ー振り返るとそこには篠原優香が天使、と言っても差し支えの無いくらい愛らしい笑みを浮かべ立っていた。
ただ、いつも以上ににこやかなのでむしろ何かしらの危機感というか恐怖感みたいなものを覚える事ができる。
「よ、よお、篠原……。どう、したんだ?」
誠司は恐る恐る聞いてみた。
「そうね。…少し教室の前を通りかかったらあなた達が私の話をしていたから、かしらね」
相変わらずその顔には笑みをたたえたまま、優香は答えた。
察するに、恐らく先程の会話は完全彼女に聞かれてしまっていたのだろう。
「まあ、さっきのは置いといて、特に用はないのよね」
「ないんかいっ……!」
ガタタっと音を立てて椅子からずり落ちそうになる英介。
「ところでさ!篠原さん。今日、一緒に晩飯でも食べに行かない?」
隣でちょっとしたハプニングを起こした友人を尻目に隼汰が優香を口説きにかかる。
「ごめんなさい。今日は用事があるの」
「会議でしょ?その後とかにどう?」
断られてなお食い下がる隼汰。
「いえ、多分かなり遅くなると思うからまた別の、…そうね、時間があればご一緒させてもらうわ」
「あ、そう…」
恐らくは機会を与えてすら貰えないのだろうと悟った隼汰は若干テンションを下げつつ引き下がる。
優香は初対面の時からなぜだか隼汰に対しては辛く当たる傾向がある。
もちろん、誠司もそれには気付いている。
「さて、私はそろそろ行くわ。ここに長居する理由もないし」
そう言って優香は教室から去って行くのだった。
「いやぁ、中々に焦ったな」
出来るだけ陽気に装おった隼汰が頭の後ろで手を組んで言った。
ただ、やはり振られた事に対してのショックはそれなりに大きいらしい。
篠原の身持ちの堅さ、半端ねぇな。
と、自分も一度振られている事を思い出しながら誠司は思った。
思い出すと中々に気分がへこんでくる。我ながら情けないな、と心の中で自嘲した。
優香が去ってからの残り時間、つまりは昼休みの時間全ては隼汰の心の傷を癒すのに消費された。
隼汰は今までずっと異性に対して遊びに誘ったり、食事に誘ったりしていても一度も断られた事が無かった。
話が逸れるが、まず、断られなかった理由としてまず第一に挙げられるのが彼のキャラだろう。
容姿は絵に描いた様な爽やかな青年で、しかも見た目通り、気さくな性格で誰でも親しみやすい。しかもかなり羽振りがいい。
かく言う誠司も何度か彼に奢ってもらっている。
ただ、残念なところは彼が中々に女好きである事である。
なので何度か彼はそういうった事で生徒会の世話になっている。
そんなこんなで昼休みが終わり、午後の授業が始まった。
誠司は久しぶりに落ち着いて授業を受けられる事に僅かながら喜びを感じていた。
集中していると時間は早く過ぎるもので、
『きりーつ、れい!』
授業が終わった事を告げるチャイムと授業の終わりにするいつもの号令。
「もう終わったのか」
号令に従い、お辞儀をしながら、誠司は呟いた。
その後しばらくして、担任が気だる気な足取りで教室へとやって来てHRを開始した。
簡単に連絡事項を述べ、担任はあいさつもせずに再び、来た時と同じ様な気だる気な足取りで教室を出て行った。
担任が出て行った後、クラスは少しずつざわつき出した。
誠司はそのざわつきを背に教室を出て一人生徒会室へと向かった。