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Ex-7どうぞ!
ここは紅魔館。レミリアが住むこの館で今、大がかりなパーティーの準備が進められていた。その準備の様子を眺めていたレミリアは、小さく笑っていた。
「クックックックック……」
最初は小さかったレミリアの笑い声は、次第に大きさを増していった。
「クックックックック……アッハハハハ……」
そしてレミリアの笑い声は最大にまで大きくなった。
「あーっはっはっはっはっは!はーっはっはっはっはっは!!」
「レミィ、さっきから何を笑っているのかしら?それと、この無駄に規模のでかい準備は、いったい何をするつもりなのかしら?」
隣で見ていたパチュリーは、若干遠い目でレミリアを見ていた。レミリアはパチュリーの発言の意味がわからないと言わんばかりに、声を張り上げた。
「パチェ!これが笑わずにいられるとでも!?今日から一週間の間……ピアが私の、いえ!私たちのものになるのよ!?それを聞いて笑わずにいられるもんですか!!」
「たったの一週間じゃない。そんなに大騒ぎするようなことでは……」
「するのよ!ただでさえ、この紅魔館に長居しないピアが!あのピアが一週間もここにいてくれるのよ?なんでパチェは嬉しくないのよ!?」
「いや……一応、嬉しいけど……。私なんかよりも、あなたの方がうれしいんじゃないかしら?」
「ふぇ!?」
パチュリーの指摘に、レミリアは思わず声を出した。図星だと悟られないように、必死に言葉を探した。
「べ……別にそんな嬉しくなんか……!ピアがここに来るのは当然のこと!!いえ、私の執事として、当たり前のことよ!!嬉しいとかそんなんじゃにゃいんだからね!!」
「はいはい、ツンデレごちそうさまです。わかったわから、早く準備を進めましょう。妹様も、咲夜の手伝いをしているみたいだし」
パチュリーがそう言って指をさした方を見ると、咲夜と一緒にテーブルにお皿を並べるフランの姿があった。
「まぁね。今日のことは、フランにも話しているのよ。まったく、ピアには感謝してもしきれないわね」
「そういうことなら、彼が紅魔館へ本を返しに来たのも、もしかしたら……ある意味、運命だったかもね」
「……!さすがはパチェ……きっとそのとおりね」
「運命はあなたの専売特許でしょ、レミィ?……もうすぐ時間ね、準備を急がせましょうか」
「そうね。……咲夜!もっとペースを上げてちょうだい!ピアの到着までに、必ず間に合わせるのよ!!」
「はっ!かしこまりました!!」
咲夜はレミリアの命令に忠実に従い、妖精メイドたちにテキパキと指示を出した。ピア・デケム歓迎会は、着々と進められていった。
一方、博麗神社ではピアが紅魔館へ一週間働くということなので、霊夢が見送りに出ていた。
「……ピアと一週間も会えないなんて……」
「そんな悲しい顔をすんなって。たった一週間じゃねぇか」
「でも……ここ最近、ピアと一緒にいる時間が短くなってる気がするぅ……」
霊夢は少しだけふてくされた。ピアは頭を掻きながらやれやれ、と呟いた。
「あぁ……そっか。わかったよ……!帰ってきたら、当分は外出を控えることにするよ」
「本当!?」
「あぁ、本当だ。ちゃんと約束するよ」
「約束……守ってよね?」
「おや?俺が嘘をついたことがあるとでも?」
「それは……ないけど……」
「じゃあ心配すんなよ。……まったく、霊夢は霊夢で可愛いなぁ……はいはい」
ピアはそう言うと、ニヒルな笑みを浮かべて霊夢の頬をつついた。霊夢は少しだけ照れながらも、頬を膨らませてそっぽを向いた。
「もう……いいもん、知らない。ばぁか、ばぁか、ばぁか!」
「あっはっは!やっぱり霊夢はそうじゃないとな!!」
ふてる霊夢を見て、ピアは大笑いをした。しかし、霊夢はふっ、と何かを思い出したようにピアに訊ねた。
「それより、ピア」
「ん?」
霊夢は少しだけムッ、となってピアの顔を覗き込んだ。
「ピアって……あのアベルって子のこと……どう思ってるの?」
「は、はぁ!?何を言い出すんだ!!」
「どうなのよ?あの子……ピアのことすごく心配してたし、面倒見もよくて、優しいし……」
「な、何を言ってんだよ、お前!?」
「ピア、本当はあの子のこと……好きなんじゃないの?」
「バ、バカを言え!!あんな奴、好きでも何でもねぇよ!むしろ大っ嫌いだっつーの!!」
「でも……背もちっちゃくて、ちょっと天然でドジっぽいし……おまけに可愛いし……」
「可愛くねぇよ!俺に言わせりゃ、お前の方がよっぽど可愛い……」
「え?」
「あ」
ピアは口を滑らせたような顔になり、次第に顔を赤らめていった。霊夢もまた、どんどん顔が赤くなっていく。
「ねぇ、ちょっと……今の……」
「あ、うぇ……えっと……あの……うな、ぶべらばぁー!!」
ピアは言葉にならない言葉を吐きながら、大慌てで飛んで行ってしまった。
「ピア……」
霊夢はピアの名前を呟くと、小さくほほ笑んでから神社の中へ戻っていった。
博麗神社を出たピアは、紅魔館に着いた。しかし、いつもと違う紅魔館の雰囲気に、ピアは開いた口がふさがらなかった。
「なんだ……こりゃ……?」
紅魔館にはこれからパーティーでもするかのような装飾が、大量に飾られていた。門の前にも、“紅魔執事歓迎会”と書かれた看板が立っていた。
「……美鈴に聞こう」
ピアは門の前で、看板の位置をどこにしようかと悩んでいる美鈴に近づいた。
「よう、美鈴」
「ありゃりゃ!?ピアさん、もう来たんですか?」
「あ~、その……まぁ、暇だったので」
「あちゃ~……。ピアさんが予定よりも早く来てしまうとは……完全に誤算でしたねぇ……」
「ん?俺が早く来てはいけなかったのか?」
「えぇ、まぁ……ごらんの通りでして」
美鈴が紅魔館の方へと振り返った。中からは忙しそうな足音がたくさん聞こえてくる。どうやら屋敷の中だけではなく、庭の方でも準備がされているようだった。
「あぁ、なるほど。それは悪いことをしたな」
「いえいえ!むしろピアさんが来るだけで、こんな大袈裟なことしなくてもと思ってたばかりで……。どうします?入ります?」
「いや、あえて待つ」
「いいんですか?」
美鈴が少し申し訳なさそうに聞いてきた。ピアは全く気にしていないと、首を横に振った。
「どうせすぐに終わるだろうよ。あのレミィのことだ。ちょちょいとやってくれるんじゃないかな?」
「そう……ですね。お嬢様、昨日はどうやら興奮しすぎて眠れなかったようですし」
「んな大袈裟な……まぁ、あいつらしいな」
ピアはパーティーの準備が終わるまで、美鈴と世間話や模擬戦をすることにした。それから数十分後、咲夜が門を開けて外に出てきた。
「美鈴、看板のことなんだけど……。あら、ピア?もう来ていたの?」
「暇つぶしがてら、美鈴と模擬戦をしていた」
「いやぁ……単純な力加減なら、ピアさんには遠く及びませんね……」
「何を言う。美鈴の太極拳を力でねじ伏せるには苦労したぞ?」
「二人とも、模擬戦の話は今はいいから……中に入りなさい」
「はい!」「りょーかい」
二人は咲夜の後に続き、門をくぐった。
「ピア、随分と早く来たのね?霊夢と喧嘩でもしたの?」
「いや、単純にやることがなかったから……暇つぶしがてらで」
「ふぅん……あんまり霊夢に心配をかけてはダメよ?女の子っていうのは、かなりメンタルがデリケートなんだから」
「おや、珍しいな?レミィのメイドなのに、あいつ以外のことも気にかけてやってるんだな」
「今のは、一人の女性として言わせてもらったわ。次は紅魔館のメイド長、十六夜咲夜として言わせてもらうわ」
「ややこしいな……んで、なに?」
「明日から一週間、ウチで働くことになるわけだけど……一応、私とあなたの立場は同格、つまり同期ということになるわ」
「まぁ、そうだろうな」
「何か困ったりわからないこととかあったら、遠慮せずに言ってちょうだい。一からちゃんと説明するから」
「じゃあ、早速だが質問」
「はい、どうぞ」
「お嬢様や妹様があまりにしつこくて、身動きが取れないときはどういたしましょう?」
「諦めなさい」
「嘘だぁ……」
咲夜の現実的すぎる回答に、ピアは本気で肩を落とした。すると咲夜は少しだけ笑った後に訂正した。
「冗談よ。その時は私を呼んでちょうだい。少なくともどちらかは引き離すから、もう片方は自力で何とかなさい」
「了解……。はぁ……本当になんとかならんかな……」
「どうしようもないでしょ?お嬢様も妹様も、あなたのことが好きなのだから……さて、屋敷に入りましょうか」
咲夜は紅魔館の玄関を開けた。
「うわぁ……これはすごい……」
ピアは中の様子を見て、思わず感嘆の声を漏らした。天井から吊るされた“紅魔執事、ピア・デケム”と書かれた看板、レミリアらしさがあふれるド派手な装飾、綺麗に掃除されて塵一つ見えない紅い廊下。
「たかが俺のためにここまでしなくても……」
「されどあなたのために……これがお嬢様の気持ちなのよ。ちゃんと……受け取ってよね?」
「むぅ……わかったよ」
「待っていたわ、ピア!!」
どこからか大声で呼ばれ、ピアは慌てて声の主を探した。
「レミィか!お前……いったいどこ……」
「ピア~!!」
ピアは突然後ろから抱き付かれた。それは間違いなく、声の主そのものだった。
「後ろにいたのかよ……って、お前そろそろ離れろ!!」
「嫌よ!せっかくピアが一週間もいてくれるんだから、一分一秒でも長くあんたを堪能しないともったいないでしょ!!」
「人をものみたいな言い方をするな!あと、あの“紅魔執事”とかいうのをやめろ!なんかいろいろと恥ずかしいだろうが!!」
「駄目、私が名付けたんだから!……フランと相談をしてね」
「フ、フランと……?」
「そういうわけで!……咲夜、ピアを部屋に案内してちょうだい。それと、例のモノもね」
「かしこまりました」
「おい、例のモノって……」
「それについては、後で説明するわ。今は私についてきてちょうだい。……美鈴、最後の準備まで仕上げてちょうだい」
「わかりました!妹様のお手伝いをしてきますね!」
美鈴は咲夜の指示に従い、食卓のある部屋へと移動した。咲夜はピアを連れて、紅魔館の一室へと案内していった。
「着いたわ。あなたはこの部屋を使ってちょうだい。それと……」
パチンッ!
咲夜は軽く指を鳴らすと、いつの間にか手に大きめの箱を持っていた。
それを咲夜は黙ってピアに渡した。
「それを着てちょうだい。もちろん明日から一週間だけだから、多少なりとも我慢はしてね」
「……わかった」
「それじゃ、私も最後の仕上げをしてくるわ」
そう言うと、咲夜は再びどこかへ消えた。ピアは部屋に入り、咲夜に渡された箱を開けた。
「こ……これはっ!?」
パーティーの準備がいよいよ完了し、あとはピアを待つのみだった。
「ふふっ……ピア、私の華麗なる贈り物に、喜んでくれたかしら?」
「大丈夫だよ、お姉様!あの優しいお姉ちゃんに仕立ててもらったんだもん。きっと喜んでくれるよ!!」
「そうね。まったく、この私以上に紅い人間がいるとはね……ピアのことを随分と知っているようだったけど、今度屋敷に招いてみようかしら?」
「それは名案ですわね。きっとお嬢様も知らないピア様を、よりよく知ることが出来るかもしれませんね」
「私の知らない……ピア……。ふっ……ふふふふふ……」
「レミィ、鼻血が出てるわよ?」
「はっ!?べ、べちゅに変なことなんか、考えてにゃいんだからっ!!」
「お姉様、変なの~。はい、ティッシュ」
「皆さん、ピアさんが来ましたよ!」
美鈴の言葉を聞き、一同は静まり返った。やがてゆっくりと扉が開き、ピアが中に入ってきた。
「あら、なかなか似合うじゃない?」
「お兄様、かっこいい~!」
「ふふっ……やっぱりあなたはそういうのがお似合いね、ピア」
「だいぶ印象が変わるわね。ピア、日頃のあなたからは想像できないわ」
「いやぁ、さすがはピアさんっ!かっこいいですよ!」
「先輩、素敵です!!」
みんながほめ言葉を贈る中、ピアは少しだけ不満そうに叫んだ。
「だからって、こんな堅苦しい服装はないだろうがぁ―!!」
ピアが来ていたのは執事服だった。サイズはぴったりだったが、ピアには息苦しそうだった。
「俺はこういう格好は好きじゃないんだけどなぁ……首は締まるし、服にはすぐにしわが出来るし、おまけに動きにくいことこのうえない……」
「でも、私はそういうピアが好きなのよ。……ほら、立ってないで座ったら?」
「あいよ」
レミリアに言われ、ピアはテーブルの前に並べられた椅子に座った。ちょうどレミリアとフランに挟まれる形になった。
「それじゃあ……ピアの執事就任を祝い、ここに乾杯するわ……乾杯!!」
「「「かんぱーい!!」」」
「パチェよ……俺はなぜこうなったし……」
「諦めなさい、ピア」
「あはは……先輩、ファイトです」
ピアの諦め半分の呟きを、パチュリーとこぁは苦笑いで返した。ピアはもう一度ため息をついた。
「さぁ、ピア。ジャンジャン食べてよね!遠慮なんてする必要はないから!!」
「はい、お兄様!あ~ん……」
フランはフォークに刺した肉を、ピアの前まで持ってきた。ピアはフランに言われるまま口を開け、肉を食べた。
「美味しい?」
「うん、美味しい」
「えへへ……実はそれ、私の食べかけなんだぁ♪」
「ぐふぉあっ!!」
フランのまさかのカミングアウトに、ピアは思わずむせ返った。それ聞いたレミリアが慌てた様子で
「……!ほら、ピア!!私からもこれを食べさせてあげるわ!!」
と、フランと同じように料理を持ってきた。
「ほら……あ~ん……」
「お、おう……」
一度落ち着いたピアは、レミリアに差し出された料理を食べた。しばらく味を堪能した後、ピアは美味い、とつぶやいた。
「なかなかいけるな、美味い!」
「そ、そう?よかった……」
「ピア。その料理、レミィが作ったのよ」
「ん?そうなのか?」
「ちょっとパチェ、なんでそこで言うのよ!私が言おうと思ったのにぃ~!!」
「でも、美味しかったぞ。また今度作ってくれよ」
「~~~~!!」
ピアの普通の褒め言葉に、レミリアは顔を赤くした。それでもやっぱりうれしいのか、小さい声でありがとう、と言った。
「……始まっているわね」
「みたいですね……」
その様子をずっと見ていた咲夜と美鈴は、お互いに目を合わせた。
「さすがはピアといったところかしらね……。人の心を惹きつける力は、彼の最大の武器かしらね」
「ピアさんには敵いませんね。力だけじゃなくて……その……精神的にも」
「えぇ……やっぱり……」
「そうですねぇ……やっぱり……」
そして二人は同時に呟いた。
「ピアにはお嬢様がお似合いね」「ピアさんと妹様は相性がいいですね」
二人の間に、一瞬だけ沈黙が流れた。その後、二人は横目でお互いを見合った。
「あら、美鈴?あなた……お嬢様とピアは合わないとでも言いたいのかしら?」
「いえいえ。単純に妹様とのやり取りの方が楽しそうだなと、そう思っただけですよ?」
「あらあら……それを言うなら、ピアの一言一言に動揺しては照れるお嬢様も、なかなか素敵なものよ?」
「兄に尽くす妹ほど、可愛いものはないですって。咲夜さん、どうしちゃったんですかぁ~?」
「ほんと……美鈴もどうしちゃったのかしらねぇ~……?」
「うふふふふふ……」「あははははは……」
やがて二人の間に小さな火花が散り始めた。その二人を横で見ていたこぁは、ぽかんと口を開けていた。
「はわわ……先輩、ご愁傷様です……」
いろいろと思惑が交差する中、歓迎食事会はなんとか終わりを迎えた。
食事を終えて咲夜が洗い物をしていると、ピアが手伝いをするために現れた。
「咲、手伝うぜ」
「あら、ピア。ありがとう」
ピアも加わり、洗い物は一気にペースが上がった。
「ようやくあなたが執事になってくれたわね。しばらくの間は、私は呼ばれないかしら?」
「勘弁してくれ。ことあるごとに地上と地下を行ったり来たりしてちゃあ、俺の身が持たねぇよ。咲もある程度は助けてくれよ?」
「もちろん。お嬢様のためにも、あなたを全面的にサポートさせてもらうわ。わからないことがあったら、遠慮しないでね?」
咲夜は笑顔だったが、制服が息苦しいピアは終始、憂鬱のままだった。
「そんな顔をしないの。これでお嬢様の悲願の一つが叶ったわけだから、あなたは決意してくれたわ。私もうれしいのよ?」
「いやいや……一週間だけだぞ?……ん?“悲願の一つ”ってどういうことだ?」
「どういうもこういうも……いずれあなたには、我がスカーレット家に婿入りしてもらうんだから、それの準備も……」
「しないしないしない!婿入りなんてとんでもない!!執事になっただけじゃ満足してくれないのかよ……」
「もちろんよ。お嬢様ですから。ピアは……そのうち誰かと結婚とか、そういうのは考えているのかしら?」
「アウト・オブ・眼中。そもそも視野にすら入らないな」
ピアは洗い物を終えてタオルで手を拭くと、さっさと出ていった。そのまま自分の部屋に戻ろうとしたが、珍しく咲夜が後を追いかけてきた。
「待って」
「……なんだよ?」
「ピアはお嬢様のことを……どう思っているのかしら?」
「どうって……別に普通だぜ?ちょっとわがままなところはあるが、家族思いの……」
「……違うわ」
「え?」
ピアは咲夜の顔を見た。咲夜の表情は、これまでにないほどに真剣な顔つきをしていた。
「そういう世間的な意見は求めていないわ。私が求めているのは……一人の男性としての答えよ」
「咲……?」
「この際だから言っておくわ。私も……あなたのことが好きよ」
「……!?おま、何を言って……」
「冗談に聞こえるのかしら?だとしたら、あなたは本当に滑稽よね」
「……本気か?それではレミィが……」
「そうね。お嬢様の存在の有無以前として、私はあなたのことが好き。紅魔館のメイド長としてではなく、十六夜咲夜という……一人の女性として」
「咲!!いい加減に……」
「あなたが人に好かれまいとしようとしていることはお見通し……そういうのは、もう見飽きたわ」
「咲……!!」
咲夜は自分の胸に手を当てた。まっすぐピアを見据えると、静かに呟いた。
「この思いは本物よ。私もあなたが好きなのよ……。本当に……どうしようもないくらいに……」
「…………」
「ふふっ……。もしかしたら……お嬢様よりも私の方が嬉しかったのかもね……あなたがこうして、ここに来てくれたことが……」
「咲……」
「……ごめんなさい。私としたことが、私情を挟むような真似を……」
「さ、咲っ!!」
「今のは……忘れてちょうだい」
咲夜は踵を返して歩き出した。ピアは咲夜の後ろ姿を見送るだけで、追いかけることが出来なかった。ピアは小さく歯ぎしりをすると、自分の部屋に戻るべく歩き出した。ピアの足音が遠くなると、咲夜はその場で足を止めた。窓の外からはどこまでも紅い月が照らし出していた。
「……そう、忘れてちょうだい……。これは……主に背いて恋に溺れた、愚かなメイドの小さな戯言……。私の恋は、叶うはずがない……。ピア……必ずやお嬢様を幸せにしてあげてください……。どうか……私の恋の分まで……」
咲夜は自分の部屋に戻った。そのままベッドの上に転がると、自分の顔に冷たいものを感じた。目から次々にあふれてくるそれは、止まる勢いを知らない。咲夜はそのまま小さく泣き始めた。
「(私が思いを寄せる彼は……いずれはあの人のものになってしまう……。どんな言葉をかけられるのだろう……どんな表情を見せてくれるのだろう……。期待に胸が膨らむあの人とは裏腹に、私の心は重かった……。思いを秘めたまま、あくまで友人であろうとしていれば、いつかは伝えなければならない日が来るとは思っていた。多分、明日もまたあの人は……私に今夜あったことを話すのだろう……。いつもと変わらぬあの笑顔で……)」
咲夜はすすり泣くように体を震わせていた。気丈に振舞い続ける完全で瀟洒な従者は、そこにはいなかった。
「(あぁ……わかっていながら、なぜ……なぜ私は最後の最後で……。察してくれることはないとわかっていながら……気づいてくれることはないと知りながら……私はなんて愚かな従者だろう……。主が思いを寄せる相手を好きになってしまうなんて……従者失格だわ……。いつか来るこの日のために、何度も練習したというのに……いざ伝えようとすると、何もかもがわからなくなってしまう……。実態は……私が想像していたものよりも……遥かに胸が……心が痛かった……!あの人の幸せが私の幸せだなんて……いまさら言ったところで説得力が無さすぎる……。あぁ……せめて……時を戻してしまえたら……)」
ガチャッ!!
「……っ!?」
扉が開く音がして咲夜が顔を上げると、そこには扉にもたれかかって咲夜を見ているピアがいた。
「ピア……!違うの……これは……」
「もういいんだ、咲。俺が悪かった……」
「ピア……」
「……なんなら今日だけ一緒に寝てやる。それでお前の気が済むなら……な」
「……えぇ。今日だけ……お願い……。それで、すべて終わるから……」
ピアは黙って頷くと、咲夜と同じベッドで寝た。咲夜がそれで満足したのかはピアにはわからなかったが、今のピアにできることといえばこれくらいしかなかった。紅い月夜は二人を照らす。その赤い糸の終着点は誰にもわからない。赤い糸の代わりに、ピアは咲夜の手を握ってあげた。
ついに咲夜さんがデレました!
従者として儚い恋模様…
ではまた次回