東方魔郷談   作:Walther58

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後日談… Ex-7 ~紅魔の執事と瀟洒な従者~

 ここは紅魔館。レミリアが住むこの館で今、大がかりなパーティーの準備が進められていた。その準備の様子を眺めていたレミリアは、小さく笑っていた。

「クックックックック……」

 最初は小さかったレミリアの笑い声は、次第に大きさを増していった。

「クックックックック……アッハハハハ……」

 そしてレミリアの笑い声は最大にまで大きくなった。

 

「あーっはっはっはっはっは!はーっはっはっはっはっは!!」

「レミィ、さっきから何を笑っているのかしら?それと、この無駄に規模のでかい準備は、いったい何をするつもりなのかしら?」

 

 隣で見ていたパチュリーは、若干遠い目でレミリアを見ていた。レミリアはパチュリーの発言の意味がわからないと言わんばかりに、声を張り上げた。

「パチェ!これが笑わずにいられるとでも!?今日から一週間の間……ピアが私の、いえ!私たちのものになるのよ!?それを聞いて笑わずにいられるもんですか!!」

 

「たったの一週間じゃない。そんなに大騒ぎするようなことでは……」

「するのよ!ただでさえ、この紅魔館に長居しないピアが!あのピアが一週間もここにいてくれるのよ?なんでパチェは嬉しくないのよ!?」

「いや……一応、嬉しいけど……。私なんかよりも、あなたの方がうれしいんじゃないかしら?」

「ふぇ!?」

 

 パチュリーの指摘に、レミリアは思わず声を出した。図星だと悟られないように、必死に言葉を探した。

「べ……別にそんな嬉しくなんか……!ピアがここに来るのは当然のこと!!いえ、私の執事として、当たり前のことよ!!嬉しいとかそんなんじゃにゃいんだからね!!」

「はいはい、ツンデレごちそうさまです。わかったわから、早く準備を進めましょう。妹様も、咲夜の手伝いをしているみたいだし」

 

 パチュリーがそう言って指をさした方を見ると、咲夜と一緒にテーブルにお皿を並べるフランの姿があった。

「まぁね。今日のことは、フランにも話しているのよ。まったく、ピアには感謝してもしきれないわね」

「そういうことなら、彼が紅魔館へ本を返しに来たのも、もしかしたら……ある意味、運命だったかもね」

「……!さすがはパチェ……きっとそのとおりね」

 

「運命はあなたの専売特許でしょ、レミィ?……もうすぐ時間ね、準備を急がせましょうか」

「そうね。……咲夜!もっとペースを上げてちょうだい!ピアの到着までに、必ず間に合わせるのよ!!」

「はっ!かしこまりました!!」

 

 咲夜はレミリアの命令に忠実に従い、妖精メイドたちにテキパキと指示を出した。ピア・デケム歓迎会は、着々と進められていった。

 

 

 一方、博麗神社ではピアが紅魔館へ一週間働くということなので、霊夢が見送りに出ていた。

「……ピアと一週間も会えないなんて……」

「そんな悲しい顔をすんなって。たった一週間じゃねぇか」

「でも……ここ最近、ピアと一緒にいる時間が短くなってる気がするぅ……」

 霊夢は少しだけふてくされた。ピアは頭を掻きながらやれやれ、と呟いた。

 

「あぁ……そっか。わかったよ……!帰ってきたら、当分は外出を控えることにするよ」

「本当!?」

「あぁ、本当だ。ちゃんと約束するよ」

 

「約束……守ってよね?」

「おや?俺が嘘をついたことがあるとでも?」

「それは……ないけど……」

「じゃあ心配すんなよ。……まったく、霊夢は霊夢で可愛いなぁ……はいはい」

 

 ピアはそう言うと、ニヒルな笑みを浮かべて霊夢の頬をつついた。霊夢は少しだけ照れながらも、頬を膨らませてそっぽを向いた。

「もう……いいもん、知らない。ばぁか、ばぁか、ばぁか!」

「あっはっは!やっぱり霊夢はそうじゃないとな!!」

 ふてる霊夢を見て、ピアは大笑いをした。しかし、霊夢はふっ、と何かを思い出したようにピアに訊ねた。

「それより、ピア」

「ん?」

 

 霊夢は少しだけムッ、となってピアの顔を覗き込んだ。

「ピアって……あのアベルって子のこと……どう思ってるの?」

「は、はぁ!?何を言い出すんだ!!」

「どうなのよ?あの子……ピアのことすごく心配してたし、面倒見もよくて、優しいし……」

「な、何を言ってんだよ、お前!?」

 

「ピア、本当はあの子のこと……好きなんじゃないの?」

「バ、バカを言え!!あんな奴、好きでも何でもねぇよ!むしろ大っ嫌いだっつーの!!」

「でも……背もちっちゃくて、ちょっと天然でドジっぽいし……おまけに可愛いし……」

「可愛くねぇよ!俺に言わせりゃ、お前の方がよっぽど可愛い……」

「え?」

「あ」

 

 ピアは口を滑らせたような顔になり、次第に顔を赤らめていった。霊夢もまた、どんどん顔が赤くなっていく。

「ねぇ、ちょっと……今の……」

「あ、うぇ……えっと……あの……うな、ぶべらばぁー!!」

 

 ピアは言葉にならない言葉を吐きながら、大慌てで飛んで行ってしまった。

「ピア……」

 霊夢はピアの名前を呟くと、小さくほほ笑んでから神社の中へ戻っていった。

 

 博麗神社を出たピアは、紅魔館に着いた。しかし、いつもと違う紅魔館の雰囲気に、ピアは開いた口がふさがらなかった。

「なんだ……こりゃ……?」

 

 紅魔館にはこれからパーティーでもするかのような装飾が、大量に飾られていた。門の前にも、“紅魔執事歓迎会”と書かれた看板が立っていた。

「……美鈴に聞こう」

 ピアは門の前で、看板の位置をどこにしようかと悩んでいる美鈴に近づいた。

 

「よう、美鈴」

「ありゃりゃ!?ピアさん、もう来たんですか?」

「あ~、その……まぁ、暇だったので」

「あちゃ~……。ピアさんが予定よりも早く来てしまうとは……完全に誤算でしたねぇ……」

「ん?俺が早く来てはいけなかったのか?」

「えぇ、まぁ……ごらんの通りでして」

 

 美鈴が紅魔館の方へと振り返った。中からは忙しそうな足音がたくさん聞こえてくる。どうやら屋敷の中だけではなく、庭の方でも準備がされているようだった。

「あぁ、なるほど。それは悪いことをしたな」

「いえいえ!むしろピアさんが来るだけで、こんな大袈裟なことしなくてもと思ってたばかりで……。どうします?入ります?」

「いや、あえて待つ」

「いいんですか?」

 

 美鈴が少し申し訳なさそうに聞いてきた。ピアは全く気にしていないと、首を横に振った。

「どうせすぐに終わるだろうよ。あのレミィのことだ。ちょちょいとやってくれるんじゃないかな?」

「そう……ですね。お嬢様、昨日はどうやら興奮しすぎて眠れなかったようですし」

「んな大袈裟な……まぁ、あいつらしいな」

 

 ピアはパーティーの準備が終わるまで、美鈴と世間話や模擬戦をすることにした。それから数十分後、咲夜が門を開けて外に出てきた。

「美鈴、看板のことなんだけど……。あら、ピア?もう来ていたの?」

「暇つぶしがてら、美鈴と模擬戦をしていた」

「いやぁ……単純な力加減なら、ピアさんには遠く及びませんね……」

「何を言う。美鈴の太極拳を力でねじ伏せるには苦労したぞ?」

「二人とも、模擬戦の話は今はいいから……中に入りなさい」

「はい!」「りょーかい」

 二人は咲夜の後に続き、門をくぐった。

 

「ピア、随分と早く来たのね?霊夢と喧嘩でもしたの?」 

「いや、単純にやることがなかったから……暇つぶしがてらで」

「ふぅん……あんまり霊夢に心配をかけてはダメよ?女の子っていうのは、かなりメンタルがデリケートなんだから」

「おや、珍しいな?レミィのメイドなのに、あいつ以外のことも気にかけてやってるんだな」

 

「今のは、一人の女性として言わせてもらったわ。次は紅魔館のメイド長、十六夜咲夜として言わせてもらうわ」

「ややこしいな……んで、なに?」

「明日から一週間、ウチで働くことになるわけだけど……一応、私とあなたの立場は同格、つまり同期ということになるわ」

「まぁ、そうだろうな」

「何か困ったりわからないこととかあったら、遠慮せずに言ってちょうだい。一からちゃんと説明するから」

 

「じゃあ、早速だが質問」

「はい、どうぞ」

「お嬢様や妹様があまりにしつこくて、身動きが取れないときはどういたしましょう?」

「諦めなさい」

「嘘だぁ……」

 

 咲夜の現実的すぎる回答に、ピアは本気で肩を落とした。すると咲夜は少しだけ笑った後に訂正した。

「冗談よ。その時は私を呼んでちょうだい。少なくともどちらかは引き離すから、もう片方は自力で何とかなさい」

「了解……。はぁ……本当になんとかならんかな……」

「どうしようもないでしょ?お嬢様も妹様も、あなたのことが好きなのだから……さて、屋敷に入りましょうか」

 咲夜は紅魔館の玄関を開けた。

「うわぁ……これはすごい……」

 

 ピアは中の様子を見て、思わず感嘆の声を漏らした。天井から吊るされた“紅魔執事、ピア・デケム”と書かれた看板、レミリアらしさがあふれるド派手な装飾、綺麗に掃除されて塵一つ見えない紅い廊下。

「たかが俺のためにここまでしなくても……」

「されどあなたのために……これがお嬢様の気持ちなのよ。ちゃんと……受け取ってよね?」

「むぅ……わかったよ」

「待っていたわ、ピア!!」

 どこからか大声で呼ばれ、ピアは慌てて声の主を探した。

 

「レミィか!お前……いったいどこ……」

「ピア~!!」

 ピアは突然後ろから抱き付かれた。それは間違いなく、声の主そのものだった。

 

「後ろにいたのかよ……って、お前そろそろ離れろ!!」

「嫌よ!せっかくピアが一週間もいてくれるんだから、一分一秒でも長くあんたを堪能しないともったいないでしょ!!」

「人をものみたいな言い方をするな!あと、あの“紅魔執事”とかいうのをやめろ!なんかいろいろと恥ずかしいだろうが!!」

「駄目、私が名付けたんだから!……フランと相談をしてね」

「フ、フランと……?」

 

「そういうわけで!……咲夜、ピアを部屋に案内してちょうだい。それと、例のモノもね」

「かしこまりました」

「おい、例のモノって……」

「それについては、後で説明するわ。今は私についてきてちょうだい。……美鈴、最後の準備まで仕上げてちょうだい」

「わかりました!妹様のお手伝いをしてきますね!」

 

 美鈴は咲夜の指示に従い、食卓のある部屋へと移動した。咲夜はピアを連れて、紅魔館の一室へと案内していった。

「着いたわ。あなたはこの部屋を使ってちょうだい。それと……」

 パチンッ!

 咲夜は軽く指を鳴らすと、いつの間にか手に大きめの箱を持っていた。

それを咲夜は黙ってピアに渡した。

 

「それを着てちょうだい。もちろん明日から一週間だけだから、多少なりとも我慢はしてね」

「……わかった」

「それじゃ、私も最後の仕上げをしてくるわ」

 

 そう言うと、咲夜は再びどこかへ消えた。ピアは部屋に入り、咲夜に渡された箱を開けた。

「こ……これはっ!?」

 

 パーティーの準備がいよいよ完了し、あとはピアを待つのみだった。

「ふふっ……ピア、私の華麗なる贈り物に、喜んでくれたかしら?」

「大丈夫だよ、お姉様!あの優しいお姉ちゃんに仕立ててもらったんだもん。きっと喜んでくれるよ!!」

 

「そうね。まったく、この私以上に紅い人間がいるとはね……ピアのことを随分と知っているようだったけど、今度屋敷に招いてみようかしら?」

「それは名案ですわね。きっとお嬢様も知らないピア様を、よりよく知ることが出来るかもしれませんね」

「私の知らない……ピア……。ふっ……ふふふふふ……」

「レミィ、鼻血が出てるわよ?」

 

「はっ!?べ、べちゅに変なことなんか、考えてにゃいんだからっ!!」

「お姉様、変なの~。はい、ティッシュ」

「皆さん、ピアさんが来ましたよ!」

 

 美鈴の言葉を聞き、一同は静まり返った。やがてゆっくりと扉が開き、ピアが中に入ってきた。

「あら、なかなか似合うじゃない?」

「お兄様、かっこいい~!」

「ふふっ……やっぱりあなたはそういうのがお似合いね、ピア」

「だいぶ印象が変わるわね。ピア、日頃のあなたからは想像できないわ」

「いやぁ、さすがはピアさんっ!かっこいいですよ!」

「先輩、素敵です!!」

 みんながほめ言葉を贈る中、ピアは少しだけ不満そうに叫んだ。

 

「だからって、こんな堅苦しい服装はないだろうがぁ―!!」

 ピアが来ていたのは執事服だった。サイズはぴったりだったが、ピアには息苦しそうだった。

「俺はこういう格好は好きじゃないんだけどなぁ……首は締まるし、服にはすぐにしわが出来るし、おまけに動きにくいことこのうえない……」

「でも、私はそういうピアが好きなのよ。……ほら、立ってないで座ったら?」

「あいよ」

 

 レミリアに言われ、ピアはテーブルの前に並べられた椅子に座った。ちょうどレミリアとフランに挟まれる形になった。

「それじゃあ……ピアの執事就任を祝い、ここに乾杯するわ……乾杯!!」

「「「かんぱーい!!」」」

「パチェよ……俺はなぜこうなったし……」

「諦めなさい、ピア」

「あはは……先輩、ファイトです」

 

 ピアの諦め半分の呟きを、パチュリーとこぁは苦笑いで返した。ピアはもう一度ため息をついた。

「さぁ、ピア。ジャンジャン食べてよね!遠慮なんてする必要はないから!!」

「はい、お兄様!あ~ん……」

 フランはフォークに刺した肉を、ピアの前まで持ってきた。ピアはフランに言われるまま口を開け、肉を食べた。

「美味しい?」

「うん、美味しい」

「えへへ……実はそれ、私の食べかけなんだぁ♪」

「ぐふぉあっ!!」

 

 フランのまさかのカミングアウトに、ピアは思わずむせ返った。それ聞いたレミリアが慌てた様子で

「……!ほら、ピア!!私からもこれを食べさせてあげるわ!!」

 と、フランと同じように料理を持ってきた。

「ほら……あ~ん……」

「お、おう……」

 一度落ち着いたピアは、レミリアに差し出された料理を食べた。しばらく味を堪能した後、ピアは美味い、とつぶやいた。

「なかなかいけるな、美味い!」

「そ、そう?よかった……」

 

「ピア。その料理、レミィが作ったのよ」

「ん?そうなのか?」

「ちょっとパチェ、なんでそこで言うのよ!私が言おうと思ったのにぃ~!!」

「でも、美味しかったぞ。また今度作ってくれよ」

「~~~~!!」

 

 ピアの普通の褒め言葉に、レミリアは顔を赤くした。それでもやっぱりうれしいのか、小さい声でありがとう、と言った。

「……始まっているわね」

「みたいですね……」

 

 その様子をずっと見ていた咲夜と美鈴は、お互いに目を合わせた。

「さすがはピアといったところかしらね……。人の心を惹きつける力は、彼の最大の武器かしらね」

「ピアさんには敵いませんね。力だけじゃなくて……その……精神的にも」

「えぇ……やっぱり……」

「そうですねぇ……やっぱり……」

 そして二人は同時に呟いた。

 

「ピアにはお嬢様がお似合いね」「ピアさんと妹様は相性がいいですね」

 二人の間に、一瞬だけ沈黙が流れた。その後、二人は横目でお互いを見合った。

「あら、美鈴?あなた……お嬢様とピアは合わないとでも言いたいのかしら?」

「いえいえ。単純に妹様とのやり取りの方が楽しそうだなと、そう思っただけですよ?」

「あらあら……それを言うなら、ピアの一言一言に動揺しては照れるお嬢様も、なかなか素敵なものよ?」

 

「兄に尽くす妹ほど、可愛いものはないですって。咲夜さん、どうしちゃったんですかぁ~?」

「ほんと……美鈴もどうしちゃったのかしらねぇ~……?」

「うふふふふふ……」「あははははは……」

やがて二人の間に小さな火花が散り始めた。その二人を横で見ていたこぁは、ぽかんと口を開けていた。

「はわわ……先輩、ご愁傷様です……」

 いろいろと思惑が交差する中、歓迎食事会はなんとか終わりを迎えた。

 

 食事を終えて咲夜が洗い物をしていると、ピアが手伝いをするために現れた。

「咲、手伝うぜ」

「あら、ピア。ありがとう」

 ピアも加わり、洗い物は一気にペースが上がった。

 

「ようやくあなたが執事になってくれたわね。しばらくの間は、私は呼ばれないかしら?」

「勘弁してくれ。ことあるごとに地上と地下を行ったり来たりしてちゃあ、俺の身が持たねぇよ。咲もある程度は助けてくれよ?」

「もちろん。お嬢様のためにも、あなたを全面的にサポートさせてもらうわ。わからないことがあったら、遠慮しないでね?」

 

 咲夜は笑顔だったが、制服が息苦しいピアは終始、憂鬱のままだった。

「そんな顔をしないの。これでお嬢様の悲願の一つが叶ったわけだから、あなたは決意してくれたわ。私もうれしいのよ?」

「いやいや……一週間だけだぞ?……ん?“悲願の一つ”ってどういうことだ?」

 

「どういうもこういうも……いずれあなたには、我がスカーレット家に婿入りしてもらうんだから、それの準備も……」

「しないしないしない!婿入りなんてとんでもない!!執事になっただけじゃ満足してくれないのかよ……」

「もちろんよ。お嬢様ですから。ピアは……そのうち誰かと結婚とか、そういうのは考えているのかしら?」

「アウト・オブ・眼中。そもそも視野にすら入らないな」

 

 ピアは洗い物を終えてタオルで手を拭くと、さっさと出ていった。そのまま自分の部屋に戻ろうとしたが、珍しく咲夜が後を追いかけてきた。

「待って」

「……なんだよ?」

「ピアはお嬢様のことを……どう思っているのかしら?」

「どうって……別に普通だぜ?ちょっとわがままなところはあるが、家族思いの……」

「……違うわ」

「え?」

 

 ピアは咲夜の顔を見た。咲夜の表情は、これまでにないほどに真剣な顔つきをしていた。

「そういう世間的な意見は求めていないわ。私が求めているのは……一人の男性としての答えよ」

「咲……?」

 

「この際だから言っておくわ。私も……あなたのことが好きよ」

「……!?おま、何を言って……」

「冗談に聞こえるのかしら?だとしたら、あなたは本当に滑稽よね」

「……本気か?それではレミィが……」

 

「そうね。お嬢様の存在の有無以前として、私はあなたのことが好き。紅魔館のメイド長としてではなく、十六夜咲夜という……一人の女性として」

「咲!!いい加減に……」

「あなたが人に好かれまいとしようとしていることはお見通し……そういうのは、もう見飽きたわ」

「咲……!!」

 

 咲夜は自分の胸に手を当てた。まっすぐピアを見据えると、静かに呟いた。

「この思いは本物よ。私もあなたが好きなのよ……。本当に……どうしようもないくらいに……」

「…………」

 

「ふふっ……。もしかしたら……お嬢様よりも私の方が嬉しかったのかもね……あなたがこうして、ここに来てくれたことが……」

「咲……」

「……ごめんなさい。私としたことが、私情を挟むような真似を……」

「さ、咲っ!!」

「今のは……忘れてちょうだい」

 

 咲夜は踵を返して歩き出した。ピアは咲夜の後ろ姿を見送るだけで、追いかけることが出来なかった。ピアは小さく歯ぎしりをすると、自分の部屋に戻るべく歩き出した。ピアの足音が遠くなると、咲夜はその場で足を止めた。窓の外からはどこまでも紅い月が照らし出していた。

「……そう、忘れてちょうだい……。これは……主に背いて恋に溺れた、愚かなメイドの小さな戯言……。私の恋は、叶うはずがない……。ピア……必ずやお嬢様を幸せにしてあげてください……。どうか……私の恋の分まで……」

 

 咲夜は自分の部屋に戻った。そのままベッドの上に転がると、自分の顔に冷たいものを感じた。目から次々にあふれてくるそれは、止まる勢いを知らない。咲夜はそのまま小さく泣き始めた。

「(私が思いを寄せる彼は……いずれはあの人のものになってしまう……。どんな言葉をかけられるのだろう……どんな表情を見せてくれるのだろう……。期待に胸が膨らむあの人とは裏腹に、私の心は重かった……。思いを秘めたまま、あくまで友人であろうとしていれば、いつかは伝えなければならない日が来るとは思っていた。多分、明日もまたあの人は……私に今夜あったことを話すのだろう……。いつもと変わらぬあの笑顔で……)」

 

 咲夜はすすり泣くように体を震わせていた。気丈に振舞い続ける完全で瀟洒な従者は、そこにはいなかった。

「(あぁ……わかっていながら、なぜ……なぜ私は最後の最後で……。察してくれることはないとわかっていながら……気づいてくれることはないと知りながら……私はなんて愚かな従者だろう……。主が思いを寄せる相手を好きになってしまうなんて……従者失格だわ……。いつか来るこの日のために、何度も練習したというのに……いざ伝えようとすると、何もかもがわからなくなってしまう……。実態は……私が想像していたものよりも……遥かに胸が……心が痛かった……!あの人の幸せが私の幸せだなんて……いまさら言ったところで説得力が無さすぎる……。あぁ……せめて……時を戻してしまえたら……)」

 ガチャッ!!

「……っ!?」

 

 扉が開く音がして咲夜が顔を上げると、そこには扉にもたれかかって咲夜を見ているピアがいた。

「ピア……!違うの……これは……」

「もういいんだ、咲。俺が悪かった……」

「ピア……」

「……なんなら今日だけ一緒に寝てやる。それでお前の気が済むなら……な」

「……えぇ。今日だけ……お願い……。それで、すべて終わるから……」

 

 ピアは黙って頷くと、咲夜と同じベッドで寝た。咲夜がそれで満足したのかはピアにはわからなかったが、今のピアにできることといえばこれくらいしかなかった。紅い月夜は二人を照らす。その赤い糸の終着点は誰にもわからない。赤い糸の代わりに、ピアは咲夜の手を握ってあげた。

 




ついに咲夜さんがデレました!
従者として儚い恋模様…
ではまた次回
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