ここはいつもの博麗神社。そんな神社に、いつもの魔理沙が現れた。神社で掃除をしていたいつものピアは、いつも通りに魔理沙の相手をした。
「よう、魔理沙。今日は何の用だ?」
「ピア!今すぐ私と弾幕勝負をしろ!!」
「は?何をまた唐突に……」
「いいから勝負しろ!さもなくば……『妖精尽滅光』が神社を丸ごと吹っ飛ばすぜ!!」
「たしかそのスペルは……チルノから聞いたことがある。超鬼畜スペルとか何とか……それは困る。受けて立とう」
「よっしゃ!それなら早速、空に上がれ!」
「わかった」
魔理沙の言う通り、ピアは空に上がった。お互いに準備が整ったところで、魔理沙はスペルカードを取り出した。
「行くぜっ!恋符、『ノンディレクショナルレーザー』!!」
「いきなりレーザーか。そう簡単に当たってたまるかよ」
ピアはレーザーの間をすり抜けるように回避した。弾幕を避けきった先では、魔理沙がすでに次のスペルを発動していた。
「次っ!恋風、『スターライトタイフーン』!!」
魔理沙が発動したスペルはピアも見たことがない弾幕だったので、ピアは少しだけ動揺した。
「うおぉっと!見たことがない弾幕だ!!」
ピアは見慣れないスペルを相手に、回避に徹した。魔理沙のスペルは高威力だが、当たらなければどうということはないので、なおさら回避を続けた。
「まだまだぁっ!恋心、『ダブルスパーク』!!」
魔理沙は再び弾幕を放った。それを回避しつつピアもスペルの用意をした。
「魔理沙!」
「なんだよ!!」
「さっきから恋符のスペルばっかりじゃねぇか。星の魔法はやめたのか?」
「うるさい!とにかく喰らえぇ!!」
「(これは……手加減されている……というわけでいいんだよな?)」
ピアは弾幕の隙間を抜けると、スペルを発動した。
「行くぞ、魔理沙!刃符、『天裂刃』!!」
ピアは刃状の弾幕を放った。ピアの弾幕は魔理沙の弾幕を相殺し、次第に押し返していった。
「やばっ!撃ち負けるっ……!!」
魔理沙は慌てて回避をして、態勢を整える。
「ちくしょー!こうなったら……このスペルに賭けるしかない!!」
「来るか……魔理沙の十八番スペル!」
ピアの予想通り、魔理沙が発動したスペルは
「恋符、『マスタースパーク』!!」
魔理沙自慢のスペル、マスタースパークがピアめがけて放たれた。しかし、ピアは慌てることなく一枚のスペルカードを構えた。
「ならば俺も……滅符、『滅閃光』!!」
ピアもキャリバーを銃形態に変形させ、巨大レーザーを放った。レーザーとレーザー同士がぶつかり、強烈な光を発した。
「うおおおぉぉぉぉぉっ!!届けええぇぇぇぇ!!」
「残念だが……届かんよ!!」
ピアがそういうの同時に、滅閃光がマスタースパークを押し返していった。
「ち、ちくしょー!!私の想いは……届かなかったぜぇーっ!!」
魔理沙は滅閃光の光に飲まれていった。やがて、すっかり黒こげになった魔理沙が、ふらふらとピアの方に飛んできた。
「ま……また負けたぜ……」
「おい、魔理沙。なんなんだ、さっきの縛りプレイは?恋符しか使わないとは、いったいどういうことなんだ?」
「う……うるさいっ!!……少しは察してくれよな……」
「あ?なんだって?」
「な、何でもねぇよ!!」
魔理沙とピアが弾幕勝負をしている間も、霊夢と萃香はお茶を飲んでのんびりしていた。ただ、霊夢の場合はぐうたらと言う言葉が似合いそうなほどに、部屋の中でゴロゴロしていた。
「失礼ね。誰が“ぐうたら”よ!」
「霊夢?誰に向かって言ってるのさ?」
「何でもない……。あ~あ、今日も今日とて暇ねぇ~……」
「んじゃ、私は暇つぶしがてらに……そうだね、裏の畑でも見に行こうかな」
萃香はそう言って立ち上がると、部屋を出て裏へとまわった。萃香がいなくなり、ピアと魔理沙の話し声が聞こえる中で、霊夢が昼寝をしようと思った、その時だった。
「霊夢。あなたは……相変わらずぐうたらしているのね」
「……ギクッ。この声は……」
霊夢が起き上がって声の主を探すと、その人物はそこにいた。お団子のようにピンク色の髪をまとめた頭。右腕に巻かれた包帯に左腕につけられた枷。そして、いかにも説教臭そうな顔に、霊夢は見覚えがあった。
「……何の用なのよ、華扇」
「はぁ……久しぶりに神社に来てみれば、少しは変わっていると思ったのに……」
「変わっているわよ。……ほら、あれとか」
霊夢はそう言って、魔理沙と会話をしているピアを指した。彼女、『茨木華扇』にとって、見知らぬ人間同然のピアは少し異質な存在だった。
「……彼は?」
「華扇、新聞を読んでないの?彼は博麗の巫女の使い、ピア・デケム。またの名を、幻想の英雄よ」
「まさか、月を押し返して幻想郷を救ったという、あの……?」
「その通り。彼のおかげで、神社も信仰を取り戻して、何もかも安泰状態なの。ピアはすごく頼りになるしね」
「ですが、彼に頼りすぎた結果、あなたが没落するようなことがあってはいけません!霊夢、そこに直りなさい!!」
「うわぁ……結局説教はスルーできないのね……」
霊夢が華扇の説教を受け始めると、ピアと魔理沙が二人に気付いた。
「おぉーい、霊夢……って、華扇じゃねぇか!!山から下りてきたのか!?」
「もちろんです!魔理沙もそこに直りなさい!!」
「いやいやちょっと待て。俺を差し置いて話を進めるな」
ピアが慌てて止めに入ったので、華扇はようやく状況を理解した。
「……あら、すみません……。少し熱くなってしまいました……」
「霊夢が何か粗相を起こしたのなら、俺が謝る。霊夢には説教をしてやらないでくれ。彼女には俺から言っておく」
「……まぁ、いいでしょう。わかりました。今日は彼に免じて、ここまでにしておきます」
「ふぅ……助かったわ、ピア」
「ですが!私はしばらく、もう一度この近辺にいるつもりです。前回もそうでしたが、今回も様子を見させていただきますからね!」
「うぇ……わかったわよ……」
霊夢は嫌々了承した。華扇は一度ピアに頭を下げると、博麗神社を去って行った。
「……何だったんだ……あの人は……?」
「あいつは茨木華扇。妖怪の山に住んでいる、仙人だってよ。ん~……でも、本当は鬼なんじゃないかって噂もあるし……結構曖昧な奴だぜ」
「あいつと閻魔が同時に現れた時の絶望感は……想像もしたくないわ……」
「そ、そんなに説教好きなのか?」
「いや、好きなんてレベルじゃない。あれはもはや中毒だ。中毒レベルだ」
「そうか……。あの人はいつもこの神社にいるのか?」
「いつもってわけじゃないわ。たまに見に来るだけ。最近はめっきり来なくなったと思ったら……もう!あいつにだけは会いたくなかったのに……」
「紫とだったらどっちがマシなんだ?」
「萃香の方がマシよ」
「質問の答えになってない……。まぁ、いいか。茨木華扇か……覚えておくか」
ピアはいまだに正体がつかめない仙人、華扇のことを覚えることにした。
博麗神社を出た華扇は、自分の右腕を見ながらピアの右腕を思い出していた。
「(彼……ピア・デケム君かしら?彼の右腕……私と同じように隠されていた。まさか、彼の腕が……?とにかく、彼から目を離してはいけないようですね)」
階段を降りきったところで、華扇は二人組のカップルとすれ違った。
「(……!?)」
華扇はその異様な容赦に驚き、思わず呼び止めてしまった。
「あ、あの!!」
「ん……?あぁ、あんたは仙人の……たしか、茨木華扇殿では?」
「あら?私のことをご存じなのですか?」
「えぇ、一応……俺は雲母刹那。ごらんのとおり、妖怪だ。こっちは……妻だ」
「初めまして、アベルと言います」
「あ、あぁ、どうも……」
「ところで華扇殿?何やら気になることがあるのでは?例えば……博麗の巫女の使いの右腕とか」
「ど、どうしてそれを!?」
「俺は八百万の妖怪の力と、三十五家の陰陽師の血を持つ、いわば妖怪の神……わからないことなどないのだ。先に答えを言っておこう……アレの腕は、あなたが求めている代物ではない」
「そ、そうですか……」
先に答えを聞いた華扇は、少しだけ肩を落とした。そんな華扇を慰めるように、刹那は少しだけ笑った。
「そう落ち込みなさんな。華扇殿はしばらくの間、アレを見張るのであろう?」
「まぁ、そうですが……」
「ならば、頼みたい。アレと博麗の巫女の行く末を、ともに見守っていただきたいのだ。我ら夫婦は、アレと同じ世界の人間……見放すことが出来ん」
「ですが、私たちは神の身……魔族の王である彼とは対極に位置する存在ゆえに、敵意を向けられてしまうのです。ですが、仙人であるあなたなら、あるいは……」
「わ、私に霊夢たちの様子を見てほしいと……?」
「他に頼める者がいない……すまないが、頼んだぞ」
刹那はほぼ強引と言っていいほどの勢いで華扇に任せて、自分たちは博麗神社へと向かった。完全に相手のペースに飲まれていた華扇は、階段を上っていく二人を呆然と見ていることしとかできなかった。
「さぁて、魔理沙が帰ったところで……俺はちょいと命蓮寺に行ってくるよ。萃香、差し入れ用に野菜を用意してくれないか?」
「はいよ~」
「白蓮の所に行くの?帰りはいつごろになりそう?」
「そうだな……日が沈む前には帰って来るよ。夕飯も、こっちで食べるつもりだからな」
「そう……わかったわ。でも……出来るだけ、早めに帰ってきてね?」
「あぁ」
「ピア~。野菜、用意したよ~」
「すまん、助かるぜ」
ピアは萃香から野菜が入った大きめのざるを受け取ると、外へ出ようとした時だった。
「あ、ピア!」
「うん?」
ピアが振り返ると、霊夢にキスをされた。状況がつかめないまま時が流れ、霊夢の方がピアから離れた。
「その……いってらっしゃい」
「お、おぅ。い……行ってくる……」
ピアは終始動揺したまま、ぎこちない動きで向きを変えると空を飛んで行った。見送った霊夢は優しくほほ笑むと、萃香に脇腹を小突かれた。
「ヒュー!ついにいってらっしゃいのチューにまで発展できたねぇ!」
「う……うっさい……。私だって、これくらい……」
「いやいや、夫婦の馴れ初めには欠かせないからねぇ。ねぇ、お二人さん?」
「えっ!?」
萃香が見た方向へ霊夢が視線を移すと、そこにはアベルと刹那の鴛鴦夫婦がいた。
「……み、見てたんですか……?」
「あ、あの……はい。見てました」
「さすがに……いってらっしゃいのチューは……されたことはないがな。だが、あのピアに不意打ちでキスをするとは、なかなか胆の座った人間だな。最近の女っていうのは、こんなにも積極的なのか?」
「もう、刹那が消極的だからそう感じるのよ!プロポーズの時だって、あんな回りくどい言い方をして……!」
「え……刹那さんの方から告白したんですか?」
「えへへ……聞きたいですか?霊夢さんの参考になるかどうかはわかりませんが……」
「おい、アベル。君もだ……そんな面白いはn」
「ぜひ!!」
「ちょ、おm」
「わかりました!あの、立ち話もなんですから、ぜひ中でお話させてください」
「はい!」
「…………」
アベルと霊夢だけで会話が盛り上がり、刹那は置いてけぼりをくってしまった。刹那は先程ピアが飛んで行った方角を見ながら小さく呟いた。
「女とは……つくづくつらい……なあピアよ」
刹那、心の俳句。俳句を詠んだ後、刹那は二人の後を追った。霊夢は二人に座布団を出した後、お茶も持ってきた。
「はい、粗茶ですが……どうぞ」
「はい……。ん、美味しいです!粗茶なんてとんでもない!すごくおいしいです!」
「あぁ……うちで入れるお茶よりもよっぽどうまいな……。あとで茶葉を見せてもらいたいな」
「あ、そうですか?よかった……」
「さて、プロポーズの話ですね。私、刹那にこう言われたんです。“アベル、結婚しよう”って!でもその後、刹那ったら酷いことを言ったんですよ!」
「おい、あんまり言うもんじゃ……」
「なんて言ったんですか?」
「お、こら、れいm」
「刹那さんは黙っててください」
「あい……」
刹那は霊夢によって黙らされた。一人でぼんやりしていた刹那は、萃香に誘われて二人で酒を飲み始めた。
「……で、なんて言ったんですか?」
「その後ですね……“今日は4月1日、エイプリルフールだよ”って、私をからかってきたんですよ!!」
「うわぁ……最低ですね……」
「でも……ね。そのことを、私のお父さんに言ったんですよ。そしたら、お父さんが……“今日は4月2日だぞ?”って……」
「あっ……嘘じゃない……」
「はい……。こうして私たちは、結ばれたんですよ」
「……正直、参考になるかどうかはわからないです……」
「あ、そうですか……」
二人はお互いに肩を落とした。話を聞いていた萃香は、刹那にニヤリと笑って見せた。
「あんたもあんたで、面倒な男だねぇ……」
「あいつほどではない。あいつが人並みの幸せを得たところで誰も文句を言わんだろうに、“俺は悪魔だ”なんてぬかしやがる。まったく、一人で勝手に責任を感じやがって……。あいつは一人で、世界の闇をすべて背負うつもりなんだ。闇と向き合うのは、あいつ一人の仕事ではない……すべての世界の義務でもあると言うのに……」
刹那が遠い目をする中、萃香は大笑いをした。
「あっはっは!あんた、ピアのことをよっぽど心配しているんだねぇ!!最初に会ったときにものすごい喧嘩をしたと聞いたときは、さぞかし仲が悪いんだろうなと思ったけどねぇ……」
「いや、仲は悪いんだ。あいつが……そうしたがっているだけだ」
「ふむ……でもさ、やっぱりピアのことだから、何かしら考えがあってのことなんだろうと思うけど?」
「……あいつが素直に話してくれるなら、苦労はない……」
「……だねぇ……。ピアは本心を隠したままだからねぇ……」
萃香と刹那はお互いに酒を注ぎあい、一緒に飲んだ。霊夢とアベルの幸せそうな話を肴にしながら。
ピアは命蓮寺に向かっていた。。しかし、かなり頭の中が真っ白になっているのか、ぼ~っと空を飛んでいた。
「……また……キスをされた……。どうしてだ……?なぜ……」
「……き……にき?」
「俺は……どうしてやれば……」
「兄貴ってば!!」
「うおっ!?」
ピアは呼ばれていたことに気付き、慌てて隣を見た。そこには青色のUFOの上に座っているぬえがいた。
「ぬえか……驚かすなよ……」
「兄貴こそ、私のことを無視しないでよ!ずっと隣で声をかけてたのに!」
「あ、あれ?そうだったのか……悪かったよ、ぬえ」
ピアがあっさり謝ったので、ぬえもすぐに許してあげた。そのあとすぐに、ぬえはピアに聞いた。
「ところで兄貴!これからどこに行くの?このまま行ったら命蓮寺だけど……」
「そう、俺は命蓮寺に行く予定だったんだよ。ぬえ、ついでだから一緒に行こう」
「ホント!?やったぁー!兄貴とデートだぁー!!」
「どうしてそう……もういいや。わかった、デートしよう」
一人で盛り上がるぬえを注意しようとしたが、ピアは潔く諦めた。ぬえはUFOから飛び降りると、そのままピアに抱き付いた。
「デート♪デート~♪」
「わかったわかった……よしよし」
はしゃぐぬえをほどほどにあしらいつつ、ピアは命蓮寺へと向かった。
「あれは……」
刹那の言うことに素直に従った華扇は、上空で妖怪とイチャつくピアを見つけた。
「あの人……妖怪にも慕われているのですか!?右腕の件もありますし、ますます正体が気になりますね……。あっちは寺がある方角……行ってみましょう」
華扇もまた、ピアの右腕の正体を掴むために命蓮寺へと向かった。
命蓮寺では周辺の掃除もかねて、一輪と雲山、そして水蜜が話をしていた。
「おーい!いちりーん、ムラサー!!」
ぬえが大声を出して二人を呼ぶと、即座に反応した。
「あら?この声は……」
「ぬえ?」
「やほー!一輪、ムラサ!!兄貴を連れてきたよー!!」
ぬえはピアをグイグイ引っ張りながら下りてきた。ピアの表情を見た一輪は察したように呆れ顔になった。
「もう、ぬえったら。ピアさんを振り回すようなことをしたらダメでしょ?ピアさんに迷惑をかけちゃうでしょ?」
「迷惑なんかじゃないわよ。ちゃんとデートってことで一緒にいるもん」
「デ、デデデデ、デートぉっ!?」
ぬえの爆弾発言に、水蜜は本気で驚いた。しかし、驚いたのは水蜜だけだった。
「村紗、落ち着いて。ちゃんとピアさんの顔を見て?」
「え……あぁ……。な、なるほど……理解しました」
水蜜もようやく察してくれたところで、ピアはため息を一つついた。
「おぉい、ぬえ。そろそろ動きづらいから離れてくれるとありがたいんだが……」
「あれ?そうなの?だったら早く言ってくれればよかったのに……」
「かなり前から言ってたぞ……」
ぬえが離れたところで、ピアはようやく野菜が入ったざるを一輪に渡した。
「ほい、一輪。差し入れの野菜だ。たくさん採れたから、少しだけ分けてやるよ」
「まぁ!立派な野菜ですね!ありがとうございます、ピアさん!」
「うわぁっ!これって、全部兄貴が育てたの!?」
「その通りだ」
「ど、どれもすごくおいしそう……」
一輪たちが食い入るように野菜を見る中、雲山がこっそりピアに近づいてきた。
「ピア殿」
「おう、雲山か」
「一輪たちは、しばらくは野菜に夢中であろう。どうぞ、今のうちに中へ入られては?」
「あぁ、わかった」
三人が野菜を見ている間に、ピアは雲山と寺の中へと入った。
「いつもすまぬな。おぬしにはぬえともども、世話になってばかりじゃ」
「そうでもないぜ?俺だって、雲山たちにいろいろと世話になってるところもある」
「ふむ……お互い様、ということか」
「そういうこと」
「しかし、ぬえに関してはほとんどピア殿のおかげじゃ。ピア殿に会うまでは人見知りゆえに、人間とかかわることを避けてきたのだからな……」
「そうは言うけどな、雲山よ。ぬえが俺を“兄貴”って呼ぶ理由を知っているか?」
「無論、承知済みじゃ。一輪が羨ましかった……であろう?」
「だからって、俺を“兄貴”にしなくてもよかっただろうに……」
「ピア殿だからこそ、ぬえも安心できるのであろう。察してやってくれ」
「……そんなもんかね」
ピアと雲山が話をしていると、同じく話をしている星と白蓮がこちらに向かって歩いてきていた。やがて白蓮が先に気付くと、ピアに向かって手を振った。
「ピア君!」
「ピアさん、お久しぶりですね」
「あぁ。星、白蓮、久しぶりだな。あの宴会以来、もう一度来たぜ」
「ピア君……本当に生きて帰ってきてくれたんですね……」
「お前な……あの時、俺をちゃんと見ただろう?そんな改めて生存確認をされてもな……」
「あ、すみません……。でもピア君、なぜ命蓮寺に?」
「野菜の御裾分けに来たんだよ。いろいろと収穫があったんでな……白蓮たちにも分けておこうと思ったんだよ」
「まぁ……ありがとう、ピア君!」
「んな礼を言われるような……もういいや」
ピアは何も言わずにそのまま帰ろうとしたが、あとから飛びついてきたぬえによって阻止された。
「兄貴ぃ~!」
「どわぁっ!ぬえか!?」
「兄貴~、今日くらいは可愛い妹を甘えさせてもいいでしょぉ~?」
ぬえはピアの顔に頬ずりをしてきた。身の毛がよだったピアは、慌てて周囲に助けを求めた。
「おま、落ち着けって!おい、星!ちょっと手伝い……」
「あ、すみません。今なんとなくナズーリンに呼ばれた気がするので、ちょっとそちらの方へ……」
「ま、待てよ!ちょ、白蓮も何とか言って……」
「そういえば、一輪と村紗はどこに行ったのかしら?私、探してきますね」
「おぉい!待てよ!!」
「えっへへ~。兄貴ぃ~♪」
「こら、やめ……うんざーんっ!!助けろぉーっ!!」
「……すまぬ、いましがた手が離せぬゆえに」
「こらぁーっ!テメェ、あきらかにおかしいだろうがぁーっ!!」
ピアはとうとう雲山からも見放された。そんなピアの前に、一輪と水蜜が現れた。
「あれ、ピアさん?何をしてるの?」
「おぉ!水蜜、いいところに!!」
「なかよし兄妹でスキンシップ中~♪」
「……あぁ、そう。その……頑張ってね」
「だぁっ!ちょっと待てぇっ!!一輪っ!そんなところで見てないで助けろぉっ!!」
「……雲山、少し組手でもしましょうか」
「うむ、承知した」
「い、いちりーんっ!!なんで裏切ったんですかぁーっ!!」
「ピアさん」
「……はい?」
ピアが全力で助けを求める中、一輪は真顔でこう言った。
「兄弟の仲睦まじい姿を邪魔できるほど……私も鬼ではありませんから」
「嘘だこんなことぉーっ!!」
結局ピアは全員から見放され、最後までぬえのスキンシップの餌食となった。そして、その一部始終を見ている眼が二つ。
「これは……とんでもないものを見てしまったわね……。何の話をしているかはわからないけど、彼が人妖問わずに好かれているのは間違いないわね。さて、問題はあの右腕……その正体を突き止めるまでは……」
この一部始終を、華扇が余すことなく見ていたのは言うまでもない。結局ピアが解放されたのは、日が沈み始めたころだった。
「や、やっと自由になれた……。まったくぬえの奴、容赦がなさすぎるんだっつーに……」
「あの」
「ん?」
命蓮寺から出てきたピアを待っていたのは、華扇だった。意外な人物の登場に、ピアは思わず首をかしげた。
「うん?あんた、たしか……」
「初めまして。茨木華扇と申します。ピア・デケム君。あなたに話があるのです」
「話……ね。あんまり穏やかじゃなさそうだな」
「あら、どうしてそう思われますか?」
「勘」
「……そ、そうですか……」
華扇はピアの答えに戸惑いつつも、一度咳払いをして話を戻した。
「えっとですね。私は少しだけ気になることがあるんです」
「気になること?」
「はい。あなたのその右腕について……」
「俺の右腕?悪魔の腕に興味を持つとは……お前、どこの馬鹿だ?」
「ば、馬鹿とは失礼なっ!!」
「まぁ、見せてやってもいいけどな」
ピアはそういうと、淡々と包帯をほどいていった。包帯に下からは、酷く醜い腕が姿を現した。
「うっ……そ、それは?」
「俺の右腕……悪魔の腕だ。皮なんてねぇ……肉塊と骨だけだ。……どうだ?満足したか?」
「あ、はい。……わかりました。すみません、急に腕を見せろとか言いだしてしまって……」
「いや、ただの見物人なら殴っていたが、あんたの場合は違うような気がしてな」
「えっ?」
「ほら、なんか……探し物をしている目だったからな。とりあえず見せておけば、答えは自ずと出てくるだろうと思っただけだ」
「随分と察しのいい洞察力ですね……感心しました。なるほど、霊夢が大人しくなるのもうなずけますね」
「霊夢のことを知っているのか?」
ピアが驚いて聞くと、華扇は笑顔で答えてくれた。
「えぇ、もちろん。私は一時期、博麗神社の周辺にいましたから、よく知ってますよ。ですが、私の知らない間に霊夢が随分と改心したようで安心しました。それもこれも、あなたがいたからこそなんですよね?」
「いや、まぁ……そうかもしれない」
「本当にありがとうございました。私も、あの子には手を焼いていたんですよ。ですが、あなたがいれば安心ですね」
「お、俺?いやいやいや、その辺にいるならあんたも一緒に……」
「いえ、霊夢はあなたに信頼を寄せているようです。もう私の知っている霊夢ではありませんから……」
「はぁ……」
「さて、私はそろそろ戻ろうと思います。ピアさん、霊夢のことをよろしくお願いしますね」
「ちょ、ちょっとま……」
ピアが呼び止めるものの、華扇はにっこりと笑って歩き去ってしまった。ピアは訳が分からず、ぽかんとしていた。
「……何だったんだ?なんか勝手に納得されちまったみたいだし……。おっと!霊夢と約束した帰宅時間まで、あとちょっとか!急いで帰らねぇと……」
ピアは急いで空に上がり、翼で重力を操って最大まで加速した。ピアが急いで博麗神社まで戻ると、霊夢が外で待っていた。
「れ、霊夢!?な、なんで外で待ってんだ?」
「えっと……特に理由はないんだけど……。そろそろ帰って来るかなって思って、なんとなく外に出てみただけ……」
「そ、そうか。ただいま」
「お帰り、ピア。ところで、華扇にはもう会ったの?」
「ん?あぁ、会ったぜ。いきなり腕を見せてくれって頼まれて……」
ピアは華扇とのやり取りについて、霊夢に説明をした。その後、霊夢から華扇の目的を聞かされたピアは、自分の右腕が対象物ではなかったことに安心した。そしてピアは思った。心なしか、霊夢が少しだけ大人っぽく見えたのだ。目の錯覚だと思い、ピアは夕飯のことだけに集中した。
ではまた次回