玉座に腰掛ける私を見上げる幾人もの臣下が内に秘める意識が伝わってくる。この特異な感覚を話したことは少ない。ハマーンと、シャアくらいなものだろう。
何でもこの感覚が広がっている時、私は黄金に光って見えるらしい。自分で見ることは叶わないが、一昨年先に逝ったマハラジャは私のことをジオンの太陽と呼んでいた。
最後まで私の言葉に頷かなかったデラーズとアナベルは涙を流しながら“後顧の憂い”は一片もなしと言って戦役の中散った。
この感覚は私を孤独にする。
あらゆる者の心を感じながら、私は一人になっていく。
「ミネバ様の治めるジオン再興の礎に。」
そう言ってマハラジャ・カーンは身体のことを顧みずに働き詰め、ベッドの中で汗を滝のように流しながらも笑って死んだ。
「我らの命がミネバ様の道を切り開く槍となりましょう。」
どこまでも真っ直ぐなアナベル・ガトーは私の手をとって言うと、晴れ晴れとした顔で泣き、遠い宙域で撃墜された。
「私は確かめねばならないのです。御身に出会えたこと、心から感謝致します。」
迷いに囚われていた癖に、シャア・アズナブルは躊躇うことなくアクシズを去った。
「ミネバ様?」
もう、本当の意味で私の傍にいるのはハマーンだけだ。寂しくはない。
ただ、ひたすら悲しかった。
「……何度言っても変わらぬ。アクシズは地球連邦との決戦を回避する。」
「ミネバ様!」
「くどい!! ミネバ様の決定だ!」
ハマーンの意識圏が拡大していく。過激派の心にプレッシャーをかけて黙らせた彼女からはとても深みのある赤い輝きが見えた。
過激派の意識から聞こえる声からは外部協力者の名も知れる。
パプテマス・シロッコ、か。
「もう良い。下がれ。」
「くっ……! ジーク・ジオン。」
連中が退出した後、ハマーンの手を握ると、静かに握り返される。
「……プルたちを見に行く。」
「畏まりました。」
「グレミーからプルたちが相互感応したと報告があったのだろう? ハマーンはどう感じた?」
「恐らくサイコミュを操る程度は造作もなくなるでしょう。例のあれの方が実用化した際にはサイコミュエリア計画も現実味を帯びるかと。」
「私のキュベレイはどうか?」
「ミネバ様の引かれた図面を元に造らせていますが、今しばらくかかるかと。……ミネバ様、どうあっても御自ら戦場に向かわれるのですか? 戦争は高貴な者のすることではありません。」
「誰かがやらなければいけないのだ。アースノイドとスペースノイドの争いはこれから激化するだろう。だが、その中においてより多く戦うことに疑問持つ者を増やさなければならない。私はそのために戦場の人間を繋げて見せる。」
「ミネバ様……。」
「ハマーンだけはどこにも行かないで……。」
「御安心下さい。」
ミネバ・ラオ・ザビ直下の研究機関で影でラオ機関と呼ばれるそこに入ると、大勢の研究員が私たちを見て姿勢を正した。
作業を続けるよう手で制した時にちょうど頃合でもあったのか別室の扉が開いて同じ顔をした女児が数人顔を見せる。
プルシリーズと名付けられたクローンの少女たち。顔を綻ばせた彼女たちはバタバタと走ってきて、私とハマーンを取り囲む。
「ミネバだ!」
「ミネバ様ー!」
「ハマーン様もいる!」
「遊びに来てくれたの?」
「じゃあ、訓練終わり?」
「ちょ、ちょっとプルフォー重い……。」
「やめないか。ミネバ様が困ってしまうだろう。」
「良い、ハマーン。さ、皆訓練で疲れているだろうし、外でお茶にしましょう。」
少女たちは同じ顔をそれぞれの個性溢れる笑顔で華やがせ、私と腕を組み、ハマーンと手を繋ぎ、歓声を上げた。
「さぁ、外着に着替えて来なさい。」
「はーい!」
「早く早く!」
「私がいっちばーん!」
「きゃー!」
「……申し訳ありません、ミネバ様。騒がしくしてしまい……。」
「構わぬ。むしろ訓練浸けにも関わらず良くのびのびと育ててくれた。これからも期待しているぞ、グレミー。」
「はっ!」
金髪の美青年は私の言葉が誇らしいのか、きびきびとした敬礼をして下がると研究所の所員に伝えていった。
グレミーは研究所の責任監督を任せてある。その上に私と研究所を繋ぐ指揮官としてマシュマー・セロがいる。マシュマロのような名前のくせに堅物な男だ。
どちらも暴走しがちな気質を秘めているためにハマーンから監視の副官をつけられていたこともあったが、良く働いてくれている。
「ミネバ様、お待たせしましたー!」
「見て見て! 新しい服なんだよ!」
「良かったな。皆とても似合っている」
「やったー!」
皆の笑顔を守るためにアクシズを治め、混迷の時代を終わらせるのが私の、ミネバ・ラオ・ザビとして生まれた者の宿命だ。