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振り下ろされた加賀の右腕は俺が射出した瑞雲によって阻まれた。甲高い音を立てて加賀の手からバタフライナイフが弾き飛ばされる。
「瑞雲……?まさか……」
加賀の注意が瑞雲に引き付けられる。
「天城!こっちだ」
その隙に飛び出し、天城を引き寄せる。一瞬遅れて突き出されたナイフを後部甲板で防ぐ。まあ、後部甲板は楯ではないのだが。
「ちっ……。何の用ですか秘書艦?」
「そちらこそ、そんなものを振り回して何をしている」
「ああ、これですか?」
加賀は二本目のバタフライナイフをくるくると弄ぶと興味を無くしたように放り捨てた。
「もちろん、ごみ掃除ですが」
加賀はそう言い捨てると後ろに大きく飛び退く。恐らく、艦載機を発艦させるつもりだ。
「遅い!」
後部甲板を構え、瑞雲を射出する。しかし加賀の表情に焦りは見られない。
「遅いか早いかなんて関係ありません」
加賀はつまらなそうにいうと背中の矢筒から矢を一気に引き抜き無造作に放り投げた。矢はバラバラと音を立ててアスファルトの地面に落ちる。
「別に艦上戦闘機だからと言って必ず空母から離陸しなきゃいけない訳ではないわ」
加賀が弓を構えて弦を弾く。その音と振動を受けた矢が艦載機に変化し一斉に走り始める。
「まずい、離陸させるな!」
瑞雲の上空からの機銃掃射で加賀の零戦を破壊する。空母による向かい風や初速が無いぶん助走距離は長い。しかし……
「数が多すぎる」
壊し損ねた零戦が次々と離陸する。その零戦が瑞雲を攻撃し、さらに零戦が離陸する。悪循環だ。
「だから言ったはずです。あなたがどれだけ早く瑞雲を展開しても私の艦載機は離陸できる。あなたとは数が違うのよ」
よく言えば単純な、悪く言えば強引な戦法だがそれをごり押し出来るだけの数がある。これが加賀の特長だ。俺の艦載機運用能力は軽空母並。正規空母最大の搭載数を持つ加賀には勝てない。
「天城、逃げるぞ」
「は、はい!」
天城の手を引いて後ろに向かって走る。太陽はますます赤く光り、血のような色で燃えている。もうじき夜だ。流石の加賀も夜間飛行でこちらをとらえることは出来ない。
「逃がしません。艦爆、離陸」
加賀が再び矢を投げ、今度は彗星が離陸する。数は二十機。
「天城、対空射撃」
「い、良いんですか?一応味方機ですが」
「提督には後で言っておく。今は早く」
「はい!」
機銃や噴進砲による対空射撃が始まり、いくつかの彗星が落とされる。
「無駄です。その程度では足りません」
彗星の急降下爆撃をすんでのところで回避する。日はまだ落ちない。そして加賀はそれまでに決着をつけようと本気でかかってくる。
「こっちだ」
天城の手を引き、寮が立ち並ぶ道を走る。すぐ後ろで爆発が起こり、砕けた石が背中に当たる。
「次の角を左だ」
取り舵はあまり得意ではないが目指す場所に行くにはこれしかない。目の前に落ちてきた爆弾の爆風を後部甲板で防ぎ左折する。
「日向さん、こっちは行き止まりです」
「それでいい。良いから早く」
止まろうとする天城を無理矢理引っ張って奥に進む。天城の言う通り、三方を壁に囲まれた行き止まりに出た。
「ここの艦娘は方角もわからないのですか?その程度では羅針盤が逸れるのも無理ありませんね。もちろん赤城さん以外ですが」
そして通路の入り口には既に加賀が立っている。上空には零戦や彗星が旋回し、既に爆撃の準備は整っていた。
「夜まで逃げ切ったらどうしようかと思いましたが……いらない心配でした。終わりです」
「そうだな。だが、それは君の方だ。私たちは無計画ににげてきたわけではない」
「どういうこと?」
俺の態度が気にくわないのか不快そうな顔をする加賀。あきれ果てて今にも爆撃を開始しそうな勢いである。
「私たちが君を誘い込んだんだ。撃て!」
俺の号令と同時に加賀のそばにあった茂みから20.3cmの砲弾が加賀の飛行甲板へと叩きこまれる。甲板には大穴が空き、艦載機の動きが乱れる。
「飛行甲板に被弾?そんな……いったい誰が?」
呆然とした加賀のそばで一人の艦娘が立ち上がる。
「ども!恐縮です。青葉です。加賀さん今の気持ちをどうぞ!」
青葉がにっこり笑ってマイクを差し出した。
青葉のNDK精神攻撃。