「ちょっと、そこのあなた」
「んにゃ?」
背後から声がしたので、振り返ってみる。
「……誰?」
そこには、やたらと露出が多いお姉さんチックな人が立っていた。
「あんたがトトリの言ってた冒険者でしょ?真っ黒で変な服って聞いたからすぐにわかったわよ」
「失敬な、格好のことで、あんたみたいなのにとやかく言われたくないな」
つかトトリちゃん、俺のことそんなふうに思ってたのかよ……。
「で、誰なんだいな?」
「私はメルヴィア、冒険者であの子たちの姉みたいなものね」
「ふーん、ちなみに俺はアカネです」
「テンション低いわね……」
だって、疲れてるんですもの。
「ところで、その頭の白いぷに……何かしら?」
「俺の相棒だよ、これで結構強いんだぜ」
「ぷにぷに!」
「モンスターが相棒……聞いたとおり変わったやつね」
最近トトリちゃんの評価かマジで気になってきたわ。
「自己紹介も終ったところで、失礼しよう」
テクテクとゲラルドさんのお店のほうに歩いていく。
「…………」
「…………」
「何故ついてくるし」
「だって、今トトリ達もゲラルドさんの所にいるのよ」
さいですか。
「こんちわー」
俺はお店の扉を開けて、中に入る。
「お!先輩、久しぶりだな!」
「まだ三日くらいしか経ってないと思うぞ」
開口一番に後輩君が声をかけてくる。
「? トトリちゃんどうかしたか?」
トトリちゃんが何故かフリーズしていた。
「だ、だって!アカネさんのそ、それ!モンスターじゃないですか!」
……ぷにがいない方が話が円滑に進むんじゃないか?
「アカネ、いくら客がいないとはいえモンスターを連れ込むのはだな……」
「いや、これは俺の相棒、パートナーなんですよ!」
「相棒……ですか?」
「そうそう、ちょっとはぐれてたんだけど再会したんだよ」
「もしかして、こないだ叫んでた時の……?」
「そんなこともあったな」
あの時は正直取り乱しすぎたわ。
「でも先輩、ぷになんて弱っちいだろ」
「お前三人分の働きはしてくれるわ」
「ぷに!」
「嘘だ~」
無知とはまったくもって恐ろしい、ここがお店じゃなかったらぷににGOサインを出すとこだぜ。
「でも、よく見るとかわいいですね。名前は何て言うんですか?」
「ぷにだ」
「えっ?」
よく聞こえていなかったのか、何か信じられなかったのか、トトリちゃんは変な声を上げた。
「いやだから、ぷに」
「あの……それって名前なんですか?」
「最初の一日くらいは、白玉って呼んでたんだけど呼びづらくてな」
「でも、わかりづらくないですか?」
確かに最近それは薄々思ってたわ。
青とか緑とか以外にも絶対いるだろうし……。
「んじゃ、トトリちゃんが考えてみる?」
「私がですか!?」
「トトリちゃんなら変な名前付けないだろうし。いいよな、ぷに?」
「ぷに!」
「わ、わかりました! 考えてみます!」
「がんばれよー」
トトリちゃんが考え込んでるのを尻目に依頼報告を済ませる。
「完璧な仕事だな、報酬を少し上乗せしておこう」
「マジで!?」
「ああ、まさか依頼した数の倍倒すとはな。恐れ入ったぞ」
ぷに無双の結果がまさかこんな所に……。ウマー。
「先輩一人でやったのか!?」
「ん、ま、まぁ、そそ、そうだね」
「ぷに!」
「がはっ!?」
毎度おなじみのぷにタックルを食らった。流石にこれは怒るよな。
「すびばせん……全てはぷにがやりました」
「ぷに!」
えっへん、とでも言うかのように誇らしげな顔をするぷにであった。
「へぇ、本当に強いんだな」
「俺だって、何か武器さえあれば……」
「そういや、あんたの武器って何なのかしら?」
いつのまにかテーブルに座っていたメルヴィアが質問してきた。
「拳と蹴りだ」
「あら、それじゃあ力はあるのかしら」
「クックック」
俺のお楽しみタイムの始まりだ。
「見るがよい!」
後輩君にしたようにジャージをまくり上げる。
「あら以外、ちゃんと鍛えられてるのね」
「小娘とは違うのだよ!小娘とは!」
「あら、言うわね」
そりゃ、俺は趣味で鍛えてるだけとはいえ女子に負けるような鍛え方はしていないさ。
「はい」
「……?」
メルヴィアが肘をテーブルについて手を広げている。
……ああ、なるほど。
「後悔しないことだな」
俺はイスに座り右肘をついて手を合わせて。
俗に言う腕相撲の構えである。
「先輩、やめといた方がいいぜ。腕へし折られるぞ」
後輩君が耳元で囁いてくる。
「何をバカなことを言ってるんだ。あの細腕に負ける要素はないさ」
「一応、止めたからな」
「それじゃあ、いくわよ。レディ」
「ゴー!」
瞬間にデーブルをたたく音が響き渡った。
「くくっ、貧弱! 貧弱! 弱い者いじめになっちゃったじゃないか!」
俺の圧勝。さすがに負けないさ。
「どうだい。お嬢ちゃん」
「あらー、以外とやるわね。手加減しなくてもよかったかしら」
「何だい、負け惜しみかい? 三回勝負ですか? いいですよ?」
「それじゃ、はい」
先ほどと同じような体制を二人で取る。
「あんまり手加減に慣れてなくて、負けちゃったわよ~」
「へいへい」
俺は若干呆れつつ相槌を打つ。
俺が有頂天になるのは負けフラグじゃないってところを見せつけてやるぜ!
「そんじゃ、スタート!」
途端に響くのは粉砕音。
先ほどのをドンと言うのなら、今回のはバキッとでも言う感じ。
「――ァ! ――ッ!」
声にならない悲鳴を出す。
「ちょっと、やりすぎちゃったかしら?」
「やりすぎだよ、メルお姉ちゃん!」
「おいおいテーブルにひびが入ってるじゃないか」
「先輩、だから言ったんだよ……」
「ぷに~」
「折れた!絶対これ折れてる!」
怖くて直視できないけど絶対折れてる!
「大袈裟ねぇ、流石にそこまでやってないわよ」
「くぅっ!」
負けた!こんな細腕に俺の数年間の結晶を打ち破られた!
「う……ぐず、うぅ……」
「ちょっと、大丈夫そんなに痛かった?」
「ぐす……うっせえ!同情なんていらねぇよ!」
俺はそう言うと扉に向かって駈け出した。
「いつか、絶対負かしてやるからな!……ぐすっ、うぁぁ」
バタンとドアを閉めて走り出した。
………………
…………
……
「ちくしょー!」
「ぷに~」
現在は宿屋でベッドに寝転がってる。
「メルヴィアの奴め~。いつか、絶対に負かしてやる」
早速鍛えなおそうと思い俺は床に腕をついた。
「ぐぉぉぉぉ!」
着いた瞬間、勝負に使った右腕に激痛が走った。
「というわけで、俺強化作戦を考えよう」
一番確実なのはゆっくりと鍛え上げることだが、効率化を図りたい。
「ぷに!」
「はい、ぷに君!」
「ぷに、ぷにに、ぷにーに、ぷに!」
「はい、却下」
まさしく日本語でおkってやつだな。
「ぷにに!」
いきなりぷにが置いてあった、俺のポーチを漁りだした。
「ぷに、そのポーチには食い物は入ってないぞ」
「ぷに」
「ん?」
ぷにが咥えているのは、こないだのゴーストの残骸だった。
「手袋をしても腕力は上がらないって……」
しかし、ぷにが押しつけてくるのでしかたなく装着してみる。
「んむむ?」
攻撃力が5上がった! 気がした。
「なんだろう、この感覚……そう生命力が奪われているような。でも、それでいて力があふれる……」
「ぷに!」
「いるか!ぼけぇ!」
「ぷに!?」
手袋をぷにに向かって投げつける。
「どう考えてもそれ、呪いのアイテムじゃねえかよ!」
リアルにHPが削られていく感覚を味わったぞ。
「却下だ!……と、言いたいところだが」
もしかしたら、いけるんじゃないか?
「ぷに」
意訳)チート使って勝ってうれしいんですか?
「今回だけだ。いつか自分の力で勝って見せるから!」
そう心に決めて、俺はゲラルドさんの店に向かった。
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「勝負だ!メルヴィア!」
ゲラルドさんの店のテーブルが一つ完全粉砕したことを追記しておく。