瑞雲への道のり編はラストです。
空は夜明け近く、東の雲は紫色に染まっていた。
航空戦艦日向の甲板の上で俺は艦娘の日向に砲を突きつけられていた。
「君は、早くこの魂から出ていった方がいい」
「ご……ごめんさい!わざとじゃないんです偶然なんです」
「別に私は怒っている訳ではない。瑞雲が手に入るところまでつれてきてくれて感謝している」
では、何が問題なのだろうか?
「航空戦艦になれないと知った私の魂は活力を失っていた。しかし、君が航空戦艦への改造を目指してそれに近づくたびに私の魂は活力を取り戻しつつあったのだ」
それが何か問題なのか?日向が元気になるならいいじゃないか。
「おかしいと思ったことは無いか?君は確かに自分の意思で行動しているのにしゃべり方は私に近く、一人称は私になっている」
そうえいば、前にここへ来たときも俺の魂は日向の姿をしていたという。
「多くの人間の期待を背負って世に生まれた軍艦、それも戦艦の魂は人間一人の魂と比べると圧倒的に大きい。改造が終わって日向の体が完全に航空戦艦となれば復活した私の魂に君は飲み込まれてしまうだろう」
だから出ていけということか。だが……
「どうやって来たのか、どうやって帰ればいいのかわからないんだ」
それを聞いた日向は悲しそうな顔で砲を下ろした。
「そうか……残念だ」
突然、艦隊が前進を始めた。
「改造が終わりに近づいているようだ」
艦隊は風が吹く方向に進路を取った。
「大丈夫だ。君の魂は消えてしまう訳ではない。私を動かしていた数多の英霊達と共に私の一部になるだけだ。君みたいな瑞雲好きの若者と共に戦えるのは誇らしい」
いつの間にか航空戦艦日向と同型艦のカタパルトには瑞雲が載せられ、発艦しようとしていた。
「だが……君に会えなくなるのは寂しいな」
日向が呟くと同時にカタパルトが作動し、瑞雲が空高く飛び上がり暁の水平線に向かって飛びさっていった。
翼に反射した光が眩しい。
「大丈夫ですよ」
俺の口から言葉が自然にもれた。
「瑞雲は爆撃機としての運用も可能ですが偵察や観測も可能です。瑞雲にとっては艦隊の驚異となる敵戦艦や空母も自身への驚異となる敵機のパイロットも同じ観測対象です。」
「つまりどういうことだ?」
「瑞雲にとっては敵艦も一人の人間も観測対象。瑞雲の前ではすべてが平等です」
そう告げると日向は驚いたような表情をした後、柔らかく微笑んだ。
「まさか、私が瑞雲について教わることになるとは……君はすごいな」
「いえ、俺に瑞雲を教えてくれたのは貴女です。師匠」
もう不安はない。
*
回りの軽空母や日向を含む航空戦艦から攻撃用の艦載機が発艦を始めた。
よく見ると右の軽空母には翡翠の衣を纏った、龍か鳳凰のように瑞々しい少女が、左の軽空母には酒をあおる、隼や鷹のように豪快な気を纏った女性が、航空戦艦には四基の主砲を前に構え、髪を後で縛った女性がそれぞれ立っている。
俺たちは暁の空を舞う艦載機たちを何時までも見送っていた。
*
「日向さん、改造終わりましたよ」
明石の声で目を覚ました。
『俺』の意識はまだ残っているみたいだ。
隣のドックでは二式大艇を持った秋津洲がはしゃいでいた。
「大艇ちゃん、やっと会えたかも!皆に自慢してくる」
出口へ向かう秋津洲を明石が必死に止めている。
俺はそんな光景を見ながら自然に呟いていた。
「まぁ、そうなるな」
作者「くっ……もう一度最低値だ」
4:20:00
作者「不幸だわ……」