東方魔郷談   作:Walther58

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ついに後日談も10となりました!
ではEx-10どうぞ!


後日談… Ex-10 ~知らない薬にご用心!!~

 

 太陽の位置が高くなって正午を迎えようとしている頃、ピアは配置薬の補充のために永遠亭に来ていた。鈴仙と顔を合わせ、永琳のところまで案内をしてもらったまではよかったが、薬を待っているところへ輝夜が現れた。

 

「よう、輝夜」

「あんた……よくも生きて帰ってきたわね!まぁ、あんたをブッ飛ばすのは私だから、生きててもらわないと困るんだけどね。……というわけで喰らえっ!!新難題、月のイルメナ……」

「やめろ」

 

 ピアは輝夜の額を指で突いて、軽く注意した。輝夜は額を抑えながらその場にうずくまった。

「……痛い……」

「そんなに強くした覚えはないがな。これに懲りたら、こんな狭い部屋でスペルを撃とうとするな」

「うっさい!!」

 

 輝夜は目についたフラスコを手に取ると、中に液体が入っていることも厭わずに持ち上げた。

「これでも喰らえっ!!」

 ガッシャァーンッ!!

 

 輝夜はピアの後頭部をフラスコで殴った。中の液体は撒きちらされ、ピアにをびしょびしょにした。

「……っ!?いってぇ……!!」

「ふんっ!どうよ?私を馬鹿にするからこうなるのよ!!」

「テメェ……」

 

 ピアは殴られたところを抑えながら輝夜に向かって一言言い放った。

「なにすんだよ!破片が飛び散ったら、お前まで怪我をするだろう!?」

「えっ……?」

 殴られた自分よりも殴った輝夜の方を心配したため、輝夜は思わず驚いた。次第に顔を赤らめはじめると、何かを叫びながら部屋を出ていった。

「……?なんなんだよ、あいつ……」

 ピアは頭をひねっていると、永琳が戻ってきた。液体まみれのピアを見て、永琳は何事かと慌て始めた。

 

「ちょ、何があったの!?」

「いや、何でもない。輝夜にちょいと殴られただけだ」

「そ、そう……。でも、その薬……」

「ん?この液体のことか?」

 

ピアは足元にも飛び散った液体を指さした。永琳は少し考えた後、用意した配置薬をピアに渡した後、一言だけ言った。

「いい、ピア?自分の発言には十分注意すること。自分が何を言ったのか、その都度相手に確認を取ること。いいわね?」

「はぁ?なんでだよ?」

「いいから、よ。理由を言えばそれだけであなたが全力で落ち込むことになるから、あえて言わないわ。とにかく、あなたは自分の言動に注意すること」

「わかったよ。気をつけりゃいいんだろ?なら、俺はもう行くぜ。液体は神社で流すから、風呂は用意しなくても大丈夫だ」

「えぇ、わかったわ……気を付けて」

「ふむ……変な永琳だ」

 

 ピアは永琳の言葉の意味がわからず、最後まで首をかしげるばかりだった。配置薬を受け取り、ピアは永遠亭を出ていった。ピアを見送った永琳は、輝夜が殴るのに使ったであろう、割れたフラスコを見ていた。

「……まずいわね。完成前に浴びたとなると、言葉の認識がずれる可能性があるわね……。もとは地底にいる無意識の妖怪用に作った物だったのだけど……まぁ、結果的にピアに使われたわけだから、大丈夫……よね?」

 

永琳の心配など知らず、ピアはいつも通り博麗神社に戻っていった。配置薬を戸棚の上に置いたあとで、風呂に入った。ピアが風呂から上がると、霊夢が昼食の用意を済ませてお茶を啜っていた。

「あら、ピア。お風呂に入ってたの?」

「あぁ、まぁな。輝夜に変な薬の液体をぶっかけられてな。まったく、どんな効果があるのかもわからんと言うのに」

「大丈夫なの?その薬?もし変な効果があったりしたら……」

「いや、今のところは問題はない。……あ、いただきます」

「はい、召し上がれ」

 

 ピアは昼食のハンバーグを食べた。一通り食べたところで、ピアは一度箸を置いた。

「……うまいっ!さすがは霊夢!!」

「ほ、本当?よかった……」

「いやぁ、やっぱり霊夢が作る飯は美味しいよ。いつまでもずっと、一緒に食べていたいくらいにね

(訳:これだけ美味しいんだ。そりゃ毎日食べていたいくらいにな)」

「えっ……?」

 

 霊夢はピアの言葉にドキッ、とした。しかしピアにとっては、霊夢のその態度の方がおかしかった。

「ん?どうした霊夢?」

「そんな……いつまでもずっと一緒って……馬鹿……」

「(あれ?俺、そんなこと言ったっけ……?)」

「で、でも……ピアがいいっていうなら……別に、生涯ずっと作ってあげても……いいのよ?」

「……ん?あぁ、ありがとう」

「あ、ありがとうって……!ば、馬鹿あぁぁ~っ!!」

 霊夢は顔を真っ赤にすると、バタバタと部屋を出ていった。特に変なことを言った覚えもないピアは、首をかしげることしかできなかった。

「どうしたんだ、霊夢の奴……?まぁいいや。飯を食ったら、魔理沙の家にでも行くか」

 

 ピアは昼食を食べ終えて、博麗神社を出て霧雨魔法店へと飛んで行った。魔法の森の上空を飛び、霧雨魔法店が見えてくると店の前に下りた。ピアは魔法店の扉をノックし、中へと入った。

「おす~。魔理沙、いるか~?」

「おぉ、ピア!待ってたぜ!!」

 

 ピアが中へ入ると、すぐに魔理沙が出てきた。嬉しそうな笑顔を見せる魔理沙に、ピアは店頭に並ぶ品を眺めながら近づいた。

「なんか商品がやたら増えてないか?お前、また霖之助から物をせしめているんじゃないだろうな?」

「そんなわけないだろ。こーりんにはちゃんと頼んでいるんだって!ピアに物を売るから、なんかくれってな。こーりんの奴、すっげぇ驚いていたぜ!」

「そいつぁきっと、お前が物を売ることに驚いているんだよ。普段から魔理沙が物を売るイメージなんて、誰にも想像できないだろうからな」

「失礼なっ!私だってなぁ、やろうと思えばやれるんだよ!こーりんも私のことを馬鹿にしてさ!」

「むしろ心配なんだっつーに。俺がこうして買いに来ているからいいものの、俺以外の客なんて期待できないだろ?」

「うっ……た、たしかに……。霊夢もアリスも来ないし……ピアがいなくなったらどうしよう……」

「大丈夫だ」

 ピアは魔理沙の頭にポン、と手を置くとニッ、と笑った。

 

「安心しろ。俺はここからいなくなるつもりはないよ。魔理沙のために……俺はずっとここにいてやる。

(訳:心配するな。お前が困るようなことはしないから)」

「わ、私のため……!?」

 魔理沙はものすごい勢いで赤面した。

「そ、そんな……“私のため”だなんて……よせやいっ!照れるじゃんかよ、このやろー!!」

「(あれ?俺、“魔理沙のため”だなんて言ったっけ!?……ん~、魔理沙の過大解釈かな?)」

 ピアが頭をひねる中、魔理沙は勝手に暴走していた。

 

「い、いや!ほら、あれだぜ?ピアには霊夢っていう上司がいるじゃないか!上司に黙って告白だなんて、さすがにさ……あの、まぁ、わかるよ?ピアが私に惚れるのも無理ないと思うぜ!なんたって私は……」

「お~い。どうしたんですか~?魔理沙さ~ん?」

「あぁ、いや待て!わかってる。皆まで言うなって!で、でもな?私にも……その……心の準備っていうのが必要で……」

「あ~……今日はこの本をもらっていくわ。金はここに置いとくぞ」

「ピ、ピアは平気かもしれないけどさ……私だってまだ処女だし……。いろいろと、わからないことだって多いし……」

「……俺、もう行くわ。その……じゃあな」

「その……私でよかったら今夜……って、あれ?」

 

 魔理沙が気が付いたその時には、すでにピアはいなかった。カウンターにはお金だけが置かれており、商品の本が一つなくなっていた。

「……ちょ、ピアっ!?どこに行ったんだよぉー!!」

 一人で暴走している魔理沙を放置し、ピアは続いて太陽の畑へと向かった。辺り一面が向日葵に埋め尽くされた花畑の上空を飛んでいると、向日葵に紛れて日傘が見えた。

「あそこか……」

 ピアは日傘に向けて速度を上げた。やがて日傘を差した人物の後ろに着地すると、その人の名前を読んだ。

「おーい、幽香」

「……?あら、ピアじゃない。来てくれたのね」

「まぁな。三年前から、一度もここに来れなかったからな。花、見学してもいいか?」

「えぇ、いいわよ。なら、案内をしてあげるわ」

 

 ピアは幽香の案内により、太陽の畑を案内してもらった。時折、花妖精たちが楽しそうに踊っている様子が見てとれた。幽香に花のことを教えてもらいながら辺りを散策していると、向こう側からメディスンが走ってきた。

「ゆーかぁー!……あ、ピアさんも一緒だー!」

「おぉ、メディスン。元気だったか?」

「はい!ピアさん、会いたかったです!お久しぶりです!!」

「あぁ、久しぶり。……それにしても、幽香もメディスンもすごいよな。お互いに広い花畑を持っていて、しかもそれを一人で管理しているんだからな」

「そうでもないわ。ここまで来るのに、たくさんの花妖精たちを見たでしょ?あの子たちがそれなりに手伝ってくれているから、ここまで育てられるのよ」

「なるほどな。……うん、綺麗な花だな。まるで幽香と同じだ」

「ふふっ、そうかしら?」

 

「あぁ……幽香と同じくらいに綺麗で、魅力的だ。思わず見惚れてしまうぜ。もちろん、幽香も美人だぞ

(訳:花も幽香も同じだよ。つい眺めていたくなるだろうな)」

「あら、うふふ……」

 幽香は小さくほほ笑むと、ピアの隣に並んで立った。日傘で自分の顔を隠しながら、ピアに小さく訊ねた。

「ふふ……口説いているの?」

「そう聞こえるか?」

「不思議と、ね。でも……あなたに口説かれるなら、悪くはないかしら……」

 

「冗談。俺とお前じゃ釣り合わないよ……主に俺の方が」

「そうでもないわよ?私はあなたを気に入っているわけだし……それに、他にもいろんな男に声をかけられたことはあるけど、あなたの時以上に、胸が熱くなることはないわね……」

「ははっ!なんだそりゃ?俺だけ特別扱いするなよ」

「もう存在そのものが特別なのに?」

「魔族なんて、特別でも何でもねぇよ。この幻想郷にも魔界があるんだろうが、おそらく魔族と呼べるような連中はいないだろうな」

「……あぁ、たしかに。そんな連中はいなかったわね……」

「ん?幽香、魔界のことを知っているのか?」

「ちょっとね。昔、縁があっただけよ」

「ふぅん……」

 

 ピアは空を見上げた。上空では、花妖精たちがやはり楽しそうに踊っているだけだった。それでも、ピアは退屈とは一度も思えなかった。

「……さぁて、俺は行くとしようかな」

「そう。もう行くのね……また、いつでもいらっしゃい」

「あぁ。……メディスン、またな」

「はい!ピアさんも、お元気で!」

 幽香とメディスンに別れを告げると、ピアは風を起こさないように翼を広げ、重力のみで空へと飛んだ。ピアを見送った後、幽香はメディスンを連れて花の世話を始めた。

 

 太陽の畑を出たピアは次に地霊殿に向かった。地霊殿に入ってエントランスを歩いていると、お空とお燐がピアに気付いて話しかけてきた。

「おっ!お兄さん、こんにちは!」

「ピアだ!こんにちはーっ!!」

「よう、お燐、お空。ちゃんと仕事はこなしているのか?」

「もちろんだよ!お空もいつも以上に働いてくれるようになったし、それもこれもお兄さんのおかげさ!」

「そうなのか?お空、偉いぞ」

「えへへ~、ピアに褒められたぁ!やったね!!」

 

 お空は無邪気に喜んだ。お空の頭を撫でてあげながら、ピアはお燐に質問をした。

「さて、お燐。さとりはいるか?今日はさとりに会いに来たんだが……」

「さとり様なら、部屋の方で仕事中だよ。まぁ、お兄さんが来たとなれば、きっと会ってくれると思うよ!」

「オッケーだ。なら、さとりの部屋にでも行こうかな……そういえば、こいしは?あいつはいないのか?」

「こいし様?最近は姿を見せてくれるようにはなりましたけど……そういえば、今日はまだ一度も見てないような……」

「あれ?そうなのか?」

「あ、はい。どこかへ出かけるところは見たんだけどねぇ……なんていうか、それっきりだねぇ……」

「う~ん……わかった。帰りにどこかで会ったら、地霊殿に戻るように言っておいてやるよ」

「いやぁ……お兄さん、すみません。本来なら、アタイらが探しに行けばいいんだけど……」

「いいんだよ。俺もついでみたいなもんだ。……さぁてと、さとりに会いに行くか。お燐、お空。仕事、ご苦労さん」

「はぁい!!」

「お兄さん、またね!」

 

 お燐とお空の二人と別れ、ピアは地霊殿の廊下を渡ってさとりの部屋へと向かった。しかし、部屋に着く前に、ピアは廊下でさとりと出会った。

「おっ、さとり。会いに来たぜ」

「あら、ピアさん。いらっしゃいませ」

 お互いに軽くあいさつを済ませたところで、近況報告をした。

 

「どうなんだ?あれから何か、変化はあったか?」

「いえ、こちらは目立った変化はありませんよ。ただ……ピアさんが亡くなられた、あの日はひどかったんですけど……」

「わ、悪かった……。もう死んだりはしないからさ」

「約束ですよ?あの日のこいしも、お燐もお空も悲しんでいたんですから……あと、私も……」

「ん?最後誰だって?」

「な、何でもないですっ!……さて、私はこいしを探しに行かないと……」

「なんだぁ?さとりもこいしを探すところだったのか?」

「えぇ、まぁ……。ピアさんが帰ってきたから、姿を見せるとは思うんですけど……」

「ばぁ~っ!!」

「ひゃっ!!」

「おっと!」

 

突如、こいしがさとりを後ろから突き飛ばし、ピアがそれを受け止めた。さとりは後ろへ振り返り、こいしに注意をした。

「こ、こら、こいし!!危ないでしょ!?」

「えっへへ~。ちょっと驚かしてみたかっただけ~!」

「こいしっ!!」

「わーい!」

 こいしは最後まで楽しそうに笑うと、廊下の角まで走り、そこで曲がって見えなくなった。

 

「もう……こいしったら……」

「さとり、大丈夫か?」

「えっ……?」

 ピアに声をかけられ、さとりはようやく状況を飲み込めた。さとりは今、ピアに抱きしめられている状態にあった。

「えっ……?ちょ、え、あ……!」

「……いや、本当に大丈夫か?」

「あ、はい……。だ……大丈夫です……」

「そうか。……ったく、こいしの奴、いったい何を考えているのやら……」

「こいしの心は、誰にも読めませんからね……」

 

「嫌われることが怖くて、閉ざした瞳……か。だが、いつかはきっと教えてくれるよ。なんてったって、こいしはさとりの妹だからな」

「ですが……こいしにとって、覚り妖怪の能力はトラウマそのもの……私たちは、人に忌み嫌われてしまいますから……」

「俺はさとりのことは好きだぜ?

(訳:俺は嫌いじゃないけどな)」

「ふぇっ!?」

 ピアの突然の一言に、さとりは思わず顔をあげた。しかし、ピアの表情がいつもと変わっていなかったので、すぐに目を逸らした。

 

「か、からかっているんですか!?」

「からかってなんかいないさ。これ、結構本音なんだけどな……」

「ほ、本音……!」

「能力なんて関係ないさ。俺は普通にそう思える。それくらいに、俺はお前のことを……」

「ピアさん……」

 さとりがピアの腰まで腕を伸ばした。ピアは自分の方が抱きしめられていることに気付き、さとりの様子が変なことにも気づいた。

 

「おい、さとり?」

「(……温かい……。ピアさんって、こんなにも温かいんだ……。だから、こんなにも優しくて……きっと、この人の心の中も……)」

「さ、さとり……?どうした?」

「ピアさん。私はいつか、あなたの心を覗いて見せます」

「は、はぁ……そりゃまたなぜ?」

 ピアの質問に、さとりは軽くほほ笑んだ。

 

「答えは簡単。あなたのことを知りたいからですよ。こいしもきっと、同じ思いなのでしょう……私もあなたのことを知りたいと思いました。ピアさん……いつか、あなたの心を知ることが出来たなら……今度はあなたが、私の心を見てくださいね?」

「いや、俺は覚り妖怪じゃないし……直接伝えてもらわないと……な?」

「もちろん、わかっていますよ。その時になったら……私の想いも……」

「……まぁ、平常運転なら問題はないな。俺はそろそろ帰ることにしよう」

「そうですか……わかりました」

 さとりは最後まで笑顔のままだった。しかしピアにとっては、その笑顔が無くしたピアの心を強く締め付けた。

「さとり……お前の想いって……」

「え?」

「いや、何でもない。……じゃあな」

「はい、気を付けて……」

 

 立ち去るピアの後ろ姿を見送りながら、さとりは自分の第三の目に優しく触れた。

「(今、ピアさんに触れて初めて気づいた……。きっとこれは、こいしと同じ気持ち。ピアさんと一緒にいると胸が熱くなって、とっても気持ちよかった……。そっか、私……あの人のこと……好きなんだ……)」

 さとりはようやく自分の気持ちに気付いた。昔の自分には、とても知ることが出来なかった思い。さとりはそれを教えてくれたピアに、心から感謝をした。

 

 地上に出たピアは一度考え事をするため、その場であぐらをかいた。そして腕を組むと、今日話をしてきた女性たちのことを思い出してみた。

「(おかしい……明らかに何かがおかしい……。会話がかみ合っているようで、まるで食い違っている……。幽香やさとりはともかく……霊夢と魔理沙の時は特にひどかったな。まるで俺の言っている言葉が、別の言葉のように聞こえているような……一体いつから……?)」

 

 ピアはここで、過去を振り返ってみる。昨晩の時点までで、言っていることはおかしくなかった。急に周りの反応がおかしくなったのは、永遠亭に行った辺りからだった。

「……ま、まさか!輝夜に殴られたあの薬……!?」

 ピアは、輝夜が自分を殴った時に使ったフラスコの中身を思い出した。完成しているかはわからなかったが、たしかに薬品らしき液体がその中に入っていた。神社に帰ったピアは薬をしっかり洗い流したはずだが、効力が残っていたのだ。

「嘘……だろ……?も、もしかして……?」

「ピアさーん!!」

 

 ピアの脳内で嫌な予感がするなか、ピアを呼ぶ声がした。声の主は、鈴仙だった。

「ピ、ピアさん!?大丈夫ですか!?死相が出てますよ!!」

「いや、鈴仙……多分、俺は死んでると思う……」

「変なことを言わないでください!ほら、これを……」

 鈴仙がピアに見せたのは、小さな丸薬だった。

「丸薬……?これは何だ?」

「これは、ピアさんが浴びてしまった薬の効果を消す力があります!話の前に、これを服用してください!」

 ピアは鈴仙に渡された丸薬を、問答無用で服用させられた。丸薬を飲み込んだピアだったが、何がどう変わったのかはわからなかった。

 

「そりゃ、わかりませんよ。だってこれは、ピアさん以外の人にしか聞こえないようになっていましたから……」

「ど、どういうことだ?」

「えっと……説明させていただきますね。ピアさんが姫様に殴打されて浴びた薬は、相手の脳裏に浮かんだ言葉を、そっくりそのまま喋らせる薬……になるはずだった薬です」

「“はず”だった?じゃあ、やっぱりあの薬は未完成だったのか!?」

「はい……」

 

「……その薬も気になるが、その前に……完成した場合の効果を教えてくれ」

「わかりました。……え~、もし薬が完成した場合ですね、脳裏に浮かんだ言葉を喋らせる……ですから、鬼の前に立ったような状態になるわけです」

「あぁ、なるほど。嘘をつけなくなるわけだ」

「それだけじゃないですよ。思ったこと、感じたことを迷わず言うことになるんですよ。例えば……誰かに何かを頼まれた時、本当は面倒くさいって思うことがありますよね?」

「まぁ、俺もあるかもな」

「そういう時、まず了解する前に“面倒くさい”って、口に出てしまうんです。相手に隠し事が出来ないように……ですね」

「随分と物騒な薬だな……いったい何のために……」

「あの……地底の無意識の妖怪が、“お兄ちゃんの本音を聞きたい!”って言って、師匠に作るように頼みに来た……らしいです」

 

「無意識……こいしか!?あいつが俺にそんな薬を……って、冗談じゃねぇっ!!」

「まぁ、ピアさんならそう言うと思いましたけど……。ちなみに、今回は薬が未完成だったということで、発言の誤認識程度で済みました」

「程度ってレベルか!?俺にとっちゃ大問題だってーの!!……はぁ、もし薬が完成していたら、俺は幻想郷で生きていけなくなる……」

「で、でも……今回は未完成の薬を浴びてしまったので、何とか解毒用の丸薬を作ることが出来たんです。とにかく、これで万事解決ですね」

「まぁ……そうだな。助かった、鈴仙」

「いえいえ。では、私はこれで……」

「あぁ、そうだ。輝夜は?アイツが殴ったんだから、どうなったんだ?」

「姫様なら、師匠が説教中ですよ。多分、今頃は……」

「あ、やっぱりか……。じゃあな。今日は助かった」

「はい、それでは……」

 

 鈴仙は別れを告げると、迷いの竹林の方角へと戻っていった。ひとまず目先の問題が解決したピアは、安心して博麗神社へと帰っていった。日が傾き始めた博麗神社では、霊夢が掃除をしていた。

「おぉーい、霊夢ぅー」

「ピ、ピア!?」

 ピアに呼ばれただけで、霊夢は驚いたような反応をした。

 

「なんだぁ?ちょっと呼んだだけじゃねぇか。そんなに驚くことか?」

「あ、いや、そうじゃなくて……」

「……?まぁいいや。夕飯の準備でもするかな」

「ま、待ってピア!」

 霊夢に呼び止められ、ピアはゆっくりと振り返った。

「なんだ?霊夢?」

「いえ……あの……。ピ、ピア。覚えているかしら?あの日……あんたが、その……あの異変の時、月に突っ込む前に言った言葉……」

「ん……すまん、忘れた」

「えっ……!?」

 

 霊夢はひどく驚いた顔をした。しかしピアは、そんな霊夢の気も知らずに続けた。

「ん~。俺は大抵のこととか、大事なこととかは忘れないんだがな……。あの異変の、月に突っ込むあたりの記憶が曖昧なんだよな。多分、一度死んだことが原因だろうな。でもまぁ、俺が忘れちまうようなことなら、実にどうでもいいことだったんだろうな」

「……!!」

 

 ピアはそのまま夕飯の準備のため、神社の中へと戻っていった。ピアから受けた言葉に霊夢は唇を噛みしめ、小さく震えていた。あの日、ピアに言われた言葉を、霊夢は決して忘れはしなかった。悪魔にとって、禁句であり禁忌でもある言葉。“愛している”という言葉を。

 

 

 





お知らせがあります
機会がある時にピア君の挿絵を集い投稿しようと考えております
ではまた次回
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