「……さて、霊夢に道を聞いたものの……魔理沙と全く同じ答えを出しやがった……。とりあえず、湖を目指すか」
紅魔館へ向かうため、霊夢に道を聞いたピアだったが
「紅魔館は湖を越えた先にある、やたら真っ赤な館のことよ。じゃ、いってらっしゃい」
霊夢の答えも大雑把かつ、適当だった。まったくあてにならないヒントを頼りに、ピアはとにかく空を飛ぶ。
「はぁ……どっかで道を聞けそうな人はいないものか……」
「春ですよぉー!」
「……それは知ってる」
ピアは声がする方へ振り向いた。そこには幸せそうな表情で春を告げる妖精、『リリーホワイト』が飛んでいた。
「……だめもとで聞くか」
ピアはリリーに道を尋ねることにした。
「春ですよぉー!」
「あの、すいません」
「春で……はい?」
「…………」
普通に返事を返してくれた。それだけでもピアにとってはありがたいことだった。
「俺は、博麗の巫女の使いの者です。紅魔館という館へ行きたいんですが……目印の湖はどこでしょうか?
「はい?湖というと……あぁ~『霧の湖』のことですねぇ~。それなら、先ほどまで私が飛んでいた道を進むといいですよぉ~」
「湖経由で紅魔館の上を通過した……ということですか。……はい、ありがとうございました」
「いえいえ~。ところでぇ……あなたは春が好きですかぁ?」
「まぁ、好きですよ。春は始まりを告げる季節。春になると、新しい一年の始まりって感じがして、すごく新鮮な気分になれます」
「そうですかぁ~!うふふ、そう言ってもらえるとすごく嬉しいですぅ!これからも、春を大切にしてくださいねぇ~」
「あ、はい」
「それでは~。春ですよぉー!」
リリーが飛び去っていくのを見送った後、ピアは大きなため息をついた。
「だめだ……ああいうやつとかかわると、すっごく疲れる……。敬語ってだるいなぁ……」
愚痴をこぼしながら、リリーが来た道を進んでいった。やがて、しばらくすると湖が見えてきた。
「おぉ、これか。これの湖を越えれば、紅魔館だな」
思いのほか快調に進めていることに、ピアが満足して先を急ごうとした時だった。
「まてぇーい!」
「…………」
いかにも馬鹿を丸出しにしたような呼び声に、ピアはため息しか出なかった。
「もう……あれだな。俺は多分、妖精と相性が悪い」
ピアが後ろを振り返ると、そこには二人の妖精がいた。
一人はいかにも頭が悪そうな服も髪も青色の妖精。もう一人は内気な性格なのか、相方の言動におろおろしていた、緑色のサイドテールが特徴の妖精だった。
「ちょっとあんた!このあたりはね、この最強のアタイの島なんだぞ!勝手に入ってくるなんて、いい度胸じゃん!」
「や、やめようよチルノちゃん。この人は普通にここを飛んでただけだと思うよ……」
「何言ってんの大ちゃん!侵入者は誰であろうと、やっつけないとね!」
「……その前に自己紹介をお願いできませんでしょうか?」
「おっ?アタイの名前が知りたいの?ふっふ~ん。アタイは優しいから、あんたみたいな普通の人間にも、特別に教えてあげないこともないわよ?」
「じゃあ、いいです。名乗る気がないなら、もう聞きません。さようなら」
「ちょ、ちょっと!せっかく名乗ってあげるって言ってんのに、帰ろうとするんじゃないわよっ!」
「チルノちゃん……。多分この人、用事か何かで急いでるんだと思うよ。それに普通の人間なら、背中に羽なんて生えてないよ」
「あっ!本当だ!さっすが、大ちゃん!アタイの一番の親友ね!」
「そ……そうかな?えへへ……」
「あの~、そろそろ時間がないんで、帰ってもいいですか?」
「ちょっと、今から名乗るんだから聞いていきなさいよ!」
「…………」
ピアはこらえた。煮えたぎるほどに湧き上がる怒りを。溢れんばかりに滲み出る殺気を。そして、単純な苛立ちを。
「……時間切れ。俺は行く」
「ま、待てぇ!アタイは『チルノ』!チルノっていうの!」
「あ!私は『大妖精』って言います!」
「……ようやく名乗ったか。なら、俺も名乗らないと……。俺は博麗の巫女の使いだ。よろしく、妖精お二人さん」
「はくれいのみこのつかい?ぷぷっ!変な名前ー!」
「チ……チルノちゃん……!」
「ああ、大妖精、だっけ?注意しなくていいよ。博麗の巫女から、初対面の相手には会ったその日に本名を名乗らないように、と言われてるだけだから」
「そ……そうなんですか?」
「その通り。だから……もし明日以降、もう一度会うことがあったら、その時はちゃんと俺の名前を教えるよ」
「えぇー!なんで今日はだめなの?なんで明日からじゃないとだめなの?」
「そっちの子は……チルノか。あのな、チルノ。俺は博麗の巫女の命令に従わなければいけないんだ。だから、今日は名前は言えない」
「だったら、アタイが霊夢をやっつけてあげる!そうすれば、あんたも名前を言えるじゃん!」
「…………」
チルノの真っ直ぐすぎる目を見て、ピアは自分の世界を思い出していた。どこまでもまっすぐで、いつまでも純粋にして、無垢なる幼き神を。
「……?どうしたの?」
「いや……チルノによく似たやつを知っていてね」
「アタイに?それってアタイと一緒で、最強ってこと?」
「まぁ……最強だな。あいつは」
「へぇー!そうなんだ!」
「ただ……あいつは最強だが、同時に最弱でもあった」
「へ?どういうこと?」
「ふっ……この意味がわからないうちは、チルノは“自称”最強だな」
「な、何をー!アタイはねぇー!」
「よく聞け、チルノ。かつて世界には、人中……すなわち、人間の中で最強と言われた男がいた」
「そ……それが何なの!」
「チルノにはわからないかもしれない。その男は強かった。ただ、強すぎた。強すぎたせいで、その男は自分のだめな部分を見失っていた」
「だめな部分……?」
「そう、だめな部分。だからこそ、その男は戦いに敗れ、滅んだ。だが、俺が知っている“最強”は違った」
「……?さっぱり分かんない!」
「チルノちゃん!……あの、巫女の使いさん。私には、わかる気がします。……続けてください」
「助かるよ、大妖精」
「大ちゃん……?どういうこと?」
「あのね、チルノちゃん。あの人が言いたいのはね、“強さ”は“力”じゃないってこと。ただ力があるだけじゃ、最強にはなれないってことだよ」
「その通り。俺が知ってる最強の女は……神だった。だが、アイツは君のように力を見せびらかしたりはしなかった。……どうしたと思う?チルノ」
「え……。力を見せなかったんだったら、隠してるってことでしょ?」
「そうだ。アイツは……いつも力を隠し続けていた。強すぎる自分の力を恐れて、泣いてばかりの意気地なしだった……。だがな……悔しいが、だからこそアイツは最強になれたんだ。霊夢や魔理沙が本気を出して戦っているところ、見たことないだろう?」
「う……うん」
「だから、二人は強いんだ。己の強さを理解している。だからこそその力を自覚して、弁えているんだよ。それが……本当の最強だと、俺は思う」
久しぶりに長く語ったのか、ピアは最後に背伸びをした。チルノが腕を組んでずっと考えている中で、大妖精はピアに近づいていった。
「あの……ありがとうございます」
「ん?何がだ?」
「あの、チルノちゃんのことを……。チルノちゃんがわからなくても、ちゃんと説明してくれてありがとうございます」
「……どうも」
「あの!……巫女の使いさんって、その神様のこと、すごく大事に思っているんですね!」
大妖精がそういうのと同時に、ピアは大きく翼を広げた。その時の発生した風圧は、遠く離れた木々でさえも揺らした。
「大事……?馬鹿を言うな」
「えっ……?」
ピアはゆっくりと振り向いた。その顔、その目つきは、まさに悪魔の風貌を思わせるものだった。
「大っ嫌いだよ。俺から死を奪い取った、偽善で満たされた綺麗言に善がり狂うような……あの……今すぐにでも八つ裂きにしたい腐れ外道のことなど……」
「み……巫女の使いさん……」
「……驚かしちまったな。ごめん。でもな……俺は悪魔なんだ。俺にとって神は……敵なんだよ」
「巫女の使いさん……」
「ほら、チルノのもとに戻るんだ。俺はこのまま、紅魔館へ行くから」
「だったらここをまっすぐに進んでいけば、紅魔館ですよ。あの館には吸血鬼がいるので、十分に気を付けてください」
「ありがとう」
ピアは一言お礼を言うと、すぐに飛び去った。その後姿を大妖精が見送っていると、チルノが後ろから声を変えた。
「大ちゃーん!全然わかんないんだけどぉー!」
「あ、チルノちゃん!すぐに戻るから―!」
大妖精はチルノのもとへ向かった。その途中で、もう一度後ろを振り返った。
「(神様の話をしている時の巫女の使いさん……すごく悲しそうだった……。本当は……あの人は、その神様のことを……)」
「大ちゃーん!行くよー!」
「あ、うん!すぐ行くよー!」
チルノの呼び声に応じて、大妖精はすぐに飛んでいった。
「……柄にもねぇことを言っちまったな……。……なんであのクソ女のことなんか思い出しちまったんだ……クソ!」
自分の言動に苛立ちを覚えつつも、目的の場所へと確実に近づいていった。
「お?あれか……?」
ピアの目に映ったのは、紅以外に色がない館だった。とにかく紅く、かろうじて門だけは紅ではなかった。
「……本当に紅い……。よし、門の前に降りてみよう」
ピアは紅魔館の門の前に着地した。そして、まずピアが最初に目撃したのは、眠っている門番であった。
「……寝ている」
中国風の服装をした女性は、気持ちよさそうに眠っていた。しかし、それではピアの方が困ってしまうので、起こしてあげることにした。
「おい」
「…………」
「おいこら、起きろ」
「……むにゃむにゃ……ぐぅ……」
「……仕事をサボってるんじゃない!」
「うひゃあぁ!」
ピアの一喝に反応するかのように女性は飛び跳ねた。そしてピアを見るなり、ひたすら謝罪を続けた。
「す、すいません!寝てませんよ!私は寝てません!咲夜さん!」
「いや、俺は“咲夜”って人じゃない」
「へっ……?あぁ!」
女性は人違いであることに気付くと、反省と同時に安堵していた。
「そ……そうでしたか……申し訳ありません」
「いや、いいんだ。それよりも、この本をここに返しに来たんだ」
「おや?それは……パチュリー様の本ですね」
「パチュリー?」
「はい。パチュリー・ノーレッジ様といって、この紅魔館の主、レミリアお嬢様のご親友なんです」
「へぇ。やっぱり只者じゃないと思っていたが……熟練の魔法使いなんだろうな」
「よくご存知ですね!そうなんです!パチュリー様はそれはとても素晴らしい魔法使いで……」
「あ~、それは本人から聞くとする。で、そのパチュリー・ノーレッジってのはどこにいるんだ?」
「この館の地下にある、『大図書館』です。……なんでしたら、ご案内しましょうか?あ、私は『紅美鈴』といいます。お恥ずかしながら、この館の門番です」
「やっぱりか。でも……美鈴はズルをされなければ、誰も通さないくらいの力はあるんだな」
「わ、私の実力を見抜いたんですか?!」
「ま、“強者は強者を知る”っていうしな。美鈴の隠れた本気は、さすがの俺でもわかる」
「あなたも相当の手練れと見ました。ぜひ、お名前をお伺いしてもいいですか?」
「俺の名前は、博麗の巫女の使いだ」
「博麗の巫女?あの、博麗霊夢ですか?」
「そう。俺はその霊夢に仕えている者だ。ただし、業務命令で“初対面の人にはすぐに本名を明かしてはならない”、と命令されていてね。悪いが、俺の本当の名前を知りたかったら、また明日以降だ」
「随分と変わった業務命令ですね……。霊夢がそんな命令を出すとは、いったい何を考えているんでしょうかね?」
「わからん。とにかく、せっかく名乗ってもらったのに、悪いな」
「いえいえ。でしたらこちらは、名前を教えてもらうまでは、“お客様”とお呼びさせてもらいますね」
「なるほど、その手があったか。なら、それで頼むよ」
「わかりました!では、大図書館までご案内しますね、お客様」
「よろしく頼む」
紅魔館の門番、美鈴に案内され、ピアは大図書館へ向かった。その二人の後ろ姿を、陰から見ていた人物がいた。
「これは……お嬢様にご報告しなければ。それにしてもあの男……いったい何者……?追跡はするとして……あとで美鈴にはお仕置きをしなくちゃね」
その人間は一瞬にして消えた。まるで初めからそこにいなかったかのように。
美鈴の案内により、ピアは大図書館の前まで来た。到着までの間に、ピアは魔道書のことを美鈴に説明しておいた。
「ありがとう、助かったよ」
「いえいえ、お客様のためならこれくらいは。しかし、入り口まででいいんですか?」
「大丈夫だ。ここから先は、俺一人で行く。……それと、美鈴」
「はい?」
ピアは美鈴の肩をつかむと、耳元で小さな声で言った。
「……さっきから、誰かにつけられている」
「誰か……ですか?」
「あぁ。門に戻るときは気をつけろよ」
「あ……はい」
美鈴は後のことをピアに任せ、門に戻るため階段を上った。そして、地上まで出てきたところで
「美鈴」
と、不意に声を掛けられた。
「はいぃ!……って、咲夜さん?」
美鈴を出口で待っていたのは、紅魔館のメイド長、『十六夜咲夜』だった。咲夜は深いため息をついた後、キッ、と美鈴を睨み付けた。
「美鈴。門番としての仕事は?」
「え?あ、あの……これはその……」
「さっきの男は何者なのかしら?」
「あ、あの!先ほどのお客様は博麗の巫女の使いの方でして!以前、パチュリー様が魔理沙にとられた魔道書を取り返して、そのまま紅魔館へ返しに来てくれたんです!」
「……それは本当かしら?」
「本当です!本人から、直接お伺いしました!」
「そう……。博麗の巫女の使いってことは、あの霊夢が絡んでいるのかしら?」
「いえ。魔道書の奪還は、お客様の独断だそうです。紅魔館の場所も、道を尋ねながら来たそうです」
「美鈴。彼の名前は本当に博麗の巫女の使いなの?」
「そ……それは、霊夢からの業務命令で、初めて会う者には、会ったその日に本名を明かしてはならない、と言われているそうで……。本名は不明です」
「そう。……さて、美鈴」
「は……はい……」
美鈴は覚悟を決めた。お仕置きされる。ただそのことだけを考えて。一心に覚悟を決めた。
「……今回のことは、お咎めなしとするわ」
「さ、咲夜さんっ!」
「ただし!この後はちゃんと門に戻ること。私は、このことをお嬢様に報告するわ」
「は、はい!」
美鈴は急いで門に戻っていった。その様子を呆れた様子で見送った咲夜は、本格的に考えた。
「(あの男……霊夢が本名を明かさせないほどの人物……ということかしら?とにかくお嬢様に報告ね)」
そして咲夜は再び、何事もなかったかのようにその場から消えた。
ここは大図書館。ありとあらゆる本が集まる、知識の宝庫。その中に、読書に明け暮れている少女がいた。
「パチュリー様。お飲物です。どうぞ」
「あら、ありがとう、こぁ」
この少女こそが『パチュリー・ノーレッジ』。紅魔館にすむ魔法使いである。
「いえ。……ところで、何かわかったことでもあるんですか?」
「う~ん……やっぱり駄目ね。素材がまるで足りないの」
「たしか……“人間の魔力と魔族の魔力の違い”……でしたっけ?今、パチュリー様が研究なさっていることは」
「そう。魔界にすむ悪魔の魔力は、人間や魔法使いが使う魔力をはるかに凌駕するの。その悪魔が魔法系のスペルを使えば、威力は数百倍にもなるの」
「す……すごいですね。やっぱり……私じゃダメなんでしょうか?」
「気持ちは嬉しいけど……あなたは私が召喚した使い魔。あなたの魔力の大半は私が補っているから、そんなに変わらないのよ」
「そうですか……。お力になれず、申し訳ありません」
使い魔の少女は深々と頭を下げるが、パチュリーはそれを制した。
「そう落ち込むことはないわ。あなたには、これからも私の力になってもらうんだから、気にしないでちょうだい」
「はい、パチュリー様」
「さてと……こぁ。次の資料を……」
パチュリーが使い魔に指示を出そうとした時だった。
「…………!」
「……?パチュリーさ……!」
パチュリーと使い魔の少女は同時に感じ取った。この大図書館に侵入した、とてつもなく巨大で禍々しい魔力を。
「パ……パチュリー様……!」
「落ち着きなさい、こぁ。わかってるわ」
あまりに巨大な魔力に押しつぶされそうになりつつも、パチュリーは気配がする方へ目をやった。
「この魔力……魔法使いのものではない……。まさか……?」
パチュリーは、ある一つの可能性を見出していた。そしてその可能性は、パチュリーを心の底から歓喜させるものだった。
「……さぁ、いらっしゃい。大図書館の管理者、パチュリー・ノーレッジはここよ」
そしてパチュリーの目の前に、望み通りのものが現れた。
「……あんたがパチュリー・ノーレッジだな?俺は博麗の巫女の使い。わけあって本名はすぐには名乗れない。目的は、本の返却だ」
「わかってるわ。あなたが持っているその袋の中から、魔道書の魔力を感じるもの。……わざわざ届けてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。……じゃあ、俺はこれで」
「待って!」
パチュリーに呼び止められ、ピアは足を止めた。目的を果たしたピアにとって、長居は無用だったが、呼ばれた以上は返事をするしかない。
「……なんだ?」
「あなたの魔力……普通じゃないわね。……あなたは魔族ね?」
「……確かに、そうだ」
「やっぱり!かなりの魔力の持ち主ね。書物で読んだことがあるわ」
そう言ってパチュリーは一冊の本を取り出した。しかし、ピアには全くと言っていいほど読めなかった。
「悪魔には種類があるわ。あなたは“デーモン級”かしら?“デビル”ではないと思うけど……」
「残念だったな。俺は“サタン”……魔王だよ」
ピアがそう言い残して立ち去ろうとした時だった。
ドサッ。
とパチュリーが本を落とした。
「サ……“サタン”……?まさか……魔王級……?」
「というより、俺は魔王だ。幻想郷の外の世界で、何億年も生き続けてる」
「魔王……!でも、この魔力……たしかにこれは、魔王!」
「……え?」
「すごい……!正真正銘、真正の魔族にして、その頂点に立つもの……!この幻想郷で、本物に出会えるなんて……」
「……俺って……そんなにすごいか?」
「ええ!幻想郷に、未だに“魔族”は存在していない。あなたが外の世界から来てくれたなら、なおさら好都合だわ!」
「いや、好きで来たわけzy」
「あなた、私たちに協力してもらえないかしら?」
「……はい?」
「もちろん、ただでとは言わないわ。ここにある本、興味がわいた本なら、好きなだけ貸してあげるわ」
「あ、いや……さすがにそれは悪いから……。う~ん……そうだ!」
「…………?」
「“デーモン”級の悪魔になると、魔法はまるで駄目になる。だから、俺にはこの魔道書とかが読めない。そこでだ、こいつが読めるようになるために、俺にいろいろと教えてほしいんだ。いわゆる、家庭教師をしてほしい。今の俺には、知識が必要なんだ」
「それくらいなら、喜んで。でも、それでいいの?」
「俺には、十分だ」
「そう……まぁいいわ。こっちに来て。魔力供給を手伝ってほしいの」
「わかった」
ピアはパチュリーの要求をのみ、魔力供給に協力した。その際、魔剣『エッジ』も研究させてほしいと頼まれたが、それは全力で断った。
「ところで……あの頭に羽の生えた子は?」
「あの子は私の使い魔よ。名前は『小悪魔』。普段は『こぁ』と呼んでいるわ」
「そうか。……よろしくなー!小悪魔ぁー!」
「はぁーい!こちらこそ―!」
遠くにいるようなので、ピアは大声であいさつをした。小悪魔からもちゃんと返事が返ってきたので、それでよしとした。
「お取込み中、失礼します」
ピアが魔力供給中、突然後ろから声がした。
「うおっ!なんだ?」
「あら、咲夜?どうかしたの?」
「……誰だ?」
「初めまして、“博麗の巫女の使い”様。私は、この紅魔館でメイド長を務めております、『十六夜咲夜』と申します。以後、お見知りおきを」
「……どうも」
そこに現れたのはメイド長の十六夜咲夜だった。あまりに唐突だったので、ピアは油断をして驚いてしまった。
「それで、咲夜がわざわざここに来たってことは、何か用なの?またレミィが呼んでいるのかしら?」
「はい。ですが、お嬢様がお呼びしているのはパチュリー様ではなく……あなたです」
「……俺?」
「はい。“博麗の巫女の使い”様。この屋敷の主、レミリアお嬢様がお呼びです。ぜひあなたとお話がしたい、と」
「……まぁ、断る理由もないな。これが終わったら、すぐに行くよ。出口で待っててくれると、ありがたい」
「かしこまりました。それでは……お待ちしていますわ」
そして咲夜は姿を消した。ピアは、咲夜の消え方に違和感を覚えていた。
「(……瞬間移動とは違う……。何か……一瞬だけ止まったような感覚が……気のせいか)」
ピアは引き続き、パチュリーの研究に協力した。魔力供給終了後も、パチュリーは何度もお礼を言った。
約束通り、ピアが大図書館を訪れた際には、魔法のことや、文字の読み方について教えることとなった。やることを終えたピアは、咲夜が待つ大図書館の出口へと向かった。