Ex-8どうぞ!
ピアが執事に就任して、一日目の紅魔館の朝。夜明けと同時に起床し、門の前で柔軟体操をしている美鈴の元へピアが訊ねた。
「おはよう、美鈴」
「あ、おはようございます!……あら?制服はどうしたんですか?」
「あんなの着てられねぇよ……。それより美鈴、どうだ?目覚ましに一本」
「お?いいですねぇ。それでは……お手合わせ願います!」
ピアと美鈴は目覚まし代わりに軽く組み手を始めた。“軽く”といっても、両者の動きは寝起きとは思えないほどに俊敏だった。
「よっと!ほい、ほい、てぇやあぁ!!」
「おっと……せいっ!ていっ!おりゃぁ!!」
パシッ、パシッ、パシッ。
拳と拳を打ち合う音だけが、響き渡っていた。二人がしばらく打ち合っていると、咲夜が朝食を持って中から出てきた。
「おはよう、二人とも。……朝早くから元気ね」
「あっ、咲夜さん!おはようございます」
「咲……おはよう」
「えぇ、おはよう」
「……?どうしたんですか?なんだか二人とも、少しぎこちないですよ?」
「それはない」「それはないわ」
「……そうですか?なら、いいんですけど……」
「美鈴、あなたに朝食を持ってきたの。多分、今日は魔理沙が来るような気がするから、食べながら見張ってちょうだい」
「了解です!」
咲夜から朝食を受け取った美鈴は、その場に座り込んで食べ始めた。その後、咲夜はピアとともに紅魔館の中へと戻っていった。
「咲……昨日のことは……」
「あれは夢だったのよ、ピア」
「は?でも、昨日はおm」
「夢……なのよ」
咲夜はピアの顔を見ずに、歩くペースを上げた。これ以上は踏み込んではいけない。今のピアでも、それだけははっきりとわかった。
「……それじゃあメイド長、仕事をください」
「なら、お嬢様を起こしに行ってくれないかしら?私は妖精メイドたちと一緒に、朝食を作っているわ」
「了解だ」
ピアは咲夜と別れて、レミリアの部屋に向かった。咲夜はピアが廊下の曲がり角を曲がるまで見送った後、自分の仕事をするために移動した。
レミリアの部屋にたどり着いたピアは、部屋を軽くノックした。
「レミィ……じゃないや。お嬢様、朝食の準備が整いました」
ピアはそう言って扉に手をかけようとしたが、逆に中から扉が開いた。
「あら、おはよう。さっそく執事としての務めを果たしているみたいね」
「まぁ、そうだな。さぁ、食堂へ参りましょう……お嬢様」
「ふふっ……お嬢様、ね。いい気分だわぁ……ピアが執事になってくれて、本当に嬉しいわ」
「お褒めにあずかり、光栄の極み……。参りましょうか、お嬢様」
「えぇ、お願いするわ」
ピアはレミリアの手を取ると、そのままゆっくり歩きだした。そして、しばらく歩いていると、一つの部屋の前に来たところでレミリアが止めた。
「ピア」
「はい、何でしょう?」
「フランのことも……起こしてあげないのかしら?」
「おっと、申し訳ありません。……ていうか、フランお嬢様のお部屋を移動なされたのですか?」
「その通りよ。さぁ、声をかけてあげなさい」
レミリアに言われて、ピアは一度レミリアの手を離して扉をノックした。
「フランお嬢様。朝食の準備が整いました」
しかし、扉の中からは返事が返ってこなかった。ピアは小さく首をかしげると、もう一度扉をノックした。
「フランお嬢様?フラン?おぉーい。……返事がねぇな」
「ならば、中に入って起こしなさい」
「了解。……フラン、起きてるのか?入るぞぉー」
ピアは扉に手をかけて、ノブをひねった。部屋の中へ入るが、中には誰もいなかった。
「ん?誰もいない……」
「にゃぁ~♪」
「おぉうぇっ!?」
ピアが部屋の中へ一歩入ると、猫耳に猫のしっぽ、おまけに猫柄のパジャマを着たフランが現れた。フランは手を猫の手のように丸めると、満面の笑みで言った。
「お兄様ぁ~、フランだにゃん♪」
「な、ななな何をしてらっしゃるのでしょうか、フランお嬢様?」
「猫の真似~」
「それはわかりましたから……あの、やめていただけませんかね?」
「ん~……お兄様がいつも通りの話し方をしてくれるならねぇ~」
「いや、俺は執事ですし……」
「にゃん♪」
「さぁ、フラン。朝ごはんだから食べに行こう」
「はぁ~い」
ピアはフランに丸め込まれると、そのままフランの手を引いて部屋を出た。フランのパジャマ姿を見たレミリアは、あきれ顔になった。
「フラン……そのパジャマはどうしたのかしら?」
「あの紅いお姉さんにもらったの~」
「おい、ちょっと待てフラン。紅いお姉さんって……もしかしてフランたちとさほど背丈が変わらない女のことか?」
「うん、そうだよ!」
「あのロリババアぁっ!!今度会ったら、出合い頭にぶっ殺してやる!!」」
声を荒げるピアに、レミリアは冷静にツッコミを入れた。
「ピア、口を慎みなさい。ここは紅魔館で、ここの主は私よ?」
「……かしこまりました、お嬢様」
「さて、食堂に向かいましょう。みんなが待っているでしょうし」
「わ~い、ご飯だぁ~!」
「(アベル……絶対に許さねぇからな……!!)」
ピアは心の中でアベルに悪態をつくと、レミリアとフランと一緒に食堂へ向かった。
食事を終えて、ピアは咲夜の洗い物の手伝いを終えた後、紅魔館の掃除を任された。ピアが廊下を掃除していると、妖精メイドたちが三人ほど近寄ってきた。
「あ、あの!お掃除、代わりますよ!」
「ん?あぁ……大丈夫だよ。気遣い、感謝するよ」
「そんな……ピア様の御手を煩わせるまでもありませんよ!」
「そうです!雑用なら、私たちに任せてください!」
妖精メイドたちが、ピアに少しでも楽をしてもらおうと仕事を買って出てくれた。しかし、ピアはそれを丁寧に断った。
「ありがとう。でも、大丈夫だ。これは俺がメイド長から請け負った仕事だからな。それに……咲夜や、君たち妖精メイドたちばかりに仕事をさせて、執事だけお嬢様のお傍に……なんていうのは、少しひいきされているような気がして、我慢ならないんだ。これは俺にやらせてくれ」
「ピアさん……」
「あ、そうだ。どうせなら手伝ってくれないか?みんなでやれば、早く終わるだろうしな」
「了解です!」「わかりました!」「頑張ります!」
妖精メイドたちはピアの指示に従い、テキパキと役割分担をした。あとで咲夜も合流し、みんなで掃除をしたため思いのほか早く終わった。
「みんな、助かったよ。おかげで予想より早く終われたよ」
「紅魔の執事の手伝い、ご苦労様。あとのことはお願いね」
「はい!」「了解しました!」「お任せください!」
妖精メイドたちはそれぞれ返事をして、持ち場に戻っていった。
「さて……今日はご苦労様。お嬢様も、きっとお喜びになるわ」
「まだまだ。むしろこれからだからな。しっかり働かせてもらうとしますか!」
~二日目~
「ふわぁ……もう昼か……。今日はパチェのところにでも行こうかな」
ピアは魔法の勉強のために、大図書館へ向かった。ピアが大図書館に入ると、パチュリーは本を読んでいた。
「よっす、パチュリー。勉強を教えてもらいに来たぞ」
「あら、いらっしゃい。執事の仕事はどうしたの?」
「とりあえず言われる前に全部終わらせたぜ。だからしばらくは暇なんだよ。とりあえず、いつも通り勉強を教えてくれないか?」
「いいわ。今は一文字でも文字を読めるようにならないとね」
「うぐっ……。“あいうえお”ぐらいは読めるようになってやるよ」
「あ、そうだわ。あなたの世界の人間が、あなたの世界の魔道書を持ってきてくれたのよ。おかげで研究がはかどって、助かっているわ」
「……安心しろ、パチュリー。そいつは後で、俺が絶対にぶっ殺しておいてやる」
「なんで?……まぁ、いいけど。とりあえず座りなさい。今日はホムンクルス誕生について、いろいろと教えてあげるわね」
「よろしく頼む」
こうしてピアは、パチュリーに読み方を教えてもらいながら魔道書を読んだ。まずは文字の勉強から始めて、たまに練習としてピア一人で読んだりもしたが、まったくと言っていいほどに読めなかった。しかし、文字を覚え始めてからは、少しづつ読めるようになっていった。
「これは……“人は生きるために、生き物を殺すことを決めた。その血肉を喰らい、人は数日生き延びた。さらに人は生き物を殺し、その血肉を喰った。そして人は”……ん?えっと……“三日”?」
「残念。“五日”よ。三と五は微妙に似ているわね。魔道書が読めないあなたには、少し見づらいかもね」
「だが、“あいうえお”は読めるようになったぜ。数字はこれから読めるようにする」
「ふふっ……期待しているわ。……ところで」
「うん?」
パチュリーは別の魔道書を探しに、一度席を立った。本を探しながらしばらく考えたのち、ピアに訊ねた。
「あなた……咲夜のことをフッたんですって?」
「うおぉい!?なんだその言い方は?」
「違うの?大好きな男性にフラれて……咲夜、可哀そう……」
「おい、やめろ!なんか俺が悪者みたいじゃないか!?」
「悪者でしょうね。早くレミィと結ばれないから」
「ぐぅ……」
「それに、あなたは悪魔……悪者扱いは慣れているでしょ?普段のあなたなら、この程度のことは気にも留めないのではないかしら?」
「……ちぇ、回りくどい言い方はやめろっての。確かに昔の俺なら気にしないかもな。でもな……一応だが、俺だって幻想郷に来てからは変わったと思うぜ?それに、お前が言いたいこともいまいちわからん」
「たしかにあなた変わったわね。……そうね、私が言いたいこと……」
パチュリーはしばらく考える素振りを見せた。しかし、その様子からは考えるまでもなく、すでに言葉は頭に浮かんでいるようだった。
「ピア……早くレミィと結婚しなさい。そしてついでに子供も作っちゃいなさい。私が言いたいのはそれだけよ……あ、妹様もありね」
「結局そこかよ……。はぁ……どうしてどいつもこいつも、そういうことしか考えないのかな……」
「そういうことしか考えないくらいに、あなたのことを愛しているのよ」
パチュリーは一冊の本を持ってきた。その本の表紙は、いかにも愛について語る的要素を含んでいた。
「……?この本は……?」
「レミィがいつもこれを読んでいるのよ。……あなたと二人で、幸せになるためにね」
「おぉう……」
「ピア。あなたが人の愛が怖いのは十分わかるわ。でも、かといってその人の好意を無碍にし続けたら、かえってその人を傷つけるだけよ?」
「俺にフラれて傷つく程度なら、まだマシな方だろ?」
「……強情ね。まぁ……いいわ。今日はここまでにしましょうか。なんとなくだけど、そろそろレミィから呼び出しがある気がするの」
「わかったぜ。俺もそろそろ戻ろうかな」
ピアがそう言って席を立とうとした、その時だった。
「ピア」
パチュリーに呼び止められ、ピアは振り向いた。
「ん?どした?」
「……人にとって、恋というものは、今後の人生にも大きく影響されるのよ」
「まぁ、そうだろうな」
「あなたにとっては、痛くもかゆくもないこともかもしれない……。でも、あなたにフラれて傷ついた女性の心は、どうなるのかしらね?」
「…………」
「……ふっ、冗談よ。さぁ、レミィのところに行ってあげなさい。執事」
「……かしこまりました、パチュリー様」
ピアは執事らしく頭を下げると、そのままさっさと図書館を出ていった。その後姿を見送ったパチュリーは、小さな声で愚痴った。
「……まったく。人がせっかくはっきりと教えてあげたっていうのに……本当に優柔不断ね」
パチュリーはピアのために持ってきた本をもう一度、元の場所へとしまった。
「……L'amour gratuit est offert à vous.」
パチュリーは自分が先ほど棚にしまった本の題名を読み上げた。その後、パチュリーは長い長いため息をついた。
「“無償の愛をあなたに捧げる”、か。レミィ……あなたが彼と結ばれるには、当分時間がかかりそうね」
パチュリーは大図書館の天井を見上げた。ちょうど自分の真上を飛んで行く白黒の魔法使いを見つけると、ニヤリと笑った。
~三日目~
ピアが執事に就任して三日目。レミリアの命令により、今日はフランの遊び相手をすることになった。フランから、“夜になってから遊ぼう”と言われたので、ピアは夜になるのを待ってからフランの部屋に向かった。
「わぁ~い!お兄様、何して遊ぶ?」
「そうだな……弾幕ごっこでもするか?」
「えー。弾幕ごっこはつまんないっ!」
「そ……そうか。じゃあ、何をして遊ぶんだ?」
「え~っと……お医者さんごっこと、学校ごっこと、お嫁さんごっこ!」
「お前は俺に何をさせる気だ?」
「えへへ……内緒♪」
「…………」
「それじゃあね!お医者さんごっこからしよっ!!」
そういうとフランは、何の唐突もなくいきなり服を脱ぎ始めた。
「だぁーっ!?ちょっと待てぇフラン!聴診器とか何とかいろいろいるだろう!?」
「え?咲夜がもう用意してくれてるよ?じゃあ、フランが患者さん役ー!」
「おいっ!?逆じゃないの?逆じゃないのか、普通!?」
「フランはお兄様に診察してほしいのっ!……ねぇ、お医者さん。フラン……具合が悪いの……」
「待て、その前に目隠しを……」
「お医者さんが目隠しをしたら、わからないでしょ?」
「チクショーめぇー!!」
結局ピアは観念して、フランとお医者さんごっこをすることになった。ただし、ピアが医者役で。
「そ、それでは……あの……し、診察しますので……その……」
「服……脱ぐの?」
「き、聞くんじゃない!!言う方が相当恥ずかしいってのに……なんでお医者さんごっこなんか……」
「咲夜に聞いたら、これがいいって教えてくれたの!」
「もう許さぁーんっ!咲夜ぁー!覚えとけ、クソめがぁーっ!!」
ピアがその場にいない咲夜に向かって吠えている間にも、フランは服を脱ぎ始めていた。
「えっ、ちょま、ほんとに脱ぐのか?」
「だって……“ごっこ”だし」
「誰もリアリティは求めてないから……って、その手を止めろっ!」
「えぇ~……」
「……あぁもう、わかった!俺も腹をくくる!フランがやりたいところまでやれっ!!」
「はぁ~い♪」
「(霊夢……俺、死んでもいいかな……?……物理的に……)」
ピアはすべてを諦めた。フランが服をまくり上げて、ピアが聴診器をフランの胸にあてる。
「(……死にたい……冗談とか抜きで死にたい……!!)」
「お兄様……エッチ♪」
「頼むから喋らないでください……。今、メンタルが崩壊しそうなんで……」
「えへへ~。聴診器が冷たくて気持ちいい……」
「うあぁ……」
「でも、お兄様はあったかいもんね♪」
「フォローになってません……」
「お医者さん、どうですか?」
「おぉう……な、何の異常もアリマセン……」
「いえ、フランは病気なんです……」
「えっ!?」
ピアは思わずフランの顔を見た。フランはピアと目が合うと、にっこりと笑った。
「えへへ……恋の病に♪フランね……心臓が熱くなってくるの……」
「俺は心臓が潰れそうです……」
フランが笑顔になるにつれて、ピアの顔は青くなっていった。
「なんだよ……恋の病って……。誰が、誰に?」
「フランが……お兄様に♪」
「あぁ、ありがとう……。ちなみに……どこで習った?」
「咲夜」
「……あぁ、わかった。当分、咲夜には何も話すことがないな……」
「ねぇねぇ、お兄様!次は学校ごっこしよ?」
「学校……俺が先生役……」
「フランが先生役で、お兄様が生徒役!」
「いや、だから逆だろ普通!?」
「いいからいいから!ほら、生徒さんは席に着かないと!」
「くそう……主導権を持ってかれてる……。何とか逆転しないと……」
ピアはフランが持ってきた椅子に座った。フランはパチュリーから借りたのか、魔道書のような本を持ってきた。
「えっ?教科書って、それ?」
「違うよ?教科書はさすがに用意できなかったから、雰囲気だけでもって思って……ダメかな?」
「いや、ダメじゃない。確かに教科書といえば、これくらいの厚さがちょうどいいから俺としては嬉しいよ」
「本当?えへへ……それじゃあ、授業をするよー!」
「おぉー」
ピアはフランと学校ごっこを始めた。なぜ逆なのかはあえて気にしないことにして、ピアはフランから授業をうけた。
「(学校か……そういえば、自分の世界でも通ったことがなかったな……。あったけど、自分で壊しちまったし……)」
「こら、ピア・デケム君!先生の話をちゃんと聞いてますか!?」
「あ、はい。聞いてます」
「じゃあ、さっきフランが読んだところ、もう一回読んでくれるかな?」
「(待て、そもそも読んですらなかっただろう!?)」
ピアは慌てて本のページをめくり、それっぽいところを適当に読み上げた。
「え、え~っと……“神は祈りを与えた。ただ一人の人間のために、世界を犠牲にする覚悟を持っていた。しかし人間は、自分は神に相応しくないとして、神に世界の存在の意味を伝えるとともに、神の前からその姿を消した……”」
「お兄様……全然違うんだけど……」
「えぇっ!?ちょっと待てよ!絶対にこのあたりだっただろう!?」
「違うよ。もうちょっと前の方」
「あっ、やべぇ……」
「もう、ピア君は本当にダメダメな生徒ですね!そんなダメな生徒さんには……」
「な、何が始まるんでしょう……?」
「先生からの個人レッスンをして、あ・げ・る♪」
「やああぁぁぁめろおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
ピアは目にも止まらない速さで席を立ち、ものすごい勢いで壁まで後ずさりした。
「えぇ~、これからが楽しみなのにぃ~!」
「誰得だよ!?俺はもう損する気しかしないよ!!これスルーしたら、俺の今後の人生に何かしらの天誅が下されるよ!!」
「ぶぅ~……つまんないなぁ~……」
「あ、いや……じゃあ、今日はフランと一緒に寝てあげる……じゃあ、だめか?」
「抱いてくれるの?」
「それは意味が違うとりあえず、今日はもう寝るかな。さすがに俺も眠い……というか、疲れた」
ピアは即答で訂正しながらベッドに向かおうとしたが、フランが裾を引っ張ってそれを止めた。
「え?何を言ってるの?」
フランがよくわからないことを言ったので、ピアがゆっくりと振り返った。その直後、ものすごい力でフランにベッドまで吹っ飛ばされた。
「いってぇ……フラン、何を……?」
「まだ……お嫁さんごっこが残ってるでしょ?お兄様♪」
「え?……あ、いや、あれはまた後日ってことで……」
「だぁ~めぇ~♪今するのぉ。いっぱい、いっぱい……お嫁さんごっこで遊ぼぉ、お兄様ぁ~♪」
「いや、フランっ!落ち着けって!!これはなんか俺が知ってるお嫁さんごっこと違っ……待て、やめ……ギャアアァァァァァァァッ!!」
~四日目~
一夜が明けて、ピアはレミリアに呼び出しを受けたので、紅魔館の謁見の間に来ていた。
「よ……よう……」
「ピア……どうしたの?なんか血を抜かれたような顔をしてるわよ?」
「魂を抜かれました……」
「死ぬでしょ?普通……」
「あぁ……燃え尽きたぜ……真っ白にな……」
「……フランと何があったかは聞かないでおくわ……。それより、ピア」
「ん、なんだ?」
レミリアはピアに向き直ると、自信たっぷりの表情でピアに言った。
「今日はあなたの『因果律を狂わせる程度の能力』の限界に挑戦しましょ!」
「はぁ?なんでだよ?」
「私たちは三年前、あなたの因果操作に何度も助けられた……。でも、ピアはまだ『因果律を狂わせる程度の能力』を、うまく扱えていないそうね?」
「まぁ……たしかに。まだ若干だが、無意識なところがある」
「そこでよ。私とパチェも協力するから、因果操作を完璧に使いこなしましょう!そうすれば、ピアに敵はいないわ!!」
「敵の有無はどうでもいいんだが……俺は正直、この力は今のままでいいと思うんだ」
「え?なんでよ?」
レミリアは驚いた顔をした。ピアはレミリアにちゃんと説明をすることにした。
「なんでよ?因果律は幻想郷において最強を誇る能力よ?おまけにピアには能力無効もあるのに……」
「あのな、レミリア。俺は今のままでいいと思うんだ。因果律だって、本当に使えるかどうかもわからない。もしかしたら、ほんのちょっとした思い込みだけで、能力が発動するかもしれないし……とにかく危ないから、俺はやめとくぜ」
「むぅ……随分ともったいない決断をするのね」
「もったいないとかじゃないんだって。それに……」
ピアは膝をついて、そっとレミリアの手を取った。
「大切なお嬢様を……能力ごときで消したくはないですからね」
「あっ……!もうっ、馬鹿……」
レミリアは顔を赤くして目を逸らした。それから、顔は赤いままで、横目でピアを見た。
「だったら……どうするのよ?いざって時に能力が使えなかったら……」
「この能力は、むしろそれくらいがちょうどいいのさ。それに……その“いざ”って時が来ないように、何かしら対策をした方がよっぽど安全だぜ?」
「もう……強情なんだから……」
「……パチェにも同じことを言われたぜ」
ピアは小さく呟いた。ピア自身はあまり強情なつもりはなかったのだが、周りからこうも立て続けに強情だと言われては、さすがのピアも少しだけ気にし始めた。レミリアに咲夜の仕事を手伝いに行くことを伝えると、ピアは謁見の間を出た。
「……そういえば!これ以上フランに変なことを吹き込まないように、咲夜を早く説得しねぇと!!」
もう一つの目的を最優先する方向で、ピアは咲夜を探し回った。ピアは紅魔館の庭にて、咲夜を見つけた。
「よう、咲夜。庭の手入れか……手伝うぜ?」
「あら、ピア。ありがとう、助かるわ」
咲夜は快く快諾し、ピアは咲夜の手伝いを始めた。
「……ところでさ」
「何かしら?」
「お前……フランに変なことを教えただろ?」
ピタッ、と咲夜の手が止まった。ピアはこれを機に、一気に畳みかけた。
「最近、フランの言動がおかしいんだよなぁ~?どっかの誰かさんが教えたようなセリフを言うようになったし、どこぞのメイドが教えたことをやるようになったし、どこぞの十六夜さんちの咲夜さんのせいで、大胆になりすぎてつらいんですけど?」
「あら~……それは大変……」
「お前のせいだよっ!!余計なことをフランに教えるんじゃないっ!誤解を招くだけだし、なによりフランが間違った認識をするだろう!?」
「え~っと……何のことかしら?」
「しらばっくれるんじゃねぇよー!!ごっこ遊びとか余計なことを……」
「あら?それは私じゃないわよ?」
「……はぁ?だってフランが“咲夜から”って……」
「私が教えたのはセリフだけ。たしか……パチュリー様がそういうことを教えていたような……」
「今度はパチェかよ!?」
まさかの衝撃事実に、ピアは思わず声をあげた。
「屋敷には咲……図書館にはパチェ……。周りは敵だらけじゃないか!まったく嫌になっちまうぜ……」
「まぁまぁ、敵だなんて言わないでちょうだい。私たちはお嬢様や妹様のためを思って……ね?」
「“ね?”じゃないんだけど……。はぁ……勘弁してくれよ……」
「ピア……本気で嫌かしら?」
「ん?まぁ、そこそこにな。俺は悪魔だから……」
「もう人間でもいいんじゃない?」
「……ん~。まぁ、最初はそう考えたけどな……やっぱり俺は魔王であってこそだからな」
「それは、あなたの世界での話。この幻想郷では、非常識よ?」
「……ははっ、言われちまったな。だが、常識の枠を外れた俺には、関係のない話だな」
「あら……そう論破してくるか……。ああ言えばこう言うわね」
「そうでもないとどうするんだ?俺はどこかに骨を埋めるとか、そういうことはまだ考えてない……というか考えたくない」
「あなたは……」
咲夜は少しだけ真剣な顔つきになった。
「あなたは……幸せになる気はないのかしら?」
「幸せになっちゃいけないのさ。なんせ……俺は魔王だ」
「魔王には魔王なりの幸せがあるんじゃないかしら?例えば……世界征服とか……」
「咲。今の俺は天人と同じだと思っていい。それくらいに、俺は何も欲しくないのさ」
「無欲な悪魔って、聞いたことがないわよ。悪魔は己の欲望のままに生きる生き物だって、パチュリー様がおっしゃっていたけど……」
「それが普通の悪魔だ。俺は特別……じゃなくて、異常なだけだ」
「異常……ね」
咲夜はピアの言葉に小さくため息をついた。
「……ピア、美鈴が寝ていないかを見てきてちょうだい。寝ていたら……そうね、一発グーでお願いね」
「了解した」
ピアは咲夜の命令に従い、門に向かった。その後ろ姿を見送った後、もう一度ため息をついた。
「……あなたにとって、私たちはどういう風に映っているのかしらね?お嬢様も、妹様も……あなたにとってはただの子供なのかしら……?ピア……私は、あなたが見ているその先を、必ず見つけてみせるわ」
~五日目~
五日目の朝。ピアはレミリアに用意された自室のベッドから起き上がると、大きく背伸びをした。
「くぅ~っ!今日を入れて残り三日か……。よし、気合入れていくか!」
部屋のカーテンを開けて、ピアが朝日を拝もうとした時だった。廊下の方からどたどたと足音が聞こえて、一人の妖精メイドが勢いよく部屋に入ってきた。
「ピ、ピアさん!大変です!襲撃ですぅ!!」
「襲撃!?こんな朝早くから……どこのどいつだ!!」
「あの、今パチュリー様が図書館で迎撃に当たっているので、至急、援護に向かうようにとお嬢様からのお達しが!!」
「……こんな朝早くから、あいつは元気がいいな……。よし、俺も迎撃するとしよう」
「お願いします!」
そして妖精メイドは慌ただしく出ていった。ピアはテキパキと服を着替えると、ネクタイまできちんと締めてから部屋を出ていった。
「私の本を返しなさいっ!金符、『メタルファティーグ』!!」
「そうはいかないぜっ!!黒魔、『イベントホライズン』!!」
図書館では魔理沙とパチュリーが弾幕勝負をしていた。朝早くだというのに、お互いに一歩も引かない勝負をしていた。
「こんな朝っぱらから、よくも本を盗りに来ようと思ったわね!」
「さすがに朝からの襲撃なら、パチュリーも寝起きだろうと思ったんでね。都合がよかっただけだぜ!(本当は寝ているところをこっそりのつもりだったんだが……誤算だったぜ。パチュリーの奴……いつの間に早起きになってたんだ?)」
「あなたが何を考えているかは知らないけど……今の私は絶好調なの」
「絶好調だと!?」
「受けなさい!木&火符、『フォレストブレイズ』!!」
「うわっとと!!」
「まだまだっ!火&金符、『セントエルモピラー』!!続いてっ!月&木符、『サテライトヒマワリ』!!」
「うわあぁぁぁっ!!パチュリーが連続で詠唱できるだとっ!一体何が起こっているんだ!?」
「ふっふっふ……実は三年前からずっと、博麗神社から野菜の仕送りが来ててね……おかげで喘息もしっかり改善されたわっ!!」
「喘息を持ってないパチュリーなんて、ただの鬼畜魔女だぁ!!」
「そして、援軍も間に合ったみたいだし」
「何!?」
パチュリーの言葉に反応して、魔理沙が図書館の入り口の方へ目をやった。
「さぁて……迷惑な侵入者はどこのどいつだ?」
「おいおいおい、嘘だろ?なんでピアがこんなところに……」
「一週間だけ、紅魔館の執事をする約束をしていたのよ。そして執事である以上、彼はレミィの支配下にある……だからレミィが援軍としてよこしてくれたみたいね」
「こんなのあんまりだあぁぁぁ!!」
「ん?なんだ、魔理沙か。お茶でも出してやろうか?」
「えっ?本当か!?」
「本を借りていかないならな」
「うっ……。でも、ピアにボコボコにされるよりはマシか……。わかったぜ、おとなしく諦めるよ」
「……ふぅ、助かったわ。ありがとう、ピア」
「命令に従ったまで……さて、お茶でも出そう。ついでに魔理沙も、俺と一緒に魔道書を読破しようぜ」
「は?魔道書の読破……?」
「ピア、魔理沙の面倒は私が見るわ。ピアはレミィのところに戻ってちょうだい」
「了解」
ピアはパチュリーに言われて、図書館を出ることにした。その際にこぁとすれ違ったので、二人にお茶を出すように頼んでおいた。
「……いったい何なんだぜ?」
「まぁ、覚えておくことね。紅魔の幼き王(レミリア・スカーレット)に“瀟洒な剣(十六夜咲夜)”と“因果の矛(ピア・デケム)”あり……とね」
「う~む……。こいつはしばらくの間は紅魔館に侵入できないぜ……」
レミリアの呼び出しに応じて、ピアはレミリアの部屋に来ていた。レミリアの許可を得て、ピアは部屋の中に入った。
「お嬢様、お呼びでしょうか?」
「えぇ、呼んだわ。さて、ピア。突然だけど、私を満足させてみなさい」
「……は?満足?」
「ある意味、試験のようなものね。この私を見事満足させることが出来たならば……この私を、あなたの自由にしてもいいわ」
「……はぁ。……それで、何をすればいいんでしょう?」
「それくらい、自分で考えなさい。……さぁ、私を満足させなさい」
「(あぁ、そうか。これが俗にいう無茶振りってやつか……。うわぁ、実際に言われると結構めんどくせぇな……)」
ピアは自分の中の知恵を在るだけ絞ってみた。しかし、“レミリアを満足させる”ものが見当たらなかった。
「う~ん……どうすればいいのやら……。何をすればいいのやら……」
「(ふふふ……考えてる考えてる!ピアが私の為に、無い知恵を絞っているわ!霊夢相手には、一度もしたことがないんでしょうね!)」
「むむむ……自分で考えろと言われてもなぁ……。むぅ……どうすりゃあ……」
「(……それにしても、本当に真剣に考えているわね……。い、今なら……本音を言っても……聞いてくれるわよね……?)」
レミリアは思い切って話してみることにした。
「しょうがないわね……。と、特別に、ピアにヒントを出してあげるわ……」
「本当か?……ふぅ。……それで、一体何をしてほしいんだ?俺の可能な範囲なら、なんでもいいぞ?」
「可能な範囲……それって、どこからどこまで?」
「ん?どこからって……さぁな?その時次第だろう」
「……そう。今日はもういいから、夜になったら……もう一度来てちょうだい」
「……?あぁ、わかった」
最後までレミリアの意図が汲めず、ピアはレミリアの部屋を出ていった。その後ろ姿を見送ったレミリアは、自分の手のひらを見つめた。
「今の私に……彼を手に入れるだけの力があるのか……。試してみましょうか……」
夜になり、ピアはもう一度呼び出されたが、なぜか呼び出された先が外だった。月夜に照らされる中、ピアはレミリアが待つ紅魔館の上空に飛んだ。
「……おう、レミィ。約束通り来たぜ。そんで……お前が俺にしてほしいこととは?」
「逆でしょ?あなたが私を満足させられるか……それを試そうと言っているのよ」
「(今更な気もするなぁ……いや、あえて何も言うまい)」
レミリアは腕を組むと、静かに目を閉じた。
「ピア……私は今まで、あなたは私に仕えるにふさわしい男だと思っていたわ」
「うん?あぁ、そんな気もしたな。諦めたのか?」
「まさか。ただね……これは実は、逆なんじゃないかって思ったのよ」
「えっ……逆?」
レミリアの意外な言葉に、ピアは驚いた。しかし、レミリアはしっかりとした口調で続けた。
「そう、逆。本当は……私の方が、あなたに相応しくなるべきなんじゃないかって……。あなたは霊夢に恩がある。そして、それを返すために霊夢に仕えている。そして、霊夢はあなたを手放す気はない……。つまり、結論から言うと、私がピアを手に入れることは不可能ということになるわ……」
「理屈上、そうなるよな。それでも……諦めるつもりはないか?」
「当たり前よ。私は……あなたのことが好きなのよ」
「……っ!!」
ピアは反射的に剣を抜きかけた。寸でのところで衝動を抑えると、ピアは一度大きく深呼吸をした。
「……で、それを言うためにわざわざ呼び出したのか?それで、俺が頷けば納得するのか?」
「そんな上辺だけのものは欲しくない。私は……真実の愛が欲しいの」
「真実……」
「友達同士の好きじゃない……男と女の、異性同士の好きが欲しいのよ!」
レミリアはグングニルを発動させた。突然のことで、ピアは少しだけ動揺した。
「お、おい!!レミィ、何を……」
「勝負しましょう、ピア。あなたのエッジと……私のグングニルで。敗者は勝者に従う……このルールで戦いましょう」
「……まだ二日も残っているうちに、こんなことをしていいのか?」
「私は負けない。だからこそ今日、挑むのよ」
「……そうかい。わかった……受けて立とう」
誰が見ているとも知れない夜の紅魔館の空。エッジを抜いたピアとグングニルを携えたレミリアが、両者が激しく激突した。
「行くわよ……本気でッ!!」
「了解した。相手になろう」
まずレミリアが突っ込んできた。グングニルを振りかざし、ピアに向かって切りかかってくる。
「てえぇぇぇいっ!!」
ピアはレミリアの渾身の一振りを軽く受け止めた。力程度では、レミリアはピアに勝てるはずもない。
「はああぁぁぁぁっ!!」
レミリアは高速で攻撃を続けた。しかし、ピアには全く通じなかった。
「このっ、このっ、このぉっ!!」
「…………」
「このぉっ……このおぉっ!!」
「…………」
「なんで……なんで勝てないのよぉっ!!」
圧倒的な力の差。レミリアがどう足掻いても超えることが出来ない世界。その壁が今、レミリアの目の前にいる。
「私は……私はぁ……!!」
「もうやめろ、レミィ。お前が俺に……勝てるわけが……」
「勝たなきゃ……ダメなのよ……!だって……私は!!」
「レミィ……」
レミリアは涙を流していた。勝てない悔しさや、伝わらないつらさが、ピアにもよくわかった。だからこそ、ピアはレミリアを優しく抱きしめた。
「私はぁ……あなたに、好きになってほしくて……!私も……あなたが好きだからぁ……!!」
「……すまない。俺は……こんな時、どうすればいいのかわからない。こうならないように、生きてきたからな……。だから、俺にできることをしてやる」
「ピア……」
その日、ピアはレミリアと一緒に寝た。あとで咲夜に事情を説明したが、咲夜はすべてを察してくれたようだった。
~六日目~
レミリアは昨晩のことをピアに謝罪した。レミリア曰く、気持ちが焦って錯乱していた、とのことだった。
「レミィ……」
「いいのよ、ピア。私が……どうかしてたわ。昨日のことは……」
「いや、俺も悪かった。俺自身も、どうしてやればいいのかわからず……申し訳ない」
「ピア……」
「……明日の晩には帰ろうと思う。それくらいがちょうどいいかもな」
「そう……わかったわ。それじゃあ、今日の仕事を与えるわね」
「任せろ」
レミリアは窓の外を指でさした。ピアが覗いてみると、美鈴が庭の花の剪定をしているようだった。
「美鈴か……剪定をしているみたいだな?」
「そ。今日は美鈴の花の剪定の手伝いをメインに仕事してもらうわ。もし終わったら次のことを頼むから、その時までよろしく」
「了解した。ちょいと行ってくる」
ピアはレミリアの命令に従い、美鈴がいる庭に向かった。ピアがいなくなったことを確認すると、レミリアは少しだけ悲しそうな目をした。
「……どうすれば伝わるのかしら……。どうすれば……受け入れてくれるのかしら……」
遠くにいる人物を見つめるようなまなざしで、庭を見た。そこには庭の剪定をしている門番と執事の姿が目に映った。
「ありゃ~……お嬢様とそんなことが……」
「あぁ……もう俺はどうすりゃいいのやら……」
昨晩の出来事を美鈴に話したピアは、大きなため息をついた。
「なぁ、美鈴。俺はあの時なんて答えてやればよかったんだ……?」
「それを女性の私に相談しますか……?」
「他に相手がいないだろうに……。霖之助はこういう話は興味ないだろうし、他にいるとしても……あのクソ狐……」
「ならいっそのこと、その狐さんに相談してもいいんじゃないですか?」
「よくない。奴はリア獣だ」
「なんか字が違うような……あ、でも狐さんだから合ってるのか……」
美鈴は納得しているようだったが、ピアは納得したくないと言わんばかりに嫌な顔をした。
「俺はあいつが嫌いなんだよ。殺してやりたいくらいに大っ嫌いだ」
「う~ん……ですが、狐さんも男ですし、話くらいは聞いてくれるんじゃないんですかね……?」
「聞いたとしても笑い飛ばすさ。あいつも俺のことが大っ嫌いからな」
「でも、“好き”の反対は“無関心”だって聞きましたよ?」
「う……まぁ、そうなんだけど……」
「本当に嫌いなら、そもそも相手にしないと思いますけどね?ですから、一度ちゃんと相談しましょうよ!そうすれば聞いてくれるかもしれませんよ?」
「……あいつに人間性があるんだったらな」
ピアは刹那のことを信用しようともしていなかった。そもそも敵同士であるわけで、信じる理由などこれっぽちもないからだ。
「でも……他に相談が出来そうな人っていますかね?他って言ってもみんな女性ですし……あ、その切った花はこっちにください」
「はいよ。でもよ……あんまり信頼できないんだよ。紫以上に胡散臭いし、なにより妖怪の神だ……あんまり近寄りたくもない……」
「そうですか……」
「まぁ、暇さえあれば会いに行ってやってもいいがな。奴も俺も、お互いに会いたくないからな」
「どうしてそんなに仲が悪くなっちゃったんですか?何か理由でも?」
「理由?そんなものはない」
ピアは剪定した花を、美鈴に手渡した。
「答えは簡単だ。俺が悪魔で、奴が神だからだ。神と悪魔は、昔からいがみ合う者同士なのさ」
「でも、ピアさんって妖怪の山の神様と仲良かったんじゃ……?」
「あ、いや……それはだな……。ほら、あいつらは特別だし……」
「神様に特別も何もないですよ?たしかに上位とか下位とかありそうですけど……それでもやっぱり神様ですし」
「いや、そうなんだがな……。まぁ、待て。落ち着いて話し合おう」
「落ち着いていないのは、ピアさんの方ですよ」
美鈴の言う通りだった。ピアは一度冷静になり、もう一度否定した。
「でもな、美鈴。俺は別に神と仲良くなりたいわけじゃないんだよ。あいつらが勝手に寄って来るんだけなんだよ」
「あはは……まるで“いい迷惑”、と言いたげですね……」
「あぁ……。まぁ……な」
「あ、ピアさん。花の剪定、終わりますよ」
「お?そうか……」
ピアは美鈴とともに屋敷の中へと戻る。
「ピアさん……私たちのことなら、あまり気にしないでください。その……あんまり迷惑でしたら、私たちも……」
「いや、いいんだ。俺が……人間になりきれていないだけだからさ」
ピアはそう言うと、美鈴に笑みを見せた。そして、そのまま自分の部屋に戻ると、ベッドの上に寝転がった。自分に求められるものとは、自分が求めるものとは。それが何なのかを考えているうちに、ピアは睡魔に襲われた。目の前に誰かがいた気がしたが、何も気にせずに寝ることにした。
ピアが神と仲良く出来るのはまだまだ先ですね
ではまた