「さて!会議を始めようか!!」
生徒会室の扉が勢い良く開かれ、明るい、爽やかな声が教室に響き渡る。
天水高校生徒会会長の宮原英一朗(みやはらえいいちろう)である。
「さて!…じゃないだろ!?大分待ったぞ!!?」
誠司は勢いよく椅子から立ち上がり、その勢いのままツッコミをいれた。
「まあまあ、副会長。そう怒るなよ」
誠司のツッコミをさらっと受け流しつつ英一朗は自分の席へと向かう。
とは言っても、英一朗が来た頃には察しの通り他のメンバーはすでに揃っていてしかも揃ってからすでに30分近く経過しているのである。
なので誠司が言う事にも一理ある、という訳である。
「さて、とにかく会議を始めようか」
英一朗は眼鏡を指で軽く押し上げながら言った。
「さて、今日の議題は…って言わなくても分かってるよね」
英一朗は爽やかに笑う。
この一つ一つの動作が無駄にイケメンオーラを出していて腹が立つのは多分気のせい。
「さあ、みんな!!考えてきてくれたかな?」
「もちろん!」
「ええ」
「…はい」
「………」
英一朗の問いに四人がそれぞれにそれぞれの回答をする。
「あれ、朱坂君。どうたんだい、そんな顔して?」
そう、唯一返答が無かったのが誠司である。
「もしかして、考えてきてない?」
「……まあ、そういう事、だな」
と言う訳である。誠司は済まなそうに軽く頭を下げた。
一晩寝ずに考えた結果がこれである。
「ま、いいや。どうせ一人くらいはアイデアを持ってきてないだろうなぁとは思ってたし」
「お、おう。すまなかった、会長」
「って事で早速、聞いていこうか!……じゃあ、山村好織さん!いってみよう!!」
英一朗は一度周囲を見渡すと好織の方を指差し、指名した。
「りょーかいですっ!」
それに乗っかり好織も元気良く立ち上がり敬礼する。
「えと、私が考えてきたのは…
ファッションショーです!!」
好織が自信有り気に言う。
「なるほど、具体的にはどうやるのかな?」
「それはですね…、まずやるのはクラス単位です。そしてクラスの中から一人、モデルとなる人。つまりは代表を出します。そしてその人に服を着てもらい、ショーに出てもらいそれで審査員の人に評価をもらいます」
一昨日と比べると格段に真面目な意見だった。
好織本人も若干ドヤ顔になっている。
「ところで、衣装はどうするの?」
優香の指摘がはいる。
そう言えば、肝心の衣装についての説明が抜けていた。
「あ、そうそう。忘れてました!えとですね…肝心の衣装の方ですが、それはクラスの人たちで作ります。
もちろん、材料とかも各自調達です」
好織はそう告げて再び椅子に座り直した。
「なるほど、まずは第一候補ってところかな」
英一朗はホワイトボードに『ファッションショー』と書き込んだ。
それからも英一朗は生徒会メンバー(誠司以外)全員に発表させた。
「さて、みんな発表したし最後に僕の案を発表しようかな」
英一朗は眼鏡を軽く指で押し上げてから続けた。
「僕は、プロムを提案するよ」
英一朗が言い切った後、生徒会メンバーのほぼ全員の頭上に?マークが幾つか浮かんだ。
「はい、会長。質問!プロムって、何?」
すかさず好織が質問を向ける。
「プロムって言うのはね。プロムナードの略語で、アメリカやカナダの高校のいわゆる卒業シーズンにやるイベントなんだよ」
好織の質問に愛想良く英一朗は答える。
「え、でもなんでそれをこんな時期に?」
「いい質問だね」
再び飛んで来た好織の質問に爽やかな笑みとともにそう言った。
「それは……」
しばらく間が空く。
「あえて、この季節外れの時期にやるのが面白そうだからさ!!」
正にこれを言いたかった、とばかりに英一朗の声が生徒会室中に響き渡る。
そしてしばらくの間、生徒会室からは物音一つしない程の静けさに見舞われた。
英一朗は僅かに得意気な表情を見え隠れさせるが周りの反応はイマイチだった。
「……会長。ふざけているの?」
優香がこめかみに手を当てため息を吐く。
誠司や好織の表情にも英一朗を哀れむ様な、そんな感じのものが見え隠れしている。さっきから黙々と書記の仕事をこなす1年の平岡姫那(ひらおかひめな)はノートに書き込みをするために下を向いているので表情はイマイチよく分からない。
「あはは。別にふざけてはいないさ。ただ伝統のある行事を壊すんだ。なら、これくらいは思い切っておかないと面白くないでしょ?」
「いや…、どう見てもふざけているようにしか見えないんだが……」
「そうですよぉ…」
英一朗の返答に誠司と好織が呆れた様につっこむ。
「ま、とにかく。一通り意見も出たし、そろそろ何にするか考えようか」
英一朗が話を戻す(逸らすとも言う)。
そして現在、生徒会室のホワイトボードに書きまとめられている案は次の様なものである。
・演劇発表(姫那案)
・校内合唱コンクール(優香案)
・ファッションショー(好織案)
・プロム(英一朗案)
それから数十分間生徒会メンバーで議論した。
そして議論の末、今年の強歩大会にかわるイベントは英一朗発案の『プロム』に決定した。
「さて、とりあえず決まったけど今日はもう解散ね。詳しい事は追って連絡するから」
英一朗が席から立ち上がり「解散!」と言った。
「おう、じゃお疲れー」
「お疲れ様」
「お疲れ様でーす」
「…お疲れ様です」
そう言って四人がそれぞれに生徒会室を後にした。
生徒会室に一人残った英一朗は、
「さて、と。細かい決め事とかも先にやっちゃいますか」
そう言って再び椅子に座り、ペンを走られた。
「思ったよりも早く終わったわね」
やっと帰れるという解放感のせいか少し清々しい声で優香が話しかけてくる。
「だな」
誠司は短くそう答える。
好織と姫那と別れた二人はいつものバス停へと向かう。
「そうだ、朱坂君。この後何処かに夕飯でも食べに行かない?」
「は?」
優香の突然過ぎる提案に誠司はつい歩を止める。
「だから、夕飯を食べに行かないかって聞いてるのだけど、もしかして朱坂君て難聴なの?」
少しの憐れみのこもった目で優香は誠司を見据える。
「誰が難聴かっ!?…ってそうじゃなくてだな。あまりに唐突だったから驚いただけだ」
一瞬ムキになりかけたがすぐに冷静さを取り戻し答えた。
「それに行くとしたら千沙斗に連絡を入れないといけないしな」
「確かに、そうね。なら千沙斗さんも一緒にどうかしら」
優香は一瞬、考える素振りを見せた後、そんな提案をしてきた。
「なるほど、その方がこっちも楽だな。ならそうさせてもらう」
誠司はそう言って携帯を取り出し家に電話をかけた。