Ex-6どうぞ!
桜が散り始め、幻想郷は春の終わりを迎えようとしていた。時間はお昼頃。ピアは博麗神社の境内を掃除しながら、リリーホワイトと話をしていた。
「そうなんですか~。それで、ピアさんは自分の世界の神様が嫌いなんですね~」
「まぁな。……ったく、あのクソ狐がぁ……今度会ったら、ぜってぇにぶっ殺す!!」
ピアは本当に怒っているようで、箒で地面を思いっきり叩いた。そんなピアを前にしても、リリーはずっと笑顔のままだった。
「うふふ。ピアさんは本当に、思ったことを素直に言う人ですねぇ~」
「……言わなきゃわからんこともあるだろう?だからはっきりと言ってやるのさ。そうすれば、相手にもわかりやすく伝わるしな」
「でも……ピアさん、無理をしてませんか?」
「……ん?リリーさん?」
「あまり自分を抑えすぎていませんか?自分を抑えすぎて……自分を見失わないでください」
突然リリーの口調が変わったため、ピアは少し動揺した。リリーは花がほとんど散ってしまった桜の木を眺めながら、優しくピアに語りかけた。
「もっと自分に素直になった方がいいですよ?自分の存在や立場の意味に囚われて、自分を殺しすぎていませんか?今のピアさんは……ちょっぴり窮屈です」
「あのー……リリーさん?」
「たしかに……ピアさんの今の生き方は、間違っていないと思います。でも……間違っていないからといって、それが正しいとも限りません。ピアさん……貴方が望む生き方とは……貴方は願う世界とは……いったいどんな世界なのでしょう……?たとえすぐに理解を示されなかったとしても、きっとわかってくれますよ。だってここは……すべてを受け入れる世界……幻想郷なのですから……」
「…………」
リリーのあまりの口調の変わり具合に、ピアはとうとう言葉を失った。しかし、すべてを語り終えたのか、リリーはいつもの春のような満面の笑顔をピアに向けた。
「えへへ……ちょっとしゃべりすぎちゃいましたぁ~。昔はこうやって、レティさんによく話しかけてたものですよぉ~」
「えっ……レティさんに?」
少しだけ意外だった。春のリリーホワイトが、冬のレティ・ホワイトロックに、いったいいつ出会えたのだろうか。
「冬が終わってですねぇ……春が始まりそうになるとですねぇ……」
「あぁ、リリーさん。俺ちょっと昼ごはんを作らないと(嘘)」
「あらぁ?そうでしたかぁ~。それならしかたないですねぇ~、私も戻りましょうかぁ~」
「そうですか。また会ったらゆっくり話をしましょう、リリーさん」
「はぁい♪それではぁ~」
リリーは再び春を告げるため、幻想郷の空へと舞い上がった。
「……ふぅ」
「ピアにも心を許せる人がいたのね」
「どぅわぁっ!!」
ピアが一息ついたと同時に、後ろからアベルが話しかけてきた。ピアは怒りのこもった目で、アベルをきつく睨み付けた。
「……何の用だよ、テメェ……。自分の世界に帰れって、言っただろうが……殺すぞ?」
「ピア……」
「参拝ならとっととやって、さっさと帰れ。テメェの顔なんざ見たくもねぇ」
「ピア……私……」
「うるせぇっ!殺すぞ!!」
ピアは手に持っていた箒で、アベルに全力で殴りかかった。アベルはそれを避けることなく、思いっきり箒で殴られた。アベルはピアの容赦のない一撃で、思いっきり倒れた。
「……っ!?なぜ避けない……?今までのお前なら……かわしていただろう!?」
「……それが……ピアが背負ってきた痛みなら、これくらいは……」
「偽善者気取りも大概にしろ!これ以上はテメェを殺して……」
パシャッ!
ピアがエッジを抜いてアベルに切りかかろうとした時、シャッター音が聞こえた。
「……っ!文……?」
「あやややや……。ピアさん。参拝客に手をあげちゃうのは、さすがにいかがなものかと思いますけどねぇ……」
「……ちっ」
ピアはしぶしぶエッジをしまった。その後、その辺に捨てた箒を再び手に取り
「文……お前はなんていうタイミングで……」
文に一言文句を言おうと、文の方へ向いた時だった。
「……へ?」
そこにいた文は、随分と印象が変わっていた。三年前はショートヘアだった文は、髪が肩にかかるくらいに伸びており、かなり大人びた顔立ちになっていた。以前、取材を受けた時は帽子をかぶっていたために顔がよく見えていなかったが、改めて見てみるとかなりの美人になっていた。
「えへへ……改めて、お久しぶりですね。ピアさん!」
「文……なんていうか……綺麗になった……」
ゴンッ!
ピアが文をほめた直後、ピアは霊夢のげんこつを喰らった。
「いってぇ……なにするんだ、霊夢……」
「うるさい。文……今日は一体何の用かしら?」
「まぁまぁ、霊夢さん!落ち着いてくださいよ。殺気を向けられては落ち着いて話もできませんよ。とりあえず……私はピアさんに用があります」
「……用件は?」
「今日一日、ピアさんに密着取材……」
「帰れ」
「ちょ、ちょちょちょ!待ってくださいよ!!まだ全部言ってませんよ!」
「言わなくてもわかってるわよ。密着取材はお・こ・と・わ・り・よ!」
「俺は構わんぞ」
「ファッ!?」
霊夢はしっかりと拒否したが、ピアはあっさりと了承した。霊夢は慌ててピアを説得する。
「待ちなさいよっ!これは業務命令っ!絶対に駄目よ!!」
「…………」
ピアは黙って横目でアベルを睨み付けた。どうやらピアは、アベルがいるこの場から離れるきっかけが欲しかったらしい。ピアの横目だけで察した霊夢は、しぶしぶ了承した。
「……わかったわよ。ただし!終わったらすぐに帰ってくること!いいわね?」
「あぁ、すぐに戻って来る」
ピアは霊夢の許可をもらうと、文の手を引いてさっさと飛び立った。
「あやややや!?ピ、ピアさん!そんな……急に引っ張らないでくださいぃ!!」
「いいから行くぞ。さっさと行くぞ」
ピアは黙々と文の手を引っ張っていった。
「あ……ピア……」
「あ~……。アベル……さん?」
アベルがピアの後ろ姿を見つめている中で、霊夢がアベルに声をかけた。
「よかったら……お茶でも飲んでいかない?ほら、参拝ついでに……ピアのことなら、教えてあげるわよ」
「本当ですか……?あ、ありがとうございます……」
アベルは少し元気がなかったが、霊夢の提案にほんの少しだけ明るさを取り戻した。
文を引っ張って飛び立ったピアだったが、しばらく文と手をつないでいることをすっかり忘れていた。
「……あ、あぁ!文、すまない!!」
ピアはとっさに手を離したが、文は思いのほか嬉しそうだった。
「えへへ……ピアさんと手を繋いじゃいました。なんだかうれしいですね♪」
「は、はぁ……そうなのか。……と、とりあえず、俺のことを一日取材するんだろ?」
「はい!全身全霊で、取材させてもらいます!!」
「まぁ……無理はするなよ?」
ピアは念を押してそう言った。しかし、文の満面の笑みは、かえってピアの不安を煽るだけだった。とりあえずピアは紅魔館に向かうことにした。
「俺なんか密着しても、いつも通りのことしかしないぞ?」
「いいんですよ!むしろいつも通り……ありのままのピアさんが見たいんです!」
「あ……ありのまま、ね……」
「はい!世間の皆様も、ピアさんのことをもっと知りたがっているでしょうから!!」
「はぁ……。そういうことなら……早く来い。置いていくぞ?」
「あやややや!ま、待ってくださいよぉ~!!」
ピアがさっさと出発したので、文も慌てて後を追った。
「(それに……私もあなたのことを……いっぱい知ることができますからね♪)」
「……ん?どうした、文?」
「あ、いえ……何でもないですよ♪」
「……??」
文がにっこりと笑顔で返してきたので、ピアは特に追及はしなかった。そうこうしているうちに、二人は紅魔館に到着した。門番の美鈴はいつも通り起きていた。
「おや、ピアさん!こんにちは!」
「よう、美鈴。ちゃんと起きているんだな」
「あはは……実はさっき、咲夜さんに注意されたばかりで……」
「あぁ……それでか」
「ん……?うわ……ブン屋も一緒なんですか……?」
「ちょっとちょっと。人をそんな余計なものみたいな言い方をしないでください!迷惑ですよ」
「迷惑なのはこっちなんですけど……。あなたがいたら、お嬢様たちが安心してピアさんに甘えられないじゃないですか」
「今日はピアさんの密着取材として、ピアさんから同行許可をいただいていますから。あなたにどうこう言われる義理はないんです。営業妨害ですよ?」
気が付くと、美鈴と文は一触即発状態になっていた。お互いを睨みあい、いつスペカを使うかわからないような状況だった。
「お、おいおい……落ち着けって!とりあえず美鈴、落ち着け!文もだ!なんでお前らそんなにいがみ合って……」
「「だって!この人が!!」」
二人はお互いを指さしながら抗議した。ピアはやれやれ、と頭を掻きながらため息をついた。
「……美鈴。納得できないかもしれんが、許可を出したのは俺だ。ここは大目に見て、文を通してくれないか?」
「うぅ……。まぁ……ピアさんがそうおっしゃるなら……ただし、特別ですからね!」
「…………」
ピアはほんの少し黙った後、文とともに紅魔館の中へ入っていった。紅魔館に入ると、すぐに咲夜が現れた。
「ようこそ、紅魔館へ……。ピア、待っていたわ……あら?」
咲夜は軽くあいさつした後で、文の存在に気付いた。すると、咲夜もほんの少しだが、美鈴と同じような反応をした。
「あら、文。来ていたのね」
「……随分と快くない歓迎ですね……。そんなに私が邪魔ですか?」
「いいえ。ただ、あなたがピアと一緒にいるのが、少し珍しかっただけよ。あなたも来たのなら、一応お客様だからね……ゆっくりしていきなさいな」
咲夜はそう言って踵を返すと、歩き出していった。ピアは黙って咲夜についていったので、文もピアのあとに続いた。ピアは文のことが少し心配になり、小声で声をかけた。
「文……」
「はい?どうしたんですか、ピアさん?」
「大丈夫か?文?あんまりきついなら、俺から注意しとくが……」
「いえいえ、平気ですよ。これくらい……慣れていますから……」
そういって文は笑顔を見せた。しかし、ピアにはその笑顔が気丈に振舞っているようにしか見えなかった。それでも、文自身が“平気だ”と言っているので、それ以上は何も言わなかった。咲夜の案内で、いつも通りにレミリアの部屋に着いた。咲夜はノックをしようとして一度やめ、文の方へ振り返った。
「あなたはあまり喋らない方がよさそうね。お嬢様は、自分以外の誰かがピアと一緒にいるのを、あまり快く思わないわ」
「それは……」
「大丈夫だ、咲夜。俺がレミィに言い聞かす。俺が言えば、レミィもきっと納得してくれる」
「ピアさん……」
「……ん、そうね。ピアが言うなら、お嬢様も聞いてくれるかもしれないわね。それじゃ……頑張ってね」
「えぇ、まぁ……わかってるわよ」
「それなら……」
咲夜は扉の方へ向き直り、扉を軽くノックした。
「失礼します……お嬢様、ピア様がお越しになりました」
「えぇ、入れてちょうだい」
「はい、失礼します」
咲夜は扉を開け、先に部屋に入って頭を下げた。その後、二人が部屋に入ったことを確認すると、再び頭を下げて部屋を出ていった。
「クックック……よく来たわ、ピア。我が忠実なる執事……」
そう言いながら振り返ったレミリアは、あからさまに不満そうな表情に変わった。
「ちょっと、なんで新聞屋がいるのよ?美鈴は何をしていたわけ?」
「レミィ、聞いてほしい。今日は文に、俺の一日を取材するように依頼してきたんだ。それでここに文がいるわけで、勝手についてきたわけじゃない。正当な理由があるから、追い返す理由はないだろ?」
「……まぁ、ピアがそう言うなら……今回だけよ」
レミリアは渋々了承した。ピアは文に目で合図を送ると、文は嬉しそうに笑顔になった。文の取材を交えて、ピアはレミリアと雑談をした。レミリアが話す身内話、ピアが話す外の世界の話、それらの一つ一つを、文は丁寧にメモしていった。たまに写真も撮ったりしたが、フラッシュは使わないように念を押された。やがて会話に区切りをつけて、二人の雑談は終わった。
「ふぅ……今日は楽しかったわ、ピア。また話をしましょう……」
「あぁ、俺も楽しかったよ。……そうだ、レミィ」
「ん?」
「今回のお詫びというかなんというか……来週の一週間だけ、ここで働かせてくれないか?それで許されるとはおm」
「いいわよ。ちゃんと来週から一週間……働きなさいよね?」
「即答かよ……。サンキュー、助かるよ。……それじゃ、またな」
「えぇ、またいらっしゃい」
ピアは文を連れて部屋を出ていった。扉が閉まり、足音が遠くなって完全に気配が消えると、レミリアはベッドに向かって飛び込んだ。
「やったぁー!来週から一週間だけは、ピアは私の物!!フフフ……いったいどんな命令を出してやろうかしら?あんなことやこんなことも……あぁ!あれやこれもしてみたいわぁ~!クックック……来週が楽しみで待ち遠しいわ!!」
先ほどまで抑えていた感情を爆発させ、ベッドの上で狂喜乱舞した。その様子を扉の隙間から見ていたフランは、すっかりドン引きしていた。
紅魔館をあとにしたピアは、文を連れて人里に来ていた。近くの甘味処で団子を食べている間、ピアは文のことを少しだけ心配していた。
「文……大丈夫か?」
「平気ですよ。これくらい、慣れてますから!」
「……あんまり我慢するのはよくないぜ?仕事のストレスをきちんと解消することも、ある意味仕事の一つだろ?」
「…………」
文は食べかけていた団子を皿に置き、ほんの少しだけうつむいた。先ほどまでの元気が、嘘のように消えていた。
「……やっぱり……ピアさんにはわかっちゃいますかね?」
「わかるんだよな、これが。俺、そういう人間をたくさん知っているからな」
「あはは……やっぱりピアさんには敵わないですね。……そうですね、つらくないといえば、正直なところ嘘になります。自分が嫌われる立場にあるのは、十分わかっているのですが……ピアさんに出会ってからは、それが少しづつ強くなっていきました」
「……?俺に出会ってから?」
ピアの疑問に、文ははい、と頷くとさらに続けた。
「ピアさんに出会ってから、仕事が公私混同するようになりました。あ、私のライバルで、『花果子念報』っていう新聞を書いている『姫海棠はたて』という天狗がいるのですが、最近そいつに言われたんですよ。“あんた、仕事に私情を挟んでいない?”って。私は初めは否定したんですが、自分が書いていた新聞を読んでみて気づいたんです。やたらと主観が入っていたり、なにより新聞の内容はピアさんのことばかり……。もしかしたら……私……」
「ストップだ、文」
ピアは文の唇に人差し指を重ねた。文はゆっくりとピアの方へ振り返り、その手をどかした。
「ピアさん……」
「それ以上は……ダメだ。もし、お前がそう言うのならば……俺はそれ相応の対応をしなければならない……」
「それは……私が天狗(嫌い)だからですか?」
「俺が悪魔(危険)だからだ」
「…………」
ピアと文はしばらくの間、お互いを見つめ合った。かなり長い沈黙が続いたが、その沈黙を破ったのはピアだった。
「俺はお前を傷つけたくない。この世界を……みんなを守りたい。だから……俺は誰かに愛されるわけにはいかない。俺は……悪魔だ」
「ですが、同時に人間でもある」
文はピアの言葉に反論するように言った。ピアは黙って、文の言葉を待った。
「ピアさん……証明してみてください。あなたが悪魔なら、黙ってこのまま立ち去ってください。ただし、あなたが人間なら……ここで私にキスをしてください」
「キ、キスぅ!?」
「はい、キスです」
「ま、ちょ、おいっ!待てよっ!!どうしてそうなるんだ……」
「選んでください、ピアさん。私は本気です。選べないなら……あの写真をばらまきますよ?」
「うぐっ……」
ピアはその写真に心当たりがあった。それは、博麗神社で撮られた、アベルに切りかかろうとした瞬間の写真だった。あれがばらまかれると、博麗神社の面目が危うくなってしまうので、それだけは避けたかった。
「……わかった」
ピアは大きく頷くと、文の体を引き寄せ、その唇にキスをした。
「んっ……」
「…………」
白昼堂々、何をやっているんだと思いながら、ピアは文とキスした。
「んんっ……」
「…………」
やがて長いキスを終え、二人は少しだけ離れた。文は息が荒れていたが、少し驚いているようだった。
「ピアさん……なぜ……?」
「……勘違いするな……。幻想郷(ここ)にいる間は、俺は人間のつもり……だからな」
ピアはそう言うと文から視線を逸らした。文は小さくほほ笑むと、そのままピアにもたれかかった。そんな様子を、こっそりのぞいている者がいた。
「おい……おいおいおい……。マジかよ、あれ……。冗談じゃない……あのピアだぞ?……とにかく、アベルに報告でもしといてやるか……なんか面白そうだしな……ふっふふふ……」
二人を見ていた刹那は、ニヤリと笑うとその場から姿を消した。
一方、アベルを神社に招いた霊夢は、アベルの長々しい話を延々と聞かされていた。
「……それでですね、ピアが“飯なんかいらん”って言うから、私は“ちゃんと食べなきゃだめですよ”って注意したんですよ。でも、ピアはちっとも聞いてくれなくて……。おまけに私たちの国に、単身で勝負を挑んだりするんですよ!もう危なっかしくて危なっかしくて……何度もやめるように説得したんです。だけど……ピアは私の言うことを全然聞こうとしなくて……。だから、刹那が“無理矢理でも聞かせる”って言って、ピアは力でねじ伏せてしまったんです!私は“それではだめだ”と何度も言ったんですが……二人はいつまでも喧嘩をやめなくて……」
「(ピア……外の世界じゃ荒れすぎでしょ!?一体……何をどうしたら、アレがそうなったのよ?)」
ピアの外の世界での印象は、最低をさらに上回るほどだった。ことあるごとに暴力で解決する。出合い頭に人は殺す。いきなり殴る。タダ食いしては店を押し倒すなど、かなりの無茶をしていたらしく、今の姿からはとても想像できなかった。
「あの、アベルさん?それって本当の話かしら?今のピアからはとても想像できないんだけど……」
「残念ながら、本当です。でも……この世界でピアに出会って、私はとても感動しました。霊夢さん……ありがとうございます!」
アベルは霊夢の手を握ると、深々と頭を下げた。あまりに懇切丁寧な態度に、霊夢は思わず慌てた。
「ちょ、そんな礼儀正しくならなくても……」
「ですが、ピアが人間として生きていられる(・・・・・・・・・・・・)のは、霊夢さんやこの幻想郷の皆さんのおかげです。本当にありがとうございます」
「……どうしてアベルさんは、ピアに嫌われているの?」
「それは……わからないんです……」
「えっ……わからない?」
アベルの意外すぎる答えに、霊夢は開いた口がふさがらなかった。
「ちょっと……わからないのに嫌われるはずはないでしょ?何かしら理由がないと……」
「えぇ……でも、本当にわからないんです。彼が魔王で、私が神だからなのか……私の行いが、彼にとって不平不満を与えるものだったのか……」
「アベルさん……」
「私……どうすればいいのか……わからなくて……。でも、何かしなければ……何かをしなければ、きっと何も変わらない。そう思って、ずっとピアと接してきました。ですが、この世界でピアは、人としての生き方をちゃんと取り戻していました。この世界にいるピアが、まさに私の理想の姿……私の大好きなピア・デケムの姿なんです」
「ピアが……好きなの?でも、アベルさんには旦那さんが……」
「はい、わかっています。でも、私はすべての世界が好きです。その世界に住む、一人一人が大好きです。ですから、私はピアのことも大好きなんです!あ、でも……さすがにこればっかりは、刹那に怒られちゃいましたけどね。えへへ……」
「(……あれ?のろけられた……?今、思いっきり目の前でのろけられたぁー!?)」
霊夢は心の中でツッコミを入れた後で、一度咳ばらいをした後、もう一度アベルに聞いた。
「それで……一応、幻想入りしてからのことは、全部話したけど……他、何か聞きたいこととかあるかしら?」
「いえ、大丈夫です。本当にありがとうございました」
「アベルさん……いったいあなたは何回お礼を言うつもりかしら?」
「え?でも、霊夢さんには本当に感謝をしていて……」
「……ふ~ん」
「でも、ピアのことは霊夢さんに任せれば大丈夫そうですね!……とりあえず私は一度、人里に戻ります。霊夢さん……お話、ありがとうございました」
「はいはい。あんな程度の話なら、いつでも聞かせてあげるからね。まぁ……またいつでもいらっしゃい」
「はい!失礼します!」
アベルは笑顔で別れを告げると、そのまま瞬間移動で姿を消した。アベルや刹那、ピアたちの場合、瞬間移動だけで、世界中のどこにでも行けるほどの力があるのだ。アベルがいなくなると、霊夢は机に思いっきり突っ伏しった。
「(ピア……あんな可愛い子に心配されているなんて……。もしかしたら……ピアはあの子のこと……)」
霊夢の脳裏によぎったのは、ピアのことを楽しそうに話すアベルの姿。霊夢はますます不安になっていった。
「(……でも、ピアはあの子のことは嫌いだって……でも、本当に?もし……アベルさんが今の旦那さんと結ばれていなかったら、いずれはピアと……?いえ、それはない……よね?でも……もしかしたら……)」
霊夢がそんなことを一人で考えている頃、ピアは文とともに次の目的地である、守矢神社へと向かっていた。
「ピアさん?どうして守矢神社に行こうと?」
「早苗に会って、安心させてやりたいのもある。それと……時間が時間だ。どうせなら、お前の帰りが近いところがいいと思ってな」
「あやややや……。ピアさん。お気遣い、感謝します」
文がピアにお礼を返し、ピアがそのまま小さく頷いた。やがて、遠くに妖怪の山。そして、守矢神社が見えてきた。
「見えた……!もうすぐだな」
「はい!」
二人が妖怪の山に差し掛かろうとした、まさにその時だった。
カシャッ!
文が持っているカメラとは別のシャッター音が、二人の耳に届いた。ピアよりも早く文が反応し、とっさに天狗の扇で仰ぎ、弾幕を放った。
カシャッ!カシャッ!
さらにシャッターが切られ、文の弾幕が消滅した。ピアがわけもわからずに呆然としていると
「ようやく見つけたわっ!巷で専ら噂になっている、幻想の英雄!!」
今度はシャッター音ではなく、女性の声が聞こえた。ピアが声の方、つまり、文が弾幕を放った方へ見ると、そこには文とは別の天狗がいた。服装は若干、文に似ているものの、ツインテールに紫と黒のチェック柄のスカートと、文とは明らかに印象が異なる天狗だった。
「君は……?文と同じ天狗のようだが……」
「初めまして、幻想の英雄さん。私は『姫海棠はたて』。あなた、『花果子念報』はご存知かしら?」
「花果子……?あぁ、文から聞いたな。君がはたて……」
「ちょっと、はたて?一体何の用なのかしら?」
「はんっ!それはこっちのセリフよ。とうとう仕事サボって、呑気にデートをするに至るとはねぇ……見損なったわよ、文!」
「なっ……!デートだなんて……。私は今日一日、密着取材を……」
「そんなことを言って……本当はデートをするきっかけが欲しかっただけなんでしょ?今日の花果子念報のお題は決まったわね。“文々。新聞、射命丸文!!仕事にかこつけてデートを満喫か!?”これで決まりね」
「は、はたて!?何を急に……!!」
文ははたての発言に酷く動揺していた。二人の会話に全くついて行けなかったが、わかったことが一つだけあった。文ははたてによって、新聞記者生命を追いつめられていることだった。
「はたて、それだけはやめてっ!!ピアさんは関係ないわっ!記事にするなら、私だけを……」
「あら?私は目の前の真実を、ありのままに世間に伝えるだけよ?それをどうとらえるかは、読み手次第だと思うけど?」
「うっ……」
「待てよ」
ピアは文とはたての間に割って入った。さすがにこれ以上は、見て見ぬふりをできないと判断したからだ。
「たしかにお前の言う通りだ。情報なんてものは、受け取ったものがどうとらえるかによってだいぶ印象が変わる。だが、本人を目の前にして、その言い方は気に入らんな」
「あら、私は正論を言ったつもりだけど?」
「もちろん、今回ははたての言うことの方が正しい。だがな……見た程度の、上辺だけの情報だけで、そのすべてを語ったような気になるのはやめてもらいたいな。あと、変な噂は広めないでもらおうか」
「ピアさん……」
ピアは完全に文の味方になっていた。はたてはしばらく頭を掻いて悩んでいたが、そのうち諦めたようにため息をついた。
「はぁ……。さすがは英雄……言うことが違うわね。あなたの言っていることも間違ってないから、今回は大目に見るわ。“密着取材の逆取材”ってことで、どう?」
「交渉は成立だ。……悪いな」
「いいのよ。私も少し言い過ぎたわ。ごめんね、文。どうも先回りされたのが悔しくってね……つい苛めちゃったわ」
「そんなことで苛めないでよ……。ちょっと怖かったじゃない!」
「はいはい。それじゃ、密着取材……頑張ってね」
「い、言われなくても……とんでもない記事にして見せるわ!ピアさん、行きましょう!」
「おい、ちょ!手を引っ張るな!!」
ピアは文に手を引かれ、守矢神社まで飛んで行った。二人を見送った後、はたては大きなため息をついた。
「はぁ~……悪役って疲れるわぁ~。英雄さんとか、マジで言い返してくるんだもん。ちょっと焦っちゃったじゃない。でもまぁ……これで少しは近づけたかな?文……恋も仕事も、それなりに頑張るのよ?」
文に引っ張られる形で、ピアは守矢神社に到着した。そこでピアはすぐに、早苗の後ろ姿を捉えた。
「……早苗」
「……!!」
ピアが早苗の名前を呼ぶと、早苗はゆっくりと振り返った。そして、そこにいるのがピアだとわかると、目に大量の涙を浮かべ始めた。
「ピ……ピアさん……?」
「あぁ……俺だ」
「ピアさん……ピアさああぁぁぁんっ!!」
早苗は手に持っていた箒を捨てて、ピアに勢いよく抱き付いた。ピアは早苗を受け止めると、落ち着かせるために頭を撫でた。
「ピアさん……ピアさん!よかった……本当に、よかったあぁぁ!!」
「あぁ、もう泣くなっての!俺が反応に困るだろうに……」
「ピア!本当にピアなの!?」
「ピア・デケム!生きて……いたのか……」
早苗の泣き声が聞こえたのか、奥から神奈子と諏訪子が出てきた。諏訪子もピアの姿を見ると、早苗と同じように飛びついてきた。
「よかったじゃんっ!ピア……生きて……戻ってきてくれたんだね……」
「あぁ……心配かけたな、諏訪子」
「ピア・デケム」
神奈子はゆっくりと歩いてきた。ピアは神奈子の方へ向き直った。
「神奈子……」
「ピア・デケム……いや、ピア。すまなかった……」
「神奈子……?」
「神奈子様……?」
神奈子が突然ピアに対し謝罪をしたので、早苗と諏訪子も驚いて神奈子の方を見た。
「私は……お前を悪魔だと敵視したばかりに……神としてのプライドに囚われ、早苗の気持ちも考えず、お前を敵とみなしていた……。……っふ、私は神様失格なのかもね……」
「そんなことないですよ!神奈子様は……」
「早苗、待ちなよ」
「諏訪子様……」
「これは神奈子とピアの問題……私たちは、黙って見守ろうよ」
「……はい……」
諏訪子に諭され、早苗は行方を見守ることにした。ピアも、神奈子の次の言葉を待っていた。
「早苗のことを第一にと言っておきながら……肝心の早苗の気持ちを無視していた……。私はどうしようもない阿保だった。そのために、お前を何度苦しめたことか……」
「そのことなら……もういい」
ピアは神奈子の肩に手を乗せた。若干うつむいていた神奈子は思わず顔をあげた。そこにいたのは、自分が敵だと言っていた悪魔ではなかった。
「その代わり……今日一日、泊めてはくれないだろうか?だいぶ日も沈んできちまってるし……あ、ついでに文も一緒にな。いいだろう、文?」
「え?私も……ですか?」
「当然だ。……いいよな?神奈子?」
「無論だ。存分に休んでいくといい」
「それでは、神奈子様!」
早苗の表情が一気に明るくなった。神奈子もまた、早苗に向けて笑顔を向けると
「あぁ……認めよう、ピア。お前は、早苗に相応しき男だ。今度とも、早苗のことをよろしく頼む」
「……まぁ、完全とは言えないが、これからもよろしく頼むぜ」
「やったぁ!」
「……やっとかい。長かったよ、神奈子……それに、ピアもね」
「あぁ。……さぁて、今日は守矢神社でゆっくりしよう!」
ピアは文とともに、守矢神社に一泊することになった。今日一日、密着取材をした文も、それなりの収穫があったと、大喜びだった。それに負けず劣らず、ピアさんが神社に来れると、早苗も大喜びしていた。ピアは来週の予定について考えながら、守矢神社に入っていった。
リリーさんは私たちにできないことを平然とやってのけますね、流石です
神奈子様Lv UPです!やった!ではまた