんだ、魔理沙か」
「あ、魔理沙さん」
「上海!本当にしゃべってるよ……。まぁいい……それよりピア!儀式のことなんだが、ぎりぎりまで待ってくれねぇか?」
「はい?どういうことだ?」
「実は……」
魔理沙は事情を説明した。アリスは本当は怒っていないことを。アリスが上海と一度、話をしてみたいこと。とにかくアリスが、生きている上海に会いたがっていること。すべてを余すことなく話しつくした。しかし、その話を聞いたピアはほっ、と一安心した。
「……なぁんだ。アリスは怒ってなかったのか……なら、儀式を急ぐ理由もなくなったな」
「……はぁ?どういう意味だよ?」
「……いや、その……。上海を勝手に人間にしたら、アリス……めちゃくちゃ怒るかなぁ~って思って……。そんで、バレる前に人形に戻そうと……」
「……なんだってぇ!?なんだそりゃ~……」
儀式をする理由を聞いた魔理沙は心底呆れた。一気に疲れ果てた魔理沙は、その場にしりもちをついた。
「はぁ……なんか急に疲れたぜ……。おい、ピア。あとでお茶をおごれよ?」
「わ……悪かったって……」
ピアが魔理沙に謝っている中で、霊夢は遠くに人が飛んできているのを確認した。
「……どうやら、主演の登場みたいよ」
「何?」「おぉ!」
ピアと魔理沙も、霊夢につられてそちらの方を見た。そこにいたのは、アリスだった。
「ま……待ってえぇ!!」
「……!アリス……!」
アリスの声を聞き、上海はピアの肩から飛び出した。アリスはその姿を確認すると、すぐに上海だとわかった。
「上海!本当に……上海なの?」
「…………」
上海は答えようか迷ったが、意を決して答えた。
「……はい、アリス。私です……上海です!」
「上海……!」
アリスは上海を抱きしめた。その姿は、さながら我が子を抱きしめる母親の姿のようだった。
「…………」
みんなが黙ってその様子を見守る中、ピアだけが目線を逸らした。唇をかみしめ、何かを悔やむように。
「上海……よかった……。あなたに会うことが出来て……聖剣の力で人間になったって、魔理沙から聞いたときは驚いたけど……でも、やっぱり上海は上海のままね」
「アリス……嬉しいです。こうしてアリスとお話が出来るなんて、本当に夢のようです。でも、私は人形……本来、人間になってはいけない存在なんです」
「上海……」
「ピアさんから、いろいろなことを教わりました。人間なら必ずすることや、人間の習慣など、いろいろなことをたくさん教えてもらいました!私……人間になれて、すっごく嬉しかったです!人間には、命に限りがありますが……それでも、私は人間になれてよかったです!ピアさんと同じ気持ちになれて……嬉しかったです!」
「上海……。私もあなたと色々話したかったわ……でも、今回ばかりはあなたの言う通り……。私は、自分の力で自律型人形を作ると決めた……。だから、彼の聖剣の力に頼るわけにはいかないもの……。上海。いつかきっと、完全に自律したあなたを作り上げてみせる!それまで……待っててね、上海……」
「……はい!」
上海は力強く頷くと、今度はピアの方に飛んで行った。ピアはすでにエッジは魔法陣の中央に刺しており、儀式の準備を終えていた。
「お、上海。話はついたか?」
「はい……もう、未練はありません」
「やめろよ。お前は死ぬわけじゃないんだよ、上海。アリスの夢がかなう時まで……眠るだけだよ」
「……!ピアさん……」
しばらくして、魔方陣が怪しげな光を放ち始めた。エッジは目を大きく見開き、上海をぎょろり、と睨み付けた。
「さぁ……行くんだ。急がねぇと、他の魂がよってきちまう」
「はい……!」
「上海。また来世で会いましょ。その時は……お茶でも出すわ」
「霊夢さん……」
「本当は私の方がお前と話したかったんだが……まぁいいや!元気でな!上海!!」
「はい!魔理沙さん!」
最後に上海はピアの顔の近くまで近寄った。ピアがそちらへゆっくりと振り向くと、
「ピアさん、ありがとうございました!私にとっての……初めての恋でした」
「ん?」
チュッ。
上海はピアの頬にキスをすると、魔方陣の中央に飛んで行った。
「おい、ちょ……上海!?」
「ありがとう、ピアさん!大好きでした!!」
上海は最後にそう叫ぶと、エッジに魂を吸い取られた。やがて上海は力なく地面に落ちて、魔方陣も光を失った。
「……上海……」
「ほほう……人形からの告白とは……酔狂ですなぁ?」
「魔理沙……滅閃光、喰らいたいか?」
「や、やめろって!目がマジじゃねぇか!!」
「ピア……ありがとう」
魔理沙の冗談を軽く無視しながら、アリスはピアに礼を言った。しかし、ピアはまるで当然のように首を横へ振った。
「やめろって……俺は……」
「“そんなんじゃない”って?たとえ、そうだとしても……今はお礼を言わせてちょうだい」
「アリス……」
「上海を話しをすることが出来た……。これはある意味で、私の夢なのよ。完全に自立した人形を作ること……擬似的にとはいえ、ピアは私にそれを見せてくれたわ。だから……今、すごく嬉しいの。……ありがとう」
「……そうか」
「私……やって見せるわ!必ず……必ずこの手で夢をかなえてみせる!そして……上海ともう一度……話をするのよ!」
アリスは夜空に向けて誓った。星空の中に、一際大きく輝く星があった。きっとやってみせる。アリスはもう一度、自分の中で誓いを立てた。
上海はいつかしゃべれたらいいなとの思いで考えました。
ではまた次回