東方魔郷談   作:Walther58

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では第四章をどうぞ!


第四章 ~妖精のち門番ときどき魔法使い~

「……さて、霊夢に道を聞いたものの……魔理沙と全く同じ答えを出しやがった……。とりあえず、湖を目指すか」

 

 紅魔館へ向かうため、霊夢に道を聞いたピアだったが

「紅魔館は湖を越えた先にある、やたら真っ赤な館のことよ。じゃ、いってらっしゃい」

 

 霊夢の答えも大雑把かつ、適当だった。まったくあてにならないヒントを頼りに、ピアはとにかく空を飛ぶ。

「はぁ……どっかで道を聞けそうな人はいないものか……」

 

「春ですよぉー!」

「……それは知ってる」

 

 ピアは声がする方へ振り向いた。そこには幸せそうな表情で春を告げる妖精、『リリーホワイト』が飛んでいた。

「……だめもとで聞くか」

 

 ピアはリリーに道を尋ねることにした。

「春ですよぉー!」

 

「あの、すいません」

「春で……はい?」

「…………」

 

 普通に返事を返してくれた。それだけでもピアにとってはありがたいことだった。

「俺は、博麗の巫女の使いの者です。紅魔館という館へ行きたいんですが……目印の湖はどこでしょうか?

 

「はい?湖というと……あぁ~『霧の湖』のことですねぇ~。それなら、先ほどまで私が飛んでいた道を進むといいですよぉ~」

「湖経由で紅魔館の上を通過した……ということですか。……はい、ありがとうございました」

 

「いえいえ~。ところでぇ……あなたは春が好きですかぁ?」

「まぁ、好きですよ。春は始まりを告げる季節。春になると、新しい一年の始まりって感じがして、すごく新鮮な気分になれます」

 

「そうですかぁ~!うふふ、そう言ってもらえるとすごく嬉しいですぅ!これからも、春を大切にしてくださいねぇ~」

「あ、はい」

 

「それでは~。春ですよぉー!」

 リリーが飛び去っていくのを見送った後、ピアは大きなため息をついた。

「だめだ……ああいうやつとかかわると、すっごく疲れる……。敬語ってだるいなぁ……」

 

 愚痴をこぼしながら、リリーが来た道を進んでいった。やがて、しばらくすると湖が見えてきた。

「おぉ、これか。これの湖を越えれば、紅魔館だな」

 

 思いのほか快調に進めていることに、ピアが満足して先を急ごうとした時だった。

「まてぇーい!」

「…………」

 

 いかにも馬鹿を丸出しにしたような呼び声に、ピアはため息しか出なかった。

「もう……あれだな。俺は多分、妖精と相性が悪い」

 ピアが後ろを振り返ると、そこには二人の妖精がいた。

 

一人はいかにも頭が悪そうな服も髪も青色の妖精。もう一人は内気な性格なのか、相方の言動におろおろしていた、緑色のサイドテールが特徴の妖精だった。

 

「ちょっとあんた!このあたりはね、この最強のアタイの島なんだぞ!勝手に入ってくるなんて、いい度胸じゃん!」

「や、やめようよチルノちゃん。この人は普通にここを飛んでただけだと思うよ……」

 

「何言ってんの大ちゃん!侵入者は誰であろうと、やっつけないとね!」

「……その前に自己紹介をお願いできませんでしょうか?」

 

「おっ?アタイの名前が知りたいの?ふっふ~ん。アタイは優しいから、あんたみたいな普通の人間にも、特別に教えてあげないこともないわよ?」

「じゃあ、いいです。名乗る気がないなら、もう聞きません。さようなら」

 

「ちょ、ちょっと!せっかく名乗ってあげるって言ってんのに、帰ろうとするんじゃないわよっ!」

「チルノちゃん……。多分この人、用事か何かで急いでるんだと思うよ。それに普通の人間なら、背中に羽なんて生えてないよ」

 

「あっ!本当だ!さっすが、大ちゃん!アタイの一番の親友ね!」

「そ……そうかな?えへへ……」

 

「あの~、そろそろ時間がないんで、帰ってもいいですか?」

「ちょっと、今から名乗るんだから聞いていきなさいよ!」

「…………」

 

 ピアはこらえた。煮えたぎるほどに湧き上がる怒りを。溢れんばかりに滲み出る殺気を。そして、単純な苛立ちを。

「……時間切れ。俺は行く」

 

「ま、待てぇ!アタイは『チルノ』!チルノっていうの!」

「あ!私は『大妖精』って言います!」

 

「……ようやく名乗ったか。なら、俺も名乗らないと……。俺は博麗の巫女の使いだ。よろしく、妖精お二人さん」

「はくれいのみこのつかい?ぷぷっ!変な名前ー!」

 

「チ……チルノちゃん……!」

「ああ、大妖精、だっけ?注意しなくていいよ。博麗の巫女から、初対面の相手には会ったその日に本名を名乗らないように、と言われてるだけだから」

 

「そ……そうなんですか?」

「その通り。だから……もし明日以降、もう一度会うことがあったら、その時はちゃんと俺の名前を教えるよ」

 

「えぇー!なんで今日はだめなの?なんで明日からじゃないとだめなの?」

「そっちの子は……チルノか。あのな、チルノ。俺は博麗の巫女の命令に従わなければいけないんだ。だから、今日は名前は言えない」

 

「だったら、アタイが霊夢をやっつけてあげる!そうすれば、あんたも名前を言えるじゃん!」

「…………」

 

 チルノの真っ直ぐすぎる目を見て、ピアは自分の世界を思い出していた。どこまでもまっすぐで、いつまでも純粋にして、無垢なる幼き神を。

 

「……?どうしたの?」

「いや……チルノによく似たやつを知っていてね」

 

「アタイに?それってアタイと一緒で、最強ってこと?」

「まぁ……最強だな。あいつは」

 

「へぇー!そうなんだ!」

「ただ……あいつは最強だが、同時に最弱でもあった」

 

「へ?どういうこと?」

「ふっ……この意味がわからないうちは、チルノは“自称”最強だな」

 

「な、何をー!アタイはねぇー!」

「よく聞け、チルノ。かつて世界には、人中……すなわち、人間の中で最強と言われた男がいた」

 

「そ……それが何なの!」

「チルノにはわからないかもしれない。その男は強かった。ただ、強すぎた。強すぎたせいで、その男は自分のだめな部分を見失っていた」

 

「だめな部分……?」

「そう、だめな部分。だからこそ、その男は戦いに敗れ、滅んだ。だが、俺が知っている“最強”は違った」

 

「……?さっぱり分かんない!」

「チルノちゃん!……あの、巫女の使いさん。私には、わかる気がします。……続けてください」

 

「助かるよ、大妖精」

「大ちゃん……?どういうこと?」

 

「あのね、チルノちゃん。あの人が言いたいのはね、“強さ”は“力”じゃないってこと。ただ力があるだけじゃ、最強にはなれないってことだよ」

「その通り。俺が知ってる最強の女は……神だった。だが、アイツは君のように力を見せびらかしたりはしなかった。……どうしたと思う?チルノ」

 

「え……。力を見せなかったんだったら、隠してるってことでしょ?」

「そうだ。アイツは……いつも力を隠し続けていた。強すぎる自分の力を恐れて、泣いてばかりの意気地なしだった……。だがな……悔しいが、だからこそアイツは最強になれたんだ。霊夢や魔理沙が本気を出して戦っているところ、見たことないだろう?」

 

「う……うん」

「だから、二人は強いんだ。己の強さを理解している。だからこそその力を自覚して、弁えているんだよ。それが……本当の最強だと、俺は思う」

 

 久しぶりに長く語ったのか、ピアは最後に背伸びをした。チルノが腕を組んでずっと考えている中で、大妖精はピアに近づいていった。

 

「あの……ありがとうございます」

「ん?何がだ?」

 

「あの、チルノちゃんのことを……。チルノちゃんがわからなくても、ちゃんと説明してくれてありがとうございます」

「……どうも」

 

「あの!……巫女の使いさんって、その神様のこと、すごく大事に思っているんですね!」

 大妖精がそういうのと同時に、ピアは大きく翼を広げた。その時の発生した風圧は、遠く離れた木々でさえも揺らした。

 

「大事……?馬鹿を言うな」

「えっ……?」

 

 ピアはゆっくりと振り向いた。その顔、その目つきは、まさに悪魔の風貌を思わせるものだった。

「大っ嫌いだよ。俺から死を奪い取った、偽善で満たされた綺麗言に善がり狂うような……あの……今すぐにでも八つ裂きにしたい腐れ外道のことなど……」

 

「み……巫女の使いさん……」

「……驚かしちまったな。ごめん。でもな……俺は悪魔なんだ。俺にとって神は……敵なんだよ」

 

「巫女の使いさん……」

「ほら、チルノのもとに戻るんだ。俺はこのまま、紅魔館へ行くから」

 

「だったらここをまっすぐに進んでいけば、紅魔館ですよ。あの館には吸血鬼がいるので、十分に気を付けてください」

「ありがとう」

 

 ピアは一言お礼を言うと、すぐに飛び去った。その後姿を大妖精が見送っていると、チルノが後ろから声を変えた。

 

「大ちゃーん!全然わかんないんだけどぉー!」

「あ、チルノちゃん!すぐに戻るから―!」

 

 大妖精はチルノのもとへ向かった。その途中で、もう一度後ろを振り返った。

「(神様の話をしている時の巫女の使いさん……すごく悲しそうだった……。本当は……あの人は、その神様のことを……)」

 

「大ちゃーん!行くよー!」

「あ、うん!すぐ行くよー!」

 チルノの呼び声に応じて、大妖精はすぐに飛んでいった。

 

「……柄にもねぇことを言っちまったな……。……なんであのクソ女のことなんか思い出しちまったんだ……クソ!」

 自分の言動に苛立ちを覚えつつも、目的の場所へと確実に近づいていった。

 

「お?あれか……?」

 ピアの目に映ったのは、紅以外に色がない館だった。とにかく紅く、かろうじて門だけは紅ではなかった。

 

「……本当に紅い……。よし、門の前に降りてみよう」

 ピアは紅魔館の門の前に着地した。そして、まずピアが最初に目撃したのは、眠っている門番であった。

 

「……寝ている」

 中国風の服装をした女性は、気持ちよさそうに眠っていた。しかし、それではピアの方が困ってしまうので、起こしてあげることにした。

 

「おい」

「…………」

 

「おいこら、起きろ」

「……むにゃむにゃ……ぐぅ……」

 

「……仕事をサボってるんじゃない!」

「うひゃあぁ!」

 

 ピアの一喝に反応するかのように女性は飛び跳ねた。そしてピアを見るなり、ひたすら謝罪を続けた。

「す、すいません!寝てませんよ!私は寝てません!咲夜さん!」

 

「いや、俺は“咲夜”って人じゃない」

「へっ……?あぁ!」

 

 女性は人違いであることに気付くと、反省と同時に安堵していた。

「そ……そうでしたか……申し訳ありません」

「いや、いいんだ。それよりも、この本をここに返しに来たんだ」

 

「おや?それは……パチュリー様の本ですね」

「パチュリー?」

「はい。パチュリー・ノーレッジ様といって、この紅魔館の主、レミリアお嬢様のご親友なんです」

 

「へぇ。やっぱり只者じゃないと思っていたが……熟練の魔法使いなんだろうな」

「よくご存知ですね!そうなんです!パチュリー様はそれはとても素晴らしい魔法使いで……」

「あ~、それは本人から聞くとする。で、そのパチュリー・ノーレッジってのはどこにいるんだ?」

 

「この館の地下にある、『大図書館』です。……なんでしたら、ご案内しましょうか?あ、私は『紅美鈴』といいます。お恥ずかしながら、この館の門番です」

「やっぱりか。でも……美鈴はズルをされなければ、誰も通さないくらいの力はあるんだな」

 

「わ、私の実力を見抜いたんですか?!」

「ま、“強者は強者を知る”っていうしな。美鈴の隠れた本気は、さすがの俺でもわかる」

 

「あなたも相当の手練れと見ました。ぜひ、お名前をお伺いしてもいいですか?」

「俺の名前は、博麗の巫女の使いだ」

 

「博麗の巫女?あの、博麗霊夢ですか?」

「そう。俺はその霊夢に仕えている者だ。ただし、業務命令で“初対面の人にはすぐに本名を明かしてはならない”、と命令されていてね。悪いが、俺の本当の名前を知りたかったら、また明日以降だ」

 

「随分と変わった業務命令ですね……。霊夢がそんな命令を出すとは、いったい何を考えているんでしょうかね?」

「わからん。とにかく、せっかく名乗ってもらったのに、悪いな」

 

「いえいえ。でしたらこちらは、名前を教えてもらうまでは、“お客様”とお呼びさせてもらいますね」

 

「なるほど、その手があったか。なら、それで頼むよ」

「わかりました!では、大図書館までご案内しますね、お客様」

 

「よろしく頼む」

 紅魔館の門番、美鈴に案内され、ピアは大図書館へ向かった。その二人の後ろ姿を、陰から見ていた人物がいた。

 

「これは……お嬢様にご報告しなければ。それにしてもあの男……いったい何者……?追跡はするとして……あとで美鈴にはお仕置きをしなくちゃね」

 その人間は一瞬にして消えた。まるで初めからそこにいなかったかのように。

 

 美鈴の案内により、ピアは大図書館の前まで来た。到着までの間に、ピアは魔道書のことを美鈴に説明しておいた。

「ありがとう、助かったよ」

 

「いえいえ、お客様のためならこれくらいは。しかし、入り口まででいいんですか?」

「大丈夫だ。ここから先は、俺一人で行く。……それと、美鈴」

 

「はい?」

 ピアは美鈴の肩をつかむと、耳元で小さな声で言った。

「……さっきから、誰かにつけられている」

 

「誰か……ですか?」

「あぁ。門に戻るときは気をつけろよ」

「あ……はい」

 

 美鈴は後のことをピアに任せ、門に戻るため階段を上った。そして、地上まで出てきたところで

「美鈴」

 と、不意に声を掛けられた。

 

「はいぃ!……って、咲夜さん?」

 美鈴を出口で待っていたのは、紅魔館のメイド長、『十六夜咲夜』だった。咲夜は深いため息をついた後、キッ、と美鈴を睨み付けた。

 

「美鈴。門番としての仕事は?」

「え?あ、あの……これはその……」

 

「さっきの男は何者なのかしら?」

「あ、あの!先ほどのお客様は博麗の巫女の使いの方でして!以前、パチュリー様が魔理沙にとられた魔道書を取り返して、そのまま紅魔館へ返しに来てくれたんです!」

 

「……それは本当かしら?」

「本当です!本人から、直接お伺いしました!」

「そう……。博麗の巫女の使いってことは、あの霊夢が絡んでいるのかしら?」

 

「いえ。魔道書の奪還は、お客様の独断だそうです。紅魔館の場所も、道を尋ねながら来たそうです」

「美鈴。彼の名前は本当に博麗の巫女の使いなの?」

 

「そ……それは、霊夢からの業務命令で、初めて会う者には、会ったその日に本名を明かしてはならない、と言われているそうで……。本名は不明です」

 

「そう。……さて、美鈴」

「は……はい……」

 美鈴は覚悟を決めた。お仕置きされる。ただそのことだけを考えて。一心に覚悟を決めた。

 

「……今回のことは、お咎めなしとするわ」

「さ、咲夜さんっ!」

 

「ただし!この後はちゃんと門に戻ること。私は、このことをお嬢様に報告するわ」

「は、はい!」

 美鈴は急いで門に戻っていった。その様子を呆れた様子で見送った咲夜は、本格的に考えた。

 

「(あの男……霊夢が本名を明かさせないほどの人物……ということかしら?とにかくお嬢様に報告ね)」

 そして咲夜は再び、何事もなかったかのようにその場から消えた。

 

 ここは大図書館。ありとあらゆる本が集まる、知識の宝庫。その中に、読書に明け暮れている少女がいた。

 

「パチュリー様。お飲物です。どうぞ」

「あら、ありがとう、こぁ」

 

 この少女こそが『パチュリー・ノーレッジ』。紅魔館にすむ魔法使いである。

「いえ。……ところで、何かわかったことでもあるんですか?」

 

「う~ん……やっぱり駄目ね。素材がまるで足りないの」

「たしか……“人間の魔力と魔族の魔力の違い”……でしたっけ?今、パチュリー様が研究なさっていることは」

 

「そう。魔界にすむ悪魔の魔力は、人間や魔法使いが使う魔力をはるかに凌駕するの。その悪魔が魔法系のスペルを使えば、威力は数百倍にもなるの」

「す……すごいですね。やっぱり……私じゃダメなんでしょうか?」

 

「気持ちは嬉しいけど……あなたは私が召喚した使い魔。あなたの魔力の大半は私が補っているから、そんなに変わらないのよ」

 

「そうですか……。お力になれず、申し訳ありません」

 使い魔の少女は深々と頭を下げるが、パチュリーはそれを制した。

 

「そう落ち込むことはないわ。あなたには、これからも私の力になってもらうんだから、気にしないでちょうだい」

「はい、パチュリー様」

 

「さてと……こぁ。次の資料を……」

 パチュリーが使い魔に指示を出そうとした時だった。

 

「…………!」

「……?パチュリーさ……!」

 パチュリーと使い魔の少女は同時に感じ取った。この大図書館に侵入した、とてつもなく巨大で禍々しい魔力を。

 

「パ……パチュリー様……!」

「落ち着きなさい、こぁ。わかってるわ」

 

 あまりに巨大な魔力に押しつぶされそうになりつつも、パチュリーは気配がする方へ目をやった。

「この魔力……魔法使いのものではない……。まさか……?」

 

 パチュリーは、ある一つの可能性を見出していた。そしてその可能性は、パチュリーを心の底から歓喜させるものだった。

 

「……さぁ、いらっしゃい。大図書館の管理者、パチュリー・ノーレッジはここよ」

 そしてパチュリーの目の前に、望み通りのものが現れた。

 

「……あんたがパチュリー・ノーレッジだな?俺は博麗の巫女の使い。わけあって本名はすぐには名乗れない。目的は、本の返却だ」

「わかってるわ。あなたが持っているその袋の中から、魔道書の魔力を感じるもの。……わざわざ届けてくれて、ありがとう」

 

「どういたしまして。……じゃあ、俺はこれで」

「待って!」

 

 パチュリーに呼び止められ、ピアは足を止めた。目的を果たしたピアにとって、長居は無用だったが、呼ばれた以上は返事をするしかない。

「……なんだ?」

 

「あなたの魔力……普通じゃないわね。……あなたは魔族ね?」

「……確かに、そうだ」

 

「やっぱり!かなりの魔力の持ち主ね。書物で読んだことがあるわ」

 そう言ってパチュリーは一冊の本を取り出した。しかし、ピアには全くと言っていいほど読めなかった。

 

「悪魔には種類があるわ。あなたは“デーモン級”かしら?“デビル”ではないと思うけど……」

「残念だったな。俺は“サタン”……魔王だよ」

 

 ピアがそう言い残して立ち去ろうとした時だった。

 ドサッ。

 とパチュリーが本を落とした。

 

「サ……“サタン”……?まさか……魔王級……?」

「というより、俺は魔王だ。幻想郷の外の世界で、何億年も生き続けてる」

 

「魔王……!でも、この魔力……たしかにこれは、魔王!」

「……え?」

 

「すごい……!正真正銘、真正の魔族にして、その頂点に立つもの……!この幻想郷で、本物に出会えるなんて……」

「……俺って……そんなにすごいか?」

 

「ええ!幻想郷に、未だに“魔族”は存在していない。あなたが外の世界から来てくれたなら、なおさら好都合だわ!」

「いや、好きで来たわけzy」

 

「あなた、私たちに協力してもらえないかしら?」

「……はい?」

 

「もちろん、ただでとは言わないわ。ここにある本、興味がわいた本なら、好きなだけ貸してあげるわ」

「あ、いや……さすがにそれは悪いから……。う~ん……そうだ!」

 

「…………?」

「“デーモン”級の悪魔になると、魔法はまるで駄目になる。だから、俺にはこの魔道書とかが読めない。そこでだ、こいつが読めるようになるために、俺にいろいろと教えてほしいんだ。いわゆる、家庭教師をしてほしい。今の俺には、知識が必要なんだ」

 

「それくらいなら、喜んで。でも、それでいいの?」

「俺には、十分だ」

 

「そう……まぁいいわ。こっちに来て。魔力供給を手伝ってほしいの」

「わかった」

 

 ピアはパチュリーの要求をのみ、魔力供給に協力した。その際、魔剣『エッジ』も研究させてほしいと頼まれたが、それは全力で断った。

 

「ところで……あの頭に羽の生えた子は?」

「あの子は私の使い魔よ。名前は『小悪魔』。普段は『こぁ』と呼んでいるわ」

 

「そうか。……よろしくなー!小悪魔ぁー!」

「はぁーい!こちらこそ―!」

 

 遠くにいるようなので、ピアは大声であいさつをした。小悪魔からもちゃんと返事が返ってきたので、それでよしとした。

 

「お取込み中、失礼します」

 ピアが魔力供給中、突然後ろから声がした。

 

「うおっ!なんだ?」

「あら、咲夜?どうかしたの?」

 

「……誰だ?」

「初めまして、“博麗の巫女の使い”様。私は、この紅魔館でメイド長を務めております、『十六夜咲夜』と申します。以後、お見知りおきを」

 

「……どうも」

 そこに現れたのはメイド長の十六夜咲夜だった。あまりに唐突だったので、ピアは油断をして驚いてしまった。

 

「それで、咲夜がわざわざここに来たってことは、何か用なの?またレミィが呼んでいるのかしら?」

「はい。ですが、お嬢様がお呼びしているのはパチュリー様ではなく……あなたです」

「……俺?」

 

「はい。“博麗の巫女の使い”様。この屋敷の主、レミリアお嬢様がお呼びです。ぜひあなたとお話がしたい、と」

 

「……まぁ、断る理由もないな。これが終わったら、すぐに行くよ。出口で待っててくれると、ありがたい」

「かしこまりました。それでは……お待ちしていますわ」

 

 そして咲夜は姿を消した。ピアは、咲夜の消え方に違和感を覚えていた。

「(……瞬間移動とは違う……。何か……一瞬だけ止まったような感覚が……気のせいか)」

 ピアは引き続き、パチュリーの研究に協力した。魔力供給終了後も、パチュリーは何度もお礼を言った。

 

約束通り、ピアが大図書館を訪れた際には、魔法のことや、文字の読み方について教えることとなった。やることを終えたピアは、咲夜が待つ大図書館の出口へと向かった。

 

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